675 直すために
「よしユリナ、サリナ、エリナをここへ呼び出すぞ、そうすればこっちの魔導転移装置もどうにか直るかもだからな」
「わかりましたの、じゃあ何とか連絡を取って、こっちへ来るように伝えますわよ」
「頼む、ちなみにアイリスの護衛が居なくなるからな、一緒に来させないと拙いぞ」
「そっちも承知しましたわ」
敵のアジトであった場所の地下にあった隠し部屋、そこで壊れた魔導転移装置を発見した俺達。
しかもそれが目的地、つまりこの間救助したおっさん軍団を届けるべき場所の近くへ繋がっているというのだから捨て置けない。
今ここに居るメンバーでの修理は不可能だが、非戦闘員として置いて来たアイリスと共に拠点村に滞在しているエリナであればどうにかなるかも知れないのだ。
ということでこちらは火の魔族の集落から動くことはせず、ひたすら待ってエリナがやって来るのを待つ。
それが最善の手だ、もしエリナが装置を修理出来ないようであれば、そのときはまた考えれば良いのである。
「じゃあ妖精さん達、お前等は……鳥篭はルビアが破壊したんだよな、まぁ良いや、とにかく火の魔族の集落まで一緒に来て貰う、それから『敵の構成員』として罰を受けて貰うからな」
『ひぃぃぃっ!』
どうやらあの鳥篭、妖精さん達が使っていた『懲罰房』であったらしい、さらに同じくここで発見されたドールハウスの方は、『ちょっとリッチな部屋』をして使おうと思ったものの、小さすぎて断念したものだそうな。
で、もちろんそういったものは使わず、というか頭数的にあったとしても使えないのだが、妖精さん達に少しでも良心があることを信じ、そのまま火の魔族の集落まで付いて来させることとした。
まぁ、さすがに逃げはしないであろう、どこへ行っても、どこへ隠れても見つけ出して痛い目に遭わされるということはもう理解しているはずだし、このまま居れば殺されないと知っているはずなのだから、通常そんなことはしない。
ということで外へ出て出発、既に太陽が照り付け、凄まじい暑さとなっているのだが、もう日陰のない畑ばかりの道を歩かざるを得ない状況だ。
カレンはすぐに限界を迎え、もはや少しだけひんやりしている精霊様が抱えているような状態だが、同じく暑がりのマーサの方は少し違う。
帰り道にある無人販売に反応し、キュウリだのナスだの、それから行きがけに欲しがっていたズッキーニなどを逐一ねだる、野菜系ウサギ女子としての本領を発揮しているのであった。
「ねぇっ! 次はコレ、ほら湧き水で冷やしてあるキュウリよ、ねぇ買って、買ってよっ!」
「おいおいキュウリはさっきも食べただろうに……というか財布がカラッカラなんですが?」
「え~っ! 本当に甲斐性がない異世界人ね」
「色々と買わせておいて酷い言い草だな……」
結局マーサはパーティー資金からお目当てのキュウリを買って貰い、その代わりに妖精さん達の見張りをするということで合意したようだ。
手持ちの全財産を使い潰された俺は涙を流し、失ってしまった鉄貨5枚に思いを馳せる。
これまで一緒に旅してきた大切な鉄貨であったが、今はもう、その辺の無人販売にセットされたコイン入れの中に収納されてしまっているのだ。
彼らはあの野菜、マーサが齧りながら歩いている野菜の生産者からまた別の人間に、そしてそこからまた別の……という具合に人々の間を渡り歩き、きっと俺達と同じぐらいの壮大な冒険をするのであろう。
いつかまた俺のところに帰って来てくれるであろうか? こんな島国だし、他の大陸国家との貿易で一番価値の低い鉄貨が使われることはまずないし、それは叶わぬ夢か。
と、まぁそのどうでも良い別れはまぁアレだとして、ここでようやく灼熱の帰り道を終え、火の魔族の集落へと到着したのであった……
※※※
「ほう、ではこの者達があの場所に残っていたと、それで悪の組織? とやらの一味であったということですな?」
「まぁそんな感じよ、私は良くわかんないけどそんな感じだったと思ったわ」
「はい、ではこちらでお預かりしますゆえ、皆様はこれから……」
「えっとね、転移装置が魔導でどうのこうので、あとそれから何だっけ? 忘れちゃったわ」
「は、はぁ……」
少し離れた所から聞こえるマーサと火の魔族の長老との会話、もう理不尽なほどに意味不明であるが、とにかく何かを説明しているらしいマーサ。
自分がわかっていないのだから誰かに頼めば良いのではないかとも思ったが、この地域で取れる野菜を使って買収されているため、今はもう全て、誰の言うことでも聞いてタスクをこなす『お使いマシーン』と化しているのだ。
もっともそのお使いに関して、誰かに何かを説明するような難易度の高いものはクリア出来ていない。
誰かが助けてやらないと馬鹿だと思われるマーサも、そして要領を得ない長老の人もかわいそうだ。
とりあえず俺が助けに入り、その場はどうにか長老にもご納得頂ける説明をすることが出来、またこれからエリナが来るまでの間はこの火の魔族の集落に滞在することを許可された。
妖精さん達はとりあえず、集落の中で掻き集めた鳥篭の中に入れておくこととし、ついでに案内係のアスタはこちらで、俺達の宿舎で一緒に寝泊りするということで牢屋敷から脱出させておく。
捕まえたのは俺達なのだから、もう適当に罰を与えておいて欲しいとのことであったが、こちらに出来ることは鞭打ちぐらいしかないためそれでいこう。
せっかく牢から出られたと思いきや痛い目に遭うアスタは実にかわいそうだが、これも自分でやったことの報いなので我慢させるしかない。
宿舎に戻ってすぐ、用意されていた風呂に入って汗を流し、そこでアスタに対して刑の宣告をしておく……
「おいアスタ、正座して背中を鞭で打たれるのと、四つん這いになって尻を叩かれるの、どっちが良い?」
「いやぁぁぁっ! どっちもイヤです、せめて鞭じゃなくて別のものに……」
「じゃあルビア、ちょっと革の板でも用意しておいてくれ、それで尻叩き1万回の刑に処す」
「ひぇぇぇ……で、でもそれなら我慢出来そうです、ちょっと先に上がって、心の準備をして待っています、あと、反省しているのでそんなに厳しくはしないで欲しい……です」
「それは刑の執行人たる精霊様に言ってくれ、元々友人である火の精霊様を騙られて迷惑したのはウチの、この水の精霊様なんだからな、ということで精霊様あとはよろしく、俺はこっちの悪魔共をシバかないとだからな」
「……まだ根に持っていましたの、本当に執拗な異世界人ですわね」
「ご主人様、そういうことはキッパリスッパリ、綺麗に忘れるべきです、じゃないと女子に嫌われてしまいますよ」
「黙れこの悪魔共がっ! 変なクスリを飲ませやがって、お前等も皮の板で尻叩きの刑だっ! 来いっ!」
「あうぅぅぅっ! 尻尾を引っ張らないで欲しいですの」
「いてててっ、ちょっと、ちゃんと行きますからホントに尻尾だけはっ」
その後、アスタと並べたユリナ、サリナの尻を革の板で思い切り引っ叩き、馬鹿に付けるクスリなどという効果どころかその安全性すら不明なものを大ジョッキで飲まされた鬱憤を晴らしておく。
俺は1時間以上も小さくなって苦労させられたのだから、2人には1時間以上の尻叩きを与えてやらねばならないな。
かなりM気質のサリナはともかく、ユリナの方は尻を真っ赤に腫らして泣いている。
しかしここで手を緩めないのが真のお仕置きだ、サリナの方も泣くまで絶対に手は止めないと誓おう。
「オラッ! どうだっ! 参ったかっ!」
「ひぃぃぃっ! もう無理ですのっ! 続きは明日とかに受けますから、今日はもう勘弁して欲しいですわ」
「私はもうちょっと平気です、さぁご主人様、その板でもっとぶって下さい、あ、叩き付ける前にナデナデとかして焦らされるのもまた私の趣味に適って……」
「クソッ、サリナの方には効いてないみたいだな、そういえばアスタは……おい精霊様、それもう気絶してないか?」
「ん? あぁホントね、全然気が付かなかったわ、待ってて、ちょっと火の魔族に対して効果抜群の水責めをして、バッチリ目を覚まさせるから」
「こっちはもう見習いたくもないぐらいに鬼畜だな……と、おいユリナ、隙を突いて逃げようとするんじゃないよ」
「うぅ、バレましたの……」
その後、小一時間は2人に対するお仕置きを続け、さすがのサリナも限界に達して泣き言を吐き出したところでひとまず終了とする。
次に何かやったら鞭打った後に左右の尻たぶ、それから尻尾の先端を万力で挟むと脅し、とりあえずそれをこの悪魔共に対する抑止力としておく。
まぁ、どうせまた何かやらかすはずだが、しばらくの間は大人しくしていてくれるであろう。
そしてアスタの方は……完全に反省し切ったようだ、もはや精霊様に対しては恐怖しか感じていない様子だが……
「さて、それじゃあ今日はもうこれで終わりだ、ちょっと暑いから窓を開けて寝よう、アスタ、蚊帳はどこにしまってあるんだ?」
「ひぃぃぃ、動くとお尻が……ててて、で、蚊帳でしたらそちらの押し入れの中にあります、ちょっと痛すぎて動けないのでご自分で……」
「そうか、客人をもてなすことさえも出来ないんだな、この件は火の魔族の長老に報告しておこう、果たしてその程度の尻の赤みで済むだろうか?」
「そ、そんなっ、わかりました、やりますからどうか……いたっ、いたたたっ」
尻丸出しのまま働くアスタを見ているのは実に面白い、だが一応後で回復だけはさせておこう、精霊様は基本的にやりすぎだが、今回はかなり既定の処罰をオーバーしていたようだ。
蚊帳が準備され、その中に入って寝る準備を……危ない、リリィがふざけて穴を空けるところであった。
穴の開いた蚊帳などもう無用の長物、蚊もその他の虫けらも、それからバケモノなんかも入り放題だ。
ふざけたリリィには拳骨をお見舞いし、全員で蚊帳の中へ入ってゆっくり……今度はカレンが暑くて寝られないと言い出した、仕方ない、寝付くまで俺が団扇で仰いでいてやろう。
そのような感じで夜を過ごし、翌日も、そのまた翌日も似たような感じで過ぎ去っていった。
そろそろ救助したダンゴ技術者達から移動の要請が出るかと思ったところで、なぜかエリナから本人ではなく荷物が届く……
「何だこれ、いやマジで何だ? エリナに来いとは言ったが、荷物を先に送って寄越したのか?」
「ご主人様、中身は何ですの? 宅配なら書いてあると思いますわよ」
「お、そうだな、え~っと、ここか……『汚物等』だってよ、なんてモノ送って寄越すんだアイツは?」
「急に呼び出されたことに腹を立てて嫌がらせをしたんじゃないですの? ほら、しばらく放置されてストレスが溜まっていたんですわきっと」
「だからってこんな悪質なことするかよ普通、まぁ良い、とにかく開けてみようぜ」
「これを開ける度胸はさすがですの、勇者というよりもタダの馬鹿ですわ」
「ユリナ、お前にはちょっとお仕置きが足りていないようだな、そっちで尻出して待っとけ」
「ご、ごめんなさいですの、訂正致しますわ、オホホホホッ……ダメですの?」
「ダメだ、キッチリ反省するまで許さないからな」
しょんぼりしながら部屋の隅に移動し、尻丸出しになって待機し始めるユリナ、このままずっと放置してやろう、その方が普通にお仕置きするよりも何倍も効くはずだ。
で、問題はこのはこの中身の『汚物等』である、もしも本当にそういうモノが入っていたとしたら、もうこの後やって来るであろうエリナには到着早々バックドロップを受けて頂かなくてはならないのだが、果たして結果は……
「……何だよ、汚物等ってお前のことなのか、てっきりウ○コだと思ったぜ」
『僕はお話魔導人形、暗黒博士だよ、貴様等無能な人間共のために力を振るい、転移装置とやらを秒で修理してくれようぞ、フハハハッ!』
「そういうことだったのか、お、エリナからの手紙も入っているな、こっちが『等』で暗黒博士の方が『汚物』ってことだなきっと」
『我は汚物ではなく究極の頭脳を持った暗黒……聞いてる?』
「聞いてない、てか現地までの地図を渡してやるからサッサと行け、お前のような不気味人形が一緒だと俺達の寝床が穢れるんだよ」
『・・・・・・・・・・』
ということで火の魔族の集落で地図を貰い、そこに目的地を書き込んで不潔な人形である暗黒博士に渡す。
そういえばコイツは今までどこに居たのだ? 屋敷の庭に埋めたりトローリング漁の餌にしたりはしていたが、最近はまるで姿を見なかったな。
まぁ、そんなことはどうでも良い、せっかくエリナが送ってくれたのだからあり難く使わせて頂くこととしよう。
目的地の書き込まれた不気味な人形は自力で、しかも少し浮き気味に玄関から出て行き、その気配はしばらくすると消えた。
「さてと、転移装置の修理は奴に任せておくとして、こっちはそれまで何をして待とうか?」
「ご主人様、これまで通りグータラ過ごしたら良いと思いますよ、どうせ修理には時間が掛かるんですし、しばらく長い休みを取っていませんでしたから」
「しかも暑いから外とか出たくないのよね、まぁやるとしたら水浴びぐらいかしら? というか早く船に戻って神様に会いたいのよね、あの涼しい風に当たって癒されたいわ」
「お前等本当に堕落したな……だがまぁ良い、暗黒博士が帰って来るまではこのままダラダラ待つとしようか」
結論から言うと、その日の夕方には暗黒博士……だけでなく修理が完了した転移装置を拠点村に繋ぎ、そこから転移して来たエリナ、もちろんアイリスも登場したのであった。
本当に束の間の休みになってしまったのだが、久々に2人の顔を拝めたから良しとしよう。
ちなみに向こうの大陸では特に変わったことはなく、相変わらず魔王軍にも目立った動きはないとのこと。
まぁ、その監視を元魔王軍の事務官であったエリナにやらせているのはどうかと思うが、別に何かあったからといってすぐに対応することが出来るわけでもないし、王都には筋肉団も残っているからしばらくは安心なのだ。
よってそちらのことは一切気にせず、合流した2人を火の魔族の長老に紹介、また案内係として同行するアスタと、それからフォン警部補にもその存在を伝えておいた。
「よし、せっかく合流したんだから今日は豪勢にいこう、涼しくなってきたし、外でバーベキューをするんだ、セラ、ミラ、ちょっと食材を購入して来てくれ」
「わかったわ、野菜と、それからお肉とかお魚もちょっと、足りない分は手持ちを出すことにしましょ」
「お姉ちゃん、ガッツリ値切って安く買って、それでいて定価で買ったことにするのよ、そうすれば差額はポッケナイナイしてもバレないわ」
「OK、ミラが常日頃からやっている作戦ね、今日は私も協力するわ」
「おいお前等、丸聞こえだからもう何をしても無駄だぞ、後でカンチョーしてやるから覚悟しておけ」
「あら恐い、ということで行って来るわね」
「どういうことなのか知らんがいってらっしゃい」
2人を送り出した後にはバーベキューの準備、ちなみに火の魔族の集落だけあり、夕方になるともうそこかしこで同じような感じの煙が上がっている。
もちろん俺達のバーベキューが一番、それだけは誰にも譲れないのだが、やはり他の連中がやっている内容も気になるな、後で少し話を聞きに行ってみよう。
もしかすると火の魔族特有の、それはもう激アツな方法、食材、その他食べ方などがあるかも知れないからな。
特にこの島国には特例として味噌と醤油が存在しているのだ、焼肉のタレなどがあってもおかしくはない。
と、ここでひとつ思い出した、エリナに聞いておかなくてはならないことだ……
「なぁエリナ、暗黒博士が修理した転移装置なんだが、拠点村に繋がったのは2人が来たことでわかった、だがもうひとつ、この島国の中で繋がっている場所がなかったか?」
「あぁ、あったにはあったんですが、そこはまだ直していませんね、修理にはもう少し材料が必要だと思いますよ、なんてったって湿気と暑さで中の魔導回路が腐っていましたから」
「そういうことか、となると早く直さないとだな、その行き先である『ジャケェ共和国』ってのが次の目的地にかなり近いんだよ、しかも1年中食べられる牡蠣があるらしい」
「なるほど、でしたらまずは修理アイテムの調達ですね、雷魔法のカートリッジがあると早いんですが……さすがにそんなもの……あるんですか?」
「おう、処刑用に作った、というかさっき紹介したフォン警部補に作って貰ったものがあるんだ、雷撃椅子っていう西方新大陸の処刑に使ったんだが、それで良いならまだ船に残っていると思うぞ」
「処刑用って、祟りとか凄そうではあるんですが……まぁ、とにかく使えそうなら使ってみようと思います、明日現物を見に行きますからそのつもりで」
「おう、ちょびっとだけ期待しておくぞ、なんてったってこの夏場に、岩牡蠣じゃなくて通常版の牡蠣が食べられる……じゃなくて目的地のすぐ傍にワープすることが出来るんだからな、あの転移装置を直すことは急務だ」
正直な話、あのダンゴ技術者のおっさん達がどうこうよりも、そのジャケェ共和国にあるという牡蠣、おそらく俺が転移前に住んでいた世界では『3倍体』と呼ばれていたものなのであろうが、技術をほぼ『魔導』に頼り切っているこの世界でどうやってそれを再現したのかが気になるところだ。
その後、帰って来たセラとミラに約束のカンチョーをお見舞いし、2人が購入して来た食材、そして荷物の中にあった食材を加えてバーベキューを開始する。
久々のフルメンバーだ、まぁトンビーオ村に滞在している2人は除いてだが、ここから先はミラだけでなく、アイリスの料理も口にすることが出来るとなると実に嬉しい限りだ……さて、次は転移装置の修理、そして移動ということになるな……




