539 砦の休日
「ただいま~っ、お~い、門を開けてくれ~っ……あれ?」
「おかしいですね、通常であれば門番の兵士が設置されているはずなんですが、全員飢えて死んでしまったのでしょうか?」
「かも知れないが、中から人の気配はするんだよな、お~いっ!」
ようやく砦に帰り着いたというのに、そして散々門の前で叫んでいるというのに、扉は一向に開かず、そして誰も俺達に反応してくれない。
またサボッて立ちションでもしているのかと思ったが、どうやら門番自体が近くに居ないようだ。
全く何をしていやがると思ったとき、聞き慣れた足音が聞こえ、門の上に留守を任せてあったエリナが登場する……
「オ~ッホッホ! お帰りなさい皆さん、この砦は既に『エリナ砦』として私の手中に納まりました、兵士も全て洗脳済み、もはや私以外の言うことは絶対に聞きませんからっ!」
「……で、お前は何をしようってんだ? 俺達は疲れているんだから、そういう冗談はもっと余裕があるときにやってくれよ」
「そうですのエリナ! 後で遊んであげるし、話にも付き合ってあげますわ、だから今はふざけていないで扉を開けなさいですのっ!」
「あ、え~っと、その……結構真面目に反乱してみようかな~なんて……思ってたり思ってなかったり……」
「面倒な奴だな、カレン、塀を飛び越えて閂を取り払って来い」
「は~い、よいしょっと」
バイーンッと跳び上がったカレンは冷や汗を掻いているユリナの上を抜け、とりでの中に侵入、すぐに門を開けて俺達を迎え入れた。
どういうわけか中の兵士が槍や棍棒を携えた状態で、こちらにそれを向けて出迎える、敵意剥き出しだ。
これは如何様に考えてもエリナに説明責任があるのだが、当の本人は未だ門の上で……かなり焦った様子だな……
ということですぐにユリナとサリナが向かい、エリナを両側からガシッと掴んで連行する。
完全に観念した様子のエリナは、そのまま引き摺られるようにして俺の前まで来て、ドサッと地面に落とされた。
「それで、俺達がいない間何の遊びをしていたんだ?」
「え~っと、ちょっと『内政ごっこ』を始めたら止まらなくなって、とりあえずここを私固有の砦にしてしまおうと……」
「それで兵士達をあんな風にして、最初に現れた『侵略者』の俺達と戦わせようとしていたんだな? 勝てると思っていたのかそんなんで?」
「いえ、その勝ち負けとかじゃなくゲーム感覚で」
「ゲーム感覚でとんでもねぇことしてんなっ! ユリナ、サリナ、エリナを縛り上げて連行しろっ!」
「ひぃぃぃっ、もうしないのでお許しをぉぉぉっ!」
馬鹿者のクーデターごっこはこれで終わりだが、洗脳されてしまった兵士共はこの後使えるかどうか微妙だ、いや使い物にならない可能性の方が高い。
だが地下牢に収監されていたロリー隊やその予備役の女の子達にはさすがに余計なことをしていなかったようだし、幸い兵士なら救出した女性兵士が居る。
場合によっては新たな補給、つまり使えない兵士の『遺棄』が到着するまでの間、女性兵士達だけの砦としてここを運営するという選択肢も……と思ったが、一度まともな兵士ばかりの砦となった場合、また以前の劣悪な環境に戻るのが嫌になってしまいそうだな……
「おいエリナ、とりあえずお前がダメにした兵士をその辺に並ばせておけ、後で使用可能か判断して処理するからな」
「あの……元々全然使えなかったような気がして……」
「まだ『砦に兵士が居る感』を出す案山子ぐらいには使えたんだ、それをあんな風にしやがって、見ろ、サルみたいに威嚇してんぞアイツとかっ!」
「ごっ、ごめんなさいですっ! はいっ、全員向こうの目立たない所に整列! そのまま死ぬまで待機! こんな感じでどうでしょうか?」
「よろしい、じゃあ部屋にまずは戻って荷物を置いて、それから風呂にでも入ろう、エリナのお仕置きはその後だ」
「ひぇぇぇっ……」
エリナの仕掛けた茶番のせいで余計に疲れてしまったのだが、これでようやく風呂に入ることも出来、ついでに言うと地下牢から出したわりと大人な美少女達が食事の準備も始めるという。
臭くてやかましい無能兵士共は全員壁に向かって整列し、一言も喋らず微動だにしないため、風呂で仲間の裸を覗かれる心配もないし、食糧を求めて近寄ってくることもない、今日は静かに生活出来そうだ……
※※※
「喰らいなさいですのっ!」
「いったぁぁぁっ! ひぃぃぃっ!」
「まだまだっ! ちょっとは反省してっ!」
「いやぁぁぁっ! 悪魔の面汚しでごめんなさいぃぃぃっ!」
風呂上り、部屋に戻ってエリナを天井から吊るし、ユリナとサリナによる鞭打ちの刑を執行する。
まぁ、何というかこういうのは見慣れた光景なのだが、今回は執行人も受刑者も悪魔という、まさに悪魔の所業となっております。
ちなみに当初は鞭打ち500回の宣告であったのだが、付加刑として夕食抜きを宣告したところ、エリナは鞭打ちを1,000回まで増やして夕食は普通に、ということを提案してきたため、それを受け入れて執行人をユリナ単体からサリナも参加するかたちにしたのであった。
と、そんなお仕置きショーを観賞していたところに、部屋のドアがノックされて女性指揮官が入って来る。
夕食の時間はまだなのだが、何か他に用があるらしい、エリナの苦しむ姿もそろそろ見飽きてきたし、面白いことが起こるのであればそちらの様子を見に行こう……
「え~っと、これからまずは町で攫って来た敵構成員の処刑を行いますが、それを見物しますか?」
「いや、俺は興味がないな、精霊様は?」
「う~ん、私は絶対に死なないこの鞭打ちなんかよりそっちが良いわね、じゃあ見に行って来るわ」
「そうか、そしたらついでにメインの捕虜の様子も見て来てくれ、奴等にも拷問する旨、予め伝えておかなくてはならないからな」
「わかったわ、拷問開始は明後日、それまでに存分恐怖を味わうことが出来るようにしておくわね」
とりあえず面倒な拷問の類は精霊様に任せ、俺は他のことをしようと思う、もちろん本格的に始動するのは明後日、つまり明日はOFFなのだが、それでも何かしていないといけないような気がして……ダメだ、これはブラック労働にのめり込むパターンだ。
今日明日は特に面白いことがない限りは動かないようにしておこう、特に面白いことがない限りはだが……
「あ、そういえば敵構成員の処刑の後、救出した兵士達に王都へ提出する『始末書』を書かせる時間を設けますが、別にそれを見ようとは思いませんよね?」
「ああ、そんなもん適当に書いて出せば良いんだよ、1枚作って全員分複写してやればそれで通るんじゃないのか? どうせ中央の連中は読んでないだろうし」
「まぁ、確かにそうなんですよね、わかりました、では『敵に捕まってしまった罰として全員全裸で始末書を書く』というイベントは観覧しないということで……」
「うむ、だがそういった場を見ておくのも人の上に立つ者としては必要なことだと思い始めた、やはり見に行くこととしよう」
「本当にわかり易い異世界人ね……」
当初の情報が不足していたため、途中で態度を変えて出席すると伝えざるを得なかったのだが、やはりパーティーリーダーで、異世界勇者という最強ポジションである以上、兵がやらかした事案の後始末は確認しておかなくてはならない。
まぁ、もちろん全裸でやることにどんな意味があるのかはまるでわからないのだが、全裸でやるということは俺が見ておくべきだということ、この理屈も自分で考えておいて理解に及ばないのだが、とにかく見に行くこととしよう。
その激アツイベントはおよそ2時間後とのことで、俺はそのままエリナが鞭で打たれ、悲鳴を上げているのを楽しく見守った。
そのうちに時間となり、興味津々のルビアと、監視がどうのこうのと言って同行するジェシカと一緒に、始末書執筆会場へと向かう……
※※※
「ムヒョヒョッ! やってるやってるっ!」
「ちょっと主殿、やはり嫌らしい目的で見に来たのだなっ!」
「だからどうした、この場で俺を咎めることが出来る者など居ない、ということで早速おっぱいボイーンッとべろぼっ! だ……誰が……」
「私です、もしご主人様が調子に乗ったら『始末』するようセラさんから言われて……ということでえいやっ!」
「ぎょぉぉぉっ! ろっ、肋骨が粉末状に……」
不意を突いたルビアによって後ろから締め上げられ、全身の骨が粉々になってしまった。
辛うじて生存したものの、治療にはかなりの時間が掛かりそうだ、地面に横たわった状態では『全裸始末書』を認める美人女性兵士達の姿を確認することが出来ない。
どうにかして体を起こし、『会場』に目を向けようとするも、そこには仁王立ちになったジェシカ、さらに治療を続けるルビアには起きるなと言われ、結局何も出来ないまま時間だけが過ぎる。
「お……おのれ……お前等覚悟しておけよっ、威力業務妨害で告発してやる……」
「エッチな目的でおっぱいを見ることのどこが業務なんですか、ほら、静かにしていないと治るものも治りませんよ」
「ルビアがやったくせに……あげっ、いでででっ……」
妨害され、さらにはルビアなんぞに誤りを指摘され、ついでにその後の行動まで封じられた俺、もうダメだ、もはやこれまでか、そう思った瞬間に奇跡は訪れる。
パンツだ、たまたま俺の寝かされている場所の横に立った女性指揮官のエッチなパンツが、俺の位置から丸見えのゾーンに入ったのだ。
今回はこれで我慢しておこう、明らかにパンツなど見せてくれるタイプではないこの女性指揮官、偶然とはいえソレを拝見することが出来たことは、今回の旅で勝利してきた諸々の戦いの中で最大の戦果であるといえよう。
で、その女性指揮官俺に何を伝えに来たのだ? 今日は休みなのだし、夕食前にこれ以上の視察は勘弁して貰いたい、というかこのポジション取りをしばらく解消しないで頂きたいのだが……
「え~っと、この後の予定なんですが、せっかくですので作戦成功を祝したパーティーをしようと考えております」
「ほう、しかしそんなパーティーを運営するだけの人員がどこに?」
「それはあの地下牢の子達にそのまま手伝って貰おうかと思っています、小さい子は私達が不在の間にかなり迎えが来たようで数が減っていますが、元々釈放しない予定の年長者は全員キッチリ残っていますから」
「そうか、まぁアレだ、罰も与えずに逃がしてやるのはどうかと思っていたところだし、ここで強制労働をさせるのもちょうど良いな、そしたら準備が出来たときに教えてくれ、またいつもの食事会場でやるんだろ?」
「ええ、ですが食事開始よりも少し早めに来て頂くことになると思います、調べた結果ではこの砦の元々の兵士はもう使用不能で、全部『殺処分』することにしましたから、その処刑を皆さんにもご覧に入れたいと……」
「……それは内々にやっておいて欲しいんだが」
食事の前にそんなものを見せられて喜ぶのはきっと……きっと俺以外の全員だ。
この世界の人間は本当に処刑とか拷問とかの公開イベントに目がなく、それを見物しながら食事会を開くことなどざらである。
どうして人間がブッチブチのブッチュブチュになっているところを見て吐き気を催さないのかと疑問に思うが、そういう感覚は育ってきた環境、何を当たり前と思うのかによってかなり変わってくるのであろう。
ということで仕方なく作戦成功を祝う食事会におけるショーは女性指揮官に一存することとし、ルビアの治療を受けながらその時間を待った。
およそ1時間後、ようやく全回復したと告げられた俺がガバッと起き上がると、既に全裸始末書イベントは完全に終了、会場は片付けられてもぬけの殻となっている。
なんということでしょう、せっかく休日の楽しみ……ではなく休日出勤してまで視察をしようとしていたのに、悪い2人の妨害によって職務を全うすることが叶わなかったではないか。
まだ食事甲斐の開始までは時間がありそうだし、この2人を成敗して暇を潰すこととしよう……
「オラァァァッ! 完全復活じゃぁぁぁっ! ルビア! ジェシカ! 覚悟しやがれぇぇぇっ!」
『いやぁぁぁんっ!』
まずは2人の全身を揉みまくって抵抗を封じ、そこから尻とおっぱいを丸出しにさせた状態で地面に這い蹲らせる。
ここからどうしてくれようか、特に決めていなかったのだが、適当に遊んでやろう。
「よしお前等、ここからその格好のまま部屋までお散歩だ、進むのが遅かったら尻を引っ叩くからな」
『はいぃぃぃっ! お願いしま~っず!』
「では出発だっ! ほれっ! それっ!」
「きゃんっ!」
「痛いっ!」
ペチンペチンッと2人の尻を叩き、四つん這いのまま俺の前を進ませる、途中で出くわした砦の兵士、人質交換作戦の実働部隊であった1人がドン引きしていたが、まぁ初めて見ればそうであろう。
だがこのぐらいの行為、王都の屋敷の庭でやっていたとしても近所の方々は驚きもしないし、特に反応したりはしない、長らく共に過ごした皆様方は『勇者耐性』を獲得しているためだ。
今後も南の大陸における拠点としてこの砦を使う可能性が高い以上、ここの人々にもぜひその耐性を見に付けて頂きたいものである……
「オラッ! そろそろ到着だ、ここからはダッシュだな、もっと尻を振って必至で進めっ!」
『はいぃぃぃっ!』
「遅いぞルビア!」
「はうんっ! もっとぶって下さいっ!」
「主殿、私の方もだっ!」
「この変態共がっ! 喰らえっ、喰らえっ!」
『ひゃぁぁぁっ!』
ドM変態メンバー2人の成敗を終えて部屋に戻ったのとほぼ同時に、ようやく食事会の時間が来たことを告げられた。
ちょうど腹も減ってきたところだし、その場で繰り広げられるであろう残虐ショーには目をやらず、ひたすら料理、そして酒の方に意識を向けてやることとしようか……
※※※
「ぎょぇぇぇっ! どうして俺がこんな目にぃぃぃっ!」
「黙りなさいっ! あなたのような無能オヤジが今までのうのうと生きてきた、その間に無駄にしてきた資源はどれほどのものかっ!」
「ひょげぇぇぇっ!」
食事会場に到着すると、既に『不用品』となったおっさん兵士共の処刑が始まっていた。
この連中はエリナに洗脳されているため、その命令があれば逃げ出したりせず処刑を受け入れるゆえ、非常に殺りやすいおっさんの集団である。
だがその口からは断末魔と共に苦情が漏れ出している、抵抗は出来なくとも文句は言えるのだな。
まぁこの連中はこれまで文句ばかり言い、自分を伸ばすということをしてこなかったわけだし、その癖は洗脳によっても修正されなかったのかも知れない。
とにかく死んだ方が良い、この世界のためになる馬鹿共であることは確かだ。
だがわざわざこんな所で殺らなくても良いような……それを考えるのは今回で、いや今日だけでも何度目か……
「クソッ! 汚ねぇおっさんの断末魔で食欲が失せるぜ、王都に帰ったら損害賠償を請求しないとだな」
「勇者様、どうせあの連中の給料なんて雀の涙だし、貰ったら即お酒かエッチなお店のサービスに変わってしまうから、請求しても取れるものが残っていないと思うわよ」
「本当に甲斐性のない連中だな、だがその『生』もここで終わりだ、無能な奴は直ちに死ぬべきなんだよ、無理矢理にどこかで働かせても、その現場における効率が低下してマイナスになるだけだからな」
とはいえ、もし俺がこの世界に転移してくることがなく、元の世界で過ごしていたとしたらどうであったか?
まず間違いなく『死ぬべき無能』側の人間、社会に出るべきではない、救いようのない馬鹿であると判断されていたことであろう。
その点この世界は幸せだ、多少頭がアレでも戦闘がこなせて、ある程度の敵を討伐することが出来れば評価される、それはたとえ俺のように日頃からいい加減な態度を取っている者であってもだ。
という点を考慮すると激アツといえる異世界で、唯一受け入れることが不可能に近い残虐処刑ショーというクソイベントから目を逸らしつつ、運ばれて来た料理に対して平静を装った感じで手を付け始める。
そこからは気を紛らわすためという目的も含め、明後日以降の行動について、食事に夢中になっている者を除いて話し合うことに決めた……
「んで、まずは何からやっていくべきなのかな? 反勇者組織と戦うって言ってもさ、その本拠地の場所とか、そこに実際にどのぐらいの数の構成員が居るのかすらわからないんだ」
「それに敵は弱っちい人族ばっかりとは限らないわよ、もしかしたら本当に強い上級魔族が居るかもだし、幹部候補が好条件で魔王軍から引き抜かれたりしていてもおかしくはないわ」
「うむ、奴等の資金はそれなりに潤沢なはずだからな、今回捕らえた連中のように横領して、まともに活動資金を下ろしていない者が多かっただろうが、それでも中には真面目にやっている組織もあるはず、油断はならないと思うぞ」
「しかし情報が出てくるのは最低でも今居る連中を拷問した後だよな、それも『他の組織』に関してはまるで知らないとかいう可能性もないとは言えないし……」
今回の戦い、即ち調子に乗り続ける反勇者、反王国組織のゴミクズ共を殲滅する作戦なのだが、これには今までにない大きな問題点がある。
例えば魔王軍のように、俺達、というか人族の主流派と明確に敵対する、その存在がわかりきっている組織ではなく、『○○の会』や『××を成し遂げる会』など、小規模な組織の集合体としての敵、すなわち『反勇者、反王国組織群』なのだ。
当然組織間で横の繋がりはあるのだと思うが、それぞれの内情に関してはそれぞれの組織のリーダー以外に知らない可能性が高い。
もちろんロリコン野朗のような『大口スポンサー』を大量に捕らえてみるという手もあるが、資金は断つことが出来ても引き出せる情報もやはり限定的なのであろう。
これはまた色々と考えなくてはならなさそうだ、本当に面倒なのだが、今回の作戦を成し遂げなくして平穏な暮らしは取り戻せないのだ、少し気合を入れて踏ん張っていかなくては……




