42 帝都での会議とマリエルの弟
「貴様等っ! よくもやりやがったな!」
俺が起きたのは全員が集まった後、しかも使用人のの女性が朝食のサンドウィッチを持って入ってきたのとほぼ同時であった。
白の女性用パンツを履かされ、しかもモロに露出していたことに気が付いたのはその後のことであった。
「勇者様、どうでも良いから早くそれを食べさせてちょうだい」
「黙れっ! 貴様のケツからサンドウィッチを詰め込んで奥歯ガタガタ言わせるぞ!」
「あら、それも良いわね、是非そうして貰いたいわ!」
「良くねぇよ! 史上最低の行為だわ!」
「主殿、朝から騒々しいぞ、少し落ちついて欲しい」
「誰のせいで騒々しいと思っているんだ貴様は?」
城に行くための迎えの馬車はあと3時間程で来てしまうとのこと、ここへの滞在は今日までなので、他の部屋の者は荷物をまとめるために一旦戻った。
朝食をまだ食べていないのは俺とセラだけだ。
「勇者様、あのお肉が挟まったのを食べさせてちょうだい」
「いやいや、あれは俺が狙っていたんだぞ!」
「じゃあはんぶんこしましょう、両側から2人で同時に食べるのよ」
それは素晴らしい、最高にエッチなゲームを何のためらいもなく提案してきやがった。
もちろん、拒否する理由はない。
荷物をまとめていたマリエルとジェシカも手を止めてこちらをガン見していた。
「さて、改めて言うが、お前らよくもやってくれたな! 主犯は誰だ?」
「私ですよ、勇者様」
「じゃあ帰りの馬車ではマリエルを中心に酷い目に遭って貰うこととしよう!」
「まぁ、それは怖いですね、期待していますよっ!」
俺も念のため今のうちに帰り支度をする、とは言っても荷物が少ない、すぐに終わってしまった。
やる事が無いため3人の邪魔をして回る。
「そういえば今日の会議とやら、マリエルは目立つ所に座るのか?」
「ええ、一応王国側の人間でお呼ばれの立場ですから、かなり目立つ位置にずっと座っていることになりますね」
「なら準備が終わったら限界まで尻を叩きまくってやる、目立つ所で一日中モジモジしているが良いぞ!」
「それはちょっと恥ずかしいですが、是非お願いしたいですね」
その日、マリエルは出会う人の大半から変な座り方を指摘されたという。
準備も終わり、4人でまったりしているところへ使用人の女性がやって来た。
朝来たのと同じ人だ、俺と目が合うとすかさず視線を逸らした、完全に変態だと思われているようである。
使用人の女性は迎えの馬車が来たことを伝え、そそくさと退室して行った、俺には挨拶すらナシだ。
皆で馬車に乗り込み、城へ向かう、城の壁には精霊様が空けた大穴がそのまま残っていた。
せめてそれぐらいは直そうよ!
※※※
「なぁ、何でマリエルと精霊様だけあんなVIP待遇なんだ? 何で俺達は汚い非常階段みたいなところを歩かされているんだ? 何でセラのおっぱいはそんなに小さいんだ? 何で……」
「勇者様、うるさいわよ! 何で、ばっかり子どもじゃないんだから!」
マリエルと精霊様は正面のピカピカルートで議場へ向かい、俺達は裏のジメジメルートから同じ場所へと向かっている、不当である。
「おい、せめてミラが俺の前に出ろ、何のための短いスカートだ、せっかくの階段だしな、俺に眼福を提供しろ!」
「勇者様、パーティーリーダーが先頭でなくてどうするんですか?」
「前衛が前に出るのは基本だろう? 俺は中衛だからな、後衛のルビアのおっぱいに背中を預けておけば良いのだ」
「全く、しょうがない勇者様ですね……」
議場に着くと、既にマリエル達は席に着いていた、第一王子も居るようだ、この後の会談で使う全80項に渡る要請リストを再確認しておこう。
ジェシカはどこかへ行ってしまったが、残りのメンバーで規定の席に座った、テーブルに昼食が運ばれてきたのでそれを食べる。
そうしている間に続々と人が集まり、皆席に着く、ようやく会議が始まるようだ。
『定刻となりました、帝国だけに……』
『・・・・・・・・・・』
冒頭からダダ滑りした司会進行役は処刑された。
新たな司会を迎えて再び会議が始まる。
『これより、新生ボイン帝国、第1回帝国会議を開催致します』
『今回は、ペタン王国および異世界勇者パーティー並びに水の大精霊様がメインスポンサーとなって下さいました、皆さん、拍手を!』
本当に何も提供していないのに、どこへ行ってもスポンサー扱いの勇者である。
『では、開会の儀を議長殿にお願い致します』
議長が変な踊りを始めた、これは必要なのか?
『では議事に移りたいと思います、議事事項①は新皇帝の選任となります』
新皇帝に選ばれた男はまともそうな奴だった、俺達が助けた7人の中に居たらしいが一切記憶にない。
その新皇帝は、他に囚われていたジェシカパパ達に『あの皇帝は偽者だ』としきりに話していたという。
それがわかっていたのならこの異世界では相当に優秀な人材と言えよう。
会議はプログラム通りに進んで行く、というよりも既に摺り合わせ済みの事項を案として議題に挙げ、議長の合図で全員賛成として起立するのみの茶番である。
実に面倒なタイプの会議である、賛成は起立というのもどうかと思う、居眠りしてたらバレるじゃないか!
しかしこのまま行けば時間通りに終わりそうだな、念のため第一王子との会談は会議の予定終了時刻よりも後ろにずらしてあるらしい、杞憂だったな。
などと思っていた時代もありました。
旧皇帝の個人財産の処分に関して、という議事事項で不規則発言が連発したのである。
主流派でない派閥の連中がまとまって反発しているようだ。
まずい、全然決まりそうもない、このままだと会談どころか夜になる……
ジェシカを探す……居た! 結構近くに居たのだ。
コソコソと席を立ち、前屈みで歩いてジェシカのところに行く。
どんな手を使ってでも会議を明日以降に持ち越させるよう伝える、マジで何とかしてくれ。
『ぎちょおぉぉぉぉぉ~~~~~っ!……』
自ら行きやがった、ジェシカの活躍によって本日の会議は散会となった。
というか何だアレ、誰だこの異世界に転移してきた国会議員は?
再びジメジメルートを通って議場を出ると、マリエルが外で待機していた。
「勇者様、向こうはもう準備が出来たそうです、すぐに向かいましょう!」
「わかった、急ごう!」
マリエルに先導され、会談が行われるという高級な部屋へと向かった……
※※※
会談用にセットされた部屋では既にちっこいのが待っていた。
俺が入って適当に椅子に腰掛けると、それを待ってから優雅に座った。
賢い! だが残念ながら足が床に付いていない、見栄を張って大人用の椅子に座るからである。
「お初お目にかかります、異世界勇者アタル殿、私はペタン王国第一王子、インテリノと申します、以後お見知りおきを」
「よ……よろしく」
何だコイツは、本当に9歳なのか? コイツが19歳でマリエルが9歳とかの間違いではないのか?
しかし舐められてはいけない、ここは捲くし立てて主導権を握る作戦に出よう。
いくらなんでも80項目を一気に要請されたら混乱するはずだ。
「早速だがインテリノ第一王子、俺はこの先魔王軍と戦っていくにあたって勇者パーティー資金の補充、勇者ハウスの拡張、勇者軍の新設、あ、勇者軍は俺が指揮を取ってマリエルとセラが副官だ、あと勇者専用馬車の確保と寄付の募集、それから……」
「はい、勇者殿の要望は全部で80項目ということでよろしいですね?」
やべぇなコイツ……
「ですが第37項の王都スーパーハーレム計画と、第52項のミラクルエッチ祭の開催は少し難しいかも知れません、お力になれず申し訳ない」
しかも2つだけ仕込んでおいた俺の勝手な願望も、きっちり見抜いて却下してきやがった。
「ああ、大丈夫だ、その2つはそこまで重要なものではないからな(ちくしょう! このちくしょうめっ!)」
「ところで勇者パーティーには強力な前衛の方が複数居られるとのことですね?」
「ああ、前も後ろもズッコンバッコンだ」
「ではそのうちカレン殿かマーサ殿と手合わせしてみたいのですが? さすがに人族の身でドラゴンや精霊様と戦うのは避けたいですから」
「良いぞ、リリィや精霊様とでなければ勇者ハウスの庭でも模擬戦が出来る、カレンとか凄く喜ぶだろうから是非遊びに来てくれ」
「ありがとうございます、もし時間が空きそうならお邪魔させて頂きます」
「時間はあるだろう? 毎日戦闘訓練をしているそうじゃないか、模擬戦は遊びではなく訓練だ、その時間を利用して来ても構わないだろう」
「なるほど! その手がありましたか」
この辺りはやはり子どものようだ、ちょっとずるいかも知れないけど正当な理由となり得るものを見つけることが出来ない。
「それと来たときにはマリエルにもっとしっかりするように言ってやってくれ、馬鹿すぎて敵わん」
「それはこちらとしてもかなり困っていることです、そもそも父上がアレですから……」
「お前大変すぎるだろう? で、次の王にはもう内定しているのか?」
「ええ、今のところは私がやるしかないようです、王兄が見つかればわかりませんが」
「駄王に兄が居るのか?」
「はい、凄く聡明な方だったそうですが、身分違いの方と駆け落ちしてしまったとか、それであの父上を無理矢理王に……」
駄王の兄は真面目でしっかりしていたそうな、それが突然居なくなってしまったため、王になるつもりも一切無く、勉強なんぞ1ミリもしてこなかった駄王が王座に座らされている状態とのことだ。
王兄が見つかるか、この第一王子があとを継ぐか、どちらでも良いからアイツをどこにでも居る普通のダメ親父に戻してやって欲しい、さもなくば国が滅びる。
その後はたいした話が出なかったが、1時間程色々と協議して会談は終了となった。
「では、こちらでは勇者軍の新設を中心に検討しておきます、では、また王都でお会いしましょう」
「気をつけてな、すぐに遊びに来いよ! あと食糧財政支援も忘れないでくれ~」
スーパーハーレムとミラクルエッチ祭の件は誠に残念だったが、それ以外は何とか要望通りにいきそうだ。
部屋を出て皆の元に向かう、もう夜だがすぐに出発するんだったな……
※※※
「会談の方はいかがでしたか? 勇者様、そろそろ帰路の馬車が迎えに来ますよ」
「ああ、上々だったよ、ところでマリエル、帰りの馬車の方はどんな感じだ?」
『ええ、防音性能が最高のものを用意しました、中で何をしても御者台に聞こえてしまうことはありません』
俺の耳に顔を近づけ、コソコソと話してくるマリエル、悪い笑顔である。
俺も負けじと聞かれたくない話をする。
『で、尻はまだ痛いか?』
『先程ルビアちゃんに回復して貰いました、でも一日中痛かったんですよ、凄く良かったです』
『帰りの馬車でも覚悟しておけよ』
『もちろんそのつもりですよ!』
「何よ勇者様もマリエルちゃんも、さっきからコソコソして!」
「そうだぞ主殿、私達にも内緒の話なのか?」
『お前らも帰りの馬車では……』
「それは楽しみね!」
「こんなに早く馬車が来て欲しいと思うのは初めてだ!」
ちょうどそこへ馬車がやって来る、3人は争うようにして馬車に飛び乗った。
「なぁ、帰りはどういう行程なんだ? 夜出てどうするつもりなんだ?」
「今から夜通し走って、明日の夕方には最初の宿に着く予定です、これで1日短縮できるそうですよ」
「ではここからは昨晩の落とし前をきっちりつけてもらうことにしよう、まずは主犯のマリエルからだ、覚悟は良いな?」
マリエルから始め、セラ、ジェシカと来て再びマリエルに戻るというようなことを続けた。
5周ぐらいしたところで、順番が来ていたマリエルが口を挟む……
「あの勇者様、ちょっとよろしいですか?」
「何だ、もうギブアップか? でもまだまだ許してやらんぞ」
「いえそうではなくて、明日というか今日の宿のことなんですが、6人部屋のようなんですよ」
「そうか、じゃあ後2人呼ぶってことだな? ルビアとマーサで良いだろう」
「確かに、あの2人以外に今日馬車の中でしたことを話題に出来るメンバーは居ないわね」
「主殿、私もその2人で良いと思うぞ」
「ではそういう部屋割りという事にしましょうか、さぁ、罰を続けてください」
その1時間後ぐらいにはジェシカが寝てしまい、続いてすぐにマリエルも寝てしまった。
疲れていたのであろう、仕方が無いので俺とセラは2人を起こさないよう、静かに会話を続けていた。
「あう~、さすがにお尻が痛いわぁ~」
「それは馬車が揺れて痛いのか叩かれて痛いのかどっちなんだ?」
「叩かれた方に決まっているじゃないの……反省したわ、悪戯してごめんなさい」
「今更謝っても遅いぞ、一旦寝たら再開だな」
「わかったわよ、好きなだけすると良いわ、後で仕返しするけど、じゃあちょっとだけ寝るわ、お休み~」
セラも寝てしまった、そろそろ夜が明けてくるようだ、かなり進んだはずだが宿に着くのは次の日が沈む頃、まだまだ時間がかかる。
遠くの空に、赤く光る流れ星のようなものが見えた、帝都の方に向かっているようだ、メテオストライク、忘れてた。
俺に寄りかかって寝ているセラの頭を撫でていたが、気が付かないうちに俺も眠ってしまったようだ……
※※※
「主殿、主殿起きてくれ、最後の休憩だそうだ、あと3時間程で宿に着くらしいぞ」
「おお、まだ昼時じゃないか、意外と早く着きそうだな、あれ2人は?」
「食事を受け取りに行ったのだが、なかなか帰って来ない、私もちょっと出たいのだが、構わないか?」
「ウ○コ?」
「違う! 少し体を動かしてくるだけだ、行ってくる」
何やらジェシカ殿のご機嫌を損ねてしまったようだ、俺何か悪い事したか?
そこへセラとマリエルが弁当を持って帰って来た。
「ジェシカちゃんはどこへ行くのですか?」
「たぶんウ○コだ、気にするな」
「勇者様、そういうこと言っちゃいけないのよっ!」
なんと、それは初耳だ!
ジェシカは5分程で戻ってきた、ほらやっぱり……どうしてセラに殴られたのかわからない。
皆で昼食を取っていると、再び馬車が出発する。
「結構ボリュームがある飯だったな、夕食でも良いぐらいの量だぞあれは、宿に着くまでちょっと休もう」
「勇者様でも多いと感じるなら私達には少しオーバーでしたね、リリィちゃん基準で作ったのかしら?」
リリィはおそらく特別メニューだろう、あとカレンとマーサもそうだ、偏った食事の奴が多すぎるぞこのパーティーは。
「そういえばミラちゃんが馬車酔いでダウンしてたようですね、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ、どうせ下を向いてエッチな本でも読んでいたんだろう、すぐ復活するさ」
「ミラは勉強熱心だから復活したらまたすぐに読み出すと思うわよ」
談笑しながら窓の外を見る、以前帝国に来たときも通った道だ、今目の前で笑っているジェシカ、それからユリナもサリナも、その時はただの捕虜に過ぎなかったな……
おっと、そろそろ宿に着くようだ、寝落ちしていたセラを起こし、馬車を降りる準備をさせた。
※※※
「夕飯は部屋ごとだそうだ、ルビアとマーサは俺の方の部屋、残りのメンバーは別室だが、ちゃんとミラの言うことを聞くように、解散!」
宿は個室に風呂が付いている超高級タイプであった、夕食もなかなかのものだ。
ジェシカの実家ででたきたものと比べると見劣りはするが、普段に比べると十分すぎるぐらいである。
風呂も6人が余裕で入れるサイズのものだ、かなり拘っているようで、数多くの明かりが設置され、今までにないぐらいの明るさである。
というわけで食後は早速風呂にした、大人数ではいるのは凄く久しぶりな気がする。
「勇者様、さすがにここではタオルを着けたままで良いかしら? このお風呂は明るすぎるわ」
「そうだな、この明るさではさすがに肌が見えてしまう……」
「何を言っているんだ? 貴様等が昨日一昨日と俺に対してやったことを覚えていないとは言わせないぞ!」
ルビアやマーサは平気でタオルを取って湯船に入る、マリエルなど最初からタオル無しでのご登場であった、とても王女とは思えない。
「よし、馬鹿2人は放っておいて4人で温まろう、あぁ~、温かいなぁ~」
「わかったわよ、取れば良いんでしょ、取れば!」
「屈辱だ……だがなぜかちょっと嬉しいような」
あまり見ないで欲しいなどと言いながら手で隠そうともしないセラのおっぱいは、湯に浮くことも揺れることもなく、ただそこにある、というか無いかも知れない。
ジェシカに1割だけ分けてもらえば、おそらく倍以上になるはずだ。
風呂上りでも素っ裸のルビア、他のメンバーもパンツ丸出しである。
昨晩の仕返しのため、セラ、マリエル、ジェシカの3人は寝巻きの下を履くことを禁止したためだ。
マーサは付き合ってくれた。
「……でさ、そこでマリエルちゃんのスカートが捲れちゃって、紫パンツのお尻が丸見えになっちゃったのよぉ~」
「それは楽しそうね、私もそっちの馬車が良かったわ」
「あのときはちょっと恥ずかしかったですね、パンツ食い込んでましたから……」
布の袋に入ったナッツ詰め合わせを無理矢理パーティー開けして皆でつまむ、こういう時ワインは必須の飲み物だ、俺は赤を頂いている。
マカデミアナッツが粗悪品のようで、鑑定によると半分近くが亜種のバカデミアナッツであった。
食べると一時的に凄く馬鹿になる。
麻雀で培ったイカサマスキル、牌散らしを使って全員にバカデミアナッツが行き渡るよう仕組んだ。
ジェシカとマリエルだけは心なしか口調が柔らかくなったものの、それ以外には誰も変化が無かった。
『状態異常:馬鹿』は全員しっかり点灯している、素で状態異常級の馬鹿なのかお前たちは……
その後も宿に泊まりながら、数日かけて王都に戻る。
城門をくぐるとすぐに、俺達の拠点である勇者ハウスが見えてきた……




