38 勇者も魔法が使いたい
「セラとルビア、それからユリナはちょっと来てくれ、話がある。」
ユリナが青い顔をしている、セラとルビアが普段俺からどんな扱いを受けているのかを知っているのである。
この2人と一緒に呼ばれるということはろくなことではない、そう感じているのであろう。
サリナとジェシカにこれまで世話になったと伝え、別れを告げる。
お前は何をしても死なないだろう…
「あの、ご主人様…あの変な棒でいじめるのはナシという約束ですよわね…」
「そんなことはしない、今日は3人に魔法を教えてもらおうと思ってな!」
昨日、闘技場で見た第一王子の炎を纏った剣、そういうのが勇者っぽいんですよ、それがやりたいんですよ、それこそが異世界の醍醐味なんですよ。
なのに俺ばっかり汚ねえ棒で突っつくばかりでおよそ異世界勇者とは思えない有様である。
それは戦闘もサボりたくなりますよ。
「勇者様、魔法なら他に使える子も居るわよ、その子達のは教えてもらわなくて良いの?」
「ああ、魔物を呼んだり相手を騙したりするのは勇者がやって良い事ではないからな、あと精霊様は怖いし金取るからパスだ。」
「よくわからないわね、でも魔法を習得するのはかなり大変よ、私も強い意思を持って努力して、ようやく風魔法のスキルを得たんだから!」
「セラはどうして風魔法を得ようと思ったんだ?」
「夏は風で涼しいし、冬は風防で暖かいからよ。」
こんな理由で取得しているということは、おそらくそこまで熱い気持ちを持っていたわけではないであろう。
この程度の奴が取得できるなら俺でも大丈夫そうだ。
「で、そもそも魔法を使うにはどうしたら良いんだ?」
「ご主人様、詠唱をしなくては魔法を使うことができませんよ、まずその詠唱ワードを覚えなくてはなりません。」
「そうなのか、確かにセラもルビアも普段ブツブツ唱えているな、あれだろ。」
「最初は紙に書いて読み上げるだけで良いわ、そのうち全部覚えるはずよ。あとは魔法を使いたいという強い気持ちが必要ね。」
ルビアに様々な魔法の呪文を書き出してもらっている間、セラとユリナに風魔法の稽古をつけてもらう。
まずは風を出すだけの練習である。
つまみ食いがばれて木に縛られているリリィのスカートが捲れれば成功、その奥で優雅にお茶しているマリエルと精霊様に迷惑をかけることが出来れば大成功とした。
ちなみに大成功して精霊様が怒ったら全部セラのせいにする。
「よし、この紙に書いてあることを読み上げれば良いんだな!」
ユリナの持ってくれている紙に書かれた文を読み上げる、同時に風魔法を使いたいと強く念じる…
ぷぅ~~ぅっ!
屁が出た、俺の記念すべき異世界初魔法は屁が出てしまった!
「ご主人様、今のはここを読み間違えていますわ、似ていますけどここを間違えると屁魔法が発動してしまいますわ。」
失敗とかではなく屁魔法という分類らしい、スキル無しで誰でも使うことができ、公の場で屁が出たときはこれを連発して誤魔化すらしい。
バレバレだと思うんだけどな…
「そうかここだな、次は気をつけよう、じゃあもう一回だ!」
そよ風が出た…
何だ、簡単じゃないか魔法なんて、とも思ったがスキルを取得した様子はない。
どうやらこの程度であれば簡単に発動させることができ、スキルとは呼べないレベルであるようだ。
魔法練習中の児童と同程度の次元とのことであった。
「じゃあこのまましばらく続けるよ、リリィの所に届くようになったら伝える、それまで休憩していてくれ。」
そのまま練習を続ける、途中、木に縛られていたリリィがミラに許されて解放されてしまうというアクシデントが起こった。
ターゲットが撤去されてしまうなんて…
仕方が無いので畑から戻ってきたマーサを新たな的として縛っておいた。
「あっ!今ちょっとだけ風を感じたわっ!」
今日は風がない、そもそもここは外壁に囲われているしな。
今マーサが感じ取った風は俺の魔法によるものと見て間違いないであろう。
魔力が無くなったので一旦休憩する、先程までのリリィと現在のマーサに、協力の報酬として肉とニンジンを食べさせる。
なお、リリィは勝手に使っていただけである、ゆえにどうして自分が肉を貰えるのかはわかっていない。
それでも貰えるものは貰っておく主義のようだ、必死で貪っている。
回復してきたので再開しよう、もう一度マーサを木に縛り付ける。
「ねえ、縛り付ける必要ある?」
「特に無いが?」
「・・・・・・・・・・」
徐々に、確実に強化されていく俺の風魔法、毎回マーサのスカートが揺れる程になってきた。
だがまだパンツは見えない、今日中にちらっとでも見えるようにしておきたい。
「勇者様、調子はどう?上手くいきそうかしら?」
「おうセラ、もうちょっとなんだ、何かコツとか無いのか?」
「そうね、魔法を使いたいという気持ちだけでなく、それによってどのような結果を得たいかを強く想像すると良いわ。」
「何だよ、それを先に言え、お~い!今日凄くエッチなパンツを履いている者は居るか?」
マリエルの手が挙がる、長めのスカート、かなりの強敵である。
マーサを木から外し、マリエルを縛り付ける。
ここまで協力してくれたマーサの口にはニンジンを突っ込んでおいた。
マリエルのエッチなパンツが見たい…
強く念じて風魔法を詠唱する、今までにない、強い力が湧き上がってくる!
突風、いや空気の塊がマリエルを襲う、スカートはバサッと捲れ、黒のパンツが露になる。
Tバックだと聞いて後ろ向きに縛ってあったのが功を奏した、パンツと言うよりお尻丸見えである。
「やったわね勇者様、ちょっと邪道で外道だけどこれで初歩的な練習は終了よ!」
「これはご主人様だからこそ出来る練習方法ですわね。」
セラとユリナに褒められた、褒められたのかけなされたのかという判別は難しいところであるが。
とにかくマリエルを木から解放する。
「ありがとうマリエル、何か報酬を要求するか?」
「いえ、今日の気合が入ったパンツを皆に見ていただいただけで十分です。」
ちなみにコレ、この国の王女である。亡国は近いと言えよう。
最後に自分のスキルを確認する、ちゃんと風魔法が点灯している!
これで習得完了だ、後は練習していくのみである。
「なぁ、セラの使ってる風防はどのぐらい難しいんだ?リリィに乗るときに役に立ちそうなんだが。」
「風防は難しいし、飛んでるときに失敗すると危ないわよ。」
「ご主人様、あれはちょっとすぐには無理だと思いますわ、3年から5年は練習すべきです。」
「よし、諦めよう。」
「まずは簡単な空気の刃と壁ね、壁を練習すればそのうち風防もできるようになるかも知れないわ。」
風魔法に関しては壁を作るところから始めることにした。
ひとつは戦闘中、回復が出来るルビアを守ることができる手段が少しでも多い方が良いため。
さらに壁を極めればそこから形を換えた風防を作ることにも繋がるためである。
とにかく、今後風魔法は自主練ということになった。
※※※
「ご主人様、次は土魔法の練習をしてはどうですか?外壁の修理なんかに役立ちますよ。」
明らかに勇者の使い方ではない、だが外壁はカレンやリリィが暴れるせいでボロボロである。
しかもマーサが畑に行き易くするために穴を空けやがった。
扉も初日にリリィが破壊してしまったし、防犯効果は皆無である。
これは修理しておきたい、ルビアの言うとおり次は土魔法を覚えよう。
ブリッ!ブボホッ!…モリモリモリモリッ!
セラに借りた杖の先から、便所以外には出現しないはずの見た目をした土のようなモノが出て来た。
「ご主人様、ここが違いますわ、これだととても口に出すことが出来ない術式になってしまいますわ!」
昨日闘技場で4敗したセラには便所掃除を課してある、おそらくこの出て来たモノもそのジャンルに違いない。
セラに片付けさせた。
土魔法も練習していくが、これはちょっと使い勝手が悪い、本当に外壁の修理以外の用途が見つからない。
もっと高速で弾丸のように土を飛ばせるようになれば使えるのかも知れないが、今は無理だ、諦めよう。
あとウ○コ魔法は要らない、用途も不明だ。
最後に水魔法も練習したが、必死でやれば飲み水が出せるようになったぐらいである。
もちろんスキルを習得することは叶わなかった。
ちなみに火魔法の練習は失敗すると危ないので見送った。
他にも魔法は色々とあるようだが、一番使いたい雷や、強力な氷の魔法の先生がここには居ない。
とりあえずは今度町の外で火魔法を練習して終わりになりそうだ。
そういえば女神が先行した29人のチート能力もどこかにあると言っていたな…
※※※
翌日、朝から王宮に行っていたマリエルが帰って来た。
「勇者様、インテリノは来週時間があるのでここに来てくれるそうです。」
「それと、何やらお札のような物を発見した冒険者が居たそうで、研究所で調べたところ異世界勇者関係のものだそうですが、何かご存知ですか?」
「おっ!それは俺が使えるやつだ!すぐに王宮に行く、リリィ~ッ!行くよ~っ!」
急ぐからカレンは置いて行こう、賽銭箱は1つだけ設置だ。
途中、試しに風魔法で壁を作ってみるが、風の壁が風で飛んで行ってしまった、意味が無い。
王宮に着くと、リリィには待機所で待つよう指示し、急いで王の間に入る。
「おぉ、ゆうしゃよ、ちょうど良いところに来たようじゃの。」
「ああ、わかってるよ、変な札が見つかったって話だろう?」
「そうじゃ、そなたはこれについて何か女神様からお話を伺っておるのか?」
「伺っているも何も、そいつの正体を知っている、この世界で言うスキル関連だ。早速寄越せ!」
総務大臣が持ってきたスキルカードを食べる。
うん、イチゴ味だ。
「勇者よ、そなたそんな物を食べて腹を壊しても知らんぞ!?」
「大丈夫、ちょっと待て…メテオストライクとか言うスキルを手に入れたぞ!」
「何とっ!それを口にするだけでスキルが手に入るというのか?」
「そうだ、一旦ここで試してみても良いか?」
「待て、待つのじゃっ!そんなヤバそうな名前のスキルを王の間で使うでない!」
必死で止められてしまった…別に王宮ぐらい跡形も無くなったってどうと言うことはないであろうに。
とにかく、どこか別のところで試してみる必要がありそうだ。
屋敷が壊れるのは拙い、城門から出て草原で一度使ってみよう。
「じゃあ王都の外でスキルの実験をしてくる、同じような物が手に入ったらまた連絡をくれ!」
リリィを迎えに行き、一旦屋敷に戻った。
「王都の外で魔法の実験をするぞ、誰か付いて来るか?」
「行きます!もちろん攻撃魔法ですよね、見てみたいです!」
「待って勇者様、私も見てみたいわ。」
「ご主人様、私も連れて行ってください、帰りに甘い物を…」
魔法に興味があるカレンとセラ、俺と出掛ければ何か美味しい物を買って貰えるかも知れないルビア、それからカレンに興味のあるジェシカが付いて来ることになった。
5人で城門から出て、草原に向かう。
「ヤバいスキルかも知れないからちょっと離れたところまで行くぞ。」
「ご主人様、実験台は私で構いません。」
「人に向けて撃ってはいけないスキルだ、その辺の原っぱでやるから実験台は要らない。」
メテオストライクという名前からして威力が高そうなスキルだ、危険があるかも知れないからルビアに向けて撃つのは止めよう。
「よし、じゃあこの辺りでやってみようか!」
広い草原の中心辺りまで来た、ここなら王都からも、可燃物まみれの森からもかなり遠い。
凄まじいスキルであったとしても大丈夫であろう。
遠くに、一本だけ伸びた長い草を見つめ、そこに向かってメテオストライクを発動する。
詠唱は不要なようだ、チート能力だしこの世界の魔法とは少し違ったものなのであろう。
MPがごっそり持っていかれる、全体の8割以上を消費したようだ。
これだけでもメテオストライクの威力にはかなり期待ができるといえよう。
「・・・・・・・・・・」
しかし何も起こらない、全くといって良いほどに変化がない草原。
ターゲットに選定した草は、風によって優雅に揺れている…
失敗したようだ!
「何だか失敗してしまったらしい、MPは持っていかれているんだけどな…」
「成功率の低い魔法なのかしら?」
「そうなのかも知れない、ちょっと念話で女神に聞いてみるよ。」
メテオストライクというチート能力の詳細について問うべく、神界コールセンター経由で女神に連絡する。
『勇者アタルよ、本日はどういったご用件で?』
『メテオストライクとか言うチート能力を手に入れたんだが、それについて聞きたくてな。』
『ああはい、普通に文字通り呼び出した隕石が降って来て敵を攻撃するという強力無比な能力です。』
『試したら失敗したのだが、成功しないこともあるのか?』
『いえ、成功率は100%となっています。』
『いやいや、さっき使ったんだぞ、MPだって減っている、それなのに何も起こらないんだが?』
『さっき…でしょうか?それならまだ到達しないでしょう。』
『まだ到達しないとは?発動を試みてから結構時間が経っているような気がするんだが?』
『ええ、手ごろな隕石がすぐ近くにあるなどということはない、というのはわかりますよね?ですからメテオストライクではかなり遠くから隕石を呼び出すことになります。』
『だから?』
『ですのでスキル発動から隕石の到達までは通常3日程度を要します。』
『真剣に使えねぇなっ!』
『そんなことはありません、襲撃の数日前にこっそりと対象に発動しておいて、そこから直撃するまで隠れてですね…』
『何だその卑劣な勇者は…もう良い、貴様のようなやつに期待した俺が馬鹿だった。じゃあなっ!』
『ご利用ありがとうございました、また何かわからないことがありましたらいつでもご連絡ください。』
あの女神は魔王とか以前に滅ぼさなくてはならない…
「ご主人様、女神様はどのようなことを仰っていましたか?」
「ああ、このメテオストライクと、それから女神自身は救いようの無いクズだとのことだ。」
「付き合わせて悪かったな、全員帰りにおやつを買ってあげよう。」
カレンを除く3人にはちょっとした甘味、カレンには串焼き肉を買ってあげ、屋敷に戻る。
どうせなら火魔法の練習をしておけば良かった…
※※※
「キャハハハッ!女神から貰えるスキルなんてそんなもんでしょっ!」
夜、今日草原で試したメテオストライクについて精霊様に相談すると、すげぇバカにされた。
ちなみにいつ隕石が来ても良いように、目標地点には『頭上注意!』の看板を立てておいた。
「しかし、500年前の始祖勇者とやらは女神の力を借りて魔王を打ち破ったんだろう?」
「なわけないでしょ、その始祖勇者とか言う異世界人は自分で頑張ったのよ。女神なんぞに頼ったら敗退必須ね!」
ため息しか出ない…
「仕方が無い、自分で魔法を覚えて頑張るか…それと精霊様、俺は魔王とは話し合いで解決しようと思っているんだが、どうかな?」
「一度やってみたら良いんじゃないかしら?それでダメなら殺せば解決するわけだし。」
「ああ、そうするよ、さて風呂にでも入ろうか…」
風呂でカレンを抱えていると、ジェシカが何か言いたそうな顔で近づいてきた。
「どうしたジェシカ?カレンを貸して欲しかったら代わりにお前のおっぱいを俺に貸せ。」
「そうではない、カレン殿は貸して欲しいが…実は帝国の方から連絡が来てな、来週主殿も帝都に来て欲しいらしいのだ。」
「来週は第一王子がここに来るからタイミング次第では無理だ、あと普通に面倒だ、残念だが1人で行ってくれ。」
「良いのか?その第一王子も帝都に入ることになっているらしいぞ?」
「おいマリエル、本当か?」
「ええ、そういえば帝国に行った後ここへ来ると言っていたような気がします。」
「ならば考えなくもない、現地での待遇次第だがな。」
「私の実家に泊まると良い、娘の主君を無碍に扱うと思うか?鯛や平目のなんとやらを約束しよう。」
「はい皆さん、来週はジェシカさんのご実家でお世話になります、くれぐれも粗相の無いように。」
「ではいつから来られる?手紙で準備をお願いしておかなくてはならん。」
「そうだな、明後日発つことにしよう、4日か5日で着くだろう?手紙は明日出せばその3日後だ。」
「よかろう、その通り伝えておく。」
もう一度あの帝都に行くことが決まった。
だが今度は攻めるのではなく、パーティーメンバーの実家に招待され、歓待を受けるのだ。
そこで第一王子との会談の席も設けてもらえば一石二鳥である。
「そういえばユリナとサリナは帝国ではどんな扱いになっているんだ?一応元敵の親玉だろう。」
「そこは問題にはなっていない、お二人は単に人族と敵対する組織の構成員であったというだけで、今は人間側の勇者パーティーに参加しているのだからな、あの偽皇帝などとは訳が違う。」
その辺りは気にしない人間が多いのか?
まぁ、よく考えたら王都に攻め込もうとしたマーサが既に住民として馴染んでいるぐらいだからな。
純粋な敵と内部の卑怯者では扱いが違うのであろう。
「それじゃ、来週は全員で行くぞ、マリエルは第一王子に伝えておいてくれ。」
「わかりました、なるべく長い時間会談できるように調整して貰います。」
明日は帝国に行くための準備をしよう、あまり汚い格好で行くべきではないからな。
会食もあるかも知れないからその辺りはマリエルとジェシカに頼んで色々教えてもらおう。
特にリリィは要注意だな、大皿の肉を手で掴みかねん…
楽しみだ、もし帝都滞在が期待ハズレだったらメテオストライク撃って帰ろう…




