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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第八章 最強なのは
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583 突然の迎撃

『それでは出発しますっ! 舌を噛まないよう、またGでやられないようお気を付け下さいっ!』


『うぇ~いっ! おねしゃしゃーっす!』



 走り出した馬車、加速時の圧に慣れたところで東の魔族領域全体が納まった巨大な地図を広げ、現在地、そして次の目的地である剛毛野郎の自宅なのかラボなのか、とにかくそこに居るはずだと思われる場所を確認する。


 セラの見立てでは、現在のペースのまままっすぐ道なりに走って行った場合、現着するのはおよそ2日後とのこと。

 もちろん途中で休憩したり、さらには睡眠を取ったりする必要があるため、そう簡単にはいかないのが実情。


 それに邪魔が入る可能性がゼロとは限らない、不意を打って間に点在しているはずのΩ関連施設をガン無視して、ストレートに敵の中枢近くを目指すルートに変更したとはいえ、俺達がそうくるパターンを敵も完全に捨て去っているわけではないはず。


 どこかに、本の少数であっても偵察や監視を残しているはずだ、道中の木や茂みの中にΩ、特に覗き趣味のゴールドΩが隠れていないかどうか、念のため警戒しながら進まなくてはならない。


 もし俺達が敵の勢力圏内を一気に駆け抜けようとしているのがバレてしまった場合、おそらくは相当な数での、一世一代クラスの迎撃を受けないとも限らないわけだしな……



「でだ、剛毛野郎の所へ到着したらまずは3人のデュラハン戦士達を探さなくちゃだ、もちろん敵として、Ωとして登場するんだろうけどさ、さすがに他のΩと一緒に吹っ飛ばしたりしたら拙いだろうからな」


「そうね、でもデュラハンΩは敵にとっても最終兵器になってくるわけでしょ? それをそんないきなり出してくるかしらね? どこかに大事にしまっておいたり、最悪そのデュラハンΩだけ連れて逃げ出したりしそうよ」


「あと主殿、毛のない弟の方が操っていたダイオウシカΩ、アレは本来の生物と比較して凄まじい強化がなされていたのだが……もしそれと同じことがデュラハンに生じていたとすると……」


「とんでもなくやべぇバケモノが誕生していることになるな、しかも3体も、そうだとしたら相当にキツい、いや余裕で終わりだ」



 ジェシカの指摘は的を得ている、というかむしろそうなる可能性の方が高いような気がしなくもない。

 もしあのダイオウシカのように、ただでさえ強キャラとして一目置かれるデュラハンが強化されていたとしたら?


 考えるのはよそう、もしそうなったのであればそのときだ、また技術者がその天才的頭脳を全回転させ、わけのわからん魔法薬だの魔導装置だのをあっという間に創り出し、都合良くどうにかしてくれるはずだ。


 俺達はそれまでの間、ひたすら敵の攻撃を食い止め、そしてあわよくば討伐すべき敵、即ち剛毛野郎の首を落とすことが出来ないか、どこかに圧倒的な力を持つ兵器を操作しているがゆえの隙が生じないかを探っていくべきだな。



「あ、でもさ勇者様、もしデュラハンΩがあのときのまま、つまり気持ちの悪い首を取り付けられたままの状態だったとしたらですよ、それほど苦労する相手にはなっていないんじゃないかなって思うんですが」


「おっ、それはミラの言う通りかも知れないな、ダイオウシカΩ強かったのは生物濃縮によって、物凄い濃度のΩ粒子とやらを体内に取り込んでしまっていたからだ、頭の部分にあのキモΩが取り付くだけの寄生じゃそこまでの効果は得られないだろう、というか得られていなかったな、もちろん原理なんぞわからんけど」


「そうでしたね、あのタイプのΩだったとして、デュラハンの方々と比べて強化されているのは『片手がフリーになっている』ということぐらいです、盾でも持ったらそれでお終いですよ」


「違いねぇ、まぁそれならもう楽勝だよな、もう勝ったも同然だ、よし皆! この戦いが終わったら皆で慰安旅行に……」


「ちょっと勇者様! それはフラグでっ!」


「ん? あぁすまんすまん、以後気を付け……いやマジですまん、もう何か飛んで来たみたいだ……」


「もう、言わんこっちゃない、え~っと、飛来物は……あら、『付近一帯を灰燼に帰す程度の爆発力を持った自爆型Ω』じゃないの」


「なぁ~んだ、そんなの激ヤバってだけじゃねぇか、で、どうするよ? 戦闘配置? 何それおいしいの?」


「ご主人様、混乱してないで迎撃した方が良いと思いますよ」


「……だな、とりあえず停まって頂くとしよう」



 前方から迫り来るのは見覚えのある、スリム何とかという自爆タイプのΩのようである。

 もう俺達が作戦を変更したのに気付いたのか、それとも一定の場所を通過すると自動で攻撃するようにプログラムされていたのか。


 いずれにせよこのままだと拙い、俺や戦闘員の仲間達にとっては屁でもない攻撃なのだが、アイリスや3人の鹵獲Ω、技術者にその部下2人にとって大爆発など致命的。


 ついでに言うとデュラハン5人にとっても耐え切れるか否か微妙なレベルの爆発力は、先日反勇者団体と戦いを繰り広げた南の大陸、その主要都市であった海沿いの町を消し去ったことによって確認されている。


 で、そんなスレンダー? だか何だかのΩが目前に迫っている状況、さすがに御者デュラハンもその襲来に気付いたようで、首なしウマに騎乗して走っていた他の4人と共に急停止した。


 とりあえず馬車から降りてその様子を覗ってみる……もうかなり近いな、完全に狙いを定めてこちらへ向かっているようだし、もう回避してどうこうは不可能な状態だ。


 であれば直接迎撃するしかないのだが、さてどうしたものかといったところだな……



「う~ん……あ、手を前に突き出して飛んでいるのか、そうかそうか」


「何だ主殿、それだと何か都合が良いのか?」


「その通りだ、おいジェシカ、ちょっと尻で受け止めてみてくれ、せっかく『カンチョー耐性』があるんだからさ、あれぐらいふんわりと受け止めて爆発を阻止出来るだろう?」


「無茶を言うんじゃないっ! アレはカンチョーではなくミサイルの類なんだぞっ!」


「じゃあそのダブルおっぱいミサイルを撃ち込んで相殺……」


「これはミサイルなんかじゃないっ! とにかく無理だっ!」


「え~、じゃあ困ったな、これ以上の策はないぞ」


「主殿、今のを策とは言わないんだ、そして実行したとしても単なる変質者止まりで英傑にはなれない」



 良い作戦だと思ったが失敗のようだ、となるとΩの自爆攻撃は避けられないとして、第一優先で保護すべきはアイリス、次が鹵獲Ωのうちこの爆発を喰らうと非常に拙いコパー……と、そのコパー、そして技術者が勝手に前にでているではないか。


 全くもって戦うことの出来ない2人で一体何をしようというのだ? 特にコパー、この子は助かるべき存在なのだから早く後ろに入り、セラの魔法と精霊様の水壁の後ろに入るべきだ。


 いや、コパーはかなり自信なさげな表情をしているのだが、技術者の方は何か策がありそうな感じ。

 躊躇するコパーを後ろからグイグイ押そうとする技術者、もちろんコパーにはセクハラ回避機能が搭載されているため、触れることなど一切出来ないでいるのだが……



「良いですか? 対象に狙いを絞って、そして指令を出す、それだけでこの危機を回避することが出来るのですっ!」


「え、え~っと、ちょっと、というか凄く速く飛んでいるみたいなんですが……」


「大丈夫ですっ! キッチリ『枠内』に捉えていれば指令を出し、コントロール化に置くことが出来ますからっ! さぁ、時間がありません意識を集中して、自分がΩの指揮官であることを、そしてここへの攻撃は中止すべきであることを伝達するのですっ!」


「は、はぁ……」



 ノリノリの技術者、そしてタジタジのコパー、どうやら飛来する自爆Ωを支配し、攻撃を止めさせる作戦のようだ。


 コパーが最前列に立ち、その後ろには技術者、俺達は念のためアイリスを後ろに隠し確実に保護する、そして万が一のときには前列の2人のうち、コパーだけでも救出することが可能なように身構えた。


 まっすぐこちらへ向かう敵Ωに対して、こちらは行動ではなくまっすぐな視線でそれを捉えるコパー。

 隣で技術者が合図したのが作戦開始のサイン、コパーは集中し、どうにかして高速移動する敵へ、自らの指令を届けんとする……



「うぅぅっ、お願いします、止まって下さい、お願いですから……」


「それではダメですっ! 今のあなたは指揮官、Ωの中で最も上位に位置する指揮官なのですっ! それを意識して、他のΩにはもっと高圧的な態度で臨まなくてはなりませんっ!」


「えっと、えっと、止まれっ! すぐに止まりなさいっ! これは命令ですぅぅぅっ!」


「……うむ、素晴らしいっ! 素晴らしいですよコパーさんっ! 敵自爆型Ωの推進が完全に停止しましたっ! つまり、作戦は成功、いや大成功ですっ!」


「あ、ありがとうございます……でも何かそのままこっちに来ているような……」


「あぁ、アレは惰性で飛んで来ているだけですね、自らの意思ではもう戻ったり方向を変えたりということが不可能なようです」


「え? ということは……」


「もちろんそのままここへ到達、大爆発を起こします」


「……それじゃダメじゃないですかっ!」



 余裕の表情でとんでもない事実を告げる技術者、焦ったとか、これは困ったとかそういった様子はない、単に作戦が成功しただけであって事態は一切解決していないのだが、この男にとっては自らの理論が正しかったことさえ証明されればあとはどうでも良いことなのだ。


 まぁ、それでも飛来しているΩのスピードだけは大幅に落ちたのだ、この程度であれば受け止める際の衝撃は微々たるもの、では早速準備して頂くこととしよう……



「はいはい、ジェシカさんの出番ですよ~っ」


「クッ、主殿はどうしてもアレを私に、しかも尻で受け止めろというのだなっ?」


「いや、別におっぱいを使っても構わんぞ、どっちでも凄く笑えることだけは確かだからな、あ、もちろん誰かに言いふらしたりとかそういうことはしないから安心しろ」


「ん? 辱めを受けるのはむしろアリなんだが……問題は上手く受け止められるかどうかなんだ、尻が爆発したらそこそこのダメージは受けそうだからな」


「大丈夫さ、ジェシカならきっと出来るっ! 俺がそれを補償しようっ!」


「うぅ、さっきの技術者殿の言葉とほぼ同じなのに、どうして主殿が言うとこんなにも薄っぺらいというのだ」


「相変わらず失礼な奴だな……」



 とにかく受け止め役を買って出た、というか俺によって強制されたジェシカ、尻を突き出した情けない格好で自爆型Ωの到来を待ち受ける。


 ちなみにデュラハン達、そして同じく野郎である技術者には見せられないため、勇者パーティー独自の、企業秘密的迎撃方法を取ると言って騙し、後ろを向かせておいたので安全だ。


 迎撃の準備が整ってからおよそ5秒後、推進力を失って大幅に減速していたΩが遂に、凄まじく良い角度で俺達のところへ向けて突っ込む。


 斜め45度前後で交錯する尻とΩ、ピンポイントでジェシカの尻、そのど真ん中に直撃したようだ……



「うぉぉぉっ! 秘儀! 真剣尻刃獲りだぁぁぁっ!」


「止まったっ! なんだかわからんがすげぇ馬鹿げてんぞっ! だがマーサ、今のうちにアレを投げ飛ばせっ!」


「はいはいっ! よいしょっ……せいやっ!」



 突き出したジェシカの尻に対し、斜めに突き刺さった、即ち『ダイビングカンチョー』を喰らわせる姿勢で受け止められ、そのまま完全に固まったΩを、ガシッと掴んだマーサがポイッと放り投げる。


 飛んで来たときよりも速いスピードで、元来た方角の空へと戻って行くその自爆型スレンダーΩは、大空でキラリと瞬いた後にその姿を消す。


 しばらくして遠方で起こった謎の大爆発、いや謎ではない、どこかへ着弾した、或いは空中にて、あのスレンダーΩが自爆したのだ、善良な魔族の里や村が被害に遭っていないと良いのだが……



「うむ、これでひとまずの脅威は去ったな、ジェシカ、いつまでそんな格好をしているんだ? 本当にはしたない奴だな」


「あ……足が痺れてしまった……すまないがパンツとズボンを穿かせてくれ……」


「よし、だがちょっとあの不潔そうなΩ野郎の指先が触れてしまったようだからな、ジェシカの尻は後で綺麗に洗ってやろう、この俺様が直々に、隅々までゴシゴシとな」


「ひゃぅぅぅっ! そっ、その言葉だけでお腹一杯だっ……」



 そのまま倒れてしまったジェシカ、Ω野郎を放り投げたマーサにもしっかりと手を洗うように言っておき、これで変な菌によって食中毒を起こしたりする可能性を排除することに成功した。


 しかし連中、早速迎撃とは畏れ入るな、もしかするとこの先、様々なポイントで同様の攻撃を受けることになるのかも知れないな。


 ……いや、それではひとたまりもない、ジェシカの尻が持たないとかではなく、ふざけずに対応していったとしても、自爆型Ωへの対応だけでそこそこの労力を裂かねばならないことになる。


 いくらまっすぐに進んでいるからといっても、それに対応しつつということであれば話は別だ。

 この攻撃が『自動迎撃』であったとしても、その都度起こる爆発によって、いつかは敵が俺達の接近に気付いてしまう。


 自爆型Ωへの対応、それに力を裂くことによって、また時間が掛かることによって進軍スピードが削がれ、俺達の志す『電撃作戦』がまるで意味を成さなくなってしまう可能性があるのだ。



「う~む、こりゃちょっと拙いんじゃないのか? どうにかルートを変更したり、あとは隠れてコソコソ進む作戦とか、何か新しく考えないと、このままじゃ各駅停車ののんびり旅行になるぞ」


「その各駅で停車するたびにあんなのが飛んでくるんじゃたまらないわよ、でもあまり手立てになりそうな……そういえば先に行っているはずの配達魔族はどうしたのかしら? この感じだともう殺られてそうだけど」


「いや、それはないぞ精霊様、もし奴が既に迎撃されて殺られていたとしたらだぞ、その後を追っていた俺達にもその際の大爆発が見えているはずなんだ、それがなかったってことは……」


「まだ生きて、普通に飛んでいるってこと、ついでに言うと空は安全なのかも知れないってことね」


「まぁそういうことだ、で、なぜ地上がこんなんで、それなのに空が安全なのかに関してだが……おそらく東から西へ向かうシルバーΩを始めとしたΩ軍団の飛行ルートがあって、奴が飛んでいるのはたまたまそれと被っている、そう考えるのが妥当なんじゃないかと思う」


「うんうん、仲間のΩが飛んで行くのに、それに対して反応しがちな自分達の迎撃システム、それをいちいち無効にしてやり過ごすなんてのは大変なことだものね、となると地上にも……」


「そういう感じのルート、即ち地上系Ωの進軍ルートが存在しているはずなんだ」



 俺達は見ている、敵のΩ軍団は空を飛んで移動するようなΩだけで構成されているわけではなく、ケンタウロスΩのような地上タイプのものがあるということを。


 そしてその地上タイプにしても、飛行タイプと同様に東から西へ、人族の領域を目指して進軍して来たのだ、もちろん途中の『Ω交換施設』に立ち寄りながらである。


 ……いや、これまでは俺達もその『Ω交換施設』に立ち寄りながら、それを繋ぐようなルートで……そして今回に限っては別のルートを取っているではないか。


 ということはつまり、今話題に上がった『安全な進軍ルート』というのは即ち、俺達がこれまでに通って来た『Ω交換施設を辿るルート』に他ならないのでは?


 そのことを皆に伝えてみる、当然俺達の仲間だけでなくデュラハン軍団、そして技術者にも。

 で、どうやらおおむねの賛同が得られたようだ、皆納得しているし、ルートの再選定に関する話し合いをすべきだという意見もちらほら……



「え~っと、ここからだと……この細い道を抜けて行けばおそらく本来行くべきだったΩの施設に辿り着くはずだわ、で、手を付けずに次へ行くのならここをこうっ、そしてこうっ、あとこっちの道を通ってあーでこーで……」


「うむ、後半はちょっとわかげわからんが、とにかく『Ω交換施設を辿るルート』は実現出来るみたいだな、もちろん近付きすぎて気付かれるようなことがないよう、慎重にスルーしないとだとは思うが」


「まぁ、でもこの結構な人数で目の前を通る以上、絶対に見つからないってことにはならないと思うわ、本当に小規模なちょっとした戦闘ぐらい、現着までに何度か起こると思っておいた方が良さそうね」


「ああ、だが可愛い女の子魔族の人質が助けを求めているとかじゃない限りは原則スルーだ、向こうが攻撃してきても、そんなのいちいち相手にすることなく全速力で駆け抜けよう」


「ただし勇者様、そこで敵施設からは本部などに状況を報告する役目を帯びたΩが出る……というか射出されるはずです、それだけは見落とさないように、そして逃がさないようにしなくてはなりませんよ」


「そうだな、可能な限りこちらの動きを大元に伝えさせないように配慮するんだ、とまぁ、そんな感じで行きたいと思いますっ! 以上!」


『うぇ~いっ!』



 おおまかな作戦も決定し、いざ再出発となった俺達一向、まずは最も近くにあるΩの施設、そのすぐ脇をスルーし、正規で安全なルートに復帰するための進軍を開始した。


 ここからはしばらく細い道だが、逆に敵から発見される可能性が低くて助かる、そう思っていたのだが……どうやらそうでもないらしい、道沿いの木々の上には何体ものΩが待ち構えているではないか。


 敵は俺達のこの行動を読んでいた? いや、だとしてもピンポイントすぎるし、先程の迎撃用の自爆型Ωが作動したことによって気付いたにしても対応が早すぎる。


 全くわからないがとにかく戦闘だ、この先に点々と張っているΩを順に叩き潰していく、色々と考える前に、まずはそれからやっていくべきである……

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