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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第九章 才能開花
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595 奴はかつての

「……ふむふむ、ここをああしてこうして……ダメです、このままでは全く上手くいく気配がありませんね」


「何が足りないんだ? 必要なものがあれば獲りに行くぞ」


「そうですね、まずは太陽を5個、それに月を7個、あとは我々の住むこの世界自体を10程度用意して、そのエネルギーを抽出して、それからそれから……」


「すまんが現実的なもので頼む、太陽を5個も持って来たらさすがの俺でもちょっとだけ日焼けしちゃうぜ」


「しかしコバルトブルー回路を作成するにはそのぐらいのエネルギーが必要でして、どこかにウンウンウンチウムでも落ちていれば話は別なのですが、まさかそんな希少な物質があるとは思えませんしね」


「またあのウ○コの話なのかよ……」



 ウンウンウンチウムはもうこりごりだ、ちなみに俺達は今、大陸の東の果てにあるというΩの拠点、本社工場を目指して進軍しており、その途中の小休止にて技術者に研究の進捗を尋ねていたところだ。


 で、もちろんこの男の要求するような膨大なエネルギーを、いきなりこんな場所へ集結させることはまず間違いなく出来ない。


 いや、女神であれば可能なのかも知れないが、それをすればこの世界は焼け、全てが消滅した全くの無へと戻ることであろう、Ωどころではない、俺達も、そして俺達の輝かしい未来もそこで潰えることになるのだ。


 とにかくエネルギーを掻き集め、コパーを超強化するためのコバルトブルー回路とやらを、何がどうあっても、どうしても創り出したい技術者、対するはこの世界の未来と平和を守りたい俺や仲間達。


 このままでは身内で利害が対立してしまうではないか、もちろんこの場合には俺達が正義であり、技術者のおっさんは悪のマッドサイエンティストということになるのだが、こればかりは確実に避けたい未来だ。


 では、どうやってこの世界が終末の時を迎えることなく、この狂った天才技術者に満足を得させる、そしてΩ軍団も手玉に取ることが出来るのか、それを考えて調整していくのが俺の仕事だ、とても勇者様とは思えないものなのだが……



「とにかくさ、どこからか力を持って来て、それを一ヶ所に集中させることが出来れば良いんだよな?」


「ええ、可能であれば熱を持たせて、このコバルトブルーの結晶を粉末状にするのです、それをコパーさんに飲ませたり鼻から入れたり、水に溶いて肌から染み込ませたり、とにかく取り込ませることによって、体内で勝手にコバルトブルー回路が生成されて……」


「おいちょっと待て、それなら普通に砕いて粉末にすれば良いんじゃないのか?」


「いえ、それですと上手くいかないとの結果が出ています、というかむしろその加える熱というものが単なる熱ではないのではないかとの予測もないわけではありません、とにかく未知の力なのですが、このコバルトブルーに何らかの強大な力を加えなくてはならないのです」


「う~む、良くわからんが……プライマリの原子爆弾を爆発させて、それがセカンダリの何とかをどうこうとかでないことを祈ろう……ん? いやこっちの、異世界の話だ、気にしない方が身のためだし世界のためだぞ」



 そういえば『コバルト爆弾』なるものをどこかで聞いたことがある、というかどこかのお話で、『Ω』という単語と共に聞いたような聞いていないような……今それを考えるのはよそう、あれは架空の物語だ。


 というかそもそもアレは、あの兵器は『Ω』ではなく『Α』であって、いやどちらであったか、順番も逆のような気がするがまぁ気にしないことだ、少なくとも俺はサルよりも賢いはず。


 しかし本当に困ったことだな、おそらく人族では5本の指に入る程度であろう天才の技術者にも全くわからない力、それがどこにあるのか、どうしてそのような膨大な力が必要なのか、本当に見えてこないのだ。



『皆さん、そろそろ出発致しましょう、焚火をしてしまいましたし、ここに長く居座るのは敵に狼煙で居場所を伝えているのと変わりません』


「おっと、そういえばもう敵地も奥深く、敵本拠地の近くだったんだな、昼食と夕食は『冷めてもおいしいモノ』をまとめて作ったみたいだし、そろそろ出発するとしよう……したかったんだがな……」


『む? ほう、もう手遅れであったようですな、敵はかなりの大軍勢ですぞ』



 里で最強の3人を救出したことにより、その連中にすっかりポジションを奪われてしまったデュラハン隊長。

 もはや俺達への連絡係兼御用聞きのような感じなのだが、それでも俺にさほど遅れを取らないタイミングで敵の接近に気付いたのはなかなかだ。


 他の遠征メンバー達も、大半が東の空、そして地上からも迫るΩの大軍団に気付いたようだ、ちなみにルビアは居眠りをしたまま起きようとしない、戦闘員とは思えない鈍感さである。



「おいルビア、起きやがれこのっ、このっ! おっぱいを握ってやるっ!」


「あうっ、あへっ……どうしたんですかご主人様? そんなにおっぱいが触りたいのであれば、普通に脱げとか命じれば良いじゃないですか」


「そうじゃなくて、いやそうだけども、今は敵襲タイムだ、おっぱいの話は後でゆっくりネチネチとさせて貰う、とにかく起きて戦う準備をするんだっ!」


「もうっ、せっかくお昼寝していたのに、本当に野暮な敵軍ですね」


「全くだ、奴等さえ来なければ今頃はおっぱいボインボインだったのにな」


「ボインボイ~ンッ……おやすみなさい……」


「こんだけ会話しておいて二度寝すんなっ!」



 もう一度、今度は無理矢理に引き摺り起こし、どうにかルビアの意識を呼び戻すことに成功した。

 だがその間に敵Ω大軍団は接近、上空のものは目視が可能な位置までやって来てしまっている。


 そしてその数は……パッと見でだいたい5万程度か、もちろん飛行しているシルバーΩメインのものだけでそれであり、ドドドドッと地響きを上げている地上のものも含めると、どうも10万程度の集団ではないかと推測される大規模な攻撃だ。


 現時点で上空には指揮官らしきΩが確認されていない、そういうのが居た場合には間違いなく、色や形状などで容易に判断することが可能な『特別仕様』になっているはず。


 ということは指揮官は未だ見えてこない地上部隊に含まれるのか……と、その瞬間に明らかな、どう考えても大将軍が鎮座している巨大な人力車が見えた。


 俺達の視界の先に続く森の木々を平気で薙ぎ倒しながら、その巨大人力車はそこそこのスピードでこちらへ向かう。


 残念なことに見えているのは先端のみであり、その下にどんな野郎が座っているのかはわからないが、考えられるのはそこに魔族の将軍が座り、横に家臣的な感じで指揮官Ωを配置しているというもの。


 或いは魔族の将軍はナシでΩのみ、つまり指揮官Ωが人力車のど真ん中に、偉そうな顔をして座っているというパターンだ。


 どちらの方が楽だとか手強いとかそういう違いの出るものではないが、可能であれば前者、勝利した後に拷問して情報を吐かせることが出来る魔族キャラが居た方が比較的助かるといえよう。



「そろそろ上の連中は到着しそうだな、セラ、ユリナ、精霊様、3人共もう間合には入っていると思うが、いきなり攻撃せずに少し待ってくれよ、『情報源』が来ているかもだからな」


「りょ~かい」

「わかりましたの」

「面倒ねぇ~」



 その他のメンバーにも、特にカレンには地上の敵が見えても落ち着くように伝えて同意を得る。

 と、もちろん尻尾が逆立ち、攻撃態勢に入っているカレン、口ではわかったと言っても無理そうだ、念のためジェシカに押さえさせておこう……


 ついでに、今回がこの遠征軍に所属して初の大規模戦闘となる3人、剛毛野郎から取り返したデュラハン戦士達を前に出させてやろう、助けられただけで何の手柄もない状態で同行させているのはあまりに不憫だからな。


 ということでやる気満々にて前に出る3人、ついでに最初から居た5人のデュラハンをそのすぐ後ろに配置、俺達はそのさらに後ろに前衛がくる、ここ最近では滅多になかった抑え気味のポジション取りとなった。



『そろそろ見えそうだっ! かなり巨大な人力車のようだぞっ!』

『ふむ、我等のリハビリにはちょうど良いではないか』

『もちろん、乗っているのが少しは骨のある……無理だろアレは、完全にアウトではないか……』


「何を言って……ぎゃぁぁっっ! めっちゃキモいじゃねぇかぁぁぁっ!」



 巨大人力車に設置されていたのは黄金に輝く玉座……ではなく三角木馬、しかもそれに騎乗しているのはブリーフ一丁で縛られたハゲでデブのおっさんである。


 どうやら魔族のようだが……いや、ああいうのは前にも見たことがあったな、かなり強かった印象があるのだが……無理だ、思い出そうとすると吐き気がする、だが相当にトラウマものなビジュアルの奴であったのは確かだな。



「ご主人様、どういうわけかあの敵……なのか人質なのかはわかりませんが、私が第二の特殊火魔法、レーザーを得ることになった戦い、そのときの敵と同じような気がしますの」


「大丈夫だユリナ、アレはきっと別人、別豚野郎だ、ああいうタイプの豚野郎は俺が前に居た世界でもちょくちょく居たからな、皆普段はそこそこの社会的地位を有しているのが特徴だ」


「そうであって欲しいですの、あんなのが蘇生してこの世に舞い降りたのだと思うと悪寒が……」


「ああ、だがそんなこと女神も、それから魔界の神であっても許すはずがないさ、とにかく奴はあの敵とは別の豚野郎だ、皆も用心して掛かるぞっ!」


『うぇ~いっ!』



 三角木馬の上から何かを訴えようとしている豚野郎、しかし猿轡を噛まされているため言葉を発することなど出来ようはずもない、単にモゴモゴと音を出しているだけだ。


 そのまま接近して来る人力車、俺達は完全に豚野郎単体でのお出ましだと思っていたのだが、限界まで近付いたところでそうでないことが判明した。


 もう1人、豚野郎の影に隠れた小さい、本当にカレンやサリナ程度、つまり身長にして140cmを余裕で下回るレベルの小さな女の子が、おっかなびっくりといった感じでチラチラとこちらを見ているのだ。


 そしてその女の子の方こそが魔族、気持ちの悪い豚野郎の方は……Ωでもなく魔族でもない、いや、ついこの間戦ったハーフΩと同じ雰囲気ではないか……



「ご主人様、あの豚野郎はやはりあのときのあの豚野郎ですの、間違いありませんわ」


「ああ、あの豚野郎をあのハーフΩと同じ方法で蘇生させたのがあの豚野郎みたいだな、つまりあの豚野郎はあの豚野郎でもあって、それでも今はΩ化してあの豚野郎になっているということだ」


「あの、2人共少し落ち着いた方が良いような……」



 とはいえ『あの豚野郎』にはかつてかなり苦戦させられたのだ、当時は確かジェシカの実家の領内にある、美しい湖の畔のキャンプ場であったか、そこで襲撃を受け、あの頃のユリナ以上の火魔法の使い手であったあの、ドM豚課長の魔将補佐と戦ったのだ。


 今となっては懐かしく、そして当時の強敵など吹けば飛ぶ、いや吹かずとも眼力だけで消滅させることが可能なぐらいには強くなった俺達だが、やはり苦戦した記憶というものは根強く残るもののようである。


 つまり、ユリナはあの豚野郎を前にしてすっかりブルッてしまっているのだ、今でこそ自分のものにしたレーザー火魔法ではあるが、初見ではどうしようもない、とても勝ち目があるようには思えない強力な業であったのだから。


 まぁ、もちろんあの豚野郎が当時のあの豚野郎のままここに姿を現したわけではない、それは明らかである。

 少なくともΩ化したことによって数段、もっと言えば数十段上の実力を獲得した可能性さえあるのだ……



「ちょっと最初は様子を見よう、何をしてくるかわからない奴だし、デュラハン軍団の方も十分に注意してくれ」


『了解した、我等としてもあのような禍々しいオーラを纏う敵を、そう易々と倒せぬのであろうと考えていたところだ』


「でも勇者様、あっちの、ほら今また隠れた女の子、フードを被っているから顔は良くわかんないんだけどさ、あっちが弱点なんじゃないかしら?」


「まぁ、それはそうだろうが……セラ、お前いきなりあの子に攻撃する度胸があるか?」


「ないわよさすがに、鬼畜非道にして無能の極みである勇者様でさえそんなこと考えてないのに、どうして私がててててっ! 脇腹は肉がないから抓られると痛いのっ!」


「黙れっ、大人しく鬼畜非道勇者様のお仕置きを受けるんだっ!」


「ひぃぃぃっ! せめて頬っぺたかお尻にしてぇぇぇっ!」



 と、セラなんぞにお仕置きしている暇ではないな、今は目の前の敵、Ω化して復活した恐怖の豚課長を銅処理すべきなのかを考えなくては。


 とはいえ本人、いや本豚の方はあの状態では話すことも、そして俺達の話をまともに聞くことも出来ないはずだ。

 仕方ないので人力車の上に居るもう1人、『ちゃんとした魔族』の女の子の方に話を聞くこととしよう……



「お~いっ! 俺の言葉がわかるか~っ? ちなみに豚野郎ではなくてそっちの女の子魔族に言っているんだぞ~っ!」


「……ふっ、フハハハッ! わ……我は……え~っと、何だっけ……我は豚野郎Ωを介してΩ大軍団を操る史上最強の……あ、これ何て読むんだろ……え~っと、え~っと……もうわかんないぃぃぃつ!」



 しどろもどろと、カンペを読みながら口上を述べた女の子魔族であったが、どうやら途中で難読文字があったらしい。

 嫌になり、カンペを投げ捨てて踏み付け、グチャグチャにしてしまったではないか。


 で、ふと我に返ってこちらを見た後、焦ったような表情を浮かべたと思いきやピュンッと、再び豚の後ろへと隠れてしまった、今はおっかなびっくりといった感じでこちらを見ている。



「弱ったわね、あれじゃあ……って、馬車の中が騒がしいわね、誰かしら暴れている子は?」


「荷台の方だな、あ、もしかしてホルンが便所にでも……っと、確かに暴れているのはホルンのようだが、どうもそんな感じじゃないみたいだな……」


「本当ね、ちょっと出してあげましょ、もしかしたらあの女の子魔族のこと知っているのかも、だってほら、フードの隙間を見てみてよ」


「……耳が……長いな、純粋魔族ってことだな、うむ、そういうことみたいだ」



 すぐに馬車の荷台へ向かうと、こちらから降ろしてやることもなく飛び出して来たホルン。

 あたあたと焦っているが、少し落ち着けと言うと呼吸を整えて喋り出した……



「あっ、ああああっ、あれは私のいいいいいっ、いもっ、芋……」


「芋が食べたいのか? 今は的との戦闘中だから少し我慢するんだ」


「いもっ、いもいもっ、芋じゃなくて妹ですっ!」


「まさか芋が妹だと錯覚しているのか? 本当にかわいそうな奴だな」


「勇者様、たぶんそうじゃないと思うわよ……」



 暴れると危険ということで縄を解いてやったホルンが指差した先、そこには馬車に積まれているジャガイモではなく、豚野郎の後ろに隠れていた純粋魔族の少女の姿があった。


 どうやら向こうも気付いたようだ、すぐに隠れるのをやめ、人力車から飛び降りてこちらへ、全く何の武器も持たずに敵である俺達の方へと走って来るではないか。


 その際に外れたフード、あらわになる長い耳と、それからホルンをそのまま幼少期に戻したような顔立ち。

 間違いない、芋とこの子のどちらがホルンの妹なのかという判断をした場合、十中八九はこの女の子の方であると結論付けることが出来そうな感じだな。



()()()! どうしてあなたがこんな所にっ!?」


「姉ちゃんっ! 無事だったのね姉ちゃんっ! あのね、私Ωの人達に呼び出されてね、『この豚野郎の火力をもって勇者を滅ぼして来い、さもなくばこちらが握っているお前の姉の命はないぞっ!』って脅されてね、それでね、それでねっ!」


「まぁっ、それじゃああなた、ブルー商会に良いように扱き使われて、かわいそうに……」


「いやホルンもたいがいかわいそうなんだけどな、まぁ良いや、これで戦わずして敵の指揮官を押さえたことになるな」


「ああ、残るはシルバーΩと、どうも自分では動けない様子の豚だけだからな、さてどう戦っていくか……」


「あのねっ、あの変な気持ち悪いのを解放? すると強力な火魔法で全てを焼き払うどうのこうので、使った後は自分も燃え尽きちゃうんだって」


「そうかそうか、きっとレーザー火魔法を超強化して……と、それ、コバルトブルーで受けたらどうなるんだ? 一点集中だが、それでもかなりのエネルギー量になるはずだぞ」


「レーザー火魔法ですか……ふむ、やってみる価値はありそうですね、コパーさん、まずはΩの支配権を獲得して下さい、あ、可能な限りで構いませんからね、無理は禁物です」


「わかりました、では……ふぬぬぬっ……」



 両手を前に突き出して、力と共に思いをも込めていくコパー、敵軍前列、地上と上空を合わせておそらく10万の軍のおよそ15%程度であろうか、とにかく一瞬おかしな動きをし、そのままクルッと反対を向いた。



「ふむ、現時点ではあのぐらいですか、もっと敵同士の距離が詰まっていればもう少し操ることが出来る数も多かったと、あとは遠すぎて届いていない敵も居たはずですが、まぁプラグインなしでこのぐらいであればまずまずといったところでしょう」


「す、すみませんイマイチで……」


「いえいえ、そんなことはありませんよコパーさん、素の状態でこれだけの力を発揮出来ているんです、これが、いえこれにコバルトブルー回路を完成させて上乗せさせれば全Ωをあっという間に味方に付けることも不可能ではありません、で、そのためにあの不思議な格好をした元魔族の力を使うのですっ!」



 技術者がビシッと指差した先には豚野郎、というか元豚課長というか、いまだに三角木馬の上でモゾモゾと蠢いている不快な物体。


 どうやらコパーの指揮下には置かれていないようだ、一応効力範囲ないのはずなのに、レベルが高すぎていうことを聞かないというやつか?


 とにかく、奴がこれから放ってくるであろうレーザー火魔法、それを上手く活用出来るか否かが勝負の分かれ目だな……

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