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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第八章 神殺しの怪人
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369 法律上の人

「おいババァ、それに他の大臣も、すぐに法人28号の解散命令を出すんだ、現在の所有者が誰かは知らないが、違法な野郎と混同していることは確かだろ、従わないなら俺達が討伐に出る」


「うむ、そちら方面で攻めるしかないの、まぁ現時点で国に出来ることは精算を促すことぐらいじゃがの、あ、ついでにそのスキルカードに関する注意喚起もしておこう、新しくポスターでも作って四百二十面相の手配書と差し替えるのじゃ」



 法人化して復活したらしい怪人四百二十面相、わけがわからないのだが、とりあえずやっていることは『スキルカード』やそれに類するものの販売のようだ。


 もちろんそのようなものを、雑魚キャラである王都の人々が使用した場合に起こるのは十中八九の凄惨な死。

 運良くそれを逃れた場合であっても、もはやそれまでと同様の生活を送ることなど二度と叶わない体となってしまう。


 にもかかわらず、当該スキルカード類の購入希望者は続出、それに伴って死傷者も続出。

 たいした情報も持たない一般の雑魚キャラは、その危険性を認識しないままに手を付けているのだ。


 青少年が『絶対にダメ』な白い何かに、特に考えることもなく平気で手を出すのとそう変わらない現象なのであろう。


 いやより性質が悪いか、購入者の大半は財力のある大人であろう、金銭的な理由で使うか否かを迷うということがない以上、思い立ったら即手を出し、そのまま墓地に引っ越す羽目になっている、そうに違いない。



『失礼しますっ! 法人28号に関する資料を持って参りましたっ!』


「ご苦労、それを勇者に渡してやってくれ」


「いや多すぎだろ、もう少しコンパクトにだな……」



 王の間に入って来た兵士が持っていたのは大量の紙束、見るだけで頭が痛くなりそうな、字でびっしり埋め尽くされた、件の法人に関する資料である。


 資料は俺の手を経由し、そのまま精霊様の下に移動した、こういうのはスルーだ、精霊様に読ませて、俺はその要約から何かを得ることとしよう。



「う~ん、この法人は株式会社ね、発起人は四百二十面相みたいだけど、他にも株式を引き受けている奴が居るわよ」


「へ~、誰なんだ? そいつらをぶっ殺せば解決するじゃないか」


「その資料が見つからないわ、そもそも誰が経営しているのかもわからないの、とにかくわかるのは株式会社ってことぐらいかしら? 定款すらもまともに記載されてないわ」


「……おいババァ登記官をクビにしろ、というか物理で首チョンパしろや、コレを通してんならその上に乗っかってる頭は一切稼動していないぞ」


「まぁそう言うでない、たまたま眠かったり、それか二日酔いだったのかも知れぬからの」


「だからそれが問題だと言っているんだが……」



 資料として渡された紙束は膨大であるものの、そこに記載された内容からはほとんどその会社の実態を読み取ることが出来ない。


 もちろんあえてそうしているのであろうが、それが通ってしまうこの国の実態は如何なものか。

 いや、発起人はあの四百二十面相だよな……何か幻術めいた技で無理矢理通したのかも知れないな……



「ダメね、あまり良い情報はないわ、とりあえずまだ読んでいない部分もあるから、この資料は持ち帰るわね」


「それは良いけどさ、最後は自分でちゃんと片付けろよ、束ねて古紙回収に出すんだぞ、ちり紙とか貰えてお得だから」


「わかってるわよ、さぁ、帰ってもう一度資料の精査よ」



 俺の袖をグイグイ引っ張って王の間を出ようとする精霊様、資料を抱え、ちゃっかりお土産の酒もキープしているではないか。


 しかし資料の精査といっても何をするのだ? そこからあまり有効な手立ては見つからないと思うのだが。

 だがそれでも何もしないよりはマシか、とりあえず帰って皆で相談してみるべきだな。



「では勇者よ、こちらはこちらでやっておくでの、そちらも何か掴むのじゃぞ」


「おう、出来るかわからんがやってみるよ、とにかく法人28号を経営破綻に追い込めば良いんだろ?」


「その通りじゃ、多少卑劣な手を使っても構わんからの~っ」



 王の間を出た俺達は馬車に乗り込み、屋敷へと戻った。

 結局報酬は貰いそびれてしまったのだが、精霊様がゲットした酒はそれなりのものだ、今回はこれで手を打つとしよう……



 ※※※



「……で、これが資料、すっげぇ断片的で意味わかんないから、一旦整理した方が良いかも知れないな」


「何よコレ、こんなにあったら紙でお家が作れるわよ」


「ちり紙に換えたら3か月分は貰えそうですね、早速業者に連絡しましょう」


「こらこら、まずは法人28号について調べてからだ」


「私はパスね……」



 屋敷に帰って皆に資料を見せるも、大半のメンバーは面倒臭そうな作業から逃げ出してしまった。

 残ったのは俺と精霊様、ジェシカにアイリスだ、ある程度まとまったら全員を集めて会議しよう。


 と、資料を広げていたら何か邪魔なモノが……気を失った屋台のお姉さんが寝かされているではないか。

 どうやらレーコから王国と聖国の戦争に関しての真実を聞き、ショックで意識を飛ばしてしまったらしい。


 このまましばらくは目を覚まさないかも知れないレベルの重症らしいが、だからと言ってこんな所に置いておくのはやめて欲しい、邪魔でしょうがないからな。


 ということでお姉さんは廊下に除けておいた、誰かが見つけて回収するであろう。

 地下牢にでも放り込んでしまえば良い、目を覚ましたらコリンに引き渡して、明日からでも働かせてやる。


 1人で串焼き屋台をやっていたぐらいだし、ドライブスルー専門店でも、初日から十分戦力としてカウント出来るはずだ。


 真実を知ったのであれば反抗的な態度を取ることも考えにくい。

 今回はなかなかに良い戦利品を獲たのかも知れないな……



 などと考えているうちに、ジェシカと精霊様は床に資料を並べ始めた。

 まずは情報ごとまとめ、それを要約して分量を圧縮するつもりらしい。


 気の遠くなる作業だが、これさえ済めばスッキリコンパクトな、大変目を通し易い資料の完成となるのだ、ここは少しだけ根を詰めて頑張ろう。



「見てくれ主殿、この会社の目的なんだが……」


「スキルカードの販売だろ?」


「いや、販売だけじゃない、『輸入』と販売なんだ、どこから輸入しているのだろうな?」


「外国じゃね? でも外国って何だよ、スキルカードなんて人族も魔族も絶対に作ってないよな、そもそも神界さえ異世界転移の際に1枚限定とか、そういうケチ臭い感じだったし(俺は2枚貰ったけど)、サテナが時間を停めるスキルカードを盗み出したときも大事だったし……」


「それにマーサ殿が以前使った『魔族用スキルカード』も、かなり伝説的な雰囲気で保管されていたような覚えがある、それをこんな気軽に輸入など、通常では考えられないのではないか?」


「これはちょっと調べてみる必要がありそうね、優先調査事項として登録よ」



 調査事項①は『法人28号』が危険なスキルカードをどこから、というよりもどこの国から『輸入』しているのかということに決まった。


 間違いなく人族や魔族の国ではないし、たとえ魔王軍でもこんなモノは製造出来ないはず。


 となると必然的に『国』というのは『神々の国』ということになるのだが……もしかして神界の神々が一枚噛んでいたりとかしないよな、だとしたら相当にヤバいぞ……


 まぁこの件は調べていけば後々わかることだ、今は資料をまとめることに注力しよう。

 と、ここでようやく怪人四百二十面相の名前が出てきた、法人28号の発起人は奴1人のようだ。



「ねぇ、この法人28号ってさ、もしかしたら四百二十面相が1人でやってたんじゃないかしら?」


「あのぉ~、そしたら今は誰が取締役なんでしょうか? 株主も居ないことになりますし~、会社としての要件が……」


「むぅ、確かにそうね、奴が死んだ以上誰かに権利が移りそうなものなんだけど、その様子はなかったし」


「てことはアレか、他に株式を引き受けた何者かが居て、でも色々と雑すぎて名前すらわからないということだな」


「これも探してみる必要がありそうね、というか、もしかしたら『スキルカードの仕入先』がそうなんじゃないかしら? 事業の根本に関わる相手だし、株式の大半を引き受けていてもおかしくはないわ」



 確かにここは繋がってきそうだ、一応正体不明の株主、つまり法人28号の現在の所有者か所有者群を調査事項②としたが、これは調査事項①と対象が被っているかも知れない。


 ちなみに、その株主を見つけて保有する株を買い取ってしまえば、俺達が法人28号の支配を獲得出来る、即ちそのまま回収してしまうことも出来るのでは? という案も出た。


 だが資料を精査していったところ、法人28号の発行する株式は全部について『譲渡制限付』であることがわかった、買収はさせないつもりらしい。


 というか、色々と適当すぎて目も当てられない状況なのに、自分を護るための措置に関しては抜かりないのだな……



「全くどうしようもないわね、株主も誰だかわからないうえに非公開会社……あ、でも四百二十面相は発起人だったわけよね? なら奴も株式を引き受けているはずじゃないかしら……」


「む、その通りだな、だがあのスキルカードの束は一度全部目を通したよな、株券なんて入ってなかったぞ」


「……株券はスキルカードじゃないわよ、まぁ券自体を発行してないって可能性もあるし、それは諦めましょ、で、奴はいくら出資したのかしら?」



 今度は法人28号の設立に当たり『四百二十面相がいくら出資したのか』ということを調べ始める。

 大量の資料の中からそういったことの記載がありそうなものをピックアップし、虱潰しに探していく……


 あった、なんと奴は金貨を300枚も出資しているではないか、盗賊団や家紋の不正利用、公金の中抜きなどに関与して集めた金なのは確かだが、それで相当儲かっていたということが発覚してしまった。


 まぁ、おそらく俺達がまだ知らないような犯罪行為をしたり、不法な組織に構成員として関与したりしていたのではあろうが、それにしても悪事で稼ぎすぎである。


 これはあんなに楽に死なせてしまって良いものでもなかったな、もっともジワジワと苦しめてから殺害するなどということをしている余裕などなかったのだが、それでも少し残念には思うところだ。


 しかしこれ以外に他の誰が、どれぐらい出資して法人28号が出来上がったのかはわからない、と、アイリスが何かを見つけたようだ、オドオドしながら辺りを覗うように挙手する……



「あのぉ~、え~っとぉ、そのぉ~」


「何だアイリス、発見したことがあるなら遠慮なく言って良いんだぞ」


「はぁ、これを見て下さい、この420の人、金貨300枚以外にも現物で出資してます、すっごく小さく書いてありますが……」


「何だと? どれどれ……」



 アイリスから手渡された資料、上の方には怪人四百二十面相が、法人28号にの設立に際して金貨300枚を出資したということが、目立つようにデカデカと書かれている。


 だがその下、本当に下の、本来であればページ番号でも入っていそうな辺り、そこに目を凝らして見ないとわからない程度の文字の大きさで何やら記載があるのだ。


 良く見てみよう……『現物出資:魔導コア(法人向け)』である……魔導コア? もしかして法人28号の基幹部分か?



「あら、魔導コアが入っているのね、じゃあ法人28号がゴーレムみたいに自律稼動して、勝手に商売をしているのも頷けるわ」


「しかし精霊様、この魔導コアというのは大変に高価なものなのだろう? それを現物出資しておきながら、どうしてこんなに小さく、わかりにくい所に記載したのだ?」


「う~ん、ジェシカちゃんの疑問は何となくそう感じる部分よね、魔導コアもピンキリだけど、自動で法人を運営出来るレベルのものになると金貨300枚よりも遥かに高額よ」


「そんなにするのかよ……てか何だ『法人を自動で運営する』とか、この世界の文明水準と釣り合ってないだろうが……」


「その辺は諦めなさい、何事も都合が良いように創られているのがこの世界なの、あの女神の性格を考えればわかることでしょ」


「・・・・・・・・・・」



 もはやデタラメなのは慣れっこであるが、やって良いことと悪いことのラインははっきりして頂きたい。と、それはそれとして、今は本題について考えることとしよう。


 ジェシカや精霊様の言う通り、四百二十面相の性格でそんな高価なものを出資したとしたら、そのことを大々的に公表するはずである。


 それをしていない、ということは即ち……魔導コアを供出したことを隠したかった、いや、法人28号に魔導コアが使われていることを知られたくなかったのではないか……



「なぁ精霊様、もしかするとその魔導コアって、敵の弱点にもなり得るのか?」


「そんなことはないはずよ、むしろ戦いになったら入っていることにメリットしかないわ、きっと強いわよコイツ……」



 俺の想像していた答えとは少し違うものが返ってきたではないか、敵キャラの『コア』といえば、それさえ破壊してしまえば勝利出来る弱点めいたものであることが多い。


 だが今回はそうではなく、逆にそれがあることによって相手の強さが増し、相対するデメリットも存在しないようなのだ。


 だとするとどうして四百二十面相は、この魔導コア現物出資に関わる事項を隠すようなことを……まぁ、今考えても仕方がないか、これも後々わかってくることのはずだ。



 その後も資料の要約を続け、夕方前にはまともに使うことが出来る、皆に見せても敬遠されないレベルのものが完成した。


 というか、これでも定款を作成するにはまだ不足している、本来であれば法人として活動を始めることなど出来ようもないレベルのものなのに、この世界は実にいい加減なのである。



「ただいま~っ、勇者様、ちょっと聞いて下さいよ~っ! お姉ちゃんが……」



 そこで、夕飯の買い物に行っていたセラとミラが帰宅する、ミラが何かを伝えようと2階に駆け上がって来た。

 一方のセラは冷静である、いつもとは姉妹逆の感じだな、一体何が起こったというのだ……



 ※※※



「何だってっ!? それって間違いなく例の『法人28号』じゃねぇかっ!」


「ほらお姉ちゃん、だから言ったでしょ、アレがは絶対に敵だって」


「そんなはずないわよっ! すっごく小さいの、カレンちゃんと比べても全然よ」


「でもピッカピカだったじゃないの、聞いていた特徴と一致しているわよ」


「いいえ、アレはちょっぴりゴールドな、どこにでも居る普通の小さいおっさんよ」


「そんなおっさんが居るかぁぁぁっ! あたたたたたっ、あたっ!」


「いででででっ、はうぁっ!」



 馬鹿な考え方でせっかくの敵との遭遇を見逃してしまったセラには、お尻ペンペン百列拳のうえ、フィニッシュブローではなくフィニッシュカンチョーを喰らわせておいた。


 しかし法人28号はそんなに小さかったのか、今俺の傍らでお昼寝しているカレンより小さいとは、身長が140cmにも満たないということか、もはや小人の領域である。


 とはいえ見た目は本当にゴールドなのだな、それであれば町では目立つ、今回は逃してしまったものの、今後王都中を探し回れば、普通に商売をしている法人28号を見つけるのは簡単なことであろう。



「それで、具体的にはどういう見た目だったんだ? おいセラ、そんな所で悶絶してないで似顔絵でも描け」


「うぅ……だからアレは一般的なゴールデンリトルおじ……」


「まだ言うかっ!」


「はうあぁぁぁっ!」



 カンチョーで追撃し、無理矢理似顔絵を描かせる……いや、普通に四百二十面相と同じ顔ではないか、それがゴールドになったというだけである、そしておそらく純金製だ。



「てかさ、ゴールドになったとはいえ普通に怪人四百二十面相だよな? 奴との取引は厳に禁じられていたはずだぞ、なのにどうして被害が出るんだ?」


「主殿、被害者は間違いなく『色違いなら別人だしOK』とか思っているぞ、というかそもそもこんな怪しい奴から受け取ったものを平気で口に入れるような連中だ、日頃から何を考えているかわからない」


「……確かに、町中で突然ゴールドのおっさんから『力が欲しいか?』的なこと言われて、それで受け取ったものを口に入れるような馬鹿はその程度の思考力だろうな」


「そう、だから私は主殿が被害に遭わないか心配で心配で……」


「おう、気を遣ってくれて……何だとコラァッ!」



 ジェシカがただ馬鹿にしているだけだということに気付くまでおよそ5秒。

 ダメだ、今日はもう疲れているに違いない、法人28号も気になるが、それを考えるのは明日以降としよう。



「じゃあとりあえずだ、明日は敵が出現しそうなエリアでウォッチングといこう、奴の動きを追って、どういう感じでスキルカードを売買しているのか、あと協力者が居ないかなんかを探ろう」


「そうね、協力者が居たらそいつが知られざる株主の可能性も高いし、明日一杯は手を出さずに見守ることね」



 その後は食事をしながら話し、朝一番で最寄の商店街へ、そこで色々な店を回りつつ目撃情報を集めることに決まった。


 ただ、敵が近くに居さえすればすぐに見つかるはずなのだが、ターゲットの法人28号はこの広い王都の中でたったの1体なのである。


 もし明日は反対側に居たなどということになったら、どう足掻いても見つけることが出来ない、そういうリスクも孕んでいるのを認識しておこう。



「それじゃ、明日も法人28号がすぐそこの商店街に居ることを願って、きょうはもう風呂に入って寝ようぜ」


『お~っ!』



 翌日の調査にて、『発見出来るかどうか』を危惧していた俺達の認識は、凄まじく甘いものであったということがわかる……

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