672 全体の連絡役は
アジトで捕らえたわけのわからない連中を引っ張り、火の魔族の集落に凱旋した俺達は、これまでの地ではあまり味わうことのなかった真っ当な称賛を受け、鼻高々で長老の待つ屋敷へと向かった……
「おぉ、その迷惑な連中をこんなにアッサリ捕らえてしまうとは、さすが伝説の始祖勇者の後継たる異世界勇者殿です、感謝感激雨あられじゃ」
「いえいえ、この程度のことはもう朝飯前というか、俺は実力の100分の1も出していないというか、とにかく楽勝でしたよこんな連中」
「勇者様は死体の片付けぐらいしかやってないけどね……いてててっ」
「おいセラ、余計なことを言っているとこのまま尻の肉を千切り取るぞ」
「ひぃぃぃっ、どうかそれだけはご勘弁を……」
「おや、そちらのお仲間は負傷されましたかの?」
「いえ、ちょっと拾い食いをして腹を壊しただけでして、魔法薬でも飲んでおけば2秒で治ります」
「そうでしたか、それはまた大変なことでしたな、でですな、早速ですが今夜は勝利の宴とさせて頂きとう存じますが、よろしいでしょうかの?」
『もちろんで~っす!』
危うく俺の実力が疑われてしまうような発言をしたセラには後でもう一度、キッチリとした罰を与えておこう、二度と余計なことを口走ろうと思わなくなる恐怖の罰だ。
とにかく今はまだ昼前、何だかんだで予定通り速攻で敵を片付けることに成功したわけだが、さてここから夜の宴までの間何をしようかといったところである。
宿舎的な場所でサボったり、集落の中を観光して夏野菜を購入したりということも出来るには出来るのだが、暑いし皆付いて来なさそうなのであまり期待しないほうが良さそう。
となるとやるべきは……と、ここでフォン警部補からの提案が……
「勇者殿、俺は早速あのアジトで捕まえた連中の拷問をしていこうと思う、どうやら今日の宴で処刑してしまうみたいだし、今のうちに聞いておくべきことはちゃんとしとかないとだからな」
「そうか、じゃあ俺も行くことにするよ、すまないが皆は待機していてくれ、サッサとブチのめして必要な情報をゲットして来るよ」
「じゃあ私も行くわね、水責めは拷問の基本だし、役に立てると思うわよ」
「おいおい精霊様、奴等は一応公開処刑を待つ大事な体なんだからな、水圧で潰したり、水の刃で微塵切りにしたりとかするんじゃないぞ、やりすぎて怒られても知らないからな」
「わかっているわよ、ちょっと『水を含ませた薄紙を顔の上に重ねる拷問』とか『長時間頭の上から水滴を垂らしていく拷問』とかをやってみたいと思っただけ」
「それは普通に死亡したり気が狂ったりするやつじゃ……」
ということで俺と精霊様、そしてフォン警部補の3人は他のメンバーと別れ、先程捕らえたゴミのような連中が収監されているゴミ屋敷……ではなく牢屋敷へと向かった。
簡素な造りの建物の中にはその連中と、直近で捕らえたという流れ者の盗賊でまだ処刑するのか鉱山用の奴隷として売却するのか結論が出ていない者、そして俺達が連れて来たアスタが居た。
アスタとはチラリと目が合ったものの、どうやら親族、というか兄らしい野朗に正座させられ、説教されている最中であったため話し掛けるのはやめたのだが、アレは助けを求める目であったような気がしなくもない。
そして目的のブツである牢屋敷の一番奥、一様に赤いバッジを身に付けたクソ野朗共が固めて放り込まれている牢の前に立つ。
「えっと、このバッジを剥がしてしまうと直ちに死ぬんだったな、てかこいつら、その状態でどうやって着替えとかしてんだろうな?」
「さぁ? ある程度自分の近くにあれば効果は継続しそうな気もするが……いや、この臭さから考えて『着替えという文化があることを知らない連中』である可能性も否定出来ないな」
「とんでもねぇ奴等だ、その将軍様とやらもよっぽどクズなんだろう」
「貴様等! 大将軍様を侮辱するとは何事かっ! 処刑だっ! 粛清だっ! 極寒の収容所送りだっ!」
「うっせぇなボケが、早死にしたくなかったら少し黙っておけこのボケ、聞かれたことに答えていれば今日の夜まで生きられるんだからな、もうホント大往生だぜ」
「黙れ黙れ黙れ黙れっ! 誰が貴様等のような薄汚いドブネズミの質問になど答えるかっ! 我等は将軍様の命を受けてこの地にやって来た誉れ高きエリート部隊なのだぞっ! それをわけのわからん幻術などという卑劣テクで心神喪失状態にして拉致するとはっ!」
「いや薄汚いのお前等だからな、てか風呂ぐらい入れよ普通に……」
既にサリナの幻術から脱した状態のクズ野郎共、その胸のバッジに描かれた将軍様とやら、というかジョン総書記だか何だかに対して相当な尊敬の念を抱いているようで、それがゴミであるという真実を知る俺たちとは全く会話にならない状態だ。
で、もうひとつ俺達だけが知っている、察していることだが、大陸側に残った僅かな人族の地ではこの連中を養い切れず、『派遣部隊』や『制圧部隊』などの肩書きを与えられ、体よく追い出されたのだということも確実であろう。
その大好きな将軍様に捨てられた、口減らしとして追放された、それでも最後に何か役に立てばということで、提携している西方新大陸の犯罪組織に協力する派遣部隊としての役割を与えられた、そんな感じなのかな?
とにかくこの連中がろくでもないこともはっきりとわかったため、あとはもう、こちらの『本気』を見せ付けて屈服させ、情報を獲得するだけだ。
「よし精霊様、フォン警部補、かなり力を抜いて、慎重に痛め付けていこうか」
『うぇ~いっ!』
「じゃあ開始だ、オラァァァッ! このクズ共がぁぁぁっ! テメェらあれがこうでこうで……(どうのこうの)……」
決して殺さぬよう、かといって舐められぬよう、非常に繊細な力加減をもってクズ野郎共を拷問していく。
もちろんやり方は勇者パーティー流、痛め付けるのが先で、質問を開始するのはその後だ。
そこからおよそ30分、殴る蹴るの暴行、罵声を浴びせ物を投げ付ける、便所のブラシを口に突っ込んで、ついでに便所の水を点眼してやる……など様々な責めを続け、ようやく俺達に逆らわない方が良いということをわかって貰うことが出来た……
※※※
「で、最後に、死ぬ前に敵組織に関して持っている情報を洗いざらい吐く気になったんだな?」
『へへーっ! その通りにございますっ!』
「うむ、本当は『将軍様』の情報も欲しいんだが……フォン警部補、それはどうせ雑魚だよな?」
「そうだな、新大陸にはよくある感じの、犯罪組織傘下の小組織みたいな感じだろう、『○○大盗賊団』みたいな」
「じゃあ後でまた滅ぼせば良いか、面倒ならアレだ、その大陸側の人族の地か? そこを空駆ける船で上空を通過しつつ油でも撒いて、その後火でも掛けてやればあっという間に壊滅させられるからな」
「あぁ、そうしてしまうのが手っ取り早いかも知れないな、どうせそこに残っている連中もたいして価値のない、というかマイナス価値しか持たないようなゴミばかりだろうからな」
「じゃあそうしよう、で、お前等はこの島国に渡って、そこらでやっていたチンケな犯罪、それとメインの活動としてダンゴ系技術者を拉致していた、そうだな? おいそこのキモ顔ハゲ、確か頭だったな、お前が答えろ」
「へへーっ! そうにございますっ! それからえっと、他もお話しして……」
そこからはキモ顔ハゲの語るに任せた、どうやら『将軍様』からは自分達の生活の糧は自分達でどうにかし、メイン業務であるダンゴ系技術者の誘拐等で稼いだ金は全て本国に送るようにとの指示であったそうだ。
だがその代わりとして、人員の補給のみは無制限に行ってやるという、大変に慈悲深いお言葉を頂き、この頭は意気揚々とこちら、島国へ渡って拠点を築いたのだそうな。
正直言ってメチャクチャである、食糧等は自力で確保であり、一切送られて来ないのだ。
それに加えて人員だけは常に追加されるのだから、派遣部隊は人だけで膨れ上がり、いつか立ち行かなくなって壊滅するのが目に見えている。
きっと将軍様もこの頭が騙され易く、非常に頭が悪いということを知っての人選であったはず。
島国側に『良い感じのゴミ箱』を設置し、そこに放り込んだゴミが、朽ち果てるまでの間は稼動して利益を生み出すというなかなか面白い仕組みだな……
「……ってことです、ここで我等が拉致した技術者は、何だか迎えに来たウェスタンな連中とか、あとは海賊みたいな連中とか、場合によって様々でしたが、とにかく来た奴等に引き渡していたんですよ」
「その連中は……俺達が移動中に撃破したあの空飛ぶ海賊とかもそうなんだろうな、しかしどうやってそういう奴等と連絡を取っていたんだ?」
「そうよね、連絡員が飛び回っていたなら火の魔族は少なくとも気付くだろうし、あっちの漁港の人族だって何かを目撃したりしているはずだわ、なのにその話しがなかったってことは、あんた達が未知の通信手段を持っていたってことになるわよね? ということで答えなさい、何を、どう使って犯罪組織とか本国、あと運び屋みたいなのと連絡を取っていたわけ?」
「わ、わかんないんですそれが、技術者を拉致してアジトに連れて来ると、しばらくして向こうから勝手に迎えが来るし、そこで引き渡して売上はそのまま受け取らず本国に……あと本国からの増員も向こうから勝手に……」
「ん? つまりお前等は何もしていない、どことも通信していないってことなのか?」
「そうなります、ハイ……」
これまたわけのわからない事態だ、通常は実働部隊とそれ以外が連絡を取り合い、効率的に仕事……ではなく凶悪な犯罪行為を遂行しているはずなのだが、この連中に関してはそうでもないらしい。
というか、ダンゴ系技術者を拉致してすぐに迎えの運び屋が来るという時点で、どこかに何かこの連中の行動を監視する魔導装置、またはその役割を担う忍者的な監視班が居るはず。
アジトに潜入したときには他に敵意を感じなかったし、最後に焼き払ったときもそこから逃げ出すような何かが確認されたりはしなかった。
となるとかなり離れた場所からの監視が可能な有能野朗か、または装置による監視ということになるのだが、この低能そうな連中にその装置の維持修繕が出来るとは思えないな。
では有能な忍者かなにかが離れた場所から監視し、もちろん俺達の襲来も……いや、だとしたらあんなに気が抜けていたのはおかしい。
少なくとも壊滅は確実であった俺達の襲来、それを中の連中に伝えて逃げるよう指示することも、有能な忍者であれば普通に出来たはずだし、もし頭やその他の馬鹿と面識がなかったとしても実力でどうにか出来たはず。
そのまま見捨てたのか? いやその可能性は低いはずだ、拠点としているアジトを潰されるのは仕方ないが、中に巣食っていたのがゴミであったにせよ、新たな拠点作りのキッカケとして、せめて頭だけでも残しておこうと考えるのが普通。
つまりそれすらしていない、出来ていない『有能忍者』の存在は偽であると考えた方が良い。
ならば装置が、俺達が破壊したアジトの中に高額な魔導装置があったというのか……この連中の手が届く場所に?
いやそれは危険すぎるだろう、何か、どこかに隠していたのかも知れない、もちろんアジトの近くにだ……
「おいお前等、これで最後の質問なんだが、あのアジトの中にはお前等が、もちろん頭ですら入れないような場所があったりしなかったか? 最初の段階で派遣された奴が何かそこに持ち込んだとか、そういうのはなかったか?」
「それは……あっ! 確か最初、我等の初期メンバーと一緒に来た男が設置した地下室があったっ! 『精密機器があるから入らないでくれ』と言っていたんですが、最近はもう入口に盗んで来たブツとかゴミとかが散乱していて……」
「そうか、で、その男ってのはどいつだ?」
「奴はアジトの設置が終わると同時に自決したんですよ、『これで役目は終えた』とか何とか言って、将軍様への賛辞と共に溶けて崩れて、グズグズのペースト状になってしまったんです」
「とんでもねぇな、そのために、その何かを隠すために派遣されて、決してバレないように自決したのか……」
だがその男にとって残念であったのは、この頭の悪い馬鹿野郎がその秘密の部屋について覚えていたこと、そして拷問の結果、それをペラペラと喋ってしまったことだ。
これであのアジトにあった隠し部屋の存在が浮き彫りになったわけだが、地下にあるとのことなのでまだ焼け残っている可能性は十分にあるな。
明日の朝からもう一度、あのアジトがあった場所へ赴いて捜索をしなくてはならなくなった。
そして念のため、馬鹿野郎共の僅かな記憶を頼りにその隠し部屋の位置に当たりを付けておこう。
「よし、じゃあこれで情報も得たし、次の行動も決まったな、勇者殿、ここは臭くて敵わないからサッサと出ようぜ」
「うむ、じゃあお前等、今夜には極めて残酷な方法でブチ殺されることが決定しているから、それまでに懺悔でもしておくんだな」
『へへーっ! ありがとうごぜぇますっ!』
その日の夜、勝利した俺達には豪勢な料理の山が提供され、敗北したゴミクズ野郎共は盛大に、火の魔族の集落らしい方法で処刑された。
既に諦めたような表情でいた馬鹿共が、自分のところに火が回ってくると騒ぎ出し、最後は必死で命乞いしながら火達磨になっていく様は、見ていて非常に面白いものであり、これまで迷惑を被ってきた火の魔族達も大いに盛り上がる。
また、その席では長老に対し、翌朝からの連中のアジトの再捜索について伝えておいた。
どうやらまた人を派遣してくれるらしい、そして荷物はまだ宿舎に置いたままで構わないとのことなので非常に助かる。
そのまま宴は続き、良い時間になったところで徐々にお開きの方向へと向かう。
俺達も会場を後にし、布団に入ってゆっくりと疲れを癒した……
※※※
「おはようございます、皆さん朝ですよ、起きて下さいっ!」
「……ん? は? どうしてアスタがここに居るんだ、脱獄したのか?」
「そうじゃなくてですね、今日の案内係は私がやるようにと仰せつかって、しかもそのまま皆さんに引き渡されることに決まっています」
「うむ、つまり今日からまた同行ということだな、よしわかった、おいルビア、起きろっ! マーサもだっ!」
ダラダラと寝ている仲間を叩き起こし、着替えをさせて朝食、もちろんアスタも一緒にだ。
その後歯を磨いたり何だりしているところへフォン警部補が登場、そこで出発となった。
昨日と同じ道、同じ夏の風景、だが今日は面倒な戦闘ではなく捜索、それゆえ隠れる必要もないし、のんびりと道を往くことが出来る……と、あまりゆっくりしすぎると暑くなってきそうだな、既に日差しが痛々しいほどだ。
そしてもうひとつ昨日と異なる点、それは畑の横に火の魔族の集落の人々が出て、朽ち果てたようになっていた無人販売の小屋を修理しているということ。
これまではもし無人販売などすれば格好の的、昨夜処刑されたゴミカス共に目を付けられ、いつの間にか全ての商品を持ち去られていたことであろう。
そんな脅威が去った今、この島国の田舎では、もう一度かつてあったのどかな光景が、平和な時代が戻ろうとしているのだ、そう、異世界勇者様たるこの俺様の活躍によってだ。
「ねぇ見て見てっ! もう再開している無人販売があるわよっ、ズッキーニが鉄貨1枚だって、しかも当たりが出たらもう1本貰えるらしいわよっ!」
「何だその無人販売にあらざるシステムは、魔導か? 得意の魔導なのか?」
「へ? そんなの当たり前じゃないの」
「……そうですか、まぁ良い、荷物になるから買うのは帰りだ、ほれ、もう到着するぞ」
「あ、はーいっ」
こんなのどかな田舎にも魔導化の波が押し寄せているこの世界、そのうち世界観がブチ壊しになってしまう何かが登場し、それが日常化してしまうのではないかと危惧しておく。
で、到着した敵のアジト、いや元アジトであった燃えカスの集積所といったところか。
その中に巣食っていた主までも、昨夜集落に設置された処刑台にて燃えカスとなったそのアジト。
本日はここで、その主でさえも立入を禁じられていた謎の部屋、おそらくは未知の通信装置(魔導)が存在しているであろう場所を探し出すのがミッションである。
まずは昨日、連中が生きているうちに当たりを付けた場所周辺の残骸を退かす作業からだな。
最初に大きな残骸を俺とフォン警部補で移動させ、細かいものを他のメンバーが、最後に残った小さなクズはセラの風魔法で吹き飛ばしていく。
というような作業を何度か繰り返した後、ようやくそれらしき、薄汚れた蓋のようなものが地面に現れる。
どうやらその上から床板を張ってしまっていたようで、これでは昨日の段階で気付くことは不可能であった。
早速その汚い蓋を外すと、地下へ続く階段とその先に小さな扉が出現……ここは人の立ち入った形跡がないな、間違いなく奴等が言っていた隠し部屋だ。
「よし、特に危険はなさそうだし入ってみようか、ただしいきなり色々と壊したりしないように」
『うぇ~いっ!』
入口の扉に掲げられた看板には、『非常時幹部退避部屋につき、派遣部隊のモブは入室禁止』との記載。
後々頭の悪い奴等が忠告を忘れ、間違えて入ってしまわぬようにするための措置であろう。
もちろん俺達はあんなモブではないし、派遣部隊でもない、そしてこの世界全体でいえば『幹部』であるはずだから、この部屋には規則上でも立ち入ることが可能、そう解釈して構わないはずだ。
ということで扉の鍵を丁寧にピッキングし、何も壊さぬよう部屋の中へ……いや、空間として広いが、どう考えても物置ではないか、かなり大型のものであると予想される魔導通信装置も、その他の機材もまるで見当たらない。
これは一体どういうことだ? この隠し部屋に何か秘密がある、その予測が間違っていたとでもいうのか……




