447 仙人部隊
「とりあえずあの城みたいなのを目指そうか、おいおっさん、トラップがあると困るから、ここからもあんたが先頭を歩いてくれ」
「へいへい、どうせ真っ先に死ぬのは薄汚いおっさんの役目ですよっと」
「わかってるじゃねぇか、じゃあサッサと行け」
おっさんに先頭を歩かせ、大仙人一派のアジトであると思われる城のような建物を目指す。
そういえば王都の屋敷に現れた勇者風ハゲが『教会』で蘇生しているといっていたな、もしかしてアレがそうなのか?
などと考えながら慎重に歩いて行くも、おっさんがトラップに引っ掛かる様子はないし、たまたま回避しているわけでもないようだ、トラップそのものが設置されていないのである。
まぁ、ここは仙人共にとっての生活道路なはずだし、いちいちそんなものを仕掛けて自分達の身を危険に晒さずとも、敵の侵入など通常は考えられない場所なのだ、そう、俺達を除いてな。
こちらとしては前を歩くおっさんが落とし穴や魔導地雷兵器などに嵌まり、無様に重傷を負って助けを求めるところを眺めて、その都度腹を抱えて笑いたかったのであるが、どうやらそれは当分叶わないようだ。
もっとも仙人共とのガチバトルになれば、ヨエー村の馬鹿共とは違うとはいえこのおっさんは普通の人族、運が悪ければどちらかの攻撃に巻き込まれて即死、運が良くても飛び散った石や建物の破片などで致命傷を負う可能性は非常に高い。
そのときにそのザマを笑って見ていられる余裕があれば良いのだが、大仙人の強さ次第ではそうもいかないであろう。
大仙人が強いか弱いか、それはこのまま歩いて行けば判明することだが、その前にセラが何か気に掛けているようだ……
「というか勇者様、私達はこのまままっすぐ道を進んでいって良いのかしら?」
「そりゃそうだ、道を進む以外に選択肢はないからな、戻るわけにもいかないし、横とか斜めとか上下とか、そんな3Dに進める感じじゃないだろう」
「いえ、じゃなくてよ、敵の本拠地らしきお城は正面にあるのよね、そこに堂々と、面と向かって進んで行くのはちょっと作戦的にアレなんじゃないかと……」
「む、確かにそうだな、正面切って突撃していたら先制攻撃に失敗するかも知れないぞ」
「それすら考えていなかったのね、勇者様はヨエー村に引っ越した方が輝けると思うわよ」
「おいコラ、誰の頭がヨエーってんだっ! お尻ペンペン乱れ打ちを喰らえっ!」
「いででででででっ!」
「仕上げのカンチョーだ!」
「はうっ! ま……参りました……」
「ふんっ、雑魚めが、ヨエー村のモブキャラからやり直すんだな」
などと遊んでいる間にも俺達の一向は道を進み、目的の建物がハッキリと見える、つまり向こうからもモロ見えの場所まで来てしまった。
崖際に建設された石造りのその建物は、城といえば城だし邸宅といえば邸宅、そして教会かと言われると……ステンドグラスなどがない分かなり微妙だな、とりあえずアジトと呼ぶことを継続しよう。
と、そのアジトの建物の、一番高い尖った屋根の先端が光りだしたではないか……
「ご主人様、何だか知らないけど先っちょが光っていますよっ!」
「カレン、あれは『パトランプ』っていうものなんだ、覚えておくと良い」
「へぇ~、どんなときに光るんですか?」
「緊急のときに光る、敵襲とかな……」
「ほぉ~っ……あれ? それじゃダメな気がするんですけど」
「おう、完全にアウトだ」
この世界にもパトランプが存在していたことは驚き、いやもうここまできて驚きはしないが、とにかく馬鹿面下げてやって来た俺達は、敵である大仙人一派に発見され、これから迎撃を受けることが確定した。
おそらく建物の中から出て来たのであろうが、特殊仙人部隊よろしく、ロープを使ってサーッと崖を降りるジジィが11匹、うち1匹は少し体のサイズがデカいようだ、あれがリーダーということなのか?
「来るぞっ! 全員武器を構えて待機だっ! おっさんは肉の壁にっ!」
「冗談じゃねぇっ!」
俺の横を通り過ぎ、メンバー全員の後ろにシャカシャカと隠れるおっさん、こういうときに限って『後ろからも敵がっ!』とならないのは非常に残念なのであるが、今は出現している前の敵の討伐に注力しよう。
崖から降りた特殊仙人部隊、全員白い装束を身に纏い、髭も髪も長くて真っ白、完全な仙人タイプだ。
そしてやはり、ひと回り体の大きい仙人が部隊の指揮を取っていることが確認された。
しかしジジィばかりの癖に意外と走るのが速いな……と、足を地面に付く度、その下に緑色のサークルのようなものが現れているではないか、きっとあれを使ってジジィらしからぬ素早さを維持しているのだ。
仙人共は俺達の正面に出ると、こちらから順に3、3、4、1のフォーメーションを取り、もちろん大きめ仙人をゴールキーパーの位置に付けてさらに加速する。
対するこちらはいつものフォーメーションに、例の力を使うことの出来る俺が前へ、そして空いてしまったマリエルの横をジェシカが少し下がって埋めるシステムで迎え撃つ。
ペースを落とさず迫り来る仙人部隊、だがひとつ、どうしても腑に落ちないことがある……
「なぁ、今思ったんだけどさ、仙人共は武器を使わないのか? 普通あのスタイルなら樫の木で出来た杖とか持っているはずだろ」
「確かにそうですね、あ、でも武器は今から出す雰囲気ですよ」
「おう、戦闘モードに入ってから全員揃ってあのモーションならもう確定だな、きっと樫の木の杖を……」
走りながら一斉に右手を天にかざす仙人部隊、あのモーションは武器を出すモーションだ、きっと光の中から仙人然とした杖が……空から降って来たではないか、しかも杖などひとつも見当たらない。
前列は巨大な剣か棍棒、中列は長槍、そして後列は投石器のようなものを召喚、というかどこからともなく降ろしたのであった。
しかも投石器組は既にそれを振り回している、おそらく中身の石か何かも一緒に召喚したのであろう。
……いや少し違和感がある、前列から後列までの仙人が持っているのは原始的で、それこそこの世界において使われている武器としては妥当なものだ。
だがその後ろに控えたひと回り大きい仙人、お前は何を持っているのだ? それは完全にこの世界のものではない、というか俺も映画でしか見たことがない、アサルトライフルいうシロモノではないか。
しかも銃身の方を握り締めている、逆だ逆、反対の引き金が付いた方がグリップなんだよそれはっ!
というか絶対に機能しないだろそれは、おそらくどこかで異世界の武器に関する知識でも得て、見よう見真似で作成したのだ。
だが情報がそこまで詳しいものではなかったのであろう、まさか今現在自分が握っているその細い方から、鉛玉の類を発射して戦う武器などとは思うまい。
まぁ、そもそもこの世界には火薬がないのだ、これまでに転移して来た異世界人の中で、不幸中の幸いとしてその作り方を知る者が居なかったようなのである。
よってあの大きめ仙人がその本来の用法を知っていたとしても、そこから玉を発射することは出来ず、単に鈍器として使う以外に途はないのだ。
ということであの馬鹿は無視して、前列から後列までの10匹に警戒することとしよう……
「ご主人様、たぶん殺すのは簡単ですけど、生け捕りにするんですよね?」
「ああ、可能な限りな、だが変な攻撃を企んでいると判断した場合には直ちに殺せ、毒を撒き散らすような危険極まりない自爆攻撃とかかも知れないからな」
「わかりました、じゃあそんな感じで、あっ、もう何か飛んで来ますね……」
仙人は走り、俺達は待ち構えているのだが、相手に投石器がある時点で戦闘は始まっているのだ。
指先に掛けたネットのようなものをヒュンヒュンと振り回していた仙人共が、その内容物を俺達に向けてリリースしたのであった。
飛んで来た丸い玉……地面にぶつかって爆発している? ヤバい、これは『てつはう』の類だ、中身は魔力だか何だか知らないが、とにかく爆発と閃光、そして巨大な音を立てることには相違がない。
耳を塞いでしゃがみ込むカレンとマーサ、そしてミラとリリィも驚いてしまったようだ。
ジェシカが下がっているため、カレン、マーサ、ミラという前衛がその場で戦闘不能に陥り、残ったのは俺だけ。
もちろんリリィがドラゴン形態を取って前に出るということも出来ない。
マリエルと、それから中衛に組み込んでいたジェシカが前に出るものの、これでは11匹の仙人を受け止めるだけの戦力となるか微妙なところだ。
だがこのまま俺達が奴等に突破されれば、いや突破される前にセラとユリナの強烈な攻撃魔法によって、そして万が一それを通過したとて、サリナの信じ難い領域に達した、むしろ仙人の如く新しい次元を創造出来るのではないかという程度の幻術が奴等を襲う。
つまり、前衛(仮)の俺とマリエル、ジェシカを抜いたところで、この自信満々で向かい来る仙人共に勝ち目はないのだ。
それを知ってか知らずか、気持ちの悪い笑顔を浮かべつつ、武器を構えてこちらに接近する仙人部隊。
転移前の俺であれば、この光景を見た瞬間に110のダイヤルをプッシュしていたことであろう、その程度にキモい。
『うぉぉぉっ! 大仙人様ばんざ~いっ!』
『ばんざ~いっ!』
「何が万歳だクソ共めがっ! 貴様等の信奉する大仙人様はまもなく捕らわれ、極めて残虐な方法での死刑に処されるんだよっ、もちろんお前達もなっ!」
『ぎえぇぇぇっ!』
『ぎょべっ!』
早速接近した前列の仙人をブチ殺していく、だがおかしい、聖棒に突かれて悲鳴を上げるものの、ダメージを負った仙人共は武器を残してその場でドロンと消えてしまうではないか。
武器だけは本物、だがそれを操る仙人は偽者。
まるでホログラフィックで創り出したかのような、現実には存在しない、ただ見えているだけの存在なのであった。
「勇者様おかしいですよっ! 突いても手応えがありませんっ!」
「あぁ、本命は後ろの4と最後の1だっ! 残りの6匹はフェイクだから構うな!」
「だが主殿、剣も棍棒も、それから後ろの長槍も、どれもこれも現実に存在しているんだぞ」
「それは奴等の術によるものだろうよ、考えてもみろ、これだけ進んだアイテムを持っている大仙人一派の武器が剣と、まぁそれは良いとして棍棒や長槍か? どう考えても捨て駒だろうよ」
「うむ、そう言われてみれば……もしかして後ろの、本当に存在している5人も単なる鉄砲玉なのか?」
「かも知れんな、もっとも一番後ろの奴はその限りじゃないと思うが……」
11匹、まるでサッカーでもするのかと思ってしまった特殊仙人部隊の面々であるが、最前列、そしてその次の列の3と3は俺達を騙すためのフェイク。
元々そこに居たのは5匹の仙人、小さいのが4匹と、それからひと回り大きい、通常の人間サイズ、即ち今朝討った2匹とホテルにシェフの見習い②と見習い③として潜入し、善良で無能極まりない見習い①を殺害した犯人と同ランクの奴だ。
もちろんその『ひと回り大きい』仙人も、こちらの想像しているモノを遥かに超える攻撃をしてこない限りはもはや八方塞がりなのだが……うむ、もちろん何かをするようだ、タダでは死なない、労害ジジイの極みである。
「喰らえ侵入者よっ! 我が大仙人様より賜った伝説武器の威力を思い知るが良いっ!」
「きゃっ! ちょっと何ですかあの武器はっ!?」
「落ち着けマリエル、アレは何か勘違いしてああなっているだけだ、本来の用途はもっとこう……とにかく違うんだよ」
「だからって伸びるのはどうかと……」
大き目仙人の持ったアサルトライフル状の兵器の、手に握った銃身部分がミニョ~ンと伸びる。
つまりこちらに、その本来持つべき部分である硬いグリップが、猛スピードで向かって来た。
おそらく兵器の絵や、もしかしたら写真などを見て真似たのであろうが、どこをどう勘違いしたらその使い方に辿り着くのであろうか? 引き金は、妙に持ち易そうなグリップ部分の存在をどう捉えているのか、気になるところだ。
で、そこまで緊急というレベルでもなくその向かい来るグリップ、ついでに中衛のフェイク仙人が突き出す長槍を回避していく。
俺達とぶつかったことによって前衛の残りと中衛、そして後衛がゴチャゴチャになり、ぱっと見では非実在仙人と実在仙人の区別が付かなくなってしまった。
だが手にしている武器で判別は可能、ショボい投石器のネットを指に掛け、ニヤニヤしているのが実在するクソ仙人だ。
まずは危険かも知れない非実在仙人を潰し、その後に本来の敵をどうにかしていこう。
そのことは言うまでもなく全員、戦闘が可能なメンバーも察したようである。
セラ、ユリナと精霊様がそれぞれ後ろから攻撃を放ち、長槍のフェイク仙人を潰す。
残りの前衛2匹、そして中衛1匹を俺とマリエル、ジェシカの3人で消し去ると、残ったのは本物の、その場に存在している仙人部隊のみとなった……
「ほう、我が偽仙人を全て潰すとは、貴様等はそこそこ戦えるようじゃの」
「そういうお前も、異世界の武器をそんな間違った使い方して調子に乗って、まるで恥ずかしいとも思っていないどころかむしろドヤッているのは賞賛に値するぜ、逆にな」
「この『仙人武器』の使い方が間違っているじゃと? 何を言うか、これは別次元の文献にあった伝説の強力飛び道具だと大仙人様が仰っていたもの、撃っても撃っても本体はなくならず、当たればかなりのダメージを敵に与えるという、即死もあり得るとのことじゃ、まさか投げるわけにはいかんし、そう考えればこの使い方が妥当と考えるのが本当に賢い者の判断じゃと……馬鹿そうな貴様にはわからぬか……」
「……もう良いわお前」
間違ったままその間違った学説、いや学説でも何でもない単なる間違いを力説する哀れなジジィ。
こんな馬鹿が仙人だというのであれば、こちら側のおっさんは大……そうか、大仙人と呼ばれる知能の持ち主なのか……当然そんなことはないと思うのだが……
しかしこの仙人、どうして自分だけそんな凄い『仙人武器』とやらを使い、部下には古代の投石器を使わせているのか。
もちろん投石器自体の効果を否定するわけではない、現にそこから発射されたてつはうのようなものを受け、こちらの前衛3人がダウン、ミラに至ってはおもらしまでしている有様だ。
とはいえさすがに格差がありすぎる、そもそも同じ仙人同士でサイズがひと回り違うというのも納得がいかない、この程度の疑問には自信満々で答えてくれそうだし、少し聞いてみることとしよう……
「おいジジィ、どうしてお前だけがその『仙人武器』を使っているんだ? 全員に平等に行き渡るよう煮作れないのか? お前達は馬鹿だから平等という言葉すら知らないのか?」
「何じゃとこの頭の悪そうな若造め、仙人武器の所持はわしのような『中仙人』以上の特権、ここに居る部下、つまり小仙人共は原始的な兵器しか使ってはならぬのじゃ、修行が足らんのでな、あと戦闘中は『ヒャッハーッ!』か『イーッ!』しか喋ってはならぬと規定されておる、なぁ部下共よ」
『イーッ!』
「単なる雑魚じゃねぇかっ! だったモヒカンか全身黒タイツにしやがれってんだ!」
というか『中仙人』とか『小仙人』というのは何だ? サイズの違いでそうなっているとしたら、大仙人はどのぐらいの大きさになるのだ?
まぁ、そんなことはどうでも良として、とにかく今目の前に居る小仙人4匹、そしてリーダーの中仙人1匹を、どうにかして殺さずに捕らえることを考えよう。
特に中仙人だ、他のモブキャラとは違って多少の情報は持っていそうだし、敵の大仙人一派の中で比較的上位にあるとすれば、確実に残虐処刑しておきたいところ。
こんな誰も見ていない場所での戦闘で名誉の戦死を遂げさせて良い奴では断じてないのだ。
あと他の4匹についても、俺の大事な仲間を3人も驚かせてくれた礼をしてやらねばなるまい。
ということでまずは前の方に居る1匹を狙って、フワリと軽く、殺さない程度の攻撃を加えよう……
「これからお前達を倒すっ! 喰らえっ! 勇者ソフトフェザーパーンチッ!」
「ひょっ!? イィィィッ! げはっ……」
「あ、死んじゃったかな?」
投石器を持った小仙人の1匹を狙った捕獲用の非必殺パンチ。
顔面に直撃し、鼻がメコッと凹んで目玉が飛び出してしまったではないか。
ちなみに、狙われていることを攻撃を受ける直前に察したのか、とっさに緑色のバリアのようなものを張った小仙人であったが、それはパリンと割れることすらなく俺のパンチは簡単に通過してしまったのであった。
だが、同時に飛び出したジェシカの放った斬撃は、別の小仙人のバリアを打ち砕き、その肩口にガツンと食い込んだ。
どうやらこの緑のバリア、透過し、なかったものとしてしまうのは俺だけらしい。
そしてその光景を見た中仙人が、やたらと驚いた表情を見せる、自慢の仙人武器も地面に落としてしまった。
「き……貴様……どうしてその力が……」
「ん? ああこれか、どういうわけかお前等みたいなクズ共と同じ力が使えるんだ、本当に理由は知らないんだが、お前も知らないというならその臭い口を閉じろ」
「そんな、まさかそんなっ……この力は仙人、または賢者にしか扱えないはず、それをこんな……」
「だから臭い……っと、何か知っているようだな」
ショックを受けた様子で独り言、いや勝手に自白を始める中仙人、その間にモブの小仙人を、死なない程度に痛め付けていく仲間達。
とりあえずこの戦闘は俺達の完全勝利だ、俺が顔面をグチャッとやってしまった1匹はもう痙攣し、あとは死ぬだけの状態になってしまっているが、残りは全て捕獲に成功した。
俺は残ったこの中仙人のひとり供述をキッチリと聞いておこう、この力について何かわかることがあるかも知れないからな……




