534 ボロ砦にて
「あっ、これはこれはどうも、お出迎えすら出来なくて申し訳ありませんでした」
「いやいや構わない、こちらこそ直前に一度連絡を入れるべきだった、ちょっと色々ありすぎてな、で、ここの惨状はどういうことだ?」
「ええ、実は今捕まってしまっている兵士達、それらが一応補給部隊も兼ねていたのですが、最初の裏切りで食糧は全て敵の手に……」
「それ以外の補給は?」
「王都の馬鹿役に……上層部が人員だけ送って寄越しました、100人だったんですが、うち90人を処刑したところなんとたったの8人になってしまったんですっ!」
「いや処刑しすぎだし2人どこ行ったよ……」
ようやく到着した砦で唯一まともに話が出来る女性事務官、彼女もまぁアレなのだが、すぐに部下を処刑することを除いてはそこそこまともだし、何よりも見た目が非常に良い。
ちなみにサボッて立ちションしていたうえに異世界勇者様たるこの俺様や仲間達、特にこの砦も、砦に巣食う雑魚モブ共も、もちろんこの女性事務官も所属する王国の第一王女殿下たるマリエルに楯突いた門番のゴミ共、その言動についてはキッチリ、というよりもかなり盛り盛りにして報告しておく。
マリエルが王女だとわかった後も態度を変えなかったとか、立ちションからそのままフル○ン状態でこちらへ来たとか、あることないこと適当に報告した結果、不快な門番共は火炙りで処刑されることがその場で決定された。
すぐに使いが出され、薄汚い格好をした3匹の門番が砦のメインとなっている建物の前にある広場へ連行される。
よく見たら周囲が血塗れだ、ここでは毎日のように処刑、というかこの女性事務官が気に食わないと思った兵士に対する粛清が行われているのであろう。
「あ、その連れている女の子達は……さすがに処刑しませんよね、『荷物』としてお預かりしたロリコン野朗の目に触れぬようこちらで処遇しておきます」
「うむ、万が一にも処刑することがないように頼む……ってかアレか、女の子には死刑が適用されないからその辺りは安心か」
「ええ、この砦でも王国内と同様のルールとなっておりまして、汚くて存在価値のないおっさんに関しては違反、例えば『朝寝坊』とか『靴を揃えて脱がなかった』、あと『箸の持ち方がイマイチ』などの理由で即座に処刑されますが、女性兵士に関しては最高でも公開100叩きぐらいの刑罰しか適用されません」
「いや、王国内でもそこまでは厳しくないと思うんだが……」
どうやらメチャクチャな理由でおっさんを処刑しているようだ、だが俺としては女の子が処刑されていないという事実だけで一安心……と、そもそもこの砦には女の子がごく僅かしか居ないようだが。
とにかく(元)門番3匹の処刑が始まる、他の兵士が『先輩すみません、本当にすみません』などと呟きながら、3匹を固定した杭の下にある藁に火を掛けていった。
燃え上がる炎と絶叫、最後の最後まで助けを求めて大暴れしていた3匹のゴミは、やがて動かなくなってその存在をこの世から消し、その魂は地獄に向かって行く。
ゴミが無様に死に晒すところを見て満足した俺達は、早速女性事務官の執務室へ行って様々な報告を……そういえば今日は指揮官の豚野郎を見ていないな? 出張にでも行っているのであろうか……
「え~っと、一応ここの指揮官にも話を通しておきたいんだが……」
「ああ、ブタでしたらもう殺したので喋ることも話を聞くことも出来ませんよ、ですが『防腐処置』を施して司令室の椅子に固定してありますので、まだしばらくは使用可能だと思います、ダメになったら遺影でも飾っておけば良い話なんですがね」
「そうか、聞かなかったことにするよ、まさか指揮官を暗殺していたなんてな」
「いえ、私が王女の権限でその指揮官を解任しておきましょう、ですのでせっかく防腐処置をしたところ申し訳ないのですが、次の燃えるゴミの日に旧指揮官を出しておいて下さい、あと王都から新しいブタを送付しましょう」
「あ、王女殿下、新しいブタは結構です、邪魔ですし、無能ハゲオヤジの分際で偉そうにしているのを見たらまた殺してしまいそうですから」
「わかりました、ではあなたをここの指揮官に任命しておきますね」
「お前等それで良いのかよ……」
すぐに任命書を認め、得意の超高速伝書鳩に持たせて飛ばすマリエル、本当にこんな軽いノリで良いのかは知らないが、これでこの女性がこの砦の指揮官、おかしなブタを相手にする必要がなくなって事がスムーズに進みそうだ。
ということで女性事務官、もとい女性指揮官に人質交換のこと、ロリー隊とその予備役を家に帰す算段を立てるべきこと、そして森の中、竹林の近くにある『復活の泉』をどうにか管理すべきことなどを伝える。
「え~っと、復活の泉ですか……それは一体どういう?」
「うむ、かくかくしかじかでああなってこうなって、そんでおっぱいボイーンッて……」
「なるほど、それは大変危険なシロモノですね、すぐに兵を派遣しましょう、その方が食糧の消費も減って助かりますし」
「頼んだ、誰かに発見されると厄介だしなるべく早めでな、ん? セラはどうしたんだ、そんなに難しい顔しちゃって」
「……いえ、この人どうして今のでわかったのかしらね?」
「そういうこともあるだろ、俺の説明は本来完璧なんだ、周りの連中の理解力が低いだけでな」
とにかくこれで説明は終わり、人質交換に関しては砦の幹部と昼食、いやもう夕食の時間か、とにかく食事を取りながら話すということで合意した。
ちなみに幹部といっても野郎は呼ばない、汚いおっさんと共に食事するぐらいなら、右も左もわからない新米の一兵卒であったとしても、美女や美少女と作戦会議兼夕食会を開催した方がマシ。
というかそもそもこの砦は使えない連中の掃き溜めであるがゆえ、幹部の中には真っ当な奴が居ない。
まともに会話出来るのがこの女性指揮官だけという時点で終わっているのだが、とにかく他の『幹部』などと話をする必要がないのだ。
で、協議の結果夕食および人質交換の作戦会議は俺達とこの女性事務官、それにたったの5人しか居ないというこの砦の女性兵士達で行うこととなった。
そして食材は俺達の持ち出し、大変残念なことにこの砦にはもうまともな食糧がなく、それゆえ外の薄汚い連中は雑草など摘んで食しているとのこと、もうまともではないな……
「じゃあ調理にはこちらから1人出す、食事会場は……さすがにここだと狭いか、豪華な料理を並べたいし、どこか別の場所で」
「それでしたら外になってしまいますが、規制線を張って汚い野郎共が入り込めぬようにすれば良いかと思います」
「うむ、腹を空かせた無能兵士共の前でこれ見よがしに食事してやろう、もちろん奴等にはリンゴの芯すらやらないがな」
すぐに調理班が呼ばれ、そこにアイリスを預けるかたちで手伝いに行かせる。
俺達の食事だけでなく、牢屋に捕らえてある美少女達の食べる分も作らなければならず、食事の時間は1時間以上後になるとのことだ。
ちなみに調理班は5人で全員女性、つまり食事会に参加する女性兵士は全員が調理班ということ。
これは女性指揮官が兵士補充の際、『野郎が汚い手で触った料理を食べたくない』との要望を出したため送られてきた100人の中に含まれていたのだという。
確かにこの砦の兵士は薄汚く、内面まで汚れ切っていそうな奴ばかり、そんなのが手を触れた料理など絶対に口へ入れたくない、変な菌どころか不治の病に見舞われそうだ。
「あ、そういえば風呂はどうしたら良いんだ? 出来れば食事の前に入っておきたいんだが」
「そうですね、この砦には女湯しか存在しませんが、王女殿下もいらっしゃるので先に皆さんが使ってやって下さい、もちろん改装したてですので全員まとめて入ることが出来るはずです」
「ほう、良くそんな改装工事なんぞする余裕があったな」
「ええ、送られて来た補充のうち90人はお風呂の改修工事に充てたんです、そして用済みになったうえ『女湯の場所を知っている』というリスクもあるということで、適当に罪をでっち上げて処刑した次第です、それで兵力が減少して……」
「うむ、もうどんなムチャクチャをしていても驚かない程度には耐性が付いたぞ、マリエル、すまないがこの砦に追加の兵士100人を送るよう要請しておいてくれ、今後ここが反勇者、反王国連中との闘いで前線になる可能性も高いし、なるべく使える奴で頼むといってな」
「わかりました、ちょうど以前お邪魔した『一兵卒養成学校』がそろそろ新しい卒業生を出しますので、そこからある程度出来の良い者を派遣させましょう」
「おぉ、新たな卒業生か、そういえばもうそんな時期なんだな……」
春の訪れを感じつつ、案内された本来は女湯となっている大浴場へと向かう……というか俺は野郎の類なのに風呂の場所を知ってしまって良かったのか? 寝ている間にコッソリ処刑されたりしませんように……
と、散々廊下を歩き、階段を降りて地下まで行ったところで到着した大浴場。
なかなか綺麗な風呂だ、まぁ女性指揮官も含めて6人しか使っていないのだから当たり前か。
あらかじめ湯も張られていたし、このまま夕食の時間までゆっくり浸かっているのも悪くない。
屋敷や拠点村の温泉には劣るが、何もないはずのボロ砦で風呂に入れるだけでも満足……
「……ご主人様、あっちに誰か居ますよ、ほら、あの柵の向こう、めっちゃ見てますっ!」
「柵の向こう……覗き魔ってやつだな、ユリナ、死なない程度の火魔法で火傷させて印を付けるんだ」
「はいですのっ! えいやっ!」
『ぎょぉぉぉっ! 目がっ、俺の目がぁぁぁっ!』
『ぎぃぇぇぇっ! 俺も目がぁぁぁっ!』
『オメガァァァッ!』
「1匹じゃなかったし、あと何だか変なのも混じっていたようですわね」
「やれやれ、改装工事に当たった兵士を処刑してまで隠蔽していたはずなのに、どういうわけか知られ放題、ついでに覗かれ放題だったみたいだな」
温泉の天井近く、おそらく反対側からは地表付近にあると思しき鉄の柵、そこから覗いていた馬鹿は普通の兵士が2匹とどことなく金属感がある謎の兵士が1匹。
火傷を負わせたのは後で捜し出して処刑するためだが、おそらくこの覗きスポットを知っているのはこの3匹だけではないはず、これは女性指揮官の処刑が捗ってしまうな。
まぁ邪魔者も居なくなったし、このまままたのんびり……というわけにもいかないようだ、すぐに焦った様子の女性指揮官が風呂場に飛び込んできた……
「大変ですっ! どうやら砦内に敵の侵入があったようでして、モブ2匹、それと最近導入した人型決戦アンドロイドの『ゴールドΩ』が目をやられてしまいましたっ! 敵は火魔法を使うようですっ!」
「いやゴールドΩって何だよ、どっからそんなハイテクなモノ仕入れたんだ……いや、てかその3匹? いや2匹と1個か? とにかく覗き魔だったんだ、あの鉄柵の所から覗いていやがったぞ」
「まぁっ、何ということでしょうっ!? もしかしてモブ兵士にこの『秘密入浴施設』の所在がわかってしまったと……」
「そういうことだ、俺達はもう上がるから、女性兵士達、それから牢屋の美少女達が入るときには気を付けた方が良いぞ、あと今話に出た連中は処刑するなり廃棄するなりすべきだな」
「へへーっ! 畏まりましたでございますっ! では早速信頼出来る見張りを立てて覗き魔を一掃致します、ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでしたぁぁぁっ!」
土下座して必死で謝罪する女性指揮官、もちろん俺ではなく王女マリエルに対してだ。
そもそも覗かれたのは俺ではなく他の仲間達なのだから別に構わないが、今後ここに滞在するにあたり、二度とこのようなことにならぬよう監視、そして覗き魔の排除を徹底して欲しい。
ということで俺達は風呂から上がり、着替えをして既に設置されているという食事会場へと向かった。
会場は先程カス門番共の処刑が行われた広場の目の前、一応屋根はある場所だが、その辺をウロ付いている使い道のなさそうな一兵卒から丸見えだ。
もちろん一兵卒はこちらを気に掛けている、豪華なテーブルに並んだ椅子、そして食器類、どう考えてもこの場所で食事会が開催されるためである。
どいつもこいつもお零れを頂戴しようと、うっかり落としてしまった肉や野菜に群がろうと企んでいるのであろう。
だがもちろんそんな無礼な振る舞いをしたら処刑、その程度のことはどれほどの馬鹿であってもわかっているはずだ。
しばらくそのまま待っていると、料理よりも先に先程の3馬鹿のうち人間である2匹が運ばれて来る、どうやらもう処刑するようだ、この後も覗き魔を捕らえるために罪状は『風紀を乱す行為』となっているが。
ちなみに死刑執行人は精霊様が買って出た、顔面を踏み潰す刑、踏まれる直前に精霊様の美しいパンツがチラリと見えるという、処刑前には『人生最後の楽しみ』を与えるべきであるとする考え方に配慮した大変慈悲深い処刑方法である。
……と、2匹どちらも既に目は潰され、おパンツ様を拝むことが出来ないのであった。
これでは単に精霊様による踏み付け処刑だな、まぁそれでも高級なお御足で踏んで頂けるのだからあり難いと思え。
「さて、じゃああんたからよ」
「ど、どっちが……ぎゃぁぁぁっ! 死にたくないっ、死にたくないっ 死にたっちゅぶぺぽっ……」
「ふんっ、もう死んじゃったじゃないの、モブキャラって本当にモロいわねぇ、次はあんたよ」
「ぎょべべべべっ! ぎょろっぽぉぉぉっ!」
「キャハハッ、変な断末魔ね、あんたはちょっと面白いから特別にまだ生かしておいてあげるわ、そこで苦しみながらジワジワ死になさい」
調子に乗る精霊様、頼むから食事会場の目の前にそんなものを放置しないで頂きたい、せっかくの料理が楽しめなくなってしまうではないか。
そう思って精霊様に注意をしようとしたところ、タイミングが良いのか悪いのか、女性指揮官と共に料理の載った台車が現れた……
「あらっ、ナイス処刑ですね、こっちの生きている方は顔面のの潰し方が計算されていて本当に素敵です」
「ふんっ、処刑マスターの私に掛かればざっとこんなものよ、食事の後でまた何匹か処刑したいから、適当に要らない兵士を私に寄越しなさい」
「はい、ではぜひ絶賛摘発中の覗き魔共に引導を渡してやって下さい、と、その前にお食事お始めましょうか」
「……なぁ、先にあのキモいの片付けてくれよ」
やはり死刑執行を中断され、もがき苦しむ覗き魔を放置するつもりのようだ、どうにかそれだけでも……いや、どう考えてもこの後死体が増える流れだ、もう我慢して見ないようにだけしておこう……
『ウォォォッ! おいっ、どうして一兵卒の女がまともな食事をしているんだっ! その席を俺と代われっ!』
「はい、パワハラは死刑」
『ぎょぇぇぇっ! 許してくれぇぇぇっ!』
『ウォォォッ! 俺はそんな料理なんかより事務官、いや司令官殿のおっぱいがっ!』
「はい、セクハラは死刑」
『ぎょぇぇぇっ! 許してくれぇぇぇっ!』
「……この砦はいつもこんなんなのか?」
「ええ、毎度毎度使えない連中が調子に乗るのでその度に処刑をしております、ですのでこの砦に派遣されたゴミ野郎の平均余命は5日間と言われていますね、砦開設の初期メンバーはもう全員処刑し終えましたし、そもそも前回皆様がおいでになったとき詰めていた兵士ももう数えるほどしか残っていません」
「やっぱとんでもねぇな……だが兵士として雇った者を簡単にクビにしてしまうわけにもいかないし、『処理』するためにはここへ送るのが一番なんだろうな、きっと王都の連中もそう考えてここをうまく使っているはずだ」
「そんなものなのですかね……それで本題ですが、まずは人質交換の件からお話を進めてまいりましょう」
「うむ、ではそうしようか」
そこからは王国の大切な女性兵士達と、金持ちで反勇者、反王国連中に資金を提供しているロリコン野朗との人質交換について意見を交わす。
何といってもこちらの目標は敵を騙すこと、女性兵士達はキッチリ無傷で取り戻し、逆にロリコン野朗は引き渡さない、どころか人質交換のために現れた敵を一網打尽にしてしまおうというもの。
かなりの騙しテクと相手を油断させるための作戦が必要なのだが……俺達勇者パーティーが前面に出てしまうと敵が警戒しそうだな。
他の皆もそう考えているようだ、敵は勇者の存在そのものを無くしたいような連中、当然ターゲットである俺達の顔は覚えているはず、となると今回の作戦に適しているのは……
「うむ、主殿、やはりここに居る5人の兵士達を使わせて貰おう、武器も持っていないし、そもそも食糧部隊の出身で筋肉とかもモリモリしていなくて弱そうに見えるからな」
「そうだな、皆小柄だし、武器は持たずに鎧だけ着て、何よりもこの少人数でロリコン野朗を引っ張って行けば敵は攻撃の予兆なしと判断しそうだ」
「ではこの者達に作戦のメインを任せるというのですか? このショボくれた砦からそういう活躍者が出るのは大変光栄なことですが……戦闘経験のないこの者達で上手くいくかどうか……」
「大丈夫だ、いざとなったらゴリ押しでどうにか出来るよう、精霊様が高空から見守ることにすれば安心だ、まぁ取り戻すべき人質の安全を考えたら可能な限り力技には出たくないがな」
「わかりました、あなた達、期待に応えられるよう精一杯にやるのですよ」
『ハッ! 承りましたっ!』
良い返事を返してくれた5人の調理班、もちろん料理もなかなかの腕前のようだ。
彼女達の力を借り、何としてでも王国の宝である女性兵士を取り戻そう。
だが、まずはそのための下準備からである、人質交換の期日、場所、そしてこちらがロリコン野朗の身柄を押さえているということを敵に知らしめなくてはならない……




