541 準備はバッチリ
「おう、なかなか良い感じのポスターだな、それが草案か?」
「そうよ、おっさんを集めるなら可愛い女の子の絵が描いてあった方が良いと思って、これでどうかしら?」
「うむ、本当に素晴らしいが、欲を言えばこの女の子の絵、もっとこう、パンツが丸見えになっていた方が……」
「本当にいやらしい異世界人ね……でも勇者様がそう思うならそうなのよね、ここに居る中で今回のターゲットになる薄汚いおっさんに最も近い考え方を持っているのは勇者様だもの」
「おいコラ、いちいち聞き捨てならんことをを言うんじゃないよ」
敵を壊滅に追い込むため、全てを吸い上げる巨大組織を創り上げるべく、まずは新進気鋭のベンチャー団体らしき何かを立ち上げることに決めた俺達。
内容を盛りに盛ったポスターにエッチな女の子が描かれ、それを敵である他組織の構成員が跋扈している海沿いの町にて、大量に頒布することによって人目に付こうという作戦である。
まぁ、元々そんなものに引っ掛かる可能性がある馬鹿はズバリ馬鹿なのだから、誇大広告を見て怪しいなどとは感じず、信じ込んで興奮するに違いない、この辺りは陰謀論者と同じやり方で通るはずだ。
ポスターの作成は進み、それを大量に複写してポケットティッシュに取り付け、担当者のアイリスはボーっとしているが非常に手際が良い。
同時に壁に貼る巨大なものも生産し、筒状に丸めて一箇所にまとめておく。
500枚程度出来上がったら馬車に積み込んで出発の準備だな……
「ん? 何だセラ、1枚出来たらそこからは活版印刷でどんどん作っていけば良いだろうに、どうしてまだ原画を描いてんだ?」
「これはポケットティッシュ100個に1個付いてくる超プレミアム、特別バージョンのポスターよ、女の子のチラリしているパンツの色が白じゃなくて黒なの」
「……で、それを受け取ると何か凄い効果があるのか?」
「入会金が金貨10枚のところ、特別に7枚になるの、お得でしょ?」
「端からそんなに取るつもりだったのかよ……」
ここで初めて聞いた『入会金』の話に呆れつつ、とりあえず特別ポスター(配布版)の作成のみは容認しておく。
というか金貨10枚もの入会金は逆効果だ、最初の障壁は低く、継続するにあたってドンドン金を奪うのが詐欺の基本なのである。
最初の時点で異常な金額を請求してしまうのはナンセンス、入会時はタダでいくのがもっとも効率が良いのだ。
などと考えながら作業を、一切何も手伝わずに眺めていると、シャキシャキと作業していたアイリスがあっという間に規定の枚数を刷り終わる……
「は~い、出来ました~、これで言われていた分は全部完成です~」
「おう、でかしたぞアイリス、てかお前単純作業においては神以上だな、1枚あたり0.3秒で複写していた計算だぞ」
「あら~、ごめんなさ~い、少し遅くなってしまったみたいですね、本当は1枚0.00002秒でやるように訓練されたんですが~」
「その速度だと摩擦熱で発火すんぞ……」
有能アイリスさんは奴隷なので金銭ではなく、ご褒美用の巨大なロリポップを口に突っ込んで褒めておく。
それで満足してくれるので大変にあり難いことなのだが、さすがに申し訳ないので今度可愛い服でも買ってやろう、もちろん経費で落とすがな。
ということでポスターは完成し、町中の壁に違法に貼り付けるタイプ、街頭で違法に頒布するタイプに分けて、砦が提供してくれた複数台の馬車へ積み込む。
出発は翌朝、ロリー隊(予備役)で作戦に参加してくれる子はちょうど10人、危険な目に遭うことがないよう監視しつつ、作戦の取っ掛かりを担って頂くこととしよう……
※※※
数日後、俺達の馬車、そして砦の『公用車』たる6人乗り馬車が2台で海岸沿いの町、即ちこの旧共和国領で最も大きく、かつ敵の構成員たる馬鹿共の数が多い、というか住民の大半がソレである町のすぐ近くまでやって来た。
俺達の馬車は目立たぬよう少し離れた森の中で待機だ、ここから先は女の子が乗り込み、御者も砦から派遣された、ついこの間救出したばかりの女性兵士が務める馬車2台で進み、町へ突入する予定である。
「よっしゃ、ここからはお前等だけだからな、人攫いとか多いと思うし、気を抜かずに常に警戒しておけよ」
『は~い』
「まぁ何かあったら私達がどうにかしてあげるけど、些細なトラブルであれば自分で解決しなさいよ、わかったわね?」
『は~い』
「本当に大丈夫かな……」
おそらくは常にちやほやされ、甘やかされて育ったのであろうロリー隊(予備役)の面々、まともに『労働』をするのはこれが初めてではないのか? 上手くやれるか、サボらずにしっかり動くか、非常に心配なところである。
「じゃあ午前と午後でポスター部隊とティッシュ配り部隊を5人ずつ交代することにしよう、ポスターの班もキモい変態のおっさんから声を掛けられたら、いちいち通報したりせず笑顔で答えるんだぞ、そういう細かい積み重ねが顧客の獲得に繋がるのだ」
『は~い、じゃあ行ってきま~す、ロリー隊(予備役)、出動よ』
『わぁぁぁっ!』
「行ったか、じゃあ精霊様は上空待機、もし何かトラブルがあったら連絡を、それから俺とセラで変装して町へ潜入だ」
「じゃあサリナちゃんの幻術も使いつつ、勇者様はキモ豚クズニートに私はお腹を空かせた貧乏な少女に変装よ」
「お姉ちゃん、それなら2人共一切変装する必要がないわよ、というか勇者パーティーであることがバレバレになるわ」
「そうかしら、じゃあ勇者様はイケメンに、私は貴族のご令嬢に変装することにしましょ、それでどう
?」
「うん、それなら『実態』と真逆だから完璧よ、特に勇者様は絶対に気付かれないわ」
「おいミラ、お前後で覚悟しとけよ」
ミラにどうお仕置きしてやるかはともかく、変装して町へ潜入するのには注意が必要だ。
もちろんサリナの幻術によって正体を認識させ辛くはするのだが、それが通用しない相手が町にはわんさか居る。
もちろん幻術に耐性があるとか、観察眼が凄くて違和感に反応してしまうとかではない。
あまりにも知能が低く、幻術を受け付けない次元の馬鹿がいる可能性が高いのだ。
サリナの幻術はある程度の知能を持った生物向けであり、通常の人間、それから人語を解する魔物レベルになれば効果を発揮するのだが、わけのわからない団体に騙されてお布施をするような輩の知能はイモムシ並み。
とてもではないが『人間用』の術によってどうこう出来てしまう対象ではなく、それゆえ視覚情報に訴えるような物理的な変装も同時にしておく必要がある。
ということで俺はイケメンに、セラは貴族令嬢に……スカートの端を踏ん付けて転倒しやがった、ジェシカに服を借りてパンツスタイルで行動させた方が良さそうだ……
「ちょっとっ、どうしてズボンってのは裾がこんなに長いのよっ!」
「セラ殿、それは足の長さが……いや、何でもないぞ」
「おいセラ、なんだか凄くダボダボなんだが、その後ろの部分にはちゃんと尻が入っているのか?」
「入ってるわよっ! すっごく小さくて貧相なのがっ!」
「これは新しいものを買った方が良い気がするのだが……」
ジェシカの服では到底セラのサイズにマッチしない、というか子供が大人の服を着て遊んでいるような状況である。
ズボンの尻も、そしてシャツの胸部分も大幅に布が余っている、もはや中身がない空洞のオバケだ。
ということで精霊様が合図でロリー隊の1人を呼び戻し、セラに合うサイズの服を町で購入させた。
おそらくは服屋の店主も反勇者、反王国を掲げる敵なのであろう、そのような輩に金を払う結果となってしまったのはセラのおっぱいが小さいゆえだ、後程キッチリ責任を取って頂きたい。
「もうっ、何だかすごく歩き辛いわっ!」
「我慢しろ、じゃなくて我慢して下さいましお嬢様、あと汚い言葉遣いは禁物だぞ」
「あら、ごめんあそばせ、オホホホッ、ってそんなの出来るわけないでしょっ!」
「セラにお嬢様はまだ早かったようだな……」
隣に居るだけで貧乏臭が漂ってくるセラと、鏡を見なくともイケメンではないことがわかる俺の組み合わせ、もちろん変装済みなのだが、それにしても違和感たっぷりの組み合わせである。
とにかく町へ入り、まずは作業中のロリー隊を監視していくとしよう、サボっていたら容赦なく棒切れで引っ叩く心づもりだ。
最初に町の入り口付近のポケットティッシュを……早速ゴミとして捨てられているではないか、いやポスターではなくティッシュがだ、同封した絵は持ち去られている。
ついでにその辺の壁に貼り付けたポスターがちょうど剥がされているところではないか、早速非合法に街を支配する役人の類に発見されたのか? いや、奴はどう見ても一般人にしか思えない。
「ちょっと勇者様、アイツどうにかしないとよっ!」
「待て、今ロリー隊が1人そっちへ行ったぞ、しばらく様子を見よう」
せっかく貼り付けたポスターを剥がされ、慌ててその剥がしている男の所へ向かうロリー隊のメンバー、というかあの子はミヤツコのジジィに拉致された最年長の子だ、さて彼女はどう対応するのか……
『すみませ~んっ! そのポスター、私が貼ったものなんですが……何か問題でもありましたでしょうか?』
『グヘッ、グヘヘヘッ、こここっ、このポスターもすっごく良いけど、お姉さんもすっごく良いんだな、オラの家においでよ、昨日雨だったからちょっと湿ってシナシナになってるけどさ』
『あ……あの……え~っと、仕事中ですんで、それとポスター、返して頂けませんか? 一応町の皆様全員にアピールしたいものなので……』
『グヘヘヘッ、じゃあオラの家で遊ぼうね、ダンボールの屋根にダンボールの壁、ダンボールの床がキミを待っているんだよっ!』
『ちょっ、あのっ、イヤァァァッ! 変態に攫われちゃうぅぅぅっ!』
生まれてこの方風呂になど入ったことがないのは確実な汚い手、それで肩口をガッシリとつかまれてしまった美少女。
本当に毎度毎度不運な子だ、ミヤツコのジジィといい、こういう変態に好かれるタイプなのかも知れない。
ちなみに道行く馬鹿共はその状況を見て、さらに美少女の悲鳴を聞いても完全にスルー、触らぬ神に祟りなしとは言うが、触らぬ変態からも悪臭や雑菌を移されることがないためだ。
というかむしろ、この町の馬鹿共は美少女が変態ダンボールおじさんに襲われ、酷い目に遭うのを心待ちにしている。
この世界には存在しないが、もしあったとしたら確実にスマホのカメラを向けていたはず、そういう連中であることはもう間違いない。
で、結局その薄汚い変態ダンボール野郎は上空の精霊様が狙撃、威力を上手く調整し、突然の心臓発作に見せかけて殺害したのだが、やはり観衆は残念そうな顔をしていた。
被害に遭った美少女の方は……仲間に励まされて仕事に戻ったようだ、ここで全てが嫌になり、逃げ出した場合には追って捕縛するのが忍びないと思っていたのだが、どうやらその必要はなくなったようで一安心である。
作業に戻った後も淡々とポスターを貼り続ける美少女に感心しつつ、セラと2人で町をウロウロしていると、そこかしこで俺達の組織に『加入』せんとする者共の姿が見えた。
取っ掛かりはかなり上手くいっているようだ、このまま一気に地域のトップ組織、いや世界中でも類を見ない最大最強のチームとなって欲しい、その方が後始末も楽だからな……
※※※
『こんにちわ~っ! 新しい反勇者組織についてご存知ですか~っ?』
『あのロリ・コーン師を敵の手から救出、融資の約束を取り付けて一躍有名になった組織で~っす!』
『今入会するとロリ・コーン師監修の変態ロリコンスターターキットが貰えま~す!』
「おうおう、頑張ってるじゃないか、これなら相当に人が集まりそうだぞ」
「凄い人集りね、ざっと見て100人、いや200人はくだらないわ」
キャッチーなパンチラポスターか、それとも目の前に居るホンモノの美少女か、はたまた宣伝文句が秀逸すぎるのか、とにかく俺達のベンチャー組織は大人気となった。
例えば会費を月に金貨1枚……は高いか、銀貨1枚から5枚程度とし、それに加えて情報提供料、活動維持協力金などなど、適当に理由を付けて追加で金を毟り取ってやろう。
もちろんロリコン野朗からの『援助』に関しても、キッチリ自宅に兵士を派遣して頂くことにしているし、これは敵を苦しめつつ大金持ちになることが出来る素晴らしい作戦だな。
などと獲らぬ狸の何とやらをしていたところ契約書の束を持った美少女が1人、町の外で待機している仲間達の方へと向かって行く。
その後も1人、また1人と、ポケットティッシュを配り終え、またはポスターを貼り終え、手持ちの契約書にも全てカモの名前が記入された美少女達が町から離れる。
そこから1時間もしないうちに全員が居なくなり、続きはまた明日ということで群衆は解散、貼ってあったポスターは悉く持ち去られてしまった。
とりあえず俺達も戻ろう、皆の所で契約書の記載漏れがないか、無効なものが含まれていないかを確認しつつ、『本日の売上』を見てみるのだ……
「ただいま~っ!」
「はっ、見知らぬイケメンが……と思ったら変装した勇者様でした、もう普通の顔に戻っても大丈夫ですよ」
「う~ん、むしろこのまま居ようかな、その辺の女共の視線もアツかったし、イケメンの方が生きていくうえで相当にお得だからな」
「それはダメよ勇者様、自分を偽るのは良くないわ、勇者様は勇者様で、ありのままの自分を受け入れてちょうだい」
「はいはい、じゃあこれまで通り『自分より上の奴を始末して順位を上げる作戦』でいくことにするよ……」
変装を解除し、サリナの幻術も解かれた俺は、いつも通りの異世界勇者様に戻ってしまった。
まぁ、イケメンでなくとも強くて偉ければ良いのだ、あとロリコン野朗のように金持ちだとなお良い、その場合にはブサメンでも十分に生きていけるからな。
さて、そんなことよりも集まった契約書はどれほどか、美少女達にポスターやティッシュと共に持たせた魔導契約書は全部で3,000程度、それが全てここにあるのだ……
「え~っと、そもそも字が書けてなくて判読不能なのが500、あと同じ人間が何十回もサインしてるわね、これも500ぐらいあるわ」
「どんだけ馬鹿なんだよこの町の連中は……まぁ良い、重複でサインした奴は金も重複して毟り取ろう、文句を言ったら『裏切り者』として殺害するんだ、まぁどうせ最後には全員ブチ殺すんだがな」
「そうね、じゃあこっちの読めないのは除いて、あとの2,500程度は入会確定ね、初日としてはなかなかの出来だと思うわよ」
「まぁな、無効分はどうせクソみてぇな貧乏人だ、たいした収益にはならないから別に居なくても問題ないしな、とにかくこの調子で明日からも頑張って貰おう」
一仕事終えた美少女達にはしっかりした食事を取らせてやり、それによって翌日以降のモチベーションを維持させることに成功した。
次の日も、そのまた次の日も、合計5日に渡ってポケットティッシュを配り続け、遂には完売、そして1万を超える入会者を獲得することとなり、俺達のニセモノ組織はこれだけでかなり大規模、もはやベンチャーにして大企業という、自己矛盾を抱えた凄まじい組織へと変貌。
この調子で更なる入会者を募集し、そこからさらにさらにと、この大陸の馬鹿共を騙して入会させ続けるのだ、まさに夢は無限大である……
「……でだ、最初に入会者を集めて金の回収をしたいんだが、どこか都合の良い日はないかな? 町沿いの砂浜を埋め尽くすぐらい人が集まるんだし、出来ればそこでも十分に目だっておきたいからな」
「そうな、入会者がお金を払う前に心変わりするかもだから、なるべく早めにやっておいた方が良いわね、例えば明日とか」
「わかった、じゃあ明日は海岸を貸切で、と、その前にイベントを企画しているような連中があったら主催者を暗殺しておかないとだな」
ということで夕方、海岸へ移動して翌日のイベント準備を進めている団体等がないかチェックをする。
3つ、それも全て反勇者勢力の集会が催されるようだ、会場を破壊し、ついでに代表者の名前もメモしておいた。
その代表者共は夜中に屋敷へ忍び込んで暗殺してしまえば良いとして、それ以前に今夜はどこへ宿泊するかだ……まぁアンジュに頼んでサキュバスの店にでも泊めて貰おう、もちろん無料でだ。
「あ、それと勇者様、明日イベントをやるにしても、そこで登壇する代表者はどうやって用意するんですか? さすがに私達が前に出るわけにはいけませんし、どうしましょうか?」
「おっと、そのことを考えていなかったな……うん、この町の付近にも前に共和国と戦ったときのレジスタンスが残っているに違いない、彼らを探し出して人員を供出させよう」
「また大層なことを簡単なことのように言いますね……」
結果からいうとレジスタンス波すぐに発見出来た、俺達が、というか美少女達が偽団体の新規入会者集めをしていた際、騒ぎの内容を把握しておくべく町へ潜入していたそうだ。
そこで森に隠れた俺達の存在に気付いており、海岸で作業をしているところへ接近したとのこと。
こちらもちょうど良かったということで、翌日その場所で執り行われる(偽の)イベントのスタッフやその他諸々を供出するという約束を取り付ける。
これで準備はほぼ完璧だ、あとはサキュバスの店でまったりして、夜になったら本来イベント会場を使う予定の団体事務所やその代表者の屋敷へ赴くだけ。
今回のイベントには多くの人間が集まる、出来るだけ目立つことが出来るよう、そして今後もより多くの『カモ』がネギを背負ってやって来るよう、必ず成功させなくてはならない、ここが正念場だな……




