321 次へのヒントと後始末
「なぁセラ、東門の辺りからずっと追い風を出し続けていたとして、それがどのぐらいの時間持ちそうだ?」
「そうね、かなり広範囲だけど、おそらく2時間ぐらいは大丈夫だと思うわよ」
「わかった、だとするとそれまでに解体作業を終えねばならんな、いっそ爆破しちゃうか……」
「そんなことしたら大惨事よ、地道にやっていくしかないわ」
「ですよね~」
敵は倒したものの、巨大ウ○コ要塞をどうにかする義務が生じてしまった。
全く今回の戦いは何から何まで、屁だのウ○コだの、とても食事中の皆様にご提供出来る代物ではないな。
とにかくセラと、それ以外にも王国軍に所属する風魔法使いを総動員し、漏れ出した屁こき魔の屁、つまり毒ガスの類が絶対に王都側へ流れないよう、細心の注意を払いながら作業する必要がある。
いや、作業するのではない、させるのだ。
実働部隊は今回の戦いで捕らえた馬鹿共に全て任せてしまう予定。
どうせ明日の午後には死刑になる連中だし、ちょっとぐらい死んだり重症に陥っても特に問題はないし、むしろもがき苦しむ様を見たいという者も多かろう。
「それと勇者様、さっきマリエルちゃんが言っていたんだけど、まだ最初に捕まえた変態とか、犯罪マンとかを拷問しているらしいわ、今日はそれを見に行きましょ」
「おっ、それは良い、何か情報が手に入るかも知れないからな、マリエルも誘ってすぐに行こうか」
2階の大部屋でグダグダしていたマリエルを誘い、ビシッとお土産要求リストを突き付けてきたルビアにビシッとデコピンし、馬車を出させて王宮へと向かった。
拷問はいつもの地下牢屋敷で行われているということで、徒歩でそちらに移動する。
途中、馬車の御者台で不満そうな顔をして待っているルビアがかわいそうになり、鉄貨を5枚渡しておく。
ルビアは大喜びで走り去ってしまったが、暑いので倒れないように気を付けて頂きたい。
「何だか凄くジメジメしていますね、これまで以上に」
「中は蒸し風呂状態なんじゃないか? 牢番の兵士とかたまったもんじゃないな……」
階段を降りて中へ入ると、ムワッという熱気が顔に纏わり付く。
異常だ、こんな所に放り込まれたら1時間と持たずにどうにかなってしまう自信がある。
と、その奥から何か叫び声のようなものが聞こえてくるではないか……
『オラァァァッ! どうだ、暑いだろうっ!』
『ぎえぇぇぇっ! やめてくれぇぇぇっ!』
とりあえず声のする方へと向かう、それらしき扉を開けると……何だここは、サウナじゃねぇか……
「あっ、勇者殿、ご苦労様です」
「何やってんのさ、こんな暑苦しいのに」
「ええ、この馬鹿2匹を蒸し風呂責めにしておりました」
「それさ、自分は大丈夫なの?」
「ここは我慢比べにございます、おそらく本官の方が長く耐え……あれ?」
拷問官のお兄さんはひっくり返ってしまった、やり方がショボい、まだ新人なのであろう。
すぐに他の係官を呼び出し、拷問官を部屋から救出させた、もちろん変態と犯罪マンは放置である。
とりあえず別の、もっと涼しい部屋で、しかも偉い人から話を聞こう。
何かわかったことがあればそれで良いし、まだわかっていないなら俺が直接拷問してやる……
※※※
「いやはや、あの男は春に採用されて研修を終えたばかりの拷問官でね、たぶん馬鹿なんだよ」
「たぶんじゃなくて普通に馬鹿なんだと思いうぞ、やる側も喰らう拷問とか初めて見たわ、それで、何かわかったことは?」
「あ、これがアイツの作った調書……字汚っ!」
「古文書並みの判読スキルが必要かも知れないな……」
どうにかこうにか調書に書かれた内容に目を通す、まずは犯罪マンのものからだ。
む、どうも次の敵、四天王の城へ向かう途中に配置されている部隊に関して供述したようだな。
人族と魔族の領域、その境目に配置された東の四天王軍の中でも一目おかれる存在か。
残念ながら名前や属性に関する記載はない、当然それも聞いたのであろうが、答えなかったのか知らないだけなのか、とにかくこれから聞いても無駄である可能性が高い。
帰ったらメリーさん辺りをシバき倒して聞いてみることとしよう。
ちなみに変態の方からは、王都の外にある奴等の本拠地の場所が吐き出されたようだ。
強敵である変態王を倒した以上、こちらは俺達が行くまでもない、摘発は軍の方に任せてしまおう。
「セラ、マリエル、他に何か知りたいことはあるか?」
「う~ん、私は特にないわね、良く考えたらあんな馬鹿そうなのよりも、帰ってメリーさんに色々と聞いた方が早そうだし」
「あ、私はちょっと、ここに収監されているはずの女性陣に会ってから帰ろうかと、2人共先に帰っていて構いませんよ」
ということで俺とセラだけが地下牢屋敷を出て、小遣いを使い果たして暇そうにしていたルビアの所へ戻り、馬車に乗り込んで屋敷へと戻った。
帰ってすぐにメリーさんを呼び出し、次に待ち構える敵に関しての情報を聞き出すべく尋問を始める……
「さぁ、鞭で引っ叩かれたくなかったら情報を出せ」
「と言われましても……あいてっ! 背中はやめて下さい……」
「じゃあ尻にするか? パンツを脱げ」
「ひぇぇぇ、言いますから、その痛そうな鞭じゃないのにして下さいっ!」
メリーさん曰く、次に待ち構える敵は女の子であることがわかっているものの、その姿は漆黒の瘴気に包まれ、未だに見たことすらもないという。
女の子であるということは声だけで判別しているのだが、それも四天王本人と話しているのを聞いたときにそう感じただけで、実際に話したことは一度もなく、名前すら聞いたことがないそうだ。
「あの子は四天王様のお気に入りで、城を守る本隊に次ぐ第二軍を与えられているんです」
「ほう、しかしまた瘴気か……しかも東、人族を魔族に変えた火山の事件と何か関係があるのかも知れないな」
「事件? それが何だかわかりませんが、火山ならその子の守る地点からそう離れてはいませんよ」
「マジか、それじゃあこの間リリィと精霊様が行った場所から程近い所に、人族と魔族の領域の境界線があるってことだな」
「正確にはあの休火山一体が緩衝地帯なんですが、少し瘴気が濃くて人族はあまり入って来ないエリアですね」
これはチャンスだな、四天王軍の討伐に向かう最中、俺達のもう1つの目的である『人族と魔族』、そして『神界と魔界』の事件に関しての調査を進められそうだ。
俺も実際にその休火山とやらを見てみたいし、先に立ち寄って少しの間滞在し、ある程度調査を済ませてから魔族領域に向かって進んで行く、という作戦でいけそうだな。
ちなみに、その緩衝地帯の魔族領域側を守る四天王第二軍やその他の軍が、越境してまでこちらに攻めて来ることは考えにくいらしい。
これ以降は攻撃部隊ではなく、四天王を守るための部隊と戦うということだ。
最初は攻められたが、次からはこちらのターンに切り替わった、そう考えて良いであろう。
メリーさんにはまた何か知りたいことがあったら聞くと伝え、地下牢に戻した。
これ以上は実際に行ってみて自分達の目で確認するのが得策だ、犯罪マンの始末が終わったらすぐに出立することとしよう。
その後しばらくしてマリエルも戻り、皆で夕食を取って風呂に入った。
明日は朝から東門か、とりあえず早めに寝ておこう……
※※※
「じゃあセラ、今日は頑張ってくれよな、とにかく毒ガスが王都に入り込まなければ良いんだ」
「まぁ軍の人も居るわけだし、大丈夫だと思うわ、たぶん……きゃっ、きゃはははっ!」
2人で朝風呂をしながらセラを応援しておく、ちなみに『たぶん』とか自信のなさげなことを言い出す奴にはお仕置きだ、脇腹を両側から掴み、ワシャワシャしてやった。
「勇者様~っ! そろそろ準備をしないとですよ~っ!」
「わかった、すぐに行くから待っていてくれ」
ミラに急かされ、風呂から上がって支度をする、既に門の前に回されていた馬車に乗り込んで東門を目指した。
到着すると、現地が物々しい雰囲気に包まれているのが感じ取れる。
捕らえた犯罪者共を大量に、牢付きの馬車で運んで来たのだから当たり前か。
不当だ何だと暴れている奴も居るようだが、棒で突かれるとすぐに大人しくなる。
どうせ午後には死ぬんだし、ここで暴れてもどうしようもないというのがなぜわからないのか。
「よぉ駄王、それにババァ、作戦はいつから始まるんだ?」
「勇者よ、おぬしらを待っておったのじゃ、すぐにでも始められるぞ」
良く見ると城壁の上には既に、風魔法使い達がズラッと並んで待機している、城壁の下にも、そして城門の前にはさらに分厚い魔法使いの壁が出来ていた。
セラと、それから得意ではないものの風魔法も使うことが出来るユリナを城壁の上に配置し、準備が整った所で作戦が開始される。
ヒンデンブルク号の残り3基が再登場し、特製の牢付きゴンドラをいくつも抱えて巨大ウ○コの方へと飛んで行く。
そのままウ○コに係留され、牢が開けられて作業班が降り立つ……まだ抵抗している奴が居るようだ、見せしめに1人か2人、惨殺してしまえば良いのに……
『作業開始っ! 風魔法使いも追い風をっ!』
城壁の上と下から、魔法使いによって追い風が生み出され、それが東に向かって空気を流す。
ブワッとウ○コが煽られ、纏わり付いていた作業班の何人かが落下しそうになる。
ハエのようにウ○コにしがみ付き、どうにか落ちないようにと踏み止まる無様な馬鹿共、実に面白い光景だ、てかさっさと作業を始めろよな。
踏み止まり、バランスを立て直した作業班が、防御魔法使いを失って脆くなったウ○コの壁にバールのようなものを突き立てる。
ガスが漏れ始めたようだ、何人かはそれを思い切り吸い込み、顔が紫に、そしてガスに触れた肌の色が赤へと変化していく。
「ひっひっひ、無様な犯罪者の末路じゃの、ここで助かっても午後には処刑、こういうのを見ていると胸がスカッとするわい」
「おいババァ、悪い魔女みたいになっているぞ、てか地獄に落ちろ」
「おっと、これはいかん、よもや女神様に今の表情を見られておらんじゃろうな」
「大丈夫だ、あんな気持ち悪い顔を見たら女神も意識と、それから直近の記憶を失うはずだ」
ここぞとばかりに総務大臣をディスッておく、そうしないとこの狡猾なババァに対して、次に勝ちを納められる日がいつ来るかわからないのだ。
そんなくだらない話をしている間にも作業は進み、巨大ウ○コ要塞は徐々に萎んでいった。
「おい見ろ、あそこで作業している奴、肌が腐ったのか知らんが凄い色になっているぞ」
「本当じゃの、まるであの汚物と同じじゃ」
「ああ、もしかするとあのガス、肌に触れたり吸い込んだりしすぎると、自分自身がウ○コになってしまう危険なものなんじゃないのか」
「だとしたら何としてでも王都へアレが入って行くのを食い止めねばならぬな……」
しばらく茶色くなった作業員を眺めていると、腐食され尽くした腕と脚がボロッと崩れ、地面に落下する。
グチャッと潰れる作業員、周囲に茶色の何かが飛び散る……まるでウ○コだ……
それ以降も、要塞が完全に中のガスを失うまでの間に10人以上が地表に落下した。
いずれも最初の奴と同じ現象、露出していた腕や脚、それに頭などがウ○コ化している。
『作業終わりっ! 魔法使いは引き続き、安全が確認出来るまで魔法を継続っ!』
要塞はぺちゃんこになり、もはや地面から伸びる薄汚い2本の脚に、茶色の何かが乗っているだけのような見た目へと変化した、もはやウ○コではない。
だが、その上に居る作業員はウ○コだ、ほとんどが体のどこかをウ○コ化され、苦痛に悶え苦しんでいる者もかなり多い。
再びヒンデンブルク号がそこへ近付き、そのウ○コ作業員を、まるでリアルウ○コでも片付けるが如く回収していく、もちろん防護用バトルスーツは全員着用している。
回収班のうち1人がこちらに向かって手を振っているのが見えた、安全が確認出来たようだ。
そのままヒンデンブルク号の1基が東へ向かって進み、念のためその先にガス溜まりがないかも確認する。
しばらくすると、その1基からも何か信号のようなものが発せられた……
『魔法停止っ! これにて作戦を終了する、お疲れさまでしたっ!』
『おつかれっしたーっ!』
城壁の上から降りて来たセラとユリナを出迎え、ちょうど良い時間だということで昼食にする。
ちなみに弁当だ、大食いのカレンやリリィが居る以上、そう気軽に外食などは出来ない。
その間に気球は着陸し、作業員、いや、今は既にただの死刑囚と成り下がった馬鹿共の入った檻を馬車に積み替える作業をしていた。
準備が終われば王宮前広場に移動するとのことだ、俺達も少しだけ様子を見に行ってみよう。
食事を終え、出発する馬車に付いて東門を後にした……
※※※
『うわっ、何だよあいつら、手とか茶色くなってんじゃん……』
『くせー、ウ○コみてぇだ、てかウ○コそのものじゃねぇのか?』
『きっと生まれつきああなのね、本当に気持ち悪いわ』
『汚いっ! さっさと死ねっ!』
『そうだ、死ね死ねっ!』
『しーねっ! しーねっ! しーねっ! しーねっ……』
馬鹿犯罪者共が満載された馬車に投げ掛けられるギャラリーの罵声。
聞かないように耳を塞ごうにも、全員手がウ○コなのでそれは叶わない。
広場のステージ前に馬車の一団が到着すると、間もなく変な兄ちゃんが壇上に現れる、髪型が凄い!
「あいつが今日の処刑人か? 精霊様じゃなくて」
「そうよ、今回私はお休み、でもあれもなかなかの腕前よ、しかもツイスト魔法の使い手なの」
「何だその意味不明な魔法は……」
どうでも良いが処刑が始まった、まずは雑魚キャラ連中からのようだ。
処刑人がロックな感じで開始を宣言し、ギャラリーは盛り上がる。
引き出された5匹の変態、魔法の発動と同時に、そのウ○コ化した腕が、足が、そして頭が、みるみるうちに捻れ、最後には引き千切れてしまったではないか。
ツイスト魔法、案外恐ろしい術のようだ……
テンポ良く処刑は進んで行き、最後に犯罪マンの順番が回って来た。
ただし罪状を読み上げるのに凄く時間が要る、罪を犯しすぎなのだ。
『クソォォォッ! 魔王軍四天王様直属の部下であるこの我がっ! どうして人族如きにこのような仕打ちをっ!』
『あ、はい、今ので侮辱罪追加です、ではまず足の指を1本1本ツイストしていきましょう!』
『ほげぇぇぇっ!』
足の指、手の指と、先端から順にツイストされていく犯罪マン。
あまりしっかり見てはいなかったのだが、その後も凄惨な光景が披露され続けたという。
処刑は終わり、満足した王都の住民たちは帰って行く。
だが俺達の、いや俺の目的はこんなところで終わりではない。
この後、王都の住民達が寝静まった後に、最強の裏イベントが存在するのだ。
一旦屋敷へと戻り、夜を待ってこっそり抜け出す、仲間はルビア、マリエル、ジェシカ、そしてアイリスだ。
「よし、ここから徒歩で広場を目指すぞ、そこで変態テロ組織の女共と合流だ」
「勇者様、牢屋敷の女性官吏とは話を付けてあります、あの方々にも約束してしまいましたからね、もちろん私達も全裸で参加です」
「うむ、全裸市中引き回しの刑だと言ってしまったのは俺のミスだ、ここは責任を取ってやらねばなるまい」
ドロボウの如く、小走りでコソコソと広場へ向かう、かなり時間が掛かったものの、全裸美女軍団を拝見出来ると思うと苦ではない。
到着、目の前に広がっていた光景は……無人の広場、いや、暗がりの中に1人だけ、ぽつんと誰かが居るではないか、作戦に遅れが生じているのか?
「あら勇者様、こんな夜中に何をしているのかしらね?」
「その声はセラかっ!? どうしてこんな所に……」
「あのね、勇者様の行動は筒抜けなの、そこの4人も覚悟しておきなさいっ!」
『へへぇ~っ! 畏れ入りましてございますっ!』
地面に平伏す仲間達、だが俺はこんな所で終わるわけにはいかない。
さっと身を翻し、素早く逃走の態勢に入った。
「待ちなさいっ! もうっ、これでも喰らって寝てると良いわっ!」
「はげぽっ!」
セラが投げ付けてきた何かが頭に直撃する、バールのようなものだ。
さらに追撃を加えられ、俺の意識は遥か異世界へと旅立っていった……
目を覚ます、ここは屋敷の2階、大部屋のようだ、そしてどうもセラに膝枕されている。
「おはよう勇者様、まぁ、まだ夜中なんだけどね」
「うぅ……あれ、ルビアとか他の連中は?」
「そこで罰を受けているわよ」
セラの指差した方に目をやると、石抱き責めの重石だけ……いや、良く見ると膝小僧が4人分並んでいるのがわかる、重石が多すぎて本人達の姿は見えないのであった。
将来を誓い合った仲間達の呻き声が聞こえる、セラめ、どうしてこのように凶悪なことが出来るのだ。
「勇者様もアレ、やる?」
「いえいえお構いなく、それよりもほら、奴等を反省させるためにもっと重石を乗せた方が良いんじゃないか?」
セラの膝枕からガバッと起き上がり、溜まったヘイトを既に拷問されつつある4人に擦り付ける。
すぐに重石が運ばれ、かわいそうなルビアの上にドカドカと積まれていく……
『ぎぇぇぇっ! ご……ご主人様……酷い……』
「黙れルビア、お前らちょっとそこで反省しておけこの悪党どもがっ!」
『う……らぎ……り……ものっ!』
結局俺は、俺だけは何とかセラの怒りを回避することが出来た。
犠牲になった4人には後で飴玉でもくれてやろう、もちろん1人1個限りだ。
さて、明日はまず次の敵との戦いに向けた対策会議、それから今度は遠征になるゆえ、そのための買出しなどもしなくてはならない。
それと、次回は人族の魔族化事件の詳細を調べるのだ、それに関しても更なる情報を集め、効率の良い実地調査が出来るよう準備を進めておこう……
次回、新章突入です、引き続きお楽しみ頂けると幸いです。




