622 連続不審死事件
「おいっ! とにかく緊急作戦会議だっ! 前回のインテリノ達もだったが、次もマジで普通にヤバいぞ、これはガチだっ! 本当にリアルでなっ!」
「勇者様、焦ると言葉が崩壊する癖があるわよね……」
「いやだってよぉっ、あんなわけのわからん連中と戦うことになるんだぜ、しかも明日だし、これは緊急でどうにかする方法を考えないとダメだろうに」
昼食後、屋敷に取り残されたのは俺のチームだけであった、マーサのチームは午後に試合があるため会場へ移動。
そしてその試合が始まるまでの時間、精霊様とルビアのコンビは町へ出て、その辺のチンピラ相手に『摺り合わせ』をするとのことだ。
すぐに聞こえてくる轟音と悲鳴、精霊様が付近で屯していたチンピラ軍団を発見し、死なない程度に攻撃、ルビアが回復させて精霊様がまた攻撃……というような残虐行為を繰り返しているらしい。
今日の最終戦である次の試合、2人はディフェンス側に回るからな、制限時間一杯まで敵チームを苦しめ、タイムアップと同時に殺害するつもり、いや演出のためにそうするよう頼まれているのであろう。
運営側もそのために、そのためだけに調整して精霊様の出場する試合を、後の詰まらない最終戦に持ってきたはずだからな……
と、そんなことはどうでも良い、今はただ、俺達があのウェスタンだか何だかという連中に勝利するための有効な手立てを、なんとかして明日までに確立しておかなくてはならない。
あの明らかに『異世界の技術』、つまり俺が転移する前に住んでいた世界の兵器を『魔導化』したものについては封じられたが、それでもカウボーイに関しては、少なくともΩ以上の個別戦闘力を誇っていたのである。
俺達はあの試合のコパー達と同じポジション、即ちディフェンス側としての出場だ。
もし万が一、奴等荷更なる隠し球があれば、簡単に突破されてターゲットを破壊されてしまう。
打ち勝つためにはまず調べ上げることが必要だな、どうしてあのような武器を所持していたのか、そもそも奴等が西……とはいえ広い西域のどこから来たのかも不明なのだ。
敵を知り、己を知れば何とやらと良く言われるが、己が、己達がたいして賢くないことぐらいは重々承知。
あとは敵を知ることによって次の戦いでの活路が見えてくるに違いない……
「まずさ、奴等を捜し出してどういう行動を取っているのか見ておこうぜ、物陰とかからコッソリとな」
「まぁ、マーサちゃんたちの試合に間に合うのなら構わないわよ」
「どうせまだ会場の近くに居るでしょうから、そちらを探せばすぐに見つかりそうですね」
「サンド! 肉肉肉サンドが食べたいですっ! 先にお店の方に寄って行きましょうっ!」
「わかったわかった、じゃあドライブスルー専門店に立ち寄りつつ会場を目指そう、一応すれ違いにならないよう、北門をずっと監視しつつだがな」
結論から言うとカレンの食いしん坊的主張のお陰で助かった、ドライブスルー専門店へ向かったところ、ちょうどターゲットとなるウェスタンの連中が立ち寄って……うむ、宣教師風のが店長をしているコリンに刃物を突きつけているではないか、客ではなく単なる強盗ということだな……
4人全員がその状況を認識し、素早さの高いミラとカレンがサッと駆け出した。
敵もそれに反応、コリンを脅している宣教師風以外の3人、いや3匹が例の『拳銃のようなモノ』を取り出し、応戦する構えを取る。
「ミラちゃん、たぶんあの魔法の筒で攻撃してきますよっ!」
「大丈夫、さっき見ていたけど、アレは弓矢とかと一緒でまっすぐにしか飛ばないみたいだわ、魔法なんて呼べるシロモノじゃないみたい」
「あ、それなら簡単です、あの穴が空いている所から鉄の玉が出るから……そこからまっすぐの場所に居なければ良いんですねっ!」
「正解よ、仕組みがわかってしまえば恐くないわ、あんなモノちょっと変な見た目をした単なる筒、奪って川に沈めて、ドジョウとかウナギでも捕まえるのに使うわよっ!」
「わうっ! ウナギ大好きですっ!」
こうなればもう楽勝である、もちろん『拳銃のようなモノ』に対してのみだが。
とにかく凄まじい勢いで飛んで来る弾丸をアッサリと回避した2人は、そのまま宣教師風に詰め寄り、斬り付ける。
最初に届いたのはミラの攻撃、敵の攻撃を大きく回避したカレンよりも早かったのだ。
もちろんその一撃でバッサリと斬れる宣教師風、地が迸り、これは確実に死んだと思わせる……どういうわけかそのまま逃げ出したではないか。
そのタイミングで、つい今の今までコリンを脅して売上金なり何なりを奪おうとしていたカウボーイ含む他の3匹も逃げ出す。
速い、とてもではないが追跡が出来るスピードではない、カレンよりも、そしておそらくマーサよりも走るのが速いとはどういうことだ? そんな人間、この世に存在するはずがないというのに……というか宣教師風がピンピンしているのもどうかと思う……
「ちょっと勇者様どうすんの!? アイツ千切れそうな状態のまま走って行くわよっ!」
「いや俺にそんなこと言われてもな……あ、ミラ、足元に何か落ちてんぞ」
「あら、これは何でしょうか? 丸い……カプセル? 中は空っぽのようですが……」
「わうっ、私達が近付いたときに仕込み杖の人が投げてました、ミラちゃんが攻撃する前です」
「……となるとこれは何か奴等の逃亡を手助けするアイテムだったのかな? 俺じゃわからないし、後でエリナに……いや、アイツも相当に忙しいか、どうしよう?」
「ご主人様、とりあえずお肉の注文を」
敵の存在やその敵が使用した謎のアイテムよりも、まずは腹拵えをすべきだと主張したい様子のカレン。つい先程昼食を取ったばかりなのは言うまでもないが、とりあえず刃物を突きつけられていたコリンの安否確認も兼ねて肉を買ってやろう、いやタダで貰ってやろう……
「ということだコリン、肉肉何ちゃらのサンド1つ、いや2つは食うだろうから2つだ、それで、刺されたりしてない?」
「ちょっとっ! 私の心配よりも注文の方が先なわけ? まぁすぐにご提供するけど、今の連中は一体何者だったのかしら?」
「良くわからんが俺達の明日の対戦相手なんだ、ちょっと監視してやろうと思ったんだが、完全に敵だし今から追っても絶対に追い付けない、何者なのかはこっちが知りたいぐらいだ」
「そうだったのね、あ、はい肉肉肉サンド2つお待たせ、それでね、あいつら普通に注文して、商品と引き換えに代金を払ったの、銅貨で」
「ほうほう、唐突に奴等に関する情報を喋りだしたな、で、続きをどうぞ」
「それでね、でもその銅貨、一度目を離して次に見たときには単なる石ころになっていたのよ、それがバレた途端に強盗に早変わりしたわ、最悪お昼の分のまとまった売上金を持って行かれるところだったわ」
「なるほどな、どうも幻術的な技を使う奴が含まれているみたいだな……仕込み杖の紳士風の奴か……まぁ、何にせよ俺達が来なかったらヤバかったんだ、最大限に感謝して、これからも一生俺のために尽くせよ」
「イヤよそんなのっ! てかちょっとぐらい休ませなさいよねっ……って、あいたっ!」
助けてやったというのに生意気なことを言うコリンには強デコピン攻撃を喰らわせておき、カレンが全部肉だけで構成されたサンドらしき何かを食べている間に、ひとまずこれまでに手に入った情報を整理しておく。
まず第一に、直接戦闘で強いのはあのカウボーイ風の奴、そして仕込み杖の紳士風は幻術使い、ないし幻術系のアイテム使いだ。
残りのマフィア風、宣教師風についてはまだ実態がわからないのだが、ミラの気付きにより奴等の持つ『拳銃のようなモノ』に関しては対策が完了した。
まさか『敵が発砲してきたのを普通に回避する』などという発想が出てくるとは思わなかったのだが、それは俺が『銃火器・アズ・ナンバーワン』であり、撃たれて避けるのはフィクションの中だけという世界からここへやって来たためだ。
そんなものを見たことがない、最強武器だなどとは思っていない元々この世界に生きる人間であれば、避けられるのであれば避けてしまおうという考えが簡単に浮かぶのである。
「さてと、逃げられたようだが奴等が完全にやべぇ連中だということだけはわかったな」
「でも勇者様、あの逃げ足はさすがに異常ですよ、幻術を使って、素早く移動しているように見せただけかも知れません」
「……その可能性がないとは言えないな……いや、今はもうさすがに遠くへ逃げただろうが、次の機会、こういう流れになったらワンチャンだぞ、逃げ切ったと見せかけて近くに隠れているのを急襲出来るかもだ」
「そうね、じゃあもし次、逃げられたと思っても『捜す』ことにしましょ、無闇に追いかけたり……いえ、こっちの作戦がバレないように2人は追って、残りの2人で捜索した方がよさそうね」
その場で相談した結果、やはり4人の中では『明らかに足が速い』ミラとカレンがそのまま追跡し、俺とセラで付近の隠れられそうな所、ゴミ置き場や薄汚い公衆便所の中まで徹底的に捜索することに決めた。
もちろんミラとカレンの追跡はフェイク、ある程度まで走ったらコッソリと戻り、捜索班の方に参加する流れだ。
まぁ、もちろんそれで発見したとて捕まえられる、または殺害出来るとは限らない。
また幻術めいたものを使って逃走を図るはずだし、最悪もっと危険極まりない武器を使用され、普通に逃げられるという可能性もあるにはある。
とにかく油断ならない連中だ、このまま明日の試合に臨むのは危険だし、何らかの対策を……と、そうだ、運営に言いつけてやろう、奴等がヤバめの犯罪者だということを、そして普通に失格にさせてしまえば良いのだ……
※※※
「えっと、普通にダメです、いかなる理由があろうとチームを失格にして、それを大会から排除してしまうことは出来ません」
「何でだよっ!? 強盗してたんだし、変なアイテムを使って攻撃してきたんだぞっ! あと午前中の試合、これも使用が認められない武器を持ち込んで没収試合になったんだ、参加者名簿から除名にするのに十分な理由が揃っていると思うのだが?」
「それでもダメです、そもそも今大会はそういう大会ですから、普通であればもうとっくに死刑執行を迎えているはずの凶悪犯罪者であってもですね、大会期間中、大会参加者である限りはその期限が延期されているんです」
「だからどんな犯罪者でも失格にはしないってのか?」
「ええ、明確に大会を破壊する意図がないかぎり、その者には王国に損失を被らせる計画があると認められない限りは失格になりません、犯罪者でも死刑囚でも、それこそ墓から蘇ったゾンビであっても参加し続ける資格があります」
「……話にならんな、きっととんでもなくやべぇことになるぞ、大丈夫なのか?」
「それはまぁ……私ではなくて上層部が責任を取りますから、別にどうなっても良いかと思います、それで王国が財政破綻したとて、私は給料分の先取特権を主張して満額の支払を受け、別の国に行って悠々自適に暮らすだけですから」
「・・・・・・・・・・」
愛国心の欠片もないサービスカウンターのお姉さんと話していても無駄なようだ。
というかそろそろマーサ達の試合が始まって……と、そのマーサが会場の方から出て来たではないか、試合のために選手控え室に居なくても良いのか?
「お~いっ! どうしてそんな所に居るんだ~っ?」
「あっ、見てっ、あそこに皆居るわよっ! お~いっ!」
出て来たのはマーサだけでなく、ユリナ、サリナ、そしてジェシカは次の試合の申し込みをしているようだ。
それで、寄って来た3人から話を聞く限り、どうも次の試合、対戦相手が全員死亡してしまったため不戦勝となったとのこと。
つい先程までは控え室に居て、普通に次の試合が始まるのを待っていたのに、係員が来て会場へ移動だと思ったところで不戦勝を伝えられたらしい。
……いや、このチームだからこそ普通に帰って来ているが、戦いたいカレンであれば駄々を捏ねて会場入りしてしまっていたはず、不戦勝になったのが迷惑にならないメンバーで本当に良かった。
「それで、対戦相手はどうして死んでしまったんだ? また寿命なのか? ジジィだったのか?」
「違うのよ、ちょっと前まで近くに居たのに、そろそろ時間ってとこで控え室に来てないから係りの人が捜しに行ったんだって」
「それで会場の横に倒れている4人を発見、魂でも抜けたかのように死んでいたそうですの、しかも他殺と判断されたとのことですわ」
「あ、でも午前中に見たあの労害チームでしたっけ、あれと似たような死に方ではありますね、年寄りって感じじゃなかったようですが」
「なるほどな、で、それがついさっきのことなのか……」
俺達がウェスタンチームの犯罪者共を取り逃したタイミング、その前後で、しかも俺達の居る会場付近で人が死亡する、しかも他殺と判断される事件が発生している。
……しかもあのウェスタンチーム、その前の試合も対戦相手の4人全員が殺害されていたり、先程Ωチームと戦う前の労害チームも全滅していたりと、付近でやたらに人死にが出ているような気がしなくもないな。
しかもその人死に、俺達のようにムカつく連中を直接的に、公然に殺害しているのとはわけが違う。
何となく関連がありそうな気がしなくもない、ぐらいのノリで人が死にまくっているのだ。
これは少し気になるな、そうだ、奴等の最初の対戦相手の死に様、そして今死んだ連中と奴等との繋がりがないかを、もう一度あの取り付く島もないあのカウンターのお姉さんに聞いてみよう……
「なぁお姉さんや、ちょっとよろしいですか?」
「はい何でしょう? ここであなたのようなしつこい迷惑客の相手をしていると『やっている感』が出ますので、もう何なりとお申し付け下さい」
「お、おう……でさ、これまでに参加者が不審な死を遂げたのが何度かあるのは知っているよな? それの原因なんだが、詳しく知っていれば教えてくれないか?」
「ああ、それでしたらまず先程のチーム全員突然死事件、あと初日にもどういうわけかチーム丸ごと死んでしまった件がありましたね、少々お待ち下さい、今魔導データベースでお調べします」
態度は悪いものの、一応は要望通りに調べてくれる様子のお姉さん、これが野郎であればこの場でブチ殺しているところだが、可愛いのでそのようなことはしない。
そのまましばらく待つと何やら白紙に浮かび上がる文字、不思議な光景だが、これも『魔導』だというのだからそういうものだということで我慢しよう、ツッコミを入れるのは時間の無駄だ……
「え~っと……あら、いずれも暗殺のようで、全員魂が抜けたように、まるで老衰で逝ってしまったかのように綺麗サッパリ成仏していました、ですが……」
「ですが?」
「検死に当たった委託機関のシャーマンによりますとですね、どうも生命力、というか何というか、その類の力が何者かによって吸い取られているようなんです、それは最初の件でもそうでしたが、先程試合中に死亡した労害共も、あとそろそろ今の死者も結果が……出ました、やはり不思議な力を用いた他殺で間違いないとのことです」
「やはりか、それで、今死んだばかりのチームなんだが、もしここで生きていて、この試合でも死なずに済んだとしたらどうなる予定だったんだ?」
「え~っと、次は……明々後日、先程あなたがやかましく吠えていた際に出て来たウェスタンファーザーズとかいうチームとの第4戦でしたね」
「……それで、この件に関して何かおかしいとは思わないのか?」
「異常ですね、普通に考えて殺っているとしか思えません、しかし私のような公僕はですね、やはり何というか、その……形式的にしか物事を審査出来ませんので、ここで自由裁量をモリモリ発揮してとやかく言うことは不可能です、そういうのはもっと責任を負う覚悟のあるキャリアとか貴族のお偉いさんに通報してどうぞ」
突き放されてしまった、まぁやる気のない木っ端役人などこのようなものか。
とりあえず先程出て来た資料を正式に文書として発行して貰い……1枚あたり鉄貨3枚だそうだ、収入印紙を買いに行こう。
で、申請用紙に印紙をベタベタと貼り付け、目的の調査資料をゲットして一旦会場を出る。
この後には精霊様とルビアの試合があるからな、それは屋敷へ戻って魔導生中継で見ることとしよう。
ということで屋敷へ戻り、夕飯の下拵えを負えたアイリスも混ぜて皆で画面を眺める。
ラス前の試合は滞りなく終了し、いよいよ本日の最終戦、精霊様とルビアによる一方的な虐殺が……
「ギャハハハッ! 何だよこのチームは、おっさん1人が棺桶3つ引き摺ってんじゃねぇかっ! きっとこれまでの試合で死にやがったんだなっ!」
「死んでしまうとは情けない、主殿のチーム、こんな試合を見ているよりは作戦会議をした方が良いのではないか?」
そうしようかとも思ったのだが、いくら何でも見てやらないのは可愛そうだ、後でルビアに『ちゃんと見てくれましたか?』と聞かれたときに返答に困ってしまうことにもなる。
ゆえに作戦会議は一旦保留、キッチリ1時間だけ続くはずのこの戦いを眺めてから……
『あぁ~っとここでトラブル発生! 万年平社員チーム! 最後の生き残りであったおっさん企業戦士が倒れてしまったぁぁぁっ!』
『あちゃー、これは心労のようですね、この大会が終われば、先に死んでいった仲間達の残した仕事が全て自分に押し付けられることを知っていたのでしょう』
『なるほどっ! しかし今日の最後のイベントをこんな形で終わらせてしまったのは非常に拙いっ! きっとおっさんの墓は暴かれっ! いやっ、墓すら造られないでしょうっ!』
これは……明らかに魂が抜けたかのような死に方、即ちここのところ連続で発生している暗殺事件と同様の事案だ。
そしておそらくこれにもウェスタンチームが絡んでいる、本当に奴等は何者なのだ……




