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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十一章 備えあれば
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614 チーム分け

「……ということでだ、ほとんど見世物みたいなものなんだが、俺達は4人1組で模擬戦に参加する権利を得ている、俺達だけじゃなくて『何人も』だがな、ちなみにファイトマネー付き」


「じゃあ勇者様、ファイトマネー以外にも模擬戦毎の勝利報酬とか……」


「そこはミラ、ほらこれだよ、さっき貰って来た『模擬戦大会ガイドブック』、参加の申請方法とかルールとか、その他諸々が収録された激アツの書物なんだっ!」



 ジャーンッと取り出したのは大会の全てを記したとされるガイドブック、既に町中での配布が始まっているはずだが、これを受け取って目を輝かせている連中は非常に多いはず。


 今回の模擬戦大会は、出るだけでファイトマネー、企業や団体の宣伝にもなる、そしてミラの指摘通り、やはり勝利した際の報酬についてもガイドブック序盤でデカデカと表示されていた。


 まずファイトマネーだけでもチームごと1戦あたり銀貨1枚、その日の夜に4人で飲みに行って少し足が出るぐらいか。

 そして勝利チームにはなんと追加で銀貨6枚、さらに大会終了時、成績上位チームには『さらに莫大な賞金がっ!』とのこと。


 いや、上位入賞はともかくこれは相当に美味しいぞ、大会の参加者はおそらくかなり多くなる、その辺の剣すら持ったことがない『企業戦士』が宣伝のために、うだつの上がらない雑魚冒険者が生活のために、馬鹿やアホが目立つために、大挙して押し寄せる催しとなるはずだ。


 それをひとつ潰すごとに銀貨6枚の儲け、これは堪らないぞ……と、その場合主催者側で参加者を絞るかも知れない? いやそんなことはない。


 主催者側である国は、なるべく多くのチームが参加し、その戦いに基づく公営ギャンブルを開帳、それで支払う賞金やファイトマネー以上の歳入を得ようと画策しているのだから。


 どうせどちらかが勝利、どちらかが敗北することとなるため、無名のモブチーム同士であっても十分に賭けが成立する。

 ゆえに国にとっては参加チームを絞るのではなく、いかに効率良く、素早くカタを着けるかを考えるべきなのだ。



「なるほど、これはウチもいくつかのチームを出した方が良さそうですね、パーティーを割って少なくとも3チーム……あ、そういえばコパーちゃん達は?」


「……私達が参加するよう言われた模擬戦もきっとそれだと思います、何せこの腕、ガイドブックの真ん中辺りにチラッと見えた『使用可能武器類』の中に代表的なものとして記載されていたようですから」


「使用可能武器? ん~、あぁっ、このページみたいだ……なるほど、伝説の武器とかその他威力の大きすぎるものは持ち込めないということだな」


「というか通常の武器もほとんど禁止みたいですね、使うことが出来て一番威力が高いのは刃を引いた剣ですよ」


「うわっ、ホントだな……まさか金属バットや『バールのようなもの』も禁止なのか? かなり厳しいぞこれは」


「何言ってんのよあんたは? そんなのパンチとキックで戦えば良いじゃないの、持って行っても大丈夫な武器なんか選ぶよりもその方が早いわよ」


「そりゃマーサはそうかも知れないがな……」



 武器以外にもなんと、衣装に対する規制、というか模擬戦参加者専用のものが用意されていた。

 きっと主催者側の誰かと癒着したメーカーと、とんでもない高額で随意契約して作らせた品だ、もちろん税金を使って。


 で、その衣装は男女共に2パターン、一方の(A)は貴族が着るようなベスト付きのフォーマルなものと少しヒラヒラめのワンピース。

 ちなみに男女別でしっかり分けられており、俺が女性用のワンピースを着て出場、出オチで笑いを取るという作戦は成立しない。


 そしてもう一方(B)は……体操着ではないか、しかも女性用はなんとブルマ着用だ……



「いやいや、こんなの誰が(B)なんか選ぶんだよ? さすがに恥ずかしくてやってられんぞ、特に女子」


「そうでもありませんよ勇者様、この(B)にはそれなりのメリットがあるようです」


「おいマリエル、それはお前が露出魔みたいな思想を持っているからそう感じるのであってだな……」


「いえ勇者様、(A)のスポンサー広告貼り付け欄は左の胸元だけなのに対して、(B)の方は胸元と背中、つまり名札が貼られがちな場所ですね、男性用でもその2ヶ所、女性用ならブルマのお尻にも貼れて合計3ヵ所なんですよ。元々エッチな格好ですし、宣伝効果はかなりあるんじゃないでしょうか?」


「……なるほどそういうことか、しかしこりゃアレだな、企業が募集してキッチリ広告を3ヵ所に貼り付けた『ブルマ女子チーム』が大量に参加してきそうだな」



 ちなみに『女性用のみ』ではあるが、模擬戦の戦闘中に負ったダメージの全てが衣装に転嫁される仕組み。

 女性はその衣装がアーマーブレイクして素っ裸になったら退場、野郎は普通に死んだり気絶したら退場である。


 そして肝心要の戦い方、勝利条件なのだが、この模擬戦は『オフェンス』と『ディフェンス』がそれぞれ1チーム、つまり4人対4人のマッチであり、ランダムに決定されたカードで戦っていくとのこと。


 何戦しなくてはならないのかについての記載は見つからなかったが、とにかく勝利チームには3ポイントが付与される。


 そしてどうしても勝者が決められない、例えば両チーム全く同時に全員がせんとうふのうとなった場合などは、両チームに1ポイントが付与される仕組み。


 これでいつになるのか記載がない『シーズン終了時』に、より多くのポイントを保有していた上位8チームによるトーナメント戦が行われ、そこで最終的な順位を決めていくということだ。


 なお、対戦カードはマッチの2日前に発表され、どちらが攻めでどちらが守りなのかもその際に知ることが可能。


 そしてオフェンス側のチームはコロシアム内の『王宮モドキ』の中にある『王の間モドキ』に侵入、そこで玉座に設置されている『ターゲット人形』を破壊すればその時点で勝利となる。


 逆に予選では1時間、決勝トーナメントはなんと12時間が経過しても『ターゲット人形』の破壊がなかった場合には、生き残りの人数に拘らずオフェンス側のタイムアップ負け。


 もちろんチームの4人全員が退場となった場合には敗北が確定するのだが、全員倒すことが出来るのであればターゲットの破壊に走った方が早めにゲームセットを迎えそうだ。



「ふむふむ、とりあえずルールはわかったが、俺達にはあまり関係がないな、全部ボッコボコにして終われば良いんだし、ちょっと軽い運動をするだけの簡単なお仕事だ」


「油断しないほうが良いぞ主殿、確かに弱いチームの方が数は圧倒的に多い、だがランダムで対戦カードが決まる以上、いきなり王都筋肉団の一軍と当たったりという可能性が……」


「おいジェシカ、それはフラグになりそうだから止めるんだ、だが確かに勇者パーティーから出したチームが無様を晒すのは拙いな……4人1チームか……うむ、ちょっと上手いこと決めるとしようか、3チームプラスコパー達で4チームだ」


「あ、ちょっと待って、ここをしっかり読みなさい、ほら、これだと私とリリィちゃんは厳しいわよ」


「どこだ? ってこの『枠ポイント制度』ってやつか、ナニナニ……『チームは原則4人、1人1ポイントで4ポイントの枠を使い切るものとする。人族(または魔族)であれば無条件で1ポイントであるが、上位種族については例外として、ドラゴン2ポイント、精霊3ポイントとする。ただし、一応上位種族であることが確認されている異世界人については、1名しか居らず、しかも馬鹿なので普通に1ポイントとする』だって、舐めてんのかゴラァァァッ!」


「はいはい、ディスられたからってガイドブックにキレないの、で、そういうことで私とリリィちゃんはまともに参加出来ないわよ、どうするわけ?」



 困ったことだ、確かにリリィと精霊様の力があれば100人力、どころか一騎当千の大活躍を見せてくれたであろうが、こういうルールだとその使い道に迷ってしまう。


 例えば精霊様とリリィで組むことは出来ないわけだし、そもそも精霊様を使えばそのチームにはあと1人しか参加することが叶わない。


 リリィが出身地の里から族長辺りを連れて来れば、ダブルドラゴンの最強チームが……いや、それだと敵が麻痺や毒を使うようなタイプであった場合普通に負けるな……



「さてそれじゃあどうするか……と、何だ?」


「あ、私に文書が届いたようですね、送り主は……インテリノですね、ふむふむ、はい、リリィちゃん宛のも一緒に入っていましたよ」


「やったっ! 食事会のお誘いかもっ!」



 突如窓から投げ込まれ、壁に突き刺さった一通の封筒、危険だからそういうのは止めて欲しいのだが、とにかくマリエル宛に王宮が送ったもの。


 それにはマリエルに対する要請と、それから第一王子のインテリノが突っ込んだと思しきリリィ宛の手紙が封入されていたようだ。


 気になるそのそれぞれの中身の方は……



「えっと、勇者様、残念ながら私は模擬戦大会に参加出来ないようです、主催者側として貴賓席に座っておいて欲しいとのことです」


「ん? そんなの駄王……は汚いからやめた方が良いと思うが、王子にやらせておけば構わないだろ?」


「あっ、それもダメです、インテリノ君、私とメルシーちゃんと3人でチームを組みたいって、しかもファイトマネーも勝利報酬も全部くれるそうです」


「なっ、何だってーっ!? よしリリィ、すぐにその申し出を受ける旨認めて返信するんだっ!」



 まぁ、王子と聖女が銀貨など欲しがるはずもなく、リリィが入れば3人でちょうど枠を使い果たすことが出来る。

 インテリノの取り巻きを2人入れて4人にするよりは、遥かに有効かつ戦力になる人選だ。


 ということでリリィは勇者パーティーではなく、王子チームとして参加することが確定した。

 そしてマリエルも不参加か、となると残りは10人、うち精霊様を除くと9人か……



「う~む、まずは2チーム、それから精霊様は誰かとペアで出場する感じだな、どうやって割り振ろうか?」


「あのご主人様、私はどう考えても弱いんじゃ……」


「む、確かにそうだな、この模擬戦だと回復役はそこまで意味がないからな、となるとルビアはアレだ、精霊様とペアでの参加が一番かもな」


「はい、全部精霊様に任せて、私は敵を退治して戻った精霊様にお茶をお出しするぐらいの方が良さそうです」


「いやもうちょい参加しろよな……と、精霊様もそれで構わないか?」


「ええ、私はそれで良いわよ、というか1人で気持ち良く対戦相手を蹂躙したいわ、このゲームは相手を殺しても失格にはならないんでしょ?」


「まぁそうだろうな、『死んだら負け』がルールにある以上は殺した側が咎められるなんてことはないはずだ、むしろ魔導生中継で見ている側が喜びそうだからナイスだ」



 これで俺達から出す最初のチームが確定した、2人とはいえ精霊様が居るのだからそうそう負けたりはしないだろう。

 むしろ抽選の運が悪く、仲間同士で潰し合う結果となった場合に生き残るのはここだ。


 で、それ以外の8人で2チーム、これを決めていかなくてはならないわけだが……セラとユリナ、ミラとジェシカ、そしてカレンとマーサをそれぞれ分離させるのはタイプ的に確定だな、となると俺とサリナが分離して……案外簡単に決まりそうだな。



「え~っと、じゃあ私と姉様はセットで、そうなるとジェシカも欲しいから、あとはマーサ様ですかね」


「よっしゃっ! じゃあこっちは『ウサギさんチーム』で確定よっ!」


「ちょっとマーサ、それだとマーサだけのチームになりますのっ、ここは『ウサギさん(悪)チーム』にしますの」


「良いけど、それだとジェシカちゃんは? 悪魔じゃないのに」


「ジェシカはおっぱいが『凶悪』だから悪に含まれますの」


「なるほどそういうことか、じゃあこっちは『ウサギさん(悪)チーム』で確定よっ!」



 困ったような顔で笑うジェシカを置いてけぼりにしたまま進んだ片方のチーム編成。

 取り残された俺とセラ、ミラ、カレンは当然にもうひとつのチームを組むことになる、こちらは『大勇者様チーム』だ。


 その後、もう少しガイドブックを熟読すると、どうやら参加申し込みは今日から、王都前の広場にて行われているらしいことが判明した。


 混む前に行った方が良いな、どうせリリィとマリエルは王宮へ行かなくてはならないのだし、俺達も同時に屋敷を出ることとしよう。


 同じく参加するΩ達も連れ、夕食のことはアイリスに一任して屋敷を出る。

 到着した広場の前には既に、これでもかというぐらいの人集りが出来ていた……



 ※※※



「ゲェェェッ!? めっちゃ混んでんじゃねぇかっ!」


「これはしばらく無理ね、向こうでお茶でもしながら人が少なくなるのを待ちましょ」


「だな……と、リリィじゃないか、それに王子とメルシーも」


「あっ、こんにちは勇者殿」

「こんにちはなのじゃ」



 広場前で遭遇したのはリリィ、だけでなく既にエントリーを済ませたと思しきインテリノのチーム。

 チーム名が『聖竜皇』などといういかにもなものであることが気になるが、それよりも受け取ったと思しき衣装が気になる。


 どう考えても(A)や(B)ではない、明らかに特注品を渡されているのだが……まぁリリィはともかく残りの2人の身分的に、その辺の有象無象と同じをものを着させることなど出来ないのであろう。



「それで、勇者殿達も受付ですか?」


「あぁ、そうなんだがな、この混みようじゃちょっとな……」


「では貴族用の優先受付カウンターへ案内致します、それと、リリィ殿をお借りした分のお礼ですが、コマンドは『上下上下右左AB』です」


「ん? 何のコマンドなんだ一体……まぁ良いや、優先何ちゃらに案内してくれ」


「わかりました、ではこちらへどうぞ」



 インテリノから授けられた謎のコマンド、それが何なのかは案内された優先受付カウンターにて明らかとなった。


 衣装を選択するための自販機……ではなく魔導販売機のようなモノ、もちろん押せば無料で新しいものが支給されるようになっているのだが、その盤面には(A)と(B)だけでなく、なぜか十字キーも存在しているのだ。


 つまり、あの魔導販売機的な何かに隠しコマンドを入力すれば、先程インテリノ達が持っていたような特注の衣装をゲットすることが出来るということか。


 いや、変なのが出るかも知れないというリスクを考えると一種の賭けなのだが……とにかく先に受付を済ませよう、もうコパー達は済ませて衣装の裏コマンドを……スクール水着が4人分出てきたではないか。


 もしアレが、女子用のスクール水着が俺に当たっていたらひとたまりもなかったな、もう単なる変態として牢屋どころか処刑台に直行であった。



「ちょっとあんた何やってんの? パーティーリーダーが受付しないとダメらしいわよ」


「はいはい、すぐに行きますよ~っと」


「全くノロマなんだから、じゃあ私達はこの4人、チーム名は『ウサギさん(悪)』で」


「はい畏まりました、『ウサギさん(悪)チーム』ですね、では2番の窓口で登録カードを受け取って、それから模擬戦で使う衣装を選択して下さい、では次の方~」


「おうっ、俺達はこの4人で参加する、チーム名は『大勇者様チーム』だ、よろしく頼む」


「はい畏まりました、では『大勇者様チームチーム』ですね、では2番の窓口で……」


「しっ、しまったぁぁぁっ!」



 そう、受付時に伝えるのは『チーム』を含まないチーム名のみ、本来ならエントリーシートに自分で書かなくてはならないのだが、貴族用の優先受付カウンターでは係員が代書してくれるため、口頭で内容を伝える形式、その結果とんでもないミスを犯してしまったではないか。


 もちろん係員はそんなこと察している、どころかこれがミスであることを確信している。

 だが形式的に見ることしか許されない役人であるこの係員にとって、誰かのミスを良い感じに加除訂正することは不可能なのだ。



「ちょっとっ、どうすんのよこれっ?」


「いや、もうどうしようもない……」


「仕方ないですね……ハッ、勇者様、向こうの壁沿いに『何かRPGの途中で名前とか変更してくれる占い師っぽい人』が居ますっ!」


「マジかっ、でかしたぞミラ、早速俺達のチーム名を変更だっ! すみませーんっ!」



 ということでその都合の良い占い師的なおっさんに頼み、チーム名を先程の明らかなミスを犯した状態から、しっかりりした『大勇者様チーム』へと変更して貰った。


 これでどうにか笑われることなく参加出来そうだ、初球から恥を晒す結果にならなくて本当に良かったな……



『……ではチーム名の変更代金、税込で金貨8枚と銀貨5枚となります、ローンにしますか?』


「ちょっと待て、さすがにそれはボッタクリが過ぎるんじゃないか? てか殺すぞボケ」


『金貨8枚と銀貨5枚、一切、鉄貨1枚分さえまかりません』


「おい、ちょっとそこの王子様、かくかくしかじかなんだがこの変なのブチ殺して良い?」


「え? チーム名をですか、それなら本人または委任状を受けた誰かが簡単に訂正出来ましたのに」


「何だそうだったのか、じゃあそこの偽占い師、お前だよお前、何逃げ出そうとしてんだこのハゲがっ!」


『ギョェェェッ! し、死相が出ております……水晶に映るじぶ……ん……』



 詐欺野郎を始末した俺達はその後滞りなく受付を済ませ、いよいよ衣装の魔導販売機的な何かに裏コマンドを入力する。


 緊張の一瞬、ゴタンと払い出される衣装入りの箱、その中身は……なんとブレザータイプの学生服だっ!

 ちゃんと1人分は男物、残りの3着は女物である、これで衣装に関して恥ずかしい思いをせずに済みそうだな。


 ちなみにマーサのチームは燕尾服の執事コス2着にゴスロリ衣装が2着であったとのこと。

 マーサが執事なのは滑稽だが、ジェシカは似合っているし、悪魔の2人もゴスロリ衣装がピッタリだ。


 さて、これで参加申し込みは完了、あとは開会式が執り行われる来週まで、このチームで訓練をしていくこととしよう……

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