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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第七章 大小様々
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577 やはりそうであったかという結論

「おぉっ! これはヒトトリスミレではないですかっ! あとこっちはウツボカズラ(特大)ですねっ! いやぁ~、ここの植生は素晴らしい、ここに住みたいぐらいですよっ!」


「構わんが、今回の事案が終局的に解決してからにしてくれ、あと食人植物ばっかりのとこでどうやって生きるんだ?」


「というか技術者さん、あなた、手食べられてますわよ……」


「おっと、それで先程からヌルヌルとしていたのですねっ!」



 わけのわからない植物群に感動しつつ、モウセンゴケのバケモノに右手、というか腕ごと絡め取られていたことにさえ気付いていなかった技術者のおっさん、この時点でもう前途多難であることが容易に想像出来る。


 というか、この男は本来Ωなどではなく『環境の専門家』であったな、それでこんな森の、危険極まりない植物に興奮しているのか。


 まぁ何をしていても、何を考えていても自由だが、とりあえずダイオウシカとは一切関係のないところで、その辺に生えた草如きに喰われて死ぬのは勘弁して頂きたいところだ。


 俺達も足元の凶暴な植物、そして時折現われるアナコンダや、それをひと呑みにする巨大な怪獣の出現に注意しつつ、そして出現した際には討伐しつつ、とりあえず昨日ダイオウシカと遭遇した地点を目指していく……



「おっ、また何か出やがったぞっ! 今度は……巨大オナガザルか?」


「いえ勇者様、アレは『ケツゲザル』よ、頭はハゲてるけどケツ毛だけ超長いの」


「汚ったねぇ奴だな、直ちに殺せっ!」


「でもこの森の動植物、昨日も思ったけど結構強いのよね、どういうことかしら?」


「さぁな、確かにデカいのはそこそこ強いが、気にするほどのものでもないだろうよ、とにかくあのフケツザルだっけか? サッサと殺そうぜ」


「それもそうね、ダイオウシカがあまりにも強かったせいだと思うけど、さすがに私が気にしすぎてるだけね」



 その長いケツ毛を自在に操り、ウ○コを投げ付けてくるという不快極まりないサルを惨殺し、残骸は放置してそのまま先へ進む。


 サルの分際で首が、というか全身がバラバラになってもまだ生きているようだ、この時点でなかなか異常なのであるが、この森の生物、特に大型のものはほぼこんな感じなのである。


 まぁ、忘れがちだがここは一応魔族領域、そして空を飛ぶことが出来るハーピーがたまに来る程度であり、地上を誰かが進むということはなかなかないことだ。


 つまりこれまでの歴史で討伐されなかった強力な生物の系譜が、原始の自然のまま残されていても不思議ではない。

 よってこのようなこともあるのだと考え、今は特に気にしないでおくこととしよう。



「え~っと、あった、ここにポチコン茸があるんで、今日はここで待つべきっしょ」


「おう、ちなみに今回は余計なことはしないようにな、また襲われたら大変だ」


「うぃ~、と、挑発チームは準備しといた方が無難っすね」



 ということで例のキノコから少し離れた場所で待機、もちろんリリィはスタンバイ済みの状態でだ。

 昨日はこの状態で、音もなくダイオウシカの奴が現れたのだ、おそらくは今日も……なかなか来ないではないか……



「おいっ、どうして来ないんだよ、昨日はあんなにアッサリ来やがったのに」


「もしかしてアレじゃない? 大騒ぎしたり、ポチコン茸がムクムクと……」


「その可能性もあるな、じゃあ危険だがもう一度アレをジャンボサイズにしてみるか?」


「ではご主人様、その役目は私に任せて下さい、あともし襲われてもしばらく放置して下さい、何となく楽しそうなので」


「ぜってぇ楽しくねぇからっ! まぁルビアに任せるが、ヤバくなる前にちゃんと逃げるんだぞ、わざと襲われたりするんじゃねぇぞっ!」


「は~い、じゃあ行って来ますね~っ」


「ホントに大丈夫なのかよ……」



 余裕の表情でヤバめなキノコに近付いて行くルビア、どうせおっぱいでも……と思ったら違った、バッグの中から何かを取り出したではないか……なんと、アレはエッチな本!


 そのエッチな本の任意のページを開き、そのままキノコの前にお供え物の如く置き、そして戻って来るルビア、キノコの方は……腕が生えてきた、もちろんエッチな本をガシッと掴んだ……



「マジかよっ!? アレもうキノコとは呼べんぞっ!」


「食い入るように見ているとはまさにあのことね、というか、どこに目が付いているのかしら?」


「わからんが、腕が生えたなら目もどこかに生成したんだろうよ、てかルビアめ、最近異様に狡猾になってきたな、母親の影響だろ絶対」


「間違いないわね、どことなく似てきたような気がしなくもないわ、ドMなのは治らないみたいだけどね」



 トトトッと華麗なステップで戻り、俺の後ろに入ったルビア、ほらどうですかという顔と、ついでにご褒美の飴玉を要求する手が伸びてきた。


 ちなみにエッチな本は自分のものではなく、昨日偶然発見した、湿った状態で落ちていたものを乾燥させたのだという、いや、誰がこんな人跡未踏の森にそんなモノを落としたというのだ?


 と、それはさておき、エッチな本を見たポコ○ンキノコはみるみるうちに巨大化、昨日の個体と同じく、誰かに襲い掛かろうと周囲を探している。


 だがそこに女の子の姿はない、あるのは薄汚いエッチな本と、茂みから飛び出して襲い掛かりポコ○ンのタマ○ンを蹴飛ばそうとしている俺の姿だけ。



「オラァァァッ! 珍キックじゃボケェェェッ!」


『!?』



 良い角度で入った俺の蹴り、ポコ○ンキノコはこれも昨日のものと全く同じ、一瞬ビクンッとなった後に飛び上がり、ロケットかミサイルの様相を呈する。


 直後、俺の目に映ったのは『すぐに戻れ!』と叫びたそうな仲間達の顔、そして太陽の光を遮るようにして現われた巨大な影、直後、背中に強い衝撃を受けた俺は弾き飛ばされてしまった。


 森の巨大な木々を貫通し、人型の穴を空けつつ飛んで行った俺は、しばらくして精霊様に空中キャッチされ、どうにか遥か彼方の大空へ消え去ることだけは免れたようだ。


 どうやら出現したダイオウシカに、『そこを退け』というぐらいの軽い感じで、まるで足元のゴミを除けるかのようにして蹴飛ばされたらしい、それでこの威力とは畏れ入る。



「……で、リリィ達は上手くやっているのか?」


「ええ、とりあえず挑発行動に入ったわ、やっぱりドラゴンぐらいの大きさだと反応するみたいなの、飛び立ってすぐに狙われていたっぽいわよ」



 精霊様にぶら下げられたまま元居た場所へと戻ると、未だにもがき苦しんでいるポコ○ンキノコを咥えたままのダイオウシカが見えた。


 そしてその周りを飛んでいるのは、その巨体よりもふた周り程度小さいリリィである。

 もちろんセラと、その後ろにはハピエーヌが乗っている、肝心のスピードは……拙いな、若干敵の方が上回っているようだ。


 だがその『若干敵の方が上』に関しても、キノコを食べている最中のダイオウシカと比べての話。

 アレを食べ終わり、本格的にリリィを追い出したらひとたまりもない、その前にもう少し距離を取るべきだ。


 或いは技術者の方が、あのダイオウシカが何者なのかということを看破してしまう、それが俺達の勝利条件、いや、まだ勝利しているわけではないのだが、とにかくこの場を切り抜けるための条件である。



「お~いっ、どうだ、今見た感じで何かわかったかっ?」


「いえ、それが動きだけでは何とも、というかこのまま見ていたとしても全くわからない可能性が高いです……せめて組織サンプルがあれば……」


「んなこと言ったって無理に決まってんだろっ! 組織サンプルどころか近付くことさえ出来ねぇよっ!」


「いえっ! 私が行きますっ! おりゃぁぁぁっ!」


「おいカレン気を付けろよっ! 踏まれたら救出するのが大変なんだからなっ!」


「わかってますっ! とぉぉぉっ!」


「・・・・・・・・・・」



 ルビアのときに引き続き、本当に大丈夫なのかと勘繰りたくなる根拠のない自信。

 おそらくカレンが踏み付け攻撃をまともに喰らったとしたら、それこそ地層の奥深くから『発掘』する必要が出てきてしまう。


 こんな森の奥の、しかもこのバケモノのテリトリー内であるこの場所に、発掘調査を専門とする連中を派遣するのは非常に困難だ。

 つまり、もしカレンが埋められてしまったら、俺達だけで数日掛けて発掘、いや救出しなくてはならない。


 頼むから踏まれないでくれ、そう願いながら未だキノコを咥えたままリリィを追い回すダイオウシカと、それに突撃をかますカレンを交互に見る……



「えぇぇぇぃっ! やったっ、上手く引っ掻けましたっ!」


「でかしたぞカレン! すぐに戻るんだっ! もう狙われてるからなっ!」


「ひぇっ、わぅっ、わうぅっ!」



 ダイオウシカの連続踏み付け攻撃、それをヒラヒラと回避するカレン。

 時折フェイントで混ぜてくる通常の蹴り攻撃が敵の知能の高さを物語っている。


 結局10発以上も攻撃を避け、どうにか俺達と合流することが出来たカレン。

 その爪武器の内側には、比較的柔らかいと思しき腹の肉、それから複数本の、まるでヤマアラシのように太い、かつ黄金の毛が引っ掛かっているのが見て取れる。


 どうにか指定された『組織サンプル』の奪取に成功したようだ、走るカレンに置いて行かれぬよう、全員で一気に駆け出してその場を離脱する、上空チームも同じだ。


 ちなみにまともに走っていてはあっという間に攻撃を受け、尊い犠牲となってしまうことが明らかな技術者のおっさんは、マーサがヒョイッと抱えて走り出した……と同時に気絶する、初速のGに耐えることが出来なかったようだな。



「よっしゃっ、一気に駆け抜けてとんずらすんぞっ!」


「テリトリーから出ればもう追って来ないわね、とにかく急ぎましょっ!」



 必死で走り、木々を薙ぎ倒しながら迫るダイオウシカをその小回りをもって振り切る。

 しばらく行ったところで振り返ってみて、既に追跡がないことを確認、その日も方向を変えて野営スポットへと戻った……



 ※※※



「ふむ、これだけの量の肉があればかなりのことを調べられます、毛も大事ですね、とりあえず武器に付着しているものは全てこちらで預かりますね」


「おう、ちなみに手早く、簡潔に調べ上げて結果を伝えてくれ、細かい理屈とかどうでも良いし、どうしてそうなったのかはそこから考えながら動けばそのうちわかることだからな、とにかく時間が惜しいんだよ今は」


「ええ、承知しておりますとも、では早速徹夜で解明の方を進めていきます」


「頼んだぞっ!」



 技術者と、それから徹夜と聞いて青い顔をしている部下の2人にダイオウシカの『組織サンプル』を預け、自分達が宿泊用に利用しているテントへと戻る。


 本日もお疲れさまでしたが怪我もなく終えることが出来て良かったですねということでまったり休憩しつつ時間を過ごし、夕食の時間を待つ。



「さてと、今日中に何かわかることがあるのかな? せめて敵がΩか否かぐらい判明して欲しいところなんだが」


「そうよね、まぁでもΩじゃなかったとしても放っておくわけにはいかないわね、さすがにアレを放置して先へ進むのは勇者パーティーとしてアレになるわよ」


「確かにな、どうにかして勝利をもぎ取らないと、ここで敗北したとかいう噂が世界中に広まって、俺達はアレな勇者パーティーとして永遠に蔑まれることになる、記念碑も石像も造られないし、墓標なんかその辺の石ころにされてしまうぞ」


「それと主殿、もしあのシカが何らかの仕込みで、私達が敗北した後に魔王軍がチョイッと倒した感じを出したとしたら……」


「うむ、世論は一気に魔王軍寄りに傾くな、まぁ人族に関しては大丈夫だと思うが、ここを含む魔族領域においてはその魔王軍と敵対している俺達の居場所がなくなる、今みたいにデュラハンだのハーピーだの、気軽に居住地へ立ち入ったりは出来なくなるだろうな」



 と、まぁあのシカが倒せないことには先へ進めない、進むべきではないのだ。

 もし奴がΩであれば普通の足止め、それ以外であれば無駄な足止めを喰らっているということになるな。


 もちろんいつその結果がわかるのか、技術者による調査がいつ終わるのかは定かではないが、先程からその技術者の居るテントの方から『ウォーッ!』だの『こっこれはっ!?』だのと漏れ聞こえている辺り、おそらくは順調に先へ進んでいるのであろう。


 しばらくすると鎧を装備したまま無駄にエプロンを着用した、気持ち悪いスタイルのデュラハンがやって来て、全体の夕食の準備のためということでアイリスを連れて行く。


 そこからまた数十分、漂う良い香りと共に運ばれて来たのは山菜のてんぷらと野菜スープ、そして俺達がダイオウシカとあれこれしている間にデュラハンが狩っていた、まともなサイズのまともなシカ肉のステーキ。


 このシカ野郎め、お前単体に恨みはないのだが、シカの形をした何かにはたいそう苦しめられているのだ、ということでお前を喰って鬱憤を晴らしてやる。

 などとシカ肉に話し掛けながら、夕飯を済ませて片付けも終わらせた。



「さてと、腹も一杯になったことだし、おいエリナ、ちょっと調査の進捗具合を見に行かないか? 俺だけで行っても何もわからないだろうから連れて行ってやる」


「あっ、行きます行きますっ! ちょうど気になっていたところなんですよ、このまま何も知らなかったら今日は寝られないなって」


「そこまでなのかよ、まぁ良いや、とりあえず行くぞ」



 ノリノリのエリナと2人でテントを出て、ずっと響き渡っている技術者の大声を目指す。

 時間帯的にはまだセーフだが、そろそろ周囲の迷惑になることも考えて欲しい……いや、ああいう奴には何を言っても無駄であろうな……


 とはいえそのままというわけにもいかないので、帰りに夜は少し静かにするよう忠告しておこう。

 その忠告を忘れて大騒ぎする度に、お付きの部下2人に殴らせるのもアリだ、衝撃で何か新たな発見をするかも知れない。


 などと考えながら辿り着いた技術者のテント、開けてみると中には本人と、それから呆れ果てた様子で立っている部下2人、あとはなぜか連れ込まれている3人の鹵獲Ω。


 ちなみに何やら顕微鏡のようなものを覗きながら、興奮して騒いでいるのは技術者本人たった1人のみ。

 あとはもう……これは居なくても良い、確実に居る必要のない人間とΩである。



「お~い、もっしも~っし、何か判明したことが……全然聞いていやがらねぇな……」


「すみません、先程から私達も『もう帰って良いですか』的なことを聞いているんですが、一向に反応がなくてですね」


「おう、じゃあ俺が許可するから自分達のテントに戻って良いぞ、コパー達の世話をよろしく頼む」


「わかりました、ではお気を付けて……」



 お気を付けてとはどういうことか? この技術者のおっさん、何かに没頭すると相当に危険であるということなのか?


 まぁ、とにかく2人の部下とその2人が面倒を見ているコパー達鹵獲Ωを帰し、再び技術者との意思の疎通を、というか俺達が来ていることにに気付かせるための行動を取る。


 後ろから小突いてみる……ダメ、エリナが目の前で踊る……ダメ、というか何をやっても気付かない。

 一体どうやったらこちらの存在を認識して貰えるかと考えを巡らせていたところ、技術者が自分から、突如として立ち上がった。



「わかったっ! わかりましたよ皆さんっ……と、いつの間にかメンバーが変更になっているようですね、ですが構いません、ここで調査結果を発表することとします」


「ちょっと、凄く唐突ですけど大丈夫ですか? もう少しまとめて、勇者さんの足りない頭でもわかるように説明する準備をした方が良いと思いますよ」


「おいエリナ、誰の頭が足りないのかもう一度教えてくれ」


「だから勇者さんの頭が足りないし回転も悪いし、本当に使い物にならないんですって……すみませんウソです、いやホントだけどウソです……ギョェェェッ! しっ、尻尾が……」



 やたらと調子の良いエリナの尻尾は、テントの支柱へもやい結びにしておいた、後でシバいてやろう。

 で、何かが判明したことはもう明らかな様子の技術者、そんな俺とエリナのやり取りは一切気にせず、普通に調査結果の説明を始める……



「いやはやわかりましたよ、あの巨大なシカ、ダイオウシカですね、それそのものはΩではありませんが、やはりΩの影響下にあるのですっ!」


「ん? ちょっと待て、さすがにそれじゃ意味がわからん、もう少し詳しく教えてくれ」


「えっとですね、あのダイオウシカの組織片にはですね、なんと自然界に存在するはずのない『Ω粒子』が大量に含まれていたのですっ!」


「ほうほう、じゃあやはり今回の件にもΩが絡んでいるのは確定なんだな、で、それでどうなるんだ? 死ぬのか? ゾンビになるのか?」


「まさかっ、それによって生物が死亡したり、体が勝手に腐ってきてゾンビ化したりなどということはありません、むしろ知力、体力、その他諸々の力が強化されているはずです。ですがこの濃度でΩ粒子を取り込んでいるとなると……間違いなくあのダイオウシカは『Ω化』してしまっているでしょうね」


「つまり、そのΩ粒子とやらに寄生されているってことなんだな」


「いえ、寄生されているというよりも『冒されている』と言った方がしっくりきますね、まるで毒でも飲んで、それが全身に回ったかのような状況で……」


「……なるほどな、そういうことだったのか、だから寄生型Ωが取り付いている感もなかったし、それでいて通常とは異なる挙動をしていたってことか」


「そういうことになりますね、もうこの結果は確定です、仮説にすぎないとか、実は誤りであったなどということは絶対にありませんので、今後はそのつもりで作戦を立てる必要があります……」



 遂に判明したダイオウシカの正体、やはりΩ関与であったようだが、それでも今回のものはまたこれまでとは別。


 Ω粒子とやらがどのようなものなのか、どうやったらそれを片付ける、即ちダイオウシカΩをダイオウシカに戻すことが出来るのか。


 ここからはそれを考え、具体的な作戦を立案、実行に移していく必要がある……

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