45 幽霊の情報
「ご主人様、足が痺れました、眠たいです」
「ご主人様、足が痺れました、眠たいです」
「ご主人様、足が……」
「ルビア、静かにしろ何時だと思っているんだ」
「放置されるのは辛いです、せめて少しだけでも構ってください」
「ダメ、これ以上喋ったら明日は一度も話しかけてやらないぞ」
「・・・・・・・・・・」
ようやく静かになった、カレンとリリィはよくこんなんでグースカ寝られるもんだ、相当に神経が図太いのであろう。
ほんの少し眠ったような眠っていないような、といったところで朝になってしまった。
仕方が無いのでルビアを解放し、少し寝ても良いと伝えておく。
他のメンバーも起きて来たようだ、ミラはフラフラしていたため、保存食を持って来て朝食とする。
ジェシカも寝かしたらしいので、ミラも寝て来いと言って退室させた、というか干し肉を齧りながら半分寝ていた。
「マーサ、今からウォール家に行ってマトンに今日来るように言って欲しい、研究所は定休日のはずだからな、お出掛けされる前に捕まえておこう」
「わかったわ、すぐに行って来る!」
しかし早いな……100メートル走なら6秒前半といったところか、一般人の半分以下のタイムだろう。
部屋に戻り、馬鹿ヅラで眠っていたルビアに落書きしていると、もうマーサが戻ってきた。
「今からシールド君と一緒に馬車で来るって!」
朝は馬車道が渋滞するからな、1時間ぐらいしたら来るだろうか?
しかしシールドも来るのはラッキーだな、魔将補佐討伐の確認が取れる。
ギロティーヌの方は既にユリナとサリナが拷問部屋にご案内して待機させているという。
「じゃあマトンたちが来るまで待機だな、マーサ、ルビアに落書きしてやろうぜ!」
「私は落書きするよりもされる方が好みなんだけど?」
マーサの尻に顔を描いてやった、動く度にぷるぷる揺れて面白い。
何が良いのか知らないが、窓に映った自分の尻を見てご満悦だ。
ついでだと言って尻尾をぽふぽふさせてもらった。
「ねぇ、ここで騒ぐとルビアちゃんが起きちゃうわ、かわいそうだから私とマリエルちゃんの部屋で遊ばない?」
「お前らの部屋はここよりも遥かに汚いだろ」
「今は片付いているわよ、マリエルちゃんも1人で暇だろうし、行きましょ!」
2人の部屋は想像を絶する汚さであった、片付けたのは一昨日である、既にごみが散乱しているのだが……
真ん中のベッドでエッチな本を読んでいたマリエルにデコピンを喰らわせてやった。
散らかっているのは菓子の袋、そして菓子を食べるのはマリエルである。
落ちているエッチな本はマーサのだな。
とりあえずマリエルを捕まえてお尻ペンペンする、マーサがニヤニヤしながら順番待ちをしている。
この2人、俺に叱られる為にわざと部屋を汚していたようだ、でなければ2日でこんなに菓子の袋が落ちている訳がない。
「はい、マリエルは終わり、次はマーサだ」
「マリエルはちょっと片付けをしていろ」
マーサもマリエルも嬉しそうだ、計画成功といったところであろうか。
何を計画しても構わないが、実際に部屋を汚すのはやめて欲しい、というかマリエルは今のそれが片付けのつもりなのか? どんどん散らかってるぞ!
ノックの音がする、セラのようだ。
「お楽しみのところ悪いけど、マトンちゃん達が来たわよ~」
セラがこちらを睨んでいる、あさっての方角を向いて口笛を吹いておいた。
口笛は吹けないんだった、空気が漏れてスースー言っている。
「やあ勇者殿、貴殿、また魔将補佐を捕らえたようだな、大活躍じゃないか」
「たまたまさ、魔将を討つときには協力を頼むかも知れないが、構わないな?」
「大丈夫だ、いつでも言って欲しい、で、マトンをいじめていたというのはコイツか?」
ギロティーヌは既に磔にされていた、もはやごめんなさいと許してください以外の言葉は忘れてしまったのかも知れない、と思ったら急に饒舌になった。
『あの、今すぐ何でも白状しますから、どうか拷問だけはしないで下さい、別に魔将のことなんかどれだけ裏切っても構いません、だから私だけは助けてください、お願いします、お願いします!』
クズの鏡として洗面所に設置してやりたい……
「ダメだな、まず拷問してから話を聞くことにしよう、今何を話しても甚振った後にもう一回聞くから全くの無駄だぞ」
『ではせめて命だけはお助けください、お願いします、お願いします!』
「じゃあサリナ、マトン、2人はコイツに何をされたか言ってみようか」
証人①:サリナ
・毎日パシられた、買わされたのは飽きもせずに焼きそばパン
・部屋の合鍵を変な奴に渡された
・背中に馬鹿と書かれた紙を貼られた
・机に虫を置かれた
・尻尾を引っ張られた
・蹴られた、叩かれた、カンチョーされた
証人②:マトン
・お金をせびられた
・靴を隠された
・着替え中にドアを全開にされた
・キモい奴に告白させられた
・野菜ジュースを勝手に飲まれた
・蹴られた、叩かれた、カンチョーされた
「うむ、勇者殿、これは死刑でよろしいかと」
「そうだな、むしろこれだけやって拷問と処刑だけで済まされることを有難いと思って欲しい」
まずはサリナとマトンが鬱憤を晴らすことを優先した。
磔にしていたのを引き摺り下ろし、マーサとユリナでうつ伏せに押さえつける。
そこへ2人が連続カンチョーをお見舞いした、悶絶するギロティーヌ、だがこれは小手調べに過ぎない、徐々に目を背けたくなるような光景へと変わっていった。
マトンが持ってきた研究所謹製の対魔族グッズを出してきたところで、セラが耳打ちしてくる。
『勇者様、見てられないんでしょ、コレ』
『うん、ちょっと気持ち悪くなってきた』
『じゃあ2人で部屋を出ましょう、上手く誤魔化せると思うわ』
「ちょっと勇者様を借りるわね、2階に居るから何かあったら呼んでちょうだい」
セラのファインプレーにより、皆の前で嘔吐するという最悪の事態は避けることができた。
魔族でも手の指はあそこまでしか……思い出してしまった、気持ち悪い。
「全く、勇者様は本当にグロ耐性が無いわね、元居た世界でも公開処刑ぐらいはあったでしょうに」
無いんですよ、一部の地域を除いては、昔はどこでもやってたんだろうけどね……
俺も戦闘中とかは平気なんだけどな、アドレナリンがどうこうの違いなのであろうか?
「すまんなセラ、またああいう状況になったらさりげなく救助してくれ」
「良いわよ、ところで勇者様、さっきマーサちゃんとマリエルちゃんの部屋で何をしていたのかしら?」
「あいつらの部屋があまりにも汚くてな、それで、やっていた事ぐらいはわかるだろ?」
「さぁ? わからないわね、とりあえず私にも全部やってちょうだい」
とりあえず全部とのことであったので、尻にクマさんを描いてやった、動いても全然揺れない、本当につまらない奴だ。
そして言われた通りにしたはずなのに殴られたようだ、天井が見えたと思ったら今度は床が見えた、衝撃で回転しているのか?
布団に包まって寝ていたルビアが起きてしまった、セラのせいだ。
殴られて吹き飛んだ俺の、顔の落下地点はルビアのおっぱいの間となった、セラのおかげだ。
「あらご主人様、いつも寝ている間にこんなことしていたんですね、言えばいつでもさせてあげますよ」
完全に誤解されてしまった、セラのせいだ。
「まぁ! セラさんまでお尻丸出しに、可愛いブタさんですね」
舐めるな、クマさんだ!
「ルビアにも描いてやるぞ!」
人の描いたクマさんをブタさんなどと揶揄したルビアの尻には、本当にブタさんを描いてやった。
窓に映るそれを見てルビアが言った。
「ウフフッ! コレ私の似顔絵ですね、上手ですよ~」
そう思っているのであればそれで構わない、だが人としてそれが似顔絵で納得するのは如何なものであろうか?
おや? ノックだ……
「あ、ルビアさん、もう起きてたんですね、ちょっと回復魔法でリセットして頂きたいんですが」
おいマリエル、何だリセットって、何をしてどのような状態になったと言うのだ?
まぁ、気持ち悪いから聞かないでおこう。
ルビアと入れ替わりに、マリエルが部屋に残った、ルビアは服を着ずに行ってしまったが大丈夫であろうか?
「あの、マーサちゃんにも落書きしていましたよね、私にもお願いします、出来れば可愛いので」
マリエルにはウサギさんを描いてあげた、しまった、マーサにウサギさんを描くべきであったろうに。
ちなみにマリエルにはその絵が暴虐魔竜・ディザスタードラゴンに見えたそうだ。
何だそのヤバそうなドラゴンは?
「ところで勇者様、そろそろお昼ごはんにしませんか?」
「そうだな、皆をここに集めろ、ミラはまだ寝ているだろうから適当に済ませよう」
椅子を並べ、全員を集合させる、もちろんまだ寝ているミラとジェシカを無理矢理起こしたりはしない。
カレンがジェシカを叩き起こしに行こうとしたのも止めた。
「ところでギロティーヌはどうしてるんだ?」
「下に放置してあります、研究所から持ってきた『破邪魔』を着せてありますから、それなりの拷問は続いていますが」
破邪魔は研究所で作られた魔族拷問用グッズであり、寝巻きの内側からトゲトゲが生えている。
動こうとするとそれが刺さって痛いため、基本的にじっとしている他ない。
温厚なマトンがここまでするということは、それはもう想像を絶するほどイヤな奴であったということだ。
昼食はマトンが在り合わせの材料でサンドウィッチを作ってくれた。
ちゃんとハムにベーコンを挟んだ肉だけの肉サンドウィッチも作ってあるのが凄い、カレンとリリィは大喜びだ。
俺もパンだけの部分を食わされなくて大喜びだ、こいつらは寿司ネタだけ外して食う系女子だからな。
「よし、午後は奴に情報を吐かせよう!」
※※※
『いでっ! あの、そろそろ終わりにして……いだっ!』
動く度にトゲトゲが食い込んでいるようだが、血は出ていない、泣いているようだが涙は出ていない。
リアル血も涙も無いというのかコイツは……
「とにかく魔将の住所と氏名、生年月日と趣味・特技、それからスリーサイズと性癖を暴露して貰おうか」
『ゆうれい魔将様に名前はありません、今は東の国に居るとか、趣味と特技はどちらも憑依です、それ以外は知りません、スリーサイズなんてあんな貧乳に聞けるものですか!』
「おいユリナ、あおの『あの子』に名前が無いのは本当か?」
「ええ、魔王様は『レーコ』と呼んでいましたが、それ以前は名前がありませんでしたわ」
幽霊のレーコか、日本人らしい実に安直なネーミングである。
「で、その憑依ってのは取り憑くってことだよな? 具体的にどんな感じなんだ?」
「そうですわね、普通に人間の姿をしたままそれを完全に支配して操りますわ」
「もっともご主人様のような霊力の低い人間となると、霊体が納まりきらずに破裂してしまうでしょうね、物理的に」
すげぇ怖いんですけど!
何それ? 憑依されて破裂するとか聞いたこと無いぞ、どんだけ強力な霊なんだよ!
「まぁ良い、以降そいつの事は『レーコ』と呼ぶこととしよう、マリエル、東の国で可能性が高いのは何て国だ?」
「そうですね、おそらくですが聖女様が居るプルン聖国が有力な気がします」
「わかった、もし違っていたらマリエルを寄り代にしてレーコを降霊しよう、それでマリエルごとボコボコにすれば良い」
「女神様、どうか魔将レーコがプルン聖国に居ますように、違ったらとんでもないことをされてしまいます!」
マリエルが女神に祈り出した、あいつに何を言っても無駄だと思うがな。
『というかこれだけを聞くために今まで私を拷問したんですか!?』
「そうだよ、ちなみに今から処刑するから、よし、王都の外に出よう、こんな不快な奴を町の中で殺したくない」
『おゆるしをぉぉ~』
ギロティーヌを引き摺って王都の外に出る、ちょうど最初にメテオストライクを試したところにいい感じの穴が空いていた。
誰だ、こんな所に穴を掘ったのは!
「ここにしよう、ジェシカ、お前が倒したんだから権利があるぞ、殺れっ!」
完全に寝起きのジェシカに剣を渡す、フラフラしているが大丈夫か? 寝不足なのか?
『待って下さい、せめて最後に今まで嫌な思いをさせてきた方々に謝罪をさせてください、どうかそれだけ時間の猶予を……』
ふむ、改心したのか? そこへサリナの物言いが入る。
「ご主人様、コイツが今まで嫌がらせしてきたのは300年間で5万人ぐらいです、まだ全部の謝罪が終わっていないとか言って処刑を先延ばしにするつもりですよ!」
どんだけイヤな奴なんだよ!
見た目はそこそこなのにもったいない限りである。
「もう待たないからな、ジェシカ、早く殺れ!」
ジェシカは剣を構えながらヨロヨロとどこかあさっての方角へ行ってしまった。
スイカ割りみたいになっているのだが?
近づくと酒臭い、朝方飲んでから寝たのであろう、寝不足とのダブルパンチでこうなったのだ。
『早くっ! 今覚悟が出来ています! やるなら早くしてください!』
その言葉に反応したジェシカが近づいて行き、剣を振るう……
剣は頭に掠り、金色の髪の毛がハラハラと地面に落ちた。
『ぎぃぇぇえぇぇぇっ! やっぱ無理っ! 許してください、許してくださいっ!』
また暴れ出した、ユリナとマーサが地面に押さえつける。
固定された的に、次にジェシカの一撃は正確に決まった、首と胴体が離れ、胴体の方は光の粒となって霧散した。
最初に出会ったときと同じ見た目になったのだ。
「どうして首は消えないんだろうな?」
「さぁ? そういう仕様なんじゃないかしら」
『あの……』
「マーサ、今何か言ったか?」
「何も? ユリナじゃないの?」
「私も何も言っていませんわ」
『あの……落ちている首です、ただの首ですが……少しよろしいでしょうか?』
ギロティーヌの首が喋っていた、どうやって喋っているんだ、そういう仕様か?
ミラ、ルビア、ジェシカの3人は当然におもらしした、これは妥当である。
首を拾い上げてやる、うん、血は出ていないが普通の生首だ、気持ち悪いからセラに持たせよう。
マーサがなぜか笑っている、このキモい現象がそんなに面白いのか貴様は!
『なぜか死なないんですけど……体復活しても良いですか?』
「とりあえずダメだ、そのまま大人しくしていろ」
『わかりました、もう痛くはないので大丈夫です』
「ユリナ、これはどういうことなんだ? コイツ、不死じゃないよな?」
「おそらく本体は霊体で、それに体を持たせただけの妖怪ですわね、どうしようもありませんわ」
「よし、面倒だからこのまま王宮に持っていって献上しよう、駄王ならきっと部屋に飾ってくれるはずだ」
とりあえず復活されないようにジェシカの剣に刺しておいた。
ジェシカは敵将を討ち取って首を掲げているみたいになり、凄く嬉しそうだ。
おもらししてるけどな。
その状態のまま王都に帰って行くことになった。
※※※
「おいっ! 目を瞑っていろ、もっと討ち取られた武将の首感を出すんだ!」
一旦勇者ハウスに向かう、町の人々の視線が痛い。
またおもらししてる子が居るじゃない、というのがこちらを見ている人々のコソコソ話の内容として多くを占めているようである。
本当に恥ずかしい限りだ、大体どうして処刑した側がおもらししているんだよ。
城門で馬車を捕まえて、マリエルだけ王宮に行かせてある。
この首の処分をどうするかを向こうで検討して貰うためだ、正直もう関わりたくない。
屋敷に着いたので剣に刺したままの首と会話する。
「で、反省したのか?」
『それはそれは、もう大変、これでもかというぐらいに深く深く反省致しました、ですから体を戻しても良いですか? あと帰っても良いですか?』
「ダメだな、ちっとも堪えていないようだ、サリナ、マトン、落書きしてやれ!」
『そんな殺生な! やめてください2人共、復讐は醜いですよっ!』
醜いのはあなたの心です。
自業自得のギロティーヌは顔中にウ○チの絵を描かれてしまった。
汚い物を描いたマトンがシールドに叱られている、デコピン3回で許して貰えたようだ。
サリナには俺から尻尾の先に洗濯ばさみをプレゼントしておいた。
俺も聖棒で首を突いてみた、バチバチと音がして悶絶しているが、死にはしないようだ。
やはり王宮で保管して貰うのがベストであろう。
マリエルが帰って来た、後ろに付いて来た2台目の馬車は、以前帝都で鹵獲した牢付きの馬車である。
「勇者様、その子は王宮の魔力を奪う牢屋に入れておくことになりました、体を戻してもよいそうですよ」
顔中ウ○チの落書きをされた首を剣から外し、無造作に空中へと放り投げてやる。
光の粒が集まって来て、ギロティーヌの新たな体を形成した、お約束の全裸である。
念のためマリエルが持ってきた魔力を奪う手枷を嵌め、もう一度サリナとマトンに謝らせる。
「イヤです、絶対に許したりなんかしません!」
「毎日3通謝罪の手紙を送れば100年後に許します、裏紙をメモ紙にしたいので片面だけの記載でお願いします」
当然だが許してもらえる可能性はゼロである、残念な奴だ。
牢の馬車に入れられて連行されるギロティーヌ、これからはドS変態看守が毎日世話をしてくれるそうな。
良かったではないか、楽に暮らせるぞ! 焼きそばパンも食べさせて貰え!
「さて、サリナもマトンも、内部的にはもうこれで許してやれよ、少しは反省したであろう」
「そうですね、スッとしました!」
「私はシールド様が許すなら許すし、許さないなら許しません、どうしますか?」
「いや、僕に聞かれてもな……そうだ、勇者殿が許すなら許そう!」
結局俺に回ってくるのかよ!
「まぁ、死ななかったとはいえ一度は死刑にしたわけだし、許してやることにしよう、この後の態度次第ではまた処刑するがな!」
後ほど聞いたが、マーサだけはあのギロティーヌが処刑されたぐらいでは死なないということを知っていたそうだ、当の本人は知らなかったようだが。
ムカつくので殺す勢いでボコボコにしたことがあるらしいが、なぜか死ななかったのだという。
今回は部下であるマトンや友人の妹であるサリナのの気を晴らさせ、かつ恨んでいた相手を許させるため、あえて黙っていたらしい。
マーサは自分のその行為をカッコイイと思っているらしかった……




