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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十一章 備えあれば
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612 無断使用の極み

「……何なのかしらコレは?」


「知らないぞ、誰の所有する建造物なのか、何の権限があってこんな所に建っているのかもな」


「でもさ、この大きさは個人じゃ無理よ、どんな大金持ちでも絶対に、だから国のものだと思うのよね……」



 聳え立っているのは円形の、どう見ても古代の『コロシアム』的な建造物である。

 だが俺が見知っているものよりも遥かに大きく、その壁も非常に高い。


 そして確かにセラの言う通り、こんな巨大な建造物を、しかも無断で他人の領地に造り上げてしまうことが可能なのは国家権力、即ち王国そのものぐらいしか考えられない。


 ということできっとこれは国営の建造物だ、あのババァ大臣め、俺の不在を良いことに土地を不法占拠しやがったな。


 領土の大半がこのわけのわからない施設に占有されてしまっているのも、最強のはずの俺がイマイチうだつが上がらないのも何もかも、全部が全部国の、政府の責任に違いない。


 そもそもだ、プレハブ城以外にはほぼ何もなかったとはいえ、ここは俺の領地であってそこから生じる果実は俺のモノなのである。

 それを勝手に使いやがるとは、後で王宮へ行って地代を請求してやろう、寄越さないならこちらで魔法攻撃するなどして建物を収去やろう。



「とりあえずこの件に関して誰かに話を聞いてみた方が良さそうね、兵士のおっさん達は……」


「ダメだ、全員あそこの東屋でブッ倒れているぞ、クソッ、国の暗部の連中に何か盛られたに違いない」


「いえ、アレは普通に酔って寝ているだけよ、昼間から良いご身分ね」



 確かにそのようだ、おっさん兵達の横に転がっているのは王都で一番の安酒、それもお徳用の4ℓ入りのが5人で7本、あれだけ飲めばブッ倒れる、というか普通は死亡するはずだ。


 近付いても誰ひとり目を覚ますことのないおっさん兵達、仕方ないのでお土産の『ちょっと良い酒』を、まるで寝ている子どもの枕元にプレゼントを置くあの赤い奴の如く設置し、その場を後にした。


 と、一応俺達がこれを買って来たということを書置きに記しておくこととしよう、さもないと目覚めと同時に出現したこの『ちょっと良い酒』が、神々か何かから賜ったものではないかと思われてしまう。


 そうなるとこのおっさん兵5人の信仰心は、あの腐った脳みそを耳と鼻から垂れ流していそうな低脳低俗女神に行ってしまう。


 これはそれを避けるため、そして僅かにでも、おっさん兵達の俺達に対する感謝の気持ちが芽生えるようにするための必要最小限の措置なのだ。



「え~っと、じゃあ『この酒は東方の大変あり難い、非常に高級な銘酒です、その雫1滴が金貨1枚に化けるとも言われる極上の品、遠征に出ていたこの異世界勇者が、皆様のために買って参りました、是非ご賞味下さい』と、こんな感じで良いよな?」


「かなり内容を盛ったわね、まぁ良いわ、どうせ常に酔っ払っているんだし、正常な判断が出来ずにあり難がるでしょこの人達は」


「おう、ということで次は確実に起きているコリンに話を聞きに行こうぜ、ついでに真面目に働いているかも見たいからまずはコッソリ覗くところからだな」


「あら、抜き打ちとは卑怯千万ね、でも面白そうだから付いて行くわ」



 ということでおっさん兵達を見限った俺達は、かつての共和国との戦いで捕縛し、囚人として無理矢理働かせているコリンと、それに王都で捕らえた数人の犯罪者を擁するドライブスルー専門店へと向かった。


 もちろんこの平地で姿を隠すのは難しい、サリナの術を使えば簡単なのだが、今から呼びに行くのは面倒だ。

 ゆえにセラがどこからともなく取り出したフード付きのマントに身を包み、そのまま街道を歩いて接近していく……



 ※※※



「いらっしゃいませ~っ、ご注文をどうぞ~っ」


「ポテト100個、全部揚げたてで1分以内に用意しろ」


「……あの、お客様それはちょっと出来かねるというか何というか、ハイ、ちょっと無理です」


「ハァッ!? お前さ、プロ意識とかないの? プロが出来かねるとか言っちゃいけねぇんだよ客の前でっ! あぁんっ?」


「いえ無理なものは無理でして、あ、ですがそういった不可能なご要望をされるお客様にはですね、お詫びとしてこちらの『リアル地獄巡り券』をお渡ししています、ぜひ死んで地獄に落ちて下さい」


「舐めてんのかゴラァァァッ! おいコリンてめぇちょっと来いっ!」


「どうして私の名を……あっ、あぁぁぁっ!?」



 フードの下から現われたこの俺様のご尊顔にビックリ仰天のコリン、そのまま地に平伏し……たりはしなかった、むしろ逆に怒りの表情を見せているではないか、俺、また何かしてしまったのか?


 ということで隣のセラに黙示でヘルプを求める……反応がない、というか小刻みに震えて……我っていやがるのか、この俺様の陥った原因不明のピンチに……



「ちょっとあんたっ、帰って来たと思ったら早々にふざけないでよねっ! しかも茶化すにしてももっとやり方ってものがあるんじゃないかしら?」


「いやいや勘違いするな、これは覆面調査というやつでな、ほら、今の『ありふれたごく一般的なお客様』にお前達がどう対応するか見ていたんだよ」


「アレのどこが『一般的なお客様』なのっ? 完全に『モンスターカスタマー』だったじゃないっ!」


「・・・・・・・・・・」



 叱り飛ばしてやるつもりで来たのだが、どういうわけか逆に叱られてしまったではないか。

 しかしこのままだと拙いな、囚人で弱い立場であったはずのコリンとの力関係が逆転してしまいそうだ。


 これはそのうちどうにかして、というか弱みを握るなどしてどちらの立場が上なのかということを再度教え込んでやらねばなるまい。


 まぁ、また日を改めて揚げたてポテト100個の提供(無料)を強要するとして、今はあの巨大建造物についての目撃情報を聴取しなくてはならないのであった。


 話題を逸らすことも出来るしちょうど良い、ひとまず率直に聞いてみることとしよう……



「それでコリン、アレは、あの巨大なコロシアムみたいなのは何なんだ? 帰って来たら急に存在していたんだが……」


「ああ、アレは私達も、それからおじさま(おっさん兵)達も何も知らされていないの、つい先週だったかしらね、朝起きて城壁から出たら急に聳え立っていて」


「そんないきなり完成してんのかよっ⁉」



 王宮よりも遥かにデカい巨大建造物、それが何の前触れもなく、突然に完成していたというは驚きだ。

 いや、この王都にはそれが可能な連中が居るではないか、奴等であればそのようなことも朝飯前、何ら問題なくやってのけるであろう。


 ちょうどあの連中にもお土産の『首なしウマ用強力プロテイン』を渡しに行かなくてはならないのだし、次はそこで話を聞いてみることとしよう。



「よし、じゃあ俺達はもう戻るから、それとお前等にもお土産、これを受け取ったからには今後も馬車馬かそれ以上の働きは見せるように」


「はいはい、あ、美味しそうじゃないの、昼休憩のときに頂くわ」


「おいおい、休憩なんかしてないでちゃんと朽ち果てるまで働けよ、じゃあまたなっ」



 コリンと話をしている間に用意してくれたらしい、賄い用に分けてあったハムの切れ端を使ったサンドウィッチを受け取り、俺とセラは再び王都の中へと戻った……



 ※※※



「おう勇者殿、あまり久しぶりではないな、ガハハハッ!」


「そうだな、どういうわけかここから遥か東の魔族領域で遭遇しているんだもんな、てかあの後どうやって帰ったんだよ?」


「なぁに、普通に徒歩で帰還したのさ、かなり遠かったゆえ王都に到着したときにはもう2時間が経過していたがな」


「いや普通に徒歩なら2か月間だぞ……で、ゴンザレスよ、あんた俺の領地にある変な巨大建造物の設計施工とか任されていないか?」


「ん? あぁ、確かにアレなら俺が1人で設計して一晩を要して築き上げたものだ、国から依頼されてな、ふむ、そういえば用途の方は聞いていなかったな」



 王都筋肉団の団長であるゴンザレスの証言により、やはりあの建造物の設置は国家権力の仕業であることが判明した、まぁ当然のことだな。


 だが設計施工した本人ですら用途を聞いていないというのはどういうことなのか? もしかして何かとんでもない秘密が隠されているのか? 遷都するのか? それとも新たな遊技場か?


 もしかすると頑張った俺に対するサプライズプレゼントとして……いや、城がプレハブの奴に巨大コロシアムなど贈るわけがないか……



「それで、造った本人だからわかっているとは思うが、あの円形のコロシアム、中身はどんな感じになっているんだ?」


「中身か? 中身ならそこにある王宮を模した建物、その前には広場があって……まぁほとんど王都の中心部を模したような感じになっているな、いやはや忠実に再現するのはかなり苦労したぞ、ハッハッハ」



 一晩でやってのけたのを苦労したというのかどうかはわからないが、どうして王都の中心部を模したようなコロシアム状の建造物など造る必要があったというのだ。


 もしや来る魔王軍との戦い、そして魔王軍の本隊が王都に押し寄せた際を想定して、せめて国家の中枢だけでも別の場所に遷そうと考えて……いや、それならもっと遠くに造れるよな普通は……


 これは益々わけがわからなくなってきたぞ、近くに居ただけの部外者であるコリンや、それから今はもう王国ではなく俺の領地を守る兵士? としてあの場所に詰めている? いやもう擁護の必要はないか、あそこでグータラ生活をしているおっさん兵達がその用途を知らないのは頷ける、国家プロジェクトだしな。


 だが設計者であり施工者であり、そもそも国の中枢を担う一角である王都筋肉団の団長でもあり、究極のMランク冒険者でもあり、筋肉モリモリの変質者であって史上最強と目される生物であるゴンザレスが知らないのは納得がいかない。


 一体王宮はあんなものを、しかも俺の大切な領地を無断使用してまで設置して何がしたいのか。

 その疑問を解消するためには……やはり直接王宮へ行って聞き出す以外にはなさそうだ。


 ちょうど俺達が居なかった間の情勢の変化、とりわけサキュバスに魅了されてどうにかなってしまった馬鹿聖職者共によって制圧されてしまっている聖都がどうなったのかも知りたい。


 そして本来であれば俺達がアフターケアをしなくてはならなかったヨエー村の現状も、ここで一緒に確認しておかなくてはならないのである。



「よしセラ、まだ時間はあるし、俺達はこの足で王宮へ向かおう」


「そうね、どうせ王宮には明日ぐらいに報告へ行かなきゃだったわけだし、今から行っても別に迷惑じゃないわよね」


「あぁ、それで報告はそこそこに領地の無断使用の件、キッチリ話を聞くんだ、駄王とババァへの土産は酒のつもりだったが、ここで俺様の必殺勇者殺人パンチも追加だな」



 ということで移動、俺とセラは指の骨をゴキゴキと鳴らしながら、地味に歩いて王宮を目指した……



 ※※※



「おぉ、ゆうしゃよ、よくぞ戻っ……」


「必殺大勇者殺人踵落としっ!」


「へぶしっ!」


「ちょっと勇者様、今の王様、珍しくいつもと違うセリフを発しようとしていたわよ」


「マジかすまんっ、ついいつもの癖で蹴りを……おい駄王、生きてるか? ちょっと今のをもう1回言ってみろ」


「お……おぉ、ゆうしゃよ、この度はご苦労で……」


「やっぱいつもと一緒じゃねぇかっ!」


「へぶしっ!」



 2発目の踵落としを喰らった駄王は大量に出血し、意識を失って床にキスをする格好で倒れ伏した、ざまぁみやがれこのアル中国王めが。


 で、そんな俺達のやり取りを温かい視線で見守っていた大臣共の中から、今回のメインターゲットである総務大臣のババァを見つけ、そちらへツカツカと歩いて行く……



「おいババァ、まずは俺達の労をねぎらって豪勢な食事と報酬の金貨を寄越しやがれ、それが帰還した勇者様に対する最低限の対応だと思うんだがな」


「勇者よ、おぬしはなんと傲慢なことか、そんなんだから市井の者共からすら雑魚扱いされるのじゃ、今やどんなモブキャラであってもまだ異世界勇者よりはマシ、まだ自分より下が居ると安心し切って堕落をじゃな……」


「うるせぇよ、そんなことより俺の領地にあるあのバカデカいコロシアムみたいなのは何だ? 地代を払え、さもなくば収去して土地を明け渡すよう請求する、もちろん裁判上の請求だぞ、遠征の報酬を注ぎ込んですげぇ代理人を雇ってやるからなっ!」


「……ふぅっ、やれやれ、おぬしらの目は節穴かと思っていたのじゃが、もうアレの存在に気付いてしまったのじゃな」


「もう気付いたとかじゃねぇっ! あんなの見落とすわけがねぇだろっ! で、結局何なのアレ?」


「ふ~む……うむ、それは明後日じゃな、この場で行われる臨時の王都中枢会議にて報告しようと思っておる、どうせおぬしらの報告のために設けた会議じゃて、来ねばならんのじゃしそのついでにアレの正体を知ることが出来る、それで良いじゃろう?」


「クソッ、絶対に会議をブッチさせないつもりだな……」



 狡猾なババァ総務大臣、あの建造物の正体についての情報を餌に、本来の目的である俺達の報告会を確実に開催するつもりのようだ。


 当然他の連中もアレに関しては気になっているはず、明後日の会議は俺の報告ではなく、そちらを目的として高い出席率をマークしそうな感じだな……


 その後、何度か詰め寄ってみたり、騙して口を滑らさせてやろうとしたものの、ババァのシワシワの口はチャックが掛かっているかのように閉ざされ、情報を得ることが出来なかった。


 しばらくして運ばれて来た料理に目を奪われた俺とセラは、結局聖都のこと、それからヨエー村の特に変わっていない現状だけを聞き、王子と聖女メルシーにも少し会って友達であるリリィからのお土産を渡し、残った料理を包ませて王宮を後にした……結局何をしに来たのかわからなくなってしまったではないか……


 まぁ、それでも求めていた情報は明後日の報告会で判明するのだ、もちろん俺の報告など誰も興味がないし聞いてくれないのであろうから、その準備はそこそこにして、明かされる情報の方に期待しておくこととしよう。


 で、もちろんのことその日の夜は皆で食事をしながらの予想大会となった、まぁ、それは当然の流れである。

 そしてあの建造物が出来上がった当日、仕事で遅くなり実際に建設の様子を見ていたシルビアさんの話が非常に興味深かった。


 どうやらゴンザレスの奴がなぜかはわからないが『玉座のようなモノ』を中に運び込んでいたのだという。


 玉座があるということは何か重要な人物がそこに着くということ、やはりすぐ隣に遷都するつもりか? 通常では考えられないが、この国の中枢が果てしない馬鹿ばかりであることを考えれば、それも絶対にないとは言い切れないからな……



「ちなみにカレンはアレが何のために造られたんだと思う?」


「私ですか? え~っと、え~っと、あ、闘技場の新しいやつとかじゃないですか? 周りにお客さんを入れて、中で軍隊同士が戦争ごっこをするみたいな」


「なるほど、それはアツいし入場料もなかなかになりそうだな、賭けとかも盛り上がりそうだし、王都の歳入を引き上げるためにそういうのを造ったとしてもおかしくはないな、だが人の領地に造るなよって感じだ」


「仕方ないですよ勇者様、もちろんそんな感じのものだったら売り上げの一部はこちらに欲しいですが、勇者様が領地経営をサボって有効活用しないままだったから……」


「おいミラ、あそこは元々森まで続く単なる平野だったじゃないか、最初から雑種地なの、畑とドライブスルー専門店を開設しただけでも頑張った方だと考えて頂きたいところだな」


「……それってほぼ初期状態じゃないですか」



 確かにミラの言う通りだ、町創り系のゲームであれば最初のチュートリアルが終わった段階でありそうな施設しか開設されていないのは事実。


 だがそれには理由があるのだ、何せ俺は単なる領主様ではなく魔王軍と戦う勇者様なのだから。

 現状では領地の発展など頑張っている暇ではない、ただでさえ『魔王軍以外の変な奴等』との戦いも強要されているというのにだ。



「まぁ良いや、真相が判明するのはどうせ明後日なわけだし、それまでは特に気にせず待っていることとしよう」


「ご主人様、それでは明日は1日お休み……ということで良いんですよね?」


「もちろんだ、だがルビアよ、後ろで母君がタダ働きさせる気満々で捕縛の準備をしているぞ」


「へ? ひゃぁぁぁっ! 縛られるのは嬉しいけどタダ働きは嫌ですっ!」



 無言でルビアを縛り上げたシルビアさん、笑顔で軽く手を振り、ミノムシ状態のルビアを引き摺って大部屋から退室して行った。


 今夜、というか明日の夜すらルビアが帰って来るか怪しいところだな、まぁ、仕方ないからカレンの尻尾でもモフモフしながら寝ることとしよう。



「あ、それから勇者様、先程伝令が来たのですが、明日にはΩ4人娘が一度帰って来るとのことです、コパーちゃんはまだ腕がありませんし、世話係なんかはどうしましょうか?」


「う~む、地下牢の奴等は信用ならんし、サキュバス軍団はどういうわけか牢屋にすら居なかったし……とにかくこの部屋で預かることとしようか、日中でも誰かしら居るだろうからな」


「わかりました、では引き取り次第ここへ通しておきます、あとサキュバスの子達は町の中心部に新規オープンしたお店の地下に住んでいるそうです、あと受付係として元四天王カーミラもそちらへ」


「そうかそうか、そっちの方も折を見て顔を出してやらないとだな……」



 もちろん今はそんな所に顔を出しているような暇ではない、これに関してはまた落ち着き次第どうにかしていこうと思う、例えばまだサキュバスの影響下にある聖都が片付き次第、とかそんな感じだ。


 ということで翌日のOFF日を迎え、午後には帰って来るというコパー達のために受け入れ態勢を準備した。

 その際にも窓から見える巨大建造物、早くその用途が知りたいものである……

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