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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第四章 殲滅作戦
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544 修理屋

「……え~っと、これで資料は全部ですかね、かなり細かくまとまっていて非常に良いと思います、ということでどうぞ精霊様」


「マリエルちゃんが読めば良いんじゃないの? ほら、早く中身の説明を」


「いえ、文字が多すぎて読めません、もっとこう、絵日記的な感じで説明してくれないとダメなタイプなんですよ私は」


「どうしようもない王女ねホントに……」



 砦から送られて来た今回の敵、シルバーΩに関する調査報告書、さすがはついこの間まで砦で魔導兵器として使われていただけあり、女性指揮官はかなり多くの情報を送って寄越した。


 その資料は通常伝書鳩では送らない程度には分厚く、全てに目を通すにはかなりの時間を要する、かつ何人かのメンバーは既に拒否反応を起こし、セラなどは意識を失い、マーサも目を逸らす。


 正直な話俺もあまり見たいとは思わないのだが、ここにシルバーΩの弱点、修理屋に関する情報が満載されていると考えると、開く前から躊躇していてはいけないということが言い得る。


 ということで早速確認していこう、マリエルに代わって座長的ポジションに就いた精霊様が分厚い書類の束をいくつかに分け、そのうちひとつを広げる……



「じゃあここからは長丁場ね、まずこの資料は……『Ωシリーズの折込チラシ』ね、1体金貨200枚だって、高すぎるわよあんなのに……」


「ほう、なになに……『各国の軍隊、傭兵、悪の組織にベストマッチ、より人間的で、一般戦闘員の中にバッチリ溶け込む使い勝手の良い魔導兵器です』だってよ、舐めてんのかマジで……」



 より人間的なのは構わないが、ゴールドは風呂を覗いていたし、シルバーに関しては勝手に砦から脱走、今は俺達、つまり王国側の敵として対峙させられている状況。


 そんなモノを1体当たり金貨200枚も出して購入した王国の中枢、おそらく駄王やババァ総務大臣も決裁の判を押しているのだと思うが、果たして庶民の血税を何だと思っているのか、これは公にして糾弾すべき事案である。


 で、折込チラシに記載されたΩシリーズのひとつ、『シルバー』に関してもその中に詳細な説明があった。


 シルバーだけに老人タイプで、数百のパーツを自由に組み替え、自分好みの戦闘ジジィ、または執事ジジィを造り上げることが出来る、創作好きのお客様にもご満足頂けるタイプであるとのことだ。


 もちろん注意書きとして、高い技術を持った修理屋、組立屋等が必要になってくるため、ご利用の際にはそういった人員も確保して頂きたいとの記載がある。


 きっと王国側も当初はその人員を用意し、それでシルバーΩの導入を決めたのであろう、砦に居たゴールドの方はどうなのかわからないが、少なくともその2体をどうこうするオペレーターが存在していたはず……



「え~っと、これはつまりアレよね、ゴールドΩとシルバーΩを維持管理するための人員が居たのは間違いないわよね、で、それは奴等と一緒に砦へ送られたんじゃないかしら?」


「どうだろうな、ゴールドにしろシルバーにしろ廃棄処分同然の扱いであの砦に移送されたはずだ、使えないってことでな、だがオペレーターの方はそんなことが出来る人間だ、相当に優秀な人材だろうよ、いくらなんでもそれをあの掃き溜めみたいな所へ追いやるってのは……」


「うむ、主殿、精霊様、それは部下の扱いとして非常に拙いぞ、やむを得ない理由があったにしても本人からしたら、そして傍から見ても閑職に追いやられたとしか思えないからな、突然自己都合退職してしまう原因になる」


「だよな、だとしたらオペレーターはそのまま、まぁきっと王都の研究所かどこかの人員だろうな、それは送らずにあのポンコツだけを砦に捨てたと、その可能性が高そうだな」



 Ωシリーズはポンコツのゴミ、そして導入当初そのオペレーターを任されていたのは失い難い優秀な人材。

 その構図は間違いないはずだ、きっと本人は奴等の性能の低さに絶望し、嫌になっていたに違いない。


 まぁ、もちろん戦闘力や運用の自由度では、シルバーΩに関してだがそこそこ優秀である。

 だが致命的なのはその行動、風呂を覗いたり脱走したり、敵として俺達の前に立ちはだかる魔導兵器など恐ろしくて手元には置いておけないのだ。


 それで王都やその他の重要な地域での運用を諦め、砦という名の付いたゴミ箱に放り込んだのであろうが、やはりそこに『優秀なオペレーター』を同伴させることは考えにくく、まず間違いなく単品で送付したはずである……



「でもご主人様、それだと砦に移送された以降の保守管理は誰がやっていたのか、それが気になりますわ、放っておけば錆だらけになって稼動しなくなると思いますし、少なくとも誰かが弄っていたはずですの」


「うむ、確かにそうだろうがあの砦のことだ、汚ったねぇおっさん兵士が屁でもこきながら適当に弄り回していたんだろうよ、それで余計に壊れたのかも知れないがな」


「まって、それに関する記述は次の資料にありそうだわ、砦におけるΩ2体の運用報告書みたいなの、今の指揮官じゃなくて前のデブが作成したやつみたいだけど」


「ほうほう、あのデブの手垢が付いた資料か、本来なら汚くて触れたもんじゃないが、きっとしっかり消毒等してあるんだろうな、ちょっと見てみようぜ」



 お次は俺達が最初に砦に行ったときに指揮官として登場したデブの報告書。

 ちなみにそのデブは既に処分されており、今頃は流されたドブで微生物の養分になっているはずだ。


 で、そのデブが遺した報告には、ゴールドとシルバー、それぞれのΩに関しての運用実績、それから生じたトラブルが……いや、実績はこじつけでトラブルはホンモノのようだ、本当に奴等の使えなさが滲み出ている文書だな……



「じゃあ最初から見ていきましょ、まずはえ~っと、『○月×日、本日付で王都からゴールドΩおよびシルバーΩの運用権限が移管された、だがメンテナンスをする者が居ない、というか動かし方がわからない、必死になって起動方法を探るものの、ウ○コしたくなってきたので後回しだ、明日から本気で対処していこう』だって、次の日も、その次の日も似たような感じね、本当に無能なデブだったのねあのデブは」


「やっと動き出したのが1週間後か、遅すぎるぞあのデブ、それで、動き出した直後に……暴走して周囲に居た兵士10人を殺害したのか、原因はシルバーの方か、戦闘パーツばかり搭載されていたんだなきっと」


「その後もムチャクチャね、ゴールドの方はエッチな本を500冊読破した以外の実績がないし、シルバーの方はその後メンテナンスが出来なくて機能停止って……あっ、脱走の記述があるわ、しかも部外者の手引きだって」


「おう、それだそれだ、結局保守管理が不能で動かせなくなっていたところを、その部外者とやらが勝手に直して連れ出したんだな、次はそっちの方の詳細を見てみようぜ」



 やはりオペレーターは2体と一緒に砦へ異動したわけではなく、あの故デブ指揮官がどうにかして稼動させようとして結局失敗、ゴールドは動いていたものの、肝心のシルバーは完全に停止していたということがわかった。


 それを、どこからともなく侵入した何者かが修理し、そのまま砦から連れ去った、つまり脱走の手引きをしたというのだ。

 で、その『謎の修理屋』に関する情報はまた別の資料、『シルバーΩの盗難と除却に関する報告書』にまとめられていた。


 もちろん犯人である修理屋の人相書きも収録されているらしいその報告書、目次から該当のページを引き、そのままパラパラと捲っていく……



「あったわっ、これがその修理屋……って女の子なのね、もっと気持ち悪い顔のおっさんなのかと思ったわ」


「あれ? ちょっと待って下さい、この顔はさっきの資料の中で……」


「どうしたミラ、資料の中に図が入っていたのは最初の折込チラシぐらいのものだぞ……ってまさかっ!」


「そのまさかです、この赤毛の女の子、商品紹介の中にあった『コパーΩ』ですよっ!」



 シルバーΩを連れ去った、いや持ち去った犯人として手配書に書かれていたのは赤毛の、メイド服に身を包んだ少女の姿。


 ミラの指摘ですぐに戻った最初の資料には、右下に小さくではあったが、『待望のメイドさんタイプ登場!』とのことで、その少女と完全に一致する『コパーΩ』の挿絵が入っているではないか。


 そして折込チラシの中には新商品であるそのコパーΩの紹介に特化したものも含まれているようだ。

 早速そちらの資料を開き、今や『修理屋』であることが確実視されるに至ったその商品の詳細を探り始める。


 まず、このチラシは王都ではなくこの大陸で配布されたもののようで、チラシには主に駐留している王国軍、そしてレジスタンス、さらには敵である反勇者、反王国組織に売り込むかたちで構成された宣伝文句が踊っていた。


 対立関係にある両者に兵器を売りつけるのは死の商人にとって普通のことなのであろうが、ここまでストレートに『敵にも売っています』感を出して果たして大丈夫なのであろうか? まぁ、その方が焦って自分達も導入しようという気になるのかも知れないが。


 とにかくコパーΩに関しての記載を順に見ていくと、どうやら戦闘タイプではなく、それこそ普通にメイドとして扱える仕様だということがわかった。


 つまり軍にはあまり向かない、指揮官付きの秘書としてぐらいは使えるかも知れないが、いざというときに戦ってその指揮官を守ることが出来ないのは致命的、これは王国軍も導入していないはずだ……



「ふ~ん、きっと戦えないから全商品の中では扱いが小さいのね、マニア向けってやつなのかしら?」


「そうだな、それで……おい皆、これ見てみろっ!」


「どれ? あ、『こんなお客様に導入して頂きました!』の欄ね、それがどうか……あらぁ~」



 さりげなく見たコパーΩの導入実績欄、そこで肖像画付にて紹介されていたのは見覚えのある顔、先日の作戦で最初に襲撃し、訪問者と揉めて殺人事件を起こしたのをバッチリ見た後にそれも殺害した、そして何よりもシルバーΩの雇い主であったあの組織リーダーの顔である。


 そこにはメイドとしてコパーΩを導入したこと、普通のメイドと遜色ない見た目や行動をするものの、やはり生身の人間とは違って休みなく、24時間フルタイムで働いてくれるなどのメリットが紹介されていた。


 ということはつまり、手配書にあるコパーΩはここの魔導メイドとして導入されており、何らかの目的を持って、砦で勝手に修理したシルバーΩを屋敷に持ち帰り、それがそこの執事として同じく導入された、そうである可能性が非常に高い。



「やれやれ、これで話が繋がったな、全部あの野朗の屋敷の中で起こっていたことなんだ、鬱陶しいシルバーも、そしてあのときにはコパーもどこかに隠れて俺達をやり過ごしていたに違いないぞ」


「そして今もあの屋敷に居るはず、主は死んだのかも知れないけど、だからといって魔導兵器風情が自分でどこかに行けるとは思えないわ、たとえ生物と同じ感情を持っていたとしてもね」


「てことはだな、シルバーの方も当然コパーの居る場所に戻ったってことで良いんだよな? じゃあすぐに行って始末しようぜ、2体まとめて鉄筋にでも加工してやろう」



 ということでサキュバスの店を出た俺達は、そろそろ暗くなってくるであろう海沿いの町に、フードを被った怪しい宗教団体風の集団として潜入、完全に日が落ちるのを待って例の屋敷へと忍び込んだ……



 ※※※



「……随分片付いてんな、あれだけ居た護衛の兵士もゼロだ」


「一応事件現場は保存されているみたいね、でも2体のΩも今は居ないような気がするわね……」



 侵入した例の屋敷、そもそも俺達が創り上げた『物盗りの犯行』を装う事件現場であるがゆえ、おそらくは死んだこの屋敷の主が頭を張っていた組織によって調査がなされている最中である。


 もちろん通常それは憲兵の仕事なのだが、残念なことに不法者だらけのこの町にそんな上等な組織はない。

 ゆえに『頭を殺られた』組織は自分達で犯人を捜し出し、それを捕らえて復讐を遂げるのだ。


 で、その調査中の屋敷には人影が見当たらない、兵士も雇人も、そしてシルバー、コパー両Ωの姿もどこにもないのであった。

 アテが外れたか、だが奴等がついこの間までここに居たのは確かなこと、何か遺留品がないか探すぐらいの価値はあるはずだ……



「じゃあ早めに動こう、そのうちに敵の調査班みたいなのが戻って来るだろうし、それまでに手分けして探そうぜ、俺は事件現場の部屋、それからその隣がセラで、それからそれから……」


「可能性が高いのは勇者様の所と地下の倉庫ね、その2つにカレンちゃんとマーサちゃんを入れて細かい遺留品を探りましょ」


「おう、じゃあカレンを借りよう、行くぞっ」


「は~い、色々と嗅ぎ回ってやりますよ~っ」


「その言い方は何だか引っ掛かる部分があるからやめなさい……」



 ということでカレンと2人、事件現場となり、この屋敷の主ともう1人が死亡した部屋を探り始める。

 タイムリミットは敵の登場、気配を察知したらすぐに、こちらの姿が見られないうちに退避しなくてはならない。


 こんな所で騒ぎを起こし、次回以降の侵入が極端に難しくなるような事態は避けたいのだ。

 俺は前回も漁った部屋を証拠が残らぬよう丁寧に探り、カレンはそれらしき臭いがないかを確かめる……



「スンスン……スンスンスン……あっ、ご主人様、何だか向こうの方から油みたいな臭いがしますよ、食べられるお肉の脂とかじゃなくて、もっとこう、何というか……馬車の車輪の軸みたいな……」


「むっ、それはもうアレだろ、Ω共のボディーとかその内部に塗ってある油だろ、で、それはどっちからだ?」


「え~っと、え~っと、この本棚からです、というか隙間から漏れてますね」


「本棚の隙間から? いや、これは間違いない、何らかの仕掛けでこの本棚自体がガーッと動いてブァーッとなって、その向こうにワァーッとなった空間があってだな……まぁよくわからんがそんな感じだ」


「わかりましたっ、じゃあ皆を呼んで来ますねっ!」


「今のでわかったのかよ……うむ、だがとりあえず呼んで来てくれ、ダッシュでな」



 トットットッと走って行ったカレン、しばらくすると全員の足音と共に戻って来る。

 その間、俺は本棚をガーッと動かすための仕組みを探っていたのだが、どうにもこうにも見つからない。


 そのまま部屋に入って来た他のメンバーも一緒になって部屋中を捜索するも、一向にその仕掛けが何なのか、そもそもリアルに本棚がガーッとなるのかどうかさえわからないままだ。


 頼りにしていたカレンとマーサの聴覚や嗅覚も、ふざけて遊びつつ何かを発見することが多いリリィのラッキーも、そしてマリエルの観察眼もサリナのそういう系に関する知識も、どういうわけか今回に限ってはまるで発揮されないまま時間が過ぎる。


 そうこうしているうちに夜になり、明かりを点けなくては何も見えない状況となった。

 だがこの場で部屋が明るくなるのは非常に拙い、たまたまそれに気付いた敵の構成員が不審がって様子を見に来る可能性が高いのだ。


 それを避けるため、ユリナの尻尾を火魔法で軽く光らせただけの小さな明かりを灯し、部屋の隅々まで入念に、本当に僅かな隙間や出っ張りまで確認していくも、やはり仕掛けのようなものは発見出来ない。



「……っと静かに、誰かここに近づいて来るわよ、3人……全部人族で弱っちい奴等よ」


「やれやれ、こりゃ完全にタイムリミットだな、おそらく接近しているのは敵だろう、さてどうするか、ずらかるか隠れるか、どっちにすべきだと思う?」


「勇者様、3人なら単なる巡回のような気がするわ、ここは隠れてやり過ごすべきだと思うわよ」



 セラの主張に全員が肯定の意思表示をしたため、そのまま部屋の中に隠れてやって来る敵が巡回を終えるのを待つことに決まった。


 接近していた3人はやはりこの建物へ入って来た、俺達はそれぞれ思い思いの場所で息を潜める。

 俺はルビアと一緒に部屋にある机の下へ、詰め込まれるようにして隠れたのであったが、もう狭くてパンパンだ。



『おいルビア、もうちょっとそっちへ詰めてくれっ』


『これ以上は無理ですよ、もうスペースがありません』


『全く、おっぱいがデカすぎるんだよお前は、まぁ普段はそれで良いが、こういうときには困るよな……と、敵が入って来るぞ』



 ルビアと押し合い圧し合いをしているところに扉が開き、明かりを持った3人組が部屋へ入って来たのがわかる。

 というか入り口からまっすぐこの部屋へ向かったようだ、何かを探しに来たのか?



『あれ~っ? 何もないっすね、確かに明るかった気がするんすけど……』


『だから見間違いだって言ってんだろ、それか死んだ代表やもう1人の知らないおっさんの霊でも出たんじゃないのか?』


『そうだぜ、シルバーの予備パーツを受け取りに行ったΩ共がこんなに早く帰って来たとも思えないし、ほら、本棚も開いた形跡がないじゃないか』


『ホントだ、もしも~っし、奥にも居ないか、な~んだ、やっぱり俺の見間違いだな、もう帰りやしょうぜ』


『全く人騒がせな野郎だぜ、次余計なこと言い出しやがったら殺すからなっ!』


『マジっすか⁉ いや~、俺反撃しちゃいますぜ、返り討ちになりますぜ、それでも良いっすか?』


『おう、上等じゃねぇかっ! 帰ったら早速決闘だなっ!』



 3人組は何やら物騒な話をしながら帰って行った、ああいう連中のことだし、このあとガチでどちらかが死亡するまで戦うのであろう。


 だが今問題となるのはそこではない、会話の中からかなりの情報を得ることが出来たし、何よりも最後の最後、軽いノリの男が普通に手を掛けた本棚、それはガラガラッと、普通にスライドしてオープンしたのであった。


 まさか手動式だとは思いもしなかったぜ、奴等がここから十分に離れるのを待って行動を再開しよう。

 念のためあの本棚の向こう側を調べておくのだ、あとは『予備パーツ』とやらを取りに行ったというΩ2体の帰りを待つのだ……

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