569 寄生された仲間達では
「気を付けるんだぞ、そこに落ちているのはただのウ○コじゃない、Ωだ」
「相変わらず汚らしいわね、こういうのを使うって人としてどうなのかしら?」
「全くですの、ここの指揮官もこれまでも、魔族の風上にも置けない程度にはゴミですわ、どう苦しめて殺すか良く考えなくてはなりませんことよ」
敵の親玉、即ち俺達に対して舐め腐った態度を取った馬鹿、おそらく魔族であろうそいつの命はひとつだけ。
一度殺してしまえばそれでお終いなのだ、苦しめるのにも限界というモノが存在する。
だが奴はユリナを筆頭に、痛い目を見た精霊様と、それから仲間をΩ化されたハーピー達、あと馬鹿にされたと感じている俺達からも相当な恨みを買っているのだ。
慎重に、どうやって痛め付けるのかを考えてやらないと、特に脆いタイプの魔族であった場合には注意が必要である、少し攻撃しただけで砕け散って死んでしまうような雑魚上級魔族も多いし、いきなり殺さぬよう、確実に生け捕りにするよう、丁寧に倒さないとならないのである。
捕獲後は少なくとも処刑開始から1週間、いや2週間以上に渡って地獄のような苦しみを味わい、その後本当の地獄に落ちて更なる責め苦を、という感じにしてやらないと、おそらく全員の腹の虫が収まることはない。
と、そこで敵施設の扉が開き、中から迎撃部隊と思しきΩが……まさかの1体きりである、本当に舐めているのかここの馬鹿指揮官野郎は?
しかも見たこともない、何だか変なΩだ、寄生されたハーピーが出て来て、ここで労せず救出することが出来るかも知れないと思っていたのだが、そう上手くはいかないらしい……
「何だろアレ? シルバーΩのようだが……ちょっと動きがぎごちないというか……」
「おそらくシルバーの皮を被った別のΩね、表面を剥いたら何か出て来るわよ、きっと」
「そういうことか、じゃあえっと……魔法は効かないんだもんな、ミラ、ちょっと速攻で首を跳ねてやってくれ」
「もう斬りましたよ、はいポロンッと」
俺が後ろを向いてセラと話している間に動き、敵のおかしなΩを斬り付けていたミラ。
壊れかけのロボのようにガタガタしながら歩いていたシルバー、いやシルバー仮面の首がストンッと地面に落ちる。
さて、これでどうなるか……と、やはり特に気にしている様子はない、地面に落ちた自分の首を拾おうともせず、そのままの動きでゆっくりと近付いて来るではないか……
「急所は首ではないようですね、となると今度は両脚を切断しましょう」
「それは既にやったぞ、次の1歩が奴の最後の歩だ」
今度はミラがこちらを向いて話している間に、サッと前に出たジェシカがΩの両脚を切断していた。
歩こうとして太股の部分から外れ、そのままガタンッとうつ伏せに倒れるΩ、これでもう歩くことは出来まい。
……と、それでも前に出るようだ、両腕で這うようにして、さらにスピードを落とし、ぎごちない動きのまま迫る首と両脚のない何か、完全にホラーである。
かなり気持ち悪く、見ているだけで後退りしたくなるような光景、実際にカレンとマーサは危険を感じたのか、ジワジワと後退して俺とマリエルの背後に隠れた。
だがそんな中でも気にしない、むしろ嬉しそうに前に出る影がひとつ、興味津々のリリィだ……
「うわぁ~っ、きっも~いっ! ツンツンッ、ツンツーンッ!」
「おいリリィ! 破裂したりするかもだからあまり近付くなっ! あとばっちいから触っちゃダメだっ!」
「え? でもこの外側はもうほとんど……てか完全に死んでますよ、中で何かが動かしてるみたいです、てことでツンツンッと」
「どういうことだよ? 外側のシルバーは機能してないってことか、だとしたら……コラ中の奴、サッサと出て来やがれっ!」
『フハハハッ! 単なるシルバーΩの振りをしていたのだが、この高貴な新製品たるこの我のオーラは隠し切れなんだかっ! だが正体を表すとどうなるか? 貴様等、確実に気絶するぞっ!』
腹の底から声が出ている、まさにそんな感じで音声を、言葉を発した何者か。
とにかくシルバーの亜種、というか改造シルバーでないことは良くわかったのだが、だとしたら一体何なのだ?
そして、正体を表すと気絶してしまうような何かとはどういうモノなのか? とんでもなく恐ろしいバケモノ? いや、その程度であれば慣れっこだしもう驚きさえしない、もしかするとキモくて激クサのハゲでも登場するのか?
まぁ良い、とにかく正体を見てみないと始まらないし、その禍々しいのであろう姿を現すことを許可してやろう、というか無理矢理にでも、そこに入っていると思しきシルバーの腹を掻っ捌いてでも取り出してやろう。
最悪の場合、それで本当にもし何かあったのだとしたら、きっと上空からこの様子を見ている精霊様が助けてくれるはずだ、もちろんその際には感謝のついでに先程の悪戯について謝る……のはやめておこう、マジで消されてしまいそうだ。
ということであの件は墓場まで持って行くことに決め、首と両脚がなくなって這い摺り回るキモΩの方へと向き直る……
「おいっ! とにかく正体を表しやがれっ! 俺様は寛容なんだ、どんな見た目でもそう驚きはしないと思うぞ」
『ほほう、ではご覧に入れよう、我のっ! この呪われし姿をとくと見るが良いっ! フンヌッ!』
「何だっ!? ズボンが破れて……まさか……そんな馬鹿なことがあって……」
破れた、というよりも弾け飛んでしまった外側のシルバー部分が穿いていたズボン、そしてそのケツから飛び出したのは、もう何とも言えない、表現したくない姿と色をした物体であった。
パッと身を引いて距離を取るリリィ、ここまで浮かべていた余裕の表情はどこかへ消え去り、恐怖に恐れ戦いた顔でこちらに走って来る。
他の仲間達も、そして俺も同様だ、気絶するかしないかの瀬戸際、少々敵の『禍々しさ』を舐めていたのだ。
同行しているデュラハン達は首の向きを変え、鼻の部分を必死で塞いで耐えているが、それでも5人のうち2人がダウンしてしまった。
なぜそんなに恐怖するのかって? そのビジュアルだ、そして放つ強烈な悪臭、そう、敵の正体はウ○コであったのだっ!
「て……テメェェェッ! 何だよそれはっ!? どうして、どうしてΩてのはそんなにウ○コを主張するんだっ!?」
『フハハハッ! だから予め注意しておいたであろう、もっとも我も好きでこのような姿になったのではない、これは事故によってこうなってしまったというだけなのだ』
「どういうことだっ?」
『我は元々寄生型Ωの最新式、どんなモノにでも取り付くことが出来る非常にマイクロな極小Ωであったのだっ! だが一度寄生するとそこから離れることが出来ないのは他と同様、そして……』
「そしてどうした? そこからウ○コタイプに変異したところまで、まだ随分長々とした話しがありそうなんだが?」
『いや、その後すぐだ、なるべく強力な生物に寄生しようと、気合を入れて施設を出た我は……我はっ! 風に煽られて野○ソをしていたおっさんのウ○コにっ! 最悪の事態であった、それ以降、我は人のウ○コΩとして暗く悲しい日々を送り、ここで初めて現れた敵に対抗すべく、破壊したシルバーの体内に入り込んで貴様等を迎え撃つべく……』
「もう良いわっ! 話が長いし何の役にも立ちやしねぇっ! 不快なだけだぜ全く」
どうしてこうこの世界には不潔な変質者の類が多いのであろうか、どこをどう間違えたら意思を持った魔導兵器がウ○コになって俺達の前に立ち塞がるような事態が生じるのか、実に謎めいている。
しかし今目の前に居る敵は虚像などではなく実物、俺達はこの『ヒトのウ○コΩ』とかいう危険極まりない、この世界そのものが生み出してしまった途轍もないエラーを解消しない限り、決してこの先へ進むことは叶わないのだ。
しかしどう戦うか、おそらく魔法の類が通用しないのは他のΩと同様、そして物理攻撃は……それこそ不可能だ、触ったら死ぬと言っても過言ではない。
「クソッ、どうするよコイツ、倒さないと先へ進めないじゃねぇかっ!」
「待って下さい勇者様、ちょっと気になる点がありますっ!」
「どうしたマリエル?」
「ええ、ちょっと……そのこ魔導兵器よっ、あなたのような不潔なモノに話し掛けたくはありませんが、仕方なく言葉を交わそうと思います、それで、あなたの攻撃手段は? 先程からその……ずっと地面に落ちているだけのような気がするのですが……」
『フハハハッ! 良く気が付いたな高貴そうな小娘よ、我は、我には攻撃手段どころか、誰かの助けを借りねば移動することすら出来ぬのだっ!』
「やっぱり、勇者様、そういうことですので普通に避けて進みましょう」
「……馬鹿なんじゃねぇのかマジで?」
呆れ果てる弱さ、もちろん戦闘力ではなく頭の弱さだ。
どうしてその状態で、何も出来ない状態で俺達の前に現れたのか、ただ薄汚い姿を晒し、迷惑を掛けたかっただけなのか。
というか、このままΩ部分を残して土に還った場合、つまりウ○コが消滅した場合にはどうなるのだ?
まさかその場合には再利用が可能になる? だとするとコイツの言っている内容であれば非常に危険だぞ。
もし本当にこのウ○コ野郎の中身が超マイクロΩであったとすると、それが再び活動を始め、何か危険な生物やその辺の強力な魔族に寄生したとしたら、それこそなかなかの強敵が誕生してしまう。
となると一応はどうにかしておいた方が良いかも知れない、無視して通り過ぎようとしていた、未だにサリナのモザイクに守られて姿さえ確認することが出来ない逸品、もう一度誰か話し掛けてはくれないものか。
いや、そんなことは誰もが嫌なはずだ、ここは勇者様たるこの俺が率先して、この薄汚い忌避すべき存在の相手をしてやることとしよう。
「おいお前、ちょっと最後に聞いておきたいことがある、この後お前は土に還るわけだが、その際に元々のΩ部分はどこへ行くんだ? 一緒に朽ち果てるのか、それともリサイクルに回されるのかだ」
『我は……我は消える、そのガワだけを残し、寄生した対象と共に意識を喪失するのだ、それはどのΩも同じ、今施設の中で大切に扱われている、あのハーピーに寄生したΩ達もだ、Ω部分が破壊されればΩのみが、宿主が死ねば同時に消える、全く寄生型Ωとはそんな役回りなのさ……』
「そうかそうか、それを聞いて安心したぜ、お前が消えてなくなるってことも朗報だが、救助対象がまだあの施設の中に居るってこともな、ということであばよクソゴミウ○コ野郎、二度と俺達の前に姿を現さぬよう、あと数時間を目途にこの世界に還元されて消滅してくれ、お前以外の全ての生物のためにもな」
臭い臭い、本当に不快な馬鹿との会話を終え仲間を追って先へ進む。
早めに消えては欲しいが、帰りまでというのは到底無理であろう、後で踏まぬよう気をつけねば。
しかし、奴がもっと普通の存在であれば話は別であったな、散々痛め付けて、もう殺して欲しいと思うほどにまでいじめ抜いてやったところなのに、あのビジュアルと悪臭、そして種別では、放置して先へ進む以外に選択肢はない。
もはや世界にとって不必要な存在との無駄話をしている間に、かなり先行してしまった仲間に追い付く。
そこはもう施設の扉の前、再び固く閉ざされてはいるが、わざわざ開ける必要はなさそうだ。
扉の向こうには何らかの敵の存在が、今度は1体きりでなく複数体で待機しているのを感じ取ることが出来る。
ここで待っていればすぐに出て来るはずだ、上空の精霊様に合図を送り、本命が出現する可能性が高いことを伝えておいた。
「敵の数は……10ぐらいか? 扉が分厚すぎてちょっと良くわからないが、まぁとんでもない数ってことはないだろうよ」
「う~ん、音も聞こえませんけど、殺気だけは感じますね、扉の隙間から漏れてますよ」
「殺気ってそういう性質のものなのか……」
わけのわからないことを言うカレンには何か特別な、見えてはいけないものが見えているのかも知れない。
そう考えつつ、ゆっくりと降りて来た精霊様のパンツを眺めながら待機していると、しばらくして施設の扉が開き始めた。
そこに立っていたのは寄生されたハーピー……ではなく、形状こそ模しているがかなりメカメカしい、完全なΩタイプの敵であった。
救助対象ではなかったことに一同ガッカリ、上空から様子を見守っているハーピー達の溜め息も、まるで聞こえているかのようにはっきりと感じ取ることが出来、全員の落胆ぶりは想像を絶するものである、とりあえず扉が閉まってしまわないようにだけしておこう。
と、そんな感じの俺達であったのだが、もちろんΩであってハーピーではないとはいえ、目の前のメカメカハーピーもどき軍団にも意思は存在しているのだ。
登場した瞬間、目の前の敵が露骨に残念がっているのは非常に堪えたであろう、後ろの方で3体ほど帰ろうとしている奴も居るではないか……いや、アレは単にバグッているだけか。
そもそもどの個体にも表情はないし、この正体不明のΩらしきモノは、どう考えても救助すべきハーピー達とは関わりがないような気がするな……
「……で、お前等は俺達の探している『要救助者』じゃないよな? 破壊されたくなかったらサッサと退くんだ」
『ソ……ソレハ、デキ、ナイ……』
「うわっ!? 声とかめっちゃ低品質じゃないの、これなら人族が作るお話し魔導人形の方がまだマシなぐらいじゃないのよ」
「きっとここの施設の頭の悪い指揮官が調子に乗って、見様見真似で製造したパチモノΩですの、カス以下の存在ですわ」
『イカニモ、ワレラハ、ココノシセツ、チョウニ、ヨッテ、ツクラレシ、ΩデアッテΩデナイ、モノ』
「まともに喋ることも出来ないようだな、とりあえずブチ壊してやろうぜ、オラッ!」
『ギェェェ、ヤラ、レ、タ……』
たまたま一番前に居た変なΩ、というかパチモノΩを破壊すると、何の感情も表現しないまま『やられた』ことのみを宣言して活動を停止した。
それを見ていたはずの他の個体もまるで反応しない、というか後ろの3体はマジで帰ってしまったではないか。
だが自ら考えてそうしたのか、それとも最初からそうプログラムされていたのかは不明だが、残った6体は構えを取り、俺達と戦う姿勢を見せる。
『コウゲキ、カイシ、ト、ドウジ、ニ、ギィェェェ』
『ウワァァァ』
『センシ、シマシタ』
「おい、弱いとかそういう次元じゃねぇぞこいつら、これなら上空のハーピーに戦わせてやっても良さそうだ、精霊様、ちょっと呼んで来てくれ」
「はいはい、じゃあちょっと行って来るわね」
残った6体のうち襲い掛かった3体は、先頭に居たミラが剣を『振りかぶった』際の衝撃波で粉微塵になってしまった、非常に弱いモブキャラだ。
最後の3体はそれを認識して距離を取り、斬られない位置で武器を構えて待機している。
そのうちに精霊様が戻り、上空のハーピーを強い方から順に9人連れて来た。
敵1体につきハーピーが3人、そこからはなかなか良い感じの戦いを繰り広げ、数で勝るハーピーが徐々に優勢に立っていく……
『ヤラ、レター』
『マケタマケタ』
『オワリ、ダー』
「やったっ! 我々が勝利しましたっ!」
「はいはいおつかれさんでした、じゃあルビア、怪我人を治療してやってくれ」
こちら側の戦闘員9名での勝利、うち重傷者は5名、軽傷が2名、現状ハーピーの集落で上位の戦闘力を誇る2名はなんと無傷で、パチモノΩとはいえ敵魔導兵器との戦いを切り抜けた。
上々である、これでハーピーのメンツを保つことも出来たし、本人達にも『やり切った感』が沸いてきたであろう。
あとは危険なことをせず、安全な、離れた場所の上空で偵察を続けていて欲しい。
もちろん何かあれば、特に集落を襲おうとするΩの一団が施設を出ようとしているのを発見した場合には、とんでもなく広範囲に響き渡るというハーピー特有の金切り声で教えて欲しいところだが。
しばらくして負傷した7人の治療も終わり、ルビアの魔力もまだ3万分の1程度しか減少していないことを確認した後に、戦い抜いて再び空へ戻る9人を見送る。
「さてと、次こそは本命が出て来て欲しいところだな、ということでこのまま先へ進もう」
「ええ、施設の間取りはこれまでと変わらないみたいだし、普通に行けばきっと敵の親玉がお出迎えするはずだわ、そしたらまた壁に穴を空けて、そこからの出入りを自由にしてちょうだい」
「わかった、じゃあ精霊様は引き続き空を見張るってことで良いな、よろしく頼むぞ」
「うん、さっきの戦いぶりじゃ、おそらくシルバーΩの集団に囲まれたら5秒と持たないもの、やっぱり私が見ておかないと不安だわ」
未だハーピー変身セットを装備したままの精霊様は、念のためということで再び空へ戻る。
この戦力減は俺達にとってかなりの痛手だが、それでも必要なことなので仕方ない。
だが、ここまで舐め腐ったようなΩ、いやもうΩとすら呼べない雑魚キャラばかり出してきた敵だ。
本命と、それからΩの中でも比較的力のある個体は温存、おそらくは親玉を守っているのであろう。
となるとここから狭い施設の中で、大量のそういった敵と鉢合わせする可能性が高いということ。
かなり大規模な戦闘になりそうだ、その際に要救助者に累が及ぶことのないよう、慎重に戦わねばならない。
その認識を一緒に突入する5人のデュラハン達にも伝え、隊長の了解を得て先へ進む。
通路を通り、このまま最後の司令室を目指そうと思った矢先、またしても敵の反応。
「今度はどうかな? まぁ歩いて接近している時点で望み薄だが」
「主殿、こんな狭い所で飛行タイプのキャラを繰り出すような愚行には出ないと思うぞ、いくら馬鹿とはいえさすがにな」
「てことは……やっぱシルバーか、今度は中身が違ったりしないことを祈ろうぜ」
通路で出くわした50程度のシルバーΩ軍団、施設内での緒戦だが、本当にこの程度の迎撃で良いのか、こちらが不安になってしまうではないか……




