452 あれもダメこれもダメ
「おい村長、お前ずっとここで食糧を貪っていたのか?」
「ああそうじゃ、で、お前さん達は何じゃろうか?」
「もう顔を忘れたのか、お前はとことん馬鹿だなこのクソゴミ村長が」
「はて、なぜか褒められてしまったようじゃの」
「褒めてねぇよっ! もう良いわお前等……」
仙人のアジトを制圧し、まずはヨエー村に戻った俺達が見た光景は、相変わらず村の前で食糧を貪り続ける村長と、俺達が来訪した仙人を殺害した当時偶然そこに居た連中の姿であった。
もちろん村長以下全員が、なぜ自分がそこで食事を始めたのか、それは誰の指示によるものであったのかなどは失念しているはずだ、何と言っても狂魔獣から村を救ってやった俺達の顔すら覚えていないのだからな。
だが村長にしてもその他の村人にしても、俺達の後ろを付いて来た大賎人のおっさんがひょっこり顔を出すと、食べる手を止めてその場でヘコヘコしている、どうやらおっさんのことは忘れていないようだ。
「おいおっさん、俺達はこの連中の相手に不向きだ、これから大仙人一派に対する投石刑を執行するから、その旨と、それから仙人共は神様ではないという事実を今度こそ教え込んでおいてくれ」
「チッ、めんどくせぇな……だが投石イベントには俺も参加出来るんだろう? それなら頑張ってみるしかねぇな」
「もちろん村人筆頭として始球式をして貰う、長く痛め付けたいし、その後正式な公開処刑もしたいから、怒りに任せてノーバン剛速球で殺したりするなよ」
「ふんっ、こんな痩せ細った腕じゃ投石ぐらいで人殺しなんて出来やしねぇぜ、安心しときな」
カッコイイ感じで雑魚自慢をしてくるおっさん、臭いので早めに死んで欲しい。
おっさんに村長達を任せ、俺達は捕まえた仙人一派の最高責任者であるお姉さんを、ついこの間まで宿泊していた建物に連行した。
というか、このお姉さんにも名前を付けてやらないとだ、幼い頃に変態ロリコン仙人によって誘拐され、以降あんなわけのわからんアジトでその変態共の代表として扱われてきたのである。
良く考えてみればこのお姉さんも被害者だ、仙人共のやっていることを咎めず、それに協力するような調査や研究までしてきた時点で悪なのだが、一部に酌量の余地があるはずだ。
ここは一部減刑としてパンツだけ着用させてやろう、その旨告げるとお気に入りのパンツの中から今の気分だとしてネコさんパンツを選び出したお姉さん、全裸よりもさらに情けない姿になってしまったではないか……
「それで、私もその投石刑の受刑者にされる予定なのですか? せっかく着替えをしたのに、またおもらししてしまいそうですよ、本当に恐ろしく、逃げ出したい気分です」
「大丈夫だ、お前は賢者の石に関して情報の提供もしたし、大仙人一派の計画は奴等の独断専行といっても過言ではない感じだしな」
「では後程酷い目に遭わされると、それはイヤなので追加的な情報提供をします、この村に来て思い出したことなんですが、おそらく賢者の石の効果が発動すれば、この村の人々も徐々に元通りになるかと……」
「おっと、そういえば賢者は元々その目的で力を振るったんだよな、そしてあまりにも堕落した心を吸い込む過ぎておかしくなり、単なる乱心と勘違いされて封印されたと」
「あら、賢者の石に関して私とは別の角度から調べてあるようですね」
「うむ、だが封印解除の方法なんかはちんぷんかんぷんだったからな、これからも協力して、ちゃんと情報提供するんだぞ、そしたら100叩きの刑ぐらいで許してやる、女神がそれで良いって言ったらだけどな」
「まぁっ、通常だと八つ裂きや火炙りにされるということを考えると、それは大幅な減刑ですね、その程度で済ませて貰えるよう、凄まじい勢いでの謝罪と命乞いを仕掛けることとしましょう」
女神による裁きで何をするのかは知らないが、おそらくこの態度では舐めていると判断され、とんでもないお仕置きを喰らうのが確定。
一応女神には説明しておいた方が良いかも知れないな、これでも十分ビビッており、あまり追い詰めるとまたおもらししてしまう可能性が非常に高いということを……
と、それは良いとし今後の行動だ、今お姉さんが言ったように、賢者の石を発動させればこの村の馬鹿な連中が次第にまとも化する可能性は十分にある。
もしヨエー村の人々をこのまま一般的な人々が生活する次元に引き戻し、いきなり日常生活をスタートさせたとしよう。
間違いなく数日で死亡、というか働くことに対する強度のアレルギー反応で即死するかも知れない。
徐々にまともな考えを植え付け、『人間』というものが自分達が労働して、その対価で生活するということを理解させてやらねばならないのだ。
村人がまとも化するまでの教育係は……あの汚いおっさんで良いか、村人からの信頼も厚いのだし、全て魔k背手しまったとしても問題はなかろう、あとこれからは風呂にも入り、村人が徐々に人間性を取り戻していくのと平行して、おっさんも清潔さを取り戻していくことであろう。
そうと決まればまずは賢者の石の封印解除だ、そしてそれが終わればサキュバスボッタクリバーを始末しつつ、南の四天王アンジュの城に乗り込んでこれを討伐。
このヨエー村のこと、そしてこの村を含む別次元に飛ばされた地域のことに関してはその後だ。
当該別次元と、それに今回の事案からまだ何か問題が生じるであろうことはもう察しが付いているのだが、これ以上南の四天王を放置するのもかわいそうなので先に構ってやらねばならない。
しっかりと動作する賢者の石と、ここにきて発覚した例の力を用いれば、サキュバスである南の四天王など恐るるに足りないのだから、この後すぐに城を目指しても差し支えないはずである。
そこまで考えたところで、やれやれといった表情のおっさんが入って来た、臭いので外で話して欲しいのだが、入って来てしまったものはもう仕方ない、とりあえず話を聞こう……
「村長の説得はどうにか終わったぜ、あとはあのクズ仙人共に石を投げ付けるだけだ、今村の連中を全員集合させて石を拾いに行かせたから、1時間後には始められると思うぜ」
「わかった、じゃあその場には俺達も臨席するから、村で最も高級な椅子を用意しておいてくれ」
「そんなもんねぇよ……」
椅子がないのは残念だが、俺達には仙人共に対する投石刑を見る権利、そして義務がある。
しばらく待った後、再びやって来たおっさんに連れられ、処刑会場へと向かった……
※※※
『偽者の神は死ね~っ!』
『死ね~っ!』
『我らの村を返せ~っ!』
『返せ~っ!』
なんでも収納する不思議な玉から取り出した大仙人一派を中心に、周りを囲んで石を投げ付ける村人達。
だが何の効果もない、投げた石は足元から1m未満の位置に全て落下し、仙人にヒットさせているのはおっさんだけなのである。
というか、投石時に肩を脱臼、もしくは投げようとした石が落下、そして場合によっては石を持ち上げようと屈んだ際に衝撃で全身を複雑骨折するなど、村人側に多数の犠牲者が出ているではないか。
これは中止させ、おっさんが1人で石を投げてそれを囃し立てるシステムに変更したほうが良い。
すぐにそうすべきだと勧告し、どうにかそれ以上の犠牲は出さずに済んだ。
しかしこの村は相変わらず野郎ばかりだな、今は村人全員が集まっているはずなのだが、男女比率は男9対女1といった感じ、しかも女は全てブスかババァのみである。
他のまともな女はどこへ行ってしまったのであろうか? 自らの置かれた環境を悲観して自死したとも思えないし、あの塀を越えて逃げ出すことなど到底叶わないはずだ。
すると大仙人一派によってどこかへ連れ去られたと考えるのが妥当か、非常に気になる点だし、後で拷問して洗いざらい吐かせることとしよう。
「ねぇ勇者様、こんなショボい投石刑なんか見てても面白くないわ、もう宿泊所に帰りましょ」
「だな、だがこんな腐った村の宿泊所なんかよりも、元居た高級ホテルに戻った方が良くないか? ちょっと暗くなるかもだけど、投石イベントが終わるのを待って出発しようぜ」
「う~ん、まぁ確かにその方が良いわね、じゃあそうするとして、とりあえず戻って休憩していましょ」
汚いおっさんしか石を投げていない投石刑など見ていても仕方ないということで、一時この村の宿泊所へ戻って時間を潰した。
ここは食事もまともなものがなく、酒も提供されることがない本当の地獄だ。
早めに離脱して、国の金で高級シェフの焼く高級な肉を食べ、タダ酒を飲めるホテルへ戻ろう。
それから2時間程で、おっさんが再び例の玉に収納した大仙人一派を持って来た、もう満足したらしい、ちなみに誤って1匹殺してしまったそうだが、別に構わないと伝えておいた。
「さてと、じゃあ俺達はここを発つ、しばらくしたらまた来ることになると思うから、それまで村の連中に教育的指導を施しておいてくれ」
「ああ、そっちも村の連中を元に戻す石の封印とやら、サッサと頼むぜ、奴等を真っ当にするのは俺の力だけじゃ到底無理だからな」
「おう、とりあえず俺達が、というか俺が使うだけ使って、そこで壊れたりしなかったら、かつ俺達の気が向いたタイミングでここへ持って来るよ、それまで頑張ってくれ」
「すげぇ曖昧なんだが……」
それ以外にも数多あるヨエー村の処理はおっさんに丸投げし、荷物をまとめて宿泊所を出た。
帰りは捕らえたお姉さんの分、1人多く転移させなくてはならない、ホテルに着いたらすぐにパッタリいきそうだ。
夕食には目を覚ましたいところであるが、そうでなくとも時間をズラして待っていて貰おう。
1泊してすぐに王都を目指すことになるのだし、今夜は最高級の食事を堪能しておきたいのだ……
「よし、全員揃ったな、順番に転移させるからそこへ並べ」
「あの、私をどこへ連行しようというのですか? もしかして秘密裏に始末するつもりですか? そうであればここで必死の抵抗を……」
「面倒臭せぇ奴だな、ルビア、このお姉さんに目隠しと猿轡を提供してやれ」
「あら、本当にこんな所で片付けられてっ、がっ、ふぐーっ、ふがっふがっ……」
いちいちやかましいお姉さんを黙らせ、順番にホテルへと転移する。
最後に自分が転移した後、出迎えてくれたアイリスのおっぱいに顔面を突っ込むようにして意識を失う。
まだまだこの力を使いこなせていないようだ、エンプティーになった際に『賢者モード』に突入するだけで済むよう、放出と蓄積を繰り返して鍛えていかなくてはなるまい。
その後、良い匂いを嗅ぎ付けて目を覚ますと、いつの間にかシェフが焼き場を持って部屋に来ていた。
今は熱したオイルにスライスしたニンニクを落とし、それを炒めているところのようだ。
もちろん今はシェフ1人で様々な仕事をこなしていかなくてはならない。
よって下準備も自力でこなす必要がある、もう見習いの3人は居ないのだから……
「あらっ? 勇者様が起きているじゃないの、おはよう、ちょうど起こそうと思ったところで手間が省けたわ」
「おうおはよう、今は夕飯の準備中か……」
「ええ、今日はこの間よりも凄い、王国牛じゃなくて神界牛のA5兆ランクステーキだそうよ」
「A5兆!? 神界牛!?」
神界牛というのがどんなものなのか俺にはわからない、だが表記的に神戸牛みたいなものなのであろうと勝手に予測しておいた。
しかしどうして神界の牛肉がこんな田舎の高級ホテルに……と、どういうわけか1人多いではないか、まさかの心霊現象か?
と思ったら違った、パーティーメンバーに加えてアイリスとエリナ、ここまでは良い。
だがもう1人、いや1柱、ニッコニコで料理の提供を待つ女神の姿がそこにあったのだ。
「おい待てコラ、そこの女神、お前だよお前っ! 何でお前は人様のパーティーに溶け込んでいるんだこの部外者風情が、しかも一番良い椅子に座って、抓み出されたくなかったら地べたに座って犬のマネでもするんだな、そうすれば高級な何とか牛の牛糞ぐらいなら食わせてやるぞ」
「勇者よ、よくも食事時にそんな汚い言葉を吐けるものですね、私はわざわざ降臨して差し上げたのです、勇者パーティーが私の助力を得たいのではないかと思ってです」
「何俺達の思考を盗聴してんだ、もうそれ犯罪ですよ犯罪、で、それなら要件はわかっているということだな?」
「ええ、ですが今はお肉が焼き上がるのを待って食事としましょう、せっかく神界の良い食材を持って来て差し上げたのですから、神界牛に神野菜、御神米に御神酒、どれも極上の品です」
「マジかすげぇな、全部でいくらぐらいするんだ?」
「トータルでこの世界の金貨30枚ぐらいですね、ポイント5倍デーだったので張り切って買いすぎました」
「お前がセレブなのか庶民なのかわからなくなってきたぞ……」
何はともあれ良い食材であることに変わりはない、ここは女神のご好意に甘えて高級食材を堪能しておくこととしよう。
美味い肉、美味い野菜、そして美味い酒、それらを次から次へと口へ放り込んでいると、いつの間にか時間が経ち、食材もなくなってしまった。
色々と面倒な話は明日にしようということになり、その日は部屋のベッドに転がる。
先程まで寝ていたのだが、酒が入ったせいで再び眠たい……
※※※
翌朝、まだ暗いうちに目を覚ました俺は、捕らえてあるお姉さんがしっかり床に転がっていることを確認し、とりあえず朝風呂ということで部屋併設の風呂へと向かった。
既に誰かが入っているようだ、メンバーの中でここまで早起きをするのはミラぐらいだが、ミラはセラの隣でグッスリ眠っていたのを確認済み。
誰だろうと思いつつもそのまま入って行くと、脱ぎ捨ててあったのは女神の衣装。
アイツ、勝手に降臨し、俺達の寝所に乱入したばかりでなく、一番風呂まで奪い去るとは良い度胸だ。
「うぃ~っす……って何やってんだお前……」
「あ、勇者でしたか、おはようございます、私は今昨夜してしまったと思しきオネショの後始末をしているところです、お酒を飲んでそのまま寝てしまったのが拙かったのでしょうね」
「偉そうに語ってんじゃねぇっ!」
「ひゃんっ! 勇者よ、急に冷たい水を掛けるのはおやめなさい」
「お仕置きだから仕方ないだろう、自分が悪いんだぞ」
オネショ女神には桶に溜まっていた、冬の寒さでキンキンに冷えていた水を背中からぶっ掛けてやる。
全く、寝る前にトイレに行っておけとあれほど……いや、言っていなかったかな……
女神がパンツを洗い終えるのを待ちつつ湯船に浸かる、そういえば捕らえてあるお姉さんも、捕まえた際におもらしをしていたな、ずっと縛って転がしてあるし、あちらもオネショしていそうな気がしてならない。
と、ここで作業を終えた女神も湯船にやって来る、ちょうど良い、本日やるべきことの相談をしておこう……
「それで、昨日のうちに俺達が持ち帰った不思議アイテム群には目を通したんだよな?」
「ええ、特にあの収納玉、アレは明らかに禁忌のものです、それと仙人武器なる異世界の兵器を象ったモノ、そしてそれを創造するために使った異世界の知識、どれもこれもあってはならないものばかり、今回捕まった者共には最上級の神罰を与えなくてはなりません」
「なかなかお怒りのようだが、その前にあの賢者の石だ、封印の解き方、というか必要とされる4種類の力のうち3種類がわかるか?」
「そうですね、私の見立てだと『鍵の開閉に関する力』、『聖なる力』、そして『石の効果とは間逆の力』、その3種類なのではないかと、もちろん少し見ただけでの考えですから、もっと詳しく調べれば何か追加的にわかることがあるかも知れません」
「そうか、四天王討伐には賢者の石がどうしても必要なんだ、お前ぐらい過労でブッ倒れても代わりは居るだろ? だから全身全霊で封印解除の方法を探るんだ」
「とんでもない発言をする勇者ですね……」
封印を解くための4種類の力のうち、俺も持つ仙人、いや元々は賢者の力であったか、それを除いた3種類。
具体的とまではいかないが、ある程度の内容がたった1日で判明したのだ、早めに女神を頼ったのは正解だな。
あとはそこから糸を辿り、実際に何が、誰の力が必要なのかを追求していくだけだ。
今あるヒントだけではかなり難しそうだが、皆で知恵を絞ればどうにかなるであろう。
「よっしゃ、それじゃ石に関してはこのままどんどんいくとして、今日はどうするんだ? 禁忌系アイテムを選別して、それを創り出したことを理由として仙人共に死刑を求刑するのはわかるが、裁判の会場はどうするんだ?」
「大丈夫です、このホテルのパーティー会場を借りる予定ですから、もちろん宿泊客にも私が降臨することを知らせて、そしてこの世界の人族が『オーパーツ』として拾い集めているものがどれだけ禁を犯すものなのか、その場でわからしめる会にするつもりです」
「ほう、厳しいのは構わない、構わないが……当然俺達だけには押収した便利アイテムを横流ししてくれれるんだよな?」
「ダメですよ、一体どこまで強欲なのですか? 勇者およびその仲間にそのまま与える出来るのは、せいぜい未だに稼動する古臭いゴーレムぐらいですね、あと今回は頑張ったので、おかしな機能の付いたリヤカー1台ぐらいは目を瞑りましょう、あとはガチでダメです」
「ひでぇっ! 慈悲の欠片もない腐った統治者だったんだなお前は……」
せっかく手に入れた仙人便利アイテムを、禁忌に触れるものとしてほぼ全て没収しようとする女神。
先に風呂から上がり、今のうちに隠せるだけ隠しておこう、せめて収納玉の1つぐらいは確保しておきたい。
そう考えて立ち上がると、俺の意図を察した女神も付いて来る。
クソめ、こうなったらどうにかして、俺達の便利アイテム使用を認めさせてやろう。
まずは仙人共の裁判で俺達の功績をアピールして……と、その前に精霊様その他の仲間達と相談だ。
誰かから何か良い案が浮かぶかも知れないからな。
などとセコいことを思案しつつ風呂から上がり、賢者の石の封印解除に向けた新たな日々の始まりを迎えたのであった……




