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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十一章 備えあれば
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618 観戦と敵情視察と

『楽しいイベントも今日はここまで、それを告げるべく、夕暮れが音を立てて忍び寄る……だがここからは魔の時間、悪魔2人に禍々しいほどのおっぱい、そして激カワのウサギ魔族でありながらその拳は最強! ウサギさん(悪)チームの登場だぁぁぁっ!』


「エリナ、ちょっと実況慣れしてきたよな」


「そうね、何かこう、気持ちが込められた感じが声に出るようになったわね」


「まぁ、時給良いからな、クビになりたくはないんだろうよ」


「その可能性は高いわね、てか今日一番頑張っているわよね……」



 イベントの実況をするエリナを魔導モニター越しに批評する俺とセラ、もう何がしたいのかもわからないし、ついでに用意してあった茶菓子も全て食べ尽くしてしまった、食べたのはほとんど試合を終えて帰って来たルビアだが。


 それで、オフェンス側として入場し、徒歩で王都北門を模したスタート地点へと向かい始めるマーサ一向。

 観客席に手を振りながら、まるでもう優勝した後の凱旋かのような動きである。


 当然周囲からは大歓声だ、可愛いマーサのファン、同じく可愛い悪魔であるユリナのファン、あとはサリナに興奮する変態ロリコン野朗とデカいおっぱいが大好きな馬鹿野郎、ちなみに俺は後者、巨乳大好き馬鹿野郎だ。


 ……そういえばエリナの奴、マーサ達の話はしたものの、とっくに入場を終えてスタート地点で待機しているモブチーム、それの紹介を一切していないのだが?


 あともうひとつ、注目チームの登場ゆえ、これまでの流れであればエリナの横には『解説員』としてどこかから連れ込んだ知らないおっさんが居るはず。


 それの紹介すらないとはどういうことだ、きっと知らないおっさんはエリナの隣で、凄く気まずい雰囲気を醸し出しながら黙っているのであろう。


 しかし何とかわいそうな奴なのだ、呼ばれておいて話し掛けてすら貰えないとは。

 ただでさえ悔しい思いをしているに違いないが、出来ればその屈辱に塗れた顔面にウ○コを投げるなどして追撃してやりたい。


 と、それでもエリナが気付いた、または誰かに指摘されてしまったようだ、ここでようやくマーサ達の対戦相手と解説員の紹介が始まる……



『え~っと、追加で2点、まずこれは非常にどうでも良いことなのですが、ウサギさん(悪)チームの対戦相手となります、ディフェンス側に固まっているモブキャラ達について、えっと、彼らは王都日焼けサロン研究会チーム、効率良い日焼けのためにあえて衣装を着用せず、実に潔いフル○ンでの出場ですっ!』



 先程の貝殻ビキニのおっさん連中といいこのフルチ○野郎共といい、どうして俺がゆっくり実況を眺めることが可能なタイミングで出現するのはこういう連中ばかりなのだ?


 俺だって女の子が敗北し、アーマーブレイクして素っ裸に、一瞬固まった後に顔を赤らめ、手を使って必死になって大事な所を隠そうとする様子が見たいのに。


 こんな最初から全裸だの全裸まがいだののおっさん共が負けて死亡する汚らしい瞬間など正直もう見飽きた。

 というかそろそろ夕食だし、迸る鮮血と飛び散る臓物は控え目にして頂きたいものだ。



『さ~、どうせすぐに敗北してこの世を去る対戦相手の紹介が終わったところで、え~っと、大注目ウサギさん(悪)チームが所定の位置に着くまでの間にこの……何か解説員を紹介しておきます。今回は女性向けコスプレ衣装に大変詳しいハイレグ=マタジローさんにお越し願いました。マタジローさん、ちょっとだけでしたら喋っても良いですよ、場合によっては殺しますが』


『ブヒヒ、ウサギ執事にダイナマイトおっぱい執事、それに小悪魔お嬢様が2人も、これはもうペロペロせざるを得ませんな、ブヒヒ』


『キモッ! あ、えっと、ちなみに小悪魔の2人は私の従姉妹でして、そういった点では私も小悪魔お嬢様として……』


『ふぅ~む、君はお嬢様というには少し成長しすぎているね、ブヒヒ、もうちょっと若返って出直したほぷぺぽっ!』


『あーっとぉぉぉっ! ここで解説員が死亡だぁぁぁっ! まさかの解説員死亡、エルボーで一撃でしたっ! 以降、実況のエリナが単体でお送りしますっ!』



 結局1人で実況することになってしまったエリナ、魔導生中継では放送席の様子が映し出されていないものの、相当程度に気持ちの悪いおっさんがそこに居たのは間違いない。


 かわいそうなのは無視されていた解説員(故人)ではなく、ソレの隣に座らされていたエリナであったのだ。

 何にせよ、エリナの一撃で変態解説員がこの世を去ったことにより、僅かにだがこの世界の空気は澄んだものとなった。


 と、ここでマーサ達がオフェンス側のスタート位置に到達したようだ、試合開始である……



『さぁ~っ、気を取り直して本日最終戦、ウサギさん(悪)チーム対何か素っ裸の変な4人組、試合開始ですっ! まずはオフェンス側ウサギさん(悪)チームのジェシカ選手、1人に1つ認められた隠し武器BOXから……折り畳みテーブルセットを取り出したぁぁぁっ! 次いでユリナ選手がティーセットを、マーサ選手が紅茶、そしてサリナ選手はお菓子を取り出しましたっ! 誰一人として武器を持ち込んでいないっ! 両手剣の使い手であるジェシカ選手も腰には帯剣していませんっ! これは一体どういうことなのでしょうかっ!』



「おいおい、何やってんだあいつら、もしかしてあんな不潔そうな連中と素手で戦うつもりなのか?」


「そのつもりなのかも知れません、ですがそうだとしたら帰って来ても屋敷には上げられませんよ、全裸日サロおじさん達の汁が付着している可能性がありますから」


「そうだな、カレン、ちょっと行ってアイリスに塩を用意するよう頼んでくれ、万が一誰かがあのフル○ン野郎共に触れたら必要だからな、塩撒かないと敷地にすら入れられないぞ」


「そうなんですか? 敵はナメクジさんなんですか?」


「まぁ、似たようなものだろうよ、何かオイルみたいなの塗りたくってテカテカしているからな、実に不快な連中だ」



 いつもの如く恐るべき気色悪さを誇る俺達の敵、今回は強制的にマーサ達4人の担当となっているのだが、全員での行動中にアレが敵として現れた場合、間違いなくその処理は俺に押し付けられることであろう。


 試合開始と同時に王宮型建造物の前に並び、両手両脚を目一杯広げて西日を浴びる変態日サロ野郎共、連中の法典には猥褻物陳列罪という言葉が掲載されていないようだ。


 一方、全員で分担してティータイムセットを持ち込んだ俺の仲間達、試合が始まっているにも拘らず、優雅に紅茶を……ジェシカの奴、完全に酒を飲んでいやがる。


 となるとユリナ、サリナの命令でジェシカが単騎突入、敵を始末するという勝利パターンを選択していないのだな。

 この状態から4人全員で動くとも思えないし、ここからどうやって攻撃を仕掛けるつもりなのか?


 いや、ここで動きがあった、4人全員で座っていたところ、徐にサリナだけが立ち上がったのである……



『ここでサリナ選手が立ち上がったぁぁぁっ! 遂にゲームが動き出しましたっ! サリナ選手はそのまま大通りを進むようですっ! あっと、変態連中がこの実況に反応しました、サリナ選手を迎撃すべく走り出すっ!』



 歩くサリナ、迫り来る不審者、通常であれば絶体絶命のピンチであるのだが、安心して見ていられるのはサリナと不審者の間に圧倒的な実力差があることが明白であるためだ。


 このまま接近されても捕まることはない、サッと避けてしまえば触れられることさえない。

 だが敵が攻撃行動に出れば、汗や唾などの不潔な汁が飛ぶのは事実、サリナにはそれさえも完璧に回避して貰う必要がある、屋敷の清潔のために。


 と、ターゲット前に1匹を残して残りの3匹で大通りを走る敵、そのうち最も足の速い1匹がそろそろサリナと交錯、接触……せずに通過した……



『これはどういうことかぁぁぁっ! 全速力で走っていた日サロのうち1匹、その視界にサリナ選手を捉えたはずなのですがっ! なんとそのまま横を通過、普通に走りぬけて行きましたっ! おっと次の1匹……こちらも通過! そして最後の1匹もですっ! 結局誰もサリナ選手に攻撃を仕掛けることなく……いえ、今の実況を聞いておかしいと思ったのでしょうか? 3匹共に立ち止まってキョロキョロしています。これは気持ち悪いっ! 夜間の公園で獲物を探す全裸変質者の如くだっ!』



「サリナちゃん、幻術を使っているみたいです、きっとあの裸のおじさんにはサリナちゃんが見えていません」


「そういうことだろうな、現地に居るわけじゃない俺達からはわからんが、きっと最初のティータイムは幻術を広い会場全体に張り巡らせるための時間だったんだな」



 この作戦なら不潔で不快な敵に触れることなく、お目当てのターゲットを破壊することが可能になる。

 おそらくターゲット前で待機している最後の日サロ野郎も、同様にサリナの姿を認識出来ていないのであろう。


 そのまま歩いて行くサリナ、そして日サロ共はその姿を捉えることが叶わず、1匹はそのまま残りの3人がお茶をしている位置へ、残りの2匹はまるで見当違い、両サイドの路地裏へと入って行った。


 で、一応の正解であるまっすぐにオフェンス側スタート地点へ向かった1匹だが、もちろんサリナだけでなく、ティータイム(誰かさんは酒)を堪能している3人すらも認識不可である。


 完全に術中にある日サロ野郎は、どういうことかと目を丸くしながら、必死になって付近を捜索。

 それを見て大笑いの残り3人、まるで動物園のサルが意味不明な行動を取っているのを見ているかのようだ。



『さぁ~っ、何となくどういうことなのかわかってきた視聴者の方も多いとは思いますがっ! ここで遂にサリナ選手がターゲットのある王宮型建造物の前へっ! おっと最後の守りをしている日サロがキョドり出したっ! だが一向にサリナ選手の姿を捉えることが出来ないっ! そしてここでウサギさん(悪)チーム、サリナ選手が最後のディフェンスを抜いたぁぁぁっ!』



 結局サリナがターゲットの人体模型を破壊、こちらの勝利、敵チームは何も出来ないどころか相手の姿をその目に見ないままに敗退した。


 これで初日は終わり、明日は俺のチームの試合がないのだが、それでも仲間達、そして明後日の敵であるインテリノのチームの試合がある、要注目だな。



「……しかし敵から見えないというのは凄く便利ですね、私達にそれは出来ませんが、次以降の戦いでは隠密行動を取りましょう」


「いや、それは俺がやるから、ミラとカレンは可能な限り目立ってくれ、というか仕組み上俺は実況からもそんなに注目されないはずだから隠れ易い、観衆が見たいのは女の子なんだよ」


「なるほど、それなら明後日のリリィちゃん達との試合では……」


『ただいま~っ!』


「あ、噂をすれば影ですね、リリィちゃんが帰って……」


『いってきま~っす!』


「何をしに戻って来たんだアイツは……」



 帰ってすぐに出て行ったリリィ、屋敷の前には王宮のものと思しき豪華な馬車が停まっている。

 そこへ乗り込んだのはサンタクロースのような袋を担いだリリィ、見送りのアイリスが手を振っているし、食料だけ調達しに戻ったということか。


 結局その日は敵情を聞き出すことが出来なかったことになるが、奴等の試合は明日の午前中、そこで戦い方、戦力などなど、全てをガン見して丸裸にしてやろう……



 ※※※



『遂にっ、遂にこのときがやってきましたっ! 大会2日目第2試合、ここにきてインテリノ第一王子率いる聖竜皇チームの登場ですっ!』


『ウォォォッ!』



 屋敷まで響いてくる観客の大歓声、これまでの試合がどれだけ盛り上がろうとも、観客側にはここまで凄まじい勢いがなかった。


 未来の王国を担う王子が登場するということで、その熱に乗せられて騒ぐ者、そしてその連中をその気にさせたのはきっと、予め王宮から派遣された「サクラ」の方々なのであろう、まぁそういうことだ。


 しかし熱気が凄まじいのは事実、徒歩でスタート地点に向かうオフェンスの3人は余裕の表情だが、対戦相手となる『初々しさ溢れる駆け出し女冒険者チーム』などという長いチーム名の4人は、もう完全に気圧されてしまっているではないか。


 しかし4人共ブルマ体操着着用だな、強さ的にもそこまでではないし、最低でもデリカシーのないリリィと当たった1人の『アーマーブレイク』は拝見することが出来そうだ……



『ここで両チーム配置に着きましたっ! いよいよ2日目、第2試合にしてほぼメインイベントと言っても過言ではない戦いの幕開けですっ! なお、実況は王室研究家の……は5月病で身罷ったそうなので、代わりにえっと……古き良きブルマ体操着愛好家のショー=ワデス先生にお越し頂きました、何よコイツ気持ち悪……いえっ、何でもありませんっ! ワデス先生、この試合、どう見ますでしょうか?』


『ムフフフッ、私はですね、保護者でもないのに世界各地の学院で開催されている体育祭に侵入、そこで更衣室からブルマを窃盗するなどして……』


『もしもし憲兵団ですか? こっちです、はい、コイツがそうです』



 その後、放送席からはしばらくガタガタという音とおっさんの悲鳴が聞こえてきていた、それがようやく静かになったところで、作戦の摺り合わせをしていたインテリノ、リリィ、そして聖女メルシーの3人が動き出した。


 再び熱気に包まれる会場、先頭に立ったのはやはり王子であるインテリノだ。

 その若干左後ろをリリィが、そして右後ろを付かず離れず走り出したのがメルシー。


 ちなみにインテリノは剣を、メルシーは杖を装備、リリィは装備BOXにおやつを入れて持ち込んでいたようで、中から出した干し肉を齧りながら進んでいる。


 さて、これがどの辺りで分離して……分離しないのか? そのまままっすぐ、目立つ大通りを通って敵陣に突入するつもりのようだ……



『さぁ~っ、聖竜皇の3人! 一見無策に見える正面突破を選択したようですが、何かすんごい作戦があるのか、それとも力押しでいくつもりなのかっ! いずれにしても今大会参加者の中で5本の指に入る実力者のリリィ選手を擁していますからっ、この戦いでの勝利は揺るがないでしょうっ! っと、ディフェンス側も気合を入れ直し、まずは1人をターゲット前に残して出動、これで3対3の戦いになりますっ!』



 それから少しして接触する両チーム、戦闘のインテリノが剣を振るう、魔法は付与しなくても大丈夫な相手だと判断したのであろう、そのまま斜めに斬り下ろしたところで、相手チームの先頭、スレンダーなお姉さんの両手剣が軽々と弾き飛ばされた。


 地面に叩き付けられたお姉さんの剣、とっさにそれを拾おうとしたところへ、インテリノはスッと自らの模擬戦用の剣を向ける……あっさり降参したようだ。



「さすがは王子様ね、相手が女性だからアーマーブレイクさせないように降参を促したんだわ」


「おう、観客の方は大ブーイングだろうがな」


「それは大丈夫じゃないの? だってほら……」



 セラが魔導生中継の画面を指差すとほぼ同時、インテリノの後ろに続いていたリリィとぶつかった肉付きの良いお姉さんが敗北する。


 デコピンの一撃で決着したその勝負は、額に攻撃を受けたはずのお姉さんの服がバンッと弾け飛ぶという、通常では考えられない様相を呈しながら終結した。



「ウヒョォォォッ! これですよこれっ、いやぁ~、見ていて良かったぜっ!」


「勇者様、もうアレですよ、ここまでに登場していた実況の変態共と何ひとつ変わらないはんのうですよそれは」


「そんなこと言ったってよ、ほれ、お姉さんのおっぱいが……って王子の奴、何上着掛けてやってんだよっ!」



 せっかくの『見せ場』をいちいち台無しにしてくるインテリノ、紳士的なのかも知れないが、このイベントの目的のひとつである『王都民の大会視聴とそれによる満足』という部分も少しは考えるべきだ。


 まぁ、お子様にそのようなことを言っても無駄ではあると思うのだが……と、ここで画面の向こうのエリナが騒がしくなったではないか……



『ピンチッ! 聖女メルシー、これは本当に大ピンチですっ! 対するは二刀流の高身長美人、子ども用の短い練習杖1本でその攻撃を防ぎ切ることは出来ないっ! そして戦闘のさなか仲間2人ともかなり距離が出てしまっているぅぅぅっ!』



「あら、メルシーちゃんはまだ魔法が使えないのね、杖持ちなのに」


「まぁまだ9歳? 10歳? その程度の年齢なわけだからな、魔法スキルを持っている方が少ないだろ、でも聖女だから杖は飾りで持っているんじゃないか?」


「そういうことね、でもそれならあのチームは実質2人、リリィちゃんには苦戦しそうだけど、王子は1対1でやって勝てない相手じゃないわ」


「だな、かわいそうだが最年少のメルシーは無視して……いや、それだとさすがにかわいそうどころの騒ぎではないな、とにかくどうにかして行動不能な感じにしてやるんだ。そしたらリリィには3人で当たる、その間王子は放置して、リリィが片付き次第全員で大人の世界の厳しさを教えてやるんだ」


「わかったわ、でも勇者様は隠密でバックアップするんでしょ? その目立つ場所には参加しないで」


「あぁ、3人でもリリィに勝てるかどうかは5分だし、勝ったとしても普通にギリだ、そのときには俺が王子を排除して最後の手柄を掻っ攫うんだ、良い感じだろ?」


「あら、結局目立つところを持っていこうとしているのね……」



 そんな話をしている隙に、メルシーはリリィに助けられ、相手をしていたお姉さんは素っ裸になって敗北した、こちらも良い眺めだ……いや、インテリノの奴がまた邪魔しやがったではないか。


 そのまま進んだ3人は、既に降参のポーズを取って待っていた最後のお姉さんの横を通過、ターゲットを破壊して勝利したのであった。


 さて、明日はこのチームとの雌雄を決する戦いの日だ。

 絶対に負けないという強い気持ちを胸に、どんな手を使ってでも勝利を飾ってやろう……

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