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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第八章 神殺しの怪人
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371 儲けさせるな

「つまりだ、法人28号は儲かったら儲かっただけ、会社を新設分割して増えていくんだ、わかるかセラ?」


「……プラナリアみたいなものかしら?」


「そうだ、セラにはそっちの方がわかり易かったかもな、説明の方法を誤っていたぞ、まぁプラナリアは合併したりはしないだろうが」



 好き勝手に組織再編を繰り返して成長していく法人28号の生態に関して、セラに説明し、理解を得させるまではだいぶ苦労した。


 セラは生物や自然現象などといった分野については俺よりも遥かに、というか学者レベルに精通していると思うのだが、いわゆる文系の学問に関してはからっきしなのである。


 もちろん全てが『魔導』で片付いてしまうこの世界においては、セラの知る知識など魔物や野獣と戦うときぐらいにしか使えず、社会的に認められるものではない。


 ……つまり、それがセラは馬鹿だと判断されることに繋がっているのだ、もちろん他にも数多の理由はあるが。



「それで、そのプラナリア野朗をどうやって懲らしめるかって話なのよね?」


「おう、今日の最後にあった現象で、全然売上が得られない無能雑魚がどうなるかは示されただろ? どうにかしてメイン、つまり大元の奴にもそういう最後を遂げさせることが出来ないかって思うんだ」


「つまりさ、あいつらがどこかから買っているスキルカードをお金に換えさせなければ良いってこと?」


「そうなんだ、だからその方法を考える……と、その前にやはり仕入先が気になるな……」



 法人28号が販売用のスキルカードをどこから取り出しているのか、ということについては結局確認することが出来なかった。


 しかし、最後の最後であのチビ助が死亡、というよりも経営破綻した際、ばら撒かれた金銭はそのまま空へと消えていったのである。


 つまり債権者は空に、地上を這う俺達からは見ることも叶わないような、高い高い空の上にある存在だということだ。

 そして、そんなところに存在するもので思い当たる節……神界、或いは魔界、現状でそのどちらかしかない……


 ということで嫌疑が掛かったその両者を調べる、とはいえ魔界の神に友達は居ない、会ったことがあるのは死神と貧乏神ぐらいだが、呼んでも来てくれそうもないし、そもそも屋敷に招きたいと思える存在ではない。


 ならば魔界のことも全てひっくるめて女神に質問をしてみる他あるまい、もし答えに渋るようなら拷問してでも、有力な情報を吐かせるのだ。



「よし、じゃあこれからここに女神を呼び出すから、精霊様はおもてなしの準備をしておいてくれ」


「わかったわ、とびきりハードなのを用意しておくわよ」



 不気味な笑みを浮かべる精霊様に諸々を任せ、神界コールセンター経由で女神に繋いだ……



 ※※※



「吐きなさいっ! 全部あんたが仕組んだことなんでしょっ!」

「ネタは挙がってんだ! さっさと白状しやがれオラァァッッ!」


「ひぃぃぃっ! 痛い、痛いですよっ! あなた方は女神たるこの私に何を……」


『え? 拷問だけど』


「どういう理由でそのようなことを……」


『え? やりたかっただけだよ、そんなこともわからないのかこの馬鹿』


「誰が馬鹿ですかっ!? だいたい勇者や精霊など私の腹心であってもおかしくはない存在、それが何ですか? 毎度毎度、この女神、この世界を統べる唯一絶対の存在をして馬鹿だのアホだの、挙句の果てに拷問? リアルに何考えてるかわからない次元ですよ、あなた方はっ!」


「あ~、話が長いからそろそろ黙れこのクズ、でだ、今日呼び出された理由はわかっているな?」


「いえ、ここのところ神界大温線へ湯治へ行っていましたので、もう何のことやらサッパリ……」


「これでも喰らえぇぇぇっ!」


「ぎぃぇぇぇっ!」



 俺達が苦労して怪人四百二十面相、さらにはその後継である法人28号と必死に戦っている間、この腐った脳みそが耳から零れて全部なくなったような女神が湯治だと?


 冗談じゃない、質問の前に鞭で100回打ち据えておこう……と、精霊様が既に50発叩き、次は俺の番だと催促している。


 ちなみに女神様に対してどうのこうのとやかましそうなマリエルとジェシカに関しては、あらかじめ縛り上げたうえで闇の牢獄に監禁しているので問題ない。


 騎乗ライディングさせてあった三角木馬トロイ・ザ・トライアングルから引き摺り下ろした女神おぶつを免罪機能付きの鞭で叩き、鬱憤を晴らしておく。



「オラァァァッ!」


「痛いっ! そろそろ許して下さいっ!」


「ん? 反省したのか?」


「ええ、もう二度とあのような真似は致しません、すべての事件が解決するまで湯治は控えさせて頂きます、その代わりここの温泉を……」


「反省してないっ!」


「きゃあぁぁぁっ! お、お許しを……」



 どうしようもない女神クズなわけだが、そろそろ本題に入らないと日が暮れてしまう。

 罪深き者に赦しを与え、せんべいの如き座布団を敷いてそこに座らせる。


 事情を説明し、逆に女神からも話を聞くと、どうやらスキルカードの件は既に神界でも問題となっているものであったということがわかった。


 ただ、今回は以前のように『禁制とされたヤバいカードが盗難に掛かった』というようなものではなく、『失敗作として再生処理されるべきゴミがどこかへ消えた』のだという。



「で、その『失敗作』ってのは何をもって判断した結果としてそうなるんだ?」


「スキルカードについてはあなたもご存知でしょうが、主に異世界に転移、または転生する勇者に対して強力な力を授けるためのものです」


「うんうん、ゾウリムシに変身する技とかな、とんでもなくゴミだよっ!」


「それで、精製の過程で大半のカードは失敗となります、その『失敗作』というのは『効果が上手く乗らなかった』とか『副作用が大きく危険』など、とてもこれから異世界へと旅立つ勇者には渡せるものではないと判断されたものになります」


「なるほど、ゾウリムシに変身出来るスキルはその『失敗作』に該当しなかったと、ザル判定以外のいかなるものでもないな、それで、流出先と犯神は特定出来ているのか?」


「はい、ですが少し障壁が多くて問題化するに至っていないのです……」



 女神曰く、失敗作と判定されたスキルカードの流出先は、間違いなく『魔界』であることが判明しているそうだ。

 これは宅配の記録などから明らかになったことだという、何だ神界で宅配って?


 そして、この件を問題化出来ていないことの原因となっている事実、それは犯人、いや犯神が、以前この世界を統治し、火山の牢獄噴火事件にも深く関与していると目される例の神だからである。


 今は神界でなかなかのポジションになってしまっている当該神、それが魔界にスキルカードの失敗作を送っているとなると、そこから導き出される答えはひとつ。


 過去にその神が所属していた派閥の主神、そして火山の牢獄事件の主犯であろう、現在は魔界に所属する神に対しての送付であり、何か巨大な陰謀が渦巻いている、そういうことだ。



「なので私にも、それからこの件の調査に当たっている神や天使にも出来ることがなくて……」


「確かにな、ここで下手を打ったり目を付けられでもしたら、それこそ様々な意味での終焉を迎えるだろうからな、さすがにこれは出来なくても責められんぞ」



 またしてもその辺りの連中が絡んでいる事件のようだ、さすがにそこへは手出しすることが出来ない。

 いや、出来るのかも知れないが、争って勝つことはまず叶わないのである。


 となると神界から魔界へのスキルカード(失敗作)の供給は……違う、そこの流れを止める必要はないのだ、さらに魔界からあのクソ野朗へのスキルカード輸出も止めるべきではない。


 俺達がシャットアウトすべきは、クソ野朗から馬鹿な顧客へのスキルカード販売と、その顧客からクソ野朗への対価となる金銭の交付である。


 そこさえ止めてしまえば、法人28号はどの固体においても、仕入れたスキルカードの買掛金が支払えず、債務不履行に陥る、即ちあのチビのような最後を迎えるのだ。


 おそらくあのチビの最後、つまり一旦体が瓦解し、その構成要素が再び貨幣の形を成して空へと舞い上がっていくものだが、それは魔界からの債務不履行に対する強制執行であったに違いない。


 法人28号はその性質上、ある程度の金銭、特に金貨を体の構成要素として維持拘束していないと活動することが出来ないのである。


 そしてその金銭の変形物である自信の体を、担保に供することによって信用を得る。

 奴等は当該信用を根拠として魔界からスキルカードを輸入しているのだ。


 ……というような話をしたところ、またしてもセラの頭がオーバーヒートしてしまった、副リーダーがこれでは作戦会議にならない、とりあえずどこかに寝かせておこう。


 話し合いは付いて来ているメンバー、即ち俺とミラ、ユリナにサリナ、ジェシカと精霊様だけで続けることとした。


 ちなみに女神は横で知らん顔して菓子を頬張っている、アイリスが茶を出しているが、話の内容を理解出来ている者は少しでも参加して欲しいところだ。



「あ、そうですのご主人様、先の話なんですがちょっと気になるところがありますわ」


「ん? 何だユリナ、よっぽど的外れな見解でない限りは取り上げるから意見してみろ」


「はいですの、さっきご主人様が言っていた『法人28号の分体が自分の体を担保にしている』というのなんですが、それだと『スキルカードが高価なものである』という事実との辻褄が合いませんの」


「というと?」


「え~っと、奴等が販売しているスキルカード、アレは失敗作とはいえそれなりの仕入れ値になるはずですわ、それを魔界から大量に輸入して、あんな小さな体1つで賄い切れるとは思わないですわ」


「……なるほど、担保としての価値に到底行き届いていない、そういうことだな?」


「はいですの、そこがおかしな点、だから他にも何らかの保証をしているはずですわ、そしてそれはきっと大元の法人28号、オリジナルによる保証ですの」



 ユリナの見解は実に的を得たものである、確かに強制執行されるのを目撃した、あの小さな法人28号の体を構成していた金貨や銀貨等では、とてもじゃないが高価なスキルカード、それも1枚ではなく何十枚もであろう、それを担保することは出来ない。


 ここで菓子を食って寛いでいた女神に失敗作であるスキルカードの、おおよその取引相場を聞いておく……本当にゴミ以下のものでも銅貨5枚はくだらないそうだ、つまり20枚で金貨1枚、かなりの高級品である。



「おい、ちなみに神界から流出している失敗作はどのぐらいの数なんだ?」


「え~っと、天使から受けた報告によると、確か1日当たり500枚、それが1ヶ月近く続いているそうですよ」


「……とんでもない数だな、まぁ事情が事情だけに食い止めようがないのはわかるが」



 安いものでも20枚で金貨1枚程度の価値があるスキルカード、それが1日500枚、1ヶ月間でおよそ15,000枚の流出……つまり低く見積もっても金貨750枚程度、怪人四百二十面相が最初に出資した金貨300枚では余裕で不足している。


 奴等が活動を始めたのはここ1週間程度だというし、その前に初期投資としてかなりのスキルカードを魔界から輸入していたはずだ。


 で、単純に考えたとしても残りの金貨450枚、というか実際にはもっと差額が生じているのは間違いないが、それを出資したのはやはり魔界の神か?


 いや、出資と言うよりも融資な気がするな、魔界の神からすれば、神界から勝手に持ち出したスキルカードを下界に卸すだけでもかなりの利益になるはずである。


 さらにそこから出資して、法人28号の事業から僅かばかりの配当を得てもあまり美味しいとは感じないであろう、リスクを伴う出資などするだけ無駄。


 だとすれば、魔界の神は怪人四百二十面相側、つまり奴が発起人となって創設した法人28号から頼まれ、正当な価値を持つ担保を取って、安全に金を融資した、そう考えるのが妥当だ。


 そこでユリナの見解である、あのチビを潰してなお不足した分に関しては、間違いなく大元の法人28号オリジナルが保証している。


 ではここで考えてみよう、怪人四百二十面相が最初に出資した金貨は300枚、もちろんそれでは活動開始前の仕入れすら賄えない。


 その先には現在やっているであろう継続取引がある、初期の仕入れに加えてここも担保するためには、何か相当な価値を持つものを差し入れる必要がありそうだ。



「……ということを踏まえてだな、奴が何か担保として差入出来そうなものを考えてくれ」


「あら、それならもう1つしかないじゃないの、ほら、アイリスちゃんが見つけたの」


「魔導コア(法人向け)か? それを動産譲渡担保にでもしたってわけだな、確かに融資を受けるだけの価値はありそうだが……」


「いいえ、魔導コアは自立型魔導法人にとっての社屋、さらにその敷地でもあるわ、だから不動産として扱って、根抵当権でも設定したんじゃないかしら?」


「うん、魔導コアってのが何なのか益々わからなくなってきたぞ、きっと想像も出来ないほどに凄いシロモノなんだろうな、知らんけど」



 自身の魔導コアに根抵当権を設定したという精霊様の見解が正しければ、法人28号はあらかじめ設定した極度額の範囲内で取引し放題ということになる。


 もちろん買掛金は儲かった金で支払わねばならないが、それさえ期限までにしっかりと払えていれば、魔導コア自体は手元で使用収益し続けることが出来るのだ。



「けどさ、魔導コアってことはそれがなくなれば法人28号は死ぬ、ってか潰れるんだろ? そんな重要なものを初期段階で抵当に入れようなんて思うかな? そんなもの持っていないフリでもして……あ、そういうことか……」


「やけに目立たないように出資していたのと話が繋がったわね、アレは私達に隠したいんじゃなかったの、融資をする魔界の神に隠したかったのよ、というか、もしかしたらまだ隠し通しているかもよ」


「だとすると無担保で借りたってのか? まぁ何があっても魔界側の持ち出しは『ノーコストのスキルカード』だけだからなくはないと思うが……」



 実際のところはどうなのであろうか? そう考え、参加しているメンバーで話し合ってみる。


 結果、やはりあのチビ28号が殺られたように、支払が滞った場合の措置がかなり強力であることを踏まえると、魔導コアを担保として供出している可能性が高いであろうというところに帰結した。



「まぁ、実際のところは予想に反する部分もあるかもだが、確実なことは1つだ、奴に商売で儲けを出させないこと、これは誰でも理解出来るな?」


「勇者様、付いて来ていない人達はもう聞いていませんよ、何人か居なくなってますし……」



 カレン、リリィ、マーサは退室済み、マリエルは王宮へ情報収集という名のサボりに行ったようだ、もう王宮も閉店している時間だろうに。

 横ではセラとルビアが寝ているし、俺達だけまともに話をしていたのが馬鹿みたいである。


 とりあえず寝ている2人だけでも叩き起こし、これからやるべきことを伝えておく。

 敵の商売を妨害するのだ、実に単純明快、どれだけ馬鹿でも不可能ではない。


 しばらくすると、頭を使う会議の終了を察したメンバーが続々と戻り始めた。

 皆に翌日以降の作戦を伝え、とにかく妨害あるのみだということをわからせる。



「でも勇者様、妨害って具体的に何をすれば良いの? 法人28号の個体を見つけ次第始末するとか?」


「う~ん、アレは体にダメージを入れても無駄だと思うぞ、だから商品をやるんだ、スキルカードそのものを、客に渡せないような状態になるまで徹底的に毀損するんだ」


「何だか訴えられそうな作戦ね……」



 確かに営業妨害で訴訟を起こされそうな作戦ではある。

 だが悪いのは明らかに向こう、俺達は正義のために、卑劣な手段を用いて敵の商売を破綻に追い込むのだ。


 ……が、念のため王宮の方へ根回しをしておこう、いざ訴えられてから慌てなくても良いように、それから民事不介入とかで逃げられてしまわないように。



「じゃあ明日から早速行動開始で、あらゆる手段を使って敵の営業活動を妨害、売上を止めて支払能力を奪ってやるんだっ!」


『おーっ!』



 こうして何とも言い難い地味な作戦が始まった。


 翌朝、まずは王宮へ行って『何をやっていくのか』、『どういう目的があるのか』ということを伝える。

 さすがは大臣達である、勇者パーティーのメンバーと比べると格段に理解が早い。



「では勇者よ、こちらでもさらに注意喚起ポスターを増刷しておくでの、町中に張り巡らせておけば、アレが何なのか知らずに買って犠牲になる者も出まい」


「おう、それでもチンピラとか犯罪者はわからんからな、憲兵を出して大々的に賊狩りでもするんだ、そうすれば奴等の潜在顧客をかなり減らすことが出来る」


「うむ、ではそちらもすぐに取り掛かろうぞ」



 これで準備は万端である、あとは商店街にでも行って……いや、もう王宮前広場の付近にゴールドの奴が散見される状況だ、どれだけ数を増やしているというのだ……



「ねぇ勇者様、敵1体に全員で当たっても効率が悪いだけだわ、ここは2人1組に分かれて頑張りましょ」


「そうだな、じゃあ適当に班分けをしようか」



 何となくで2人1組に分かれ、俺はセラと2人で行動することに決めた。

 ちなみに勇者パーティーは仲良しであるため、誰かが仲間外れになるなどという現象は起こりえない。


 夕方になったら広場に再集合ということで、それぞれ思い思いの方角へ散って行った。

 俺とセラはまず広場付近から、いつも行く商店街の方へ進んで行くつもりだ。


 敵は人の多そうな方に出現し易いはずだというのもあるが、その方が昼食を取る際など利便性がアレだからというのもある。


 とにかく営業妨害作戦の幕開けだ、邪魔して邪魔して邪魔しまくってやろう……

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