593 再封印
「アチチチチッ! 熱い熱いっ!」
「落ち着けっ、今このアッチアチの温泉をぶっ掛けしてやるからなっ! それっ!」
「アチチチチッ! こっちもアツィィィッ!」
「おう、それはすまんかった」
復活せし古のケツアゴ野郎が放った最後のファイアブレス、それが洞窟の大爆発を巻き起こし、エリナに守られながら飛び出して来たコパーはもはや頭が赤熱状態。
このままでは危険ということで温泉の湯を掛け、熱を冷ましてやる。
もっとも温泉も激アツではあるため本人は辛そうだが、それでもこのままボディーの一部が溶けてしまったり、熱で機能障害を起こしたりするよりはマシだとわかっているはず。
他の仲間も協力し、必死でコパーに温泉の湯を掛け続ける、しばらく後には熱い熱いと言いながらも、コパーから発せられ、周囲の温度を異常に上げる熱はどこかへ消えて行ったようだ。
「アチチッ、も、もう大丈夫なのでその熱いお湯を掛けるのは止めて下さいっ、というか水を……」
「うむ、だが本当に大丈夫なのか? 頭が、というか髪の毛が真っ赤なままだぞ」
「えっ? あ、その、自分ではわからないんですが、どうなっていますか?」
「すげぇアレだぞ、ダイヤとかレッドにも劣らないぐらいの『真紅』、そんな感じだな」
「ほぇ~、それがどんな色なのかはわかりません、わかりませんが……とにかく赤いということだけはわかりました」
この世界ではなぜか鏡というものを持ち歩く人間が少ない、人族の技術力ではイマイチまともなものが創り出せず、魔族は……そういうものに無頓着なのであろう、技術的には余裕でどうにかなるはうだが。
で、とにかくコパーの髪色は、これまでのような赤茶けた銅の色ではなく、真っ赤に燃えるような、本当に真紅と呼んで良い色に変化したのであった。
これがどういう現象なのかはわからないが、とにかくそれ以外の機能には障害がないようなのでもう安心だ。
念のため技術者に見せて、本当に大丈夫なのかということと、それからこの髪色がどうしてこうなったのかについても把握しておくこととしよう。
「それで、他の3人は大丈夫なのか?」
『大丈夫ですっ!』
「さすがは戦闘タイプのΩだ、で、エリナの方は……」
「勇者さん、これは労働災害ですよ、本来なら致命傷になるはずのこの火傷、どのようにして補償してくれると言うのですか?」
「うむ、それだけ喋れるなら大丈夫だな、ルビア、ちょっと簡単に治療してやれ、それが俺の提供する補償だ」
「酷いっ! せめて何か特別ボーナスをっ!」
「はい飴ちゃん、しかも10個だ」
「ぉっしゃぁぁぁっ! 大勝利キタこれっ!」
何だかんだと言ってきても、基本的に甘いものを使えば簡単に釣ることが出来るエリナ。
ちなみにルビア辺りもその類だ、よって勇者パーティー内では金銭ではなく、飴玉やビスケットによる買収が横行している。
と、まぁそんなエリナはルビアの回復魔法によって完全に傷が癒え、酷い大火傷の姿も元に戻った。
あとは……Ωの3人は全員髪が凄いことになっている、まるで実験に失敗した博士のようだ。
だがルビアの回復魔法は強烈だ、通常のダメージだけでなく、髪の毛だのキューティクルだの、毛根が死んでいない限りは簡単に治療することが出来てしまう、そしてもちろんΩに対しても有効なはず。
すぐに3人を並ばせ、順番に回復魔法を使用していくルビア、人間と同じような髪の毛は、チリチリのヨレヨレになった状態からスッと、まるでアイロンでも当てたかのようにストレートになる。
「よしよし、これでコパーの髪色も……」
「ぜんっぜん戻らないじゃないの、真っ赤なままよ」
「え~っ!? じゃあもう私、『コパー』って名乗ったらダメなんですか?」
「いやそれは別に構わないだろ、コパーは『コパーΩ』なんだからな、あとの2人だって短縮してはいるが、それぞれ『ブラッドダイヤモンドΩ』と『レッドサージェントΩ』から通常の呼称を取っているんだし」
「あ、それもそうですね、じゃあ色が変わってはしまいましたが、これからも私はコパーということで、今後ともよろしくお願い致します、へへーっ」
「うむ、面を上げよ」
変色を機に改めて挨拶をし、どうにか俺に取り入ろうと、勇者パーティーの専属メイドとして採用されたい様子のコパー。
真っ赤に燃えるような髪色は、地面に土下座した際には本当に強調される、凄く目立ちそうだな。
ちなみに、専属メイドとしては既にアイリスが居るため間に合っている、というかキャラが被るのでコパーが王都の屋敷でメイドになることは……留守番用の臨時職員ならそれでも良いか、とにかくアイリスのポジションが脅かされることはない……
「でだ、コパーの髪の毛がどうして元通りにならないのか、ちょっと技術者のおっさんに見て貰おうか、ちなみに体調、というかまぁ、何というか……どこにも不具合はないんだよな?」
「ええ、それどころか力が漲るような感覚で、もしかしたら物凄く強くなってしまったのかも知れません」
「う~む、戦闘力が向上したようには見えないがな、まぁ良いや、とにかくこっち来い、午後の部の洞窟探索に耐えられるかどうかだけでも確認しておかないとだしな」
「あ、は~い」
良くわからないことを言っているコパーを連れて、ケツァゴルコアトルスの死体をまじまじと観察していた技術者に預ける、というか生き返って攻撃してきたらどうするつもりなのだこの非戦闘員は。
で、こちらの用件に関してはだが、少し調べないとわからないので時間が欲しいと言われてしまった。
まぁ良い、ちょうど昼食の時間だし、既にマーサが採って来た『食べられる』タケノコも、夕食用として水煮が始まったところだ。
それ以外にも森で獲れた獲物と保存用に塩漬けにしてあったダイオウシカの肉を……いや待て、それで思い出したのだが、そもそも今回のトラブルを持ち込んだ4人、それがその辺で遊び呆けているというのはどういうことなのであろうか?
カレンとリリィは自慢げに獲物を持ち、それをミラに引き渡しながら偉そうにしているし、マーサはピクニックシートの上でゴロゴロ、ジェシカに至ってはケツァゴルコアトルスの死体から戦利品を剥ぎ取ろうとしている。
「おいコラ、狩猟部隊の4人はちょっと集合、勇者様たるこの俺様からお話しがあるんだ」
「ギクッ!」
「ひぃぃぃっ!」
「あら、お仕置きかしら? それなら大歓迎よ」
「無論私もだ」
大人しく指示に従ったのはマーサとジェシカ、2人には馬車の中に入って待つように伝え、逃走した方の2人を追う……と、素早さ的には完全に不利だ、もちろん捕まえることなど出来ない。
ここは搦め手を、いやとんでもなく効果のある脅しを使って戻らせよう……
「お~いっ! 2人共今なら『尻尾クリップの刑』だけで良いにしてやるぞ~っ! だが10秒以内に戻らなかったら『昼食と夕食ダブル抜きの刑』だぞ~っ!」
『それは絶対にイヤですっ!』
「よし、じゃあこっちへ来て大人しく罰を受けるんだ、痛いクリップを用意しているから楽しみにしろよ」
『ひぃぃぃっ! ごめんなさいでしたっ!』
戻って来たカレンとリリィの襟首を掴み、そのままマーサとジェシカが待つ馬車の中へと入る。
既に正座していた2人の横に新たな2人を座らせ、全てのカーテンを閉めて尋問を始めた……
「それで、誰が邪悪な祭壇に生贄を捧げてみようなどと言い出したんだ?」
「……は~い、この私で~っす」
「マーサが主犯てことだな、まぁお目付け役なのに止めなかったジェシカも同罪だが、で、カレンリリィは従犯てことで良いんだな?」
『その通りで~す、ごめんなさ~い』
4人でキッチリとハモりつつ犯罪の告白をする、これで主犯と従犯が確定したわけだが、従犯の2人は当初から予定していた『尻尾クリップの刑』だけで済ませてやることとしよう。
言いだしっぺのマーサと監督義務違反のジェシカは……お仕置きしながら考えて、このドMの2人でも泣いて謝るような、とんでもない目に遭わせてやることとするか……
「はい、じゃあまずはカレンとリリィだ、尻尾をこっちに向けろ」
『わかりました~』
2人が反対を向いて四つん這いになると、カレンのモフモフ狼尻尾、そしてリリィのミニミニドラゴン尻尾が姿を現す。
まずは触って双方の感触を堪能した後、用意してあった巨大な、布団でも干すかのようなクリップをカレンに、そして小さいながらも強力な、挟まれて痛いことは一目瞭然のクリップをリリィに見せつけ、刑の執行を宣告する。
「いくぞっ、2人共覚悟しやがれっ!」
「ひぃぃぃっ! いったぁぁぁっ! ごめんなさいですっ!」
「うぅぅっ……いやぁぁぁっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
「よし、これで作業完了だ、昼食後に外してやるからそれまで我慢するように、じゃあ2人は解散!」
『は~い……』
痛そうな感じを醸し出しつつ馬車から降りて行った2人、気になってカーテンの隙間から様子を見てみると、カレンはそのままピクニックシートの上にゴロンと、リリィは『かわいそうな被害者』を演出し、ミラから干し肉の切れ端を貰っていた。
どうやらリリィの方が賢いようだな、年齢はかなり下なのだが、それでも『お仕置きされた』という事実を利用して利益を得ようとする、転んだとてタダでは起きないその考え方は大切だ。
まぁ、カレンは性格的に、というか知能的にそこまで頭が回らないか、それが可愛らしいところでもあるのだが、そのせいでこれまで様々な損失を被って生きてきたはずである。
と、2人の様子を見るのはもうこれで十分、ここから問題となるのは未だに正座待機しているマーサとジェシカの処分についてだ、まずはお仕置きを開始しつつ考えていこう……
「はい、じゃあまずは2人共どうして欲しいか言ってみろ」
「え~っと、それなら私はカンチョーして欲しいわね、あのバケモノみたいに強烈なのをお願い」
「私はそうだな……縄で縛られて布団叩きで尻をビシバシしてくれ、なお皆に見られていた方がよりGoodだな」
「うむ、相変わらず歪んでいるようで安心したぞ、となるとその2つのお仕置きを避けて色々やっていきたいと思いまーっす」
『だっ、騙されたぁぁぁっ!』
「ということで最初の罰は事件現場の片付けだ、あの薄汚い死骸が綺麗サッパリなくなるように、昼食時に不快なモノを見なくて済むようにするんだ、ほら行くぞっ!」
『……は~い』
この後の予定としては、まず2人にケツァゴルコアトルスの死体の片付けをキッチリ終えさせ、その残骸の主要部分を持って森の奥の、元々はそこに封印されていたのであろう祭壇に持ち込む。
こんなバケモノが後々蘇生したり、後世において何らかの理由で復活するようなことがあっては大変だからな。
精霊様の力を使って、この死体を封印して二度とこんなケツアゴの異形が出現しない措置を取っておかなくてはならない。
と、おそらく片付けと封印の間には昼食の時間を迎えそうだ、腹拵えをしたうえで、腹ごなしついでに森へ封印に行くというもなかなか良い計画だ、うむそうしようそうしよう。
ということで受刑者の2人にも作戦を伝え、そのまま現場の清掃をさせつつ昼食の準備が完了するのを待つ。
もし掃除が早めに終わったのだとしたら、精霊様が新たに作ったハリボテーΩ(ショボい版)の進める温泉掘りの作業でも手伝わせてやろう……
※※※
「……ふぅっ、やっと綺麗になったわね」
「ああ、少し空腹を感じるぞ、まさか昼食抜きの罰を受けることはないよな……」
「おいお前等遅いぞ、温泉の方も手伝わせようと思っていたのに」
『すっ、すみませんでしたぁぁぁっ!』
「うむ、素直に謝る姿勢は非常に良い、で、次の刑に移る前に昼食だ、手を洗ってからこっちへ戻れ」
『へへーっ! あり難き幸せっ!』
「うむうむ、慈悲深い異世界勇者様に感謝するのだぞ」
立場の弱い2人に対し、通常通りの食事を与えるという至って普通の行為をダシにしてマウントを取る。
しかし、この2人は普段からこんなに従順であれば良いのだが……と、それだとこの2人特有の可愛らしさが損なわれてしまうかもだな……
ということで皆で昼食、その席で技術者に色々と質問を投げ掛けてみるも、コパーの髪色についてはまだ詳細がわからないのだという。
だがもうひとつの事項、ケツアゴモンスターの完全な封印に関してはその口から貴重な情報が得られた。
どうやら本当は封印の際にも生贄が必要らしい、だが伝承によると、生贄に代えて『生ケツ』というか『生ケツ』を捧げてやっても良いとのこと。
もちろん新たに狩猟をして生贄を調達するのは面倒だ、それであればちょうど良い、お仕置きの一環としてマーサとジェシカの尻を丸出しにして捧げてやろう。
「え~っと、ケツァゴルコアトルスに関する伝承ですと、『生ケツ』は祭壇に向けた状態で丸出しにして、太鼓の撥で思い切り打ち据えるそうです、数が多ければ多いほど良いともありますが、これはその『生ケツ』の価値にもよるでしょうな」
「なるほど、それならば2人、いやマーサとジェシカのどちらかでも大丈夫そうだな、この2人のウサケツとデカケツは非常に価値が高いんだ、でもせっかくだから2人使うが」
「それなら私も手伝うわよ、というか私が封印の呪文を使わなきゃだし」
「おう、じゃあ食べ終わって片付けもしたら4人で森へ出発だ、時間が掛かるかもだからおやつも持って行くぞっ!」
『うぇ~いっ!』
俺達が森でケツアゴを封印し、帰って来る頃には温泉が一応の完成を遂げているはずだ。
少し蒸し暑い、そして森に入る以上汚れるのだし、戻り次第風呂に浸かって汚れを落とし、疲れを癒そう。
そのうちに昼食タイムは終了し、精霊様と技術者の意見でケツアゴの頭のみをマーサとジェシカに持たせ、木々がうっそうと茂る森へと入る。
祠と祭壇があったのはかなり奥らしいが、ケツアゴが狩猟部隊の4人を追う際に薙ぎ倒した木の残骸が転がっているため、そう苦労することなくまっすぐに向かうことが出来そうだ。
「もぉ~っ、ちょっとこの頭キモいんですけど~っ」
「そうだぞ主殿、こういうキモいモノは男である主殿が……」
「おいお前等、食事を終えたら急に偉そうな態度になったじゃねぇか、言っておくが俺様にはな、まだ『夕食抜きの刑』というカードがあるんだぞ、それを忘れて調子に乗るとどうなるかわかっているのか?」
『ひぃぃぃっ! 超ごめんなさいっ!』
「全く油断も隙もない連中だな、自分達のせいなんだから少しぐらいキモくても我慢して祭壇まで運べ」
「あら、でももう到着したみたいよ、ほら見て、泉の横に祠が見えるでしょ」
「ホントだ、こんな巨大生物を封印していただけあってでっかい祠だな」
向かう先に見えてきたのは巨大な祠、精霊様が王都の屋敷の庭に設置して使っているものよりも数段格上、しかも石造りで苔が生えている辺り雰囲気を感じさせるものだ。
そしてここも石で出来ているのだが、祠の扉は何者かによって近い過去に開けられたような形跡がある。
犯人が狩猟部隊の4人ではないことは聞かずともわかる、どうも開けてから1週間程度が経過しているようだ……
「いやはや、誰がこんな祠を開けたんだ? 人気もないし、こんな所の祠の中にお供え物の類があるとは思えないし……」
「うむ、それは私達も発見した際に話したのだが、やはり盗掘を生業とする悪い魔族がやって来て、中に金目のモノがないかどうか物色したのであろうという結論に達した」
「どうだかな、見た感じ『何か』はありそうな雰囲気だが、『金目のモノ』が入っているようには到底見えないぞ……と、それよりも封印だ、頭をこの中にある邪悪な祭壇へ置くんだったよな?」
精霊様に確認を取り、ケツアゴの目立つ首を中の祭壇に設置する、ちなみに封印を解除した際にはそこに生贄を捧げ、ケツアゴは祠の上に、黒い煙と共に出現したのだという。
「さぁ主殿、これから私達の尻を痛め付けるのだろう? 早く、早くしてくれっ!」
「私も早くして欲しいわ、てかさっさとしなさいっ!」
「クソッ、こいつらにはこの刑罰がむしろご褒美だからな、ジェシカに至ってはほぼほぼさっきの願望が叶ったみたいなもんじゃないか」
「反省がないようだし、やっぱり夕飯を抜きにしてあげたらどうかしら?」
「む、それも良いな」
『ごめんなさいっ! 調子に乗ってごめんなさいっ!』
「おう、じゃあ祭壇に『生ケツ』を向けるんだ、精霊様、俺にも太鼓の撥を」
ということで2人の『生ケツ』を祭壇の前に並べ、それを精霊様と2人で打ち据えていく。
もっともっとと喜ぶ2人は変態だが、この封印の方法を考え出した古のシャーマンか何かも相当に変態だな。
で、しばらくそれを続けていると、祭壇に設置してあったケツアゴの首が徐々に薄く、半透明になりつつあるのがわかった。
どうやら効果があるようだ、このままペースを上げて、一気にこの異形を封印してしまうことにしよう……
「オラオラッ! もっとビシバシいくぞっ!」
「ひゃう~んっ! あてっ、いてっ、あうっ!」
「なかなかの重労働ね、自動でやってくれる魔導装置が欲しいぐらいだわ、このっ! それっ!」
「痛いっ! あぁっ! もっとっ!」
そこからおよそ10分、精霊様と場所を交代しながら並んだウサケツと、デカケツを痛め付けていく。
完全に透明になり、祭壇の上から姿を消したケツアゴの首、念のためもう少し続けようということになり、そのまま儀式を継続する。
ここでもし不完全な状態のまま精霊様による封印をしても、いつの日か何者かが奴を復活させてしまう可能性がある、それであれば完全完璧に、間違いのないように入念に下準備をしておこうということだ。
祭壇の方を見つつ、勢いを保ったまま儀式を続ける……と、首が消えた場所に何かがうっすらと表れたではないか、これは一体どういうことなのだ……




