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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十八章 拠点制圧
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661 ひとまずの完了

「は~いっ! 皆さんは町の中へ戻って下さ~いっ!」


『馬鹿言うなっ! 燃え盛っているじゃねぇかっ!』


「いやだから、そこに戻って焼け死んで下さいという意味で……」


『ふざけんじゃねぇっ! そこを通せって言ってんだこのクソ女!』


「え~っと、え~っと」



 どうしても町から出たい邪教徒VS弱腰のルビアさん、もちろんこの邪教徒共を門から外へ逃すことなど出来ない。

 しかし全ての馬鹿につきルビア1人に対応させているため、詰め寄られ、怒鳴られてタジタジとなってしまっている。


 これはこれで見ていて飽きないのだが、そろそろ本気でかわいそうになってきたので助け舟でも出そうか? いや、ルビアの言い争いスキルのラッシュアップのためにこのまま待とうか?


 上空では精霊様が目ぼしい邪教徒、つまり以下して捕らえる価値のある連中を選別しているし、通りの向こうからは有力な教徒と思しき、この場で普通に殺すのではなく残酷処刑とすべき連中を引き摺ったフォン警部補も近付いて来ているのが確認出来た。


 この草原の町での殲滅作戦も大詰めだな、抵抗らしい抵抗はうっかり敵の謎アイテムの影響を受けてしまったルビアの性格が反転し、一時的にドSキャラとなって無双した際のあの連中だけであったと記憶している。


 と、上空を旋回しているセラとリリィが比較的近くに居るな、ここからなら声も届きそうだ、少し話し掛けて、他の方面の状況を聞き出すこととしよう……



「よしカレン、頑張ってセラとリリィを呼ぶぞ、お~いっ!」

「お~いっ! お~いっ……あ、リリィちゃんが気付きました」



 こちらの声に反応したリリィ、その旨をセラにも伝えたのか、すぐに方向を変えてこちらに向かって来る。


 門に殺到している邪教徒共も、先程から上空をドラゴンが飛んでいたことには気付いていたはずだが、それがこちらに向かって来るとなれば話はまた別だ。


 つい今の今までストップを掛けるルビアに対してデカい態度を取っていた連中はパニック状態に陥り、まるクモの子を散らすようにしてその場から逃げ出した、せっかく1ヵ所に集まっていたのに、また集合させるのが面倒だな……



「おつかれ2人共、で、他の方面の様子は?」


「ウサギチームはこことあまり変わらないけど、悪魔チームだけは抜きん出ているわね、たぶん私達よりも殺しているわ」


「ほう、あそこはそういう感じじゃないはずなんだがな?」


「それがね、敵のダンゴ戦士が現れて、一番弱そうに見えるサリナちゃんに集中攻撃したんだって、それで残りの2人が頭にきて殺戮を始めたみたい」


「あぁ、そりゃ怒るわな、それで? そのサリナに攻撃したダンゴ戦士はちゃんと生かしたまま捕らえたのかな」


「その辺りはバッチリみたい、あ、それとリリィちゃん、あの件……」


『そうでした、ご主人様、あっちの方に小さなお家がひとつ見えたんです、たぶんアレが言っていた大草原の何とかってのだと思います』


「おっ、そっちも発見したか、となるとここを……東から何か来るな……空駆ける船……POLICEかっ!」



 セラ、リリィを交えて現状の報告および今後についての作戦会議と洒落込んでいるところに、東の空を埋め尽くすのではないかというほどの『空駆ける大船団』が姿を見せ始めた。


 どうやらフォン警部補が呼んでいた応援は密林倉庫や砂漠の町、集積所だけではなく、この大草原エリアのお片付けにおいても同じであったらしい。


 そしてそのフォン警部補曰く、今回もPOLICEの船に混じって、ここでゲットした有用な人材を評価、引き受けるための奴隷商人的な連中が来ているのだという。


 いちいち捕まえた連中を選別する必要もないし、俺達がこの大陸における拠点を設置する際に必要な人数だけ残っていればあとはもう金に換えて頂いて構わない、つまり、その奴隷商人的な連中にお任せしてしまおうということだ。



「うむ、POLICEの同僚達が来てくれればもう戦闘員を排除し終えたこの町などどうということはない、勇者殿、こっちの処理は丸投げして、俺達は集積所の方に移動するべきだと思うが?」


「そうだな、まぁせっかくだからこの場で処刑する奴はアレだ、後にここでやるささやかな中間祝勝パーティーに取っておいて貰うとして、その管理から何からやるのは面倒だし、俺達は大義名分を持って『楽な方』に行くこととしようか」



 ここに言う『楽な方』とは即ち『頭を使わなくても良い方』のことである、この場に残ってこの町の連中、ここで焼き殺すのか、それともキッチリ逮捕して死刑に処すのか、また生け捕りにした者、利用価値のある者をどういう感じで捌いていくのか。


 その辺りを素人の俺達が考えることは出来ないし、現場主義のフォン警部補もそれは同じことであろう。

 つまり、俺達は俺達なりに出来ること、脳筋馬鹿にも可能な戦闘メインのタスクをこなしていくべきなのだ。



「よし、じゃあ精霊様に頼んで、POLICEの船団が到着したら持ち場を任せてここに集合、ってな感じで他のチームに伝達させよう、集合が完了したらすぐに移動だ」


『うぇ~いっ!』



 その後しばらくしてやって来たPOLICEの大軍、門の前を封鎖する仕事をルビアから引き継いだ2人の巡査は、かなり慣れた感じで目の前の邪教徒共を恫喝、実際に2、3匹殺害するなどしてその場を制圧していた。


 さらにしばらく、他の門で邪教徒共を閉じ込めておく仕事を引き継いだチームが帰還する。

 生かしておくべき者、そして『今のところは』生かしておくべき者を外へ出し、残りは徐々に広がる火の手が目立ってきた町の中に放置。


 これで夜には焼き上がりとなるはずだ、念のためセラとリリィでもう一度町に火を掛け、より一層の燃焼に期待しつつ、外へ移動させてあった自分達の船へと戻った……



「では勇者殿、先にこれを渡しておこう」


「何だこれ? 汚ったねぇメダルだな……と、アレか、集積所へ入るための鍵になるものか」


「そうだ、勇者殿達はすっかり忘れているようだったのでな、俺がこの町のそういう系の奴を見つけて押収しておいたんだ」


「助かったよ、これで無駄な破壊をせずに済むな、まぁどうせ突入したら中はボッコボコになるかもだがな、それでも入口だけ派手なことをしなくて済むなら助かるよな」


「うむ、静かに侵入して、最初に発見されるまではまっすぐ進むのが最も効率が良いからな、ということで出発しよう」


「おう、じゃあセラ、精霊様、燃料と動力に指示を、目指すはさっきリリィが目視した大草原の小さなお家だっ!」


『うぇ~いっ!』



 すぐに到着する予定の航行、それぞれのチームの戦果報告もそこそこに、これから始まるであろう集積所の敵との戦いに備え、多少の休息を取りつつ時間を潰した……



 ※※※



「ご主人様、そろそろ着くけど何かヘンなんですっ!」


「ん? 何がヘンなんだ?」


「大草原の小さなお家がヘンなんですっ!」


「というと、小さなお家のはずが白亜の城だったとか、最初はお家だったけど難攻不落の大要塞にトランスフォームしたとか、あと変形合体して……」


「そうじゃないけどヘンなんです、とにかく来て見て下さい」


「わかった、すぐに行くよ」



 イマイチ要領を得ないカレンの報告について検証するため、船室を出て甲板へと向かう。

 もうほぼ真下に来ているという大草原の小さなお家は……大変なことになってしまっているではないか……



「え? 何か斬れてね?」


「そうなのよ、さっきリリィちゃんが見たときにはそんなことなかったみたいなんだけど、今到着して確認したらもう……」


「バッサリいかれていたってことだな、何だろう、カマイタチ(強)とかそういう感じの現象でも起こったのかな?」


「そんないきなり? まぁ、とにかくここで何かが起こったのは事実みたいだし、ちょっと注意して行きましょ」


「だな、最初から、というかいつ何時でも戦えるように準備してから降下しよう」



 なるほどこれは確かにヘンだ、お家というよりもロッジといった感じの見た目を有するその建物だが、どういうわけか出入り口の扉を中心にバッサリと、まるで大剣でもぶつけられたかのように斬られている。


 俺達はもちろん、この大陸のPOLICEではあってもここの出身者ではないフォン警部補もこの地域の自然現象には詳しくない。


 ゆえにこの小さなお家の惨状が、『勝手にそうなっただけ』という可能性がゼロになるわけではないのだが、それでも可能性が高いのは『誰かがやった』というもの。


 降りて即、これをやらかした何者かによる襲撃を受けることを想定し、装備を整え、すぐに戦える姿勢のまま降下を始めた……と、全員地面に降り立つに至っても何も起こらなかったな、だがまだこれからだ、お家に突入する際、そしてその後も徹底的な警戒が必要である。



「よし、近くに何かの気配は……ないな、うむ、じゃあ中へ突入しよう」


「鍵は……という雰囲気ではないな、もう完全に破壊されつくしているじゃないか」


「見てくれ主殿、これ、やはり剣撃によるものだと思うぞ、内部の調度品の斬れ方がそういう感じだ」


「となると俺立ちより前、というかついさっきここに侵入した奴が居る可能性が高いってことだよな? 一体何者なんだ? 独断先行したPOLICEの部隊か?」


「いやそれはない、俺の知る限りで申し訳ないんだが、POLICEの中にこんな大それたことをやってのける奴は居ないはずだ、というか俺より強いのは数人しか居ない」



 サラッと自信満々発言をするフォン警部補だが、それは間違いなく事実であろう。

 そもそもこんなことが、敵の拠点であるお家をバッサリやって突入、などということが出来るPOLICE、またはその集団が居ないのは明らか。


 もしそれが出来るのであれば、既にこの大陸の犯罪組織など壊滅、最初に遭遇した4匹の犯罪者もアッサリ討伐され、海を越えて王都に逃れてくるようなこともなかったはずだ。


 で、ここへ侵入した『何者か』はPOLICEではない、そして俺たちの知り合いの中にもこのような剣の使い手は居なかったはずだからその可能性もない、つまりは知らない人がこの先に待ち構えている可能性が非常に高いということ。


 敵の敵は味方なのか? それとも普通に敵なのか? 微妙なところだがまずは会ってみる他ない。

 もしそれで戦闘になるのであれば倒せば良いし、少なくとも勝てないような相手ではないはずだ。


 ということでバッサリいかれたお家の、その中にあった地下へと続く階段を通って集積所へと侵入する。

 今のところは誰の気配も……いや、死体が転がっているではないか、しかも凄まじい状態の……



「こりゃすげぇ、もう細切れ肉じゃないか」


「ご主人様、コレ、1人や2人じゃありませんの、10人分ぐらいの肉片がまとまって落ちている感じですわよ」


「おいユリナ、考えないようにしてたんだから言うんじゃねぇよ、マジでハンバーグとか食えなくなったらどうするつもりだ」


「だって、こんな入口近くでこれなら奥はもっと……あの砂漠の集積所のフードコートどころの状況じゃないかもですわ」


「クソッ、その状態じゃまた俺とフォン警部補が確認係じゃないか、ここを襲った誰かさんのせいでどんどん肉が嫌いになりそうだぜ」



 嫌いになったのなら食べてやろうという顔の狼とドラゴン、菜食主義の世界へようこそという顔のウサギ。

 そのどちらも無視して先へ進み、階段を降りて地下2階層へ移動すると……人の気配だ、近くに生存者が居るようだな……


 今感じている人の気配が『侵入者』でないことは何となくわかる、確実にここのスタッフで、何らかの理由でその者に殺害されずに済んだ連中だ。


 もちろん先程からそこかしこに死体、というか肉片の山が出来上がっているのだが、その中で生存しているのは一体どういう属性の奴等なのか?


 上手く隠れることに成功したか、それか何らかの理由で見逃されたか……と、そんなことを考えながら歩いていると、どうやらその連中が潜んでいる部屋の前に到着したようだ、危険はなさそうなのでそのまま入って行こう……



「は~い、しつれいしま~っ……」


「ひぃぃぃっ! や、やっぱ殺すとかナシで……って、あれ? 何だか違う人が……」


「女が5人だけか、あとは……全部人間の成れの果てだな、おいお前等、ここのスタッフか? 何が起こった? これは一体どういうことなんだ?」


「そ、そうなんです、私達はここで働いているスタッフで、女はここに居るだけで全員です、さっき突然『キジマー』と名乗る男が乗り込んで来たんです。それで他の人達を皆殺しにして、女を斬る趣味はないからここでPOLICEが来るまで待ってお縄になれと言って私達だけを助けてどこかへ、というか下層へ行ったんだと思います」


「キジマー? 何だそいつは? まぁ良い、フォン警部補、とりあえずこの5人を逮捕してやってくれ、ここは危険かもだから一旦外に出そう」



 死体に囲まれて怯えていた5人を連れ出し、とにかく乗って来た空駆ける船の中に収容しておく。

 5人共フラフラだが、これまでに密林倉庫と砂漠の集積所で逮捕した女性らに面倒を見させよう、こちらもちょうど5人だからマンツーマンでどうにかなる。


 で、俺達はもう一度半壊した小さなお家を抜けた先の地下にトライしなくてはならない。

 侵入している、そして中の犯罪者共を虐殺している『キジマー』の正体を突き止めるのだ。


 地下第1層、先程の到達点である第2層、そしてその先へ……ここも地下第5層まであるようだが、その第5層へ至るための階段の途中で感じた強者の気配、そしてカレンとマーサの耳には何者かの断末魔が、それはもう幾度となく届いているという。


 おそらく今感じ取っている強者の気配こそがキジマーのもの、断末魔はここのスタッフ、というよりも下層に居る時点で幹部クラスの連中に違いない。


 それを捕らえるわけでもなく、次々に虐殺しているキジマーとは一体……と、やはり第5層の最奥、砂漠の集積所では生き残りが避難していた、それと同じ場所にある部屋からキジマーらしき気配が感じられる。


 どうやらこちらに敵対する感じではないのだが……とにかく行ってみる以外に選択肢はなさそうだ、急に襲われるかも知れないが、そうなると想定して動いていればそこまでの脅威ではない。


 扉に手を掛け、アイコンタクトで皆とタイミングを図って……いや、先に中のキジマーが動いたようだ……



『外の……13人か、そなたらは何者だ? ここの下郎共とはまた違った雰囲気のようだが……』


「俺は異世界勇者だ、そして仲間達と、あとはPOLICEが1人、もちろん敵意はない、俺達もここを滅ぼすために来たんだ」


『勇者……左様か、では先程ここの施設に関連しているとみられる都市が炎上していたのもそなたらの行いによるものなのか?』


「そうだ、次はこっちだと思って来たんだが……入口のバッサリ感、あれはお前の仕業だろう? で、とにかく中へ入らせてくれ」


『よかろう、開いているので入って来ると良い』



 どうやらキジマ―には受け入れられたようだ、扉を開けて室内を確認すると、そこには夥しい数の肉片と、日本刀のような武器を持って真ん中に佇む……黒髪ロン毛のおっさんの姿。


 背中にゴージャスな羽が生えているのだが、それがホンモノ、つまり本当に背中から生えているものであるうえに、キジマ―自身はそんなものが生えているわけがない人族である、もう意味不明の極致だ。



「え~っと、お前がキジマ―だな? 申し訳ないが所属とか何とか、色々とツッコミどころが多い中ではあるが掻い摘んで話して欲しい」


「……ご存じのようだが拙者の名はキジマ―、これより海を越えた先、島国から来た戦士だ」


「その羽と、それからその強さはどう説明するんだ?」


「拙者は主より賜った力を振るっているだけ、『ダンゴ強化人間』であり『肉体改造術式適合者』でもある、戦闘力とこの羽はそれによるものだ、して、そなたらは勇者とその仲間なのだな? 異世界から来た、あの始祖勇者の後継であると」


「始祖勇者、久しぶりにその名前を聞いたな……」



 500年程前に当時の魔王を討伐したという始祖勇者、俺と同じ世界で、当時戦国時代の足軽という雑魚キャラを担っていたようだが、この世界に来て勇者として活躍、未だに伝説となっている俺の次ぐらいに凄い男だ。


 そしてこのわけのわからない容姿のキジマ―、その始祖勇者に関して何か知っているうえ、俺達がこれから向かう予定でいた島国の人間らしい、まぁ『人間』なのかどうかは微妙なところだが。



「さて、拙者らの島国を脅かす連中の拠点はあらかた片付いた、次はこの大陸の砂漠のどこかにあるという同じような施設だが……」


「そこはもう俺達が、というかバケモノの餌食になったぞ、隣の町もな」


「左様か、となるともうしばらくはこの大陸に用がないな、では拙者は去ることとしよう、今なら島国に戻って主の作戦に合流出来そうだ、それで異世界の勇者よ、そしてその仲間達よ、もし時間があるならこの後拙者らの国へ来て欲しい、この世界における魔王軍討伐に関して有力な情報を提供することが可能矢やも知れぬ」


「わかった、というかまぁそのつもりだったんだがな、どうやら戦っている組織は同じみたいだし、向こうへ行ったら協力するよ、まずはこの大陸への『ダンゴ』の供給を止めないとだから」


「そうか、では拙者は先に戻ってこの件、主に伝えることとしよう、ではっ!」



 そう言って剣を振ったキジマ―のおっさん、壁にはドカンッと穴が空き、それは物資の搬出口まで繋がったようだ。


 そしてそこへ向かって……飛ぶのか、しかも凄まじいスピードだ、このまま海を越え、島国へと帰るのであろう。

 俺達もここでやるべきことを終え、出来るだけ早くキジマ―の後を追うこととしよう……

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