521 破壊工作と謎の敵と
「オラッ、サッサと歩かんかこのウスノロ馬鹿野郎めがっ!」
「は、はいっ! 申し訳ございませんでしたっ!」
敵船の甲板、派手に暴れるのであればそこが好都合ということで、まずはこの通路の迷宮から外へ出るべく、生かしておいたモブに道案内をさせる。
だが足が震えてまともに歩けないようだ、本当に情けない。
まぁ10匹で居たうちの9匹が、何が起こったかすらわからないタイミングで首を飛ばされたのだから無理もないとは言えるが……
そのウスノロ大馬鹿モブ野郎を時折小突きながら進んで行くと、ようやく甲板に繋がるという扉が見えて……と、そこで別の集団がやって来たではないか、こちらも10匹、全て雑魚で構成された一団のようだ。
「おいっ! 誰か知らない奴等が居るぞっ!」
「本当だ、誰だお前等は!?」
「いやお前等こそ誰だよこのモブ軍団が、俺様達は正義を執行するためにやって来た正義の味方様だ、そんなこともわからないのかこのクズ共がっ! 死ねっ!」
『ぎょえぇぇぇっ!』
現れた第二の集団、その10匹のうち9匹をまとめて、一瞬で殺害する。
ちなみに今度は腕章を付けたリーダー的な奴を生かしておいた、今居る『案内係』と交換しよう。
「ということでお前はお払い箱だ、ここまでありがとうな」
「いえっ! とんでもございませんっ! では失礼……」
「おい、どこへ行こうってんだ?」
「はっ! 本隊に復帰しようかと」
「舐めたこと言ってんじゃねぇよ、この場で死に晒せっ!」
「はがっ……がっ……顔面がつびゅっ!」
これまで誠心誠意、俺達のことを案内してくれた第一のモブと『お別れ』する。
倒して顔面を踏み潰してやると、嬉しそうな断末魔を上げてこの世を去った。
きっと比較的楽な方法で殺して貰えたことに関して大変に感謝しながら逝ったに違いない。
心なしか死に顔も幸せ……残念ながらグッチャグチャでわからない、というかキモいから見るのをよそう。
ここからは新たに獲得した玩具……ではなく案内係、しかもこれまでのモノよりグレードアップした、リーダークラスのモブから色々と話を聞いていく。
部下を一瞬で殺害され、ついでに目の前で同じ兵士の仲間を惨殺されたリーダーモブ、情けないことに腰を抜かして血溜まりの中にへたり込んでいる。
「おいコラ、サッサと立って俺達を甲板まで案内しろ、あ、その前にお前等がどこへ向かっていたのかを教えるんだ」
「……ひっ、おっ、俺達は砲兵部隊で……これから『主砲発射室』へ行って、この艦隊に攻撃を仕掛けているという敵の潜む村を攻撃するの予定なのだっ!」
「主砲発射室って何だよ、もっとまともなネーミングとかあるだろ普通に……いや、そこへ案内しろ、甲板よりも壊し甲斐がありそうだ」
「そうですね、この船に付いていた大きな筒は間違いなく村にとっての脅威です、真っ先に破壊しておくべき対象ですね」
「ということなんだ、時間がないし、俺達はその貴重な時間を無駄にするのが一番嫌いなんだ、人間らしい死に方をしたかったら早く立ち上がって俺達をそこへ案内するんだな」
「わかった、わかったから殺さないでくれ……」
リーダーモブにはこの場で殺したりしないことを約束して案内係をさせる。
当然後で殺す、というよりも残虐な方法で処刑するのだが、この世界の連中はその『当然』がわからず、この時点で助かるものだと思い込むものが多い。
まぁその方がいざ死刑執行の際に面白い反応が得られるし、公開で処刑するのであればその反応を楽しむことが出来る一般の方々も満足してくれる。
もっともこんな雑魚ではなく、普段から金を持ち、偉そうに威張り散らしているような輩をそういう目に遭わせたいのだが。
などと考えている間に、比較的大きな扉の前に到着する、リーダーモブが震える手でその扉に掛かった鍵を開けると、中は広い、そして外の様子がバッチリ見えるコントロールルームのような場所であった、とりあえず中を調べよう……
※※※
「ここは……あの巨大な筒の真下に来たようだな、この部屋で向きを調整して、それからどうするのだ?」
「ほらジェシカちゃん、ここよここ、ここに魔法使いの人が座って魔力を込めるんだわ、筒は3つあるけど魔法使いをセットする椅子は沢山あるのね」
「なるほど、確かにあの筒の中で魔力を暴発させるとしたら1人分の魔力では到底足りないからな」
到着した『主砲発射室』、ここへ向かっていた10匹を押さえたため、中には当然誰の姿もない。
もちろんこれからまだ誰か来るのかも知れないが、そのときはまた殺してしまえば良いであろう。
薄暗い室内には砲の射角などを調整すると思しき椅子と、その両サイドで観測や他のサポートするらしき椅子、それが法の数と同じ3セット、9人分の居場所がある。
そして後ろに指揮ボックスが1つだ、そこへこのリーダーモブが就き、全体の指揮をするということなのであろう、普通のモブだと思っていたが、その役職ということはかなり高級なモブのようだ。
で、その主砲を発射する装置の後ろには10を超える数の椅子、その全てに謎の銅線のようなものが繋がり、さながら処刑用の電気椅子の様相を呈している、これが主砲のエネルギー源である魔法使いから魔力を抽出する装置か……
「ん? その椅子が並んでるのの横にある箱は何だろうな、棺桶か? そもそも椅子にも拘束するようなベルトが付いているし……おいそこのモブキャラ! どうなってんだこれ?」
「……魔法使いはロリ・コーン様が闇市で買ったもの、それを拘束して、死ぬまで魔力を吸い上げるのだ、使い終わった『抜け殻』はそっちの箱に入れて海へ捨てる、それがこの『主砲発射室』の仕組みなのだ」
「とんでもねぇ、前にも同じようなのがあったが、おそらくその流れを汲んでいるんだろうな……と、お客さんかな?」
そのとき外から聞こえてきた複数の足音、既に気付いていたと思しきカレンとマーサは扉の前に立ち、すぐに攻撃を仕掛けられる姿勢を取っている。
だがその足音群はこれまでのものとは若干異なる、10匹のモブという感じではないし、足音に混じって時折、何者かが抵抗しているような声が聞こえ、何人もでそれを連行している様子が目に浮かぶ。
いや、連行されているのは1人や2人ではなかったようだ、バンッと開いた扉、その向こうに居たのはやはりモブ10匹と、縛り上げられた男女が合計30名程度、つまり、砲を発射するのとは別の『エネルギー補充』に携わる部隊がやって来たということだ。
もちろん俺達の姿を見て驚き、フリーズするモブキャラ共、しかし連行されている魔法使い達はそれどころではないようで、その間も逃れようと必死に抵抗を続けている。
「おいお前等、そんなとこに立ってないでこっちへ来いよ、ぶっ殺してやるからさ」
「……ど、どういうことだ? どうして発射部隊長と……部下は?」
混乱し切った様子で質問を投げ掛けるのは、俺達の案内役を務めているもブリーダーと同じ身分と思しき腕章を付けたモブ。
この様子だと、ここへ来るまでに死んだ2つのチームの残りカスを目撃しなかったのであろう。
というかあの死体を、そろそろ敵の誰かが見つけて大騒ぎを起こしていると面白いのだが……
「ご主人様、この人達はどうしますか?」
「う~ん、じゃあここも腕章の馬鹿だけ残して皆殺しにしろ、ついでに今後こういう連中に出会った際も同じ対応で頼む」
「は~い、じゃあ殺しますね」
そう言ってシュッと消えたカレン、時折残像を残しつつ、モブキャラを片付けて連れられている魔法使いと思しき人々を救出していく。
あっという間に敵の数は1匹、そして縛り上げられていた人々は自由に、もちろん今の状況がどのようなものなのか、そして自分達が本当に助かったのかどうなのか、まるでわからない様子の方が大半である。
だがそのうち1人、ここまで余り大騒ぎしていなかった美人のお姉さんがクールな感じで前に出て来た……
「ありがとうございます、どなたかは存じ上げませんが、これで変な装置に命を吸われる心配もなくなりました」
「いえどうもどうも、で、お姉さん達はどうしてこんな連中に捕まって?」
「それがですね、お恥ずかしい限りなのですが……」
それまでのクールさを崩さぬよう努めつつ、しかし若干顔を赤くしつつ俺の質問に答えてくれる魔法使い風の美人お姉さん。
どうやらここに連れて来られ、主砲のエネルギー源とされるために捕らわれていた魔法使いは皆、ロリ・コーン師による投資詐欺に引っ掛かり、全財産どころか人身の自由まで奪われてしまったかわいそうな魔法使いなのだという。
ちなみに投資詐欺の内容は、この旧共和国領で『子ども達に魔法を教え、将来優秀な魔法使いを輩出する凄い魔法学校』を創設するというもの。
このお姉さんは西方出身、そして他にも北の大陸や、王都出身の者も居たが、南の大陸の情勢に詳しい者は1人も居らず、旧共和国領が『王国との戦争に敗れた地』であり、現在建て直しを図っている最中であると感じていたようだ。
そこに魔法使いを養成する学校を創設するという話であれば乗ってしまっても仕方ないかも知れない。
情報通信手段のショボいこの世界では、離れた場所から現地の状況を詳しく知るなどと言うことは出来ないのだ。
つまり、旧共和国領が今では反勇者や反王国を掲げる馬鹿共に侵食され、とても魔法学校などをやっている暇ではない状況なのも、この被害者達にはまるで伝わらなかったのである。
「……まさか奴がセミナーで語ったことは全て嘘で、その後別の団体を装って持ち掛けられた投資話と繋がっているなんて」
「魔法学校の共同権利者になれば、投資した額に応じて毎月一定の金額が振り込まれるはずだったのに」
「クソッ、儲かりそうな情報を得たらそこへ一気に全財産を投下すべきだとしたロリコン野朗め、最初から俺達の財産を騙し取るつもりだったんだ」
「いや、そんなのに引っ掛かるなよな……」
この魔法使い達も命まで取られそうになった被害者ではあるのだが、その内容からしてイマイチ同情出来ない部分がある。
まぁそれでも詐欺は詐欺だ、きっと大掛かりな、劇場型の仕掛けをもって騙したのであろうが、それをやったロリコン野朗とその配下の連中が一番悪いのは揺るがない事実。
ということでせっかく救出した魔法使いの皆様方にも協力して頂き、憂さ晴らしも兼ねて船内での破壊活動をすることで敵の混乱を招いてくれと指示しておく。
すぐに出て行った美人お姉さん以下詐欺られ魔法使いさん方は、主砲発射室の窓から意気揚々と外へ出て、火だの風だの、それぞれが使える魔法で甲板を破壊し始めた。
ちなみに野郎はどうなっても良いが、美人のお姉さんやその他の美人の方々には戦死して欲しくない。
可能な限り安全に配慮し、敵の戦闘員と直接にはぶつからぬよう心がけて欲しいところだ。
「さてと、思わぬ味方の登場だったが、俺達はこの主砲をどうにかしようぜ」
「ええ、現状村を直接狙えるのはこの筒だけ、それと推進力になっている帆と、予備として待機している漕ぎ手、潰すのはこの3つですね」
「うむ、じゃあ早速……こんなデカいのどうやって潰すんだ? 適当に蹴飛ばしてみる?」
『そんなんじゃ壊れないわよっ!』
「誰だっ!? って、精霊様かよ、いつの間にこんな所まで飛んで来たんだ?」
「攻撃しながら飛んでたらここまで来ちゃったのよ、どうこの旗艦のサイズ?」
「どうって、とんでもねぇよマジで、一体誰がこんなの造るってんだ、そして早いとここの主砲も破壊したいんだが」
「私に任せなさい、それと、あんたの力も使うわよ」
正面の窓からスルリと入り込む精霊様、良く見ると甲板の上には先程までなかった複数の敵兵の死体、上空を監視している敵に発見され、出て来たのをブチ殺したのであろう。
となるとつい今精霊様が入り込んだこの主砲発射室には、すぐに大勢の敵が集まって来るに違いない。
面倒なことになる前に全てを破壊し、攻撃能力を喪失させておきたいのだが……精霊様は何をしているのだ?
「おおい精霊様、それはかわいそうな魔法使いの命を削って砲を発射する『死の椅子』だぞ、ふざけて座って良いようなものじゃないだろ」
「いいえ、これに変な力を流し込めばこの魔導砲台ごとどうにかなるわ、ほらあんたも座って、仙人と同じ謎の力を放出するのよ」
「げぇ~っ、何だか気分悪いよな……」
あまり座りたくない椅子、だが精霊様がそう言うのであれば仕方ない。
自信満々な表情をしている精霊様の隣に座り、例の力を放出することを意識してみる、同時に、隣の精霊様は霊力とかそういった類のものを放出しているようだ……
「あっ、何だか熱くなってきました、アッツアツですっ!」
「カレン殿、ちょっとこっちへ来ていた方が良いぞ、大筒が赤熱状態になっているから危ない」
「せき? まぁ熱そうなので近付いたりはしません」
2人の力、というよりも8割方は精霊様の力なのであろうが、窓から見える3本並んだ巨大な砲身が、まるで熱したガラスのように赤熱状態となり、グニャリと曲がる。
窓から距離を取るカレンとジェシカ、逆に近付き、海で濡れたままになっていた服を乾かす残りの3人。
洗濯物が潮でガビガビになりそうだ、ミラもそう思っているものの、背に腹は変えられないといった様子。
などと考えている間にその形状を維持出来なくなった砲身はついに溶解、さらに甲板へ集まって来ていた兵士をジュッと焼きながら、そして甲板に大火災を巻き起こしながら広がっていく……
『クソッ! どうして主砲がっ!?』
『わからんっ、主砲発射部隊は何をしているのだ?』
そこへお客様、今度は10匹ではなくもっと大量に、念のため閉めてあった扉の向こうに殺到している。
外で溶けた砲身から受けた熱でアッツアツになっているのであろう扉に触れ、驚いたような声を上げつつ、どうにかそれを開けて中へ雪崩れ込む敵兵。
「おいっ、何だこの状況はっ……はがっ!」
「ぎょっ!」
「ほげっ!」
(以下略)
先程の魔法使い達のような被害者の類が居ないことをパッと確認したカレンとジェシカによって、その場で前方に居た数十匹の首が飛ぶ。
事態を察した後ろの兵士は安物の剣を抜いて構えるものの、そもそも比較的大きいとはいえボトルネックになった扉を隔てた状態、集団でこちらへ来て攻撃を仕掛けることなど叶わない状態。
もちろんそれはこちらにとっても同じなのだが、カレンにしろジェシカにしろ、別に単騎で敵の中へ突入しても大丈夫な程度には強いのだ。
ということで前に出たのはジェシカ、狭い廊下で剣をひと振りすると、次の瞬間には10匹以上の敵が腰の辺りで分離、血飛沫と断末魔、それから臓物を飛び散らせながらこの世を去る。
その後も2度攻撃を繰り出し、ゾロゾロと集合していた敵を50匹程度始末したジェシカが残したのはやはり、腕章を付けたモブリーダー、それが3匹と、明らかにほかとは違う格好をした1匹。
いや、その1匹は殺さなかったのではない、攻撃を回避したのだ、顔は普通のおっさんだが服装が違うだけのことはある。
コイツはモブの中でもかなり『デキるモブ』ということ、とにかく自信満々で前へ出て来たので話を聞いてみよう……
「……貴殿、なかなかの太刀筋のようだな、だが何の目的でこの艦に侵入したのだ? 我を倒すためか? そうかそうか」
「いえ、その……何というか勘違いしているようだが……」
「遠慮せずとも良い、我を倒したいと欲するものは非常に多いゆえ気にはしておらぬ、貴殿もその類なのであろうが、全身全霊を込めた攻撃を回避され、非常驚いているのであろう?」
「え~っと……主殿、ちょっと助けてくれっ!」
「知らねぇよ、そんな面倒臭そうなオヤジはサッサと殺してしまえっ!」
「いや、それがその……でぇぇぇぃっ!」
俺に見せ付けるようにして敵のおっさんに斬り掛かるジェシカ、剣そのものではなくそれが巻き起こした風圧によって、腕章のモブリーダー3匹は肉塊に、周囲の壁や天井も、そして床までもが悲惨なことになった、これがジェシカの全力攻撃である。
だがその攻撃の影響を受けた範囲内で立っているのが1人……どういうわけかおっさんは斬られていないのだ……
「こういうことなんだっ、この敵は剣で斬ることが出来ない、先程の攻撃も、そして今の一撃もまるで避けてはいないんだっ!」
「……本当に面倒臭せぇのが登場しやがったな」
ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべるおっさん、その余裕の表情が気持ち悪い。
しかしどんな仕掛けでジェシカの攻撃を回避、いや無効化したのかわからない以上、迂闊に手を出すことは出来なさそうだ。
「貴殿ら、安易な気持ちで絶対に倒せぬこの我と対峙してしまったことを後悔するが良い、この艦でトップ……ではなく№37とされている我の実力の前に平伏すが良いっ!」
「絶対倒せないのに№37なのかよ、しかもめっちゃ微妙じゃねぇか37って……」
「それは仕方ないことだ、ロリ・コーン様は我のようなキモメンをそんなに上位には上げてくれないのだ、実質的にはトップなのでその辺りはわかっておいて頂きたい」
「あ、キモメンなのは自覚アリなんだな」
この船、つまりはこの船を中心としたロリコン野朗の艦隊で実質トップの実力を誇ると公言して見せたおっさん。
他のメンバーも武器を抜き、俺と精霊様も立ち上がってそれと対峙する。
一見強いようには見えない、というか攻撃力はからっきしのようだ。
だが逆にこちらの攻撃が効かない、そして狭い通路から退く様子もない。
どうにかしてこのおっさんを倒さなくては、俺達はずっとここから出られないということだ。
まさか大火災で火の海となっている甲板に飛び降りるわけにもいかないし、それ以外の脱出口も見当たらない。
だがまずは様子見だ、適当に軽い攻撃を仕掛けつつ、このおっさんの秘密を探っていくこととしよう……




