570 ようやく見つけた
「オラァァァッ! このボケがぁぁぁっ!」
「死になさいっ! この人にあらざる者めっ!」
『ギョェェェッ! いでぇぇぇっ!』
「よっしゃ、これで全滅だっ!」
シルバーΩ如きの討伐はもう慣れたもの、現れたのがたった50体というのであれば尚更だ。
最初の頃の苦戦が嘘であったかのように、あっという間に片付いた敵の軍団、デュラハン達もΩとの戦いがかなり上手くなってきた。
そもそも、魔法耐性だの何だのはもはや意味を成していない、例えば普段は攻撃魔法でしか戦わないセラやユリナ、攻撃すらしないルビアやサリナであっても、素手での格闘でΩを、確実に一撃で破壊することが出来るようになってきたのだから。
まぁ、それもこれも幾度となく繰り返した戦闘のお陰であり、その戦いの中でΩの弱点、というか製造時に出来る繋ぎ目や特有の急所などが、考えるまでもなく狙えるようになったことに起因している。
つまり、この世界にはそうそう存在しないとは思うが、俺達と同じ強さを持つ集団がΩと戦ったとしても、こうは上手くいかない、負けはしないにしろ多少は苦労して、時間を掛けて討伐することになるはずだ。
という感じで『Ω慣れ』によってサクサク先へ進むことが出来る俺達なのだが、通路を少し進んだ先、第二陣として出て来た敵集団がなんと、シルバーですらなかったことには非常に驚いたのであった……
「おいおい、これらは全部ゴールΩではございませんか? どうなってんだよマジで……」
『うむ、この戦闘向きとは思えないΩをこんな自陣の深くで出すなど、もしかするとこの施設、人材、いやΩ材不足なのかも知れませぬぞ』
「そんなことってあるのかな? まぁ良い、とりあえずゴールドΩがだいたい……もうゼロになっているのか……」
これまでと同様、俺が後ろを向いて話をしている間にことが起こっていた。
今回はマーサ、戦闘のΩをブッ飛ばし、それでストライクでも取るかの如く周りの全てを消し去ったのである。
「ホントに弱っちいの、でも頑張ったから褒めてっ!」
「よぉ~しよしっ、マーサは良く頑張ったぞ、ほれ、頭をわしゃわしゃしてくれよう」
「ふにゅぅ~」
鬱陶しい敵の『お出迎え』を単独で、かつ一瞬にして片付けたマーサには後でご褒美をやろう。
食べ物の支給があるとわかれば、敵が弱すぎてイマイチテンションの低いカレンもその気になるに違いない。
ということでマーサに対し、『高級ブランドニンジン1本(糖度高め)』の贈呈を約束したところ、カレンと、それから後衛のはずのリリィが先頭に出て来た。
ちなみに支給されるご褒美が金銭でないことに対して非常に不満な様子のミラは後ろに下がる、ついでに空気を読んだジェシカと、既に活躍を終えたマーサも下がり、カレンは身長と精神年齢のみだが、とにかく小さい2人のツートップ体制となる。
次に出て来た敵はゴールドとシルバーの混成部隊、数はおよそ50ずつであったが、これは2秒そこそこで撃破。
その次はシルバー軍団、こちらはかなり時間を要し、全滅させるまでになんと5秒も掛かってしまった。
やはり通常のΩの中ではシルバーが最強ということか、戦って良し自爆して良し、別のΩを手榴弾のように投げ付けて良し、まさにオールマイティーなスタンダードモデルだ。
きっとトータルの生産量でもシルバーがダントツなのであろう、だが、これからは寄生型Ωの時代がやってきて、それにより大量のシルバーが型落ちの不用品になる可能性がないとは言えない。
その場合は非常に厄介だ、俺達はともかく、他の連中、主に一般の王国兵などが数万人単位で戦っても秒で壊滅させられてしまう程度には居るはずのシルバーΩ。
いずれそれが『アウトレット』とか『処分品』、『旧式モデル』などという名目で大安売り、これまでのような反勇者、反王国団体ではないにせよ、ある程度の資金力を持った敵対的な組織が大量に導入してしまわないとも限らないのだ。
もしそんな事態になったら、そしてそれが1ヵ所ではなく、とてもではないが纏めて対応することが出来る範囲を超えた、数多の地域に存する『敵性勢力』に拡散したらどうなるか。
いやそれだけではない、そういった余りモノのΩを魔王軍が格安で、大量のセットで購入するという可能性もある。
その場合には遥か上空の魔王城から、人族を滅ぼす自律型、そして自爆さえ厭わない魔導兵器が降り注ぐことになるのだ。
そういった事態だけは確実に回避しなくてはならない、ここでも、次も、そしてその次も、Ω連中の本拠地であるブルー商会とやらそのものを破壊し尽くすまでは一瞬たりとも立ち止まることは出来ないな。
そう考えている間に隊列は施設のかなり奥深くへ、相当な数のΩを討伐しながら進んで行った。
辿り着いたのは既視感を覚えるほどにこれまでと似た広い通路、ここも窓などはなく薄暗い……
「ご主人様、もう司令室が見ええていますよ、結局ハーピーの人達は出て来ませんでしたね」
「だな、ということはアレだ、この先の部屋に全員居るってことだ、もちろん親玉と、Ωの指揮官も一緒にな」
「じゃあ扉は気を付けて開けないとですね、怪我させたら大変です」
「そういうことだ、とりあえず蹴飛ばすとかじゃなくて『引く』んだ、こちら側にバキッとやってしまえば問題ないだろうよ」
「は~い、じゃあリリィちゃん、そっち持って下さい」
「よっしゃーっ!」
ちょうど先頭に居たカレンとリリィが扉に手を掛け、その後ろには開き、部屋の中が見える瞬間を今か今かと待ちわびるユリナが待機している。
2人が引っ張った扉は凄まじい音を立てて外れ、ガラガラと崩れた枠が床で砕け、そこから舞い上がった粉で視界が遮られる……アスベストとかは大丈夫なのであろうか……
『ひぃぃぃっ! き、来やがったぜボスッ! どうしやすかボスッ? ボス? あれ、ボスが居ないような……』
「やいやいっ! この私の軍と誤認させるような紋章を勝手に用いた不埒者はどこですのっ! 成敗してあげるから出て来なさいですわっ!」
『フハハハーッ! 我の出番だっ!』
『いや最初にハーピーの体をゲットした我がっ!』
『何を言う、このギャル系の良い奴を捕まえた我こそがこの場を取り仕切る者!』
「さっきから誰が喋ってますのっ!? 早く出て来るのですわっ!」
「おいユリナ、ちょっとカオスになるからしばらく静かにしろ、ほら、動くとまた埃が舞うんだから」
「……あ、ごめんなさいですの」
薄暗さの中に大量の埃が舞って視界が悪い状態で、部屋の中と外から好き放題、自分勝手に喋る敵とユリナであったが、ユリナの声以外は全て野郎のものであった。
だが口ぶりからしてハーピーに寄生したΩであることは確かで、それともう1体は……と、ようやく視界がクリアになってきた、さて、敵の様子は……
「ハーピーよっ! 出発のときに貰った『行方不明者リスト』に載っている子が全員居るわっ!」
「うむ、見覚えのあるギャルもちゃんと居るし……てか一律巨乳にはなってんだな……」
ここで見えたのは見知っているギャルとその他大勢のハーピー、もちろん全員Ωに寄生され、自分の意思で体を動かすことが出来ない状況にある。
そしてその奥、サーカスの調教師風の鞭を持った知らないおっさん、これはΩの指揮官か。
あとは……それだけのようだ、どういうわけかこの施設の長として君臨しているはずの魔族が居ない。
先程『ボスがどうこう』という言葉を発していたのはおそらく調教師風のΩだ。
ということはつい今の今まで、この部屋にはコイツの上司に値する、即ち施設庁が存在していたに違いないのだが……
「キィィィッ! 居ませんのっ! どこへ逃げたんですのぉぉぉっ!」
「おいユリナ落ち着けっ! その尻尾の魔法をどうするつもりだっ?」
「そうよ姉さま、そんなに怒っていては見つかるものも見つからないでしょう」
「むむむっ……確かにそうですの、でもこれはもう消せないし……こうしてくれますのっ!」
「あっ……っと、壁に直撃しただけか、ユリナはもう大丈夫だろうが、念のため見張っておくんだ、魔法を出そうとしたら後ろからチョップしてやれ」
敵である『調教師Ω』、それから要救助者のハーピー達を無視して話が進む。
壁に空いた穴からは精霊様が突入して来た、ちなみに逃げ出す魔族のような何かは見ていないそうだ。
ということはつまり、敵の親玉は地下から脱出したということだな。
この場でやるべきことを完遂した後に、そちらの方にも対応していくこととしよう。
『ではこの傷付けずにどうにかすべき、してやるべき者達、こちらは我等にお任せ願いたい』
「わかった、じゃあハーピーの救助はデュラハン軍団に任せるとして、俺達はあっちのサーカス野郎を叩き潰そうぜ」
「え~っと、でもあのΩの特徴は何なんでしょうか? ゴールドにもシルバーにも見えませんが……特別仕様?」
「う~ん、ま、構わないわよそんなの、とりあえずウサちゃんパーンチッ……あれ? 全然効いてないみたい……」
『えぇいっ! 何だこの鬱陶しいウサギ魔族はっ!』
「ぎゃいんっ! いったぁぁぁっ!」
とりあえず生、そのぐらいの軽いノリで放ったマーサのパンチ、正直それでカタが着くものだと、もはや楽勝なのだと、その場に居る誰もが想像していたに違いない。
だが、直撃したウサちゃんパンチのエネルギーは敵Ωの直前で全て掻き消された。
反対に敵の振るった鞭、どうしようもない弱攻撃にしか見えないのだが、それがマーサにクリティカルヒット、喰らった肩の辺りが蚯蚓腫れになっているではないか。
というか、マーサ程度の素早さがあれば今のはいとも簡単に回避することが出来たはず。
いくらドMウサギだからといって、全くの未知である敵の攻撃をわざと喰らうようなことは絶対にしない。
ではどうして喰らってしまったのか? 答えは簡単だ、敵のΩがマーサを睨んだ瞬間、体がビクンッと硬直したのである。
もちろん本人が何かを考えてそうしたわけではない、自然に、自動でそうなってしまったのだ。
「いててて、何だったのかしら今のは?」
「良くはわからんが、とにかくマーサはもう攻撃を仕掛けない方が無難そうだ、弱点属性の可能性が非常に高いからな」
「う~ん、じゃあまた後ろに隠れちゃおっ!」
「はいマーサちゃんいらっしゃい」
マリエルの後ろに隠れ、顔だけをピョコッと出して戦いの様子を見守るつもりのマーサ。
俺はどうしてマーサの攻撃が効かなかったのか、そしてたいして強くもない敵の攻撃が絶大な威力を発揮したのかを見定めよう。
と、それは次のチャレンジャーの結果如何によって判明しそうだな、2番手はカレン、これで先程と同じ結果なら動物系に強いということだ、サーカス野郎だけあってな。
だがここでカレンが勝ったとしよう、だとすればこのΩは『大人しい動物』にだけ強く、猛獣には弱いゴミ野郎……と、まぁ自由に創ることが可能な魔道兵器だ、そういういい加減な設定になっている可能性は低いであろう……
「いきますっ! とぉぉぉっ!」
『ゲッ、オオカミじゃないかっ⁉ ギィェェェッ!』
「倒しました、弱かったです」
「どうなってんだよマジで……と、良かった、まだ微妙に稼働しているみたいだな、受け答えぐらいは出来そうな感じだ」
『ヒギィィィッ! 猛獣、猛獣に喰われるぅぅぅっ!』
カレンの可愛らしい耳と尻尾を目の前にして、それはそれは恐れた様子を見せるサーカス野郎Ω。
本当に草食動物だけをいじめることに特化したゴミであったようだ、サーカスなら普通猛獣の方をどうにかするのだと思うが。
で、カレンの一撃でバラバラになったそのサーカス野郎のパーツのうち、メインであり、未だに喋り続ける首を拾い上げてユリナに渡す。
親玉魔族の行き先を聞き出すのはユリナが適任であるためだ、怒り心頭、もはやそのことしか頭にない様子なのである。
もちろんほぼ同様である精霊様もそちら側、残った俺達は……デュラハン達のサポートに回ろう、どういうわけか苦戦しているようだ。
いや、ほぼ全てのハーピーは救助されて床に寝かされている、残りたったの1人、なのにその1人、あのギャルハーピーに、というかそれに寄生したΩの討伐に相当苦労しているらしい。
飛び回るギャル、見た目からして寄生しているΩは『お尻Ω』、『おっぱいΩ』の方はくっついている様子はないが、アレでも寄生済みで、寄生されてなおそのサイズであるというのであれば大変申し訳ないと思う。
ハーピーの力を悪用して飛び回り、地上のデュラハンに対して一撃離脱の攻撃を繰り返す寄生Ω。
他はそこまで速度が出ていなかったため、タイミングを合わせてとっ捕まえることが出来たようだが、この最後の1体に関してはそうもいかない様子。
既に討伐されて床に落ちているΩは、『おっぱい』か『お尻』かの違いはあるものの、スペックは全く同じのようだ。
おそらくは本人、寄生されているハーピーの戦闘センスの違いが、Ωの強さの違いにも如実に表れている。
そしてこの最後に残ったギャルハーピーベースの1体は、高速飛行でもピノーのように羽根を失うことがなく、また小回りも効き、凄まじい力を発揮しているのであった。
『ぐぬぬっ、このハーピーの者、間違いなく今まで見た中で最強ですぞっ!』
「みたいだな、あんな感じだったから気付かなかったけど、この動きは明らかに戦士の動きだ、あと体幹とかも強そうだし、日頃から相当に鍛えているみたいだぞ」
「勇者様、どうしますかこの子は? これじゃ精霊様の飛行速度でも追い付けませんよ」
「う~む、困ったものだな……とはいえ上空から攻撃してきてすぐに離脱されるんだ、ここは精霊様に頼むしかないな、お~い、精霊様の出番だぞ~っ」
「え? もう、今回は本当に私ばっかりね」
「しょうがないだろ、囮にしても救助にしても、この戦いは空を飛ぶことが重要になっていたし、今もそうなんだ、てことで頼んだ」
「頼んだって、その前に状況を説明しなさいよね……」
ここまでサーカス野郎Ωの首を拷問していたため、まだ敵の厄介さについて知らない精霊様に、速すぎてどうしようもないことを中心に戦闘の経過を伝えてやる。
それならば、ということで飛び立ち、寄生されたギャルハーピーを追う精霊様だが、ミラが予想した通り全く勝負にならない。
まぁ、おそらくは外に出てトップスピードでレースしたのならば精霊様が勝つ。
だがこの狭い室内で、急発進急停止、および急旋回を繰り返すことは、精霊様の装備しているニセモノの羽根には荷が重すぎるのだ。
「くぅぅぅっ! ちょこまかと厄介な子ねっ! 外に誘い出すことも出来ないし……」
「やっぱダメか、こうなるともう追い掛け回してΩのエネルギー切れを待つしかないのかな?」
「いえご主人様、非常に良い作戦がありますよ、ここはこれを使って下さい」
「おいルビア、この短い馬用の鞭でどうやって敵を撃ち落とすってんだ……っと、この鞭はアレか、ということは狙うべきなのは敵じゃなくて……」
「そういうことになりますね、まぁそれをやって恨まれるのはご主人様ですから、あとは自己判断で」
「逃げやがって、だが仕方がないな、これしか手段が見当たらないんだ……精霊様、ちょっと、ちょっとで良いから戻ってくれっ!」
ギャルハーピーを追い掛け回していた精霊様が俺の声に気付き、相手を見据えたまま後退、ゆっくりとこちらに近付いて来た。
しかHしちょうど良い感じだ、尻がこちらに向いているのはまたとないチャンス、気取られないよう目を逸らし、ついでに鞭も後ろに隠して待機する。
「何よもうっ、今目も手も足も離せないんだからっ! 用があるなら後に……」
「喰らえぇぇぇっ! オラァァァッ!」
「ぎゃいんっ! 何すんのよいきなりっ!」
「いや精霊様、今打ち付けたのはデュラハンの里でゲットした『素早さが上がる馬用の鞭』なんだ、ということで今すぐ行け、効果時間が切れてしまう前になっ!」
「……そういうことだったのねっ! 良いわ、その代わり後でお詫びしなさいよっ!」
事情を知り、凄まじいスピードで飛び立つ精霊様、元々の素早さが高いのだ、これを強化することによってさらに、まるでミサイルのような動きで敵を追尾することが出来る。
もちろん未だにギャルハーピーΩの方が小回りが利く、だがそのキュッと曲がるような回避を打ち消すほどの、とんでもないスピードで大きくカーブした精霊様は、風圧でバランスを崩した敵へと襲い掛かる。
「これでフィニッシュよっ! 全損してくず鉄に戻りなさいっ!」
『なっ⁉ ヒョゲェェェッ!』
一閃、正確無比な一撃はギャルハーピーΩの短いスカートを、そのΩ部分と同時に抉り取った。
地面に落ちているのと同じ『お尻Ω』の残骸が散らばり、ギャルハーピーは力を失って落下する。
「よっと! ナイスキャッチだ、これで全員救助することが出来たみたいだな、あとは……」
「そうそう、こっちの件なんだけど、どうもここの施設の親玉は地下から逃げたみたいなの、その瞬間はコイツも見ていないみたいだけど、状況からして間違いないと思うわ」
「ほう、で、その地下へ続く道は……」
「こっちですのっ! 早く行きますわよっ!」
「待てユリナ! 1人でどんどん進もうとするんじゃないっ! あっ、こら待てってば!」
Ωの首から聞き出したと思しき地下へ繋がる出入口、勝手にその中へ入り、完全に先行してしまったユリナを追うべく、他の仲間達も順次そこへ入って行く。
俺は救出したハーピー達の世話と、上空の偵察部隊への連絡をデュラハン軍団に任せ、皆の後に続いた。
こちらの後始末はデュラハンがどうにかしてくれるはずだ、俺達は次の目標、施設長の魔族を討伐する作戦に移行する。
暗い通路を進むと、すぐに前を行く仲間達と合流することが出来た。
この先に何があるのか、敵はどこまで進んでいるのか、それは全てもうすぐ判明することだ……




