65 悪戯バニーガール
「ほら、さっさと歩きなさいよ!」
「だってタダ働きなんでしょ~、やる気失くしちゃうわね」
ダンジョンに魔獣を溢れさせる原因を作ったマーサは、冒険者ギルドの帝国支部開設イベントでバニーガールをしなくてはならない。
もちろん無償労働である、そんなことしなかったらちゃんとお小遣いとニンジンが貰えたんだがな。
ちなみに残りのメンバーも招待客としてイベントに参加することとなった。
安定のタダ飯・タダ酒である、有難い話だ。
「あ、どうも勇者パーティーの皆さん、ではマーサさんをこちらへ、着替えて即働いて頂きます、言っておきますが人が足りないので激務ですからね」
受付嬢に連れ去られたマーサは、しばらくするとバニーガール衣装で戻って来た。
耳や尻尾を装備しなくて良い分着替えが早い。
「ご主人様、あの衣装を着られるなら私もやりたいんですが、良いですか?」
「ああ、人が足りないみたいだからな、ルビアも行ってやらせて貰え」
「主殿、私も行こうと思う、少しお小遣いも頂けそうだしな」
ジェシカも参加するようだ、ミラとマリエルも行こうとしたが、マリエルだけはさすがに止めた。
バニーガール衣装は完全にTバックである、王女のして良い格好ではない。
「あの……ミラさんはちょっと年齢的にアウトなので、こちらの小悪魔衣装でお願いします」
「あら、悪魔の格好で給仕するのもアリですって、サリナ、私達もやるべきですわ!」
ミラ、ユリナ、サリナは悪魔スタイルで決定した、ミラだけは悪魔の尻尾アクセサリーを付け、他の2人は着替えただけである。
「お肉、可愛い衣装、お肉、可愛い……」
獣メイドの衣装を着ているバイトの子達も居た、カレンが肉を食べるのと可愛い衣装を着るのとの間で揺れている。
そんなカレンを見たギルド職員が近づいてきて勧誘しているようだ。
人手不足の状況である、可愛いカレンは確実にキープしておきたい人材なのでしょうね。
「ご主人様、やっぱり私も行ってきます、後で衣装を好きなだけ貰えるそうなので!」
衣装は全部使い捨てのようだ、バニーガールをやりたがっていたマリエル、それから貧乳だからと諦めたセラの分も貰っておこう。
「おぉ、ゆうしゃよ、そなたも来ておったか、はて、今日は人数が少ないようじゃな?」
「よう駄王、他のメンバーなら向こうで働いているよ、誰かさんと違って忙しいんだ」
「そうかそうか、ところでそなた、劇場と闘技場の復興イベントにも来てくれるじゃろ? そのうちやるから知らせを待つが良い」
「おう、もう直りそうなのか、酒が出るならどこにでも行くぜ!」
「うむ、新闘技場は水も張れる仕様にするからの、そこに酒を張って酒泳大会でもしようかの!」
「それは良いな、女子だけでやるポロリありの競技も開催してくれよな」
「任せておくが良い、ただしインテリノにバレると厄介じゃからな、くれぐれも内密に頼むぞ」
これはアツい! 今日使っているようなバニーガール衣装での水中騎馬戦を開催しよう。
ウサ耳を奪われると水着が裂けて敗北する仕組みにして貰うのだ。
夢は膨らむばかりである。
パーティーが始まるようなので席に着く。
リリィは乾杯前に肉を喰らい、普通に酒を飲んでいる。
いつも叱っているミラが近くに居ないため、歯止めが利かないようだ。
『え~、それでは冒険者ギルド帝国支部の設立を祝いまして、僭越ながらこのゴンザレスが乾杯の音頭を取らせていただきます……乾杯!』
Mランク冒険者のゴンザレス、いつもは上半身裸の癖に、今日に限って燕尾服を着ていた。
だが乾杯の音頭で力みすぎたのか、完全に弾け飛んでしまったようだ。
元の姿に戻ったな……
「見てくださいご主人様、この衣装ポロリ寸前だし、お尻丸出しなんですよ、あ、おさわりは禁止だそうです」
「ルビア、こんな所でサボっていて良いのか?」
「ええ、お皿とグラスをいくつか割ったら戦力外通告を受けました、適当にホールを回っていて欲しいとのことです」
全くコイツは何をやってもダメなのである。
それでも客に愛想を振りまくぐらいは出来るであろう、少しは役に立ってやって欲しい。
「おや、勇者殿達も居たのか、僕も呼ばれて来たんだが、貴殿の仲間もあの恥ずかしい格好をさせられているのか?」
「おうシールド君、そうなんだ、皆喜んでやっているがな、マトンはもしかして……」
「ああ、やらされそうになったんでな、頼み込んで裏方に回して貰ったよ」
マトンは裏で会計をやっているらしい、様々な酒や料理があるからな、人件費だってある。
全ての経費をまとめるのはかなり手間がかかることであろう。
酒と料理を楽しみ、適当に知り合いと談笑して過ごした。
その後は知らないおっさん達、多分ギルドの偉い人が延々とスピーチするだけの何かとなってしまったため、適当に切上げて帰ることとする。
労働しているメンバーは後でミラが先導して帰って来るそうだ。
ついでに、ユリナ、サリナ、ジェシカの3人についてギルドへの登録を依頼しておく。
せっかくなので新しい帝国支部の方に登録することとなったようである。
どこに居ても同じように活動できるとのことなので問題は無いであろう。
さて、壇上でスピーチしている知らないハゲは無視して帰ることとしますか。
※※※
「ただいま~っ! 勇者様、余ったお食事を貰ってきましたよ~」
ナイスだミラ、リヤカー1台分の酒と料理じゃないか。
腐りそうなのは今日の夕飯にして、他は明日ダンジョンに行くときの弁当だな。
「ご主人様、余っていた衣装も全部貰って来ました、今度着せて下さい」
「偉いぞ2人共、儲かっちゃったな、衣装だって普段着で使えそうなものもいくつかあるしな」
貰ってきた食事も豪華なものばかりだった、レーコ達にも食わせてやろう。
衣装の方は風呂上りに希望者に着せることとした。
「俺は地下の2人を迎えに行ってくる、皆は俺の部屋に食事を運んでおいてくれ」
まだ食べ足りないリリィや、迷った挙句可愛い衣装を選択し、何も食べることが出来なかったカレンが率先して料理を運んで行った。
「おいレーコ、ギロティーヌ、出るんだ」
「あら、もうお風呂の時間ですか?」
「それは後だ、ちょっと良い料理が手に入ったから一緒に食べるぞ」
2人を連れて2階へ戻ると、他のメンバーはカレンが持ち帰った衣装を物色していた。
先に夕飯にしようと告げ、食事を始める。
「なぁ、さっきも思ったんだがこの奇妙なトリの丸焼きは何なんだ? 足とか3本あるんだが」
「勇者様知らないの? これはトリプルトリプルトリよ、頭と羽と足の3つが各3つあるトリなのよ」
「なんだその薄気味悪い生物は……」
異世界にはまだまだ知らない生物が居るようだ。
食べ物も独特な味のものがある、さっきの会場でルビアとジェシカが山盛り持って来て、美味いから食べろと勧められた野菜なんてクソマズだったしな。
「さて、食べ終わったのは良いが衣装を選ぶ前に風呂に入るぞ」
「わざわざ下に降りるのが面倒よね、この部屋のテラスからお風呂までの階段を作って欲しいわ」
凄く良い案だ、今度筋肉達に頼んでみよう。
だが何となく堕落の極みに近づいているような気がしなくもない。
全員でで風呂に入った後はお待ちかねの衣装チェンジである。
皆着替えず、バスタオルだけ巻いて部屋に戻ってきた、服を着ているのは俺と精霊様だけだ。
「ハイ、まずは基本のバニーちゃんが良い人は挙手」
元々バニーを着ていたルビア、マーサ、ジェシカの3人以外に、セラ、ミラ、マリエルの手が挙がった。
レーコとギロティーヌも強制的にバニーに決められる。
バニー組は早速着替えるようだ、全員着替える際は隣の空き部屋を使って貰おう。
「次、悪魔衣装……は固定の2人だな、カレンとリリィはこっちのフリフリのやつにしようか」
着替えに行っていたメンバーが戻って来る。
念のため、精霊様は着なくて良いのかと聞いてみたが、人に着せてイジる方が好みらしい。
「ちょっと、一番小さいサイズにしたのになぜ胸の所の布が余るのかしら」
「セラさん、私達は弱者です、悲しくなるような発言は控えましょう」
セラとレーコが意気消沈している。
貧乳なのはきっと前世の行いが相当に悪かったためであろうな。
「ご主人様、改めて見て下さい、今度はおさわりOKですからね!」
「私は1つ小さいサイズにしてみたぞ、ワンタッチでポロリするから注意が必要だ」
一方、前世の行いが良く、恵まれている2人は自慢げだ。
ここで調子に乗った分、来世がどうなるかは定かではないが。
本家バニーのマーサも、ギロティーヌも負けてはいない。
2人共なかなかのプロポーションである。
ミラだけバニーではなくスクール水着なのはどうしてだろう?
悪魔やフリフリなど、可愛らしい服を着て来た4人はそっちの方向で可愛らしい。
速攻で精霊様のおもちゃにされてしまった。
「ご主人様、私はこんなエッチな衣装で人前に出ることが出来て幸せでした、明日からもちょくちょくこれを着ようと思います」
「構わんが外で着るなよ、普通に逮捕案件だからな」
「私も少し恥ずかしかったが、満足したぞ、悪戯も成功したしな」
「もしもしジェシカさん、悪戯とは?」
「私とルビア殿が持って行った野菜があっただろう」
「うんうん、あのアホみたいに不味かったやつのことだな」
「あれは料理の飾り付けに使うものだ、通常は食べない、しかもちょっと毒だ」
「なんだとぉっ!」
「あれは笑いました、ミラちゃんが異世界人のご主人様なら知らずに食べるだろうって言い出して、まさか本当に食べるとは!」
「渋い顔して必死で食べてるんだもん、裏でギルドの人達と一緒になって爆笑したわ!」
「私も最初は冗談のつもりだったんですよ、勇者様が想像を遥かに超えたアホなのが誤算でした」
とんでもないことをしやがる、知らず知らずのうちに大恥を晒していたらしい。
計画したのはミラ、加担したのはルビア、マーサ、ジェシカの3人のようだ。
マーサがそれっぽく盛り付けしてルビアとジェシカが運んで来たとのことである。
「いかがでしたか勇者様、私達の悪戯が面白いと思ったら高評価をお願いします」
「……お前ら明日からその格好で冒険しろ」
「いやいや、さすがにそれは、本当に捕まってしまいますよ!」
「良いじゃないか、町の中は服を着ておいて、下にそれを着込んでおく、町の外に出たら服を脱ぐんだ、簡単だろう?」
「主殿、それはちょっとやりすぎだぞ! やってはみたいが……」
「そうか? 精霊様はどう思う?」
先程までご機嫌でサリナを弄り回していた精霊様。
今は拳を握り締めてプルプル震えている、当たり前だ、あの植物は精霊様も食べていたからな。
しかも美味いとか、これは高級な野菜だ、とか言っていたような気がする。
「明日からダンジョンの件が解決するまではその格好ね、冒険中と、この屋敷の中に居るときはずっとよ!」
「それからまず企画者のミラちゃん、今から私の社に来なさい」
「ひぃぃっ! お許しをっ!」
「残りの3人は勇者様に処分を任せるわ、それじゃ、ミラちゃんはこっちよ」
精霊様に腕を掴まれ、窓から連れ出されるミラ。
2人が社に入ると、程なくして耳を劈く悲鳴が聞こえてて来る……
「さて、主犯のミラは処分されてしまったようだ、お前達はどうする?」
「降参します」
「参りました」
「許してくれ」
「じゃあとりあえずちょっとジャンプしてみろ」
指示通りジャンプした3人はあっさりポロリした。
「あ、今思ったんだがセラとマリエルもあれが食べられない草だって知ってただろ?」
「当然よ、知らない人なんてまず居ないわ」
「私も知っていましたが面白かったのでスルーしました」
同罪の2人もジャンプさせた、残念ながらセラはポロリしないのである、というかその可能性すら感じさせない。
マリエルはちゃんとしました。
「う~ん、この程度じゃ納得いかないな、まぁ、セラとマリエルは見ていただけだからそろそろ許してやるか、あとの3人は今から被害者の俺を癒すんだな!」
ルビアに肩を揉ませ、マーサにふくらはぎを揉ませる。
ジェシカは一発ギャグを連続でやらせた、実につまらん、一切笑えない奴だ!
「ジェシカ、つまらなすぎるぞ、ちょっとセラに手本を見せて貰え!」
セラの放った十八番、魔獣の真似はやはり面白かった、そういえば闘技場の魔獣は誰が呼んだんだろうな?
「わかったかジェシカ、あれがセラの芸だ、同じことが出来るか?」
「さすがに無理だ主殿、あそこまで人の尊厳を捨てることは出来ない」
「そうだろう、あんなの人間のやることではないからな、1つ勉強になったであろう」
「何だか私、凄く馬鹿にされたような気がするわ……」
傍で観賞していたリリィがそろそろ眠たいと言い出したので、とりあえずその日はお開きとした。
夜が早い連中は寝てしまったので、ルビアとジェシカと3人で隣の空き部屋に行き、酒を飲む。
「ミラちゃんはまだ精霊様に処刑されているみたいですね……」
「言っておくがお前らも終わりじゃないからな、明日からもその格好で何かさせるぞ」
「あら、厳しいんですね、今までバレなかった分も白状したらどうなってしまうんでしょうか?」
「ちょっと待とう、今までもあんなことして来たってのか?」
「ふふっ、例えば主殿、この間トンビーオ村の祭りで上半身裸になっていたであろう」
「ああ、確かにそうだったな」
「どうせ脱ぐだろうと思ったからな、前日寝ている隙に背中に住所を書いておいた、メモしている村人も多かったぞ」
「・・・・・・・・・・」
「それと、この間ご主人様がうまいうまいと飲んでいた焼酎がありましたよね」
「確かに、あれは高級な品だったらしいじゃないか、実に洗練された味で(どうのこうの)」
「アレ、中身は4リットルで銅貨3枚の安物です」
「・・・・・・・・・・」
「それ以外に私とジェシカちゃんでやったのは、靴にカメムシを入れたり読んでいた真面目な本の中身をエッチな本にすり替えたり、あとさっきギルドでご主人様の討伐依頼を出しておきました、黙っていると殺られてしまいますよ」
「2人共、ここだとうるさいから端っこの部屋に移動しようか」
ルビアとジェシカの手を引いて、屋敷の一番隅にある部屋へと移動する。
もちろん酒とつまみは持って移動した、飲まずにやっていられるか!
「そうだ、ルビアは静かに部屋に戻って鞭を持って来い、皆を起こすなよ」
「わかりました、すぐに行って来ます」
「よしジェシカ、ちょっと飲みながら待っていよう」
「わかった、ちなみにこれはちゃんとした良い酒だぞ、安心するが良い」
「そういえばあの偽良い酒はジェシカの実家から送られてきたという設定だったな、帝国は偽者ばっかりかよ」
「いや、気が付くと思ったんだがな、まさか引っ掛かるとは」
今日だけで一生分の『まさか引っ掛かるとは』を投げかけられた気がする。
馬鹿ばっかりだと思っていたパーティーメンバーに逆にこんなことをされているとは夢にも思わなかったぜ!
おっと、ルビアが戻って来たようだ、セラも起きていたのか、付いて来ている。
「じゃじゃん、セラ様の登場よ! 今日の悪戯に引っ掛かったのは誰かしら?」
「お前も何かやったのか?」
「あのトリプルトリプルトリは架空の生物よ、サリナちゃんを買収して勇者様だけ幻術で騙させていたの、最初からね」
「じゃあギルドで俺が食べてたのは?」
「何も食べていなかったわよ、さっきも、ギルドでは食べる動作だけして気持ち悪がられていたわね、まさかあんなのに引っ掛かるなんて、少し考えれば幻術は解けたはずよ」
「今日はやられっぱなしだな、だがそろそろ攻撃に回るぞ、ルビア、鞭を貸してくれ」
「ハイ、これを使ってください」
「よ~し、3人共尻を突き出すんだ!」
完全に勝った気でいた俺が鞭の持ち手部分を強く掴むと、何やら込められていた魔法が発動したようである。
またやられた、びしょ濡れである……
「最後のドッキリに引っ掛かりましたね、水魔法が込めてありました、握ると水浸しになります」
「主殿、もう魔法は入っていない、打ってくれて構わんぞ」
今度は大丈夫であった、セラ、ルビア、ジェシカの3人を散々打ち据えた後、4人でもう一度飲み直す。
「いたた~っ、なかなか効いたわよ、もうしませんなんて言わないけどね、絶対」
あれか、もう恋なんてしないなんてってやつか、どれだけ人を困らせるつもりなんだコイツは。
「おいセラ、他のメンバーも気付かないうちに俺に悪戯していたのか?」
「そうね、良くやっていたのはカレンちゃんよ、本に落書きするとか、可愛い悪戯だけど」
確かに、古本屋でしか本を買わないが、それでも悪戯書きが多いものばかりだと思っていた。
カレンがやっていたのか、ちくしょうめ、でも可愛いから許そう。
「主殿、最もやっていたのがルビア殿、2番がセラ殿、そして3番目がこの私だ、畏れ入ったか!」
何を偉そうにしているんだこの人は?
ジェシカの尻を思いっきり引っ叩いてやった、肉付きが良いだけあって音も良かった。
「お前ら3人は明日から毎日、俺が満足するまでお仕置きな、ルビアはいつもしてるけど」
「まぁ、正直そういうのを期待して悪戯していたんですけどね、ここまで気が付かない程に鈍感だとは思いませんでしたよ」
「もう何も言わないでくれ、悲しくなってくるわ……」
「あ、ようやくミラと精霊様が出てきたわよ!」
「そうか、窓から手を振ってやると良い」
ミラはボロボロであった、精霊様曰く命に別状はないそうだが、そうは見えない。
とりあえずルビアに回復させておく。
「ちょっと、ミラに指導していたらもう明け方じゃない、今日は休みにして、ダンジョンを見に行くのは明日にしましょう」
「精霊様の意見に賛成だ、飲みすぎたし、眠い、今日はもうここで寝ようぜ」
そのまま眠りに付く。
朝起きたら俺は……俺はバニーちゃんだったのだ!
夢の世界にいる間にやられてしまったようだ……




