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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十一章 備えあれば
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624 正体発覚と逃亡

『いよいよ接触しました両チーム! どちらも決め手に欠け、このまま勝負が長引きそうですっ! なお、前回は主に武器などが奇抜すぎて没収試合となったウェスタンチームですがっ! 今回はまだそういうような動きを見せてはいませんっ!』



「やっぱり何かヘンだよな、セラ、ちょっと様子を見ようぜ」


「ええ、でも私はミラのフォローがあるからそんなには……」



『あぁ~っと! ここでウェスタンチーム! カウボーイ風の選手が何かを投げたっ!』



 ミラと接触していたカウボーイ風の敵、それが何か玉のようなものをパッと投げると、それが光り輝いて目潰しになる。


 だがここまで防戦一方、敵の攻撃をどうにか止めることしか出来ていなかったミラは、その不意打ちに対して先に反応し、楽々と回避してしまった……いや、そのキッカケを作ったのはエリナによる実況なのだが……



「……!? ちょっと何なのよ今の? エリナちゃん、敵の次の一手を予言していたわよっ!」


「ああ、これは間違いないな、俺達は何らかの方法で、というか昨日も使ってきていた幻術的な力を帯びた霧か何かだろうが、『ワンテンポ遅れた光景』を見せられているんだ」


「で、遠くの放送席に居るエリナちゃんにはそれが届いていないと、だから私達よりも先に動きがわかったのね」


「そういうことだな、ちなみにあのカウボーイ風野郎の急加速、あのタイミングで何かされていたのはもう間違いなさそうだ、じゃなきゃあんなスピード、エリナが大騒ぎしているはず」



 敵の強さの仕組みはおおよそわかった、今カウボーイ風と戦っているミラには敵が物凄い反応速度で動いているように見えている。


 そして残りの3匹が投げて寄越す氷の針を止めているカレンには、その投げるモーションと自分の所へ到達するタイミングが合わず、これまた超高速で飛来しているように見えているはずだ。


 だがミラもカレンもキッチリと攻撃を受け止められていることから、この『ワンテンポ遅れ』が発生するには、対象になるものとある程度の距離を保っていなくてはならないということ。


 その『間合』を把握することさえ出来てしまえば、この術を打ち破って敵に直接的な攻撃を仕掛けることが出来るのではないか……



「カレン! その受け止めている針! 急にドロンッと現れたりしないか? 消える魔球みたいにだっ!」


「そうですっ! 向こうで投げたと思ったらもうここっ! ほらここまで来ているんですよっ! 本当に受け止めるのが大変です……」


「そうかわかったっ! およそ50cmってとこだな……ミラ! もっと間合を詰められるかっ?」


「ええ、でもあまり詰めすぎるとこの薄気味悪いおじさんと接吻してしまいそうですっ!」


「おうそりゃいかんな、まぁそこそこ近付いて戦うんだっ! 敵よりも敵の武器! しかも自分に近い部分の起動を見て戦えっ!」


「わかりましたっ、ちょっとゃってみますねっ!」



 と、指示通りに動いたところでミラの劣勢がそれとなく均衡へ、いやむしろ優勢へと変わっていく。

 そしてこちらの指示が聞こえ、やはりワンテンポ遅れて焦ったような顔をしたカウボーイであった、これはアタリということでよろしいかな。


 いや、それでも遠距離から攻撃されているカレンの苦労は変わっていない。

 アレがそのままミラを狙い出したとしたら厄介だ、また劣勢に、いや今度はやられてアーマーブレイクしてしまう。



「そうだセラ、攻撃じゃなくてさ、ちょっとこのあたりの空気を吹き飛ばす感じで魔法が使えるよな? 毒を撒かれたときに吹き飛ばす感じだ」


「いけるわよ、確かにそうね、きっとアイテムを使ってこの状況を作り出しているんだわ、機能サリナちゃんが感じたものと同じ、私達には全然わからないけど」


「うむ、幻覚めいたものを見せられていることだけはもう間違いない、でもそれが『霧』によってなら風魔法には弱いはずだからな」



 ということで風の、空気の壁を使ってその空間全体に舞っているものを全て遠くへ押しやるセラ。

 敵が用いているであろう謎のアイテムも、そしておそらくは俺がコッソリこいた屁も、その空気の移動によって敵側に移動していったはずだ。


 無味無臭、本当にそこにあるのかどうかさえわからないその『霧』なのだが、セラが用いた魔法の風を感じたのであろう敵がサッと身を退く……



「チッ、馬鹿そうだから気付かないと思っていたが、ここでようやく気付いたみたいだぜ」

「神はお怒りになるでしょう、この低俗なゴミに」

「タイミングの悪いことですな、いやしかしこの愚民らしき者共が気付くとは」

「拉致して埋めるしかねぇようだな、組織の力を使って……」



 ここにきて初めて、と思ったのはこちらもだ、遂に言葉を発しやがったではないか、最初はカウボーイ風、そして宣教師風、紳士風、マフィア風と、順番にコメントしていった……というか喋ることが出来たのだな……



「おいお前等! ひとつだけ聞いておくが、どこから来て何をしたいんだ? あとどうして対戦相手を殺して回っている? どうして強盗めいたことをしていた? あと昨夜俺達の屋敷へ襲来したようだが、どうやって居場所を掴んだ? その件に関する謝罪等は? それにその恰好は何だ? 馬鹿なの? いつ死ぬの?」


「複数じゃねぇかこのボケッ! だがまぁひとつだけ答えてやろう、俺達は逃げて来たんだ、遥か西の西方新大陸からな」


「逃げて来た? どうしてだよ、比較的強いように思えるんだが?」


「俺達の組織の仲間がもっと巨大な組織の奴等に誘拐されて、ついでに殺されちまったんだ、そう、ポリスにな」


「普通に逮捕されて処刑されてんだろそれ、で、その逃亡犯罪者がどうしてこんな所でこんな目立つ大会に出場しているんだ?」


「フンッ、リッター7㎞しか走らない『ウェスタンなマシン』で逃げて来たからな、少し金を稼がないと素寒貧なんだよ、ちなみにマシン燃料は『バーボン』だ、それを魔法で豪快に燃やしてエネルギーをゲットする、どうだ実にウェスタンだろう?」


「なんとっ⁉ てかカウボーイならウマとかウシとかでどうにかしろよな……」



 とにかく、とんでもなく「ウェスタン」な連中であり、そしてポリスに追われるような極悪人であることが判明した。

 平気で強盗を働いたり、試合の勝利報酬であるたった5枚の銀貨のために、相手を暗殺してしまうというのも頷ける属性のゴミ共のようだ。


 いや、相手を暗殺しているのは金のためだけではないな、きっと西方の技術をふんだんに使った戦闘を展開しなくてはならないため、実際に試合をして目立ってしまうよりも、多少不自然であっても不戦勝になるという状況を作出した方が遥かに良いとの判断なのであろう。


 それが今大会の、運営側である国が儲けたいがためのガバガバ審査基準によって放置され、ここまで被害が拡大したうえに、本日の俺達の寝不足という事態まで引き起こされているのだ、国家賠償モノだな……



「カウボーイ、そろそろこの神に抗う不届者どもから離れるべきです、『シャブ』の存在がバレた以上危険になりますよ」


「そうだな、悔しいが今回は銀貨1枚だけで我慢だ、あばよっ!」


「おいちょっと待てっ! 『シャブ』って何だよおいっ! 俺は構わんがミラに、カレンに何嗅がせたんだよっ⁉ 背が伸びなくなったりしたら……まぁもう伸びないか……」


「ご主人様、どうしてこっちを見てそんなこと言うんですか? 引っ掻かれたいんですか?」


「いや、別にそういうわけではなくてだな……ぎょぇぇぇっ!」


「わぅぅぅっ、ご主人様には罰として後で串焼き屋台の一番良いお肉を……あ、逃げたっ!」



 仲間割れしている間に走り去って行く敵のウェスタンチーム、それに気づいたカレンが俺への攻撃を中止し、パッと駆け出して追跡しようと試みる。


 だがまたしても凄まじいスピード、また何か、というか危険物を使われたようだ。

 おそらくはシャブがどうのこうのという話をしている間には、もうとっくに逃げ出していた、『あばよっ』とか言っていたしな。


 で、それが今になって『シャブ』の効果範囲から出た、或いはそれ自体の効果が切れるなどして、真実の姿として見えたというだけなのであろう。



「どうする勇者様、さすがにまだ会場からは出ていないと思うし、実況を聞けば居場所がわかると思うけど、追う? それともこのままタイムアップを待つ?」


「う~む、出来れば他に被害の出ないこの会場内で殺しておきたいんだが……それをやると不意を突かれて敗退、なんてことになりそうなんだよな」


「まぁ、その可能性はあるわね」


「となるとだ、王都民の安全と俺達の勝利、どちらが重いかを天秤に掛けることに……いや、確実に後者の方が重要じゃないか、ここはこのままタイムアップを待って、奴等は後で、その辺でバトルしてブチ殺そうか」


「じゃあそうしましょ、正義の味方としては非常にカスな行いだけど」


「いえ、これもう正義の味方を名乗る資格がないんじゃ……」


「お腹空きました」



 やる気を出し、1人で勝手に戦いだしてしまうかに思えたカレンが、空腹を訴えてその場に座り込んでしまった。

 これであればタイムアップまで待つことが出来そうだ、念のため警戒を怠らず、ターゲットを守りながら待機しよう……



 ※※※



『さぁっ、どういうわけかスタート地点に戻ってしまったウェスタンチーム! オフェンス側なのに全く戦う気がありませんっ! そしてもちろん場内からはブーイングの嵐、あっ、ゴミは投げないで下さ~いっ!』


『観客のマナーが悪いですね、これは完全にウ〇コです。しかしあのウェスタンファーザーズチームとやら、というかカウボーイ風の男ですね、突如劣勢に回ったかと思ったら逃げ出して、そこから全く動かないとは情けない』


『このままでは殺される、そう判断したのでしょうか? 噂によると昨夜、大勇者様チームの本拠地である勇者ハウスに侵入者があったとのことですし、ウェスタンチームは黒い噂も絶えませんから』


『ええ、この試合の前に両チームのデータには目を通しましたが、これは間違いなく殺っているでしょうね……』



 もはや観客のブーイングをBGMに実況を聞くだけの時間になってしまった今回の試合。

 もちろんその罵声の大半は、このままでは負けるにも拘らず自陣で時間潰しをしているウェスタンチームへのもの。


 しかし時折『勇者死ね』が聞こえてくるため油断ならない、この状況を一部俺のせいにされてしまったのではひとたまりもないな。


 とはいえ今は待ち続けるしかない、時間を告げる砂時計は残り僅かで落ち切るのだ、そこまで待てばこの退屈で、そして観客の悪意が降り注ぐ苦痛の時間が終わる……



『3、2、1……っと、ここでタイムアップですっ! ウェスタンチーム、どういうわけか負け確定の行動を取ってしまいましたっ! ということで勝利したのは大勇者様チーム……おや? ウェスタンチーム、空を見上げて何やらパニックになっているようですが……』


『西の空に何か見えますね、乗り物……でしょうか? とにかくこちらへ向かっています』


『本当だぁぁぁっ! なんと西の空に未確認飛行物体! それを見てパニックに、いえダッシュで逃げ出したウェスタンチーム! 何なのでしょうかっ? 比較的強いはずのウェスタンチーム、この会場でなければ不思議な武器を使って戦うことの可能なウェスタンチーム! それが試合後の挨拶もせずに逃げ出すとはぁぁぁっ!』



 ここで急展開、確かに焦った様子の敵は、俺達そっちのけで会場内、王宮前広場を模したエリアにある入退場口から逃げて行ってしまった。


 取り残された俺達、ミラが指差しす西の空に浮かぶ謎の飛行物体……アレは極東遠征の際に技術者が乗っていたもの、俺が勝手に『虚舟うつろぶね』と呼んでいるものとほぼ同じではないか? まぁ、その姿かたちはまさにUFOそのものなのだが……



「技術者の人が乗っていたものよりもちょっと大きいですね、西から来たということはあの連中と何か関りがあると考えて良さそうです」


「あ、こっちへ来ますよ、絶対ここに来るつもりです……」


「そういう挙動だな、さて鬼が出るか蛇が出るかといったところだな」


「食べ物を持っていたら分けて貰いましょう、お腹空きました」



 もはや腹が減ったこと以外頭に浮かばない様子のカレンにはもう少し我慢するよう伝え、とりあえずその飛行物体の到着を待つ。


 先程まではかなりのペースで接近していたのだが、ウェスタンチームが完全に逃げ出し、見えなくなった後はペースを落とした。


 そのことからも、飛行物体が奴等を狙ってここへ向かっているのは明らかなのだが、敵の敵は味方なのか、それとも敵の敵でもある新たな敵なのか、その答えを秘めた飛行物体が今俺達の真上に到達、徐々に高度を下げ始めた……



 ※※※



「来やがったか……あ、『POLICE』って書いてあんな」


「勇者様、POLICEって何なわけ?」


「う~ん、まぁ王都でいう憲兵みたいなものさ、軍の中の組織じゃなくて一般の警察組織だけどな」



 そういえばカウボーイ風のが言っていた、仲間がPOLICEに誘拐されて殺害され、それで東へ逃げて来たのだと。


 となるとこのPOLICEは連中を追って来たPOLICEなのか、一応は味方の可能性が高いな……と、降り立った飛行物体から人が姿を現した……いやいや、明らかに『刺股のようなモノ』をこちらに向けているではないか、敵意剥き出しである……



「動くなっ! よしお前等、絶対に動くんじゃねぇぞこの犯罪者共めがっ! 『組織』の連中をどこへ逃がしたっ?」


「知らねぇよ馬鹿、俺達は連中の仲間じゃねぇし、そもそも昨夜殺されかけたぐらいだ、あと、無関係のイベント参加者を何人も殺しているのが確実だぞ」


「フンッ、そんなウソに騙されるとでも思ってんのか? 黙っていると半殺しにして……」


「やめておけこの馬鹿が、その者達が組織の構成員である可能性は極めて低い、手配リストにも肖像画がない」


「やっと話の分かる奴が出て来たか、おいおっさん、そっちの馬鹿そうな馬鹿は下げてくれよ、危なっかしくて仕方ないからな」


「承った、ということだ、おい馬鹿、お前ちょっと後ろに居ろこの馬鹿! 馬鹿!」


「へいっす、すいやせんっした」



 血気盛んな若いPOLICEを引っ込めさせ、髭を蓄えた偉そうなおっさんPOLICと対話を……係員が来てサッサと退場するよう言われてしまったではないか。


 この状況においても大会の進行優先とは畏れ入るが、こんな目立つところでこのわけのわからない連中と話していても仕方がない。


 そうだ、どうせこの飛行物体から降り立ったPOLIC達、ウェスタン野郎共と同じ4人なのだが、こいつらもどうせウェスタンから来たことが確定なのだ、もっともそれらしい、俺達のドライブスルー専門店に招待して話を聞くこととしよう。


 もちろん最初にデカい態度で臨んできた馬鹿、奴に関しては食事の提供はナシ、いや残飯を口に詰め込んで窒息死させてやるべきだな、非常にムカつくし殺してやりたい。


 ということで移動、注目を浴びつつ会場を出て、付いて来る野次馬共から逃れるようにしてドライブスルー専門店へと向かった……



 ※※※



 ドライブスルー専門店では突然の大量注文をブチかまし、眉を顰めるコリンをシカトして食事などしつつPOLICE達の話を聞く。

 ちなみに生意気な下っ端馬鹿野郎は地面に正座だ、座布団が針のムシロでないだけあり難いと思って欲しい。



「それで、われわれの目的なのだが……」


「んなこんわかってんだよボケが、あの4匹を追って来たPOLICEだろう? 西の新大陸ってところから来た」


「うむ、我等にとってはこちらの方が新大陸なのだが……今はその話をしている時間が惜しい、我等西のPOLICEに協力してくれ」


「いや意味がわからんぞ、俺達は今重要な金儲……じゃなかった魔王軍襲来に備えた訓練大会をしているところなんだ、お前等のような素性の知れない馬鹿共の相手をしている暇じゃないんだよ。ということだ、ウェスタンチームを追うのは勝手だし、俺達も奴等をブチ殺したいががな、互いに不干渉ということでヨロシク、以上解散となりますさようなら」


「連中はおそらくもうこの町には居らぬ、もし殺したい、恨みを晴らしたいというのであればだな、我等に協力することによってその居場所や素性、それに奴等の所属する組織の危険性、その他諸々の情報が盛り沢山に詰まった夢のような裏情報の総合庁舎が今宵あなたの下へ……」


「夜は寝てるから来るんじゃねぇよ……でだ、おいセラ、どうするこいつら? もしかしたらあのキナ臭い連中と、さらにそのやべぇ仲間の情報源になるかもだぞ」


「そうね、一旦王宮への紹介状でも渡しておいたらどうかしら? 今は大会に集中したいし」



 ミラもそのセラの意見に賛成のようだ、とりあえず紹介状は……カレンに書かせよう、この連中を紹介するのにはカレンの汚い字で十分だ。


 ということで『はなしをきいてやってください、おねがいします、ゆうしゃより』と書かれた紙切れを1枚用意し、それに俺のサインを付して手渡してやる。


 王宮の場所はさすがに見ればわかるはずだし、後のことはババァ総務大臣に任せてしまおう。

 俺達はこのまま大会を、既に3戦連勝し、決勝に最も近い存在となった大勇者様チームとして戦い抜くのだ……


 その翌日、4戦目、5戦目の不戦勝が確定した状態のウェスタンファーザーズチームが失踪したこと、そしてその結果を引き継ぐかたちで、新たに『ウェスタンコップチーム』が飛び入り参加したことが運営から発表されたのであった。


 王宮め、POLICE達の捜査に俺達が協力する見返りとして、あの4人のポリスメンがこの大会に参加するように仕向けやがったな。


 きっと大会終了直後に俺達が駆り出され、今度は西方、西の中の西へ旅立つことになりそうだ。

 魔王軍との戦いもあるというのに、どうして俺達ばかりこんな目に……いや、今は目の前の大会に集中するのであったな……

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