63 トンビーオ村祭り
「勇者様起きてよ、もう朝なのよ!」
「うるさいセラだな、今日は特にやることが無いんだ、もう少し寝かせてくれたって良いじゃないか」
「あらそう、じゃあ寝とけば? 起きたときにはまたパンツが変なモノに変わっているでしょうけどね」
「それをやったら貴様は一生ノーパンにしてやるからな」
「冬は寒いからイヤよ、それよりもあと1時間ぐらいで朝ご飯が来るわよ」
何だあと1時間って、せめて15分前とかそのあたりで起こせや。
というか俺が起こされたのにまだ馬鹿面で眠っているルビアとマーサが許せない。
他は精霊様を除いて起きているのに、どうして奴隷とペットのウサギが最後まで寝ているというのだ。
熟睡している2人を横に並べ、二人三脚みたいに足を縛っておいた。
これでどちらか先に起きた方が無様にコケるであろう。
「あれ、ミラはどうした? 居ないようだが」
「ミラなら筋肉疲労がどうとかでついさっきお風呂に行ったわよ、疲れてるんでしょ」
ミラは昨日1人で長時間戦ったんだもんな、後で俺がぺろぺろ……じゃなかったマッサージしてあげることとしよう。
「じゃあ俺達も風呂に行ってこようか、精霊様はどうせ起きないからお留守番で良いだろう」
寝ている2人に連続でデコピンを喰らわす。
先に起きて来たルビアが足を取られてひっくり返ったので、抱えてそのまま風呂へ連れて行く。
ルビアとロープで繋がったマーサはなかなか起きない、そのまま引き摺って行こう。
重かったが階段を下りるときにはマーサの方が先に行ってしまった、というか落ちて行った。
さすがの上級魔族も重力には逆らえないらしい、そしてまだ起きない。
「おいマーサ、起きろ、朝風呂の時間だぞ」
「なによぉ、もうちょっと寝かせてくれたって良いじゃないの」
「ダメだ、精霊様みたいになりたいのか?」
「それは困るわね、あの精霊様はもう堕落し切っているじゃない、ああなったら終わりよ」
「わかった、今の言葉は後で精霊様に報告しておこう」
「それだけは許してちょうだい……」
魔将討伐を終え何も気にすることなく過ごせるというのは非常に気分が良い。
明日はトンビーオ村を観光することになっているから、今日は一日中皆を弄り回して遊ぶこととしよう。
「おはようミラ、お疲れのようだな」
「あ、おはようございます勇者様、そうなんですよ、さすがに昨日は疲れました」
「そんな頑張ったミラにはこの勇者から何かご褒美をあげよう、何が良い?」
「え~、じゃあいつも勇者様がやっている尻尾タイムがしたいです、5人並べてもふもふつるつるしてやりたいですね」
「うむ良かろう、尻尾組もそれで構わないな?」
全員の同意を得たのでこれで決まりである、魔将討伐のご褒美は朝食の後に授与されることとなった。
補佐を倒したマリエルと精霊様にも何かやらないとな、まぁ、何も言わなくてもどうせ精霊様が請求してくるだろうしな、そのときで良いや。
大浴場の窓からちらっと海を見ると、沖の方にいくつかの船が居るのがわかる。
目を凝らしてみると、網で魚を掬うだけでなく、空中でキャッチしているようだ。
空飛ぶ魚、というかトビウオ漁が再開したようだな、今夜には振舞われることであろう。
風呂から上がるとジャストタイミングで朝食が運ばれて来ていた。
匂いに釣られて精霊様も起床したようである。
「お、アジの干物だ、昨日餌で使わなかったのが一晩干されて出てきた感じだな!」
「そうさね、沢山あるから焼きながらゆっくり食べると良いだよ」
水分が抜けて旨み成分が凝縮しており、非常に美味しい。
卓上七輪みたいなやつを使って炭火で焼くため、美味さは倍増である。
明日の祭りでは外で巨大なコンロを使って魚や貝、エビなんかを焼くとのことだ、期待しておこう。
※※※
「ミラちゃんがご褒美をもらえるのは当然よね、で、魔将補佐を釣り上げてやっつけたこの水の大精霊様には何かないわけ?」
やはり来たか……
「じゃあ精霊様は何をご所望なんだ?」
「そうね、マーサはミラちゃんに取られちゃったから……マリエルのお尻をぶっ叩きたいわ!」
全くどうしようもない精霊様だ。
「いや待て、マリエルも補佐を倒しているんだ、マリエルは何か望みがあるか?」
「では私は精霊様にお尻をぶっ叩かれたいです!」
全くどうしようもない王女様だ。
「あら、じゃあ決まりね、マリエルちゃんはこっちへいらっしゃい」
「はい精霊様、キツめでお願いしますね」
一方のミラは、ようやく尻尾が乾いてきたカレンとマーサを加えた5人を目の前に並べてご満悦である。
暇になった俺はセラを抱っこし、余っていたルビアとジェシカにおっぱい相撲をさせる。
横綱同士の取り組みだ、ぶつかり合うおっぱいに目が釘付けになった。
「失礼しま~す……何をしているんですかあなた方は?」
魔将スクイードが倒されたことにより公民館での拘禁を解かれたメイが入って来た。
当然、イマイチ状況が飲み込めないであろう、特に5人並べた尻尾タイムは狂気である。
「まずマーサ様達はどうしてそこで四つん這いになっているんですか!?」
「これか? これは勇者パーティー名物の尻尾タイムだ、権利者が5人の尻尾を弄り回すものであるぞ」
「何ですかその行為は? でその次、マリエルさんは叩かれているようですが、何か悪いことをしたんですか?」
「自分で希望した、精霊様もマリエルを叩くことを希望した、以上だ」
「狂っていますね……で、最後にそこのぶつかり合っている2人は?」
「一般に公正妥当と認められるおっぱい相撲だが?」
「それは一般的にやることではありません!」
そうだったのか? 初耳だ、やはり異世界の文化はわからないところが多いな。
「で、今日はどうしたんだ? おっぱい相撲にエントリーしたいならどうぞ」
「そんな闇のゲームにエントリーするはずがないでしょう! 明日の村祭りのことで相談があって来たんですよ」
「ほほう、祭りの神事としておっぱい相撲を……」
「まずそこから離れてください、明日の祭り会場にはコンロが3つ用意されるそうですが、ひとつは空飛ぶ魚として、残り2つの希望を出して下さい」
コンロ2つ分の焼き物か……そうだな、ここに来てから食べた貝類はかなり美味しかった。
1つは貝を使ったバーベキューを提案しよう。
「うむ、まず1つ目は牡蠣やサザエ、ハマグリなんかを焼くバーベキューだな、エビもそこで焼こう」
「ふむふむ、わかりました、もうひとつは何にしましょう?」
「この村にも野菜を作っている家はあるだろう? 野菜とキノコを焼くんだ」
マーサのためもあるしな、一応野菜とかキノコとかも食べておきたいというのもある。
さすがに村の中で全く作っていないなどということは無いはずだ。
これで、明日の祭りでの焼き物は決まった。
メイはこの件を祭りの実行委員に伝えるために出て行ったが、今日の仕事はもう終わりのようだ。
広場に干されているスクイードの頭をサンドバッグにして遊んでるのが窓から見える。
「あふぅっ! もうダメです……」
「あら、皆だらしないわね、この程度で腑抜けになるなんて」
尻尾タイムは、最後まで耐えていたカレンが床に崩れ落ちたことで終わったようだ。
「主殿、こちらも勝負がついたぞ、3勝2敗で私の勝ち越しだ! 何か褒美をくれ」
おっぱい相撲五番勝負はジェシカの勝ちらしい。
ご褒美として、既に1つ外れている胸元のボタンをもう1つ外してやる。
ジェシカはポロリしてしまった。
昼食後も、それから夕食後もアホみたいに遊び続け、遂には風呂でも馬鹿騒ぎを始める。
というかなぜ女将のババールまで一緒に風呂に入っているのだ?
水を吸ったのか元々なのかは知らないが、とんでもなくシワシワだぞ……
「勇者様、明日は朝食の後メイちゃんが迎えに来てくれるそうですよ、午前中一杯で観光だそうです」
「わかった、午前は観光、夕方から祭りに参加だな、今日の夕食ではトビウオはまだだったからな、明日の祭りに期待しよう」
旅館から一歩も出ていないのに、なぜだか凄く疲れた気がする、騒ぎすぎた……
※※※
「皆さんおはようございます、早速トンビーオ村の観光に行きましょう!」
山ガールだ、メイがメイド服を脱ぎ捨てて山ガールの格好になっているではないか。
隣に居たのは山姥かと思ったらババールであった、姿は似ているがコイツは海姥だ、山姥とはまた違った妖怪である。
「メイ、今日はよろしくな、で、まずはどこへ行くんだ?」
「最初は村の遺跡や海賊討伐の石碑、それから伝説の漁師が使っていた船を見に行きましょう」
「ほうほう、それで昼食は?」
「村をひとまわりした後は皆で海へ行って魚を確保します、それを祭り用に設置されたばかりのコンロで焼いて昼食とする予定です」
「なるほど、では行こうか」
正直言って、観光スポット自体はイマイチであった。
おそらくここを訪れる旅人の多くは、新鮮な海産物を求めてやって来るのであろう。
観光客に対する海産物の説明に関しては、元々海に住んでいたメイが改めて勉強する必要は無さそうだが。
「見ろリリィ、アジが一杯居るぞ!」
「本当だ、ちょっと変身して群れごといっても良いですか?」
「ダメだ、取りすぎは良くないぞ、限られた資源を大切にするんだ」
「は~い!」
リリィに好きにさせた場合、この世界の味が滅ぼされてしまう恐れがある。
焼いて良し、揚げて良し、刺身でもいけるなかなか優秀な魚だ、末永く繁殖して頂きたい。
「皆、食べる分だけ釣るんだぞ、乱獲はするなよ!」
俺達はマーサを除く全員でアジ釣りを始めた。
マーサだけは魚を食べない、漁師のおっちゃんに連れられて海に潜り、海藻狩り体験をしている。
釣ったアジを焼いて貰って食べる、塩加減もちょうど良い、最高である。
夕方にはこのコンロでトビウオや貝、野菜にキノコを焼く手はずだ。
「そういえば祭りの間メイはどうするんだ? ここで一緒に酒を飲むのか?」
「いえ、私はイカ野朗やカラカタイさんと一緒にステージで晒し刑にされます、叩いたりしないで下さいね」
王都でもマーサやマトン、それにユリナとサリナを晒した。
どこへ行っても考えることは同じのようである。
徐々に日が陰り、かがり火が焚かれ始めると、村人達が集まって来た。
トンビーオ村祭りの開始だ。
「よう、変態ロリコンイカ野朗、すっかり乾燥したようだな、お似合いだぞ」
『ぐぬぬ、覚えておけ異世界勇者、いつか復讐してやるからな!』
「何だ復讐って、もうお前何も出来ないだろ、あれか、食ったら腹下すとかそういった感じか?」
『とにかくっ! 覚えておくんだな!』
「もう忘れたわ、誰だお前?」
干されているスクイードを馬鹿にしておく、その横に居るカラカタイは既にNPCと化しているのでいじってもつまらない。
そのさらに横には檻に入れられたメイが最初に出会ったときと同じ人魚スタイルで晒されている。
檻の前には『人魚の餌:1つ銅貨1枚』と書かれた箱に干物が入っている。
この商売方法はパクろう、今度可愛い女の子の魔将とかを王都で晒す際には、カラーボールなどではなくこういうのを設置すべきだ。
「勇者さん、良かったら餌を購入して下さい、食べさせてくれたら追加サービスがありますよ!」
小さい干物だったので3つ購入してやった。
餌を食べさせると頭を撫でさせてくれるメイ、売上を伸ばすためにはこういうサービス精神も重要なのかも知れない。
「ねぇ勇者様、遂に空飛ぶ魚を焼き始めたわよ、早く貰いに行きましょう!」
トビウオも、それからアゴだしのスープも堪能することが出来た。
スープには具が野菜だけのものもあり、それはマーサも美味しく頂くことが出来たようである。
『さぁ~始まりました、トンビーオ村主催、力比べ大会、優勝商品は超良い酒です、参加を受け付けていますから、腕に覚えのある方はお早めに!』
力比べ大会とはどうやら、パンチングマシンを使った戦いのようだ、激アツである。
「おいマーサ、確実に酒を取って来い、新しいスキルの実験もするんだ!」
「この魔法少女4号、物理魔法のマーサちゃんに任せなさい!」
理解不能ではあるが頑張って欲しい、勇者パーティーの中で一番パンチ力があるのはマーサで間違いないからな。
新たに得たスキルを使ってゲームに挑戦するマーサ。
パンチングマシンは、まるで砂で出来ていたかのごとく粉々に砕け散った。
ちなみにこれは失格とのことである……
「軽く打ったのにあんなに威力があるなんて思わなかったわ、ごめんなさい、失格だって……」
「マーサちゃん、この水の大精霊様の供物とすべき酒を取り損ねるなんて、どういうつもりかしら?」
「うぐぅっ……誠に申し訳御座いませんでした!」
「それとマーサは今朝も精霊様のことを堕落した何とかって言っていたよな?」
「まぁっ! それは聞き捨てならないわね、事実であっても名誉毀損なのよ!」
堕落しているという自覚はあるのかこの水のダメ精霊様は……
先程の賞品となっていた超良い酒は、普通に即売所でも売られていた。
精霊様のためだけでなく、皆のためとしてパーティー資金で購入しておこう。
というか今振舞われているのもこれか、なかなか美味いな。
徐々に酒が回り、ルビアが服を脱ぎ出した。
今日はこのぐらいにして旅館に戻ろうか、これ以上居るとカオスになる。
魔将も倒したし海の幸も堪能した、そろそろ王都へ戻って日常生活を再開することとしよう。
その日は、祭り会場で寝てしまったカレンを抱え、酔っ払ったルビアの手を引いて旅館へ戻り、早々に眠りに就いた。
※※※
「勇者様起きてよ、もう朝なのよ!」
「うるさいセラだな、今日はもう帰るだけなんだ、もう少し寝かせてくれたって良いじゃないか」
「あらそう、じゃあ寝とけば? 起きたときにはまたパンツが変なモノに変わっているでしょうけどね」
「それをやったら貴様は一生ノーパンにしてやるからな」
「春になったらお願いするわ、それよりももう朝御飯が来るわよ、この村では最後なんだから、きっちり食べておきましょ」
その日の朝食は夕食並みの豪華さであった。
眠たい目をしていたメンバーも、それを見て一気に目が覚めたようである。
いびきをかいて寝ていた精霊様も、パッと目を開けると2秒で着席する。
この村の食事はなかなかのものであった、また休暇が取れたら遊びに来ることとしよう。
マーサやユリナ、サリナにしても、たまにはメイと会いたいだろうしな。
食後はゆっくり風呂に浸かり、旅支度を整えて村を後にした。
手を振っていた村人達の姿が徐々に小さくなっていき、完全に見えなくなる。
お土産は盛り沢山だ、ウチだけでは食べきれないから近所や王都の仲間達に配ることとしよう。
「ところで魔法少女隊は帰りの馬車でもその格好なのか?」
「当たり前よ、いつでもどこでも魔法少女なのよ、というか緊急時に着替えている余裕など無いでしょう」
今は御者台にはルビアが座っている、座席の方で俺の正面に座っているジェシカの魔法少女服は、スカートが短くパンツが丸見えである。
電車だったら即アウトの状態だ。
「主殿、ずっとこちらを見ているようだが、私に何か付いているのか?」
「ああ、可愛いパンツにイチゴ柄が付いているぞ」
「そうか、見苦しいものを拝見させてしまったようだな、罰としてもっと見てくれ」
「わかった、ではパンツを脱いでこちらに寄越せ、手元でじっくり眺めてやる」
「いや……それはちょっとな、さすがに恥ずかしいぞ」
「何だ、俺の正当な要求を拒否するのか? なら仕方が無い、助けて精霊様~っ! 魔法少女6号が悪堕ちしたぞ~っ!」
「何っ!? それはけしからんわねっ!」
悪堕ち魔法少女ジェシカは成敗されてしまった。
おっと、パンツが飛んで来た、ありがたく頂いておこう。
「ジェシカちゃん、そろそろ御者を交代してください、何だか眠くなってきました」
「いや、それがだな、今ちょっとスカートの裾を押さえていないと大変なことになるんだ、主殿、パンツを返してくれ!」
「それは無理な相談だな、精霊様、ジェシカのために新しいパンツを支給してやってくれ、一番小さいサイズをな」
「あの……パッツパツなのだが……これじゃ余計恥ずかしいぞ!」
そのパッツパツパンツを見せつけて不当をアピールしてくるのだが、その行為自体が恥ずかしいことには気が付いていないようだ、馬鹿な奴め。
そのままルビアと御者を代わらせ、風に捲れるスカートからチラチラ見えるのも堪能させて頂いた。
「全く、かわいそうなことするわねっ! ところで勇者様、あのイカの奴に次の魔将のこと聞かなかったわよね、その辺はどうするの?」
「ああ、スルメにされてもあれだけ強気だったんだ、食べ易いように刻んだとしても口を割ったりしないであろう、でも良いさ、またすぐに情報が出るだろ」
「じゃあ次の魔将が出てくるまでは何をしていようかしら?」
「さぁ、特に考えていないな、まったりしておけば良いだろう」
ゆうれい魔将 レーコの軍によって破壊された王都はまだ復興の途上である。
だが、現時点で俺達に何か出来るかと言うとそうでもない。
王都に戻った後は今回の件を報告し、しばらく様子を見ておこう。
何か面白い事件があったら首を突っ込むのも悪くはないな、ただし面倒臭そうなのは除く。
「そうだご主人様、帰ったら冒険者ギルドにも行って見ましょうよ、何か面白いものがあるかもしれません!」
「そうだなカレン、冒険者ギルドなら金も貰えるし、ついでに携帯食も補充しておきたい、帰ったら一度寄ってみるか」
「あの……私とサリナ、それからジェシカはその冒険者ギルドというのに行ったことがありませんわ」
「そうだったな、お前ら3人も一応登録だけしておこう、身分証明は多ければそれに越したことはないからな」
その日は行きと同じ宿に泊まり、翌日も馬車を走らせる。
夕暮れ時、ようやく王都の城壁が見えてきた……




