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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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677 移動します

「それで、お前は何なんだよ? どう考えても討伐対象だけどさ、それにしても身分ぐらい明かせや、無様に命乞いしながら惨殺される前にな」


「ま、待て、ちょっと待つけぇ、わしを殺しても良いことはないけぇの」


「うるせぇこのハゲ、良いことがあるかどうかじゃなくてだな、被った損失に対する調整としてブチ殺すんだよっ! じゃないと不公平だろ? こっちは覗きをされたんだ、正直その損失の代償がお前如きハゲの命で賄えるとは思わんがな、特別に残余部分を考慮外としてやるんだ、感謝しながら死ねよな」


「いや、その、じゃけぇ……」


 聖棒を突き付け、良くわからない覗き野郎に脅しを掛けておく、どうしてここに居るのかはわからないが、どうやら敵、つまり犯罪組織の構成員ではないただの変質者のようである。


 そして喋り方かからわかるその出自、未だ見ぬジャケェ共和国ではあるが、そこの連中がどういう喋り方をするのかなどわかりきったこと、そう、この変質者と同じで語尾に『じゃけぇ』が付くに決まっているのだ。


 ゆえに変質者であることは確定でも、この場で直ちに殺したりはせず、まずは引き出すことが可能な情報だけ全て吐かせるつもりでいる。


 もしかしたら貴重な情報源になるかも知れないこの変質者を、問答無用でブチ殺すのは俺達のやり方ではないのだから……



「それで、サッサと答えろ、お前の身分、どうしてここに居たのか、そして覗きなんぞしたのはどうしてかだ、さもないと竹の鋸で首を切り落とすぞ、もちろん回復魔法を掛けながら、10時間以上用いて残酷に殺す」


「いちゃぁぁぁっ! わ、わしはジャケェ共和国、その都市国家の分析官として活躍していたけぇ、いうて偉かったけぇの、わしを助ければそれなりの見返りが……」


「ほう、それはわかったが、そんな奴がどうしてこんな所に居るのか、サッサと答えろっ!」


「いちゃぁぁぁっ! 分析のために敵のアジトに近付いて、敵の女幹部の尻を眺めていたら発見されて……とっさに転移装置からここへ逃げて来たってことじゃけぇ、しかもつい今さっき」


「なるほどな、ここの転移装置は通気口にしか繋がっていないし、敵は殲滅済みだからな、で、最後のひとつに早く答えろよ、どうして覗きなんかしてたんだ? 敵の女幹部の尻を眺めて見つかったばかりなんだろ?」


「それはわしの趣味じゃけぇ、昼は共和国の分析官として高い地位をキープしているものの、本来の姿、夜の、裏の姿は『尻のアナリスト』じゃけぇ、仕方ないことじゃ」


「おいっ! とんでもねぇキーワードが見え隠れしてんぞっ! 何だよ尻のアナリストって……」


「ちなみに名前は()()()()()()()というけぇ、そっちもよろしく」


「肩書きだけじゃなくて名前も自重しないのか……」



 どうやらとんでもない奴と関わり合いになってしまったようだ、だがもし俺が、この場で聖棒に少し力を込めさえすれば、このウ○コ覗き野郎の命などあっという間に消え去る。


 どうする、危険を承知で情報用として生かしておくか、それとも危険物と汚物のダブル属性を持つ者であるとみなし、この場で全てを断ち切っておくかだ。


 いや、とりあえずマリエル……はそこまで賢いわけではない、というか俺の方がマシな次元であるため、転移装置を修理しているエリナに見せて判断を仰ごう。


 そういえばこのハゲ野朗、つい先程ジャケェ共和国の方から来たと言っていたよな? だとしたら転移装置の故障はどうなったのだ? こちらが稼動していない以上、向こうからも来ることが出来ないのではないか?


 となるとコイツはもう怪しさの塊だな、嘘を付いている様子はないものの、その説明が明らかに状況と矛盾しているのだ。


 何がどうなっているのかということに関して検討しなくてはならない以上、やはりエリナには作業を中断させて、このハゲのことを話す時間をキープしよう……



「お~いエリナ、忙しいところ悪いな、マリエルも、ちょっと出て来てくれ」


「はいはい何でしょう? うわ、何ですかそのハゲは?」

「邪悪……ではないようですね、どちらかというと醜悪です、勇者様と同じタイプの変質者ですか?」


「誰が同じタイプだコラ、で、コイツはゲリベントゥス、尻のアナリストだそうだ」


「……もうそれ以上何も聞かなくとも最低のゴミであることがわかりますね」

「そもそも見た目からして不潔です、女神様にお願い申し上げて浄化して頂きましょう、世界のために」


「そうしたいのはヤマヤマなんだが、実はこのハゲ……」



 2人にはハゲで変質者のゲリゲリ野郎がジャケェ共和国の関係者を名乗っていること、そしておそらくは俺たちが到着する直前に、壊れているはずの転移装置から現れたと主張していることを伝えた。


 もちろん『それは絶対におかしい』と反論するエリナ、それはそうだ、今現在繋ぎ直している最中の場所から、修理開始以前に人が転移して来ることなどあり得ないのだ。


 もっともこのハゲが人間ではなく物の怪の類であったとしたら話は別だ、妖怪ゲリベン覗き野郎、あってもおかしくはないが直ちに滅ぼすべきゴミであることだけは確かだな。



「で、結局どうなんだこのハゲは? おい、自分でどうなのかちょっと説明しろよな」


「うむ、いや、そっちの高貴そうな尻が良いか悪魔の尻が……ん? だからわしはジャケェ共和国の分析官じゃけぇの」


「てめぇマリエルとエリナの尻見てやがったな……まぁそれは良くはないが今は置いておいて、少なくともお前のその説明に疑義が生じているんだ、どういうことなのか詳しく説明しろよ」


「う~む、詳しくっていぅても……とにかく西方新大陸? ってとこから来た犯罪組織がわしらの国の領内で暴れ回っている連中とコンタクトを取ったんじゃけぇ、それを警戒して分析官であるわしが派遣されて、その後はもう話したとおりじゃけぇ、あ、転移して来たときにズラがなくなったけぇの、買ったばっかりの高級ズラだったのに……」



 ズラの話はどうでも良いが、とにかくこのハゲからこれ以上話を聞いたところで無駄なようだ。

 エリナは作業に戻り、今度はルビアを助手として連れて行ったため、俺とマリエルで長物を突き付けてハゲを見張る。


 そのまま30分程度経過したか、周囲が真っ暗になったところで、ようやく作業が完了したとの報告を受けた。

 放っておくと逃げかねないハゲも伴って地下へ行き、早速修理が完了した転移装置のテストをしてみることに……



「え~っと、ここを押してこっちのレバーを引けば……はい、これでそのジャケェがどうのこうのって場所と繋がったはず……で、早速何か送られて来るんですが……」


「拙いっ! ジャストタイミングで敵が転移装置を使ったんじゃないかっ?」


「かも知れませんが、とりあえず落ち着いて下さい勇者様、敵といってもどうせ雑魚キャラですから、すぐに殺してしまえば……って、頭だけ来てしまったようです」


「マジか、早速切断された頭部が……いやこれズラじゃねぇかっ!」


「おぉっ! それはわしのじゃけぇっ! 新発売、最新モデルのカッコイイ、スタイリッシュなズラじゃけぇ」


「え? 最新モデルって……やっぱり、これ、去年のモデルですよ、私が魔王軍に居た頃ですが、去年のある時期に突然この髪型になったおじさんがかなりの数居ましたからね」


「いや、てことはつまり……」


「転移装置の中に引っ掛かっていたんですよ、このハゲも、そしてこっちのズラも、もちろん1年間、本人にその記憶はないようですが」



 エリナの仮説によると、このハゲが転移装置を使って敵から逃げたのはおよそ1年前、そしてエリナとアイリスが転移して来た際の空間の接続により、引っ掛かっていたうちの『本体部分のみ』が偶然その呪縛から逃れてこちらへ。


 次いで今、完全に修理が完了し、ジャケェ共和国との接続が回復したことにより、残されていたズラ部分もこちらへやって来たということだ。


 もうわけがわからないがそういうことなのであろう、つまりこのハゲが知っているジャケェ共和国は昨年のどこかのタイミングのそれ、現在のものではない。


 もちろん犯罪組織の侵攻が始まったばかりの頃と今の状況は異なるはずだし、同じ場所でも勢力の関係で取ったり取られたり、敵の支配地域なのか味方の勢力下なのかはわからないのだ。


 となるとこのハゲに転移先を案内させたた場合には、過去の情報を元にわけのわからない敵のど真ん中に連れて行かれる可能性もあるということ。


 そもそも転移装置自体が敵の領域の中にあったもので、それが重要な拠点だとすれば手放すはずもなく、間違いなく転移先は敵の本拠地内、そしてそこから脱出するというミッションが最初の一手となるのだが、それに加えてハゲのいい加減な案内ではもうどうしようもない。


 ということでコイツはもう死なせておいてやって……いや待てよ、一応は分析官としての地位を持っているのであったな。


 もし、万が一だがこのハゲを送り届ける、当然現地では敵に殺られて死んでしまったことになっているのであろうが、それを救助して連れ帰ったとしたらどうか?


 そうなればあのダンゴ技術者のおっさん達と同様、有用キャラを助けた俺達に何か見返りがあるのは確実である。


 念のため生かしておこう、向こうでも不用だとされたら改めてブチ殺せば良いし、利益を得るキッカケとしての価値がゼロでない限りはキープしておくべきなのだ。



「よし、じゃあハゲ、お前はそこで正座して待っておけ、エリナはおつかれ、ルビアもマリエルもだ、とにかく一旦火の魔族の集落へ帰って、皆に移動が可能になった旨を報告しよう」


『うぇ~いっ!』



 こうして転移装置のある元敵アジトから戻った俺達は、そこであった内容を仲間達に報告、そして翌朝の出発を決定したうえでその日の活動を終えた……



 ※※※



「よぉ~し、全員荷物を持ったな、ダンゴ技術者のおっさん達も揃ってんな、じゃあ出発だっ!」


「……ご主人様、もしかして歩きで行くつもりですか?」


「そうだが」


「わふぅ~っ! 暑いので無理ですっ!」


「まぁ、確かにそうだな、長老に頼んで馬車を出して貰おうか」


「それが一番です、ほら早く早くっ」



 カレンの提案によって急遽馬車を借りることに決まった俺達……さすが農業地域だけあり、馬車ではなく牛車が来たのだが、スピードが遅いというだけで特に問題はないか。


 牛車は4人乗りのものが4台、俺達は12人のパーティーメンバーと、それからアイリスにエリナに案内係のアスタ、それにフォン警部補か……ちょうど16人、申し訳ないがダンゴ技術者のおっさん達は徒歩だな。


 いや、その前にアイリスやエリナとフォン警部補を、同じ狭い客車の中に押し込むのはキツい。

 加齢臭が移ってしまったら大変だし、汗だくのおっさんを見て気分が悪くなったりするかも知れないな。


 ということでフォン警部補にはおっさん軍団の引率をして貰うこととしよう、エリナが作った幌付きリヤカーと暗黒博士(大)を貸し出し、それに乗って付いて来るようにと要請しておいた。


 馬車、ではなく牛車はゆっくりと進み、後ろを歩くおっさん軍団がバテ始めた頃に目的地へと到着する。

 全員で地下室に入り、魂が抜けたような状態で正座しているゲリベンハゲをおっさん達の仲間に加えさせ、そこでここからの行動について話し合う。


 まず、転移先が敵地ということがもう明らかであるため、最初に戦えるメンバーだけで移動、周囲の安全を確保した後に一旦戻り、再び全員で転移するということに決まる。


 ちなみにハゲの情報によれば、敵の女幹部はなかなか良い尻の良い女だそうな、それは確実に生け捕りにしたいところだ、まぁ、現物がどうかという点については確認が必要ではあるが……



「よし、じゃあまずは俺とフォン警部補、それから……ミラとジェシカだな、4人で行ってひと暴れしようか、目標は転移装置がある敵拠点の制圧だ」


「主殿、敵の数によってはだが、周囲の被害を押さえながらだと4人では厳しい場合があるぞ、その場合はどうする?」


「う~む、そしたらそのときだ、なるべく無関係の善良な方々に被害が及ばないよう努めつつ、ある程度強めに戦って構わない、被害が及ばないのは『なるべく努める』だからな、緩い感じの努力規定だ、ということで行くぞっ!」


『うぇ~いっ!』



 先遣隊の4人で集合し、転移装置を作動させると、眩い光がその4人を包む……しばらくして目が見えるようになってきた、ここは……どこかの事務所のような、そんな感じの室内だな。


 まだ朝早くということで誰も居ないようなのだが、とにかくここが敵地? にしては小奇麗だ。

 もしかしたら敵は既に制圧され、ここは味方、というかジャケェ共和国政府側の勢力下にあるということか?


 いや、良く見るとそれはなさそうだ、小奇麗にしてはいるのだが、奥の方にある半開きの掃除用具入れにはなんと、血がベッタリと付着した釘バット、有刺鉄線付き角材、バールのようなもの。


 またテーブルの上には誰かの手を固定するような枷のようなものがセットされ、その横にはペンチや竹串など、これまた血塗れで転がっているではないか。



「見てくれ主殿、こっちには『人間の指のミイラ』が落ちているぞ」

「こっちには『つい最近まで人間だった何か』が丸ごと転がっています、ここはヤバいですよかなり」


「だな、となると……静かに、誰かが来たようだ……」



 この場所が、この綺麗な事務所が明らかにヤバい、恐怖の場所であるということが発覚したところで、どう考えてもこちらに向かっている感じの足音。


 無警戒な感じだが、それだけここに通うことに慣れた人物に違いない、きっと敵組織の構成員だ。

 そして足音の感じからして……間違いなく女だな、もしかするとあのハゲが言っていた女幹部なのかも知れない。


 とりあえず大き目の机の後ろに身を隠し、その足音の主が部屋に入るのを待った。

 鍵を開け、鼻歌を歌いながら軽い足取りで入って来たその女は……明らかに敵の女幹部だ。


 ワインレッドのテカテカした素材の衣装、もちろん布面積は以上に狭く、普段何を考えていればそんな格好で出歩けるのかという次元の恥ずかしさ、そして敵感溢れる軍隊の帽子、腰には鞭がぶら下がっている。


 そしてその女幹部、明らかにダンゴ使用者ではない普通の人間だ、つまり弱いということ。

 今なら他の連中に騒がれるようなこともないし、この場で捕まえてしまおう……



「……おいっ! お前ちょっとその場で手を挙げろ」


「……!? だ、誰だいあんた?」


「お前等のような悪の組織の関係者を殲滅している異世界勇者、そしてこっちは西方新大陸のPOLICEだ、観念しろこの女幹部めが」


「勇者……POLICEまで……どうやらここまでのようだね、殺すなら殺しなさい」


「ダメだ、お前は生かして捕らえて陵辱する、まずはこのおっぱいを揉んで……」


「クッ、何てことをっ、それでも正義の味方かいっ!?」



 もちろん正義の味方なのではあるが、この世界では悪に対して何をしても良い、そういう雰囲気のはず。

 特に女幹部には容赦しないのが習慣だ、殺したりはせず、拷問と陵辱によって情報提供者に仕立て上げるのが俺達のやり方なのである……



「で、ここの事務所……組事務所には他に女が居るのか?」


「居ない、ここは私と、それから現地雇用のやべぇ奴等ばかり、私以外は全員汚い野郎だ」


「そうか、じゃあフォン警部補、この女は任せたぞ、こっちはこの後やって来るであろう雑魚キャラの制圧に入る」


「わかった、女幹部、とにかくお前は逮捕するから、そして仲間は皆殺しだ、ざまぁみやがれ」


「クッ、殺せっ」


「だから殺さねぇってば、ちょっと静かにしろっ」


「はぐっ……」



 物分りの悪い女幹部は、フォン警部補が一撃入れて黙らせた、まぁ気絶しただけだし馬鹿になったりはしていないであろう。


 で、そこからおよそ1時間に渡り、次から次へとやって来る雑魚キャラ、モブキャラ共を殺害していく。

 そろそろ全員かと思ったところでまた、その次もまた、という感じであるが、もう時間帯的に余裕で遅刻のはずなのだが……と、また来やがった……



「死になさいこの時間も守れないクズがっ!」


「ぎょぇぇぇっ! 何なんだぁぁぁっ!」


「遅刻の罰は死刑です、それと、あなた方は犯罪者なので普通に死刑です、死刑が1回残っているので来世でも無様に死になさい」


「そ……んな……」


「死にやがったか、さすがにコイツで最後だよな?」


「わかりません、ですがこのままだとキリがないですよ、とりあえず私とジェシカちゃんでここを守っているので、勇者様はみなを迎えに行って下さい」


「おう、もうそうするわ、遅刻魔共には付き合いきれないからな」



 一度戻った俺は、仲間と案内係のアスタ、それから断じて仲間ではないものの同行者であるおっさんの群れを連れて組事務所らしきオフィスへと戻った。


 ……死体がひとつ増えているような気がしなくもないのだが、特に言及しないでおこう。

 まずはハゲに窓の外を見させて、1年前のジャケェ共和国とどう変わっているのかを見定めさせるべきだ。



「どうだハゲ、何か変わったところはあるか?」


「う~む、大丈夫じゃけぇ、共和国の象徴であった城の天守閣に敵の旗が立っていること以外何も変わらないけぇ」


「もうアウトじゃねぇかっ! どうすんだよこれマジでっ!」


「いや、共和国の旗は向こう、いぅてほれ、海の方にチラッと見えているのがそうじゃけぇの、皆城を棄ててそっちへ逃げたんじゃけ、間違いない」


「大丈夫なのかよホントに……」



 どうやら敵の攻勢が強まり、ほぼ制圧されてしまっている状態のジャケェ共和国、ダンゴ発症の地である隣の小国に居るという『島国の英雄』は何をやっているというのか。


 とにかくここをどうにか取り戻し、隣の国へ移動してこのお荷物、というかダンゴ技術者達を送り届けなくてはならない。

 俺達の島国での冒険は、ここから第二幕が始まるのだ……早く全部終えて王都へ帰りたいところだな……

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