660 こちらも殲滅
「いよいよ見えてきたぞ、あの辺りから先が次のターゲットの町がある大草原になるんだ」
「ふむ、ターゲットの最後尾がもう草原に入っているということは、先走って逃げ出したようなクズ共はもう到着している頃かな?」
「そうだろうな、まぁ向こうも邪教徒の町なんだ、拒絶されて立ち往生しているようなことはないだろうよ」
「まぁ、その後すぐに俺達の手で往生するんだがな」
「違いねぇ、とっとと行って地獄にご案内してやろうぜ」
前を行く船団は確実にそちらへ、邪教徒が支配する草原の町向かっていることは確認済み。
既に到着した逃げ足の速い連中はどうせ高位の『邪聖職者』なわけだし、到着した今頃は歓待を受けていることであろう。
ちなみに同じ邪教徒の町であっても、砂漠の方は人口が8,000から1万程度であったのに対し、こちら草原の町は5,000弱と、町としてはかなり小さいタイプであるようだ。
まぁ、それでも範囲はそこそこに広いとのことで、全部捜索してクソ共を討伐し切るのには相当な時間が掛かるはず。
そして何よりもその後、町のすぐ近くに存在している大草原の集積所も襲撃、中の犯罪者を殲滅する必要がある。
もちろん今回は地下のバケモノの手を借りるわけにもいかないし、予め避難してきた連中によって情報が伝えられ、敵もそれなりの準備をしてくる可能性が高い。
きっと『ダンゴ』を用いた強化犯罪者共があの投げ付けるタイプの魔導アイテムを使用して迎撃してくるのであろう。
もちろん後れを取るつもりはないが、アイテムの効果によってはそれなりに危険であるため、そこは注意して対応しなくてはならないな。
「……⁉ ご主人様、ちょっと町っぽいのが見えてきましたよっ!」
「凄いなリリィは、まだ全然草しか見えてないぞ、で、どんな感じだ?」
「何か虫みたいなのが次から次へと降りています、たぶんあの逃げ出した人達の空駆ける船だと思います」
「そうか、じゃあ予想通り、どいつもこいつも途中で離脱することなくこの先の町を目指しているってことだな、よし、じゃあここかあはスピードを上げていこう」
「うむそうだな、ここで追跡がバレたところで、今飛んでいる犯罪者の船が舵を切ってどこか別の場所へ向かうとは思えない、この船の最大速度で追ってくれて構わないぞ」
「おう、じゃあ全速前進だっ!」
『うぇ~いっ!』
フォン警部補のお墨付きを得たことで、自信満々にて船の速度を上げる……というか15人ずつに分かれて動力と燃料を担っている女性らに指示してペースを上げさせる。
動力室からは精霊様がビシバシと鞭を振るう音が響き、下で風魔法を使っている15人、それだけではあり得ないほどの魔力、これはおそらくセラが手伝っているのであろうがとにかく空駆ける船の力が大幅に強化された。
船は前方の船団最後列を大きく上回る速度でそれに接近する、だがそれらが逃げる様子もない。
どうやらありきたりな俺達の船の見た目を忘れ、同じように避難してきた邪教徒の一団だと思い込んでいるようだ。
そんなモノに間違えられるのは不愉快だが、都合の方は大変によろしいな、このまま迎撃を受けることなく草原の町上空へ入り、そのまま降り立って攻撃を開始することとしよう。
「よし、じゃあ早速役回りの配分だ、まずセラとリリィ、最初は目立たぬよう降り立った後に広い場所で待機、攻撃開始と共に空から魔法とブレスで町周辺部から順に制圧していってくれ」
「わかったわ、あんな町ぐらい簡単に滅ぼしてあげる」
「ガーッといきますっ! ガーッと」
「ちなみに殺したくない対象も多いんだからな、最初からかましていくんじゃなくて、人間があらかた避難した後の建物等を破壊していくように」
『うぇ~いっ!』
「それと精霊様も同様に飛び立って、こっちは町中央上空で待機、地下から逃げ出す奴とか、あと再び空駆ける船で飛び立とうとする連中に対応、それ以外は適当に『人間狩り』でもしていて構わない」
「何だか暇そうだけどわかったわよ」
「それ以外は地上に降りて3人ひと組ぐらいで散開しよう、とにかく敵のアイテム攻撃、それからダンゴ強化犯罪者に注意するんだ」
『うぇ~いっ!』
ということで作戦も決まり、あとは実行を、町の上空へ到達するのを待つのみとなった。
俺はカレンとルビアと一緒に『突撃勇者Aチーム』に配属され、適当に3人で固まり、適当な作戦会議を……面倒なので始めない。
なお、他の地上部隊はミラ、マーサ、マリエルの『突撃ウサギAチーム』、それからユリナ、サリナ、ジェシカの『突撃悪魔Aチーム』となっている。
俺たち以外はBチームとCチームにしようとも考えたのだが、何だか2軍、3軍のようでイマイチだということ、そしてそれぞれ特徴的な属性の仲間が居るということで、全部に主力チームを示す『A』の称号を与えたのであった、まぁこれはどうでも良いことだ。
で、この中に唯一含まれていないのが今回の遠征ゲストにしてPOLICEのフォン警部補。
彼はそのまま1人で降り立ち、手配書にある顔を見つけ次第生け捕りにするという作戦に従事することが決まっている。
その後、誰の目にも町があることがわかる程度に接近するまでの間、もう一度作戦の確認、何かあった場合、そして作戦が終了した際のランデヴーポイントなどを設定しておく。
降下地点は行き当たりばったりになりそうだが、これはまだ敵の町が俺達をどういう態度で迎えるのかがわかっていないためだ。
しばらくしていよいよ町の上空へ、攻撃は……今のところはしてこないようだ、まだこちらが襲撃者ご一行様であることに気付いていないらしい。
他の船は町の周辺部で停泊したり、中へ入ってどこかの屋敷の庭にロープを下ろして係留を試みようとしているようだ。
当然俺達にはそういうツテがないため、このまま一気に町の中央、小さな噴水広場があるという場所まで直行、そこで降下して作戦を開始しよう、その方がメイン火力であるセラとリリィも動き易いはずだ……
※※※
「よしっ、何事もなく到着したぞ、ロープ下ろせっ、同時に降下開始だっ!」
「あ、勇者様、そのロープは反対側が繋がっていませんよ」
「なんっ……あぁぁぁっっ!」
「落ちちゃいましたね、カレンちゃんとルビアちゃんは一応勇者様とチームですから、早めに追ってあげた方が良いと思いますよ……」
うっかりで墜落してしまったのは俺だけのようだ、とにかく上空50メートルぐらいの場所から墜落し、お約束な感じで地面にめり込んでしまった俺、普通に降りて来たカレンに引っ張り出されて事なきを得た。
『おいっ、空駆ける船から人が落ちたぞ』
『しかも生きてるって、どういうことだ?』
『近づくな、黙示録の変質者かも知れないぞっ!』
『イヤッ、変質者ですって、誰か投石を』
『てかあれ有色人種じゃないか? 見ると穢れるかもだ』
……全く最初から散々なのだが、問題はダメージがどうこうではなく今のを見られてしまったことだ。
空駆ける船から落下し、頭から地面に突き刺さってピンピンしている俺を見て、周囲の邪教徒共はざわざわとやかましく騒いでいる。
だがまだ暴れるタイミングではない、仲間が全員地上に降り立ち、戦闘態勢が整ってから行動するのだ。
まずは地上部隊が散開、同時に攻撃を開始した後に航空部隊が活動を始める、そういう流れに決まっているのだから。
「はいはいどいてどいてっ、あら勇者様、引っこ抜いて貰えたのね」
「おう、怪我するかと思ったぞ、というか実際ちょっとダメージがあった」
「このぐらいで負傷なんて情けないわよ、もっと『高所から墜落する練習』をしておいた方が良いんじゃないかしら?」
「ぜってぇしたくねぇ……」
適当なことを言うセラ、それから人の不幸をみてニヤニヤしている悪魔も2人、本当にどうしようもない連中だ。
だがこの限りなくしょうもない、そして信頼できる仲間と共に、これから邪教徒を殲滅、土地を穢れから救うのである。
「で、さっきマップで確認したんだけどもう一度聞いて欲しいですの、この町は円周で囲った壁があって、その中に内接する三角形のような形で町が広がっていますわ、そして兵力はおそらく三角形の外側にそれぞれ居て、この中央からは各頂点を結ぶようにしてメインの道路が出ていますの」
「うむ、じゃあ地上部隊は予定通りその道路伝いに敵を殲滅していこう、セラとリリィはどこかで火の手が上がるのを待って、動き出したらまず兵力の殲滅を、じゃあ地上部隊、出発だっ!」
『うぇ~いっ!』
俺とカレン、ルビアのチームは中央広場から北へ、およそ5,000の邪教徒が暮らすこの町では比較的人の多い、3,000程度が集まっている感じの居住区画を担当する。
まぁ、おそらくはカレンの後ろを歩いて付いて行く感じになってしまうのであろうが、それで片付いて楽が出来るというのであれば申し分ない。
と、歩き始めて早速出現したのは謎の聖職者集団、どれもあの王都にやって来ていた宣教師風犯罪者と同じ格好をしている、つまりは俺達の敵だ。
「おいそこの貴様! おいっ、おっぱいがデカい女だっ! 貴様どうして獣人や有色人種などこの町に連れ込んでいるんだっ?」
「え? 私ですか、私は別に連れ込んでいるわけではなくて、むしろ船で寝ていたいのに連れ込まれているというか……」
「何を言っているんだ貴様は? とにかくその連中はこの町の美観を損ねかねないし、特に今週は『クリーンな町作り週間』なんだぞっ! そんなゴミ共はサッサと処分するんだ、今すぐに、この場でっ!」
突如話し掛けられ、思わず本音が漏れ出していた様子のルビアだが、いつも寝ていたいニート気質なのは俺もカレンも知っていることなので特に問題にはならない。
で、そんなものは問題にはならないが、この聖職者……ではなく聖職者を象ったわけのわからない連中が巨悪であり、この場で滅ぼすべき存在であるということは少し問題だ。
そろそろ始めてしまっても良いものか? 他がまだ敵と遭遇せず、俺達の行動開始を見ても直ちに事を始められる状況にないのでは?
ということで頼みの綱、上空で監視をしている精霊様に合図を送る、俺には米粒が浮かんでいるようにしか見えないが、カレンが目を凝らし、どうにか両手で大きく丸を作っているということを確認した。
「おしっ、じゃあカレン、このおじさん達の首を全部刎ねてみようか」
「わうっ、じゃあいきますっ!」
「何をこの獣人はいっ……はへ?」
聖職者風犯罪者チームのリーダーと思しきカッパハゲ野郎、何か言いかけたところで斬られたことに気付いた、いや気付いてはいないが違和感を感じたのであろう、元々変な顔がさらにおかしくなってフリーズした。
そしてその後ろに控え、これまで俺達のことを見てニヤニヤしていた数匹も同様。
おそらくは反省したルビアの手によって俺とカレンが『処分』されるのを見て笑おうとしていたのであろうが、そうはならなかった。
直後、リーダーらしきハゲを含む数匹の馬鹿共の首にツツッと、横一文字に赤い線が走る。
処分されたのは自分達であったのだ、それを知ったか知らずか、馬鹿共はもう首がポロリしてしまったため聞き出すことも出来ない。
『うわぁぁぁっ⁉ 見ろっ、あっちで宣教師様方が殺害されたぞっ!』
『獣人だっ、獣人が遅れた地で信仰を広める大切な宣教師様を殺したんだっ!』
『獣人許すまじ、あっ、有色人種も居るぞっ!』
なるほどこの連中はあの犯罪者と同じ『宣教師』であったか、もちろん邪教を不当に拡散するとんでもない連中だが、この町での位はかなり高いようだな。
で、騒ぎ出したその辺のモブ共であるが、どうせ今の静かな瞬殺程度では、誰も俺達が行動を開始したことに気付いてくれない。
つまりもっと派手に、わかり易いように暴れる必要があるのだ、ということで適当に目に付いた鬱陶しそうな顔面を有する邪教徒に接近し、回し蹴りを喰らわせておく。
「死ねやボケェェェッ!」
「どびょほっ!」
「お、体が千切れた割には結構飛んだな、で、次は……そこのお前にしよう、ブッ飛べっ!」
「ひょごっ!」
「ケッ、ざまぁみやがれこのゴミ邪教徒共が、おい残った馬鹿共、逃げられると思うなよ、とりあえず喜捨しろ、俺に向かって財布を投げ付けるんだ……早くしやがれ死にてぇのかっ!」
『はっ、はいぃぃぃっ!』
蹴飛ばしたうちの2匹目は多少ファールであったようで、バラバラになった体のいくつかのパーツがその辺の建物に直撃、轟音を伴って盛大に周囲を破壊したため、おそらく他のチームも気付いたはずだ。
その証拠に先程いた広場から巻き起こる悲鳴の嵐、同時に飛び上がる巨大な赤いドラゴン。
いよいよ航空部隊も動き出したのだ、まずは町の周囲、兵力であるダンゴ強化犯罪者を殲滅しに行ってくれ。
「じゃあ俺達はこのまま殺戮しながら北の外れを目指すぞ、騒ぎに気付いて避難しようとする奴はこの大通りに出てくる可能性が高いし、ちゃんと選別して『死ぬべき野郎』を殺していくんだぞ」
『は~いっ』
そこからは予想通り、建物から吐き出されるようにして出現する愚かな馬鹿共を殲滅していく。
どうやら北にある出入口の門を目指しているようだが、俺達から逃げられると思たtら大間違いだ。
既に進行方向左側、セラとリリィが最初に向かった三角形の外側では、おそらくそこに居た兵力が全滅したであろう勢いの火の手が上がっている。
そしてそれが向かって右側からも、既に攻撃を終えて移動していたということか、俺達も後れを取らぬよう、(主にカレンが)頑張らなくては……
「ご主人様! 何かちょっと違うのが出てきましたよっ! 見たことある恰好ですっ!」
「ん? この集団はアレか、カウボーイ風犯罪者か、しかも10匹も……カレン、ルビア、ここを本日の正念場と心得よ、いくぞっ!」
「はいっ!」
「……めんどい」
イマイチやる気を出さないルビアの尻を引っ叩き、完全に迎え撃つ姿勢のカウボーイ風犯罪者集団に攻撃を仕掛ける。
やはり『拳銃のようなもの』を使って攻撃してきた、それと同時に後ろの3匹がアイテムを使う素振りを見せ……やはり投げ付けるタイプだ、跳ね返そうと思ったが間に合わず、それは空中で炸裂した。
それをまともに喰らったのはルビア、幸いにも広範囲に拡散するタイプではなかったようだが……ん? ルビアの様子が……
「あんた達……変なクスリをこの私にぶっ掛けするとは良い度胸よね、覚悟しなさいっ! ハァァァッ!」
「ルビアがドSになったぁぁぁっ!」
どうやら『性格を反転させてしまう魔法薬』がアイテムの中に入っていたようだ。
まぁ、通常であれば『血気盛んな襲撃者』を反転させれば、『気弱な逃亡者』などが出来上がるはず。
奴等はそれによって俺達が弱体化、あわよくば勝手に撤退してくれると踏んでそのアイテムを使用したのであろう。
だが喰らったのがドMのルビアであったことが幸いした、反転し、ドS女王様となり果てたルビアは、持っていた杖を俺に押し付けてカウボーイ風犯罪者軍団の中へ突入、肉弾戦でそれらを引き千切っていく。
「……結局ルビアちゃんが1人で倒しちゃいました」
「なぁアレ、元に戻るんだよな?」
「大丈夫だと思います、さっきからフラフラしてますし、もう効果が切れますよきっと」
「だと良いんだが、今は助かったがあんなルビア超イヤだぞマジで」
と、カレンの予想通り、ルビアは最後のカウボーイ風犯罪者を屠ったところではたと止まり、そのままフラッと壁に寄り掛かってしまった。
ひとまず救助し、その辺にあった露店に売っていた布地を、逃げる準備をしていた店主を殺害して強奪、地面に敷いてルビアを寝かせてやる。
「おいルビア、大丈夫かルビア?」
「……あ、ご主人様……ちょっともう疲れてしまって、おんぶして下さい、それと後で頑張ったご褒美の鞭をビシバシ入れて下さい」
「良かった、元の『正常な』ルビアに戻っているようだ、カレン、すまないが俺はルビアをおんぶしていく、ここからは適当に戦闘をこなしていってくれ」
「わうっ、わかりました、じゃあ早速……やぁっ!」
先程のルビアの戦いぶりに触発されたのか、気合十分な感じですっ飛んで行ったカレン。
直後から通りに響き渡る悲鳴、迸る血潮と流れ出た血の洪水、凄まじい大量虐殺の光景だ。
俺はダウンしてしまったルビアを背負い、時折目に入る逃げ遅れのモブキャラをチョイッと殺害していく。
カレンはもう見えなくなってしまったのだが、少なくとも町の出入り口の前で待っていて欲しいところだ。
振り返れば後ろ、セラとリリィが最後に向かった敵兵力の駐屯スペースらしき場所からも、巨大な火の手が上がり、それは町の中へと広がり始めている。
このままいくと町全体が炎に包まれ、火災旋風が巻き起こって全てが焼き尽くされるであろう。
その前に逃がすべきを逃がし、捕らえるべきは捕らえなくてはならない、個別行動のフォン警部補は上手くやっているのだろうか?
そこから少し走ったところで見えてきた門、扉は開かれているものの、殺到している雑魚キャラ連中が先へ進んで行く気配がない。
どうやらカレンがまるで弁慶かの如く立ちはだかり、勝利した者にしかその先へ行かせないという態度を取っているようだ、これでは誰も進めまいな。
「ご主人様、もう終着点に到着ですか?」
「うむ、ルビア、お前そろそろ自分で歩け、重くてしょうがないぞ」
「失礼しちゃいますね、まぁでも『ご主人様号』が壊れると困るんで、ここからは普通に歩きます」
「人を乗り物扱いするんじゃねぇよ……」
背中のルビアを降ろし、2人で門の前に立つカレンと合流する、諦めて戻って行く者、突破しようとして命を落とす者、雑魚共の反応は様々だが、とにかくその先へ行くようなことは絶対に出来ない。
しばらくの後、上空に居たはずの精霊様がこちらへやって来て、奴隷として商品価値のありそうな連中をピックアップ、水で出来たロープのようなもので絡め取って移動させていく。
残りは殺してしまって構わないということだ、いや、この場で殺るのではなく、町の中に閉じ込めて大火で焼き尽くすのが面白そうだ……




