386 ヤバめの村
「村が見えてきたぞ~っ!」
「そうかそうか、村の入口にはゲートが……ないのか、寂しい所だな」
「というか、観光客なんか受け付けていないんじゃないのかしら? あ、見張りが何人か立っているわよ」
この地域のメインとなる町からは遠く離れた小さな村、ほこラーのジジィ曰く、日頃から必要以上に排他的な雰囲気を醸し出しているそうなのだが、『異種族の侵攻』という危機に当たり、それがどのように変化しているのかに注目だ。
ゲートのない村へ俺達の馬車が近付くと、付近を見張っていたと思しき5人の男が集まって来る。
全員が『警戒当番』の腕章を付けている、そして竹槍をこちらに向けて威嚇しているではないか……
「おい貴様等! 自粛期間中に何をしに来やがったんだ! 今は異種族への警戒で忙しいんだよっ! 余所者に構っている暇なんぞないっ! 殺して……ぎゃぁぁぁっ!、ま……魔族が居やがる……」
「何だとっ!? 貴様等、もしや異種族の手先だな、だからこんな時期に余所者が来たのか」
「おいおい、ちょっと待てやゴミクズ共、今は自粛期間じゃないだろう? もしかして公爵からの通達が届いてないのか?」
「通達だぁ? あ、もしかしてこの間殺した使者みたいな奴……そういえば公務員の格好をしていたような……」
「殺しちゃったのかよ」
「当たり前だっ! こんな時期に余所者など、いきなりやって来る方が悪い、ちなみにお前らも殺してやるからな、魔族なんか連れていやがって、覚悟しておけっ!」
どうやらこの村、しばらくの間外出して良いという情報が伝わっていないようだ。
ということはこの監視当番の連中以外、まだ全員が家に引き篭もっているのであろう。
これは生贄集めも大変そうだな、まぁ良い、ここの村長と平和的に協議してどうにかすれば良いのだ。
とりあえずはここで5人ゲット出来たわけだし、この先も意外とチョロいかもな。
監視当番だという5人の男は、俺がそんなことを考えている間に精霊様によって痛め付けられ、いまは生贄の契約書にサインさせている。
このゴミクズもすぐに転送してしまおう、もし他の村人に、俺達が生贄捕獲部隊であることを感付かれたら厄介だからな。
ほこラーの力で5個の新生贄を湖に転送した俺達は、先に徒歩で入村していた筋肉団や傭兵団の一部の連中の後を追った……
※※※
「うわぁ~、本気で誰も居ないじゃないか」
「最初にあの町へ行ったときと同じ感じね、窓には板が張ってあるし、人間は完全にあの中ね」
「チラチラみてくるような奴も居ないんだが、外の様子が気になったりしないのかな?」
誰も居ない村内を通るものの、他の町や村では感じたような視線を察知しない。
村人全員が本当に、完全に引き篭もってしまっているのだ、窓に張った板の隙間から外を見るようなこともしないレベルで……
と、そこへゴンザレスがこちらに向かって歩いて来る、何かを発見したようだ。
「おう勇者殿、向こうの方に村長の屋敷らしい建物を見つけたぞ」
「おっ、早いな……だが待てよ、マジでその家が村長の家なのか? 普通の金持ちとかじゃなくて」
「いや、表札に『村長』と書いてあったからな、何かの冗談ではない限り確実なのだ」
「主張強いなっ!?」
完全に意味不明なのだが、とにかくその自己主張の激しい村長の所へ行ってみよう。
村長直々のお触れで村人を外出させて、生贄候補をピックアップするのだ。
ゴンザレスの誘導に従い、そのまま馬車で村長家を目指す……ゴンザレスがどの建物を目指しているのかはすぐにわかった、表札どころか屋根に『村長』と書いてあるではないか、馬鹿じゃないのか……
「おうっ、ご到着だ、早速中へ入ってみよう」
「門の柵がゴールドなんだが……マーサ、蹴飛ばしたりせずに慎重に外せよ、コレはお土産として持って帰ろう」
蝶番だけを破壊し、ゆっくりと柵を取り外すマーサ、うむ、上手く回収出来たようだ。
そういえば俺達の屋敷の入口にも、最初はこういう感じの柵があったんだよな。
確か入居初日にリリィが盛大に破壊して……よし、コレは鋳潰したりせず屋敷で使うこととしよう。
「じゃあこれは馬車に積み込んで、建物のドアは普通だからぶっ壊して良いぞ」
「わかったわ、でいやぁぁぁっ!」
『な……何なんじゃっ!? 先程から騒がしいと思ったら、まさか貴様等、余所者じゃなっ!?』
粉砕したドアと共に舞い上がった埃で良く見えないのだが、玄関の奥に確認出来るでっぷりと太った人影が、今の台詞の主のようだ。
というか、ここで『強盗』や『襲撃者』という指摘をするのではなく、まさかの『余所者』を第一声で叫んだのは印象深い。
この村長らしき人影は、よほどに『余所者』が嫌いなのであろう。
いや、それは村長のみならず、この村に巣食う性質の悪いクズ共の大半に言えることに違いない。
「よう、お前がここの村長だな?」
「そ……そうじゃ、余所者がこんな時期に何の用だ? 今はすべての活動を自粛して窓に板を張って引き篭もるべしとのお触れが……」
「だからさ、その自粛とやらは一旦解除されたの、で、その通達を持って来た使者を警戒当番の奴が殺したの、だから村人に外へ出るように言ってくれ」
「そんな馬鹿な、というか貴様等、余所者のうえに獣人や魔族までっ! 変な病気を伝染されては敵わんっ! さっさと出て行けっ!」
「はい、デブ村長、アウト~ッ、カレン、捕獲してしまえ」
「ほいさっ!」
「は? あがっ、ぎぃぇぇぇっ! あ……足の骨がぁぁぁっ!」
サッと移動したカレンの攻撃を受け、右足の甲がベッコリと凹んだ状態になったデブ村長。
これで逃げることは出来まい、というか元々この体型では走ることが出来なかったか……
「さてと、この場で殺されたくなかったら『生贄契約書』にサインしろ、あとこの村の人間全員に行き渡るよう、家から出ろという命令を出せ」
「勇者様、それよりも全員を広場か何かに集めた方が早くないかしら?」
「む、そうだな、ということでそうしろ、5秒以内にだ」
「だ……誰が貴様等の言うことなど聞くものか、わしは代々領主様からこの村を預けられている、由緒正しき家柄の村長様なんじゃぞ、それを余所者如きが……」
「残念ながらその御家は今日限りで御取り潰しだ、マーサ、やってしまえ」
「わかったわっ! てぇぇぇぃっ! やぁぁぁっ!」
「ぎゃぁぁぁっ! 御取り潰しって物理かよぉぉぉっ!」
クソデブ村長が悲鳴を上げている間に、屋敷の建物は屋根がなくなり、壁がなくなり、遂には俺達の居る玄関を除いて基礎に戻ってしまった。
ちなみにミラと精霊様が2人で運んで来たのは巨大な金庫、持参していたバールのようなものでこじ開けると、中には金の延べ棒が数十本。
なかなかの戦利品だ、これからは普通の悪い奴ではなく、『大金持ち』の悪い奴を中心に、主に屋敷へ押し掛けるかたちで討伐していくべきだな。
これはどの異世界においても、勇者業の新しいスタンダードになりそうな予感だ。
「ミラ、精霊様、金庫は重いから処分しておけよ、おいキモブタ、他に金目のものは置いてないのか?」
「勇者様、それよりも先に生贄集めをしなきゃ、村人を広場に集めるのよ」
「っと、そうだったそうだった、ということでデブ村長には最後の仕事をして貰う、それが終わったら解任だからな」
「そ……そんな馬鹿な……」
などと言いつつも、諦めたかのように生贄契約書にサインするデブ村長、ついでにお触れの文書も作成させて印を押させた。
これを騒ぎに気付いて駆け付けた兵士に渡して、村人をこのすぐ近くにあるという広場に集めるのだ。
もちろん村長も同行させ、ステージには討伐者としてカレンも立たせる。
その場でカレンに向かって暴言を吐くようなら生贄、もちろん蔑むような視線を送るのもアウト。
まぁ、この村は人口500人程度だというし、生贄は集まっても400個といったところであろう。
それでも他の町村でチマチマ集めるよりも効率が良い、ということで作戦開始だ、ちなみに駆け付けた兵士も獣人がどうのと言い放ったため、耳を削ぎ落として契約書にサインさせておいた……
※※※
『おい見ろっ! 獣人が村長様に危害を加えたみたいだぞっ!』
『本当だっ! しかも魔族まで居る余所者パーティーじゃないかっ!』
『誰かカラーボールを持っていないか? 腐った卵でも良いぞっ!』
「はい、あそこの連中アウトね、ゴンザレス、捕獲はそっちに任せたぞ」
「おうっ、ネズミ1匹たりとて逃すことはないのだよっ!」
早速集まり始めた村人共、老若男女問わずここに集まるよう指令が出ている。
で、早速壇上でちょこちょこと動き回るカレンを見て、アウトとなる発言をする者がちらほら。
「全く、村長も村長なら村人も村人だな」
「勇者様、余所者がどうとか言っている奴が居るわよ、それはどうするの?」
「あ、それもアウトで、下のゴンザレスにハンドサインでも送っておいてくれ」
次々と現れては、その途端にアウトとなっていく村人、今のところセーフなのは数人だ。
ちなみに連れ去り役のゴンザレス他筋肉団員は、目にも止まらぬ速さで仕事をしているため、村人が突然攫われたということを認識出来ている者は居ない、せいぜい『急にどこかへ行ってしまった』という程度である。
サイン会場も広場から離れた所に設置したし、このペースならあっという間に生贄確定者、通称『贄確』が集まりそうだ。
「貴様等、わしの村に何をするつもりなのじゃっ!?」
「何をするって? 悪い奴を炙り出して生贄にするんだよ、お前もそうだが、ここの村の連中は生きている価値がない奴が多すぎる」
「あ、それとこの村は、というかこの地域全体はペタン王国が併合しますんで、村長さんは自分が死んだ後のことを心配なさらなくて結構ですよ」
「そんなっ、余所者どころか他国にこの村を明け渡すなどっ!」
「黙れデブ、お前なんかどうせ死ぬんだから関係ないだろ、せいぜい念仏でも唱えておくんだな、ちなみに二度と口を開くなよ、息が臭くて敵わねぇ」
「それでは念仏が……」
「だから喋ってんじゃねぇっ!」
「ふんげはっ!」
村長を死なない程度に蹴飛ばしたところで、今までグッと我慢していた様子の村人も、一斉に俺達に対する怒りを表現し出した。
もちろんそれもアウトだ、自分達が悪いからこのようなことになっているというのに、それを自覚すらせず正義の執行者に怒りをぶつけるなど、冗談でもやって良いようなことではない。
『オラァァァッ! 死に晒せこの余所者がぁぁぁっ!』
「はいアイツはアウトね」
『酷すぎるわっ! 村長様を解放しなさいっ!』
「はいあの女アウト……いや、可愛いから助命としよう」
その後もアウト祭を続け、最終的に残った村人はたったの50人前後、意思表示の出来ない幼児や赤ん坊も含めてこの人数である。
大人で残ったのは仙人みたいな格好をしたまともとは思えないジジィと、ナヨナヨした弱そうなおっさん、それに気の良さそうなおばちゃんが数人。
他は全部生贄となり、サイン会場から伸びた順番待ちの列が広場まで延びてしまっている、まぁもう隠す必要もないのだが……
で、贄確の中にはもちろん逃げようとする奴も少なからず居る。
居るのだが、直ちに捕まり、スッと列の最後尾に戻らされているようだ。
よし、そろそろこの場を締めて、残った大人達にはこれからも真面目に生きていくよう伝えておこう……
『はーい、これにて生贄審査を終わりまーす、助かった皆さんはこの村の人間が余所者にとっていた態度、それから獣人や魔族に対しての扱いを深く反省し、これからやって来る王国軍に全財産を差し出すなどして償いなさい、以上!』
『・・・・・・・・・・』
生き残りは全員、何も言わないのが得策だと悟っているのであろう。
放置された子どもや赤ん坊などを連れ、続々と広場を去って行く。
「これでこの村も片付いたな、あとは生贄を湖に転送して、最後の温泉街へ寄ってから俺達も湖を目指そう」
「勇者よ、少しよろしいですか?」
「どうした女神、便所でも行きたいのか?」
「いえ、生贄の数なのですが、慰霊の儀式に必要な数はもう集まっていますよね?」
「おう、そうだな、確かほこラーのジジィが1,000必要だって言ってたからな、もう1,500ぐらいは集まってんじゃね?」
「ええ、それでそうなるとですね、もう少し、せめて3,000まで集めて、復活の儀式をやった方がお得な気がするのですが」
「復活の儀式か……」
以前王都でもやった復活の儀式、あのときは魔将として討伐し、捕らえてあったサワリンにやらせたのだ。
で、もちろん女神も似たようなことが出来るとは思うのだが、果たして神という立場でそれをやっても許されるのか?
まぁ、それでも単なる慰霊ではなく、復活させることが可能であるのならその方が良い。
この話に乗って、追加的なもう少しの努力をし、あと1,500の生贄を集めるのだ。
「で、3,000程度の生贄だと、殺された獣人はどのぐらいの数を復活出来るんだ?」
「そうですね、私の力、それに水の精霊の力、あとあの湖のパワーを使えば……うん、ここ数年で殺害された獣人全員を復活させることが出来ると思います」
「おうっ、なかなかの大サービスだな」
「ですが確実な復活のため、生贄の殺害方法は可能な限り残虐無比なものとして下さいね」
「それは任せておけ、残虐処刑は精霊様の得意分野だからな」
復活の儀式はおそらく、怨念となって彷徨っている霊的な何かに肉体を、という感じなのであろうが、具体的な仕組みはわからない。
とにかく掻き集めた生贄を、モザイクどころかお花畑の画面に切り替わって『しばらくお待ち下さい』になるレベルの方法で処刑していけば良いのだ。
そうと決まれば早速生贄集めの続きをしよう、最後の温泉街に行く前に、メインの町へ戻って今と同じ方法を取れば簡単であろう……
※※※
『はーいっ! ちゅうもーっく! 小悪魔3人娘ユニットによるゲリラライブの時間だよーっ! 司会進行は可愛い狼獣人、のカレンとっ!』
『これまた可愛いウサギ魔族のマーサちゃんでーっす!』
『オラァァァッ! 何が小悪魔だっ、ガチ悪魔じゃねぇかぁぁぁっ!』
『汚いモノ見せんじゃないわよぉぉぉっ!』
『ファック! 引っ込め! 往来の邪魔だぁぁぁっ!』
いきなりアウト者連発である、ユリナの希望でゲリラライブ形式にしたのだが、これはこれで生贄が集められそうだ。
……と、騒ぎに感付いた兵士が呼びに行ったのであろう、領主である公爵の乗った馬車が近付いて来た、かなり焦った様子である。
「あ、あのっ、皆さんはここで何をされているというのですか?」
「何って、生贄を集めてんだ、この地域の馬鹿共に虐殺された獣人を復活させるためのな」
「獣人? あ、そういえばそこかしこで虐殺事件はあったかと思いますが、復活ですか? そのために町の人々を生贄にするというのはちょっと……」
「ちょっと何だよ、どちらが悪いかなんて明白だし、今ここで俺の仲間に悪態を付いている時点で、この間の約束を守れていない証拠だぞ、お前も生贄にしてやろうか?」
「ひぃぃぃっ! し、失礼しましたっ!」
「あとさ、この事件が解決したら王国軍が攻めて来るから、ここは併合されるし、お前、たぶん財産全部没収されると思うぜ、今のうちに俺に渡しておけ」
「げぇぇぇっ! な……何ということっ!? す……すこしばかり急用を思い出しましたので、え~っと、邸宅の方は勝手に漁ってなんでも持って行って構いません、ではまたいつかお会いしましょうっ!」
馬車に乗り込んで走り去るロン毛メガネの公爵、きっと二度とこの町に戻ることはないのであろう、この先はどこかで放浪生活でも送ることに決めたのだ。
まぁ、もちろん捜し出し、適当に難癖を付けてぶっ殺してやるがな。
だが今はあんな奴に構っている暇ではない、儀式で使う生贄集めの方が優先である。
「はいアウト、アイツもアウト、とにかくアウト、みーんなアウトだっ!」
「おう勇者殿、もう800人は集まったぞ、契約書が足りなくなりそうだ」
「そうか、おいほこラー、それか女神、新しい契約書を作れ、大至急だからな」
「あら、困りましたね、少し時間が掛かりますよ、あ、それまでは代わりにこちらの契約書に書き足して……」
女神の手渡してきた契約書、それは石で出来た、手をかざすだけでピッと契約が完了する、使い捨てでない便利アイテムだ、紙を使うよりもエコである。
契約書の中身は意味不明なものだが、そこに生贄になる旨を追加して使用すればOKだ。
早速今アウトになったばかりのおっさんに……なんということでしょう、おっさんは頭が爆発して死んでしまったではないか……
「おいコラ、どうなってんだよコレ? 貴重な生贄が台無しなんだが」
「おかしいですね、この石版に最初に記載されている契約内容は、えっと……『5年間ウ○コ禁止、ウ○コ漏らしたら死ぬ』となっています、これに生贄契約を追加しただけですので……」
「つまりだ、あのおっさんは『ウ○コ漏らす』という契約違反を犯したから死んだと?」
「おそらく、きっとアウトになってあのような巨大な筋肉生物に捕獲され、さらに生贄として残虐な方法で殺害されると知ってしまったのです、それではもう、その、アレですよね」
「なるほど、ウ○コぐらい漏らしていてもおかしくはないか……まぁ良いや、さっさと新しい契約書を作って来い」
「はい、ではしばしお待ちを」
結局、女神が新たな契約書を用意するまでの間に、およそ10個の贄確者の頭が爆発してしまった、石版の総使用数は50程度、こいつらウ○コ漏らしすぎだろ……
その日の夕方まで生贄集めは続き、夜のうちに最後の生贄養殖場である温泉郷へと向かう。
明日からはもう一度自粛期間が始まってしまうな、まぁ、何らかの方法で誘き出せば良いか。
温泉郷での生贄集めが終われば、いよいよ儀式の開催である……




