57 海産物と次の魔将
「よし、じゃあこれでレーコに聞いてみる事は全部決まったな」
木札に封印されているものの、普通に会話することができるゆうれい魔将レーコ。
そのレーコを午後から尋問することとなったため、皆で何を聞くべきかについて話し合っていた。
結果として……
・次の魔将は誰が来るのか?
・なぜあんなに上級魔族を使っていたのか?
・本来はこの後どう攻める予定だったのか?
・何でそんなに貧乳なの?
ということを質問の内容として確定させた。
正直言って必要なのは『次の魔将の情報』だけである。
上級魔族が多かったのは魔王軍のバックアップで間違いないであろうし、残りの2つは気になっているだけだ。
おっぱいなんて、今は木の板だから完全に起伏ゼロなんですよね……
「尋問は私が主導するわ、ついでに300年前に借りた銅貨1枚もチャラにさせてやるんだから!」
「マーサっ! 分割でも良いから金は返してやれと言っているだろう」
「どうして銅貨1枚ぐらいで分割払いなの?」
「あのな、年利10%の複利だと言っていたはずだ、お前の小遣い全部叩いても返せる金額ではなくなっているぞ……」
「……マジ? こうなったら何とかして値引させるわ、土下座もする!」
マーサは封印されて手も足も出ないような奴を相手に土下座するつもりらしい……
「よし、じゃあ行くぞ、マーサもちゃんと指揮を取れよ」
「任せなさい!」
※※※
「おい、これからお前を尋問する、もし答えなかったら聖棒で頭を小突くからな、こういう風にっ!」
『あぎゃぎゃっ! そこは胸です、やめてください!』
「そうか、じゃあここが頭かな?」
『ひぎぃぃ! 待って、待って下さい、そこはお尻です!』
なぜ表面に尻がある? どういう形で収納されているというのだ?
「まぁ良い、マーサが聞いたことにちゃんと答えれば痛い目には遭わないぞ」
『わかりました、答えます、答えますからその凄いモノをしまってください!』
何だか誤解を招きかねない言い方だが、許してやろう。
「じゃあまず1つ目を聞くわよ、レーコはどうしてそんなにおっぱいが小さいの?」
「マーサ、それは後だ、お前も聖棒で叩かれたいのか?」
『ぷぷっ! マーサ怒られてやんのっ!』
「なによぉ、封印されてるくせに偉そうね!」
「こら喧嘩するな、おい、マーサはダメだ、ユリナがやれ」
「わかりましたわ、レーコ、まずは次の魔将、誰が来ると思っていますの?」
『次は……言うのは拙そうね、立場的に、とりあえず海なんか行ってみたらどうかしら?』
「ええそうしますわ、ご主人様、次の魔将は魚介魔将です、というかイカみたいな奴で気持ち悪いです、顔も性格も……」
「そうか、でもそうなるとターゲットはこの国ではないな、ペタン王国は内陸だもんな」
ペタン王国には海が無い、つまりその魚介魔将とやらのターゲットになる可能性は極めて低いということだ。
海に出るためには南方の商業都市連合の方へ行かないとならない、そのうちどこかでそれらしき話が出るであろう。
それを待つこととしよう。
それ以外のことについては適当に聞いておいた。
やはり上級魔族は魔王軍の他の部署からの派遣、および洗脳された聖国人から集めた力で中級魔族をグレードアップしていたらしい。
あの後の一手はユリナ達と同じ、そこを拠点に魔王軍の侵攻を開始するつもりだったらしい。
洗脳は周辺都市から徐々にやっていって、最後には聖都まで女神信仰から対象を自分に摺りかえる予定だったそうな。
ちなみにおっぱいの小ささについては口を割らなかった、そんなことで聖棒を使って拷問するわけにはいかない、気が向いたら教えてくれとだけ言っておいた。
『さて、次の魔将について決定的なヒントを出したわけですから、そろそろ封印場所を変えて下さいな』
「まだだ、今度新しいのを作ってもらうからそれまで我慢しろ、ちなみにこの地下牢からは永久に出さないからそのつもりでな」
『ぐぅぅ……我慢します、地下牢から出られないのは良いですが、それでも完全にではなくたまには日光浴ぐらいさせてくださいね』
幽霊の分際で日光浴を要求してきた、どういうことだ?
まぁ良いか、異世界のおかしいところに疑問を持つのはもうやめよう。
監視付きで庭ぐらいには出してやるとするか。
『あ、それと話し相手が欲しいんですが、誰かここに常駐してくれませんか?』
「おい、話し相手だってよ、どうする?」
お化け怖い組が全力で首を横に振る、世話はしてやるがずっと一緒というのはイヤであろう。
となると候補は……ダメだ、この中には居ないな、ここに居るということは他の仕事が出来ないということでもあるからな。
「そうだマリエル、ここの牢屋ならギロティーヌを入れてやっても構わないだろう?」
「ええ、王宮のものと同じ造りですから、サリナちゃんが大丈夫なら呼んでも良いと思いますよ」
「サリナ、どうだ、ギロティーヌが来るのはまだ受け付けないか?」
「う~ん、反省しているのであれば別に構いませんが……」
「サリナちゃん、あの妖怪の子は最近かなり大人しくなったそうですよ、そろそろ許してあげたら?」
「ええ、じゃあそうします、でも調子に乗ったらまた斬首刑にしましょう」
「決まりだな、明日横にギロティーヌを入れてやる、それまで我慢しておけ」
『ありがとうございます、この恩は一生忘れません!』
コイツは死なないはずだからな、俺には永久にフォロワーが1人付いていることになるのだな。
「じゃあ今日はこれで終わりだ、何かあったら世話係の4人が居るときに言え、ただし処遇の改善は一切しないからな」
『へへぇ~っ!』
「よし、戻って次の魔将に対抗するための会議をしよう、次は国の金で海に行けるぞ!」
※※※
「そういえば勇者様、魔将とは直接関係ないかも知れませんが、そろそろこの王都にも海産物が入ってくるはずですよ」
「本当かマリエル? 新鮮ではないかも知れないが海の魚や貝なんかを食べることが出来そうだな」
「ええ、ここまで来るものは氷魔法を使って運んだ高級なものを除けばほとんどが塩漬けだと思います、でもこれまではそれすら手に入らなかったんですから、かなりの進歩です」
王国、特にこの王都へと海産物を運ぶルートは、偽皇帝率いる帝国の軍や平民が悪さをしていたことにより、完全に使い物にならない状態であった。
これが近々また使えるようになってくるのだ、食事のレパートリーが増えそうだ。
「勇者様、私やミラは海の魚を食べたことが無いわ、美味しいのかしら?」
「お姉ちゃん、そもそも私達は海というものを見たことが無いわよ」
「ああ、美味いぞ、川魚とはまた違った良さがある、海もそのうち見ることができるから安心しろ」
「何よぉっ、魚の話ばっかりして、野菜しか食べない私は蚊帳の外ってこと?」
「そんなことはないぞマーサ、海には海藻があるんだ、海藻サラダは至高の逸品だぞ!」
マーサの尻尾がピクピクと動くのがわかる。
カレンのように大げさに反応したりはしないものの、コイツも尻尾を見ればそのときの感情がわかるタイプだ。
「そういえばユリナ、帝国では食卓に魚が出ていたのか?」
「ええ、私達は良く食べていましたわよ、主にこの王都へ来るはずだった物を奪って……」
「皆、帝国3人衆を取り押さえろ! よく考えたら俺達が魚を食べられなかったのはこの3人が原因だ!」
「洗濯ばさみだけはやめて下さいですのっ!」
「もうそのことは許してください!」
ユリナとサリナには超強力クリップを尻尾に挟む刑を執行した。
だがジェシカだけは尻尾がない、どうしようか?
「ジェシカ、どこにクリップを挟んでほしい?」
「尻にしてくれ、それを顔に挟むのはさすがにヤバそうだ」
自らズボンを下してきたため、肉のはみ出た部分に直に挟んでやる。
悶絶していたがユリナ達程効いていないようだ、もう1つ、反対側の尻に挟んでやった。
「3人共夕飯までそのままな、セラ、ミラ、もう市場には魚が出ているかも知れん、鼻の効くカレンも連れて行って探してきてくれ」
「わかったわ! 王都中の店を漁ってきてあげる」
「目利き用にいつも泉の魚を食べているリリィちゃんも連れて行きましょう」
出陣する4人を見送った後、一応次の魔将についての情報も集めておく。
魚介魔将はユリナが言っていた通りイカなのか人間なのかわからないタイプの魔族らしい。
補佐に付いているのは貝と人魚だそうだ。
ちなみに人魚はマーサやユリナ、サリナの友達らしい、そんなに悪い奴ではないと言っていたが、果たしてどうだか……
「あいつは水魔法が全く効かないわ、もしかしたら精霊様の攻撃が通らないかも……」
「拙いだろそれ、海だからリリィのブレスも潜られたら効かないし、俺達の攻撃手段がごっそり持っていかれるじゃないか」
「ええ、こうなったら海からおびき出したりして、陸の上で戦うしかないわね」
「どうやるんだ?」
「魔将と補佐2人のうち、さっき言った貝の奴は浅瀬に居るわ、動かないし拾ってくれば良いの」
「うんうん、で?」
「で、残りの2人は少し深いところに居るわ、でもイカはお魚、人魚は光り物に凄く弱いのよ」
「よし、釣ろう!」
「そうね、イカの方は岸から狙えるはずよ、人魚は船で沖に出ないとダメね」
そうかそうか、では現地で船を調達しないとな。
あと、その貝の奴を拾いに行く屈強な尼さんも雇用しないとだ。
「ただいまぁ~っ! お魚があったわよっ、塩漬けで乾燥したものだわ! 活きている貝もあったわよ!」
「でかしたぞ! お、結構買ってきたようだな、アジにサバ、それからハマグリか、マーサ用の海藻も……これはわかめか」
「さっそく料理したいと思います、お魚は焼くだけで大丈夫ですよね?」
「そうだな、でもせっかくだ、庭で炭火焼にしてやろう!」
バーベキューの準備を始める、遂に念願の異世界海産物を口にすることが出来るのだ!
※※※
「鉄板良し、清酒良し、海鮮よぉしっ! これで焼き始めることができる、まずは魚からとしよう」
「あのご主人様……そろそろ私と姉さまの尻尾からこれを取って下さい」
「うむ、では許してやることとしよう、ジェシカも取ってやるからこっち来い」
「主殿、取らないで欲しい、このままが良い……」
「でもそれじゃ座れないだろ? しかもパンツ丸出しだぞ」
「そうか……では後でもう一度挟んでくれ!」
「はいはい、わかりましたよ、おや、セラもルビアもやって欲しいのか?」
「お風呂上りにお願いするわ」
「私は100個挟んでください!」
「じゃあ後でな、ほら、そろそろ皮目が焼けるぞ、ミラ、ひっくり返すんだ!」
焼けた干物を頂きながら、今度はハマグリを焼いていく。
マーサは海藻サラダの新たな食感を気に入ったようだ、凄い勢いで無くなっていく。
「ご主人様、この貝は不思議です、さっきまで活きていたのに焼いたらほんのり塩味が付いています」
「そうだろう、焼くだけで結構美味しくなるんだ、本当は醤油を……いや、それは贅沢と言うものだな」
「ショウ? まぁ良いです、美味しければ何でも」
この世界には醤油が無い、そんなの当たり前だ。
職人が勇者として転移してこない限りは口にすることが出来ないであろう。
ならどうするか? そうだ、牡蠣を手に入れよう、牡蠣ならそのまま食べていたからな、せいぜいレモンを絞る程度だった。
やはり早いところ海のある町への旅行計画を立てよう。
魚介魔将め、さっさと出て来やがれ!
「魚は保存が利きそうだけれど、貝は今日のうちに食べてくれってお店の人が言っていました、どんどん焼いていきましょう!」
「ハマグリは焼くと逆さに開くからな、中の美味い汁が零れないように注意してひっくり返すんだぞ」
こうして俺達はなかなか手に入れることが出来なかった海産物を次々口に運んでいった。
山盛りかと思うほどあったハマグリも底をつき、残った干物は翌日の朝食以降に食ようと決める。
「美味しかったわ! さすがまだ見ぬ海ね、他にどんなものがあるのかしら、早く行きたいわ!」
「そうだな、次の魔将が現れるところが何を特産にしているのかにもよるが、少なくとも今日より新鮮な海の幸を堪能できるはずだ!」
敵が現れるのがこんなに待ち遠しいなんて嘘みたいだな……
「何だか私達も久しぶりに魚を食べた気がしますわね」
「しかし、やはり現地へ行って新鮮な物を食べるに限りますね、帝都でも塩漬けが多かったからな」
「ジェシカ達みたいな家臣はそうだったでしょうね、私達は新鮮な物を食べていましたよ、主に王国の貴族が食べるはずだったのを奪って……」
「セラ、強力クリップは何個集まった?」
「紙を束ねていたのも外して12個よ!」
再び調子に乗ったユリナとサリナの尻尾に、今度は2つずつクリップを挟む。
転げ回って苦しんでいるようであるが、自業自得だ。
ジェシカも連帯責任だが、もはやクリップを挟むと喜ぶようになってしまった。
「では風呂に入って寝るぞ、明日はギロティーヌが送られてくるからな、マリエルが迎えに行くんだったよな?」
「ええ、朝一番で行って来ます、手続きを済ませて、お昼までには戻って来られるはずですよ」
魔将レーコの話し相手としてギロティーヌを勇者ハウスで預かるのは良いが、あいつは本当に反省したのであろうか?
まぁ良い、もしやかましかったら首を切り落として土に埋めてしまおう。
※※※
物々しい警護とともに、マリエルの乗った高級馬車が屋敷の前までやってくる。
もう一台は朝乗っていったジェシカの操車しているものだ、あ、あいつどこかにぶつけたな、キズになっていやがる。
で、牢付きの馬車は無いようだが?
と思ったらギロティーヌもあの高級な馬車に同乗しているのか。
生意気な、紐で括って引き摺ってくれば良かったのに……
鎖の先端を持ったマリエルが降り立つ。
「勇者様、連れて来ましたよ、何やら思っていたよりもかなりしおらしくなっているようですが」
『お久しぶりです異世界勇者様、この度は私のようなハエ以下のゴミに何か御用でしょうか?』
超土下座しているのだが?
「実は魔将のレーコをこの屋敷の地下に封印している、話し相手になって欲しい」
『へへぇ~っ! 申し受けました!』
「おいマリエル、コイツどうなっているんだ?」
「王宮の方で90分1コマの『道徳総論』を150コマ連続で、休憩無しで受講させたそうです」
何だその集中講座は? 是非ウチのパーティーメンバーにも受けさせたいぞ!
「それではギロティーヌ、こっちへ来い」
『承りまして御座います、あ、サリナさん、私のような矮小なクズが大変なご迷惑をお掛けしましたこと、深くお詫び申し上げます』
「ご主人様、何だか逆に気持ち悪いんですが……」
同感です。
ギロティーヌを連れて地下牢へと行き、レーコの祭壇がある部屋の横に入らせた。
ここが貴様の終の棲家になるから綺麗に使うようにと告げると、許可がない限り動かないので大丈夫との答えが返ってきた。
完全にどうにかされてしまったようだ、元々の鬱陶しかったギロティーヌはもはや外見だけである。
『あの勇者様? ギロティーヌを連れて来て頂けたのは有難いのですか、その子に何をしたと言うのですか? 凶悪なパワハラ・モラハラ・セクハラその他ハラスメントで下級魔族の大半を辞めさせたその子がどうしてこんなに……』
『レーコ様、お久しぶりで御座います、私はこの王国のご指導により、良い妖怪として生まれ変わったのです』
『気持ち悪いですね……』
「まぁそう言うな、確かに極めて気落ち悪いが、今までの不快な態度と比べればまだマシであろう、これからは基本的に2人だからな、仲良くしろよ」
『ええ、可能な限りは……ところで私がここから出られるのはいつですか?』
「もう少し待てと言っているだろう、別に出してやっても俺達には何のメリットも無いからな、ムカついたら永久に出さんぞ!」
『では、出してくれたら次の魔将について更なる情報が……』
「何か隠しているようだな、痛い目に遭いたくなかったら洗いざらい吐け!」
『棒は、その棒はやめてください、そんなモノで突かれたら私っ!』
だからなぜそんなに誤解を招く表現がポンポン出て来るというのだ、この世界の住人は?
「で、次の魔将に関する更なる情報とは? 今更答えないとは言わせないからな」
『ええ、魚介魔将についてなんですが、どうも南方の漁村で既に活動を始めているようなんです』
「その漁村の名前は?」
『確か空飛ぶ魚が名物のトンビーオとか言う名前だったと思います』
「そこへ行けば魔将が居るんだな? 居なかったらただじゃおかないぞ!」
『約束は出来ませんよ、もう移動しているかも知れませんから……』
「あの勇者様、魔将がそのトンビーオ村を襲っているというのは信憑性の高い話です」
「何だマリエル、そこに何かあるのか?」
「その村にはかつて始祖勇者のパーティーメンバーだった獣人が、魔王討伐後に伝説の爪を捧げたとの言い伝えがあります」
「なぜそんなわけのわからんところに封印したんだそいつは?」
「その方は猫獣人でお魚が好きだったとか、特にその村の名産である空飛ぶ魚が好物だったようです」
「そんな理由かよ、本当に頭悪いな……もっとダンジョンの奥深くとかにしまっておけよそんな大事なもの……」
「ご主人様、私はその伝説の爪をゲットしたいです! 早くその村へ行きましょう!」
「焦るなカレン、そんな村に長期滞在できるような宿泊施設があるのか?」
「その辺りは大丈夫なはずです、トンビーオ村は人口こそ少ないですが、観光地として有名です、かつては王国からも結構な人がバカンスに行っていたんですよ」
「よし、すぐに宿を取れ、国の金でな!」
勇者パーティーのトンビーオ村行きの件に関しては、翌日俺が直接王宮で交渉することとなった。
まだ被害報告が来ているわけでは無いし、大金を使って動くにはちょっと情報が不確定すぎるためだ。
正直言ってそんな簡単に国の幹部連中が首を縦に振るとは思えない。
駄王や総務大臣を生かさず殺さずぐらいに痛めつける練習をしておこう……




