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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十二章 怪しい店
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418 爆風対決

「やべぇよ、マジでアレはやべぇって、あんなのが暴れたら俺達のハウスどころか、温泉施設まで跡形もなくなるぞ」


「それにせっかく出店してくれたお店もね、戦うってことは私達も攻撃をするわけだし、このままじゃここは何もかも存在しない更地に戻るわよ」



 襲来した敵軍団がある程度退いたことを確認した俺達は、早速拠点村の入り口ゲート付近にある建物、おそらく門兵の詰所にでもしようと思っているのであろう建物に集合し作戦会議を始めた。


 既に他のメンバー達も全員集合しているし、戦えそうな者は、主要人物は会議に参加、それ以外のモブキャラに関しても、建物の外に集合し、戦いの前に上げがちな奇声を発している。


 捕虜というか人質というか、その状態のサキュバスお姉さん達は、未だにゲートの前に並ばせ、膝立ちではかわいそうだということで正座させてある、まぁ、正直どちらでも変わらないとは思う。


 だが、状況に応じてその一部を移動させる必要がある。


 もし敵がこの拠点村の周囲に展開し、どこから攻め始めるのか、見当が付かなくなった場合には、確実に『人間の壁』をぐるっと、村全体を守るようにして配置する必要があるのだ。


 そのためには少し人数が足りないのであるが、そもそもこの人質作戦は、強力な力を持つ敵に突撃を躊躇させるためのものである。


 ゆえに、そういった連中、特に敵総大将と思しきボーラレタの侵入を食い止めることが出来れば、あとの雑魚はどれだけ入って来ても構わない、魔法等でまとめて始末すれば良いだけだ。



「それでだ、さっきちらっと見たんだが、奴、つまりボーラレタとかいう大将だな、奴は魔法攻撃タイプだ」


「ちょっと勇者様、あの見た目で魔法使いはないのでは?」


「良く見ろマリエル、お前の所属する王家が、俺達以外で最も信頼を寄せている団体の首班、ゴンザレスは何なんだ?」


「……そういえば無駄に水魔法使いでしたね、水分補給と、あとお尻から噴射して空を飛ぶ以外の用途はないようですが」


「おう勇者殿、そしてマリエル殿下、残念ながら俺は水魔法の新しい用途を思い付いたのだよっ!」


『おぉっ! 酒を水割りにするのかっ!』



 自信満々で水魔法を放ち、『工業用無水エタノール』を水で割るゴンザレス、珍しくかなり酔っているようだ、まぁ、半日『消毒用アルコール』の樽を抱え、そればかり飲んでいたのだから仕方ないことだ。


 というかそもそもどこから無水エタノールなど持って来たのであろうか? 魔法に頼りっぱなしのこの世界、アルコールはまだしも、工業に頼る場面などそうそうないはずなのである。


 まぁ、それは良いし、酔っ払いもどうなろうが構わない、今はこの拠点村を敵の軍団から守ることを最優先に考えなくてはならない。



「ちなみにご主人様、敵の方はどんな魔法を使うんですの?」


「俺が見た限りでは風魔法だったな、エロそうな顔してたし、きっとスカート捲りか何かで鍛えたんだろうよ、全くクソみてぇな変態野朗だなっ」


「……いえ、御主人様じゃあるまいし、それはないと思いますわよ」


「何だとコラッ! 調子に乗る悪魔は久しぶりに尻尾クリップの刑だっ!」


「あでぇぇぇっ! ごめんなさいですのっ!」



 調子に乗って異世界勇者たるこの俺様に口答えするユリナに制裁を加え、敵が風魔法の使い手であるという情報を加えたうえで会議を進める。


 おそらく奴の戦闘力は魔法攻撃に全振り、だからあんなに重そうな、防御力の高い鎧を着込んでいるのだ。


 見た目こそ厳ついうえに、部下を3人も殴り殺したというインパクトはあるのだが、それは魔力を帯びた腕の圧倒的な攻撃力によるもの。


 あの鎧の中には想像以上の『打たれ弱い雑魚』が隠されているはずだ、俺達は攻撃を受ける前にそれを引き摺り出し、全身全霊の一撃で葬り去る。

 拠点の一部または全部の損壊を敗北と位置付けた場合には、その決着方法が俺達の最も堅実な勝利条件となるのだ。



「ところで主殿、その、敵の鎧男は何魔法の使い手なんだ?」


「ん? ああ、それなら風魔法のみだったよ、雷魔法は派生していなかったし、その点においてはやり易いかもな」


「風魔法か……風で鎧を吹き飛ばす……爆風で全裸に剥く……」


「おいこらジェシカ、何の妄想をしているんだ? 全裸に剥いて欲しいならいつでもやってやるぞ」



 この異世界に来てまだ1年の俺の感覚では、爆風といってもスカートが捲れ、パンツが見える程度の感覚である。

 だがそのようなことはない、この世界には魔法が存在し、風の力で対象を全裸に剥くことぐらい簡単なことなのだ。


 もちろん、それは相手が同じ魔法をぶつけてこなければの話である、相手との風魔法対決になれば、どちらか勝った方はノーダメージ、せいぜい魔法消滅後のそよ風を感じる程度である。


 だが敗者はひとたまりもない、ぶつかり合った風魔法により、当該場所の空気が極端に圧縮され、それが丸ごと、塊となって押し寄せるのだ。


 そうなればあの鎧に包まれたボーラレタの中身を露出させる、そして将を失ったことによって暴走するはずである2万の大軍も、ついでに大幅な削減が見込めるという、一粒で二度美味しい結果となるに違いない。


 まぁ、風魔法以外の大規模攻撃では話にならないというのも事実だ、精霊様が水を使えば、おそらく敵の本陣がある丘の上から、この拠点村に向かって水が押し寄せる。


 そもそも風魔法対決をする以上、セラがメインの攻撃役となるのだ。

 となると、万が一のための拠点村周辺の防御は水の壁以外に頼れるものがなく、よって精霊様には守備に回って貰う必要がある。


 次いでリリィのブレスやユリナの火魔法だが、これは残った雑魚を一掃するためにリリィの力全部と、それからユリナの力の一部、セラに融通しなかった分は温存しておきたい。


 風魔法で打ち勝ち、敵の大群を吹き飛ばしたとて、それが全くゼロになるわけではないのだ。

 というか、そこで残った敵は強い力を持つ者、軍全体の敗北を悟り、ヤケになって暴れればどうなるか?


 この帰結でもおそらく拠点村はお終いである、俺達は鎧野郎だけでなく、敵軍の中に存在する、この村を吹き飛ばすことが出来得る部下の強力な魔族からも、一切の攻撃を受けてはならないのだ。


 かなり狭まってしまった拠点村勝利への道であるが、ここは何が何でも、全身全霊を賭けてでも勝利する必要がある。


 勇者パーティーの領土として大々的に公表した拠点村が、その発足式当日に敵軍の襲撃を受け、全滅しました(なお、受け取った祝儀等は一切返還致しません、ご了承下さい)では示しが付かない。


 それどころか、特に雑魚キャラを代表として送り込んできたような、俺達に反対の立場を取るような国や自由都市、団体等に関しては、間違いなくその代表者の死亡、または重傷を負ったなどとして俺達への賠償を請求してくるはずだ・


 そのような事態に陥った場合、勇者パーティーの『弱さ』を世界に見せ付けてしまうこととなる。

 仮に、戦えない連中の生き残りが、俺達が敵軍をあっさり殲滅するのを見ていたとしても、それは何の効果ももたらさない。


 敵対的な組織はきっと、『拠点村が物理的に逝った』という事実のみを切り取り、戦闘の勝敗に対しては触れることなく、『勇者パーティーの力不足による敗北』を喧伝するのだ。


 ここで負けると実に拙い状況になる、拠点村そのものだけでなく、今までこの世界で積み上げてきた実績を守るためにも、ここは気張っていかなくてはならない……




「それで、具体的な作戦はどうするわけ? 風魔法対決なら私が出るのは確定なんだろうけど、正直なところ何をしたら良いのかがイマイチ掴めないわ」


「なぁに、セラは真正面に立って、全力の風魔法をあの鎧野郎にブチ当ててやれば良いんだ、後ろの雑魚も吹き飛ばしながらな」


「あら、それなら何も考えるようなことはないわね、とにかく敵を吹き飛ばせば勝ち、まぁ吹き飛ばせるのは確実でしょうけど、その前に強い魔族が村の中に侵入したら負けってことね」


「まぁそんな感じになるな、もちろん抜けて来た敵にはこっちでも対処するから、セラは安心して前だけ見ていてくれ」



 ということで作戦は決した、あとは敵が攻め始めるであろう村正面のゲートの前で待機、『人間の壁』として使うサキュバス達は、誰かに頼んで村の周囲全体にバラけさせよう。


 ついでに勇者パーティーのメンバーは当然として、他にも物理で戦える者はグルッと村を囲うのだ。


 敵の数は多いゆえ、まっすぐぶつかってくるばかりではないことが容易に想像出来る。

 開いた敵軍の両翼によって村を囲まれ、その中から飛び出す比較的強い奴に、捕虜を探すという名目で内部を蹂躙されるのを避けなくてはならない。


 特に、隠密行動が得意なタイプの敵には要警戒だ、通常の都市であれば城壁、最低でも高い柵などが設置され、それを越えて来る者は自軍の監視部隊から一目瞭然なのである。


 だがこの出来たばかりの拠点村に関してはそうもいかない、正門であるゲートの付近以外は何もない、それどころか敵が隠れるのに格好の場所となる茂みや木々などがそのままになっている場所も多い。


 即ち『正面以外は完全侵入フリー』の状態、敵も俺達と同様に作戦会議をした以上、そのことには気付き、突いてくるはずだ。


 と、そこへ見張りに出ていた王国軍兵士、王子の護衛のために付いて来ていた兵士のうちの1人が、慌てた様子で作戦会議場へと飛び込んで来た。



「大変ですっ! 敵軍、両翼に展開して村を囲うように移動を始めましたっ!」


「やっぱそうきたか……カレンとマーサは移動しながら全体を回れ、忍び込もうとする奴を見逃すなよっ!」


「主殿、私とミラ殿は左右に分かれて前側を受け止める、だが2人では到底足りないからな、どんどん兵力を送り込んでくれ」


「わかった、じゃあここは任せて、俺とセラ、それから魔力が高いメンバーは全員一緒に出るぞっ!」



 正面で迎え撃つために、ゲートの方へと向かって歩き出す……やはりボーラレタ本人はストレートに突撃して来るようだ、全身に風のオーラを纏い、着込んだ分厚い鎧をさらに補強している。


 俺達が出てすぐ、温泉郷の代表として発足式に来ていたミケが遊撃部隊として、その他の戦える者は、同じく王国代表として参列していた王子のインテリノ、それにゴンザレスが引き連れて両翼へ分かれていった。


 もちろんそれらの部隊とは別に、『壁』として用いるサキュバスお姉さん達を抱えた連中も、村の各方面に向けて走り出す。

 人質が設置された場所と、その周囲のみは激しい攻撃を受けないはずだ。


 リリィと精霊様も飛び立ち、上空からの監視を始める、とにかく一兵たりとも拠点村の敷地内に入れないことを最優先に考えていく。


 まぁ、前衛の下級魔族とかなら戦う分には問題はないはずだが、それでも村の中央、非戦闘員が逃げ込んだはずの温泉施設に雪崩れ込まれるのは非常に拙い。


 というか本陣の総大将はマリエルにしたのか……いや、エリナの姿も見えない辺り、きっと一緒に居て、何らかの助言はしてくれるのであろう、そう願いたい。



「さてと、この正面には『壁』が居なくなったからな、抜かれれば大量の敵が一気に村の中だ、そうなる前に吹き飛ばしてしまおう」


「ええ、じゃあ皆私に魔力を集めてっ!」



 ユリナ、サリナ、そして今回は回復役であるルビアの魔力も、半分程度はセラに供給してしまう。


 俺達勇者パーティーのメンバーやゴンザレスなどが負傷すれば、全回復にはそれなりの魔力を要する。

 だがそれさえ除けば、ルビアの魔力の10分の1程度の力で他の連中が全て瀕死の重傷を負っても回復、というよりもほぼ蘇生に近い行為を出来る算段だ。


 杖を構えたセラ、その背中に大量の魔力が押し込まれる。

 その全てが体内に取り込まれると、まさに溢れ出さんばかりの力が、目視すら可能なオーラとなってセラに纏わり付く。


 数人の部下を引き連れて進軍するボーラレタ、その纏うオーラも凄まじいものだが、現状ではセラの方が圧倒的だ。


 だが、その状況を考慮に入れたはずのボーラレタが、一切怯むことなく前進して来る。

 サキュバスお姉さん達に酷いことをされた怒りなのか、それとも何か策があるのかはわからない……



「来るぞっ……いやまだなのか?」


「ちょっと、止まっちゃったじゃないの、何をするつもりなのかしら?」



 敵が一定のラインを超えたと同時に魔法を放つつもりであったセラ、そこまでは接近させないと力を伝える効率が悪く、後攻に回った敵の思う壺、どれだけ実力差があろうと押し負ける可能性が高い。


 そのラインを目前にして、ボーラレタの足が止まる……セラは仲間達から融通を受けた魔力を押し留めるので精一杯だ、これ以上タイミングを遅延されると拙いことになる……



「おいゴミクズ鎧野郎! どうしてそんな所で止まってんだっ! あ、まさかビビッたんだな? そうだろうよ、恐ろしくて足が前に出ないんだ、だたったらもう諦めて帰るんだなっ! ついでに言うと帰りに事故って死んじまえこの虫けらハゲ野郎!」


『……我はハゲではないっ! いや、少し腹が減ってしまってな……今食事をっ!』


「何をっ!? おいやべぇだろアイツッ!」


「き……気持ち悪いわね……でもそれは良いから早くして欲しいわ……」



 敵とぶつかる直前にも拘らず、腹が減ったから食事、そう言い放ったボーラレタ。

 ポケットから干し肉でも取り出すかと思えば、そういうことではないようだ。


 隣に居た部下の魔族、ボーラレタと同じく風魔法使いであったのだが、これをガシッと掴み、その人型の容姿としては通常ありえない大口を開け、頭から丸呑みにしてしまったではないか。


 次いで反対側に居た1人も、後ろの奴も、ボーラレタは部下の風魔法使いを喰らって取り込んでいく。

 5人喰ったところで、その纏ったオーラに変化が生じる。


 全身から噴き出す魔力、どんどん巨大化するオーラはセラと同等、もっとだ、一回り上の力を得てしまった。

 そして、何事もなかったかのようにまた歩き出す……いや、頭を随分気にしている、分厚い兜の下は、俺が指摘した通りハゲのようだ。


 そのボーラレタが、あらかじめセラの設定していた一線を越える。

 全く同時、相対する2人が全身全霊の魔法を放ち、それが両者のちょうど中間地点でぶつかった。



「どうだセラ、いけそうかっ?」


「む……むぐぐぐっ……キツいかも……」


「いや何とかしろよっ! 負けたら夕飯抜きだかんなっ!」


「負けたら……全員分の夕飯、どこかへ飛んで行くと思うわよ……」


「おう、確かにそうだ、とにかく頑張れっ!」



 部下の魔族を、まるで皮を剥いていないバナナを丸ごといくかのように喰らい、その力を超強化したボーラレタ。

 圧縮された空気の塊は、その力を受けて徐々にこちらへ迫る、僅かではあるがセラが押されているのだ……


 やることのない俺は、応援団風、サポーター風、そしてポンポンを取り出してチアリーダー風など、古今東西の方法を用いてセラを鼓舞してみるものの、その力の差は一向に埋まらない。


 それどころか敵の魔力容量の方が高く、時間が経過するにつれてさらに押され方が酷くなりつつある。



「このままじゃダメだっ! ルビア、ユリナ、お前等の魔力も全部セラにくれてやれっ!」


「わかりました、もう治療とか言っている暇ではないですもんね……」

「私もそうしますわ、でもご主人様はこれからどうするつもりですの?」


「俺か、俺は風に乗るんだ、風と共にどこまで行けるかはわからないが、とにかくあの空気の塊に風穴を開けてやるっ!」


「ちょっと言っている意味がわかりませんの……」



 およそ一般人には理解し難い説明を付した後、ウォーミングアップとストレッチを済ませた俺は突撃の準備をする。


 フォークが突き刺さっていた間にしていた包帯で聖棒を手に結び付け、少しばかりのことでは脱落しないようにしておく。


 あとは適当な邪神辺りに祈りを捧げ、魔法で戦うセラの後ろに立つ。

 現状、ルビアとユリナの魔力も全て投入した分が効いているため、圧縮された空気の塊は少し押された位置で停止している。


 だがそれも時間の問題だ、敵の魔力量は凄まじくこのままではまた押され始めてしまうのは明白。

 やはり俺が行くしかない、どこへって? あの空気の塊のど真ん中だ……



「セラ、俺が後ろから飛び越えてセラの魔法に乗る、俺が安定した飛行姿勢になったら、一気に魔力を送り込んでくれ、後のことはもう考えなくて良い」


「勇者様……安定した飛行姿勢って何よ……」


「……うん、まぁ何か良い感じになったら加速させてくれれば良い、俺が突撃して空気の塊をブチ抜く、その勢いで敵の所まで行けるはずだ」


「わかった……どうにかやってみるわ……」



 セラの同意も得て準備は完了だ、思い切りジャンプした俺は前のめりに落下し、そのままセラの目の前、魔法の始発点に向かって落下する。


 強い衝撃と目まぐるしい回転、竜巻に巻き込まれれば、死ぬまでの間はこういう感覚を味わえるのではないか、そのような感じだ。


 前後左右、もちろん上下の区別も付かない程にまで振り回される。

 どうにか目を開けると、何秒かに一度、地面らしい色が目に入った。


 体の感覚を信じ、足側に魔法の効果を受けるよう徐々に姿勢を正していく……乗った、キッチリ乗った、間違いなく今、足に風を受け、聖棒を突き出したまま敵に向かって飛んでいる……


 次の瞬間、足に当たり、俺に推進力を与えているセラの風魔法が勢いを増す。

 俺の飛行姿勢が安定したのを確認したのであろう、そのままスピードを上げ、目に見える次元で圧縮された空気の塊を目指した。


 突入、凄まじい圧力、通常であればここで、空気の壁に押し当てられて圧死しているはずのところ。

 勇者の力を得た俺にはその『通常』はもはや意味を成さない。


 ガッチリと握った聖棒をどうにかその空気の塊突き立て、中へめり込んで行く、まるでけん玉の玉、その穴の中に入っているような感じだ。



 ……10秒、20秒と経過したか、呼吸も出来ず、限界を感じ始めたところで……抜けた、反対側に抜けたのである。


 ここから一気にボーラレタの懐へ、それを後押しするのは俺の突き抜けた穴から噴き出すセラの魔法、届くか否か、一世一代の勝負だ……

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