502 女神からの報酬
「そんで、今日は女神が王宮に来るんだったよな?」
「ええ、ご降臨なされるとのことです、失礼のないよう身だしなみを整えておかなくてはなりません」
「別に良いよあんな奴、半袖で『FUCK!』とか書いたTシャツ着て、中指立てながら謁見の間になだれ込んでやればそれで十分だ」
「なんと不敬な……」
女神の降臨に対して無駄に気合を入れるマリエル、正直女神愛が過ぎて暴走しそうなので連れて行きたくはないのだが、場所が王宮である以上付いて来るなとも言えない。
まぁ、今日もいつも通りの3人で行けば良いであろう、相手が女神ということでジェシカも行きたがっていたが、会いたければ報酬引渡し式の後で屋敷に来させれば良いのだ。
と、一番嬉しそうなのはセラであった、ケチ臭い王国ではなく、女神という絶対的な権力者から賜る報酬の内容に期待しているらしい……
「ねぇねぇっ、一応聞いておくけどミラは何が欲しいか教えてくれない? リクエストするときの参考にするわ」
「う~ん、私はお金かしら、あと金銭とか現金とか、通貨や硬貨も欲しいかな、それとキャッシュとかマネーとか現ナマとか……色々ありすぎて決められないわ」
「全部お金じゃないの……」
金銭またはその同等物にしか興味がない様子のミラ、神々からこんなのに与えられるのは神罰ぐらいのものだ。
というわけでまるで参考にならなかったミラは無視して、他の仲間達にも要求を聞いておこう。
「カレン、カレンは何が欲しいんだ? もし好きなものを貰えるとしたらだぞ」
「生ハムですっ!」
「リリィは?」
「ビーフジャーキー!」
「ごめん、カレンとリリィに聞いた俺、もしくはカレンとリリィが馬鹿だったよ、ルビアはどうだ?」
「ケーキが欲しいです、食べきれないぐらいっ!」
「ごめん、ルビアも馬鹿だったよ……」
馬鹿ばっかりで困ってしまうのだが、これでも十分に回っているのが勇者パーティーのすごいところだ。
ちなみに他の『賢い』メンバーの提案により、欲すべきものは『強力な武器防具の類』と決定付けられた。
まぁ、そのぐらいが妥当なところか、あまり高望みしても仕方ないし、伝説級の最強アイテムである聖棒を寄越した女神であれば、また何か良いようには到底見えないが実は良いものを提供してくれるはず。
それに期待して……と、ここで迎えの馬車が来たようだ、俺とセラ、マリエルの3人で王宮へ行ったら、その後から女神が(偉そうに)降臨して来るに違いない。
それまでは少し暇だが、駄王の顔面を狙って攻撃魔法の練習でもしておこう……
※※※
王宮に到着するとすぐに王の間へ通された俺達、今日はさすがの厳戒態勢だ、急遽女神が降臨することになったゆえ護衛やもてなしの準備も大忙しだったと見える、本当に迷惑な奴だ。
玉座には駄王、もちろんいつも通りの格好なのだが、今日のパンツはブラックのフォーマルなやつにしたようだ、それなら服を着ろ。
そして全員集合している、ジジババばかりの各大臣の中でひときわ枯れそうな、水分の少ない顔をしたミイラ、じゃなかった総務大臣の姿を見つけ、声を掛ける。
「ちぃ~っす、勇者屋でぇ~っす」
「……これ勇者よ、おぬし何じゃその格好は?」
「あ、これ? 『FUCK!』Tシャツ、寒かったけどイケてんだろ?」
「よもやそれで女神様の御前にっ!?」
「何だよ? これか全裸、どちらかしか選択肢はないぞ、というかそもそも女神なんてアレだ、ウ○コみたいなモノだ、俺様にとっては敬意を表する対象ではないからな」
「なんと不敬な……」
どこかの王女と似たようなことを言う変なババァ、まぁこのTシャツが羨ましいのはわかるが、だからといってわざと蔑むような発言をするのは芳しいとは言えないな。
と、やはり女神の奴はまだ降臨していないようだ、というか奴がこちらに来るのか? それとも異空間的な所で報酬アイテムのの授与式でもするのか?
「ところでババァ、これからどうする予定なんだ? 女神の奴は? 遅れるんなら例の召喚ボタンを持って来れば良かったぜ」
「もうすぐ、あと少ししたら一度ご降臨なされて、おぬしらを連れてどこかへ行かれるとの神託が先程あっての、本当にそろそろじゃと思うでの、せめてその格好は……」
「うるせぇっ、しかし女神の奴もうすぐとかあと少しとか、時間に関してはもう少し正確に動けよな、よし、来たら速攻で文句を言ってやろう……と、来たみたいだな」
眠そうだが、何らかのクスリで無理矢理に覚醒させられていると思しき駄王がセットされた玉座、その前に女神の登場を示す淡い光、それはすぐに見慣れた馬鹿女の形を成した。
「……どうも、皆さんお揃いのようでふぼっ!」
「オラァァァッ! 何待たせとんじゃこのボケェェェッ!」
「ひぃぃぃっ、誰かこの野蛮な類人猿……じゃなかった異世界勇者を剥がして下さいっ!」
「誰が類人猿じゃワレコラァァァッ!」
「ちょっと勇者様、そんなところでキレていても話は進まないわよ」
「というか勇者様、そもそも大変に不敬です……」
せっかく女神にこの世の理、『時間は正確に』を教えてやろうと思ったのだが、どういうわけかセラとマリエルが俺の邪魔をする。
まぁ良い、ここで女神にスネられて報酬を減額されでもしたら堪らないからな、ここは黙っておいてやることとしよう……
「ケホッ、ケホッ……う~、全く乱暴な勇者ですね……」
「うるせぇぞこの女神が、しゃがんでむせている暇があったらサッサと報酬、それから有り金全部寄越しやがれ」
「……まさか女神たるこの私からカツアゲしようとする不届者が存在するとは思いませんでした、ですが報酬に関してはすぐにお渡しします、勇者パーティー代表の3人は私の手の甲に触れて下さい、異空間へと転移しますので」
「で、報酬を渡すだけなのにどうして異空間とやらに行く必要があるんだ? ここに持って来てくれればそのまま受領印でも押して引き取るんだが」
「いえ、報酬といっても色々ありまして、その中からいくつか、といったシステムですので、また実際に見て聞いて、触って実感して選んで頂きたいという思いもありますから」
「そういうことか、じゃあ早速女神に触れてと……」
「あの、手の甲に触れて下さい、おっぱいではなく」
「どうしてだ? あ、地肌に触れてないとダメなんだな、じゃあこうしてやるっ!」
「ひぃぃぃっ! も、もうそれで良いですから揉まないでっ!」
女神のメガおっぱいをじっくり揉みつつ、そしてセラやマリエルに呆れられつつ、報酬の用意してある異空間だか何だかに向けて転移した……
※※※
「……と、転移したのか、暗くて何も見えないんだが?」
「ちょっと待って下さい、すぐに電気点けますから」
「電気とか世界観壊すこと言ってんな、しばくぞコラ」
「あたたたっ、ごめんなさいごめんなさいっ、おっぱいが千切れるからやめてっ」
解放してやるとトコトコと足音を立てながらどこかへ歩いて行っためがみ……本当にスイッチひとつで電気を点けやがった、もうそういうのはこれっきりにして頂きたい。
で、明るくなったその部屋、というか格納庫のような場所、もちろん窓はあるのだが、その向こうは完全に真っ黒、もし出て行ったら二度と戻ることが出来ず、永遠に無の空間を彷徨い続けることになるタイプのやつだ。
そして格納庫内には様々なアイテム、時代の流れを全く考慮していない、武器では棍棒からバスターソード、火縄銃、あと確実に国際条約で禁止されているであろう、使ってはならない兵器などもうメチャクチャである。
「全く、そもそもこの棍棒は何だよ? 四天王全部倒した勇者様が棍棒なんて欲しがると思ったのか?」
「いえ、もっと原始的な世界の勇者もここで報酬を受け取りますから、上半身裸で腰蓑だけ装備した打製石器勇者とか、あ、ちなみにその棍棒、『薩摩本柘製』の高級品です」
「もう意味わかんねぇよ……」
ちなみにまともなものも存在する、『毒消し薬10年分』や『死者蘇生チケット(11枚綴)』などがそれに該当するのだが、その辺りはもう自分達でどうにか出来てしまうゆえ、ここで選択することはない。
また銃火器があっても玉がない、そもそもこの世界には火薬すらないのだ。
最初にサービスで装填されている分を使い果たせば、それこそ以前戦った大仙人のように鈍器として、つまり誤った使い方をするしかなくなってしまう。
しかし色々とありすぎて決めかねるな、どれを頂いておくのが最も俺達勇者パーティーの強化と発展に資するのか……
「勇者よ、コレを見て下さい、あなたが転移前に居た世界の戦で最も活躍しているという兵器です」
「おいおいこれって……」
トラックだ、正確に言うとピックアップトラックか、荷台の後ろには『MEGAMI』の文字、もちろん機関銃的な何かが搭載されている。
「いかがですか? この兵器は本当にオススメですよ、上の機関銃は取り払って魔法使いを乗せて、魔力で動くように魔改造してしまえば燃料問題も解決です」
「いや、こんなのは絶対に要らないぞ」
「どうしてですか? 強いですよ、そしてこれの窓から肘を出して疾走する勇者はカッコイイですよ」
「俺の免許、AT限定なんだ……」
「そ……それは失礼しました、まさかオートマ勇者だったとは思わず……」
たったこれだけのことで随分と気まずくなるものである、だがAT限定なのは仕方ない、戦闘ではなく移動や農作業用にトラックが欲しかったが、ここは諦めることとしよう。
ちなみにこの日以降、俺の勇者情報には『AT限定』、それともうひとつ『眼鏡等』という、運転免許に付された条件と同じものが追記されたそうだ。
まぁそれはもう良いとして、セラとマリエルと3人で、必死になってどの報酬を選ぶか吟味する。
戦いに際して欲しいのはもちろん武器なのだが、防御用の何かも、それから枯渇しがちな魔力を補充するための使い捨てでないアイテムが欲しい。
いや、むしろ魔力の補充は急務だ、俺達の場合攻撃力は足りているものの、セラとユリナの特大魔法に最初の一手、それに中継ぎ、場合によってはフィニッシュまで依存している。
その2人の魔力残量を気にすることなく戦えたらどんなに幸せか、そうなったらもう連戦連勝、毎度毎度の大勝利間違いナシ。
となると欲するべきは……セラがそれに見合ったものを選び出したようだ……
「勇者様これどう? 武器に装備する魔力継続回復ストラップ(15個セット)、永久に壊れないし、どこかに落としてしまっても自分で帰って来るそうよ」
「呪いの人形みたいで恐いんだが……」
良くわからないのだが、とにかくそのストラップを武器屋防具にぶら下げておけば、継続的にその使用者の魔力が回復していくのだというストラップ。
紐の下に垂れ下がっているのはデフォルメされた女神らしき人形、大きさはペットボトル飲料にオマケとして付いていた人形ぐらいか。
うむ、このストラップはかなり使えそうだし、今回の報酬はコレにしよう、精霊様もユリナもサリナも、それにジェシカも、賢いメンバー全員の同意が得られるはずだ。
「おい女神、今回はコレに決めた、構わないな?」
「ええ、ですがそれだと……あと2つぐらいは報酬を選択出来ますね、そのアイテムは信じられないぐらいショボいので……」
『ちょっと勇者様、女神様の言っていることがわからないわ、これがショボいってどういうこと?』
『気にするな、あの馬鹿は単純に見る目がないだけだ』
『そう、なら良かったわ』
「あの、2人共何をコソコソ話しているのでしょうか?」
「いやいや何でもない、とにかくあと2つぐらいだな、気合入れて選び抜こうぜっ!」
そう言えば女神の奴、俺をこの世界に転移させる際にも、常日頃から大変お世話になっている索敵や、今でこそあまり使い道がないが、激弱の冒険開始当初には多用した対象物鑑定という2つのチート能力、それに対してゴミだの使えないだの、散々な評価を下していたな。
つまりこの馬鹿女神が『ショボい』と評価しているこのアイテムは、間違いなく一等品、超有用アイテムであるということだ。
屋敷に帰ったらこのスペシャルアイテムを配布し、賢さが極めて低い俺達3人でもやれば出来るということを知らしめてやろう。
「あ、勇者様、これなんてどうでしょう?」
「おっ、次はマリエルか、何だか知らんが持って来てみろ」
「はい、これですよ、これは……」
「あれっ? ちょっと待ったマリエル、何かその……あまり近付かないでくれ、何となく……」
マリエルが手に取った丸い玉を持ってこちらに来ると、どういうわけかそれに近付きたくない、近付いてはならないような気がしてきた。
不思議な感覚だが、とにかくその玉を持ってちょろちょろと付いて来るマリエルから、だんだんと必死になりつつ逃れる俺、一体どういうことだ?
「ちょっ、ストップ! 来るんじゃねぇっ! おいマリエル、マジでそれは何なんだ?」
「これは『雑魚避けの玉』だそうです、持っていたり、それから庭先に置いておくだけでしつこい雑魚が寄り付かなくなる、そう説明には書いてありますね」
「つまり、勇者様は『雑魚』だったってことね、毎度毎度笑わせてくれるわ、プププッ」
「……ちょっとそれ破壊しろ、異世界勇者様たるこの俺様に対して失礼すぎるわこのゴミアイテム」
結局破壊は女神によって止められたのだが、二度と俺様の目に映らないようにと注意し、ついでに持って来たマリエルの頬っぺたを思い切り抓っておく、あと笑ったセラにはカンチョーの刑だ。
カンチョーがクリーンヒットし、床に転がって悶え苦しむセラは放っておいて、引き続き報酬選びをしていく。
魔力の枯渇はもう解決した、次に不安なのは何であろうか、防御力? いやいやミラとジェシカが前に居るだけで十分安心だ、素早さは余裕だし問題となるのは……賢さか、賢さこそが俺達勇者パーティーの最大の弱点である。
とはいえ見渡す限り賢さを上昇させるようなアイテムはない、置かれているのは明らかに子ども向けの計算ドリルと、犯罪者向けの『キメると賢くなるクスリ(依存性:高)』ぐらいのもの。
賢さを上げるためとはいえ、さすがに正義の勇者様がやべぇクスリをキメるわけにもいかない。
計算ドリルも俺が作れば問題ないレベルのものだし、賢さに関してはここでどうにかなるわけではなさそうだな。
というか、馬鹿メンバー共の賢さが上がってしまった場合、その結果として存在感の薄くなる仲間が出てしまうかも知れない。
それはダメだ、勇者パーティーは一定割合が馬鹿だからこその勇者パーティーなのであって、その絶妙なバランスを崩すのはあまり芳しいこととは言えないはずだ。
ということで賢さ上昇も諦め、その他のステータス補助、または強力な武器となるアイテムを探していく……と、またマリエルが何かを発見したようだ、今度はまともなモノであって欲しいのだが……
「勇者様、これはもう激アツですよ、特に私達にとっては」
「何だそれ? おぉっ! 携帯食作成用の魔導乾燥機か」
「そうです、これで移動中に馬車の窓から肉を吊るして乾かすことをしなくても良くなります」
「これは貰いだな、となるとあとひとつ……何にしようか……」
格納庫内を見渡す、良く見ると上に大戦時のものと思しき戦闘機が吊るしてあるのだが、そういうモノは要らない。
セラ、マリエルと順にブツを選び出した、ということで未だ活躍していない俺が欲しいと思うものは……あった、捻ると無限に安酒が出て来る蛇口だっ!
高級な酒でないのは致し方ないとして、俺達勇者パーティーの財布を圧迫しているのは、半数以上が飲み、ドラゴンのリリィや供物だの何だのと言って毎晩酒を要求してくる精霊様などはとんでもない飲みっぷりである酒なのである。
もしこれが無限となれば、1日当たりおよそ銅貨3枚から5枚程度の節約になる、となれば最低でも週に銀貨2枚程度、1ヶ月あれば金貨に手が届くほどのコストカットだ……
「おい女神、最後のひとつとしてこの伝説の蛇口を頂く、使用上の注意とかそういうものはないのか?」
「特にありませんよ、普通に壁とかに設置すれば無限にお酒が出ます」
「そうか、これで報酬は3つ揃ったな、最後にお前、ちょっとジャンプしてみろ」
「え? あ、はい、こうでしょうか……」
報酬を全て選び終えたものの、最初にミラが要求していた『現ナマ』はまだ手に入っていないのだ。
訝しげな表情でジャンプを繰り返す女神の揺れるおっぱい、ではなくポケットから鳴り響くジャラジャラという音。
すかさず襲い掛かり、そして取り押さえ、服を剥ぎ取る勢いでポケットというポケットをまさぐる……金貨が1枚、それに銅貨が数枚出て来た、どれもこの世界で使えるもの、あとは転移前の世界で流通していた紙切れが数枚、これはケツを拭く紙にもならないのでゴミ箱行きだ。
「じゃあな女神、また用があったら呼ぶから、そのときにはもっと沢山の『上納金』を用意しておけよ」
「ひぃぃぃっ! 2つの世界で使う1か月分のお小遣いがっ!」
「何だお前小遣いで金貨消費してんのかよ、誠に良いご身分だな、セラ、追加報酬としてそっちの『食品コーナー』にある生ハムの原木と、それからビーフジャーキー100kgも貰っておこう、手分けして運び出すぞ、お、あとそっちのケーキセットもだ」
「ええ、これで皆の分のお土産も確保出来たわね、じゃあ女神様、私達はこれで失礼します、ありがとうございました~っ」
「ひぃぃぃっ! 余ったら貰っちゃおうと思って狙っていた1か月分のおつまみがっ!」
「いや1ヶ月でどんだけ食うんだよお前は……」
泣き叫ぶ女神を無理矢理に立たせ、元居た王の間へと転移させる。
戦利品を馬車に積み込み、意気揚々と屋敷に戻った俺達は、その晩早速手に入れた蛇口で大宴会。
翌朝、神界からの請求書が『酒代金貨3枚』を支払うべきものとして、二日酔いで目覚めた俺の枕元に召喚されていたのであった、有料なら注意事項に含めておけよな……




