588 最後まで剛毛
「ぬわぁぁぁっ! 我の大切なシルバーΩゴリマッチョエディション512号機がっ、シルバーΩゴリマッチョエディション593号機もっ、シルバーΩゴリマッチョエディション722号機までもがぁぁぁっ! だぁぁぁっ! こっ、今度はそっちにっ! 我の大切なシルバーΩゴリマッチョエディション986号機とっ、それからシルバーΩゴリマッチョエディション……」
「おいコラ長いしくどいぞっ! てか良くもまぁそんな同型機の個体番号を覚えていられるな、変態なんじゃねぇのかコイツは?」
「あと何度も『シルバーΩゴリマッチョエディション』って言ってまるで噛まないのが不思議よね、このときのために凄く練習してきたんだわきっと」
「本当に気持ちの悪い奴だな、こんな奴が存在しているなんて、早く殺してやらないとこの世界がかわいそうだぜ」
精霊様によって上空から次々に撃ち込まれるハリボテーΩ、その地表での爆発……というかどうして木工のハリボテが爆発するのかはわからないし、そもそもそれが自律的に動いて喋っていたことが奇跡なのだが、とにかく巻き込まれた敵のシルバーΩゴリマッチョエディションは数を減らしていく。
最初に居たのがおよそ1,000体、というか真面目そうな剛毛野郎のことだ、きっとキッチリ1,000体を用意していたのであろう、そして俺達が破壊したのが最初の20体、もちろんそれは前の方に居た、小手調べに使うそこまで『大切』ではない個体であったようだが。
で、今精霊様がハンマー投げならぬハリボテ投げによって破壊しているのは敵部隊後列、前列のものよりも重要そうな、装備には勲章のようなものが付された『ハイエンドモデル』なのであろう。
どうやら個体番号で500番台以降がその強化タイプのシルバーらしく、それが『我の大切な』Ωのようだが、そんなもの俺達にとってはだからどうしたといった感じだ、マジで単なるゴミ、良いゴミかショボいゴミかの違い程度でしかない。
「のぉぉぉっ! 我の、我の本当に大切な、宝物であるシルバーΩゴリマッチョエディション1,000号機、通称ザ・ラストオブシルバーΩ剛毛スペシャルがぁぁぁっ!」
「おっ、精霊様が後ろの方のΩを全部ブチ壊したみたいだな、これであとは……」
「おのれっ! おのれこの卑怯者共めがぁぁぁっ! 我の創りし究極のΩ軍団を、こんな木製のハリボテなんぞを使ってぇぇぇっ! 許さぬ、絶対に許さぬぞっ!」
「許さねぇからどうするってんだよこのモジャ毛野郎、言っておくがこちらも許さんぞ、お前のような薄汚い存在があってはならないんだよ、多くの人を不快にしてきたその剛毛と共にこの世から消え去れってんだ」
「ぬぉぉぉっ! さらに我を侮辱するとは、こうなったら、こうなったらもう、我が本当に本当に、ほんとぉ~にっ大切にしている……」
「ほんとぉ~にっ大切にしている、何を出すんだ?」
「現時点では最強、そして我が最強Ω構想の基礎となる後の№2、デュラハンΩを繰り出すしかないっ!」
「……№2だって? おい、デュラハンΩって……あ、出て来た、やっぱりそれだよな、それが№2になるというのはどういうことだっ?」
予想通り、神輿の中から出て来たのは3体のΩ、ではなくΩにされてしまった3人のデュラハンであった。
ただし頭部に接続されたΩ部分に関しては、あの気持ちの悪い、張り付いたような笑みを浮かべたタイプではなく……白地にへのへのもへじが描かれただけの極めてショボいものに変更されている。
そして剛毛野郎の気になる台詞、そのデュラハンΩが『現状では最強』ということ、そして後々『№2』に降格するということに関してだ。
殺した方の剃毛野郎、つまりコイツの弟者が言っていたのは、兄者である剛毛野郎が自信で『最強』と位置付けたデュラハンΩにご執心で、それが凄く馬鹿なことであるという内容の話。
だがそうではなかったのだ、弟者がダイオウシカΩの完成を隠していたのと同様に、この兄者である剛毛野郎も、実際は弟者に隠しながらもっと強力なΩを追及していたのであった。
「……おいっ、お前そのデュラハンΩが今後も最強であり続けることはない、そう言いたいんだよな?」
「うむ、その通りだ、我はこれよりもさらに、さらにさらに強力なベースを既に発見し、今回の遠征はそれを獲得、ついでにそれに近い能力を持つ同類の生物をも確保してやろうという考えで始めたのだっ!」
「で、その強力なベースとやらは……そう簡単に捕まるようなものなのか? てかどこに居るんだよその最強生物とやらは?」
「捕まえることが出来るか否か、無理やりに、というのは確実に無理であろう、なんせ最強生物であり、知能も非常に高いということなのでな、だがどうにかしてそれを、人族の地に住まうというその生物を騙す、そしてΩを取り込ませる、それさえ出来てしまえば世界はもう我のもの、ブルー商会などもうゴミ同然、魔王軍もだっ!」
「あちゃ~、勇者様、この剛毛の敵も野心家の類ですよ、仲は悪かったようですが、結局兄弟揃って同じようなことを考えていたということですね」
「だろうな、似た者同士で反発しあったんだろきっと、かわいそうな奴等だよ全く、で、その大変におかわいそうな剛毛に問う、お前の言う人族の地に住まう最強生物な、そんなの見たことも聞いたこともないぞ、たぶん虚無的な、実在しない都市伝説の類だ、だからもう諦めてここで死ね」
「何を馬鹿なことを言っているのだ貴様は? 我ともあろう者が、その最強生物の存在証明を得ずにわざわざ出張って来たとでも思っているのか? だとしたら相当な馬鹿だとは思うが……よかろう、この資料にある数々の目撃情報、どころかその生物の肖像画から活動記録に至るまで、全て見るが良いっ!」
偉そうにそう言い放ち、大量の紙の束を投げて寄越した剛毛野郎、そんなことはもうどうでも良く、今はただその後ろ、3人のデュラハンを救出したいだけなのだが?
と、まぁこちらから指摘しておいて、それに応じて証拠を見ろと言われているのだ。
これを無視するのはあまりにもアレだし、少しだけでも資料の方を拝見させて頂くこととしようか……
「え~っと、あれ? これ王国の紋章じゃないのか?」
「ええ、間違いありませんね、ということはその最強生物とやらは王国の領内に存在するバケモノ、そういうことなのでしょう、そのような話は聞いたことがありませんが」
「いやマリエルよ、王国といっても広いんだし、辺境のわけがわからない場所とか、最近編入したような地域とか……あ、でもこれ王都って書いてあんぞ……王都、王都の……だぁぁぁっ⁉」
「どうしたんですか突然叫んだりし……いやぁぁぁっ⁉ なんということでしょうっ!」
資料の中から不意に出て来たのは肖像画、その最強生物の肖像画でもあり、そして俺達が良く見知っている、確かに最強生物の肖像画でもあった。
これはとんでもないことだ、万が一こんなモノがΩ化され、超強化&闇堕ちしてしまったらどうなるか?
王都は0,001秒以内、そして世界全体が、神界や魔界まで含めて、おそらく2秒か3秒以内には消滅することであろう……
「フフフッ、フハハハッ! やはり知っているようだな、そうだ、それが我の追い求める最強生物、そしてその生物をベースにしたもの、『ゴンザレスΩ』こそが最強のΩなのだっ!」
「やめろぉぉぉっ! それだけは、それだけは絶対にやめるんだぁぁぁっ!」
「そうよっ、そればっかりはもうアウトだわっ! 人のためにも、自分のためにも絶対にならないからやめなさいっ!」
「ふんっ、誰が貴様等の忠告など聞き入れるものか、我は人族の地、王都と呼ばれる町にてそのゴンザレスという生物を……」
「おう勇者殿! 久しぶりだな、何だか呼ばれたような気がしたので来てみたのだが……ここはコンビニなのか?」
『もう来やがったぁぁぁっ!』
呼んだらすぐに来る、最初は確かにそうであったのだが、だんだんと呼ぶ前に来るようになり、そして呼ぼうかと思ったときにはもう必要な、依頼しようと考えていた作業を終えて帰るところであったり、とにかくコイツは、そしてその仲間達である王都筋肉団の面々も『ヒト』ではない。
そして、この最強生物と呼ばれるに相応しい、最強生物として生きているこのゴンザレスをΩにするなど、まぁもちろん不可能である可能性が高いのだが、もし実現してしまった場合には大事……では済まないか、本当に次の瞬間にはこの世が終わってしまうのだから。
「おぉっ、おぉぉぉっ! まさか、まさかここで出会えるとはっ! 我の探し求めていた最強生物ゴンザレス、それが今目の前に存在しているのだっ!」
「ん? 何だこの弱そうな魔族は、勇者殿達の敵なのか? それと、どうして首に変なモノを取り付けられたデュラハンがその敵方に居て、こちらにも通常のデュラハンが居るというのだ? 少し状況を説明してくれないかな」
「え~っと、かくかくしかじかでムッキムキのバッキバキで……」
「なるほどな、勇者殿達がΩとかいう魔道兵器の制作拠点を叩きに行っているとは聞いたが、まさかそのΩという連中に狙われているのが俺であったとはな」
「まぁそういうことだ、で、俺達はそこの3人のデュラハン戦士からΩ、あのへのへのもへじの部分な、それを引っ剥がして救助すること、それとあのモジャモジャしたゴミ野郎を惨殺することを今日のタスクとしているんだ、せっかくだからちょっと協力してくれ」
「おうっ、任せておくんだっ! 久々の戦闘に筋肉が喜んでいるぜっ!」
とんでもない急展開である、まずこちら側としては強力な助っ人の登場、勇者パーティーメンバーと比較しても全く劣らない、まさに最強生物が戦闘に参加してくれたのだ。
そしてその現象を敵方から見てみよう、こちらはこちらでラッキーな状況、探し求めていたターゲット、これから何日も掛けて移動し、捜し出し、そしてΩ化させるための策を講じなくてはならなかった存在が、なんと自分から現れ、対峙したのである。
つまり、このゴンザレスの登場には両陣営とも歓喜した……のではあるが、正直言って敵方の喜びは完全なるぬか喜び、全く意味のないものであったどころかむしろマイナスであった、それをもうあと少し時間が経てば思い知ることに……
「フハハハッ! 残りのシルバー達よっ、そしてデュラハンΩ達よっ! あの最強生物をどうにかして捕らえる、または不意を突いてマイクロΩを捻じ込むのだっ! それで我の勝利が……あれ?」
「すまないが、もうそのシルバーとやらは存在しないぞ」
「え? あれっ?」
「ついでに言うとデュラハンΩの方も救出させて頂いたぜ、てことでお前はもう『裸単騎』だ、まぁ実際にそんな感じの服装をしているようだがな」
「なっ? はへっ? NOOOOOO!」
剛毛野郎が指令を出したほんの一瞬、その隙に動いたのはまずカレンとマーサ、そして上空から急降下した精霊様、3人の手にはしっかりと、先程までデュラハンの首に接続されていたへのへのもへじが、それぞれひとつずつ握られている。
そこから僅かに遅れたタイミングで動いたのが残りの前衛2人、俺とマリエル、そしてゴンザレスの5人。
こちらもそれぞれ敵軍を5つの区画に分け、各自一撃でその区画内の敵Ωを消滅させたのであった。
威勢良く命令を出し終えた剛毛野郎が吐き切った息を吸い込んだのとほぼ同じタイミングで、動いた全員が元居た場所へビタッと戻る。
俺達が動いたことにさえ気付いていない剛毛野郎は、指摘を受けて振り返った自分の後ろにもはや誰も居ないことを知って典型的な『負けるために生まれてきた雑魚敵』の反応を見せてくれた……
「さてとこっちの味方はこ~んなに、で、そっちの味方は完全にゼロ、どうする? これからどうする? ん?」
「おのれっ! かくなるうえは我が自ら攻撃をしてくれんっ! 我が必殺の拳を喰らえっ!」
遅い、そしてヨレヨレだ、確実に戦ったことがない、そしてご自慢の必殺何とやらも今回が初めての実践投入だ。
そのヒョロヒョロガリガリヨレヨレの攻撃を、先程おっぱいがどうのこうのと言われていたジェシカが片手で受け止め、そのままヒョイッと地面に叩き付ける。
「ひょげぽっ……」
「気絶したようだな、主殿、コイツはどう処分するのだ?」
「そうだな、まずはご自慢の剛毛を剃ってツルツルにしてやろう、コンビニに置いてあるこの剃刀でな」
「おう勇者殿、ついでに俺も剃刀を買っていくぞ、せっかくここまで来たのだし、お土産を持って帰らないと仲間に悪いからな」
「いやお土産剃刀で良いのかよ……」
「おうっ、俺達クラスの剛毛になると、毎朝髭を剃るために剃刀を3本はダメにするからな、そのせいで王都では剃刀が品薄になっているのだ」
「本当に迷惑な連中だな……」
ありったけの剃刀をお買い上げし、風のように、というか光の速さで走り去っていくゴンザレス。
また何かあったら呼ぼう、そうすればすぐに来るはずだし、奴は助っ人としてかなり強力だからな。
いや、むしろ助っ人というよりも、そのタフさをもって俺達の『壁役』を担って欲しい。
最前列のミラやジェシカが怪我をするのは本当に嫌だし、そこでゴンザレスが身代わりになってくれると非常に助かる……まぁ殺しても死なないような奴だからな……
と、そこでΩに寄生されていた3人のデュラハン戦士が目を覚ます、そういえばこの3人の首はデュラハンの里に置いて来てしまったのだが、なくても特に問題なく活動出来るようなので大丈夫か。
「それでだ、この剛毛野郎が目を覚ましたら、早速処刑の方を始めていきたいんだが……起きてから徐々に剃られるのと、目が覚めたらいきなりツルツルだったってのと、どっちが精神的に大ダメージになるかな?」
「う~ん、それは五分五分よね、本人に聞いてみないとわからないけど、それをしたらもう選べなくなるものね……」
「ご主人様、それなら半分ずつにすれば良いんですよ、半分はツルツル、半分はモジャモジャのまま、そんな情けない姿にしてやるのが本当に効くと思うんです」
「なるほど、じゃあルビアの案を採用しようか、右半分だけ剃ってしまえ……と、キモいから触りたくないな、ここは被害者である3人のデュラハン戦士に任せることとしよう」
正気を取り戻し、仲間達から事情の説明を受けていたデュラハン戦士達に剃刀を渡し、剛毛野郎の右半分だけを剃らせた……のだが、剛毛が針金のように固く、剃刀は一瞬でお釈迦に、結局その辺のΩから奪った武器でモジャモジャのゴミ野郎を剃っていく……
「ギャハハッ! これでわけのわからない姿になるぞ、目が覚めてから死ぬその瞬間まで、凄まじい絶望と屈辱に苛まれるんだよコイツは、ざまぁみやがれってんだ全く」
「でもご主人様、何だか剃ったところが剃っていないお鬚みたいに……」
「何を言ってんだカレンは、剃ったばかりでそんなこと……あるのかよっ⁉ コイツ、まさかもう生えて……」
「とんでもない毛の強さですわね、この男の爪の垢を煎じて飲めば、どんなハゲでもたちまち元に戻るかも知れないですわよ」
「おう、磨り潰したら究極の毛生え薬とかになりそうだな、しかも処刑の方法としてはうってつけだ」
「あら、石臼ならそっちの『調理器具コーナー』に置いてあったわよ、処刑にはそれを使いましょ」
「いやだからコンビニって何なんだよこの世界では……」
ホムセン並みに何でも置いてあるコンビニの奥から、剛毛野郎を丸ごと磨り潰すことが出来そうな石臼を持って来た精霊様。
処刑の方もキモそうだからデュラハン軍団にやらせよう、俺は眺めているだけ……いや、それすらもやめた方が良さそうだ、おそらくとんでもない光景を目の当たりにしてしまうことであろう。
「それで、デュラハン軍団はこの後どうするんだ? 目的を達成したんだと思うが、里へ帰ったりするのか?」
『いえ、我等は最後まで見届けなくてはなりません、確かに直接同法を攫った者は今ここで討伐が完了するところでありますが、可能であれば元凶であるブルーとかいう輩の処刑が完遂するところまで見ておきたいものですな』
「というと、ここから先も来るって感じで良いんだな、まぁ、正直デュラハン軍団が居ないと馬車がないからどこへも行けないんだがな……」
普通の馬が牽く俺達の馬車はデュラハンの里に置いて来てしまった、ゆえに今回の旅は最後まで、首なしウマ馬車を擁するデュラハンの助けが必要なのである。
その協力が以降も得られるという確証を得た俺達は、安心してコンビニを発つ準備を始めた……
「……あともうひとつ聞いておかなくてはならない奴が居たな、おい、ホルンはこれからどうするつもりなんだ? もしここに残るというのであれば構わんが、おそらく剛毛野郎の捜索をしているΩ軍団に殺されるだろうな」
「ひぃぃぃっ! そっ、それだけはイヤなので里へ帰らせて下さいっ! それか捕虜として連れて行って……ダメですか?」
「う~ん、まぁ構わんが、コパーとかと一緒に荷台へ乗って貰うことになるぞ」
「それでも構いませんっ! 歩いて里へ帰るのは大変ですし、もしその途中でΩ軍団に見つかったりしたらお終いですから、1体2体ならともかく、私の力じゃ大軍団を跳ね返すなんて到底無理ですから」
「じゃあ勇者様、帰りに純粋魔族の里へ寄って、この子を帰してお礼でも受けましょ」
「おっ、それは良いな、新しく強力な武器を鍛造してくれるかもだぞ」
とりあえずホルンを連れて行くこと、そして帰りに純粋魔族の里へ立ち寄ることが確定した。
あとはここでの最後の作業、剛毛野郎の処刑と、それに先立つ拷問によって次の行き先を決めるというタスクのみだ。
剃毛、剛毛と、ここまで敵の主要キャラを2匹も討伐してきた俺達。
そろそろ今回の遠征もフィナーレだ、狙うは残りの1匹、まだ見ぬブルーとやらの首である……




