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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第四章 東の火山
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330 そこで語られたこと

『……ということだ、さっさと今俺が居る場所に顕現するんだ』


『わかりました、ですがその天使に関する資料を探してから行きますので、ほんの少しだけお待ち下さい』


『ああ、10秒で探し出して2秒で来い、それを超えたら許さんぞ』


『え? ちょっと……』


『はい11……10……9……』



 女神がバタバタと動く音が聞こえる、もちろん数百万年も、この女神が誕生する前から忘れ去られていた天使に関しての記録など、そう簡単に見つかるものではないはずだ。


 皆には少し時間が掛かりそうだと伝え、その場で少し休憩しながら女神の登場を待つ。

 と、ひとつ気になることがあったのだ、あの湖に居た『守り神』とやらのことである。


 ちょうど良いからこの天使に聞いてみよう……



「あのさ、ここからかなり行った所にある湖で、ここの元収監者が封印されているのは知っているか?」


「え~っと……あ、そういえばそんなこともありましたね、凄く昔の話ですが……」



 やはりご存知のようだ、ということは奴の棺桶を開ける手立ても知っているのではと思い、そのまま質問を投げ掛ける。


 すると帰って来たのは予想外の答え、神々の牢獄に関連する封印は『全て同じ』だというのだ。

 つまり先程扉を再封印したペンダント、それを使えばあの棺桶を開けることが出来るらしい。



「本来は人族側の監視員が勝手にそのようなことをしてはダメなんですが、これから女神様のお許しがあったとしたら、その先は管理者の一族が自己判断で色々と出来るようになります」


「つまり、ここに居るキャシーさんが独断であの棺桶を開けたり、ここの封印を解除したりしても良いと?」


「独断、というわけではありませんよ、そもそも封印を管理する人族は2つの系統から成っているのです、そのコンセンサスが必要ですね」


「2つの系統……ということはもう1つの一族がどこかに居ると?」


「ええ、そしておそらくは……」



 天使の目線が移る、どうやらセラとミラを交互に見ているようだ……セラが何者かに受け取ったペンダントが封印の鍵であったのは事実、つまりこの天使は、2人がその一族の末裔ではないかと疑っているのだ……


 しかしだとしたら2人の実家に行った際など、何らかの話が聞けていてもおかしくない。


 もちろん数百万年前のことゆえ、どこかで伝承が途絶えていたり、そもそも血が薄くなり、一族がバラバラになってしまっていたりということは考えられるのだが……



「……う~ん、この2人からはその力が感じ取れませんね、もしかしたら隠れているだけなのかも知れませんが」


「そうよね、私もミラもそんな話一度も聞いたことがないもの、お父さんならともかく、お母さんは重要なことを伝え忘れたりしないはずだし」


「ですがあのペンダントを誰かから受け取ったのですよね? それ自体がどうもおかしなことでして、本来力のない人族が所持していて平気なものではないんですよ、アレは」


「あら、どういうことなのかしらね?」



 力のない人族、この場で天使が言いたいのは『管理者の一族』を力のある者と捉えてのことであろうが、もう少し広い意味で、『凄まじい力を持つ者』が力のある者と捉えた場合、かなり変わってくる。


 他の人族とは異なる膨大な魔力を持つセラ、つまり広義の『力のある者』であれば、その危険なアイテムを手にしたところで平気であったと考えることが出来るのだ。


 問題はセラにペンダントを渡したという知らないおっさんが何者なのか、どうしてセラの力を看破出来たのかというところであるが、ひとまずセラがそれを受け取って何ともなかったということに関しては説明が付きそうである。


 牢獄の管理者である2つの系統については追々調べていく必要がありそうだが、とにかく今はこの牢獄自体、そして当時の出来事について、女神も交えて話をするべきだ。



 と、そこでようやく光が現れた、女神の降臨である……



「ぜぇっ、ぜぇっ、お……お待たせ致しました……」


「遅いぞこら、もう10分以上経っているじゃないか」


「そんなこと言われましても……あ、そこで平伏しているのが問題の天使ですね」


「へへぇ~っ!」



 とっさに地面に平伏していた天使、この女神に会うのは初めてのはずだが、おそらく雰囲気でこの存在が神であることを悟ったのであろう。


 もちろん信心深いマリエルやジェシカ、そしてコイツが馬鹿だと知らないキャシーも同様に、地面に頭を擦り突けている。


 ちなみに精霊様は少し宙に浮き、女神を見下ろすポジションを取ることでささやかな抵抗を示しているのであった……



「えっと、あなたに関する資料は集めさせて頂きました、今からこれを元に、そのとき何があったのか、そしてあなたの責任がどの程度なのかを判断します」


「承りました、知っていることは全てお話します」



 まずは女神が持ち込んだ、ダンボールまるごと1箱分の資料に目を通す……変な字で書いてあって読めない、ここは女神に任せ、俺達はその内容を聞いて意見することとしよう……



「え~、まずあなたはここの牢獄で事務員として働いていたと、間違いありませんね」


「あ、はいそうです」


「それから最後はえっと、不祥事を起こして収監されたことになっていますが……詳細な報告書がありませんね、というか途中でページが飛んでいますね」


「おいおい、その落丁した部分は誰かがわざとやったんだろ、ここで起こった事件の詳細を隠蔽するためにな」


「間違いありませんね、私の権限でもこの者の資料にアクセス出来たので少し期待したんですが、やはり対策済みであったようですね、では当時の詳細をお話下さい、覚えている限りで構いませんよ」


「はい、あのとき私は……」



 天使の体験談はこうであった、当時事務員として働いていたこの子は、食事の際に手が汚れたのをどうにかするために離席した、当然向かったあの場所では、便所紙はニヤニヤしながら気持ち悪い視線を向けていたとのこと。


 そして戻る途中、監房入口付近で異変に気付く、それまでは神の力で中和し切れていた瘴気が、あの広い空間に充満していたというのだ。


 慌てて持ち場に戻るも時既に遅し、瘴気は暴走し、その力によって牢獄の封印が全て打ち消されてしまったのであった。


 当然中に居た悪神達は外に出てしまう、それを必死で食い止めようとした神々はすべて排除され、同時にキャシーの先祖である人族側の管理者も瘴気を浴び、その場に倒れ付してしまったそうだ。



「悪神達の首魁は東西南北、4つの方角に飛び去って行きました、それも凄まじい瘴気を纏ったまま、すぐにこの世界を囲うようにして瘴気に包まれたエリアが形成されたのを確認しています」


「なるほど、それが今の魔族領域か」


「そしてここから噴出した瘴気も空に昇り、新たな空間を形作ったはずです」


「そっちが魔界な、しかしそんな成り立ちだったんだな、てっきり魔界が先に出来て、そこに移った神が魔族領域を創ったとばかり思っていたぜ」


「ええ、魔界とか魔族領域? とかに関しては良くわかりませんが、その2つの空間が出来たのはほぼ同時でしたね」



 その後、この天使の子はそのことを当時の神、つまりここに捕らわれていた悪神の1人であり、牢獄崩壊の首魁と目される神の派閥に居たこの世界の神に報告したという。


 そこで牢獄に入って待つようにとの指示を受けたというが、4柱の神が東西南北へ逃れたこと、それをどうにかすべきであることを主張しても『良い』と答えるのみであったそうだ。


 それから俺達によって発見されるまで、この天使の子は薄暗い牢獄で、1人悠久の時を過ごしてきたのであった……



「勇者よ、どうやらこの天使は混乱の影響で忘れられたのではなさそうですね」


「ああ、色々と知ってしまったことが多いからな、闇に葬られた、というのが正解かな」


「ど……どういうことなのでしょうか……」


「あんたをここに放置したのは、その当時の神がわざとそうしたってことだ、いわゆる嵌められたってやつだな」


「そんな……」



 本当はすべての罪を被せて処刑なり何なりするつもりでキープしていたのであろう。

 だがどういうわけかその必要がなくなり、結局この天使の記録を抹消してしまったというわけだ。


 それは当時の神が現在、神界でかなり偉くなっているということからも想像に難くない。

 きっと責任を取る必要もなくなるような変化が、事件以降に生じたのであろう。


 だが何が起こったのかをここに閉じ込められていたこの下っ端天使に聞いてもわからないはずだ。

 もっと別の、当時を知っている比較的高位な証言者の存在が必要になってきたな……



「勇者よ、ここはひとつあなたがこの付近の湖で発見した悪神、それを解放して話を聞いてみてはどうでしょう?」


「そうだな、ここを出た後に一度あの湖に戻ろうか、封印の解き方もわかったことだし」


「ではわたしはこれで、皆さんがその湖に到着したとき、再び姿を現します」


「おいちょっと待とうや、たまには自分の足で歩くべきだぞ、運動不足は良くないからな」


「え? でも私ほら、神ですよ神!」


「だからどうした、さっさと行くぞ」



 女神の腕を引っ張り、無理矢理に洞窟の出口に向かって歩き出す。

 皆もそれに付いて来たようだが、なぜか天使の子だけは動き出さない。


 嵌められて数百万年もこんな所に閉じ込められていたショックが大きいのか? 少しフォローしてやる必要がありそうだな……



「おい、大丈夫か?」


「ええ、大丈夫なんですが、その……まだ処分を頂いてないのでここから動くわけには……」


「真面目かっ!? おい女神、どうにかしてやれ」


「あ、そうでしたね、今はこの私に処分権限がありますから、とりあえず無罪ということで」


「へへぇ~っ! 有り難き幸せっ!」


「それと、この件が一段落したら光に包まれた神界へ戻して差し上げましょう、そして名前も与えましょう、私のお付として働くのです」


「重ねてへへぇ~っ! 有り難き幸せっ!」



 うむ、丸く収まったようだ、天使の子もシャバに出て速攻でニート化するのは回避出来たようで何よりだ。

 しかし1つだけ気になることがある、光に包まれた神界と言っていたが、そんなはずはないぞ……



「女神、お前の部屋、真っ暗だったじゃないか、アレのどこが光に包まれてんだよ」


「あのときは電気代払ってなくて止められていただけです、今はちゃんと光に満ち溢れた眩しいぐらいのお部屋ですから」


「ファンタジー世界の神が電気使ってんじゃねぇぇぇっ!」


「へごぱっ!」



 そういえばコイツ、俺達の屋敷に来たときもコンセントを探していたな。

 だが色々とぶち壊しになりかねない、そういう発言および行動は避けて頂きたいところだ。


 俺の一撃で気絶した女神が復活するのを待ち、来るときに通った足場の悪い通路を経由して洞窟の入口付近まで歩いた……



 ※※※



 洞窟から外へ出ると日が傾きつつあった、これから出発したとして、湖に着くのはいつ頃になるであろうか……



「ご主人様、お腹空きました」


「おっと、そうだったそうだった、もう夕方だし、湖に向けて出発するのは明日にしよう」


「そうですか、では私は一旦神界に……」


「なわけないだろ? たまには下々の者と寝食を共にするのも女神の勤めだ、お前はとりあえずテントを用意しろ」


「そんなっ、私これでも神なん、いでっ! あでっ! わかりました、やりますから拳骨はやめて下さい……」



 生意気な女神を成敗し、俺は夕食のための火熾しを始める、既に辺りは暗くなりつつあるが、こんな所で野宿しようとしているのは俺達ぐらい……いや、そうでもないようだ。


 遥か彼方、高い山の中腹辺りにも火を焚いている何者かが居るらしい、しかも大勢。

 あの感じだと50人から100人ぐらいか、一体あんな所で何をしているというのだ?



「キャシーさん、見えますかあそこ、この山に誰か住んでいたりするんですかね?」


「いいえ、聞いたことがありません、集落の人が来ているわけでもないですし、どこかの旅人か冒険者のグループか何かでしょう」



 旅人に冒険者、確かにキャシーの集落にも時折そういった連中が訪れると言うし、そもそも俺達だって端から見ればその類いだ。


 だが何の目的があってあんな所に? 旅の目的になりそうなものもなければ、修行相手になりそうな魔物や野生動物も居ないんだぞ。


 それにこの辺りからは人族と魔族の住む領域を隔てる緩衝地帯になっているはずだ。

 山の向こうには当然集落など存在せず、そこから人がやって来るようなこともない。


 俺の中で『もしかして:不逞の輩』という言葉が思い浮かんだが、向こうから襲ってくる様子はない、ひとまず放っておこう。


 もし魔族領域から来た魔王軍四天王の関係者であれば、ここに俺達を認めた瞬間に襲撃なり何なりを仕掛けて来るはずだしな……



 火熾しを終え、料理をするミラとアイリスに火の番をバトンタッチする。

 そのままセラと、それからキャシーと3人で明日のルートを確認した。


 どうやらキャシーの集落を通らずとも、ここから湖まで一直線の道が存在しているようだ。

 明日の朝からそこを往けば、少なくとも夕方には目的地に到着出来るはず。


 少し狭い街道のようだが、御者をするルビアとジェシカには頑張って貰おう。



「夕飯の準備が出来ましたよ~っ」


「わかっ……いでぇぇぇっ!」



 ミラの声に反応し、俺の膝に乗っかっていたカレンが凄まじいスピードで走り去って行った。

 衝撃で右大腿骨を粉砕骨折したようだ、ルビアに治療して貰わないとすぐに死んでしまう。


 治療を終え、食事も終え、ついでにカレンをとっ捕まえてお仕置きしたところで、精霊様とユリナが良い感じに沸かしていた岩風呂が完成する。


 周囲を囲う巨岩をどこから運んで来たのかは知らないが、有り難く入らせて頂くこととした。

 湯船に浸かりながら、再び先程何者かが野営を始めていた辺りを確認してみる。


 既に火は消え、そこの連中は眠りに就いたようだ、一体何なのであろうか?

 と、既に風呂から上がり、それを一緒に見ていた天使が何かを思い出したかのように手を叩く。


「あ、そういえばこの山の頂上に小さな祠があるんですよ、そこに牢獄の資料を入れる地下室があって、今でも色々としまったままになっているはずです」


「本当か、となるとこの山の頂上も……ちょっと厳しそうだが……」


「まぁ、行ってみないという手はないわね、湖と山の頂上、どっちへ先に行く?」


『湖でっ!』



 自分は飛べば苦労しない精霊様の質問に対し、他の全員が『湖が先』との意思表示をした。

 苦労する方を後回しにしているようで気が引けるが、とにかく今はあんな所を目指したくない。


 だが情報を得てしまった以上行かないという選択肢はない、火山の頂上に立ち寄ることも含めて、改めて湖以降の行動を決める会議を始めた……



「まずは湖からスタートな、次は……キャシーさんはどうします? 山の頂上へ行くかどうかなんですが」


「そうですね、私は一旦集落に戻ろうと思います、一族の目的である再封印というのはもう果たしたと考えて良さそうですので」



 そもそもキャシーはこの火山の牢獄に用があって一緒に来ただけだ、用が済んだ今、特にこれといって旅をする理由はない。


 集落の人々も心配していることであろうし、一度立ち寄って家に帰してやる必要がある。

 まぁ、四天王を討伐した後にもう一度顔を見に行くこととしよう。



「となるとここから一度集落に寄って、この山の登山口はっと……」


「このすぐ近く、それから反対側にあります、反対側の方を下ってしばらくすると、かつての事件で瘴気に包まれたエリアに到達しますね」


「なるほど、じゃあこっちから入って反対に抜けることとしよう」



 そこで脇に居たフルートが首を突っ込み、指で地図の端っこを指し示した……



「あの……私の実家、地図で言うとこの辺りなんですが」


「む、そしたら降りてすぐに右折、フルートの実家に寄っていこうか」


「ありがとうございます、では迎えに来て頂けるまでは故郷の里に滞在しますね」



 これでだいたいの行程は決まった、あとはトラブルなく四天王の城まで到着することを祈るまでだが……もう1人、倒さねばならない強敵が居るんだったよな……


 メリーさんに聞くと、その敵はフルートの実家を過ぎてしばらく進んだ所で待ち構えている可能性が高いのだという。


 逆に言うとそこさえクリアしてしまえば、四天王の支配地域をほぼノーリスクで進むことが出来るということになる。


 敵が待ち構えているポイントを迂回して進むという手もありそうだが、気付かれて背後に回られたら厄介だ。

 ここは正面切って突破するのが最も効率が良く、そして男らしく勇者らしい作戦といえよう。



「じゃあこんな感じで、明日は早いからもう寝るぞ、えっとテントは……」


「もう完成していますよ、どうですか女神たるこの私のテクは」


「おい女神、それは何だ? テントだった何かだと言うならもう容赦しないぞ」


「確かにテントでした、つい先程までは」


「爆心地じゃねぇかっ! クレーター出来てんぞ……」



 一体何をしたらこんな悲惨なことになるのだ? 音もなく爆破処理されて粉々になった俺達のテント、これまで共に旅してきた思い出のテント、どう足掻いてももう使うことは出来ない。


 とりあえずクソ女神を同じ目に遭わせ、服を剥ぎ取ってそれを敷布団の代わりにした。

 だがひたすら蚊に食われる、女神の奴め絶対に許さんぞ、弁償させてやる。



 翌朝、寝不足気味のまま朝食を取り、馬車に乗り込んで少し西寄りの南を目指す。

 あの棺桶の蓋を開け、湖の守り神に当時の詳細を聞くために。


 夕方前には湖が見え、焼けた管理棟が綺麗に片付けられているのも確認出来た。

 さて、まずは棺桶野朗の所へ行って、俺達の再登場を告げることとしよう……

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