548 配下の配下に
「……で、どうやって奴を捕まえるよ? 一応防御の方は削れてきたみたいだが、それでも気持ちの悪いシルバー共が集っていやがる、まるでスズメバチとかブチ殺すミツバチみたいにな」
「まぁ、もうちょっと様子を見てからでも良いんじゃないかしら? 見たところ炎も水も、風だって効かないような相手だし、有効打になるのはバッティングだけ、だから皆がもっと数を減らすまで待ちましょ」
「そうですね、少し疲れてしまいましたし、しばらく休憩して体力を回復……というわけにもいかないようですね……」
「何か敵がパカッて開きましたよっ! クス玉みたいにっ!」
秘書官から指揮官にクラスアップしたブラッドダイヤモンドΩ、それを捕らえるために、俺とリリィ、サリナ、精霊様の『バッティングとかもう飽きた組』は作戦会議を始めていた。
とはいえ現時点ではまだターゲットに手が届きそうもない状況、ここまでの流れで遠距離攻撃は全員分試してみた結果として、特に効果が得られないことはわかっているし、それ以外の攻撃はそもそも届くことがない。
リリィや精霊様なら飛んで敵の近くまで行くことが出来るが、平気で自爆する命を持たない馬鹿の群れの中に突入するのは、いくら2人が強いとはいえ嫌であろうし、そもそもリリィに跨って行くべき俺の身が持たないのは明らか。
まぁ、他の仲間はまだまだ楽しそうにバッティングを続けているし、ボッタクリバーの従業員であるサキュバス達も、自分の店を守るため、そして何よりもダイエットのためとして俺達の作戦に参加してくれている。
俺達はこのままもう少し敵の数が減るのを待つべきだという結論に達するのは規定路線であったのだが、そこに水を指すようにして、突如敵の軍団に変化があった。
最初にその現象を発見したのは空に浮かぶターゲットをジッと見ていたサリナ、次いで特に話し合いに参加することもなく、暇そうに投石で敵を撃墜していたリリィもそれに気付く。
一部のシルバーがパカッと、本当にクス玉でも割ったかの如くそのガワを捨てたのである。
中から出て来たのはスライムというか何というか、とにかくドロドロの物体、もう意味がわからない……
「ちなみにコパー、アレはどういうことで、何がどうなってて動いていて、ついでに言うと飛んでいるんだ?」
「え~っと、アレは隠しキャラの『ドロドロイドΩ』ですね、ドロドロのアンドロイドであることからそう名付けられました」
「いや、生憎だがそういう寒いダジャレのキャラは間に合っているんだよ、で、奴はどんな攻撃をしてくるんだ」
「もちろんのことドロドロを飛ばしてきます、そして当然といえば当然ですが、そのドロドロは『女の子の服だけ溶かす』という特性を持ち合わせています、きっとこちらの戦闘員が女性ばかりだということでブラッドダイヤモンドがこの作戦を取ったのでしょう」
「うん、もう良いや……てかおいっ! 皆今の聞いたかっ!? とにかく素っ裸にされないように気を付けて……これは手遅れかも知れないな……」
狙われたのは前の方で積極的にバッティングをしていたグループ、直前に危険を察知したミラとカレン、そして気付くのが遅れたもののマーサはその素早さをもって、敵のドロドロ何とやらが放ったドロドロの飛沫を回避する。
残念なことに他はまともに喰らってしまった、粘度の高い飛沫を浴びたと同時に、まるで水性マジックで描いた落書きを落とすかのようにして皆の服がドロドロと溶解、あっという間に素っ裸にされてしまった……
「あ~あ、また服を作り直さないといけませんね、ですが今回は全員寝間着で良かったです、普段着だったら大損でした」
「おいミラ、今後の服の心配よりも今の服の心配をしてやれっ! お前の姉ちゃん素っ裸でバッティング続けてんぞ普通にっ!」
「いえ、お姉ちゃんだけじゃなくてほとんど誰も気にしていない感じですよ、ほら、逃げて来たのはユリナちゃんだけです」
「……全くしょうがない連中だな」
確かにセラだけではなく、ルビアもマリエルもジェシカも、馬鹿が4人揃って全裸バッティングを続行している、逃げて来たユリナにバスタオルを掛けてやりつつ呆れてしまった。
まぁそれ以外にもサキュバスは何ら気にせず遊んでいるのだが、奴等に関しては最初からほぼ全裸、というか全裸よりもエッチな格好をしていたので気にもならない。
「あ~あ、服が溶けるだけなら避ける必要はなかったわね」
「こらこらマーサ、寝間着だってタダじゃないんだ、粗末にすると罰が当たるぞ」
「それもそうね、じゃあもう一度アレを喰らっても良いように、ここで脱いでから戦線に復帰するわ」
「何考えてんだよお前は……」
シャツと短いホットパンツ、その下に穿いていたエッチな下着を脱ぎ捨て、マーサはバットだけを持って再び戦場、バッターボックスへと向かった。
幸いにしてここは海岸沿い、大事な部分を隠す天然の光の帯には事欠かないのである。
だが全裸になってしまったこちらを見て、指揮官以外は全て野郎、というか野郎タイプの敵軍は沸騰してしまったようだ。
……いや、これはセラ達の裸を見て興奮しているのではなさそうだ、そもそも攻撃のペースが落ちている辺り、何か他に興奮する要因となるものがあるはず。
それを探して……と、探す必要もなくすぐに発見することが出来た……
『ちょっ、ちょっと皆さん、こちらを見ていないで敵と戦って下さいっ! ねっ、私のことでしたら勝利した後にいくらでも見て頂いて構いませんからっ!』
『そんなこと言ったってな、わしらは突っ込めば自爆してそこで終わりじゃし』
『うむ、せめて冥土の土産にブラッドダイヤモンドさんのお姿を目に焼き付けておかねばの』
『いや~、やっぱブラッドダイヤモンドさん天使っす、服が溶けても天使っす』
どうやら服が溶け、全裸になっているのはこちらの女の子達だけではなかったようだ。
敵軍の紅一点、指揮官代行のブラッドダイヤモンドΩまでもが、その衣服を全て溶かされてあられもない姿を晒している。
ドロドロ野郎の攻撃時に空中で何があったのかは知らないが、おそらく連中の攻撃は爆散タイプ、下へのみあの服を溶かすドロドロが降り注ぐのではなく、周囲全体にばら撒かれたのであろう。
それがブラッドダイヤモンドの所まで到達、普通に『女の子である』との判定を受けて衣服を失うことになった、そういうことに違いない。
何ともお粗末な結果なのだが、これでこちらは非常にやり易くなった。
まず服がなくなってターゲットの中のターゲット、つまり尻に突き刺さったプラグインを狙い易くなったこと。
そして裸体を全て視界に収めるために、周りの護衛Ω共が彼女から少し距離を取ったことだ。
これであれば今でも十分に狙える、ドラゴン形態でもはや飛行準備万端のリリィに乗り込み、ワンテンポ早く飛び上がった精霊様に続く。
次の瞬間にはもうサリナが周囲に認識を阻害する幻術を張り巡らせ、空に浮かぶターゲットのさらに上へと回り込んだ俺達の姿を発見させないようにする。
ちなみにこの幻術が効く可能性はかなり高いのだという、シルバーやその他のモブΩでは幻術に掛けるには知能が低すぎるとのことだが、ブラッドダイヤモンド程度であれば十分であろうとの予測を立てていた。
『ほらっ、皆さん落ち着いて下さいっ! 敵は地上で……あら? 今のは何なんでしょうか……巨大な物体が通り過ぎて行ったような気が……』
どうやらバッチリ効いているようだ、リリィが比較的近くを、それこそ通過時の爆音や爆風を感じても良いぐらいの距離を過ぎ去ったにも拘らず、ターゲットは多少の違和感を感じているのみ。
そしてサリナの幻術が効いていないはずのシルバー他モブ軍団だが、こちらはブラッドダイヤモンドの墓に夢中でまるで気が付いていない。
もちろん若干数体、リリィと精霊様が高空へ上がる際のソニックブームで切り裂かれ、バラバラになった個体に関しては『何かが起こった』ことに気づいているのかも知れないが、それではもう手遅れである。
「よっしゃっ! じゃあリリィ、急降下して奴の背中を鷲掴みにしてやるんだ! 精霊様は足を押さえて、もちろんすぐにオープン出来るような感じでな」
『りょうかいで~っす!』
「OK、じゃあ早速いくわよっ!」
並んで急降下するリリィと精霊様、ターゲットに接触する直前に俺が聖棒を振るい、周囲の雑魚敵を蹴散らしておく。
そのときの風圧によってようやくこちらの存在に気付いたターゲット、驚き、目を見開いたと同時に、その姿勢のまま、もちろん全裸のままでガシッといかれた。
2人はほぼ速度を落とさず、掴んだターゲットをそのまま砂浜へ、とはいえ最後の一瞬のみ少し抵抗を持たせて勢いを殺し、その掴んだ全裸魔導兵器のボディーを地面に押し付ける。
「はっ、離して下さいっ! 私は指揮官であって戦闘要員ではないのですっ! それにもし私を破壊すればどうなるか、怒りでオーバーヒートを起こした配下のΩが凄まじい規模の爆発を巻き起こして……」
「はいはい、別に壊したりはしないから安心しろ、だがな、お前の尻にインストール……てかインサートされている『プラグイン』だけは頂くことに決めているんだ、少し恥ずかしいかもだが我慢してくれ」
「え? 嘘……そんなっ、待って、そんな格好にされたら……はうぅぅぅっ! 抜かないでっ! それを抜かれるとΩの指揮権が……アヴッ……」
うつ伏せに押し付けたブラッドダイヤモンドの足をガバッと開いてやると、尻のど真ん中の部分に赤く輝く宝石のようなもの。
それに手を掛けると途端に暴れ出したが、リリィと精霊様に制圧されている以上身動きなど取れようはずもない。
そのまま赤い宝石を、まるでボルトでも外すが如く捻り、そして抜き取る……スポンッと外れたのは宝石の先に何やら鉄の玉が付いたようなもの、まるで赤ん坊のおしゃぶりだ。
「……これがプラグインとやらか、ちなみにお前、今適当に抜き取ったけど大丈夫ではあるんだよな? データとか消えたりしてない?」
「あうぅぅぅっ! わ、わた、わっ、私はだだだだ大丈夫ですけど……ちょっともう恥ずかしくて思考回路がっ!」
「そうか、ならそのうち元に戻るな、しばらくそこで大人しくしているんだ、で、これをコパーに……」
「はいどうぞ、もう準備万端で待機しております」
「尻丸出しで偉そうにしてんじゃねぇっ! でもとりあえずいくぞっ……って、これはちょっとサイズが合わないんじゃ……」
「ええ、ブラッドダイヤモンドのボディーは私と同じベースだと思いますが、『プラグ挿入口』の方はバージョンアップしてガバガバになったんだと思います、気にせず詰め込んで下さい」
「ガバガバとか言ってんじゃねぇっ! じゃ、じゃあいくからな、ちなみに後で文句言ったり訴訟を提起したりし手も取り合わないからそのつもりで」
「構いません、さぁ早くっ……くっ、そんな……キツ……はうっ、ヴァッ……」
明らかに口径の狭いコパーの『プラグ挿入口』、まるでスマホの充電口に通常のUSBを差し込もうとしているかのようだが、コパーのボディは人間と同様、柔らかくて良く伸びるので大丈夫ではある。
その挿入口に敵から奪ったプラグインが無理矢理に捻じ込まれると、つい今の今まで思い出したかのように突撃を繰り返していたシルバーを始めとする敵の動きが停止した。
バットで敵を打ち返す軽快な音も響かなくなり、真昼間の海岸は、滞空するΩの群れの飛行音だけが響き渡る何とも言えない空間となる。
その微妙な空気を打ち破ったのは、尻にプラグインを捻じ込まれ、四つん這いで悶絶していたところからようやく立ち上がることが出来たコパーであった……
「……この場に居る全Ωに告ぐ! 我の指揮下に入れっ!」
『ウォォォッ! コパー様だ、コパー様の爆誕だっ!』
『わしらは今まで凄まじい勘違いを犯していたんだっ! 本当に敬愛すべきはあの全裸女ではなくコパー様だったんだっ!』
『コパー様万歳! これから一生付き従いますぜっ!』
「おいおい凄まじい効果だな、さっきまでブラッド何ちゃらのことを女王様みたいに扱っていたくせに、あの変な装置ひとつ乗せ換えただけで今度はコパーが女王様だ」
「なんて言うか、ちょっと悲しい魔導兵器よね、こんな風に自分の意思とか思想信条すらもコントロールされちゃうなんて」
「ああ、人間だったらもう生きている意味がないもんな、だがこいつらは魔導兵器なんだ、それにはそれなりの幸せってものがあるんだろうよ、すげぇキモいけどな」
尻に違和感を感じ、びっこを引きながら歩くコパーと、地上に降り立って整列、そして土下座するΩの群れ。
一部は砂浜に並び切れず、海に着陸? 着水してそのまま沈んでしまったようだが、それでもかなりの数が『コパーの配下』としてこの場に存在している。
そして俺は認めていないのだが、コパー自身はもう『俺の配下』のつもりでいるのだ。
親会社の親会社が実質的な親会社であるように、支配者を支配する者、即ちΩ共にとっての俺も支配者に他ならないということが言える。
つまり、これをもって俺は、俺達は大規模な戦闘に勝利、さらに大量モブΩの指揮権を獲得したということだ。
「それで勇者様、こいつらはこれからどうするの? 使う? それともスクラップにしちゃう?」
「もちろん使うさ、いや使い潰すというのが正解かもな、扱き使って散々な目に遭わせて、最後は屑鉄としてその辺の工場に売ってしまおう、てかセラ、いやセラだけじゃないが、とりあえず服を着ろ」
「あら、うっかり忘れていたわ、海辺で誰も見ていないから素っ裸でも大丈夫だとは思うけど、勇者様がエッチな目で見てきて困るからパンツぐらいは穿くわね」
「いや、そこは服は着てもあえてパンツだけ穿かずに……」
と、セラをノーパン変態女に育成するのは後にして、ついでにもはや脅威ではなくなった、コパーに付き従うだけのモブΩ共も別にどうでも良いとして、未だにリリィと精霊様の2人によって砂浜に押さえ付けられているブラッドダイヤモンドΩに絡んでやることとしよう。
プラグインを抜き取られた後、しばらくは暴れ、拘束から逃れようとしていたのだが、もはや大人しくなり、今は先程されたばかりのとんでもなく恥ずかしい行為を思い出して絶望しているようだ……
「うぅっ、もう恥ずかしくて顔を上げることが出来ません、どうかこのまま一思いに破壊して下さい、後生ですから……」
「それは出来ない相談だ、俺様は慈悲深いゆえ、可愛い女の子であればたとえそれが人でなかったとしても、そして魔導兵器であったとしても徒に命を奪ったりはしない、だがこの後のお前の態度次第ではだ、さっきのアレよりもさらに何十倍も恥ずかしい目に遭わせる、想像出来ない次元のな」
「ひぃぃぃっ! それだけはどうかご勘弁をっ!」
「じゃあ何でも言うことを聞くか? というかこの場で降参して捕虜……じゃなくて鹵獲兵器にでもなるか?」
「なりますっ! 二度と逆らったりはしないと約束しますので、どうか恥ずかしい目に遭わされるのだけはご容赦を……」
「よろしい、ではリリィ、精霊様、そいつを離してやってくれ」
リリィが足を退かし、精霊様も手を離してやったところ、ブラッドダイヤモンドΩは飛び掛るようにして俺の前に土下座した。
これで完全に制圧完了だ、この砂浜には俺達に敵対する者が1人たりとも居ない、実に平和な場所となったのだ。
さて、この先はせっかく獲得したΩ共を使い、海沿いの町を蹂躙……いや、その前にもっとやるべきことがあるではないか、せっかく立ち上げた反勇者系新組織(偽)、それの信者を集めるのにΩ軍団を有効活用させて頂こう。
もちろんビジュアル的にはアレなので、前回ティッシュ配りやポスター貼りをしてくれたロリー隊(予備役)のような効果は得られないはずだ。
だがどれだけの数になるのか考えるのも面倒な次元の大量Ω軍団、それはサクラとしても、また搭載されている戦闘能力をフル活用し、対象を取り囲んでの強引な勧誘にも使える。
つまり、個々の力はそれほどではないにしても、チームとして動かすことが出来れば絶大な効果を発揮するに違いないということ。
早速明日から『信者集め』および『金集め』に導入していこう、ついでに邪魔をしてきそうな敵対組織の構成員を殺害するなどにも使ってみよう。
「よしコパー、お前は明日からもこの軍団のリーダーとして雇用してやろう、残念ながらメイドではないがな」
「はいっ! これからも精進して、いつの日かメイドにランクアップ出来るよう、というかまずは『ゴミ奴隷』ぐらいまでは昇進出来るよう頑張りますっ!」
「うむ、お前の実力であれば『ゴミ奴隷』になるまで10年も掛からないであろう、そこまでいけばもう『モノ』ではなく『ヒト』だ、目標に向かって突き進むが良い」
「へへーっ! あり難きお言葉を拝聴致しましたーっ!」
「そしてお前、え~っと、ブラドダイヤモンドか、面倒だから赤ダイヤとでも呼んでおこう、お前もコパーほどではないがまともな扱いをしてやるから安心しろ」
「ははーっ! 私も10年後にはせめて『服を着て良い権利』を得られるよう努力して参りますっ!」
「そうだな、10年後には再び衣服を身に纏うことが出来ていると良いな、だがその前にだ、5年後には『Tバックだけ着用する権利』を獲得出来るよう、それを目標として進むのがベストだ」
「承りましたぁぁぁっ!」
コパーと赤ダイヤの2人、ではなく2体に関しては、適当にいい加減なことを吹き込んで騙し、信じられない次元の最下層からそのセカンドキャリアをスタートさせることとした。
これは俺達と敵対した罰でもあるのだが、頃合を見計らって、特別昇進などのこれまた適当な理由を付してまともな扱いにする、即ち許してやることとしよう。
とにかく今回で手に入れたΩ軍団をこの2体を中心に操り、敵である反勇者、反王国の馬鹿共から、自由と財産、生命に至るまで毟り取っていくのだ。
特に財産の搾取はサキュバスボッタクリバーとの二段構え、これは効率的に戦い抜くことが出来そうである……




