451 賢者の石
「……おい、最高責任者ってことはお前、仙人なのか?」
「う~ん、ここの方々は私のことを仙人だと言っていました、『ミラクル仙人』とかいう極めてキモい名前でしたが、ですが私は仙人ではありません、普通の人族です」
仙人のアジトに突入してどれだけの時間が経過したであろうか、遂に到達した100階層で出会ったのは、お宝の類ではなく白衣の女性、部屋は薄暗く、とても宝物庫には見えない。
しかもその女性の座った椅子の目の前、壁沿いのテーブルに設置された光る板。
そしてその下にはキーボードのようなものが所狭しと並んでいる。
どう考えても科学的なモニターセットである、もちろん魔導何とかなのであろうが、俺からすればここは、軍事要塞のコントロールルームにしか見えないのだ。
そしてこの頭の良さそうな女性である、長く伸びた茶髪にメガネ、そして白衣という出で立ち。
肌は白く透き通った感じの美人で、いかにも頭が良さそうな感じだ、きっと博士級の頭脳を持っていることであろう。
ちなみにおっぱいは学部級のようだ、貧困層とも表現することが可能だ。
「ふぅっ、侵入者であるあなた方がここへやって来たということは、もう最優秀超第一位究極最先端唯一無双無上珠玉随一天上帝仙人は倒されてしまったということですね」
「ああ、最優秀超第一位究極最先端唯一無双無上珠玉随一天上帝仙人は俺達が討伐した、今はこの変な玉の中に収納してある」
「全く、最優秀超第一位究極最先端唯一無双無上珠玉随一天上帝仙人を倒すなんて、恐ろしい力を持った人間というのも居たものですね」
「……ちょっと名前長いから別の呼び方にしない?」
「じゃあボス仙人で」
「わかった、以降はその呼称とする」
話しぶりと最高責任者という肩書きからして敵の関係者と思われる女性、いや、こちらもお姉さんと呼んでおこう。
とにかく敵のはずなのに、そして俺達がここまで攻め込んでいるのにいたって冷静である。
だがこのままでは交渉も、そして降伏させることも叶わない、少し脅しを掛けてみよう……
「それでだ、お前は仙人共の最高責任者なんだろ? だったら今がどういう状況なのかわかっているはずだが」
「ええ、あなた方がここへ攻め込んだ、それも私達のした諸々の行為を咎めるために」
「わかってんじゃねぇか、で、どうするんだ? 戦うのかこのまま降参するのか、好きな方を選ばせてやる」
「ふふっ、決まっているじゃないの、大人しく降参するし、こちらにある全ての情報を洗いざらい吐くから命だけは助けて欲しいところね、あなたの頭脳で私の言っている意味がわかるかしら?」
「クールな感じで命乞いしてんじゃねぇっ!」
実はビビりまくりであったお姉さん、冷静な雰囲気に騙されていたが、その冷静さを一切崩すことなくやってのける無様な命乞いは見事だ。
まぁ、見た感じからしても、その保有するステータスから考えても、このお姉さんが俺達と戦っても勝てない、それどころか一矢報いることすら出来ず、1秒未満で敗北を喫することは明白。
戦闘力はなくとも知能は非常に高いため、その結果を簡単に予見することが出来たのであろう。
もちろん仙人が振るっていた、そして俺も使える例の力を持たないお姉さん。
戦闘関連は全て子飼いの仙人共に任せ、自分はここに引き篭もって何やらやっていたということか。
とにかく色々と、特に賢者の石に関しては知りたいことが多すぎるし、サッサと縛り上げて話を聞くこととしよう……
「よし、まずはお前を逮捕する、両手を挙げて椅子から立て」
「あら、それは出来ない相談ね、厳密に言うと出来るけどしたくはないわ、言っている意味がわかるかしら?」
「ん? 降参しておいてその態度は何だ、舐めてると張り倒すぞ」
「う~ん、それなら指示に従うしかないわね、でもほら、もうあなた方がここへ踏み込んだと同時におもらししてしまって、なんとも情けない状態なのよね」
「ビッタビタじゃねぇかっ!? どんだけビビッてんだよその雰囲気で……」
「ふふっ、私が何を考えているのかわからないって、仙人共からしょっちゅう言われるわね、ちなみに今はもう泣きそうよ、本来であれば全裸で土下座して許しを請いたいところだわ」
「……本当にわけのわからん奴だな」
ここまで内心と言動が一致しない奴も珍しくはなかろうか? とにかく奥に風呂があるというので、セラとミラに見晴らせてそこで着替えをさせた。
その間にお姉さんの座っていた椅子に、もちろんおもらしで汚れた場所を避けて近付き、テーブルの上にあるモニターを眺める。
画面には緑色の光、これはおそらく仙人の力を動力に用いたものだ。
そしてその中に映っているのは……難しそうな内容だが、『賢者の石』という言葉が散見される。
つまりお姉さんは俺達の目的物に関しての深い知識があることは確定。
そしてあの感じであれば、少し引っ叩くことによって重要な事項をベラベラと喋る、これも確定。
もはや賢者の石は手に入ったようなものだ、あとはどうやって封印を解くかだが……と、セラとミラに連れられたお姉さんが風呂場から出て来たようだ……そしてなぜ未だパンツを穿いていないのだ……
「ほらあなたっ! パンツ穿かないと変態勇者様に見られちゃうわよっ!」
「構いません、私には私のポリシーがありますので、そのような無地のパンツを支給して頂いてもあり難迷惑です」
「じゃあどうするの? 今まで穿いていたものはしばらく使えないわよ」
「それはまた乾かして使います、次はえ~っと、こちらのクマさんパンツを穿きたい気分ですね、私がそう思う根拠を推察することが出来ますか?」
「いえ、別にどうでも良いので……」
手近な所にあった何でも収納する玉の中から、自前のクマさんパンツを取り出して穿くお姉さん。
先ほどまでの格好は白衣、その下にはフォーマルなタイトスカートといった、いかにも賢い研究者らしいものであったのだが、そのさらに下は子ども用パンツを常用していたようだ。
ちなみにミラが持っている、今まで穿いていた洗い立てのパンツはウサギさんパンツ。
そういうのしか持っていないのであろうか? たまには他の柄とかの気分にはならないのか?
と、そんなことは今考えることではない、俺達が必要なのは賢者の石に関する情報だ。
まずはお姉さんを鞭でシバき倒し、最初から嘘を吐こうという気になれないようにしておこう。
「おいお前! せっかく着替えたようだが、これから拷問を加えるからな、お気に入りのクマさんパンツを破られたくなかったら全裸になることをお勧めするぜ」
「お前ではありません、私の名前は……名前は何でしたっけ? 子どもの頃に誘拐されて、以降ここでミラクル仙人とかいうダッサい名前で呼ばれていましたので、もう忘れてしまいましたね」
「なんてかわいそうな奴なんだ……」
鞭で打ち据えようと準備していたのだが、その気力すら失せてしまう過去を告白されてしまった。
だが敵である以上ここで許してやるわけにはいかないし、激アツ情報を諦めるという手もない。
まずは縛り上げて……と、もう手遅れだ、目の前のお姉さんは全裸で正座待機しているではないか……
「ふふっ、やはり恥ずかしさで顔から火が出そうですね、ですが指示通り全裸になりましたので、どうか命だけは助けて頂けると幸いと存じている旨を伝えておきましょう、低脳なあなたにこの気持ちが理解出来ますか?」
「うむ、言うことを聞くということはわかった、命だけは助けてやるから以降も指示に従え、じゃあルビア、コイツを縛り上げるんだ」
「はぁ~い」
ルビアがいつも持っているお仕置き用の縄でお姉さんをグルグル巻きにしていく。
もちろん全裸のままだ、服は全部ミラが抱えて持って行くらしい。
その状況においても冷静沈着を表情に表すお姉さんであるが、先程の言葉を聞く限り相当な羞恥心を感じているようだ。
それがここまで顔に出ないとは畏れ入る、もっとも本当は恥ずかしくもなく、そしてビビッているわけでもなく、虎視眈々と反撃のチャンスを覗っているのかも知れないが。
まぁ、もしそうであったとしても強さ的にまるで問題にならないのは確か。
今はこのまま賢者の石の情報を吐き散らしてくれることを祈ることとしよう。
すぐに縛り上げが完了し、ルビアがお姉さんを立たせる、問題なく歩くことが出来るようだし、おっぱいは残念でも尻は良い感じである。
このまま前を歩かせて、その1歩1歩を後ろから堪能するべきだな……
「よし、なかなか良い感じだ、これから『賢者の石』の所に案内して貰う、わかっていると思うが変な気を起こすなよ」
「大丈夫です、たまに恐怖で足が進まなくなるかも知れませんが、その程度のことで命を助ける約束を覆滅して処刑するようなことがないよう、何卒お願い申し上げます、ではこちらへ……」
「こちらって、そちらは単なる壁じゃないか?」
「あら、壁に仕掛けがあって、その中に大切なものが隠されているのは王道だと思っていましたが、あまりにも知能の低い方にとってはその王道すら既存知識の範疇にないということですね」
「何かさっきからすげぇムカつくんだが……」
いちいちディスってくるお姉さん、もちろん殺しはしないが、それでも後で執行するお仕置きを厳しいものにすることぐらいは考えておこう。
その俺の考えを知らず、表面上は余裕綽々にしか見えないお姉さんが、壁の下にあった小さな突起物を足でペタッと踏み付ける……緑色の光がサッと走り、壁が扉の如く開いたではないか……
「あぁぁぁっ! ゴーレムよっ! それに失われた古代兵器が沢山あるわっ!」
「どうぞ中へ、ここには仙人共が古より引き継いできたアイテム、貴重品、そしてあなた方の求める賢者の石も、ほら、あそこの台座の上です」
「……本当に見えているんだな、ちょっと近付いてみても構わないか?」
「ええどうぞ、手を触れても大丈夫ですよ、もっとも封印のせいで効果は全く発動しませんが、ちなみに私の研究によると……」
そのままお姉さんによる賢者の石の説明が続く、一応精霊様にも聞いて欲しかったのだが、ゴーレムだの何に使うのかすらわからない古代兵器に夢中で、こちらには目もくれないといった感じだ。
仕方ないので俺1人で話を聞いていくことに決め、お姉さんの話に耳を傾ける。
まるでどこかのラボへ見学に来たかのような雰囲気、お姉さんが全裸で縛られていること以外はそれと同視出来る状況だな。
「……私はここに連れて来られて以来、この倉庫にある様々なモノについて研究してきました、もちろん暇潰しにですが、で、この賢者の石に関して調べている最中に、偶然あなた方がこれを求めて攻め込んで来たわけなんです」
「ほう、ちなみに賢者の石に関してはどのぐらいの期間調べたんだ?」
「え~っと、今私が19歳で、これに手を付けたのが11歳のときだから……およそ8年ですね、しかしこれが『古の賢者の成れの果て』だということを文献で知って、さらに封印を解くには仙人の力と、それから別の力が3種類も必要だということがわかってですね……」
「それで、自分ではどうにもならなかったと、そういうことだな?」
「ええ、私なんぞには仙人の力すら備わっていませんから、なのでもう悪いことなど出来ない、それはあなたでも理解可能ですね? ゆえに命だけは絶対に助けて下さい、本当にお願い致します」
「だからちょいちょい命乞いしてんじゃねぇよ、しかも至って冷静に」
いちいち助かりたいアピールをしてくるお姉さんであるが、俺達が可愛い女の子は絶対に殺さないということを知らないゆえ無理もないことだ。
しかし仙人の力であれば俺にも使うことが出来るが、それに加えてさらに3種類の力、それもどういう力なのかわからないものを用意してやらないとなのか。
3種類のうちひとつは精霊様の力なのではないかと予測するが、残りの2種類……魔力も入ってきそうだな、いや、魔力ならこのお姉さんにもわかるか、それ以外の力だ。
……ここで考えてもダメそうだ、賢者の石ごと王都に持ち帰り、その封印の解除に必要な力を探る、そしてそれでもダメそうなら、もう女神を引っ張って来てどうにかする他ない。
女神を使うのはチート行為で反則な気もするが、元々チート級の知能と信じ難いパワーを持つ伝説の俺様が勇者としてこの世界に派遣……おっと、精霊様が手招きで俺を呼んでいる、調子に乗った妄想をしたからブッ殺されるのかな?
「どうした精霊様、何かいいものでも見つけたのか?」
「もうとっくに見つけ終わったのよ、欲しいモノは全部この玉の中に収納したし、賢者の石も持ってここを出ましょ、ちなみにアレは間違いなく本物よ」
「ああ、てかもう何もなくなってんじゃねぇかっ! 全部持って帰るつもりなのかよ……で、あの賢者の石が本物であるという根拠は?」
「台座の下の方を見てみなさい」
「台座の? え~っと……なんじゃこりゃっ!?」
賢者の石が鎮座している台座、その下の方には何やら彫ったような傷跡。
かなり古いものだが読むことぐらいは出来る、『火水風土氷雷の精霊、私達ズッ友だよっ!』と書かれているではないか。
つまり、何千年か前に人族から頼まれてこの賢者の石に関する調査をした際に、悪戯でここに彫った文章が未だに残されていたということだ。
これはこの賢者の石が正真正銘の本物であるという、確固たるエビデンス以外の何ものでもない。
ということで無駄にお姉さんを疑うことなどせず、目の前にある賢者の石を持ち帰ることとしよう。
しかし精霊様、なんだかんだと言っていたような気がするが、他の精霊達とも普通に仲が良いようだ。
まぁ、こんな強大な力の持ち主がちょっとしたことで喧嘩などしていたら、それこそこの世界は既に存続していないはずだからな。
などと考えながら、余っていた例の玉に賢者の石を収納する。
そういえばこういった『禁忌系アイテム』に関しても、一応は女神の指示を仰ぐ必要がありそうだ。
今は仕方ないものの、これを勝手にこの先の冒険で使うのは職業倫理的に拙いかも知れない。
取り締まるべき『ダメなもの』を、勇者パーティーたる俺達が使っているのは芳しいとはいえないためだ。
つまり、王都に帰ったらすぐに女神を呼び出す、それ以外に取るべき道はないのである。
ついでということで賢者の石に関する情報も調べさせよう、あとこのお姉さんの処罰についてもだ。
神の意向に逆らうおかしな力を振るっていた仙人一派であるが、このお姉さんを除いてはその他諸々の罪で残虐な方法による死刑が確定している。
しかし見た目が可愛いという理由をして死刑相当ではないと判断されたこのお姉さんに関して、どの程度の刑罰を科すかを判断するのは女神の意見を参照するべきところであろう。
もちろん処罰した後は、俺達が身柄を引き受けて便利に利用する、頭も良さそうだしかなり役に立ちそうだ。
「よし、じゃあこれで賢者の石ゲット作戦は完了だ、まだ封印の解除という難題が残っているが、とりあえずおつかれっした!」
『おつかれっした~っ!』
「さて、ここから脱出……それが一番面倒な気がするな……」
「あの、よろしかったら秘密の抜け道をお教えしましょう、もちろんそれによってほんのり減刑などあるものと期待している次第ですが、私の言っている言葉の意味が理解出来ますか?」
「おう、ちょ~っとだけ罰を軽くしてやるから早く教えろ」
「それと勇者様、この次元そのものを元に戻す方法も吐かせないとダメよ」
「おっと、それもそうだったな、まぁでも今は脱出して、王都に帰ることを最優先しよう、その前に例のホテルへ寄ってな」
「あ、そういえば置いて来た2人を回収しないとだったわね」
「それとヨエー村にも寄らないとな、村人を集めて元大仙人に対する投石をさせるんだ」
今後のことについてセラと相談しつつ、お姉さんの案内で倉庫とはまた別の隠し扉の前に立つ。
次に現れたのは便所の個室ではないかとも思える小さな部屋、中央に何か……ペダルのようなものが付いた、というか自転車風の装置が鎮座している……
「どうぞ中へお入り下さい、それと力のある方、あの座席に付いてペダルを漕いで下さい」
「おい、それは構わんのだが、これは一体どういう装置なんだ?」
「世界初、かも知れないと仙人の1人が言っていた『昇降機』というアイテムです、このペダルを足で回すと上がるらしいんですが、残念ながら私の力ではどうにもなりませんでした、つまりこんなか弱い私に対して酷刑を科そうとするのはどうかおやめ下さいということです、あなたの知能では到底理解には及ばないと思いますが……」
「うんわかった、お前が俺のことを馬鹿にしているということだけは良くわかった、覚悟しておけよっ!」
「おや、どうやら怒らせてしまったようですね、これだから低脳チンパンジーは本当に……っと、もう恐怖で足が震えて立っていられません、どうかお許しを」
「……もう良いわ、とにかく出発だ」
もちろんペダルを漕がされるのは俺である、狭い空間で臭いのは勘弁なので、そろそろ居ること自体を失念しかけていた大賎人のおっさんには、申し訳ないが地道に地上を目指して貰った。
ペダルが回る度に、グイグイと上がっていく感じを覚えつつ、しばらく漕ぎ続ける。
そろそろ疲れてきたかというところでガタンと止まった俺達の入った箱状の部屋は、扉を開けると最初のホール、つまり地上に到着していたのであった。
これで大仙人一派、いやそれどころか仙人のアジト全体を滅ぼし、親玉(仮)であったお姉さんを捕らえ、さらに目的としていた賢者の石までゲットすることが出来たのである。
この地域に関しては未だわかっていないこと、つまりヨエー村の別次元への分離の始まりや、ここを制圧していた馬鹿共以外の賢者や仙人がどこへ行ってしまったのか、そして親玉(仮)のお姉さんはどこから連れ去られて来たのかなどだ。
だがそれらの事項に関しては、これから王国の調査が入り、それによって徐々に明らかになっていくはず。
俺達は最終報告を待つか、途中報告でも何かきな臭い予感を感じ取れば首を突っ込むこととしよう。
今はまず、手に入れた賢者の石の封印解除に注力すべきだ……




