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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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668 褒められる要素の獲得

「なぜ手招きしているんだあの男は? 向こうの船に来いってことだよな? お宝なら持って出て来れば良かったのに」


「ご主人様、もしかして食糧が物凄く見つかって、1人じゃ運び出せないとかじゃないんですか?」


「それが食糧じゃなくて金銀財宝の可能性もあるわね、とにかく行ってみましょ」



 海賊的な連中が乗っていた海賊船的な敵船、甲板で襲撃準備を整えている最中に失礼して焼け死んで頂いた後は、早速船内の捜索である。


 もちろん俺や精霊様はお宝が目当て、リリィは船内に積まれているであろう食料品が目当て、そして先行して突入したフォン警部補は、船内で多少は生き残っているであろう犯罪者、その中でも特に指名手配犯の捕獲が目当てだ。


 しかし入ってすぐに出て来たフォン警部補が、強力な戦闘能力を持った指名手配犯、賞金首等に出くわした様子はないし、そもそも中で何か争ったような感じはない。


 それでもどことなく嬉しそうに、『良いモノを見せてやるから早く来い』という雰囲気を醸し出しながらの手招きであるゆえ、こちらとしても一定の期待をせざるを得ないのだ。



「よし、とりあえず俺達も行こうか、アスタも付いて来いよ、あの甲板の大惨事はお前が引き起こした事態なんだからな」


「……何だか悪いことをしたような言い方ですが……命令されてやっただけですからね」


「おう、だがもしあの船が海賊船とかじゃなくて、あの『ヒトの姿焼き』になった連中も本当は凄く良い奴等だったとしよう、その際の責任は全て実行犯であるお前に取っていただく所存だ」


「そんなっ!? って、まぁその可能性は極めて低いと思いますけど、善良な方々でしたら笑いながらナイフペロペロしたりしないし、そもそも私はこれまでそういう善良な方々を脅して……何かすみません……」



 頭を垂れて沈黙してしまったアスタであるが、かなりの高所を足場が梯子だけという状況で渡るのだからあまり下を見ない方が良い。


 で、とりあえず敵船の焼け焦げた甲板へと渡り、その辺の焼死体、それからまだ生きて苦しんでいる雑魚キャラを精霊様が水で押し流しながら、フォン警部補が待っている船室の入口へと向かう。


 やはり中には火が回って居ない様子で、その入口の先からは複数の人間の気配らしきものがある。

 しかも結構な数だ……いや、気配だけではなく喋っているような声が聞こえる、静かにしていないということは敵の構成員ではないのか?


 だとしたらそれは良かった、もし今回の攻撃がアスタの能力試しにやったものではなく、普通にリリィを捕まえてきて、またはユリナを引き摺り出してやったものであれば、この中に潜んでいる連中の運命はまた違ったものとなっていたはずだ。


 とりあえずフォン警部補から事情を……いや、もう聞くまでもなく向こうから話すつもりのようだ、きっと俺達を呼んだ原因はあの話し声を発している人々の件なのであろう。



「おうフォン警部補、何か面白いものを見つけたようだな」


「あぁ、モノじゃなく人間なのだが、どうやらこの船を所有していた連中に捕まって、これから西方新大陸で違法に奴隷として売買される予定だった連中らしい」


「ほう、やっぱりこの船は海賊船、というか人身売買に手を染めている犯罪組織のものだったか、で、その連中が俺たちに何か用なのか?」


「いや、純粋に牢屋が厳重すぎて俺の力じゃどうにもならんってこともあるんだが、どうやらその連中、今向かっている島国から連れ去られたらしいんだよ」


「そういうことか……つまり情報源でもあるし、そして先程の適当な攻撃はとんでもなく価値のある救出劇になったと、そういうことだな?」


「おう、そう考えるのが妥当だな、もちろん勇者殿の采配がとか実力がとかではなく、偶然が積み重なった奇跡的な事態だがな」


「何気に酷いこと言うんだな……」



 フォン警部補の言葉はともかく、こんな焦げ臭い燃えるゴミ、いや燃えたゴミだらけの場所に居ても仕方がない。

 まずはその『俺が救出してあげた島国の方々』の所へ行くこととしよう、そして牢を壊し、非常にカッコイイ感じでもう安心だ感を出すのだ。


 その連中を助け出し、本国に送り届けてやることによって得られるメリットは絶大、これはまたとないチャンスなのである……



 ※※※



「こっちだ、ほらこっち、この下に牢屋があってだな、中に20人ぐらい閉じ込められているんだ、真っ暗だから注意してくれよな……」


「うわっ、もうほぼダストシュートじゃねぇか、この船の乗組員は相当にガサツな野郎ばかりだったんだろうな、汚さに磨きが掛かっているぜ」


「臭いしキモいわね、私とリリィちゃんはここで待っているから、ちょっとあんた達だけで行って来なさい」


「だな、精霊様はともかくリリィとその着ている服を汚すと大変だからな、ミラに怒られるのは俺だ、ということでフォン警部補、お得意のタッグ行動だ、明かりは……おいアスタ、そこのランタンに火魔法でもブチ込んでくれ」



 臭く汚く、そしてジメジメしている牢屋へと続くマンホールのような穴、もちろんそこへ派遣されるのは野郎であり、元々薄汚れてしまっている俺とフォン警部補だ。


 思えば砂漠のフードコートなど、今回の遠征ではそのようにフォン警部補と2人で行動したことが何度かあったな。


 本来であれば俺が1人で行かされるべきである、通常女の子は入りたがらないような禍々しい場所、そこへ同行する、というかむしろ俺の方が同行させられているレベルの人材を派遣してくれたPOLICEのボス(階級は巡査)に感謝しなくてはならない。


 で、油なのかヤニなのか、とにかくベタベタとしたマンホールの蓋様の入り口を開けると、中からどよめきのような複数の人間の声が聞こえてきた。


 狭く、反響してしまっているため何を話しているのかはわからないが、そのトーンからして助けが来たものであることは把握している様子。


 予めフォン警部補が中へ入り、事情を説明していたということなのであろう。

 とにかく救出を急ごう、ここに居るのは捕まった人々だが、また別の部屋にはこの船の乗組員が息を潜めているに違いないし、そちらへの対応も急がなくてはならない……



「皆さんっ! POLICEと異世界勇者が皆さんを救出に来ましたっ! これから勇者が牢の扉を破壊しますのでっ! 少しだけ奥の方へ移動していて下さいっ! すぐに助かりますし食事も提供されますのでどうか落ち着いてっ!」


「うわ、この牢の鉄格子までベタベタだぞ、しかも臭っせぇし、どう考えてもこの密閉空間で紙巻きタバコとかキメてた馬鹿が居るだろ……で、フォン警部補、そろそろバキッといって良いか?」


「ちょっと待てよ……あ、そこもうちょっと下がって、危険ですので前に出ないで、ほらそこ、その何か黄色い線の内側まで下がって……よし、良いぞっ!」


「何で牢屋の中に黄色い線があるんだよ……まぁ良いや、フンッ!」



 さすがはPOLICEだけあって、攫われ売られそうになって恐怖に支配された人の集団を上手くコントロールし、俺の作業によって負傷などしないよう取り計らってくれた。


 牢屋の鉄格子は思っていたよりも太く、そして頑強であったため、これではフォン警部補が破壊出来ないのは当然である。


 もちろん異世界勇者としておよそ1年半以上の研鑽を積んできた俺にとっては、もはやプラスチックで出来た100円均一のカゴを破壊するのと同義、楽勝でバキッといってヤニでベタベタのそれを後ろに捨てた。


 破壊された鉄格子が落ちた場所でよくわからない金属音がしたため、ランタンでそちらを照らしてみると、どう考えても人間に使うには大きすぎる枷の残骸が転がっているではないか。


 きっとこの牢屋は元々、猛獣や魔物を閉じ込めておくための檻であった感じだな。

 おそらく海賊的な連中に奪われる前は、そういったものを捕えて販売する業者の……それもたいがい悪い奴等な気がしなくもないが……


 と、ここでフォン警部の誘導の下、捕まっていた島国の人々が先程俺達が入って来たマンホール様の通路から外へ出ていく。


 その数は20……と少しぐらいか、売られると言っていたのでさぞかし可愛らしい女の子ばかりなのであろうと思っていたのだが、それについては彼らを前にした時点で間違いであることに気付いていた。


 黒く汚れて顔など判別出来ないものの、牢屋の中から出現したのはまず間違いなく全員おっさん。

 一体この船の海賊的な連中はこんなおっさんの集団をどこで、いくらで売ろうと考えていたのであろう?


 栄養状態も良くないので鉱山に売っても二束三文、それ以外の用途などまず見つからない人々。

 荷物運びも出来そうにないし、洗って綺麗にしたところで接客業もイマイチ格好が付かない感じの貧相さだ。


 もちろん違法に攫って来たのだからまともな場所では買い取って貰えないだろうし、そうなるともう、引き取り料、または処分料名目で逆に金を取られるのではないかと思うほどである。


 まぁ、彼等が島国の人間であることはフォン警部補が確認済みなのだ、どういう身分で、そしてどういう職業の連中なのかはわからないが、『連れ去られた』という時点で救出した価値があったはず。


 とにかく今は俺もここから出て、本人達から詳しい事情を聞くこととしよう。

 というか、早く出ないとかなりヤバい、精霊様が脱出した者達を洗う水が、凄まじい勢いで俺の居る空間に流れ込んでいるのだ……



 ※※※



「やれやれ、精霊様、ちょっと俺とフォン警部補も水洗いしてくれ、戻ったら本格的に風呂にでも入りたいが、この状態じゃ向こうの船に戻ることすら憚られる感じだぞ」


「そうね、で、脱出した人達は私とリリィちゃんでどうにか向こうの船に渡しておくわ、あんたとPOLICEのおっさんは引き続きこっちを捜索して、生き残りの犯罪者をブチ……いえ1匹ぐらいは生け捕りにした方が良いかも、ということでお願いするわ」


「了解した、じゃあ行こうかフォン警部補、次はハンティングの時間だぜ」



 いよいよ犯罪者共の首を獲りに行くということで、非常に鼻息の荒いフォン警部補。

 ちなみに俺はお宝の方に興味がある、そして見送る精霊様も俺と同様だ。


 ちなみにもう1人、リリィに関してはもうこの船に対する興味が一切消え失せた状態である。

 あまりの汚らしさに幻滅し、こんなところに保管されている食料がまともなものではないことを察したのであろう。


 で、先程救出劇を演じたようなジメジメした場所ではなく、今度はしっかり窓のある、上の方の船室を探して回る。

 きっとこのどこかにこの船のボス、海賊的な集団の船長的な野郎が隠れているはずなのだ。


 とはいえ既に敗北した状態であり、こちらに対して敵意も、そして殺気なども放っているわけではなく、ただひたすらに息を殺して隠れている状態であるのは間違いない。


 それを探し当てるのは困難なはずだし、魔法の使えない俺とフォン警部補では、広範囲を燃やしたり叩き壊しながら探っていくというのは無理な話。


 ということで地道に、ひとつひとつの部屋を隅々まで……と、何もない部屋の壁の色が一部明らかにおかしい、しかもちょうどドアのような形におかしいのだ。


 これは確実に『隠し扉』というやつだな、敵に踏み込まれることは想定してはいたものの、その可能性は極めて低いと考えていた馬鹿共による杜撰な対策の片鱗が、視覚情報として俺とフォン警部補の目に映っている状態である……



「どうするよ勇者殿? てか人の気配が僅かにするな、数人のようだが」


「確かに、今動く音がしたな、だが少し低い位置だ、たぶんこの扉の向こうには階段があって、そこから隠し部屋に繋がっているんだろうよ、とにかく入ろうぜ、たいした脅威じゃなさそうだし、普通に制圧して、抵抗するならブチ殺せば良いだろ」


「だな、じゃあまずは俺がPOLICEとして踏み込むよ、その方が都合が良い……オラァァァッ! POLICEのガサ入れだぁぁぁっ! 全員その場を動くんじゃねぇぇぇっ!」


『ぎょぇぇぇっ! やっぱり、やっぱりPOLICEの襲撃だったんだっ!』

『拙いっすよ親分! このままじゃ俺達も焼き殺されちまいますってっ!』

『こっ、降参だっ! 降参するから攻撃しないでくれっ!』


「おいフォン警部補、降参するらしいがどうする? ブチ殺すか?」


「いやどうしてそうなるんだ? おいお前等! 降参なら降参でサッサと出て来やがれっ!」



 やはり設置されていた階段と、その下から上がって来た薄汚いのが4匹、比較的綺麗な、この船の船長と思しきおっさんが1匹の合計6匹。


 どれも両手を挙げているが触りたくはないため、とりあえず聖棒で脅しつつ焼け焦げた甲板へ出し、梯子の向こうに居る精霊様に処理を依頼した。


 6匹のゴミを最低限俺達の船に移動しても良いぐらい綺麗に洗っている間に、俺はフォン警部補の協力を得て『宝探し』をしておく。


 金銀財宝は……イマイチだ、というか普通のリッチな犯罪者のお宅でも襲撃した方がまだ儲かる。

 どういうことかと思ったが、どうやらあの島国の人々がメインの荷物であり、それを売却することによって金銭を得るつもりであった様子。


 これは益々彼らの身分が気になるところだ、貧相な感じからして貴族やその系列の者でないことは明らかだし、おそらくは大金持ちでもない、にも拘らず『商品』として攫われ、輸送されていたおっさんの集団、それから話を聞かねばなるまい。


 ということで捕まえた方の雑魚共は精霊様に預け、甲板で水を飲み、提供した賞味期限切れ寸前の保存食を喰らっているおっさんグループの下へと急ぐ。


 ちなみに用済みになった船はそのまま飛ばしておいた、どうやら魔導装置で飛んでいるようであり、中に動力を担う魔法使いは居なかったためだ。


 まぁ、そのうちどこかの国の当局が発見して色々とやるはずだし、もしすぐに発見されなかったとしても、いずれは『怪異! 大海原に浮かぶ謎の海賊船!』などとして話題になり、誰かが捜索に乗り出すはず、決してゴミを海洋、ではなく空中投棄したわけではない……



 ※※※



「それで、おっさん達は島国から来た、というか攫われて来たとのことだが、一体どうしてあんな連中に? もしかして国に見捨てられたとか売られたとかか?」


「いんや、オラ達の故郷はオラ達を見捨てたりはしないだよ、なんつったってオラ達は『1級ダンゴ精製技術者』だからのう」


「そうじゃとも、わしらはそこそこの技術と知識を持った者じゃ、まぁ身分はイマイチじゃし、その技術と知識のせいでこんな目に遭っておるんじゃがの……」


「……そういうことか、じゃあおっさん達を送り届ければ良いことがあるってわけだな?」


「んだ、オラ達は島国のちょっと北の方だけんど、『1級ダンゴ精製技術者』は国際資格だかんの、どこの小国でも、国じゃねぇ村落なんかでも通用するだ、だからどこへ行ってくれても構わねぇだよ、島国ならな」


「わかった、ところでダンゴ技術者とのことなので少し聞きたいんだが……」



 ここでせっかく出会った、しかも救助した側とされた側という立場関係にあることを利用して、島国での『ダンゴ事情』についての質問をぶつけてみた。


 どうやらダンゴ、つまりやべぇクスリの類は、ほとんどが小国家単位で製造され、それを犯罪者が利用することなどないよう厳重に管理されているとのこと。


 だが一部の小さな国や独立の町村においては、西方新大陸から渡った犯罪組織の連中によってその組織のトップ連中が懐柔され、貴重で危険なダンゴのみならず、そこに住む人々の労働力まで提供している、というかもう騙されて搾り取られているような状況なのだという。



「え~っと、ここの領主様と、あとほれ、こっちの小さい島の首長じゃったか、その辺りが新大陸の業者? だか何だかと取引してじゃな、ダンゴや、わしらのようなダンゴ系の技術者やなんかを提供しておる、もちろん、その領主本人以外にとっては不当に低廉な対価でじゃ」


「なるほど、クソ領主が居る場所は犯罪組織の連中にいいようにされているのか、領主本人はやっぱり相当な金を個人的に貰っているんだろうが、それに付き合わされている住民はたまったもんじゃないな」


「んだ、しかも最近は新大陸の奴等、ダンゴ精製ののノウハウだけゲットして自分らで作ろうとしやがっているだ、でも技術者が居ないでな、オラ達はそのために……」


「攫われたってんだな、まぁクソみてぇな連中の考えることだし、非常に納得がいく行動だよ」



 これでこのおっさんばかりの集団を、どうしてわざわざ攫ってまで運搬し、売却するつもりであったのかということがわかった。


 この連中は西方新大陸の犯罪組織にとっては非常に価値のある人材、それこそ絶世の美女や強靭な肉体を持った戦士など、この連中に精製させたダンゴを売り捌いた金があればいくらでも買えてしまう。


 そして、このおっさん集団を救助し、元居た国に送り届けることをもって、俺達を招待したキジマ―と出会う前の島国における俺達の身分が保証されることになる。


 さすがに事情がわかれば無闇に攻撃をしてくる小国家などないはず、もちろん西方新大陸の犯罪組織に協力してしまっているようなゴミ領主等が居る地域は除いてだが……



「よし、じゃあとにかくおっさん達はここの甲板でゆっくりしていってくれ、あと捕まえた海賊的な連中が6匹居るから、こっちが必要な情報を引き出した後は好きにリンチしてくれて構わない、あ、死体はそこのウッドチョッパーで粉砕して捨ててくれ」


『うぇ~いっ!』



 それから数日、アスタが指定したルートを辿り、まずは火の魔族が集団で住んでいるという、島国の南方に位置する火山地帯を目指して進んだ。


 見えてきたのは煙を噴き上げる山と、それを見上げるようにして開拓された広大な農地、さらに小さな村のようなもの。


 間違いなく島国に到着だ、念のため敵意がないことを示す垂れ幕を降ろしているため、攻撃を受けることもなく接近することが出来た。


 そしてここからは上陸と、今回の遠征では最後であり、もはやこの世界の果てでの戦いが始まるのだ……

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