621 8チーム目
「よっしゃ、それじゃあ堂々の退場だ、素っ裸のセラは……」
「もうお姉ちゃんはここに置いて行きましょう、罰として」
「さすがにかわいそうだから連れて帰ろうぜ、あのイレギュラーは誰も予想し得なかったんだからな」
本大会最年少のメルシーに敗北し、魔導生中継で情けない全裸を晒したセラは当然お仕置きだが、それでもこれに関しては仕方なかった部分があると言って良い。
お子様ばかりで構成された聖竜皇チームがここまで、初戦で俺達にダメなメルシーの姿をわざわざ見せてまでこの戦いに備えてくるとは思わなかったのである。
と、そんな聖竜皇のリーダーであるインテリノが、俺様の超大人作戦にまんまと嵌められ、無様な敗北を喫した低能クソガキ野郎である第一王子のインテリノがこちらへやって来たではないか……
「さすがでした勇者殿、今回は完全に作戦負けでしたが、次回、もし当たることがあればそのときにはこちらが勝つと思っておいて下さい」
「おう、何度でもかかって来いや、その都度卑劣な手口で翻弄して、悔し涙をケツから注入してやるからよ」
「……は、はぁ、期待しています」
遠くでリリィとメルシーが手を振っている、俺達への挨拶と、それからインテリノに帰るから早く来いということを言いたいようだ。
やれやれ、大人である俺による子ども達のお守りはこれまで、会場を包む凄まじいブーイング、それは聖竜皇チームにベットしていた馬鹿共の骸が音を立てているだけ。
財産を失ったのは自分の行動が原因なのだし、恨むのであれば自分を恨んで死んで欲しい。
さて、このままセラを、素っ裸で物陰に正座し、あのとき以降ずっと放置されているセラを迎えに行こう。
と、試合終了を知って自分から歩いて来たようだ、もちろん俺たちの居る広場を撮影している魔導生中継端末以外の3機を従えてだ。
ここでのセラの様子は全て魔導録画され、魔導複写されて大変貴重な魔導映像として高額で販売されるのであろう、もちろん無修正で……
「よぉ、おかえりセラ、勇者パーティーで初めて聖魔法とやらを喰らった感想は?」
「ご……ごめんなさい、次からはちゃんとやるし罰も受けるわ……」
「じゃあ帰ったらお尻ペンペンな、とりあえず時間が押してるみたいだから退場するぞ」
「あら、そんな軽いごほう……お仕置きで良いのかしら?」
「何でも良いさ、とりあえず帰ったらアレだ、後学のために聖魔法の情報を提供するんだ、本人からはこの大会が終わるまで公表されないだろうからな」
ということで素っ裸の敗北者セラを引き連れ、ブーイングを贈っている観客の馬鹿共の顔を覚えつつ退場する。
そういえばそろそろ次の試合の予定が発表されているはずだ、それを見てから帰ろう。
「あ、ご主人様、早く帰らないと次の次はコパーちゃん達が出る試合ですよ」
「そうなのか、じゃあ急ごう、対戦表の掲示板だけ確認してダッシュで帰るぞっ! 昼食は祝勝会としてちょっと豪華にして貰おうっ!」
『うぇ~いっ!』
ちなみに発表されていたのは3、4、5試合目であった、しかも5試合目はこれからコパー達と戦う予定のチームだ。
この試合でそれをコパー達が絶滅させて、俺達のチームは戦わずして勝利……ということになって欲しいものだ……
※※※
「いでっ、ひゃんっ、ごめんなさいっ!」
「まだまだっ! 俺が終わったら次はミラから、最後にカレンからのお尻ペンペンだっ!」
「ひぃぃぃっ! そんなの嬉しすぎてどうかなっちゃうわっ!」
「このドMめがっ! 少しは反省しやがれってんだっ!」
「そうよお姉ちゃん、お姉ちゃんは勇者パーティーとしてあってはならない醜態を晒したのよ」
「でもメルシーちゃん、強かったです……次は私が戦いたいです、ご飯食べてから……」
屋敷へ戻った俺達は、ひとまず敗北者セラを素っ裸のまま処断していた。
といってもドM敗北者セラはお仕置きされて喜んでいるだけ、いつもの如く意味のない刑罰となってしまったのである。
まぁ、コパー達の試合にも間に合った、というか俺が破壊した王宮型建造物の天井の修復に手間取っているようだ。
素早い修繕が可能な王都筋肉団は参加チームとして、また会場警備として全て動員されているため、一般の職人ギルドの連中がそれを担っているから遅い、というか通常のペースで工事が進んでいるようだな。
この後にはひとつどうでも良い試合が入り、その次でコパー達が登場するということか。
そうなればちょうど昼食のタイミングだな、どこかへ出かけている他の2チームも戻るだろうし、3チーム10人合同でコパー達の活躍を眺めることが出来そうだ。
『ただいまーっ!』
『こっちもただいまよっ!』
「お、マーサと精霊様だ、きっと俺達と同じ考えで戻ったんだな、マリエルは居ないようだが……まぁ、アイツは大会本部でとんでもない豪華飯を提供されるんだろうな、リリィもだが……」
「ご主人様、私もリリィちゃんやマリエルちゃんみたいな美味しいものが食べたいですっ!」
「ウチにはそんなお金ありませんっ! ちなみに文句はろくに金を寄越さない駄王とかババァ総務大臣とか、儲かっても儲かってもパーティー資金として徴収していくそこのミラ出納長に言ってくれ、あ、前者の2人はブチ殺しても良いからな」
俺にひもじい生活を強いている、憎むべき敵である国家と行政の重鎮を暗殺するようカレンをけしかけたところで、帰宅した残りの2チーム、そして昼食の提供を一手に担っている状況のアイリスが2階へ上がって来る。
昼食の準備は整ったようだ、そして、2チーム共にまだコパー達の試合が始まっていない、中継に間に合ったことを知ってホッとしているようだ。
ちなみに、魔導生中継で俺達の試合を見ていたのはアイリスだけ、他は全員会場まで足を運び、俺様の大活躍をその目でしかと見届けたのだという。
ということで、当然のことながら全員セラがお仕置きされている理由を知っているのだが、やはり興味の対象はメルシーの激レアな『聖魔法』のようだ。
お尻ペンペンの叩き手をミラに交代したため、興味津々の他メンバー達がその周りに殺到する。
特に精霊様の押しが強い、水の精霊として、この世界の水魔法の全てを司る存在として、それを抑圧し得る聖魔法とその使い手に関してはキッチリとした情報を得ておきたいのであろう。
「それでっ? 喰らった瞬間はどんな感じだったの? 痛い? ドMだから気持ち良い? ねぁ、どんな感じなの?」
「どうって言われても……何だか不思議な感覚だったわね、特に魔法が使えなくなったとき、あまり違和感とかはないのに突然力が出なくなったのよね……さすがは女神の加護を最大限に受けた聖魔法……」
「フンッ、女神の奴がどうしてあの子にそんなモノを授けたのかはわからないけど、とにかく聖魔法なんてそんなの人族にポンポン与えて良いモノじゃないのよ、これは後で女神の奴を問い詰めてみるしかないわね、最悪消滅させて私が新しい神になるわ」
「おい精霊様、最後の方は勝手な願望がダダ漏れになってんぞ……」
女神を廃して成り代わろうと目論む精霊様はどうでも良いとして、ここでコパー達が出場する試合のひとつ前、『超高齢老害チーム』と『若手下級魔族チーム』の戦いが始まったようだ。
ちなみにどこから来たのかはわからないその下級魔族達だが、それぞれ最低でも200歳ということで老害チームよりは年上。
しかも全身がドロドロのゲル状であったり、体はヒトでも顔の部分だけがバッタであったりと、とてもではないが『若手』なのかどうなのかを判別することが出来ない連中だ……
『さぁーっ! この次は注目チームの登場となりますので、このモブ同士の戦いは早めに決着して頂きたいところですっ! っと、しかし老害チームがオフェンスゆえ、そのスタート地点までの移動に時間が掛かってしまっているっ! 係員が出て急かしても無駄っ! 口の横から泡を吹きながら逆ギレしているぅぅぅっ!』
とんでもないチームが出て来てしまったではないか、これではスタート地点に到着する前にタイムアップを迎えてしまう。
しかも老害ゆえまるで指示に従わず、一番性格の悪そうなジジィに至っては、途中で腰を下ろして休憩しようと試みる始末だ。
そしてさらにもう1人のジジィが……歩くのを止めてしまったではないか、マジでどういうつもりなのだ……
『あっと老害チームの1人、名前は……わからないのでジジィその1としておきましょうっ! どういうわけか立ち止まりスタート地点への移動を拒否する構えのようで……今係員が駆け寄りました、どうしたというのでしょうか……えっ? 死亡確認、死亡確認ですっ! なんとジジィその1選手、こんな所で天寿を全うしてしまったぁぁぁっ! そしてその安らかな死に顔を見た残りのジジィ共もまた釣られ、次々に昇天していきますっ! 霊が見えないタイプである方のために説明しますとっ! 4人のジジィはそれぞれ体から魂が抜け始めて……っと、ここで全員が成仏してしまいましたっ! 人々を苦しめた老害ジジィはきっと地獄行きでしょうがっ! ここはひとまずご冥福をお祈り申し上げますっ! そしてこの戦いは若手下級魔族チームの不戦勝となりますっ!』
何だか知らないが終わったようだ、ジジィ共め、最後の最後まで他者に迷惑を、しかも死体の片付けなどというとんでもないタスクを置いたまま地獄に落ちてしまったのか、本当に腐った老害であったのだな。
と、手慣れたスタッフの活躍によってあっという間に死体の撤去、そしてご遺族への連絡が終わる。
どうやら死体の受け取りは拒否されたようだ、だがだからといってその辺に埋めたりしないで欲しい、そこは俺の領地なのだ。
「あら、死体の片付けが早かったわね、これはプロの仕事だわ」
「当然よ、運営も死人が出ることは十分想定しているはずだし、さっきチョロッと出て来たおっさんは『処刑士補』の資格を持った本物のプロよ、死刑執行計画は出来ないけど現場で実際の処刑と死体の片付けが出来るわ」
「何だよその測量士補みたいなのは……」
とにかく、これでひとつ前の鬱陶しい戦いも終わった、遺族に拒絶されたジジィ共の死体は対戦相手であった下級魔族チームに払い下げられ、打ち捨てられることなくちょうど良い昼食となったようだし、かなりエコな幕引きであったと評価して差し支えない結果だ。
さて、本日のイベントはここからが本番、1戦目は変なチームと当たり、もちろん圧倒的な勝利を収めていたコパー達のチーム、今回の相手は何分、いや何秒でカタが着くのであろうか……と、そのコパー達の入場だ。
『さぁっ! さぁさぁっ! ここで本日2つ目の注目カード、さすがに有名チーム同士の対戦ほど注目ではありませんが、一方のチームは本当に人気ですっ! その可愛らしい見た目とは裏腹に、世間を震撼させたΩの女王、コパーΩ! そして引き連れるはダイヤことブラッドダイヤモンドΩ、レッドことレッドサージェントΩ、グラスことウィードマスターΩの3人! 4人合わせて「オメガ@悪いことしてごめんなさい反省してますチーム」の入場だぁぁぁっ! あ、解説員はΩシリーズの謎を紐解く技術者の先生です、先生、よろしくお願い致します』
『ええ、まぁ解説といっても喋るのは私の得意分野ではありませんがね、とにかくΩの4人には頑張って頂きたいところです、この試合でも良いデータが取れると期待していますらね』
『はい、技術者さんはΩ本拠地討伐の遠征時も何かマイペースでした、次以降は助手の方に解説をお願いしたいと思います……さぁ気を取り直してっ! 今回Ωチームはディフェンスですっ! 対するオフェンスは1戦目、どういうわけか敵チームが全員暗殺されて不戦勝となった「ウェスタンファーザーズチーム」ですっ! 全員専用衣装の着用を拒否! 自分勝手な格好で登場しましたっ!』
コパー達の相手はカウボーイ風、宣教師風、紳士風、そしてマフィア風という、統一感こそないが全員「ウェスタン」な感じのおっさん4人チームだ。
極東近くで製造されたコパーを始めとするΩチーム、それと明らかに西方からやって来た敵チーム。
東西対決ではあるが、きっとこの様子では勝負にならないであろう、画面越しだがとても強いようには見えない。
いや、この連中の1戦目の不戦勝が非常にアレなのは気になるところだが、どうせコパー達に勝つことは出来ないのだ、ボコボコにされて行動不能になるのは確定だし、ヤバい連中であることが発覚したらその場で係員が『処分』するのであろう。
『スタート位置に向かって進むウェスタンチーム! 彼らのフロンティアは敗者退場ゲートの先かっ! それとも三途の川の向こう側かぁぁぁっ! そして今、試合開始となりましたっ!』
動き出した敵チーム、そして4人全員で王宮型建造物の前に構えるコパー達。
敵側もまっすぐ大通りを進んで来るようだ、現時点では両チーム作戦も何もない、力と力の真っ向勝負の様相を呈している。
もっとも、コパー達には魔法が使えるわけでもなく、基本的には『他のΩを使役して戦わせる』というのがその戦闘スタイルであるため、自らが戦うというケースはあまり想定されていない。
だが武器になる腕を失ったとはいえ超進化したコパー、そして最初からそこそこ強かった残りの3人。
誰しもがその辺の上級魔族よりは強く、何だか知らない人族のチームに……と、カウボーイ風の奴は足が速いな、もう広場に到着しているではないか……
『ここでカウボーイと、Ωチームで最も前に出ていたレッド選手が接触しますっ! 後ろからグラス選手も加勢に向かいますが、普通に1対1であってもカウボーイに勝ち目は……え? とめ……止めましたっ! っとグラス選手の攻撃もっ! なんとカウボーイ! Ωである2人からの攻撃をっ! 両手に持った短い筒のようなモノで受け止めてしまいましたぁぁぁっ!』
「ちょっ、何よあの変な格好の奴⁉ 普通に強いじゃないの?」
「あぁ、しかも武器がその……アレなんだよな、この世界にはなさそうなアイテムでな……」
カウボーイだけではない、後ろに続くマフィア風のおっさんも『拳銃のようなモノ』を、そして宣教師風のおっさんは『火縄銃のようなモノ』を……紳士風の奴だけは仕込み杖なのか……と思ったら懐から『拳銃のようなモノ』を取り出しやがった。
この連中、きっと俺達が西方で皆殺しにした大仙人一派の情報、即ちどこの誰が持ち込んだのかはわからないが、俺の居た世界の情報に触れているに違いない。
そして大仙人一派が知らなかった、完全に鈍器だと思い込んでいた『鉄砲系武器』の使い方を心得ているようにも見える。
その証拠に、離れた場所からコパーを狙う宣教師風のおっさんは、火縄銃のようなモノを明らかに『通常の用法』で用いんとしているのだ。
『あっとぉぉぉっ! どういうことでしょうっ! カウボーイの強さに気を取られていましたがっ! なんとここで最後の守りをしているはずの、誰にも攻撃されていないはずのコパー選手が痛そうにしているっ……さらにダイヤ選手もだぁぁぁっ! これは一体?』
『ふむ、あの筒のような武器ですね、内部で火魔法を暴発させて、その勢いで丸い球を、目にも留まらぬ速さで飛ばしている……私はそう推測しますね』
『なるほど、ではよぉ~っく観察を……あっ、まさにその通りですっ! ウェスタンチームの全員が持つ筒状の何か、そこからは鉄球らしきものが超高速で飛び出していますっ! おそらくこれが人族に目視出来ることはないでしょうっ! それと、普通の人族に当たれば風穴が空くでしょうっ!』
『大変に危険な武器ですね、そして何よりも発射された鉄球です、後に回収しないというのであれば環境破壊になりますよ、規制すべきですっ!』
『環境以前に死人が……まぁそれはどうでも良いことですっ! 圧勝の予想から一転、Ωチームいきなりの大苦戦だぁぁぁっ! そしてここでカウボーイがレッドとグラス両選手を抜いたっ! 2人が倒れたところに後ろの宣教師、マフィア、紳士からの追撃が入るっ! カウボーイはダイヤ選手も抜いて最後の砦、コパー選手の待つ王宮型建造物へと向かっているぅぅぅっ!』
大変なことになってしまったではないか、カウボーイはΩ達よりも強く、離れた場所から発砲してくる残りの敵には誰も近付くことが出来ない。
このままでは……と、意を決したダイヤが立ち上がり、ホンモノの弾丸が飛んで来る中を駆け出す。
本来はリロードのタイミングを待つべきだが、そもそも銃がないこの世界の住人にはそれが伝わらないし、知る由もないであろう。
ダイヤに続いてレッドが、そしてグラスが立ち上がる、コパーがカウボーイ野郎をどうにか食い止めている間に……いやダメだ、火縄銃の宣教師がターゲットの人体模型を……
『決まったぁぁぁっ! 唐突に決まりましたっ! ウェスタンチーム、なんと魔法……ではないようなのですが、100m以上離れた場所からターゲットを狙撃! その発射された鉄か何かの玉はっ! カウボーイ野郎とコパー選手の横を通過っ! まっすぐ向かった先でターゲットの頭をブチ抜きましたぁぁぁっ!』
「え? ちょっと待って、いやいや……コパーちゃん達負けちゃったの? あの変な連中に?」
「いえお姉ちゃん、少なくともあのカウボーイは相当な強さだったわ、あの変な武器がなかったとしてもどうなっていたか……」
「確かに、でもあの変な連中の強さを知るために、コパーちゃん達が犠牲になって負けちゃうなんて、ホントに残念よね」
「いえ、そうでもないみたいですよ、ほら、画面に『審議中』って書いてありますから」
ルビアが指差した魔導中継画面の右上、そこには確かに審議中の文字が……今ちょうど消えたところだ……
『はいっ! 審議の結果が出ましたっ! ウェスタンファーザーズチームの所持していた武器ですが、え~っと、破壊力が高く、今大会の規定に則っていない、ということでですね、この試合は没収試合となりますっ! なお被害者のΩチームは挑戦可能回数が消費されませんっ!』
どうにか『敗退』という形だけ逃れることが出来たコパー達、だがあの敵は一体何なのだ?
少しばかり調べなくてはならない、それはもう、誰もがわかっていることだ……いや、てかこいつら次俺達と当たるのでしたね……




