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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第六章 空飛ぶ
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566 カラフル集団

「食糧よしっ、お水よしっ、おやつもよしっ!」

「醸造酒よしっ、蒸留酒よしっ! 樽もグラスも全部よしっ!」


「お~い、荷物の確認は終わったか~っ? そろそろ出発の時間だぞ~っ」


『うぇ~いっ!』



 ハーピーの事件、そして覗き魔ゴールド事件から一夜明け、俺達はハーピーの集落へ向かうための準備を進めていた。

 地図によると、首なしウマを用いた馬車の力をもってすれば、おそらくは本日中に目的地へ着くはずだとのこと。


 もっともそのすぐ近くにあるはずのΩ施設に関しては、ひとつ前のものを滅ぼした際に手に入れた資料からは場所も、そもそも存在さえも判明せず、現着してから自力で探し当てる他ないようだ。


 だがこれから行くのは大空を舞うハーピーが集まる場所、行動範囲もそれなりに広いことが予想され、あのような巨大施設が存在しているとすれば、それを見て知っている者が居る可能性が高い。


 ちなみに現在救助済みの唯一のハーピー被害者であるピノーは、特にそういった施設を見たとか話に聞いたとか、そういったことはないのだという。


 しかしどうやらこのピノー、まだ若く、そして強くもないため、狩りに出るようなメンバーには含まれず、専ら集落周辺での採集に従事していたとのこと。


 それでは遠くのことを知らない、そしてそれを知っている可能性のあるハーピーと話す機会がないのも不思議ではない、とにかく集落へ行って、物知りハーピーさんからお話を伺うのだ。


 超高速で走る馬車に感動するピノーと共に街道を行く、しばらく走ったところで昼休憩となり、小さな泉というか池というか、とにかく水場のある場所で外に出た。


 標高はかなり高く、見渡す限りが草原で見晴らしの良い場所……のように思えたのだが、どうもかなり前方、即ち進行方向には森らしきものがあるようで、うっすらと木々が生い茂っているのが見える。



「見て下さいっ! あの先に見えているのは私達が住んでいる樹海ですっ! あぁっ、やっとお家に帰ることが出来ます、皆は心配しているでしょうか……」


「おそらくな、だがピノーが無事……でもないが、とにかく生きて帰るんだ、他の神隠しに遭ったとされているハーピーの生存にも期待が持てる結果になるんだ、皆喜ぶはずだぞ」


「ですね、でも私達を攫おうとする敵が居るってことも同時にわかるわけで……何となく微妙な感じですね……」



 森の方を見ながら不安そうにするピノー、だが俺達は何の心配もしていない。

 どんな敵が居ようと、どれだけ凶悪なΩが居ようと、さすがにこちらの戦力を上回るようなことは考えにくいためだ。


 だが自分では戦うことの出来ない、おそらくシルバーΩ1体とのタイマンでもあっさり負けてしまいそうな戦闘力しか持たないピノーにとっては、Ωという未知の魔道兵器が恐ろしいものに感じられるのであろう。


 もっとも、俺達にとってもΩ化したデュラハンの戦士3人が立ちはだかる未来はあまり想像したくないものである。


 そこそこ強く、しかも本体の方を一切傷つけないようにしなくてはならないということを考えると、その討伐兼救出はかなり骨の折れるものであるということがわかるのだから……



「ご主人様~っ! ご飯が出来ましたよ~っ! 早く来ないと食べちゃいますよ~っ!」


「お~う、すぐに行くからっ、俺の分まで食べんじゃないぞ~っ!」


「ダメですっ! 3……2……はい残念でしたーっ!」


「おいふざけんなぁぁぁっ! あと1はどうしたんだ1はっ?」



 既に俺に配布されるはずの骨付き肉ローストを半分に引き千切り、リリィと2人で山分けしようとしているカレンを止めるべく、遥か彼方の森を眺めるのは中断して皆の所へ戻った。


 結局骨にへばりついたわずかな肉しか口にすることが出来なかった俺だが、『本当に美味いのは骨の周りだ』ということを自分に言い聞かせ、どうにか空腹を抑圧することに成功する。


 ちなみにピノー、というかハーピーは雑食で、肉であればそのままパワーになる赤身部分が、そしてむしろ肉よりもナッツなどの木の実類や果物などを好むようだ、思っていたよりも平和的な連中のようだな。


 食事を終え、再び出発すると、遠くに見えていた森がグングンと近づいて来る。

 そしてその直前で馬車がペースを落としたかと思うと、隊列は比較的ゆっくりと、それでも通常の馬車を遥かに超えるペースで狭い林道に入った。


 これがハーピーの住む樹海というやつか想像していたよりも木々の密度が濃く、まだ真昼間だというのにかなり暗い。

 このどこかにハーピーの集落があり、そしてそれを狙うようにしてΩの施設が存在しているはずだ。


 とにかくこのまま進み、地図上ではもうしばらく走った所にある集落を目指していこう……



 ※※※



「あっ、あっ! 見えましたっ! 今チラッと見えたのが集落の入り口ですっ! 通り過ぎちゃったので戻って下さいっ!」


「マジかっ⁉ お~いっ! スト~ップ! ストップだーっ!」



 非常にわかりにくい集落の入口、確かに曲がり角とその先へ続く分岐した小道のようなものがあったが、とてもではないがその先に集落があるなどとは思えないものであった。


 きっと特に客人を招くようには出来ていないのであろう、集落の維持運営に必要な貨幣を稼ぎ、他の場所でしか手に入らないモノを買い付けるのも、ここを訪問する行商人には頼らず、自分達で出向いているに違いない。


 俺の必死のジェスチャーに気付いた御者デュラハンが馬車を停め、さらにそれに気付いた前方のデュラハン隊長に、目的地を通過してしまったことを伝える。


 もちろん巨大な馬車をUターンさせるようなスペースはなく、鬼返しすら不可能な状況。

 仕方なく首なしウマを後ろに下がらせ、地味にバックして集落の入り口たる分岐点へと戻った。


 すぐに分岐へ入れる場所まで移動した後に、そこから先へは進むのをやめてピノーのみを馬車から降ろす。


 突然大人数で、しかも他種族どころか魔族ですらない連中が押し掛けるのは大変に迷惑なのだ。

 ここはハーピーであるピノーだけが行って、事の詳細を告げるのがベストな選択肢なのである。



「おっ、戻って来たな……と思ったらピノーじゃないのか、ギャルみたいなハーピーだな……」


「ケバい女の子ね、羽の模様のせいでそう見えるのかもだけど」



 そのまましばらく待機していると、集落の方からやって来たのはピノーではなく、赤いような黄色いような、とにかくハデハデの羽根をその腕から生やした、金髪のギャル系ハーピーであった。


 ギャルハーピーは俺達の中で先頭に居るデュラハン隊長の所まで来ると、何かを話して隊長の承諾を得たようだ。

 隊長がこちらを向き、御者をしているデュラハンに前へ出るよう伝える……



「うぃ~っ、こっから狭いんできぃつけてっさぁ~い、あいオーラーイッ、オーラーイッ、オーラーイッ、あい、っけーでぇぇぇっ! あださっしたぁぁぁっ!」


「おい何だアイツ、何スタンドのスタッフなんだよっ⁉」


「たぶんだけど真面目にやっていてアレなのよ、元々うぇ~いっだけで会話が成立するようなタイプの子ね」


「ヤバいな、さすがの俺でも『うぇ~い語』は習っていないぞ、クソッ、第二外国語で取っておくべきだったぜ」



 とにかく、そのチャラチャラしたギャルハーピーの先導を受けて集落の中へ入って行く。

 進めば進むほどに、カラフルな羽根を腕に生やしたハーピー達が……なるほど、女性しか存在しないようだな……


 女性だけでどうやって数を増やすのであろうか? などと疑問に思いつつも、途中で目が合ったハーピーの女の子に、馬車の窓を開けて手を振りながら先へ進む。


 そのまま奥へ入ったところで、見えてきたのは明らかな『集落のメイン』系の建造物。

 そこそこに巨大で、開け放たれた扉の向こうには座っているピノーの姿も見えている。


 この建造物は何というかこう……かやぶき屋根の寺院のような感じだ、だが本当の寺院らしきものはさらに奥、森の木々の合間から僅かに顔を覗かせており、こちらが俗世におけるメインであることをうかがい知ることが可能だ。



「へいとうちゃ~っくっ! おっつれさーっしたーっ!」


「これっ! お前はお客様に対して何たる態度かっ!」


「げっ、ババァが降臨しやがった、じゃっ、わたしゃこれでぇぇぇっ!」


「待たんかぁぁぁっ! この大馬鹿者がっ……と、申し訳ありませんお客様方、お見苦しいところとお見苦しい馬鹿をお見せしてしまったようで、ささっ、どうぞ中へ」



 鬼の形相から一転、丁寧に俺達を迎え入れてくれたのは、かなり高齢と思しきハーピーばあさん、きっと里長の類だな。


 しかし良く見ると年齢が既に5,000オーバー、ちなみにボケたり、足腰がどうのという様子もなく、腕の羽根が少ないとかそういったこともない、いたって健康体のようだ。


 とりあえず靴を脱いで中に上がらせて頂き、ピノーも座っている板の間に座布団のようなものを敷いた場所に案内され、そこに腰を落ち着ける。


 ハーピーばあさんは接待の用意のためか一旦離席し、その場には俺達ゲストと、丈の短い着物のような衣装に着替えたピノーだけが残った。


 なお、今のばあさんも、それから途中で出くわしたハーピー達も、皆一様に着物のような恰好をしている。

 ギャルギャルしていたのは案内係で、既にとんずらをかましたケバ嬢ぐらいのものだ。


 まぁハーピーの服装はどうでも良いとして、今はとにかく彼女らの話を聞くべく、集落の代表団がやって来るのを待とう……と、その前に色々と気になることもあるが、それはハーピーのことを知っているであろう仲間の魔族達に聞いておくこととしよう……



「なぁサリナ、ハーピーってどのぐらい生きるんだ?」


「平均寿命は7,000年程度だそうです、短命でかわいそうですね」


「いや長命すぎてかわいそうだろっ! そんなに生きたらやることがなくなるってんだ、相当に暇だぞ、特になんやかんやと知りすぎた後半はな」


「そうでしょうか? ここのハーピー達もそうですが、森の奥深くで集団生活をしている魔族というのはかなり原始的な生活をしている場合が多くて、日々狩猟や採集、場所によっては農耕なんかで忙しいんです、趣味に走ったりすることが出来るのは、せいぜい隠居した最後の1,000年程度ですよ」


「1,000年でも十分長いわっ! 全く、どうも不死の悪魔とは話が噛み合わないな……」



 良くてせいぜい100年、こんな危険極まりない世界においては60年から70年程度が妥当であろう寿命の俺や現地の人族にしてみれば、サリナの考える短い生涯というのはもはや悠久の時を過ごしているのと変わりない。


 おそらくこの不死の悪魔からすれば、俺の生きている期間、そしてここでこうして一緒に過ごす時間などほんの一瞬、人生のちょっとした一幕にすぎないのであろう。


 そう考えると少し悲しくはあるのだが、その分この俺様の輝かしい活動履歴が後世に、この世界が滅びるその瞬間まで語り継がれると思うと実に誇らしいことだ。


 こういうのはポジティブに考えよう、そしていつかこの世界に終焉のときが訪れた際には、ユリナやサリナ、エリナなどが協力し、俺を始めとした『先立った仲間達』を呼び戻し、再び世界を救うための冒険を始めることになるのだと。


 などと遥か未来に思いを寄せているうちに、ハーピーの集落の代表団がやって来た。

 赤に緑、青にオレンジ、多種多様なカラーの羽根をその腕から生やした……カラーひよこ? とにかくカラフルであることだけは確かだ。


 俺達の座っている場所の向かいに座ったハーピー達、もちろん中央は先程のばあさんだが、今回は重要な話であるがゆえ、引退した上位者も参加するのであろう、端の方にシワッシワの、もはやどういう生物かすらわからないのが鎮座している。



「え~、皆様方、この度は我が集落の1人、神隠しに遭ったとばかり思われていたピノーをお助け頂き誠にありがとうございます」


「いえいえとんでもない、当然のことをしたまでですよ、伝説の世界勇者様としてなっ!」


「ちょっと勇者様、こんなところで調子に乗らないのっ、立ち上がらないのっ、あとテーブルの上に足を乗せないっ!」


「はいすみませんでしたっと、で、この集落には他にも神隠しに遭っているハーピーが居るんだろう? どのぐらいの数なんだ?」


「ええ、今のところは7名、大半が集落から出て採集をしている最中に消えてしまいまして、ですが最後に消えたピノーのみはこの奥にある寺院から忽然と、それで神の手が集落の中まで及んだかと、皆恐れ戦いておりましたところ、皆様が羽根を失ったピノーと共に……」


「なるほど事情はわかった、それはΩの仕業だっ!」


「だから勇者様、ちょっと落ち着きなさいってばっ」


「はいすみませんでしたっと、それでだ、この集落の周りの話なんだが……」



 そこからはこちらの質問タイム、Ωに寄生されて誘拐されたピノーという実例がある以上、この近くにΩの施設が存在しているはず。


 そして狩りに出ている、そのために広範囲を移動するようなハーピーには、そのような施設の存在が認識されている可能性が非常に高い、さらに、集落のトップであらせられるこの連中にはその認識が共有されている可能性も同時に高いのである。


 ということでまずはそういった施設がないかどうかということを……と、話を聞いてすぐにザワザワしだしたということは、間違いなくこの集まった面々は何かを知っていることがあるということだな……



「え~、今お伺いした施設のことなのですが、実は先日集落の近くに巨大な施設が完成致しまして、気になってそこの責任者と思しき魔族に聞いたところ、『ここは魔王軍の関連施設だ』との回答を得まして……」


「魔王軍のものであれば特に問題はないであろうと思ってそのまま、かつ何らかの研究をされているとのことなので、邪魔をせぬよう集落の者には近付くことを禁じたのですが……」


「いや、まさかそれが魔王軍のものではなく、神隠しを起こしている連中の……」


「それっ! 実はΩの仕業なんですっ!」


「だから勇者様、さっきからどうしたってのよっ」


「はいすみませんでしたっと、え~っと、それでその施設が魔王軍のものだという証明というか何というか、とにかく証拠の提示は受けたのか?」


「ええ、もちろんですとも、誰か例の通知を持って来なさい」


『あ、は~いっ』



 中央に座ったばあさんの命により、後ろで控えていたハーピーが1人、飛び立って退室して行った。

 どうやらすぐ横の資料室的な所で何かを探しているようだ、扉が開け放たれているためガサゴソと音が聞こえる。


 で、しばらくしてあったあったと宣言し、戻って来た彼女の手には、どこかにファイリングされていたと思しきパンチ穴の開いた1枚の紙……転移前の世界で使われていてもおかしくないレベルで、相当に高品質なものだ……



「これをご覧下さい、この『当施設は魔王軍の関係であり、付近の住民に危害を加えるものではない』という通知された文書の右上にはほら……」


「あぁぁぁっ! それは私の軍の紋章ですのっ! 詐欺ですわっ! ニセモノですわっ! 御璽はとっくに返納したんですものっ!」


「おいユリナ、ちょっと落ち着くんだ、パンツが見えていてはしたないぞ」


「はいすいませんでしたのっと、ですがこの紋章、絶対に存在するはずがないものですの、もし魔王軍が未だこの紋章が存在していることを知ったらどうなるか、正式な軍を騙るニセモノを滅ぼすために、この付近一帯を焼け野原にしかねませんわ」


「おいおい、だがΩの施設には魔王軍も絡んでいるんだろ? それでどうしてこんな気軽にニセモノなんかが登場するんだよ?」


「う~ん、それはわかりませんわね、どういうことなのか……誰が、何が目的で私の軍の紋章を用いたのか……」



 この間、おいてけぼりとなったハーピーの代表団は無視して話が進んでしまった、だが本人達は猛理解しているはずだ、魔王軍の施設など真っ赤な嘘であったこと、そしてその施設の正体が敵の、神隠しの原因であったということも。


 だがこれはかなり恐ろしいことだ、集落の者が神隠しに遭ったというのであれば、真っ先に疑われるのはそういう『新たに出来た謎のもの』とか『新参者の類』であるはずだ。


 なのにそれが『魔王軍関係』であるということを、ニセモノではあったとはいえ過去実際に使われていた紋章を添えた文書で通知しただけで全員が信じ込み、全く疑うことをしなかったのである。


 それだけ魔族領域における魔王軍の影響力、信頼性というのが絶大である証拠なのだが、だからといってこの考え方は危険すぎる、魔王軍であるということの主張さえ通ればもうやりたい放題になってしまうのだから……



「とにかくこの紋章を不正に使用した犯人を突き止めますの、魔王軍が追い詰められているこのタイミングでこの事件は非常に拙いですわ、信用失墜を防ぐためなら残った上層部は何をするかわかりませんの」


「確かにな、戦争も負けが込んできて、ついでに権威を不正に、しかも魔族を被害者にするような犯罪に使用されているなんて、魔王本人やその他残りの連中からしたら丸ごと消し去りたくなるに決まっている、もしこのことが発覚すればだが……まぁ、Ω自体が魔王軍の関与を受けているならそれもあっという間か……」



 とにかく危険極まりない状況であることは確かだということが、俺達にもハーピー達にも理解出来ている状態になった。


 ここから先の行動において、地元民であるこのハーピー達の協力を得られるのは確実だが、果たしてどれほどの戦力になるのかという辺りが問題だ。


 あまりにも弱い、そして逆に敵から狙われて足手纏いになる可能性もないとは言えないし……と、そこで会議場に1人のハーピーが飛び込んで来た。


 いつものことながら、こういう『報告!』系の方々は大変に焦った様子である。

 そして、彼女が持って来たのは間違いなくトラブルであり、その解決が俺達にゆだねられるものだ……

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