651 新たなる発見
「こっちは食料品だな、まともなものばかりだぞ、そっちは?」
「こちらは違法なアイテムだらけだ、全て証拠品として押収したいところだが……量が多すぎるな……」
まず手始めに制圧した敵組織の『密林倉庫』、ここから組織犯罪対策をしている町へ、違法なやべぇクスリ、ダンゴなどを供給していたのだが、どうも一般的な食料もここ発であったようだ。
俺が捜索した一角で見つかったのは保存食、干し肉や干し野菜、缶詰などの日持ちするものばかりである。
敵組織の構成員がどこかに『犯罪遠征』するときに持たせていたのか、それとも『事後』の構成員が逃亡中に食べるべきものを送っていたのかは定かでない。
とにかく犯罪アイテムにしてもそうでないアイテムにしても数が多すぎる、捕まえた2人と17匹も荷物になることだし、これら全てをこの場で押収してしまうことは不可能、確実に応援要請が必要だ。
「仕方ない、ここの捜索のために人を呼ぶ、伝書鳩が行って人員が到着するまで1日と少しだが、それまでここで待機ということで構わないか?」
「あぁ、せっかく制圧したのに、俺達が離れた隙に奪還されたんじゃ敵わないからな、とりあえず人員が到着するまで待とう、ついでにその小遣い稼ぎの犯罪者共も持って帰って貨幣に交換して貰えると助かるな」
「そうだな、いちいち俺達が換金しに行くのも手間だ、よし、その辺りについてもPOLICEに任せてくれ、国家権力でどうにかしてみよう、一緒に奴隷商人を連れて来させる」
「おう、さすがはPOLICEだ、その国家権力を躊躇なく振りかざす傲慢さは実にナイスだな」
「褒めているのかけなしているのかイマイチわからんのだが……とにかく応援部隊の到着を待つこととしよう」
ということでこれから1日、応援POLICEの到着を待ちつつ、倉庫にある証拠品でないもの、即ち食料を『押収』して自分達の食事の用に供する。
しっかりした酒もあるようだし、今夜はなかなかのパーリィが出来そうだな。
と、その前にまずはやるべきことをやらねばならないのだが……
「フォン警部補、今のうちにあのデブ犯罪者野郎を拷問して情報を得ておきたいと思うんだが、どうする?」
「そうだな、アレはさすがに町に連れ帰ってキッチリ公開処刑しないとだし、だが死なない程度には情報が欲しいしな……どこかに『痛め付けのプロ』みたいなのが……」
「それなら水の大精霊たるこの私に任せなさい、趣味は殺戮だけど、死なない程度に苦痛を与えるノウハウも持っているわよ」
「ほう、それは頼もしい、では早速その腕前を見せてくれないか、コイツから聞き出したいのは『ダンゴ』の、もっと上流の集積所だ、こういう小さいところをチマチマやるよりも効率良くドカンと始末したいからな」
この密林倉庫もなかなかの規模であるような気はするが、土地の広い西方新大陸においてはこんなものまだまだらしい。
フォン警部補曰く、おそらく砂漠地帯となっているエリアのどこかに、密林倉庫が100個、丸ごと収納出来る次元の『ダンゴ集積所』があるに違いないとのことだ。
もちろんそれはここより西、ダンゴの生産拠点である島国からソレを運んで来た際に便利な場所で、かつ発見されにくい場所にあるはず。
それに関してはPOLICEの方でもそれがどの辺りなのか、具体的に掴めているわけではないが、俺達の戦力が追加されたことによって制圧することが出来たこの密林倉庫のトップであれば、ほんの僅かでも情報が降りている可能性がないとは言えない。
よってあのデブは意外と貴重な存在……もちろん同時に捕えてある事務員の女の子の方が可愛くて貴重なのだが、最終的に死刑にするわけではないためそれはそれで別とする。
で、善は急げということになり、早速精霊様によるデブへの『質問』が始まった。
勇者パーティー流では先に痛め付けから入るのだが、この程度に貴重で、しかも生命力の低い相手となるとそうもいかないのである。
「ほらっ、この『ダンゴ』をメインで保管している倉庫の場所を吐きなさい」
「そ……それを言ったら俺が殺されちまう、だから言えねぇんだ、てか大まかにしか知らねぇし、だから頼む、メイン倉庫の場所だけは聞かないでおいてくれ……」
「……つまり、全く知らないわけじゃないってことよね? なら大まかにでも良いから吐きなさい、そうすれば助かるかも知れないわよ、可能性はごく僅かだけど、それに賭けてみない限りあんたは死ぬ、確実に死刑よ、どうなの?」
「ひぃぃぃっ、そ、そんな……」
「質問の答え以外を口にしないの、ただでさえ息が臭いんだから、次に余計なことを喋ったらこうよっ!」
「ごぎぃぃぃっ! げはっ……」
次に、などと言いつつもう顔面をグチャグチャに損壊させている精霊様は本当に適当な奴だ。
すかさずルビアの回復が入り、デブの顔は元に戻ったのだが、最初の状態でも十分に気持ち悪い。
その後も責め苦と質問を同時に浴びせていったのだが、デブは本当に大まかなことについてしか知らないようだ。
とにかく巨大な集積所が砂漠地帯のどこかにあり、そこに密輸入された大量のダンゴが保管され、さらに大陸各地へと、この密林倉庫のような場所へと移動、各家庭……ではなく各末端連中に届けられているらしい。
「う~む、コイツは本当にたいした奴じゃないんだな、腹ばかり出ていて頭角を現すようなタイプのおっさんじゃないみたいだ」
「そうね、まぁ一応はここのトップみたいだし、公開処刑で民衆をスッキリさせる効果ぐらいはあるんじゃないかしら?」
「ひぇっ……しゃ、喋ったんだから助けてくれ……」
「誰が助けるかこのゴミクズが、てか勝手に発言してんじゃねぇよ、その臭い口を閉じておけ、断末魔のその瞬間までな」
役立たずの相手などして無駄な時間を使ってしまった、どうせ暇ではあるのだが、だからといってこんな奴に潰すべきその『暇』の一部をくれてやったと思うと非常にムカつく。
情報も得られなかったわけだし、結局また同じようにこの密林倉庫的な場所、即ちあの町のPOLICEが掴んでいる敵のアジトを潰しに行くという、なんとも地味な活動を続けなくてはならない。
だがそれでもフォン警部補はご満悦の様子、確かにそうだ、もし戦闘力が高い俺達勇者パーティーの協力を得られていなかった場合、町中の単発犯罪者とは違い、敵組織の拠点であるこの場所を制圧するのにはそれなりの犠牲が伴ったはず。
それをノーダメージで、しかもあっという間にやってのけることが出来るという実力を、約束通り見せ付けてやった今では、フォン警部補の感情の中に渦巻いていた若干の不安がどこかへ飛び去ったのである。
ということで自信満々に早変わりしたフォン警部補、ここで情報を得られなかったことについては『残念であった』ぐらいにしか思っていないご様子。
その点俺や精霊様はかなりムカついているのだ、殺しはしないが、最後にデブに対する制裁を加え、ルビアに頼んで完全回復をさせておこう……と、既に死刑への恐怖で気絶しているではないか、つまらない奴め……
「おい、このままじゃ腹の虫が納まらないぞ、どうするよ精霊様?」
「そうね、あ、そうだったわ、『死刑にしないの』も2人捕まえたんじゃないの、そっちに軽くお仕置きして鬱憤を晴らしましょ」
「お、そうだったそうだった、早速倉庫の休憩室にでも引き摺り込んで鞭打ち三昧にしてやろうぜ」
こうしてストレス解消用の新たな玩具を得た俺と精霊様は、縛られ、猿轡を噛まされたままどうにかして逃れようと身を捩る女の子(犯罪組織構成員)を引っ張り、個室になっている密林倉庫の休憩室を目指した……
※※※
「よしお前等、猿轡だけ取ってやるからな、噛み付いたりするんじゃねぇぞ……返事は?」
『んぐっ、んーっ!』
「よろしい、じゃあお前からだ……」
「んっ……ぷはっ、ごめんなさいっ! もう悪いことに加担したりしませんからっ! どうか……どうか縛り首にだけはしないで下さいっ!」
「そうか、お前はこの大陸でもうひとつ使われているという『雷撃椅子』で処刑して欲しいんだな? そういうことならこちらから話を通しておいてやるぞ」
「ひえぇぇぇっ!? ち、違いますっ! どうか命だけはお助けを……」
別に死刑に処すと言った覚えはないのだが、なんだか勘違いしているようなので適当に脅しておく。
とはいえこれ以上やっておもらしでもされたら大変だ、後片付けも面倒だし、この部屋も使えなくなってしまう。
ということで2人には処刑しないこと、ただし犯罪組織に積極的に加担した以上、罰は下されるうえにこれまでの生活に戻ることは一生不可能であることなどを伝える。
……と、どうやら一発で納得してくれたようだ、2人にもしっかり『悪いことをしている』という意識はあったようで、捕まった今となっては手遅れだが、そこそこに反省している様子。
まぁだからといってこれから始まるストレス発散が軽くなるわけではない、縛ったままの状態の2人をうつ伏せに寝かせ、精霊様と2人で鞭を構える……
「待って下さいっ! あの、もしかしたら私達、さっき皆さんが親分様に聞いていたこと、答えられるかも知れないんですっ!」
「親分様? ってあのデブのことか、しかしお前等は下っ端にしか見えないのに、どうしてそんなことがわかるというのだ?」
「えっと、ここにもたまには組織の偉い人が来たりしていて、そういう方々のお世話をするときにちょっと話の内容が聞こえたり聞こえなかったりでして……」
鞭で打たれるのが嫌で嘘を言っているのか、それとも本当に幹部連中の話を盗み聞きして、その内容を把握していたのか、真実がどちらなのかはわからない。
もっとも、この2人は可愛らしい女の子であるとはいえ、実際は積極的に犯罪組織に加入するような悪人。
危険を冒してでも幹部の話を聞き取り、その情報を使って利益を得たり、損失を免れたりということを狙う可能性は十分にある。
そして今、正義の味方である俺達に捕まり、こうして鞭で打たれる寸前に立たされている、いや寝かされているのだ。
このまま俺達が鞭を振り下ろせば、衣服は裂けて肌もボロボロ、とんでもない苦痛が彼女らを襲うことはもう明らかな確実。
ではそれから逃れるために、自分らの持つ情報を、こういうときのために温存しておいた情報を吐き出すつもりでいるとしても何ら不思議ではない……
「それで、もしお前等が有力な情報を出すことが出来た場合にはだ、何か要求があるんだろう?」
「えっと、せめてその痛そうな鞭はやめて頂きたいと思っておりまして……」
「だってよ、どうする精霊様?」
「そうね……わかったわ、有力な情報を出したらこっちの『そこそこ痛い鞭』に取り替えてあげる、トゲトゲガ付いてないからあまり怪我はしないわよ」
「お、結構甘くなるんだな」
「それと、もし伝説級の最有力情報を提供した場合には鞭もなし、縄も解いてあげるし、お仕置きもお尻ペンペンぐらいで良いにしてあげるわ、これでどうかしら?」
「ぜひそれでっ! では私達の知っていることを全て、包み隠さずお話ししますっ!」
交渉は成立した、とりあえず2人が話し易いよう、一旦立たせて壁沿いのソファに座らせる。
ちなみに2人共女子の事務員的な制服を着こなし、おっぱいもそこそこのアレだ。
で、まずはどちらの情報を……などと思ったのだが、どうやらこの2人はかなり前からの協力関係にあり、ここへやって来る組織幹部の話を盗み聞き、集めた情報を共有していたようだ。
「え~、じゃあまずはさっきあのデブ……じゃなかった親分様が聞かれていて、まるで答えられずに無様な命乞いだけしていた件に関してなんですが……」
「私達の集めた情報ですと、そういう『巨大倉庫』的な施設は2ヶ所にあるんですよ」
「2ヶ所に? どちらもこの西方新大陸のどこかだよな?」
「ええ、片方は南西の砂漠地帯、『クサモハエン砂漠』のちょうど真ん中辺りにある『エリア501』という所です、本当は大昔の政府の基地だったそうですが、何らかの事故で放棄されて、そこをそのまま倉庫に使っているとのことで……」
「なるほど、で、もうひとつは?」
「もうひとつは北西の草原地帯、『クソワロタ大草原』の西の端にある『草原の小さなお家』、その地下に巨大な施設がアリの巣の如く掘り進められていて、そこが倉庫になっているそうです」
「あ、ちなみにエリア501の方も全部地下になっていて、地上から見える部分は極僅からしくて、幹部の方は『絶対に見つからんじゃろうな、ガッハッハ!』と仰っておりました」
「なんと、それはなかなか有力だな、よし精霊様、この件をフォン警部補にも」
思っていたのとは異なり、2人が俺達に教えてくれたのは敵のトップシークレットではないかと推測出来るほどの超有力情報であった。
精霊様がフォン警部補を呼びに行っている間、ゴミ囚人から重要参考人にクラスチェンジした2人の縄を解いてやり、倉庫のその辺にあった食料品の中から果物のジュースを用意してやる。
すぐにすっ飛んで来たフォン警部補、2人にもう一度先程の話をさせると、警部補は必死になってその内容を記録していた、この書きっぷりは転移前の世界に居たPOLICEとあまり変わらない。
話を終え、情報を整理すると言って出て行った警部補を見送り、俺と精霊様、そして騒ぎに興味を持って出現したセラの3人は、更なる追加情報が得られないかということで2人の女子事務員に尋問する……
「それでさ、お前等の組織の幹部的な奴等、魔族だって噂が流れてんだが本当か?」
「いえ、それはわかりませんね、幹部の方は確かにここへ来られることもありますが、皆さん白い布を被っていて顔すら見えないんですよ」
「白い布を被って? 宗教か何かでそうしているのかな……」
「そうではないみたいです、というか宗教、といえばそうなのかも知れませんが」
「どういうことだ? ちょっと詳しく説明を頼む」
「ええ、どうやら私達が所属している巨大組織の上層部ですね、その方々は皆『K&KK(カニ&クリームコロッケ)』という思想を抱いているようで、カニクリームコロッケのクリームのような白いものこそが至高であると考えているとかいないとか……」
「K&KKか、うむ、いかにも危険思想を持った犯罪者連中、それもウェスタン感じで何よりだ、完全に意味不明だがな」
転移する前の世界で見た西洋映画の敵キャラ、その雑魚敵の中に登場することもあった『白ずくめのやべぇ集団』、そのゴミ野朗に相当する連中がこの世界にも居て、それが今戦っている組織の上層部であるということか。
まぁ、そういう感じの奴等は確実に悪い奴なのであり、むしろ『俺達の敵であること』、そして『世界に害を成す者であること』がわかり易くて非常に結構なことだ。
そういう奴がその辺に居ればかなり目立つはずだし、無関係の一般魔族を誤りで討伐してしまう可能性も低い。
とにかくこの西方新大陸において、『K&KK』の連中は見つけ次第始末していくこととしよう。
ついでにこの件もフォン警部補に伝え、というか明日のうちにはやって来るであろうあの町のPOLICE連中に伝え、その『K&KK』について深く調べて貰うべきだな。
こらは敵幹部の素性を知るための突破口になりそうだし、もしかするとその『元の世界的な悪い奴等』という存在は、俺と同じ『元の世界』を持つ魔王の関与によって持ち込まれたものかも知れない。
その後も2人からは話を聞いていくが、最初のものとその次以上のインパクトがある情報は得られず、尋問会はそれでお開きとなった。
さてこの2人の処遇なのだが、元々は縛り上げて倉庫にでも放り込み、俺達がこの大陸での拠点を獲得し次第、そこでゴミ奴隷としてろくな衣服も着せずに扱き使おうと思っていたのだが……少し事情が変わったではないか……
2人共十分に反省している様子だし、貴重な情報も提供してくれた、あの拠点村で使っている元人種差別主義者の『全裸奴隷』のような扱いにするのはさすがに気が引ける。
もっとこう、少しは丁重に扱っている感が出て、なおかつ犯罪行為に対する処罰もしている感が出せる取り扱いにしなくてはならないのだが……これがなかなか難しそうだ。
まぁ、とりあえず空駆ける船での掃除や洗濯、風呂を沸かすなどの雑用をさせておくこととしよう。
本格的にどうするか決めるのはこの大陸での拠点をゲットしてから決めれば良い。
「よし、尋問も終わったし、お前等を俺達の船に案内してやる、ちなみにPOLICEに突き出しはしないから安心しておけ」
『は、はぁ、ありがとうございます……』
本当に鞭で打たれたりしないのか、まだ疑っている様子の2人であるが、船の中のメンバー、主に動力として働いている15人を見たら絶望するはずだ。
ドMキャラばかりを選抜した動力室では、精霊様の監視の下エアロバイク的なマシンを漕ぎ、動きの悪い者は徹底的に鞭打たれるという世界が確立されているのだから……2人にはそれも、そういう感じにもそのうちに慣れて欲しいものである……
そして翌日、応援要請を受けたあの町のPOLICE達が20人程の群れでやって来た。
これからこの密林倉庫において、証拠品となる違法なモノを捜索、押収するためにである。
だが倉庫内には『まともなモノ』も存在していることがわかっているのだ、それをどう処分するのかを聞いてみたところ……なんと貰ってしまっても構わないとのこと。
ついでにPOLICEと一緒になってやって来た奴隷商人から、これからの路銀となる倉庫作業系犯罪者共の代金が支払われたためウハウハだ。
価値のあるもの、食べられるものを1日丸ごと使って選別し、これからの作戦に役立てることとしよう……




