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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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665 今度こそ情報を

「お~い、そろそろ目を覚まして……くれないよな、しかもまだちょっと熱いし」


「水で固めたとはいえ熱が完全に飛んだわけじゃないの、だからこの間に……」


「そうだな、さっきからそことそこ、隠れているのがバレバレだぞ、どっちも魔族みたいだが」


『・・・・・・・・・・』



 幻術か何かで火口周辺の岩に偽体した魔族が2人、いや野郎魔族のようなので2匹としておこう。

 サリナがその幻術を破ると、片方はヴァンパイア、もう片方は……何だろう? 見たこともない魔族だ。



「まだ隠れようとしてんな、しかもちょっと移動して別の岩の陰に入ったぞ、幻術が破られたことに気付いていないのか? てか何だあのパイアじゃない方は?」


「本当に往生際が悪いわね、ちなみに勇者様、あっちの魔族は戦闘に特化していてその分見た目がアレになってしまった『キモい顔族』よ、ほら、パイアよりも遥かに強いでしょ」


「うむ、確かにこれまでに見てきた魔族の中ではかなり強いな、頭ひとつ抜けているぞ」



 とはいえその『強い』の基準がもう俺達のものとはだいぶ違うのであった。

 魔族の中では跳びぬけて強いのかも知れないが、こちらはその理を外れた存在なのである。


 つまり、いくら他の魔族と比較して戦闘特化型であったとしても、それは『アメーバとミジンコを比べたらミジンコの方が遥かに強い』というような次元のものであり、もはやかなり意識しないとその違いに気付かない程度なのだ。


 もちろん巨乳お姉さんに今回の働きの評価をされているということは、この暑さの中でも辛うじて忘れていないため、念のため『敵が強い』ということを表明しておくのである。


 それで、場所を移動したぐらいで再び隠れた気になっている2匹の雑魚キャラに睨みを利かせ、既にその居場所が完全にバレていること、そして逃げても、もちろん戦っても無駄なことをアピールしてやった。


 ……それでも出て来る気配がないな、本当に往生際の悪い連中のようだ、ここは少し、実力行使に出て脅しを掛けてみるべきだな。



「いくぞオラァァァッ! 喰らえそこのヴァンパイア野朗がぁぁぁっ!」


『へぐっ!? ハゲェェェッ!』


「いやハゲじゃねぇし俺、てかお前さ、こんな地面にコソコソ隠れているぐらいなら背中のこの羽は要らないんだよな? 気配を消すのに邪魔そうだから切除してやる」


『ひぎぃぃぃっ! や、やめろぱっ……』



 まず襲ってみたヴァンパイア野朗の背中の羽を両方とも毟り取り、そのまま火山の火口の中へ投げ込んでしまう。


 本体は火に耐性があるようだが、切除された羽の方はそうもいかないはず、今頃アッツアツの溶岩でジュッと焼けていることであろう、いい気味だ。


 と、コイツはこの程度のダメージで気を失ってしまうような雑魚であったか。

 とはいえ死んではいない、処刑前に拷問する感じになるはずであろうから生け捕りにしておく。


 そしてもう1匹、セラの言っていた『キモい顔族』の方は……ジリジリと後退し、逃げる姿勢のようだ。

 もちろん岩陰に隠れているため姿は見えていないが、その顔のキモさは辛うじて見えている部分から予想することが可能である。



「おい待てよそこのお前、強いんだろう? 戦闘に特化した魔族なんだろう? ならその実力を見せ付けてみろよ、コソコソ隠れて逃げようとするとか、こりゃアレだな、末代までの恥ってやつだな、ん? どうするんだ? 出て来るのか、それともこのまま無様に逃げ出して指名手配されて、捕まった後は大勢の前で命乞いしながら処刑されるか? それともこの場で潔く戦って果てるか、さて、どっちが得だと思うかな? 馬鹿だからわからないかな?」


『……く、クソガァァァッ! この最強兵器で返り討ちにしてくれるわぁぁぁっ!』


「っと、またその刀か、キジマーの奴も持っていたことを考えるとお前等の出自なんぞ聞くまでもないな」



 岩陰から出て襲い掛かるキモい顔族が取り出したのは紛れもなく……いや、かなり低品質な日本刀のようなものであった。


 もちろん真似ているのは形だけであり、どう考えても鍛造したものではない、おそらくその辺の兵隊に飾りとして持たせる軍刀のような、鋳造によって作られた模造品的なものである。


 で、そのようなものであるゆえ、その振り下ろす攻撃を受けた俺がダメージを負うことは当然にない。

 ご自慢の最強武器はへし折れ、勢い余った馬鹿魔族は前のめりに転倒、そのままゴツゴツの溶岩地帯に顔面を打ち付けた。



「ギャハハハッ! 顔面を強打したら逆にいい顔になったじゃねぇかっ! お前、歴戦の落武者っぽい感じだぞ、一度も勝ったことがなさそうだがな」


「く……くぺぺっ……ゆ、許さぬぞ、我を、戦闘民族である我を侮辱しやがって……」


「うるせぇボケ、『キモい顔族』の分際で存在してんじゃねぇよ、てかよ、この戦いで死に損ねたってことは、町へ引き摺って行かれて無様に処刑されるってことなんだが、自分の状況がわかっているのか?」


「・・・・・・・・・・」


「勇者様、そいつもう何も聞こえていないわよ」


「……気絶しやがったのか、情けない奴め、よし、このコンクリ詰め状態のターゲットと、それからオマケの2匹を持って町へ戻ろう、こんな暑い場所にはもう居たくないからな」



 しかし見れば見るほどにアレだ、こちらが女の子の魔族を誘拐し、脅迫のためにコンクリ詰めにしているようにしか見えないではないか。


 しかも冷え固まった溶岩は比較的重さがあるため、誰かがこれを担いで下山するというのは相当にハードだ。

 もちろんまだ熱が篭っているし、仕方ない、ここはいい感じに削って丸くして、転がすようにして持ち帰ることとしよう。


 なぜか持っていた彫刻セットで気絶したままの女の子魔族が入った溶岩の塊を削り、運動場にあるローラーのような形に整える、これならどうにか転がるはずだ、オマケの2匹は鎖で繋いで引き摺れば良いとして、まずはこの塊の方をどうにか……



「よいしょっ、うむ、俺が下で支えながら降りる、すまないが誰かもう1人ぐらい……」


「わかったぞ主殿、上から押せば良いのだな?」


「えっ、ちがっ、支えてく……あぁぁぁっ!?」


「しまった、主殿が巻き込まれてそのままゴロゴロとっ! すぐ追いかけないとっ!」



 うっかりジェシカさんが上から押してしまった結果、バランスを崩した俺と溶岩の塊はそのままセットで斜面を転がり始める。


 当然俺は下敷きになり、ペタッと貼り付き、どんどん薄く引き延ばされながら下山していった。

 慌てて追って来た皆が、斜面を転がり終えて町の真横に到着した俺の下に駆け付けたときには、もう俺の厚みは2mm均一ぐらいになっていたのだという……



「しまった、私のせいで主殿がこんなペラペラに……ハッ、圧力で頭の中身が飛び出してどこかに行ってしまったかも知れない、探し出して詰め直さないとっ!」


「落ち着いてジェシカちゃん、勇者様の頭は最初からカラッポだったはずよ、飛び出す中身なんて入っていなかったの、だから剥がして空気を入れさえすれば……あっ、風がっ! 何かの建物の方に飛んで……」


「いけませんっ! あの建物は島唯一のラーメン店で……あぁ、窓から入って……製麺機に飛び込んでしまったようですね、どうしましょうか?」



 潰されて以降の記憶はないのだが、とにかく『勇者麺』になってしまったという俺、回収された後にルビアの回復魔法を受け、元に戻ったのはおよそ15分後のことであったという……



 ※※※



「やれやれとんでもない目に遭ったぜ、やらかしたのはジェシカと、それからセラか? お前等覚悟しておけよ……で、その、アレは? 塊に入ったターゲットはどうしたんだ?」


「今は町の彫刻師の所に預けています、周りの溶岩を全部削り落とすのが相当に大変な作業だそうで、夕方にはあの首長のお姉さんと一緒にここへ来るとのことでした。」


「わかった、じゃあそれまでセラとジェシカでも引っ叩いて待つこととしよう、おいお前等、尻を出して四つん這いになれっ!」


『はぃぃぃっ!』


「製麺された者の痛みを味わうが良いっ! オラッ!」


『ひぎぃぃぃっ! 申し訳ありませんでしたっ!』


「特にジェシカ! 人を引き伸ばしてペラペラにするなど言語道断だっ!」


「いたぁぁぁっ! 主殿、お詫びといってはアレなのだが、私の尻を叉焼だと思って齧り付いてくれて構わないぞっ!」


「ほう、ではおっぱいの方は煮卵になるのかな?」


「そうだ、煮卵ダブルだっ!」


「あの勇者様……」


「勇者様、私の方はそんなにボリュームがないけど、鶉の卵だとでも思って……」


「ちょっと勇者様、良いですか、勇者様?」


「うむ、では頂くとしようか、グヘヘヘッ!」


「勇者様! 首長のお姉さんが来られていますよ、すぐに対応して下さいっ!」


「……え? この状況でですか?」


「そうです、この状況で、そちらのソファに座って全てを見ています、お楽しみのところ申し訳ありませんが少しよろしいでしょうか?」


「・・・・・・・・・・」



 とんでもない光景を目の当たりにしてしまったという表情の巨乳お姉さん、そしてとんでもない状況を目撃されてしまったという表情のセラとジェシカ。


 ちなみに俺はフリーズした、威厳もへったくれもない単なる変質者であるということが明るみになってしまった以上、可能な限り早くこの島から脱出しなくてはならない、そうとさえ思ったほどである。



「そ……それで、こんなにも早く来たのはどうしてで……」


「いえ、純粋に当方の、というかこの国の彫刻師が非常に、それはもう他国のカスなど及ばないほどに有能でして、既に溶岩を削り終えましたので、で、対象は今フォン警部補が連行している最中です」


「さ、左様ですか、ではこのまま待ちましょう」



 夕方頃、というのはおそらくこの巨乳お姉さんのフェイクだ、本当はすぐ終わるはずの作業であったが、あえて遅めの時間を指定しておくことによって島の技術者の有能性をアピールしておこうという魂胆なのであろう。


 そのせいで俺とセラ、ジェシカの3人はとんでもない遊びをしている変質者であることがわかってしまったのだが……いや、この場の登場人物で最もかわいそうなのは俺たち3人ではないな。


 明らかに、本来は俺達と行動を共にして同じ待遇を受けるはずのフォン警部補がもっとも冷遇されているのだ、そういえばここに着いて以来姿を見なかった気もしなくもない。


 まぁ、それはこの国自体の役人であるため仕方ないと言えば仕方ないのだが、罪人の連行など、もはや普通にPOLICEとして働かされている状態とは思わなかった。


 そして部屋のドアがノックされ、そのフォン警部補、そして魔力を奪う金属で作られた鎖を全身に巻かれ、所々に封印の呪布が貼り付けられた火の精霊様モドキが入って来る……



「はいこれがお届けものだ、では俺はまた業務に戻っているから、勇者殿達は出発の前ぐらいにこの島のPOLICEのオフィスに寄ってくれ、俺を忘れて行かないでくれよ」


「わかった、じゃあおつかれさん……で、こっちはようこそ俺達の領域テリトリーへ」


「ひぃぃぃっ! 殺さないで下さいっ! どうかあの2人みたいにはしないで下さいっ!」


「大丈夫だ、ちゃんと質問に答えていれば殺したりはしないからな、ちょっと落ち着いて、冷静に俺の話を聞いてくれ」



 ちなみにこの女の子魔族の仲間であったヴァンパイアとキモ顔魔族、その2匹は規定の処刑方法である縛り首や雷撃椅子程度で死ぬような種族ではないため、広場にて公開で『酸で溶かす刑』に処しているのだという。


 既に処刑が始まり、この子もその開始の瞬間を見届けたのだというが、悶絶し、そこから絶命するまでに1ヶ月以上は要する公算だというが、溶け始めた仲間の凄惨な感じの光景を見てきたのであろう、かなりのパニックに陥っている状態だ。


 しかし話をして貰わなくてはならない、ということで魔族の女の子はしばらく座らせたまま落ち着かせるとして、まずは巨乳お姉さんが用意してくれた『島国に関する情報』について説明を受けることとした。



「え~っと、まずは『資料1』をご覧下さい、我々が島国と呼んでいるのは小国、本当に村や町のような国の集合体でして、それぞれが密接な繋がりを持つと共に、人族、魔族に関係なく土地同士を行き来している感じですね」


「ほう、それはそれは、しかしそこ、元々は人族の地なのですか? それとも魔族領域なのかということについては……」


「元々は魔族領域だそうです、それが伝統的なシャーマンの力によって瘴気を祓って、人族も十分に住めるような空気に変えたとか何とかでして、とにかく人族と魔族であれば人族の方が圧倒的に多いようです」


「ふ~ん、なるほどな……」



 その後も巨乳お姉さんの話は続く、島国は比較的開かれた感じの国ばかりで構成されており、魔族領域からも、そして当然こちら、西方新大陸の側からも旅行者が行き来しているのだという。


 もちろんこの島も観光地である以上、町中で探せばその島国の出身者がそこかしこに居り、場合によっては定住して店を構えている場合もあるとのこと。


 こういう状況であればあの犯罪組織が『ダンゴ』を求めて進出、その小さな国家群のどこかを制圧して生産拠点を確保している、などという状況になっていたとしても不思議ではない。


 まぁ、ダンゴの生産拠点については実際に行って見てみないとわからないのだが、行き先がどういう感じなのか、そしてどう振舞えば良いのかということについて知ることが出来たのは良いことだ。


 あとはそう、この島国から来たことが確実な火の精霊様モドキ一派、というか唯一の生き残りであるモドキ本人からの情報なのだが……うむ、かなり落ち着いてくれたようだ、それおそろ話を聞いてみることとしよう……



「それで、お前は、というかお前の仲間のキモ顔、アイツが使っていた武器からしてその島国の出身だと思うんだが……あんな火山に住み着いて何をしていたんだ?」


「えっと、確かに私達は島国から流れて来たんです、島国では弱い人族のコミュニティで偉そうにしていた魔族集団のひとつで、でもあるとき『英雄パーティー』が現れて、私達のチームは壊滅、こっちの島に逃げ込んで、それで生活のために悪さを……」


「英雄パーティー? それは相当に強かったのか? 上級魔族ばかりのチンピラ集団を壊滅させるほどに」


「そうです、何だかわからないままアッサリと、しかもパーティーというよりその構成員の1人、確か名前は『イヌマー』とか何とか……ダンゴ強化戦士です」


「キジマーの奴と一緒か、ダンゴ強化戦士に追い出されてここへな……」



 何となくだが最初の犯罪者集団、カウボーイ風、宣教師風、紳士風、マフィア風の4匹を思い出してしまう。

 奴等も犯罪者組織の中の下部組織に所属し、それをPOLICEに壊滅させられて逃げ出した、それが事の発端であったな。


 そしてそれと同じ感じで逃げ出した火の精霊様モドキを含む1人と2匹、もちろんその悪事もここで終わり、この子も年貢の納め時なのだが、島国に住んでいたのであればさらに詳細な現地の知識を持っている可能性がある。


 これはガイドとして連れて行った方が良さそうだな、マーサの兄であるキモブタウサギと違って連れ回していても恥ずかしくないし、何よりも現地で排除されるまで迷惑を掛けていた住民に謝罪させる必要があるのだ。



「よし、じゃあこれからの旅にコイツを連れて行きたいんですが、それでも構わないですか?」


「それが追加報酬で良いというのであればそうしますが、如何致しましょうか?」


「……もう一声!」


「ではこちらの『観光名所キーホルダー(全5種類)』をそれぞれ全員に差し上げます」


「・・・・・・・・・・」



 今回は黙らされてしまうことが非常に多いのだが、もうこれ以上の交渉は無駄そうだ。

 まぁ、今晩も豪勢な宴が待っていて、それについては特に費用の請求をしないとの異なのでそれで我慢しよう。


 俺達はその場で謎のキーホルダーを受け取り、同時に火の精霊様モドキの身柄も引き受けておく。

 また夕方、今度は本当に夕方になったら、食事会の準備と共に来ると言い残して去っていく巨乳お姉さん。


 もう完全に向こうのペースで色々と働かされてしまった今回の補給と休憩だが、ずっと普通に勤務していたフォン警部補よりはマシであったと評価しておこう。



「それで、これからしばらくの間行動を共にすることになるんだが、お前の名前は?」


「えっと、私は炎の魔族、名前は()()()です、よろしくお願いします、というか殺さないでっ!」


「わかった、じゃあアスタ、この先俺達が向かう島国でのガイドを頼む」


「ガイドというと……観光ガイドですか?」


「それは全てが滞りなく終わった後だ、まずやりたいと思っているのはダンゴ、これは島国で多く作られているそうだが、その製造拠点のうち西方新大陸の犯罪組織と繋がっているもの、これを叩きのめす」


「き……危険が伴いそうですね、非常に……」


「まぁ、悪いことをして捕まったんだから諦めるんだな、あのお仲間のように無様な最後を遂げたくないだろう?」


「もちろんですっ! どんな危険な場所へでも付いて行きますのでっ! どうか処刑だけはご勘弁をっ!」



 こうして俺達は案内係としてのアスタを従えることに成功し、この先に待ち受ける島国での冒険、探索についてより安全性を高め、効率をアップさせることにも同時に成功した。


 見たところ馬鹿ではないようだし、働き次第では西方新大陸、またはその後に設置する新たな拠点の運営委員にしてやっても良いかと思う。


 と、これで出発のための情報も得て、もちろん準備も整っているため、いつでも島国へ向けて発つことが可能な状態になった。


 だがこの観光地の島自体は非常に居心地が良い、せっかく誘ってくれたキジマーには悪いのだが、もう1泊だけここに泊まり、鋭気を養っていくこととしよう……

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