476 救出
「はいは~い、偉い偉い勇者のお兄さんがみんなを助けに来ましたよ~っ!」
「ちょっと、勇者様はビビられてるわよ、ここは私達に任せるか、一遍死んでもう少し優しくて安全そうな感じに転生してきなさい」
「たまに酷いこと言うよなセラは……」
ヴァンパイアによる人族の子どもや獣人の収容施設、そこの所長をブチ殺し、副所長を捕らえたうえで、その他の雑魚も女の子を除いて皆殺しにした俺達は、いよいよ被害者達が収容されているという地下にやって来た。
ズラッと並ぶ牢屋、しかもひとつの牢に10人以上を収容している超過密状態。
普通に犯罪者を収容する施設であったとしてもこれは人権侵害だと騒ぎ立てる奴が居そうな状況だ。
しかもここに収容されているのは漏れなく、犯罪者によって拉致され、ヴァンパイアに買い取られたかわいそうな被害者ばかりなのである。
それを毎日生き血を搾り取るのみならず、こんな所に放り込んでいたとは、あの所長やその他のヴァンパイアはもう少し残虐な方法で殺してやる、いやここまで生かしたまま引き摺って来て、被害者の目の前で切り刻んでやるべきであったか。
まぁ、もう殺してしまったものはどうしようもない、せっかく5人捕らえているのだし、この女の子ヴァンパイア達を被害者の前で痛い目に遭わせる感じでいこう。
と、今は牢屋からの被害者の解放が先決だ、どうやら本当に恐がられている返り血塗れの俺や完全に悪魔であるユリナやサリナではなく、親しみ易い感じのメンバーを選抜して解放作業に当たらせた。
その間ユリナとサリナは外へアイリスとエリナを呼びに、俺は捕らえてあるヴァンパイア5人を、特に巨大おっぱいの副所長が逃げ出さないようガン見しておく。
「おいお前等、被害者はこのフロアに居るだけで全部なのか? 他に隠していたりとかしたら承知しないぞ」
「あの、そういえば血の採取を出来ない方々が居たような気が……確か施設の発足当初に連れて来て、針でチョンッと刺したら瀕死の重傷を負ってしまう方々ばかりだったそうで、確かこの下のフロアに……」
「針でチョンッで瀕死の重傷? そんな奴が……いや、そういえば居たな、ちょっと案内しろ」
「わかりました、え~っと、私もあまり気にしたことはないんですが、その方々が押し込まれている場所はだいたいわかります、こちらへどうぞ」
針で刺して血を出そうとした、つまりは採血をしたのであろうが、それで瀕死の重傷を負う人間など存在するはずがない、だがもちろんそれは通常の感覚での話だ。
ついこの間、村単位でその常識が通用しない人々に出会ったばかり、そして当該村では女性があまりにも少なかったことが記憶に新しい。
副所長に案内され、ひとつ下のフロアへ降りると、壁にはショックを吸収する綿が張り巡らされ、床もやわらかな素材で出来た不思議な空間に到着した。
そしてその空間の隅には数十人の女性、こちらは子どもや獣人というわけではなく、一般的な大人の女性から少女と呼べるぐらいの見た目の者まで様々である。
この時点ではまだヨエー村の人間かどうかに確証が得られなかったのだが、手近な所に居た1人に名前と出身地を聞くと、名前は知らない、そして出身地も『村』としか答えなかった。
この知識というか当たり前のことをまるで知らない感じ、もう確定だ、この女性らはヨエー村から来た、というかおそらく仙人共が金を得るために売り払い、ここに連れて来られたのだ。
「う~ん、この人達は外に出すと逆に危険だろうからな、ちょっとしばらくこの部屋で待機して貰おう、おい副所長、このフロアには他に何もないのか?」
「えと、ここに居る人族の方々の食事を作る厨房と、それから言うことを聞かなかったり脱走を企てたりした方にお仕置きする部屋がありますが」
「そうか、それはどちらも重要だな、これからしばらくの間、食事はお前等5人で分担して全員分作れよ、もちろん俺達の分もな、あと粗相があったら、いやなくても全員お仕置きだ、覚悟しておけ」
「ひぃぃぃっ、そんなに沢山の料理を5人でですか……ちょっと無理があるんじゃ……」
「おっと、口答えするならこのままお仕置き部屋に直行だな、ちなみに連帯責任だから、お前のせいで他の4人も痛い目に遭うぞ」
「ご、ごめんなさいっ! どうか今のはノーカンでお願いしますっ!」
とりあえずこの場だけは許してやることにし、再びひとつ上のフロアに戻る。
そこでは既に残り4人のヴァンパイアが全裸に剥かれ、比較的年長と思しき獣人の被害者達に取り囲まれているところであった。
上目遣いでこちらを見つめ、助けを求める副所長、だが未だに首ぶら下げている賢者の石の効能によって、サキュバスの魅了すら跳ね返す俺に、哀願作戦は通用しないということをこの副所長は知らない。
助けて欲しくばおっぱいをポロリしてアピールすべきであったな、まぁ全裸に剥かれるのが嫌であるならば、そもそもポロリすることが嫌である可能性は非常に高いが。
「はい、ということでお前も行って来い、もちろん全裸でなっ!」
「ひゃっ、イヤァァァッ! どうかお許しをぉぉぉっ!」
副所長の衣服を全て引っぺがしつつ、背中の羽をどのようにして上着から出しているのかを確認しておく。
なるほど、全ての服にはザックリとスリットが入り、そこに羽を通した後にボタンで留めているのか。
今後ヴァンパイア用に服を用意してやることがあるかも知れないし、この方式はミラとアイリスに覚えさせておこう。
などと考えつつ、全裸になった副所長を被害者の群れの中へと放り込む。
早速髪を引っ張られ、頬を平手打ちされているようだが、やったことがやったことだけに同情の余地はない。
こいつらは罰としてしばらくこのままにしても構わないであろう。
かなり力のある、そして生命力の高い5人のヴァンパイアが、獣人とはいえ戦闘経験のない人族の攻撃でどうかなってしまうこともあるまい。
もちろんこれが終わった後はすぐに食事の準備、さらに俺に対してぬいぐるみ爆弾を投げるという危険な攻撃をしてきた美少女ヴァンパイアには追加のお仕置きだ。
「さて勇者様、これからどうしようかしら?」
「そうだな、まずはミラとアイリス、すまないがやはりあの5人だけでここに居る全員の食事を用意するのは無理だ、ちょっと手伝うか、それか被害者の中から料理が得意な者を選抜して調理部隊を編成してくれ」
「わかりました、じゃあアイリスちゃん、すぐに取り掛かりましょ」
「あ、は~い」
ミラとアイリスはまず、下のフロアへ降りて厨房の様子を確認するらしい、何人入ることが出来るか調べるとのことだ。
次に施設の外へ出て、マリエルが持参していた金の伝書鳩を飛ばし、ここへも王国軍を派遣するよう要請する手紙を王宮に送る。
おそらくは1週間と少し程度で軍が到着、救出した被害者達を王都まで連れ帰り、そこから自宅に戻る手はずを整えてくれるはず。
俺達はそれまでここに滞在しつつ、ヴァンパイアそのものの弱点や、北の四天王固有の弱点を探っておこう。
ついでにここからしばらくの間共同生活を送る被害者達の中から、リーダーとなるべき者を選抜……それは年長者を何人か出して頑張って貰えば良いか……
「じゃあこれから勇者様と私、それからルビアちゃんの3人で下のフロアを、それで残ったメンバーは地上の方を探検しましょ、まだ行っていない場所に色々あるかも知れないわ」
「そうだな、てか風呂もまだどこにあるのか知らないし、最低でも1週間はここに居ると考えたら全部見回っておきたいところだな」
ということで俺とセラ、ルビアの3人は、特にこれといった情報がなさそうな下のフロアへ。
聴覚や嗅覚に優れるカレンとマーサ、そして頭のキレる他のメンバーは情報が豊富そうな地上階へと向かった。
ここの見張りは王宮宛の文書をモタモタ作成しているマリエルと、いつも通りやることがなくボーッとしているエリナ、あとなぜかヴァンパイアへのリンチに参加しているリリィに任せてしまえば良いであろう。
5人のヴァンパイアをボコッている被害者達も当分飽きる様子はないし、食事の準備が完了するのもまだまだ先になりそうだ。
今のうちに色々と回り、食後は風呂に入って寝るだけの状態にしておこう……
※※※
「あ、ご主人様見て下さい、きっとここがお仕置き部屋ですよ」
「いやルビア、どうしてわかるんだよ? 看板も何も出ていないのにさ」
「いえ、かなり防音性の高そうな扉、それからほら、扉の横には爪を立ててここへ連れ込まれるのを阻止しようとした跡がありますから、この扉の向こうがお仕置き部屋で間違いないかと」
「その推理力を普通の場面で発揮して頂きたいところだぜ……」
とりあえず扉を開けてみたところ、ルビアの推理は完全に正解であったことが判明する。
壁には革で出来た痛そうな鞭が並んで掛けられ、X字の磔台、それに何に使うのかまるでわからない器具が所狭しと置かれていた。
攫って来てこんな所に閉じ込めておいて、生き血を抜かれるのが嫌になって逃げ出せばここで鞭打たれる。
それでは被害者が怒るのも無理はない、あの5人はまだ当分の間解放されることがなさそうだな。
「ひぃぃぃっ、き、効くっ、この三角木馬相当にキツいわ……」
「いでっ、あいたっ、ご主人様、この鞭はなかなか強烈ですよっ」
「いや何やってんだこの変態共が、遊んでる奴はこうだっ!」
『いったぁぁぁぃっ!』
勝手に三角木馬に騎乗しているセラと、壁に掛かっていた鞭で自分の背中を打ち始めたルビア。
罰として俺も適当な鞭を手に取り、2人の尻に思い切り叩き付けてやった。
しかし効果はイマイチのようだ、どうやら俺が手に取った鞭は、魔力を流し込んでパワーアップさせて使うものであったらしい、これは後で精霊様辺りに使わせよう、主にヴァンパイア5人から情報を引き出すのに使えそうだ。
その後、フロア内の全ての部屋を回って風呂も発見した俺達は、元居たフロアのマリエルとエリナの所へと戻る。
被害者達の方はまだ数人がヴァンパイア達を取り囲み、ビンタしたり頬を抓ったりしているのだが、大半はもう疲れ、横で休憩するか小さい子の面倒を見るかしているようだ。
ついでに先程ミラとアイリスがやって来て、料理が出来る者を20名募集して再び地下へ降りて行ったという。
きっともう食事の準備を始めているはずだ、あとはどこで食べるかだが……まぁ、人数が多い被害者達にはしばらくここで生活をして貰う他なさそうだな、ところで俺達は……と、ちょうど上を見に行っていたメンバーが戻って来た。
「おかえり、何かいいモノは発見出来たか? ちなみに今一番の課題は俺達が食事をする場所だ、風呂は下にあったからな」
「それなら上の階に豪華な食堂があったわよ、20人ぐらいは入れる感じだったし、私達はそこを使いましょ」
「あとお泊りする部屋もありました、結構綺麗だったしそこで寝れば良いと思います」
「そうか、これで色々と決まりだな、あとは王国軍の到着を待ちながらやるべきことをやるだけだ」
ちなみに地上の方にもひとつ、おそらくヴァンパイアの幹部用らしき風呂があったという。
かなり広いらしいし俺達はそこを使うこととしよう、地下に関しては完全に被害者の専用スペースとするのだ。
それからしばらく待つと、最後までヴァンパイアをリンチしていた獣人の少女が、スッキリしたような、そしてどこか疲れ切ったような顔で被害者仲間のところへ戻って行った。
取り残された5人は全裸のまま、必死で去って行く被害者達に向かって土下座している。
高貴な何とやらが実に哀れな姿を晒し、これからさらに受けるであろうとんでもない仕打ちに身を震わせている姿は滑稽だ。
しかしこの5人はどこに閉じ込めておこうか、一番下のフロアでも良いのだが、それだと主に施設の地上部分を使う予定の俺達が、何か聞きだしたいことがあってわざわざ出向かねばならない。
ここは念のため、常に監視しつつ俺達が宿泊する部屋に置いておくべきだな。
もちろん今日も拷問なり尋問なりして情報を得たいし、このまま上に連れて行こう。
叩かれたり引っかかれたりして傷だらけの5人をルビアに治療させ、そのまま縛り上げて地上階へと連れ去った……
※※※
「勇者様、そろそろ食事の準備が完了しますよ、かなり手間取りましたがどうにか全員分間に合いました」
「そうか、ありがとうミラ、ちなみに明日からはこの馬鹿共にも手伝わせてやってくれ」
『何卒よろしくお願い致しますっ!』
「わかりました、でも邪魔だったら容赦なく張り倒すのでそのつもりで」
『へへーっ! 承知しましたでございますですっ!』
ちなみにヴァンパイアも普通の食事をするとのことであったので、申し訳程度に食べさせてやることにした。
もちろん料理のグレードは最低ランクだ、俺達がフルコース、そして救出した被害者達が満漢全席だとすれば、この5人にくれてやるのは具ナシのインスタント麺、それも未調理でパリパリのものである。
それでもありがたいと言って全て食べつくした5人のヴァンパイアに命じて風呂を汲ませ、俺達の入浴、そして5人の丸洗いが終わったところで、いよいよ情報の引き出し作業に移った……
「おい、まずはお前だ、ぬいぐるみ爆弾など使いやがって、お仕置きしてやるからこっちへ来いっ!」
「ひっ、ご、ごめんなさい……あうっ、いてっ、ちょっとっ、ひゃぁぁぁっ!」
「どうだ痛いか? 尻を叩くのをやめて欲しければひとつ質問に答えろ」
「はいっ、何でも答えますからとりあえず叩くのやめてっ!」
「そうか、じゃあヴァンパイアの弱点を具体的に教えろ」
「弱点? え~っと、う~ん……ニンニクと銀と……そんなところかしら、ちなみに日光に当たっても平気なのよ」
よく言われる十字架にも、この世界のヴァンパイアは耐性があるようだ。
そして銀も触れるだけなら特に問題はなく、刺されるなどして体の中に入ると激痛を伴い、弱い固体はそれだけで死ぬとのこと。
もちろん今俺が抱えているこの美少女ヴァンパイアも、それに副所長他残り4人も、そして当然全ての元凶である北の四天王カーミラも、多少銀の槍で突かれたぐらいでは死んだりしないという。
つまり、カーミラを生け捕りにするに際して、先端の尖った純銀製のアイテムを飛び道具などとして使う、或いは武器の先端に装着して攻撃するのが良さそうだ。
ついでに前日はニンニクをあり得ないぐらい摂取しておこう、口の臭いで戦うというのはあまり勇者らしい戦法とは言えないが、今回は強敵ゆえそんなことを言っていられない。
「よし、じゃあお前はそろそろ許してやろう、次は副所長だ、尻丸出しでこっちへ来るんだな」
「あ、あのっ、質問にはキッチリ答えますから、その……恥ずかしいお仕置きはご容赦を……」
「ダメだ、だがどうしてもと言うのなら叩き手が俺じゃなくて精霊様に変わるチャンスをやろう」
「ええ、何でも答えますから、そのいやらしい視線で私の方を、特におっぱいを見るのはやめて下さい」
「じゃあ質問、お前クラスになるとカーミラ本人に会ったことがあるとは思うんだが、奴がヴァンパイア以外の種族に対して秘密にしているような弱点を知っているだけ答えろ」
「あの方の弱点……弱点……ヴァンパイアなのに人が出血しているのを見ると倒れるってことぐらいですかね……」
「いや致命的だろそれはっ! 何考えて生きてりゃそうなるんだよマジでっ!」
とんでもないことを知ってしまった、まさか最強のヴァンパイアが『血を見ると倒れる』タイプであるなど、誰がそんなこと想像しようか。
まぁ、間違いなく『血そのもの』を見て倒れるのではなく、誰か、もちろん自分を含む生きている人族や魔族が出血しているのを見て倒れるのであろうが。
しかしそれで『人や動物を殺して生き血を搾り取ること』を禁じたという可能性はあるな。
単なる世間知らずというだけでなく、その血を絞っている状況を想像してしまったのかも知れない。
だがもちろんそのトンデモ命令のせいで、離れた地域に住んでいる本来は無関係の子ども達が酷い目に遭ったという事実は消えないのだ。
本人にはキッチリ責任を取らせなくてはならないし、場合によっては被害回復のための作業を自分でやらせるということも考えられる。
とにかく『血を見せる』ということで相手の力を大幅に削ぐことが出来るというのであれば、それを作戦の一貫に加えないという手はない。
で、その後もヴァンパイア達を叩いたり抓ったりして拷問していくものの、これといって有力な情報は得られなかった。
仕方ないので布団に入り、1日戦った分の疲れを癒す。
翌朝は思ったよりも早くに目を覚ました、いや、目を覚ましたのではなく起こされたのだ。
『すみませーんっ! ちょっとお話があるので開けて下さーい、昨日救出された中に居た狐獣人の一派でーっす』
「ん? 狐獣人だってよ、となるとこの次に向かうべき場所の人達ってことだよな」
「そうよ、ちょっと開けて、いや鍵なんか掛けてないわ、はーいっ! どうぞ入って下さーい!」
ドアを開けて現れたのは狐獣人と言われれば確かにそうだと答えるしかない少女。
カレンよりもひと回りモフモフ感が強い、これを沢山集めれば冬などまるで恐くない、ホットな生活を送ることが出来るはずだ。
「はいいらっしゃい、で、どうしたのかしら?」
「え~っとですね、私達も捕まってここに閉じ込められていたんですけど、迎えがなくても里は近所ですし、そのまま帰っちゃおうかなって」
「なるほどね、それなら勇者様、この子達に私達がそのうち里に行くって伝えておいてもらえば良いのよ」
「おっ、それもそうだな、じゃあ気を付けて、後で勇者パーティーが訪問することを村長だの族長だのに伝えておいてくれ、色々と聞きたいことがあるってな」
「というと、里に伝わる伝説とかに関してでしょうか? それなら資料を用意しておくよう頼んでみます」
「うむ、ではそんな感じでお願いした」
狐獣人の少女を見送る、どうやらその日のうちに出発するようで、昼前に外へ出ると整列して点呼を取っている最中であった。
このあとしばらくしたらこの子達の里へお邪魔することになる、俺達が魔王軍の次に追い掛けることになる魔界がらみの事件に関して、有力な情報を得られると良いのだが……




