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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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666 出発します

「はいっ、これでこの島の事件は解決、俺達はここでも平和を取り戻した最強の勇者パーティーとして伝説になったわけだ、てことで乾杯!」


『うぇ~いっ!』


「ちなみに勇者様、今回の件の働きは『評価:E』らしいですよ、この国では公共の何かを受注して、完了すると評価が付いて、それで報酬額が決定するそうです」


「ん? 評価が『E』か……たぶん『エクセレント』ってことだな、きっとそうだろう、てかそうですよねお姉さん?」


「いえ、普通に『A』から始まる5段階評価の最低ランクです、戦闘に出てパーティーリーダーが製麺されてしまうとか前代未聞ですから、ちなみに、これまで色々な方々に色々と依頼をしてきましたが、最高評価は第4段階の『D』でしたね」


「まぁ、辛口ですこと……」



 どう足掻いても『高い報酬を払いたくない』という理由を隠し切ることが出来なさそうな辛口評価ではあるが、これがこの島の首長である巨乳お姉さんのやり方、業務処理についての方針なのであろう。


 まぁ、もちろんコストはなるべく掛けない方が評価が高まる、そして徹底して、というか不当すぎるほどにコストカットをしているお姉さんはさらに出世し、それに味を占めてさらに報酬を出し渋っていくに違いない。


 行き着く先は見知った顔、あの王都のケチババァだ、この巨乳お姉さんもあと30年か40年すれば業が深まり、神々の罰によってあのように醜悪な、しわくちゃの見た目に変貌してしまうのだ……



「あ、ちなみにここではもっとガンガン飲み食いして頂いて結構ですよ、どうか遠慮なさらずに」


「おや、それは報酬をケチってコストカットする感じ、それと矛盾する対応ですな?」


「いえ、ここの分は全て『推薦状を持った方々を歓待するための費用』として国家の中枢が持ってくれますから、私の成績には何ら影響がありません」


「……それ、報酬を支払っていることにならないんじゃ……いえ、何でもございませんよ、別に」



 徐々に酒が回ってきたせいか、本来であれば俺達の前で口にすることが出来ないような内容の話を始めてしまった巨乳お姉さん。


 いや、これはチャンスではないか? このまま酒を飲ませ、酔わせてからうっかり感を出しておっぱいを……ではなくうっかり口を滑らせた感を出させて、さらに貴重な情報をポロリさせてしまおう。


 というか、この調子であればうっかりもクソもない、余裕で情報を出してくれそうだ。

 俺達の方はまだまだ余裕だが、どうやらイマイチ酒に強くないらしいお姉さんの顔は、宴の序盤にして既に真っ赤である。



「あ、そういえばなんだけど、首長さんは私達がこれから行く島国へは実際に行ったことがあるのかしら?」


「ええ、過去に何度か公務と、それから観光で行ったことはあるのですが……」


「あるのですが?」


「最近はこの大陸を荒らしまわっている犯罪組織の手が伸びてしまって、あの島国の中で私のような大陸政府の役人が安心して歩くことが出来る、そんな場所はなくなってしまったんです」


「なるほど、常に暗殺や拉致監禁して人質にされたり、危険が伴ってしまうということですね」


「そうなんです、先程話した内容にもあったと思いますが、奴等はあの島国の中のいくつかの小国家を事実上支配している状態でして、もし戦うことになった場合にはその……命令されて無理矢理兵士をしているだけの人々と敵対しなくてはならない、というかそういう方々を殲滅しなければならないという状況でして……」



 確かにそれでは戦えない、いや戦えないわけではないが、そのような戦闘に進んで参加する者はあまり居ないであろう。


 そしてそれは俺達にも言い得ることだ、関係のない善良な市民であるはずの島国の人々は単に犯罪組織によって虐げられているだけ、つまり本来は正義である俺達が敵対すべきでない者達なのだ。


 もちろん住民の中にも自らの利益のため、積極的に犯罪組織に加担しているクズ野郎共が居るのであろうが、そういう連中は除き、なるべく現地民に被害を出さない方向でダンゴ生産拠点の破壊をしていきたい。


 まぁ、犯罪組織の構成員とそれ以外の善良な現地人の違いは明らかであり、パッと見でもその判別は容易であるはずだ。

 というか明らかにウェスタンな恰好をしている野郎、それが敵であり、それ以外は敵でない可能性が高いと判断しても良さそうである。


 現地人の服装をしながら実は犯罪組織の構成員、つまり民間人に偽装した敵兵に関しては、敵意を持っているかいないかという点で簡単に看破することが可能だし、あとは上手く民間人を避けて敵を殺害していく方法を考えれば良いか。



「それで、せっかくですからお姉さんが島国へ行ったときの話、教えて貰えませんか? どんなことでも結構ですので」


「そうですね、これは公式のものではないですし、真偽も定かでない伝説のような話ばかりになってしまうため今日の説明からは省いていたのですが、それでもよろしければ……」


「ええ、むしろそういう話が聞きたいんですよ、俺達が現地に行くとほぼそっち系の何か、というかトラブルに巻き込まれるんで」


「ではどこからお話しましょうか……えっと、まずはあの島国の現在の形、その成り立ちから、伝説というか伝承というか、その辺りからにしましょう」



 こうして少し酔っ払い始めた巨乳お姉さんの語りが始まる、俺達がこれから向かう島国は、かつては魔族領域の端くれ、あまり人気のないイマイチ極まりない土地であったのだという。


 それがおよそ500年前、例の足軽始祖勇者、当時の魔王を討伐し、魔王軍を壊滅させたそこそこ伝説的な勇者が移り住んだことで状況は一変した。


 始祖勇者は謎のシャーマンを雇い、その力で島国全体に渦巻く瘴気を無毒化、そこを人族も住むことが出来る、当然それまで居た魔族も住み続けることが出来る土地に改造したそうだ。


 その後、東の魔族領域との人の行き来、さらに西方新大陸の『発見』とその交流事業の開始によって益々発展していった島国、犯罪組織に目を付けられるまでは平和で、持続的な成長が見込める地であったとのこと。


 何よりも発掘していない鉱山やその他の資源が見込めること、島国独特のアイテムを交流によってゲット出来ることなどから、ここ最近までは『最後のフロンティア』としてかなり期待されていたものであった。



「それでもあの犯罪組織、憎き犯罪者の集団が力で、しかも島国に伝統的に伝わっている『ダンゴ』を狙って手を出し始めたことで今の状況になったというわけです」


「ふむ、俺達が生産拠点を破壊すべき『ダンゴ』は島国の伝統的アイテムだったんですね、てっきり最近開発されたものかと」


「そうらしいのです、そこも本当のところはどうなのかわかりませんが、ダンゴは元々使用すれば素早く、良いパフォーマンスを発揮出来る夢のクスリということで、『キビキビダンゴ』と呼ばれていたそうなんです」


「キビキビダンゴ……うむ、ちょっとだけ転移前の世界でそういう名前のダンゴを知っています、もちろん効果の方はそれと全く無関係なご法度のものに近いんですが……」



 これまで、特に王都の模擬戦大会であの4匹の犯罪者集団と遭遇してからというもの、やべぇクスリの類がかなり登場しているのだが、そのなかで最も頻度の高い、そしてほぼ今回の話のメインとなっている『ダンゴ』。


 それが俺の知っている『良いダンゴ』と似たような名称であり、しかもこれから行くのが島国というのはまた偶然とは思えない状況である。


 そういえば俺達を誘ったあの男、『キジマー』であったし、先程捕虜にして案内係のアスタから聞いた英雄パーティーのメンバーの名前、『イヌマー』とか何とか……次はサルが出てきそうな雰囲気ではあるな、そして最後に出てくるのはあの『太郎』的なキャラに違いない。


 この連中は俺達の味方である可能性が極めて高いから良いものの、この絶対的な正義感が溢れ出る存在とは絶対に敵対してはならないのが確実。


 もしこれらと戦うようなことになれば、それは即ち『こちらが悪』というようなことになりかねないのだ。


 もちろん『太郎系』の何かを騙るどうしようもない連中である可能性も捨て切れないが、一応は『正義の太郎』だと思っておいて、実際に顔を合わせた際にもそう接していこう。



「しかし主殿、あのキジマー殿が言っていた、私達に何か有力な情報を寄越せるかも知れない的なことだが、やはりその島国が始祖勇者の関連で成り立っていることに起因する内容であると思うのだが、主殿はどう思う?」


「どうと言われてもな、まぁ向こうで話される中に始祖勇者の件が混じってくることは確実だろうし、それによって俺達が今後魔王軍との戦いを有利に進められることになる可能性だって十分にある、だが今回は話を聞くことよりも協力を取り付けることだ」


「確かにな、キジマー殿はこちらと共闘する姿勢を見せていたが、彼にも主が居るようだし、その主とて島国を統括する王……は沢山居るのか、その中で最大の権力を持つ者とは限らないしな」


「そうなんだ、今の感じ、今まで聞いた話だと、少なくともあのキジマーの仲間達とは上手くやれそうなんだ、だが島国が一枚岩じゃないことを考えると、ちょっと骨が折れる感じの戦いになるのを考慮しておいた方が良いな」


「特に、無関係の一般市民が『敵の手駒』として使われているパターンだな、それは全員気に留めておいた方が良いだろう……」



 とまぁ、島国に関する情報はこんなところであった、昼間の説明ではやはり、確証が得られない話は全て省いてあったのだ、ここで興味深い話をいくつも聞くことが出来た。


 その後も動員されていたシェフによる料理が、そして用意された酒が大量に振舞われ、グデングデンになった巨乳お姉さんは部下に抱えられながら帰って……これほどまであのお姉さんを抱えている部下になりたいと思ったことはないな……


 とにかく宴も終わり、残りものは全て包んで貰った俺達、魔導コンディショナーの効いた涼しい部屋で夜を過ごし、快適なまま次の朝を迎えた……



 ※※※



『へへーっ! 神様とお別れしたくありませんっ! どうか神様も、別の神様で良いから一緒にっ!』


「何やってんだカレン、マーサ、とっとと部屋を出るぞ」


「だって神様と離れたくないのよ、この涼しい風の出る神様と……」

「ご主人様、別の神様を用意して貰いましょう、もう神様ナシでは生きていけませんっ!」


「お前等な……」



 ここに言う神様とは、ホテルの部屋に設置された涼しい風の出るエアコン的な魔導アイテム、というか魔導コンディショナーとかいう安直なネーミングの固定式魔導具のことだ。


 その魅力にやられ、もはや実際に女神が存在することなど完全に忘れてしまった比較的毛の多い、暑がりな2人は、断固としてこの涼しい部屋から外へは出ないという堅い意思表示をしている。


 そしてこのままでは埒が明かないのは確実、2人はこの『懇願作戦』が上手くいかないとみれば、次いで『泣き落とし作戦』、『駄々を捏ねる作戦』を経て、最終的には『実力行使』に出ることであろう。


 仕方がない、これはどうあってもこの魔導装置と同じものを入手する他ないな、とはいえこんなモノが市販しているような世界ではないのだし、頼むべきはひとつ、あの巨乳お姉さんだ。


 もちろん普通に頼んだら何を、どのぐらい吹っ掛けられるかわかったものではない。

 ゆえにこちらも強力な手を打たねばならない、あまり使いたくはなかったのだがな。


 ということで今回はこちらから出向くかたちで移動、連れて行くのはセラではなく賢さが高い精霊様である。

 2人で町を移動し、未だ捕らえたあの2匹の処刑が行われていることを確認しつつ、お姉さんの執務室を目指した……



 ※※※



「……と、いうわけなんです、あの魔導装置と同じものがすぐに欲しい、というかないとこれからの冒険に支障が出て、世界が救われるタイミングが遅くなる」


「いえ、遅くなるどころではないわ、精霊としての見解を申し上げると確実に失敗するわね、あの魔導装置がこの場で提供されない限り、この世界は魔王の手に堕ちるのよ」


「……え~っと、つまりはあのホテルの部屋に設置されていた魔導コンディショナーが欲しいと?」


『そういうことですっ!』


「困りましたね、確かにお譲り出来るものが今のところ……5台はありましたね、全て新品未使用で、ですが非常に製作コストの掛かるものです、少なくとも1台で金貨300枚は……」


『金貨300枚!? 不正だっ! ボッタクリだっ!』



 やはりそうきたかという感じの空気に包まれたお姉さんの執務室、後ろに控えるSP的なおじさんも、きっと無表情の下ではドン引きなのであろう、このクソ暑いのに冷や汗をかいているではないか。


 しかしいきなり金貨300枚を要求してくるとは、この後の値段交渉の帰結からして、少なくともその半額の金貨150枚、いや、200枚以下には負けてこない可能性もあるな。


 仕方ない、ここは当初の予定通りの作戦に出るか、精霊様とアイコンタクトで示し合わせ、まずはいくつか用意したうちのひとつの仕掛けを発動させる……



「あのですね、実はここへ来る間にも広場のあの処刑、見てきたんですよ、盛り上がっていましたね、投げ付ける石とか、追加投入する酸とか一般に販売したりして」


「はい、どうですか? 素晴らしかったでしょう? 火山の近くに沸く強酸性の液体を持って来て、それを半身浴させている死刑囚の浴槽にジワジワ投入していく感じで……」


「でもあの2匹、私達が頼まれた『火の精霊モドキ退治』には含まれないものよね? 元々存在が確認されていなかったわけだし、もしかしてあの処刑で得た利益、こっちにも権利があるんじゃないかしら?」


「それはございません、一度引き渡された罪人から『剥ぎ取る』ものは全て地方自治体の儲けですから、だいいち、皆様へ報酬としてお渡しした情報の中にはその分の代金も含まれているんですよ」


「あらそうなの、それは失礼したわね」



 作戦の第一段階、あわよくばこれで通ってくれれば、というようなものであったのだが、案の定普通に回避されてしまった。

 となるともう、あまりやりたくなかった策なのだが、単なる脅しに近いそれを使っていくしかなさそうだな……



「さて、お話というのは今の件だけでしょうか? 出発の際にはささやかな見送りをさせて頂きますので、ぜひ係員の方に予定している時間をお伝え下さい」


「ええ、そろそろ出発して島国に向かおうとしているところです、それなのにワガママな2人が……でですね、俺達は島国へ立ち寄った後、西方新大陸の本国へ戻ってまたやることがあるんです、色々とね」


「は? いえそうでしたか、てっきりそのまま西向きに帰るのだと……」


「まぁね、ここの島に滞在した数日の評価もね、あの真っ黒なお屋敷に住んでいた総合首長に伝えないとならないのよ、評価は『E』だって」


「えっ!? ちょっと、その、あの……」


「そうだな、俺達も頑張ったわりには『E』とのことだし、お姉さんの評価も同じように『E』とせざるを得ません。いや、これは本当に残念なことだ、お姉さんのように賢くて顔も良くて巨乳で有能な女性が、左遷されて5世帯ぐらいしかない消滅寸前の集落の、1日待っても誰も訪れる気配のない役場だか待合所だかわからない場所の窓口で、同じく左遷されて来た変なハゲにセクハラされながら定年まで過ごす姿なんて想像したくもないですよ、想像したくもないけど間もなくそれが現実になるわけでして、非常に残念です」


「ひぃぃぃっ! どうかっ、どうかそういうのはお許しをっ! 今からでも皆様方の仕事の評価を『A』にっ! ついでにご所望の魔導装置は全て皆様方の船に、直ちに設置させて頂きますっ! もちろんすぐに動かせる状態でっ! ですのでっ!」


「よろしい、ではその5台と、それから追加で10台、直ちに生産して指定の場所へ送って下さい、そうすればこちらも色々と便宜を図りましょう、この島が、そしてそれを任されているお姉さんの(おっぱいの)評価が『A』であると、どうでしょうか?」


「へへーっ! どうぞよろしくお願い致しますっ!」


「うむ、では出発の際には非常に多くの人が集まる、最高の見送りを期待しておきましょう、よろしくお願い致します」


「へへーっ!」



 結局鬼畜な手段に出てしまったのだが、それは巨乳お姉さん側も同じようにしてきていたので仕方がないことだ。

 俺達のもつ『顔の広さ』の方がそれを上回り、抑圧したというだけのことである。


 必死で土下座を続ける巨乳お姉さんの執務室から出た俺と精霊様は、用意させた馬車に乗り込んで一度ホテルを目指す。

 カレンとマーサには作戦が成功し、無事に『神様』を、しかも5柱もゲットしたことを伝えてやろう。


 と、その前に普通にPOLICEのオフィスで労働させられているフォン警部補を迎えに行かなくては。

 彼こそあの巨乳お姉さんに恨みがあるのではないかと思うが、無用なトラブルによって出発が遅れるのも拙いので、ここでは本人同士を会わせることがないように、慎重に行動しよう。


 その後フォン警部補も、それから涼しい部屋に引き篭もっていた仲間も回収し、そして俺達の空駆ける船に例の魔導装置が設置されていることも、さらにはそれがキチンと動作することも確認した。


 魔導装置のカートリッジには水と、それから風魔法を使えば良いというのだから非常に便利だ。

 船の浮揚に使うエネルギーと同じタイプの魔力であるということは、それをそのまま流用することが化膿だということであるのだから。



「よし、じゃあちゃんと荷物は持ったな? 買い忘れはないな? 出発するぞっ!」


『うぇ~いっ!』



 徐々に遠ざかっていく地面、強制的に集められ、必死に手を振る島の役人達に見送られながら、俺達はさらに西へ、今回の旅の最終到達地点である島国を目指して出発した……

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