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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第七章 大小様々
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578 直ちに完成したものの

「え~っと、それじゃあそのΩ粒子とかいうのを取り除きさえすれば、ダイオウシカだか何だかという生物は元に戻って、しかも食べられるぐらいにまでまともになる、そういうことですかね?」


「その通りっ! さすがは悪魔のお嬢さん、その理解力は海よりも高く山よりも深いっ! ぜひ私と共に王都で研究をっ!」


「いや、あの、何か私の理解力、虚数的な空間に飛ばされているような気がするんですが……まぁとにかく、今はΩ粒子の浄化について考えましょうか」


「はい、ではΩ粒子を強力に吸着する物質や、表面の活性をうんぬんかんぬんであーでこーで……」


「あ、それならこっちをこれでアレで、ここをあーしてこーかまして……」


「……おい、お前等は一体何の話をしているというのだ?」



 ようやく判明したダイオウシカの真実、Ω粒子だか何だかに汚染だか感染だかされ、何だかよくわからない感じで身体強化、そしてΩ化していたということであったのだ。


 うむ、こう考えると俺自身、今回の件に関しては全く理解出来ていないようだな。

 やはりエリナを連れて来たのは正解だ、俺1人で意味不明な説明を受けていたとしたら、頭にきてその場で技術者を叩き殺していたに違いない。


 だがこのまま俺を放置して2人で、どんどん意味のわからない方向に話が進んでいくのは見ていて気分が悪く、置き去り感と孤独を感じる結果となってしまう。


 ゆえに一度話を止めさせ、決して馬鹿ではないがそれが専門でもない俺にもわかるように、懇切丁寧に、むしろサルでもわかるようにもう一度最初から話をさせるべきだ。



「あの~、もしもしお二方、ちょっとよろしいですか~っ? あのね、ちょっとね、もう少し理解可能性を帯びたレベルまで落として会話して頂けると大変に、非常にあり難いのですが?」


「え? あ、勇者さん、もしかして今の話に付いて来られませんでした?」


「なんとっ⁉ そこまで低能な人間がこの世界に存在していたなんて……いや、異世界から来られたというのであればそれも仕方ありませんか、きっと恐ろしく原始的で、大半の人間が打製石器の槍を……」


「ふざけんなてめぇ殺すぞっ! てか俺でなくとも普通はわからんぞ今の話はっ!」



 この男の感覚が常人とかなりズレているのはおそらく、信じ難いレベルに天才であるためだ。

 でなければ俺の前でこんな態度を取るとも思えない、もしこの男がそこそこにしか使えないのであれば余裕で殺している程度には怒りを表現しているというのに、全く動じないというのはあり得ない。


 と、頭が良すぎて狂ったおっさんはもう仕方ないとして、ここは俺の知的水準が比較的わかっているはずのエリナから説明を受けることとしよう。


 だがこの場で聞いて、さらにその内容を改めて他の仲間に伝えるというのも面倒なことだな。

 そもそも『どうにか理解した』から『他者に説明する』というレベルまで、自分の中で知識を整理するのは困難だ。


 よし、では今のうちにエリナと技術者には好きなだけ話をさせ、俺達のテントに戻った後にそれを噛み砕き、わかり易く説明して貰う、それが最もベストであることはもう疑いようがない。



「じゃあそういうことでエリナ、そのまま続けてくれ、俺は脳をシャットダウンして待機しているからな」


「わかりました、えっと、それでそれで、取り込まれたΩ粒子を飲料水などから希釈してたらどうでしょうか?」


「ふむ、それは少し試してみないとわかりませんね、見たところこの粒子は体内に蓄積し、排出されている様子がありませんから」


「あ、それとどのぐらいまでΩ粒子を取り込んだら拙いことになるのかも知っておくべきです、それも調べておかないと」


「ええ、そちらは私の方にお任せ下さい、まぁ判明するかはわかりませんが、この粒子を取り込んだルートなども探って、それからそれから……」



 俺がゴロンと横になり、居眠りをする態勢に入った後も、2人の専門的かつ意味不明、理解不能な話は延々と続いた、やかましすぎて脳をシャットダウンどころではないな。


 もうかなりの時間が経ったのだが、俺達のテントで待つ皆は起きて待っているのであろうか? この話を今日中に、詳しく皆に伝えることが出来るのか?


 しばらくの間、既に雑音にしか聞こえなくなってしまった2人の会話を聞いているうちに、意図せず、というか内容が意味不明すぎたのか、脳の方は強制シャットダウンが完了していた。


 寝ているのか起きているのかわからない状態の中、遥か彼方からエリナの声と、それから全身を揺さぶられるような振動を感じる……



「勇者さんっ、ちょっと起きて下さいよっ、話が終わったので戻りますよっ!」


「ん……あ、うん、ふぁ~っ……って、もうすっかり夜じゃねぇか、急いで帰らないと皆先に風呂に行ってしまうぞっ!」


「ええ、少し話しすぎてしまったようです、戻って、ちょうど良いのでお風呂で解説をしますね」



 よいしょっと体を起こし、技術者には引き続きダイオウシカの組織サンプルを調査して貰えるよう頼んでテントを出る。


 ちょうど風呂上がりの女性部下とΩ3人衆とすれ違ったが、無駄な徹夜作業から逃げ出すことが叶い、俺に対して大変に感謝している様子だ、このペースで好感度を上げていけば、もしかしたらそのうちにおっぱいを見せてくれるかも知れないな……



「あっ、やっと帰って来ましたっ」

「もうっ、遅いですよ2人共、お風呂が覚めてしまったらどう責任を取るつもりなんですかっ」


「いやすまんすまん、ちょっとエリナが長話をしてしまってな、俺のせいでは断じてないぞ」


「何でも良いから早くお風呂に行きましょう、みんな~っ、ご主人様達が戻って来ましたよ~っ」



 自分達のテントの前まで帰還すると、そこには痺れを切らす寸前の面持ちで、しっかりお風呂セットを携えたカレンとルビアの姿があった。


 中でまったりしていた他のメンバーに声を掛けると、準備万端の面々が続々と現れ、風呂へ向かっていく。

 俺とエリナも急いで準備を済ませ、一行を追うようにして湯気の立ち上っているテントを目指した……



 ※※※



「ふぃ~っ、温まるぜマジで……と、じゃあエリナ、早速さっきの内容を話してくれ、もちろんわかり易くな、マーサにも理解出来るように話すんだぞ」


「それはちょっと難しいような……まぁ良いです、とにかく大悪魔エリナ先生による『ウサギでもわかるダイオウシカΩのヒミツ』をお聞き下さい」


『うぇ~いっ!』

「いや、誰が大悪魔なんですの……」



 ここでも調子に乗っているエリナは後でシバき倒してやるとして、とにかくその話に耳を傾ける。

 語り出したエリナ、どことなく偉そうな感じだ、一体何様のつもりだというのだ?


 で、まずはダイオウシカに取り込まれているという『Ω粒子』とやらに関してだ、もうこの時点で何が何だかわからないのだが、とにかくそれが話の根幹となるゆえしっかり聞き、理解しておかなくてはならない。



「……というわけでまずですね、Ω粒子というのはですね、集合することによってΩ、とりわけ寄生型Ωと同等の働きをする、いわば『Ωの素』みたいな感じのものなんです、わかりますか?」


『全然わかりません』


「え~っと、なので、そのΩ粒子を大量に取り込むとですね、あたかも寄生型Ωがへばり付いたり、極小Ωに侵入されたかのような動きをするんです。強くなったり、自分の意志ではなくΩの意思で行動したり指揮官Ωの指令を聞いたりとかですね。で、もちろん量が少ない間はコントロールを奪われたりはしませんが、あのダイオウシカの組織サンプルに含有されていたそのΩ粒子の密度からすると、まず間違いなく完全にΩ化、これまでの寄生されたヒトやモノと同等、いえ、全身をきめ細やかに操られている分よりΩ度が高いというか何というか……わかりますか?」


『全然わかりません、もう結構です』


「あらら、全く、これだから凡人は困りますね……」


「おいユリナ、サリナ、そこのいけ好かない自称天才大悪魔を捕獲しろっ!」


「はいですのっ!」

「エリナ! 覚悟なさいっ!」


「ひぇっ⁉ あっ、ひゃぁぁぁっ!」



 風呂の中で素っ裸のエリナを取り押さえ、ひとまず尻を突き出す格好で浴槽の縁に押し付ける。

 調子に乗る悪い、というか悪魔はお尻ペンペンの刑だ、まずは右側の尻たぶをペタペタと触り、こちらを叩くと予告してやった……



「お仕置きを喰らえっ!」


「ひっ……いったぁぁぁっ! どうして左にくるんですかっ!?」


「フェイントだよ、予想外の所から責められた方が効くだろ? ほら、今度は右だっ!」


「あっひぃぃぃんっ! ごめんなさぁぁぁぃっ!」



 当然だが予告通りにはいかない、それがこの世界の理なのだ、クネクネと逃れようとするエリナに、無限に続くのではないかと思わせるほどの連続ペンペンを喰らわせつつ、ここまでダイオウシカに全く対抗出来ずにいて、それによって積もり積もった鬱憤をほんの少しだけ晴らしてやった。



「オラッ、オラッ、どうだっ!」


「ひんっ、あひんっ、いやんっ……痛いです、もうしませんので許して下さい、お尻が真っ赤に腫れて……」


「そんなもの後で冷やせば良いだろう、水ならたっぷりあるしな、あ、飲み水にそのまま尻を浸したりするんじゃないぞ」


「わかってますってばそんなこと……そんな飲み水に……飲み水……そうだっ! 飲み水を使えばあの組織サンプルにあった、えっと、何でしたっけ……ダイオウシカ、そうダイオウシカのΩ化を解消出来るかも知れませんよっ!」


「ん? ちょっと気になる話のようだな、じゃあそのまま話してみろ、もし役立たずのゴミ提案だったらこのままお仕置きを続けるからな」


「ええ、あのダイオウシカとやらが取り込んだΩ粒子なんですが、どうもうまく排出されていないようでして、もしそれを何らかの魔力や物質で、それはそれは毛玉みたいにポンッと……」



 エリナの作戦はこうだ、まずあのダイオウシカの個体が、Ωではなく生物としての生命維持のために利用しているはずの水場を探す、Ω化しているとはいえ、当然ベースとなるダイオウシカの方を生かす必要がある以上、その場所は森の中、俺達が2日続けて遭遇した場所の付近に存在しているはずだ。


 で、その水場に何らかの薬品、技術者やエリナの言う『Ω粒子』の効果を毀損するタイプの薬品であって、もちろんこの異世界においては『魔法薬』のことを指すのだが、それを大量に撒き散らす。


 ダイオウシカはΩではなくダイオウシカとしてその水を飲み、体内に含まれたΩ粒子のみが影響を受けて排出されるという仕組みだ。

 元に戻ったダイオウシカは俺達の敵ではない、もうそうなれば楽勝なのである。


 エリナのこの作戦は完璧、どこにも隙がない最強のものといえよう、そう、その未知の薬品をすぐに、こんな森の奥深くにて精製することが出来ればの話なのだが……普通に無理ですね……



「おいエリナ、お前、どうやってその『薬品』を入手するつもりなんだ?」


「へ? あ、え~っと、その……通販とか、あともしかしたら魔法薬ショップの移動販売車とかが来るかも……」


「来るわけねぇだろそんなもんっ! しかも今しがた発見されたばかりの、まだここに居る俺達と開発者そのものぐらいしか認識していないようなモノに対抗する魔法薬なんだぞっ! そう簡単に入手出来てたまるかって……誰だ?」


「皆さんっ! Ω粒子に対抗する魔法薬の精製と大量生産が完了し、実用化のための具体的な使用方法を考案しましたっ!」


『イヤァァァッ! 変態が居るぅぅぅっ!』

「うわぁぁぁっ! 何でも良いから風呂を覗くんじゃねぇぇぇっ!」


「いえっ、ですからΩ粒子を無効化する究極の魔法薬を……」


「わかった、わかったからとりあえず出て行けっ! 話は後でじっくり聞いてやるっ!」



 風呂テントの入り口をガバッと開けて現れたのは、何やら小さな瓶のようなモノを持った技術者のおっさん。

 何かをやり遂げたような、達成感がひしひしと伝わってくる良い表情であった。


 そしてその手の中にある瓶状の何か、おそらくは魔法薬のサンプルなのであろうが、それを見せるためにわざわざ俺達が入っている風呂まで来たというのか?


 俺が入っていることを除けばほぼほぼ女湯であるこの風呂テント、何があったとしても、勝手に入り込めばそれはもう敵である。


 技術者のおっさんは今、この場で跡形もなく消し去られたとしても一切文句は言えない状態なのだ。

 だがそれをやりそうな精霊様も、それに大切な仲間の素っ裸を見られた俺でさえも耐えている、いや耐えなくてはならない。


 あまりにも唐突に、しかも話題に上がったジャストタイミングで完成してきた『対Ω粒子用魔法薬』、あのダイオウシカΩをどうにかするためのカギとなることが必至の物質なのだが、その用法用量、効能に製造方法、その全てを知っているのは現時点でただ1人、この覗き野郎のみなのである。


 ブチ殺したい衝動をグッと堪え、ついでに湯船の中で立ち上がっていたエリナも座らせておく。

 技術者はまだ何か話したい様子であったが、こちらからワーワーと騒いで喋らせないようにし、どうにか追い出すことに成功した。



「……行ったか、全くとんでもない野郎だな、おい精霊様、ちょっと怒りを鎮めろ」


「ぐぅぅっ、ふんっ、アイツは自分が何をしているのか、それがやって良いことなのか悪いことなのか、それを考えることが出来ないのねきっと」


「そうだな、初めて会った時も俺が駄王を張り倒してあって、まさかのそれをスルーしやがったからな、まぁ信じ難いレベルの天才なんて皆そんなもんだろうよ、諦めて付き合っていくしかないな」


「うん、一線を越えたらさすがに殺すけど、それまでは仕方なく我慢してあげるわ、後で人族の王国に迷惑料を請求しておかなくちゃ」



 とにかく、その天才でアホな技術者からの説明を受けるべく、俺達は風呂から上がって宿泊用のテントへと戻った。

 少しはゆっくり出来るのかと思っていたのだが、なんと入り口の前で待っているではないか、これにはとても敵わないな。


 だが魔法薬のことを知りたくもあるため、ここでしばらく待っておけ、出来れば一度帰って出直して来いなどとは言わず、そのままテントの前で話をするように指示する。


 ちなみに中へ入れなどとは絶対に言わない、俺達の寝所という聖域に、自分以外の野郎を上げるなど言語道断、入り込んだ馬鹿はその場で『消毒』されることが決まっているのだ。


 その辺りは技術者のおっさんも弁えているのか、それともたまたま入り込もうとしないだけなのか、とにかくテントの前で、小瓶を持ったまま自作の魔法薬についてのアツい解説を始めた……



「……と、いうことなのですっ! この魔法薬は先日の極小Ωの機能を停止させる際に放たれる魔力の波長を用いているのですっ! ですのでこの魔法薬を水場に撒いてしまえば、それを飲んだダイオウシカは無効化されたΩ粒子をガンガン排出! 体の中からクリーンになっていくというわけなのですっ!」


「いや意味わからんからもう説明は良いよ、で、どうやってそれを大量生産して、どうやってそれをダイオウシカの水場に撒くというのだ?」


「量産に関しましてはお任せを、散布に関しては……私のマシンを提供致しましょう、それを使って空から散布するのです」



 技術者のおっさんは自信満々だ、この様子であれば作戦は完璧、というか計算上失敗することはないという感じなのであろう。


 もちろん魔法薬の量産には俺達の知らない、見ても一切理解出来ないような『凄い技術』を用いるのであろうが、その内容をここで聞いてもまるで意味はないため、質問はしないでおく。


 難しい話はこの天才のおっさんに任せ切りにして、俺達は作戦成功のためにやるべきことをやるまでなのだ……



「そうか、じゃあ俺達はダイオウシカの水場とやらを探せば良いってことだな? ハピエーヌ、何かそういう感じの情報はないか?」


「え~っと、それなら結構楽っしょ、だって餌にしてるあのやべぇキノコ、あの近くには絶対泉とかあるんすよ、間違いなく」


「となると……明日はそれの捜索だな、で、泉を発見し次第あの虚舟みないなのに魔法薬を突っ込んで、空からバーッと撒いてやれば……」


「それを飲んだダイオウシカが徐々に正常に戻っていくということです、もっともΩ状態のあのシカに指令を出している何者かを発見出来ればその方が早いのですがね」


「まぁそんなところで……っておいっ! 今なんて言った? 指令を出している何者かだって? そんなのが居るのかよ?」


「ええ、もちろん居ると思いますよ、ああいうタイプのΩですから、完全にそのΩの意思で行動しているわけではなく、どこかに指揮をするΩ……或いはもっと別の何かが隠れている可能性は非常に高いと言えます」


「もっと別の何か……例えばこれまでのΩ施設に居た施設長みたいなのか?」


「……その可能性も、いえ、もっと上位者である可能性もありますね、Ω粒子という高度な物質、その存在を知って、自らの権限で実践投入する、それがこれまでの施設長やその補佐をするΩに与えられる身分だとは到底思えないのですよ」


「マジかよ、じゃああの森の中に、あのどこかにそんな奴が……」



 てっきりダイオウシカが今回の敵で、それさえどうにかしてしまえば次に進めると思っていた。

 だがその背後には黒幕、Ω化したダイオウシカを操っている何者かの影があったのだ。


 これまでまるで気付かなかったその敵の存在に驚愕しつつ、翌日以降の戦いには特に注意しなくてはならないと改めて考える。


 おそらくは俺達がダイオウシカΩを倒す際、いや倒すことが出来るような作戦に着手したそのとき、敵は危険を、敗北の可能性を察知し、何か直接的な行動に出る可能性が高い。


 それにすぐさま対応することが出来るよう、明日の魔法薬散布作戦では周囲への警戒を怠らぬよう、また可能であれば先に発見、こちらから先制攻撃を仕掛けたいところだ……

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