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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第四章 殲滅作戦
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540 作戦

 砦に帰還した日から2日、前日はゆっくり休み、いよいよ本日から新たな作戦を本格始動させていく予定である。


 だが作戦を『始動する』とはいえ、まずはどこからどう攻めていくのか、何をしたら良いのかを話し合うことからのスタート。

 おまけに前回の作戦で捕らえた敵の拷問に関しても未処理となっているため、そちらも先にしていかなくてはならない……


 とりあえずということで朝食を取りつつ話し合ったのだが、なにはともあれ情報だということで、精霊様と砦の指揮官が買って出た馬鹿共の拷問を皆で眺めようということに決まった。


 いや、特に後ろで見ている必要はないと思うのだが、もしかすると責めで忙しい2人がうっかり重要なことを聞き漏らし、そのまま殺害してしまう可能性もないとはいえない。



「じゃあ早速始めるわよ、終わった後は生かしておいて、王都で『処分』する可能性が高いし、もう一度収納するのが楽な場所、そうね、外の広場の処刑台でやりましょ」


「そうだな、そういうことでカス10匹の連行を、いやついでにロリコン野朗も痛め付けておくか、全部で11匹を外の広場へ連行してくれ、あ、ついでのついでだ、ロリー隊の残っている連中にもロリコン野朗の無様な姿を見せたい、一緒に呼んで来てくれ」


『ハッ! わかりましたっ!』



 人質交換作戦では大活躍をした調理班の兵士5人、居残りをしていた薄汚い、使い物にならない野郎共はエリナがふざけたせいで皆殺しにすることになってしまったため、最初からこの砦にいたのは指揮官と当該5人のみなのである。


 ……いや、そういえば前回の出動では途中で牢付き馬車の御者が不要になり、徒歩で帰らせたはずなのだが、最後に処刑した中にはその姿がなかった……どこかで道に迷っているのか、それとも信号が永遠の赤で停まり続けているのか、どのみちもう帰って来なくて良いのでどこかで好きに死んで欲しい。


 そんな不要物のことがふと頭を過ぎったのだが、それも遠くから聞こえてきた気持ちの悪い悲鳴によって掻き消された、あの感じはロリコン野朗だな、相も変わらずやかましいおっさんだ……



「ぎょぇぇぇっ! わっ、わしはロリコンではないのじゃっ! 断じてロリコンではないっ! だから見逃してくれぇぇぇっ!」


「チッ! 本当にうっせぇなこのロリコンゴミ野朗がっ! お前如きロリコンが調子に乗って人間の言葉を話してんじゃねぇよ、ブヒッとかブチュチュッとか、もっとそういう感じの生き物の言葉を用いやがれっ!」


「ご主人様、『ブチュチュッ』って何の動物の言葉ですか? どういう意味ですか?」


「おうカレン、それはナメクジ語とデンデンムシ語における『ウ○コ漏れた』って意味だ、これを機に覚えておくと良い」


「凄く汚いので要りません……」



 カレンには嫌悪されてしまったが、ロリコン野朗は兵士によって顔面を殴られ、鼻血を出しながらブチュブチュと何か言っていた、どうやら俺の願いが通じたようだ、奴はナメクジ語での発言を始めたに違いない。


 そのナメクジロリコン野朗(デンデンムシカスタム)以下、俺達や王国に楯突く無法者共が11匹まとめて引き出され、春の調べを奏で始めた暖かい風が通る広場の野外処刑台にオンステージする。


 皆一様に『助けてくれ』とか『どうか命だけは』、あと『他の者はどうなっても構わないからせめて自分だけは』などなど、これから処断される悪役に相応しい音を発していた。



「……さてと、全部やかましいのばかりですが、まずはどれから痛め付けてやりましょうか?」


「そうだな、そっちのメガネガリガリ野郎で良いんじゃないか? いかにも悪徳高級官僚っぽくて見ているだけでムカつくぞ」


「わかりました、では最初に全身の皮をアレでああしてこうして……(到底お伝え出来ない内容です)……」


「ひぎぃぃぃっ! かっ、金ならやるから勘弁してくれぇぇぇっ!」


「黙れ、金も頂くし命も頂くんだよ、あと尊厳も何もかもだ、お前が今ここで情けない声を上げて命乞いをしていることは伝説として語り継がれることになるからな」


「そっ、そんなぁぁぁっ! ぎょぇぇぇっ……」



 指揮官の手馴れた責めに苦しみながらもショックを受けるゴミ野朗、これは確実に後世に残さねばならない光景だ、後程伝記などにまとめてこの瞬間を保存しなくてはな。


 例えばそうだな、『正義の勇者に仇成す者あり、その者馬鹿で阿呆で変態で、散々調子に乗りけり、されども終いには敗れて捕らわれ、無様に泣き叫びて命乞い、見るに耐えない姿となりて朽ち果てり』、ぐらいか。


 この世界への転移前、センター試験の国語がマークシートなのに3年連続0点の俺ではこの程度の文章しか作れないゆえ、専門の学者を雇って石版などに彫らせよう。


 ちなみに国語に限らず、俺の3度受験したセンター試験の得点は毎年全教科0点、3年間欠かさず毎日20時間勉強したのに、そして先程も言及したがマークシートなのに本当に不運だ、転がしていた鉛筆が呪われていたに違いない。


 などと勉強出来なかった自慢……いや、これは自慢にはならないな、とにかくこの世界に来る前の残念な俺の話はどうでも良い、今は目の前の『情報源』を注視すべきだ。


 もちろんその姿をリアルに見るとグロすぎてヤバい、対象の肉も削れているが、それよりもこちらのメンタルが削られて擦り切れてしまいそうな光景である。



「よし、じゃあある程度責めたらそっちから順に色々聞いていこうか」


「そうね、名前……はどうでも良いから所属とそこの構成員の数、あと組織として保有している財産の価格ね、もちろん代表者であるこいつらの名義になっているモノも含めて」


「そうだな、実質的に団体の財産なのに、代表者やその他の人物の名義になっているからって差押を免れると思うなよ、ということでまずはそこのメガネ、お前から全部言え」


「ぎぃぇぇぇっ! わっ、我は『比較的安全な方法をもって王国を世界から排除する会』代表の……」


「何だその長ったらしい団体名は……」



 とにかくいい加減な、取って付けたような名称ばかりであるが、聞いていくごとに違う組織のことを話される。

 やはりというか何というか、小規模な組織が無数にあることが窺える状況だ。


 モノによっては1人でいくつもの組織のトップに立っていたこともあった、もちろんそれぞれへの寄付や支援を横領し、それで私服を肥やしていたのは言うまでもない。


 これをひとつひとつ潰していくとなると相当に時間が掛かってしまう、どちらかというと、そういう連中が活動の拠点としている町ごと、つまり無関係な市民を巻き添えにしてブッ放してしまった方が早そうなのだが、それではさすがに俺達の方が反感を買ってしまう。


 つまり、敵の始末はもっと上手くやっていかなくてはならないということだ、そうしないとせっかくの正義が台無しである。


 ということで今回は、いや次回からもだが、もう少し市民の平和を守る感じを出して悪を討たねば、到底俺やその仲間が伝説の凄い究極勇者パーティーとして、馬鹿女神に成り代わって信仰されることなどないであろう。



「となるとどうすべきか……何だミラ、やけに難しい顔してるな……」


「いえ、沢山の組織があるのはわかったんですが、それ、全部別々の人が入会? していたんですよね? そうすると人手不足、ついでに人が足りないとお布施不足になりそうな気がして、騙してお金を入れさせるには少し効率が悪いかと思います」


「なるほど、守銭奴の視点に立った鋭い指摘だな、と、どういうことなのか聞いてくれ」


「わかりました、ほらっ! この場で臓物を引き出してアレされたくなかったら答えなさいっ!」


「オボェェェェッ! 我らの、我らの中でも構成員の取り合いは多かった、せっかく組織を立ち上げても上手く人が集まらずに淘汰されていく、最初に開いた洗脳セミナーの費用だけ無駄になるようなことも多く、どれだけキャッチーなフレーズで、小金持ちを騙して全財産を毟り取るのかというのが成功の鍵に……」


「で、ある程度組織の名前が売れれば大金持ち、つまりそこのロリコン野朗みたいなのから大口の寄付が見込めると、本当にアレだな、怪しいセミナーで騙して洗脳して、『出家』させて財産を毟り取る、オマケに犯罪者に仕立て上げる手法は新興宗教そのものだな、マジで許さんぞお前等!」


「わ……わしはロリ……コンでは……おぇぇぇっ!」



 この世界の悪人は相も変わらずとんでもない連中ばかりだ、まぁ情報通信技術が発達していない以上、悪い連中にとっては天国、胡散臭い、そして自分達に都合の良い情報を流し放題なのだ。


 もちろんそんなものに洗脳されて全財産を注ぎ込み、ついでに俺達や王国兵によって殺されたり、捕まって死刑に処されるなどして命まで失う、そんなことをしてしまう馬鹿も有責である。


 だが本当に悪いのはこのトップ連中、末端構成員から搾取し、そして大金持ちからも騙し取った金を、まるでその末端野郎が騙されて注ぎ込むが如く、サキュバスボッタクリバーに丸ごと流していたのだから性質が悪い。


 まぁ、末端構成員(野郎)八つ裂きの刑程度の軽い処刑方法で済むとすれば、この連中は精霊様特製の『人間チーズシュレッダー』、または『ファラリスの雄牛』などによる処刑が相当。


 全てが解決した後には王都の広場に並べ、これまで散々に迷惑を被った住民達による罵倒と叱責、そして腐った卵投げ付け大会の後、十分に苦しむよう匠の技術で調整しつつ、長い時間をかけて死に至らせなくてはならない。


 と、それよりもまずは『殲滅』についてだ、処刑イベントはその後に付加されるいわばオマケのようなもの、先に敵を倒し、構成員を生け捕りにする必要があるのだ……



「それじゃ、ここから具体的な作戦の検討に移ろう、あ、そっちはまだ拷問していて構わないぞ、やりながらで良いから会議に参加してくれると助かる」


「ええ、ではそうさせて頂きます、このっ! どうだっ! えいっ!」


『ひょんげぇぇぇっ!』



 拷問はまだ続けるが、とりあえずロリコン野朗が死にかけとなっていたため、念のため他のモノも含めてルビアの回復魔法で傷を治しておく。


 これでリセット、ボロボロになっていた体の方はどうにかなったものの、これからまた同じ責め苦を受けることを思い、馬鹿共の顔は大層青くなっておられた。


 処刑マニアの女性指揮官による容赦のない拷問が再開したところで、こちらもそれぞれの意見を出し始める。

 もちろん先程ミラが指摘し、それに対して得た返答を踏まえて考えていく感じだ。



「ではこんなのはどうでしょうか? 私達もひとつ、そういう感じの団体を創設してしまうんです、自分達を卑下する名称には少し気乗りしませんが……どうでしょうか?」


「というと? 俺達も『○○の会』的な感じで悪辣な組織、いや悪辣な組織のニセモノを創ってしまおうということだな、それを使って貴重な人員、それからその人員とセットになった金を吸い上げてしまおうと」


「そうです、先程聞いた『いかにキャッチーなフレーズで』というところ、そこを到底実現不可能かつあったら凄く良いなと思わせるものにして、ついでに構成員の待遇も厚いものにしましょう」


「しかしマリエル殿、その立ち上げのための資金源は……まさかそういう偽団体のために国からというわけでは……」


「大丈夫です、そこの御仁からお金を頂戴すれば万事解決です、どうせ悪いことをして稼いだものですし、そもそも汚らしいロリコンの財産は全て没収するのが通則ですから」


「わしは断じてロリコンなどではっ、ほげぇぇぇっ!」



 そこからはマリエルの作戦を検討していく段階に入る、とは言っても他に妙案があるわけではなく、とりあえずやってみる価値がありそうだということで、特に反対意見が出ることもなく採択された。


 あとはその『ニセモノの反勇者、反王国組織』をどのようなものにしていくかに関してだ。

 群雄割拠、弱小組織の自然淘汰が行われている反体制組織業界において、スタートアップがのし上がることは稀のよう。


 まぁ、もし失敗すればまた新たな組織を立ち上げて、上手く騙され易い馬鹿共の心を鷲掴みにするような組織を立ち上げることが出来るまで……いや、それはドツボに嵌まりそうだな、完全に沼そのものではないか。


 ここは最初に立ち上げる団体で何とかしてしまいたい、目標は人、モノ、金を全て掻き集めるような支配的組織、他の団体を悉く駆逐し、市場を独占する規模のモンスター団体を目指すのだ。



「そうと決まればまずは『それっぽい背景作り』からだな、多くの頭が悪い方々に信頼して頂けるよう、誠心誠意頑張って悪事を働く感じを出していこう」


「ご主人様、私はお肉教が良いです、お布施の代わりにお肉を買って、そのお肉を毎日私の所へ……」

「待ってよカレンちゃん、私は野菜派だから野菜教よ、毎朝新鮮な野菜を売って、その売った野菜をお布施として戻させるの、もちろん全部食べるわ」

「じゃあ私、お肉とお酒沢山教で……」


「おいお前等、早速群雄割拠になってんじゃねぇよ、立ち上げる団体はひとつだけだ、分散してどうする、そして内容もアレだから全部却下な」


『えぇ~っ!?』



 カレン、リリィ、マーサの3人は陳謝および以降3時間の発言禁止処分とし、床に正座させて会議を続けた。

 馬鹿共を追加で拷問し、そういう組織に入る馬鹿は大半が知能の低い、だが金だけは持っているおっさんだということを知る。


 人寄せ用に美人のお姉さんを用意している組織も多いようだが、おそらくは比較的裕福な商人のドラ息子(50)などが道楽ついでにそのお姉さんに引き寄せられ、怪しいセミナーに参加してのめり込むという寸法なのであろう。


 となるとその辺りを攻めるのが一番の近道だな、エッチな格好をしたお姉さんに騙されて、謎の啓発セミナーから犯罪組織へ……目標は現体制の崩壊か……


 いや、重要なのは最初の部分ではなかろうか、元々その連中の目が行っていたのは腐った思想でも、謎の啓発セミナーそのものでもない、可愛くて美人な『釣り餌』のお姉さんだ。


 つまりはそういうお姉さんを使って客寄せ、そして俺達の立ち上げる新団体は他との差別化として、ゴール地点にもそういう要素を持たせるのが妥当。


 その方向で皆と話し合った結果、ニセモノ反体制団体の大枠が決まる、組織名は『勇者を滅ぼしてパーティーメンバーの女の子にチョメチョメする会(愛称:チョメチョメする会、または単にチョメ会)』、我ながらなかなか酷い、そしてローセンスなネーミングであると自負している。



「勇者様、正式名称はもうこの際どうでも良いけどさ、愛称がちょっとキモいわよ」


「そうだぞ主殿、近頃は毎月分配型の胡散臭い投資信託でさえもう少しまともな愛称が付いているぞ、もっとどうにかするんだ」


「知らねぇよそんなんっ! それなら自分達で考えやがれ、俺様のセンスではこれが限界なんだっ!」


「なんと低俗な異世界人なのだ……」



 ということで愛称を変更、横から口を出したエリナの案がなぜか採用され、俺達の立ち上げる組織は『チョメる未来』となった、これこそ怪しい投資信託な気がしなくもないが、本人達が納得しているのならそれで良い。


 しかし呼び辛いため、仲間内では普通に『組織』と呼ぶことで統一し、そのまま具体的な内容の検討に入る。

 まずは宣伝方法だ、どうにかして最初にインパクトのある何かをやってのけないと、一度沈んでしまえばもう浮上することは叶わないのである。


 既に勇者パーティーの何人かを討伐した? いや、それだとそのうちバレて返金騒動になる、隠すにしてもやられたことにするメンバーは人目に付かないようひっそりと生きなくてはならないのだ、それはあまりにも酷だな。


 では最初から潤沢な資金を保有していることをアピールして、他とは一線を画す成功可能性の高い新興組織を装う、それなら勝ち馬だのバンドワゴンだの、多くの馬鹿が反応して乗り込んでくるに違いない。


 となれば使うモノはたったひとつ、今現在ステージ上で残虐な拷問を受けて死にそうになっているロリコン野朗、これをもう一度利用するかたちで宣伝していくのだ……



「よし、じゃあ俺達の組織はアレだ、勇者パーティーに拉致されたロリコン野朗を少人数で救出し、その礼として多額の資金援助、そして武器の支給も約束された凄いベンチャーで、これはもう伸びる以外の未来が見えない、数ヵ月後には上場するに違いない今もっともHOTな団体ということにしよう」


「勇者様、反体制組織なんて上場させても意味ないわよ……」


「まぁそれは例えばの話だ、とにかく金の方は全部ロリコン野朗が……おいそこのゴミ! もちろん俺達のために全財産を供出するんだよなぁ? まだ死にたくないもんなぁ?」


「ぎょぇぇぇっ! わ、わしはロリコンでは……な……いっ!」


「ほら、あっさりOKしてくれたぞ、さすが金持ちは太っ腹だな、物理的にも内面的にも」


「凄く無理矢理だけどしょうがないわね、じゃあその方向でポスターなんかを作るわよっ!」



 方針はこれで決まった、あとは注目を集めるための作業を進めていかなくてはならない。

 ポスターは町中に貼る大きなもの、そしてポケットティッシュに付けて配布する小さなものの2種類だ。


 もちろん配布係等を面が割れている俺達がやるわけにはいかないため、残っているロリー隊の(予備役)年長者達に要請することとした。


 ポスターが出来上がりさえすれば、あとは馬鹿共を喰い付かせるのみだ、一番大きく、そういう連中が集合している例の海沿いの町を中心に『信者獲得』に奔走する。


 今回の作戦は人を集めて他の団体が得るべきであった資金を横取り、そのまま反体制組織市場を独占していくものだ。

 相当に時間が掛かる、気長やる必要がある作戦だが、成功に向けて可能な限りのことをやっていこう……

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