312 犯罪者共が
「起きろセラ、王宮へ行く時間だぞ、そんなボンバーヘアーじゃ恥ずかしいから髪を梳かして来い」
「ん……ふぁ~っ……もう朝なのね……」
ダルそうな表情で起き上がるセラ、もう一度横になろうと画策したため、慌てて背中に手をやり、どうにか起床した状態を保持してやる。
最近はミラに釣られて早起きすることが多いセラだが、昨日は外が騒がしかったせいもあり、夜中に何度も目が覚めてしまったという。
犯罪マンを始末するまでそんな夜が続くと思うと厄介だな、セラだけでなく、他のメンバー達も寝不足に陥り、勇者パーティーの戦力が大幅に削がれてしまうことになる。
既に準備を終えていたマリエルに急かされ、セラの着替えを手伝って外に出る。
夏の強い日差しが照り付け、今にも真っ黒焦げにされてしまいそうだ。
王宮が送って寄越した馬車の客室に、バケツに入れられた大量の氷が置かれていたのが唯一の救い。
それをセラの風魔法で煽り、客室全体に涼しい風を行き渡らせる。
だが、一応連れて来たメリーさんも含めて4人の客室、外の暑さも相俟って、バケツの氷程度ではどうにもならず、室温がみるみる上がっていく。
マリエルがお寒いギャグを言い、少しでも冷たさを感じようとするが無意味。
窓を開けると風は入るものの、異様に温い、真夏の扇風機と同様、あまり効果が得られない。
「こうなったら直接涼もうぜ、まずはセラからだっ!」
「ひゃいんっ! 背中に氷を入れるなんてっ!」
「じゃあ勇者様もですっ! あとメリーさんもっ!」
バケツの氷を砕き、ちょうど良い大きさになったそれを服の中に入れ合う。
氷はたちまちなくなり、馬車の客室は水浸しになってしまった。
と、そこへ王宮が見えてくる、ようやくご到着のようだ……
※※※
「おぉ、ゆうしゃよ、おぬし達はどうしてそんなにビッタビタなのじゃ?」
「まぁ、何と言うかちょっとな、気にしなくて良いぞ」
「王よ、きっと馬車の中の氷で遊んだだけじゃ、それよりも本題に入りましょうぞ」
ババァには俺達の行動などお見通しのようだ、正解ではあるが、何かムカつく。
「んで、犯罪マンが暴れてるからどうにかしろって話だろ?」
「その通りじゃ、しかもそやつ、王都や他の王国領内にあるテロ組織と組んでおることがわかっておるのじゃが、それは聞き及んでおるの?」
「ああ、モヒカンのチンピラとか、そういった類の雑魚ばっかりだろ? そっちは軍の方で何とかしろや」
昨日、王都の東門から屋敷へ帰る途中に遭遇したチンピラ軍団、それに夜中までやっていた捕り物の様子から、暴れているのは単なる雑魚、俺達の出る幕ではないように感じられる。
だがババァの表情はそうでないことを物語る、一体どんな問題があるというのか……
「勇者良、そうもいかんのじゃよ、チンピラ程度ならどうにかなるんじゃが、ちと厄介な連中も含まれておっての……」
「厄介な連中……相当に危険な連中なのか?」
「うむ、王国指定テロリスト集団、『露出原理主義敏感派 ティムポ』が絡んでいると見て間違いない」
「またそういう奴等かよ、いい加減にしてくれないか? それとその組織名、ギリギリだからもう呼ぶなよ」
「わかった、それでティムポはの……」
「だから言うなって! このボケ老人がっ!」
当該組織は、武装した変態共の集まりとのことだ。
武器は良いものを持っているが、露出狂なので防御には力を入れていない。
これだけだとたいしたことはない、だが、追い詰められると着込んだコートを広げ、その中の、何とも名状し難いブツを見せ付ける攻撃に出るのだ。
もちろんその状態で攻撃を受ければ自分も死亡するのだが、見せ付けられた相手には凄まじい精神的ダメージを残す、まさに自爆攻撃である。
風呂や便所の心配がない若い野郎共は戦争に取られ、今王都で警戒に当たっている下っ端の若い憲兵は大半が女性、そのような連中に勝てようはずもない。
犯罪マンはこちらの弱点を見定め、そこを突くつもりで『露出原理主義』などという女の敵共と手を組んだのであろう……
「だけどさ、俺達の方だって女の子ばっかりなんだぞ、パーティーリーダーとしてはだな、仲間がそんな連中に近付くのは避けたいところなんだが」
「報酬は金貨10枚でどうじゃ?」
「もう少し詳しい話を聞かせるんだ」
それを先に言って欲しかった、金貨10枚ともなれば誰も反対はしないはず。
むしろ大喜びでその危険な任務に飛び込んで行くことであろ。
そのまま敵に関する詳細な情報を聞く、当該テロ組織はどうやら、王都内に集会場を2つ設け、片方ではテロリストを養成するために変態野朗を、もう一方はソフトな感じを醸し出し、女性信者を募っているという。
まずはその2つを襲撃、破壊すべきだ、テロリスト候補の野郎は当然皆殺し、全く別のイメージに騙されて入信した女性信者は救出する。
その後、王都外にあるという連中の本拠地を叩き潰し、組織を壊滅に追いやるのだ。
犯罪マン本体の方に関してはその間、王宮で調査をして居場所を突き止めにかかるという。
メリーさんに奴の容姿を説明させ、それをセラが描き起こして手配書とした。
俺達がそんなことをしている間中、マリエルは地味に青い顔をして佇んでいた……王女で金持ちのマリエルからしたら、金貨10枚如きでそんな危険な組織と戦うのは気が引けるのであろう……
「それで勇者よ、こっちがテロリスト、つまり実働部隊の認識タグじゃ、この間討伐した者から奪ったのじゃがな」
「ほう、これを持っている奴を探し出して、片っ端から殺していけば良いんだな?」
「そうじゃ、そしてこっちが女性信者向けの会員カード、異常性に気付いて出頭した者から押収したんじゃ」
「こっちを持っているのは救出対象か、見つけたら説得して出頭させる、抵抗したら一応捕まえて憲兵に引き渡すよ」
「うむ、更生プログラムを受講させる必要があるし、何よりもテロ組織に加担しているのじゃからな、罰として社会奉仕活動ぐらいはさせぬとじゃ」
ということで、認識タグと会員カードを受け取り、呆然と佇むマリエルの手を引いて王の間を後にする。
ちなみにメリーさん討伐の報酬は雑巾3枚であった、帰ったらミラに渡しておこう、きっと大喜びだ。
再び馬車に乗り込み、蝉がけたたましく鳴く町を抜けて屋敷へと戻った……
※※※
「ただいま~、ミラ、ちょっと全員集合させてくれ、それとこれ、お土産な」
「まぁっ! 私の礼服よりも高級な生地のお雑巾! しかも新品!」
「……何かかわいそうになってきたぞ」
2階の大部屋にパーティーメンバー全員を集め、先程王宮で得た情報を共有する。
まずは敵の認識タグ、そして会員証を皆に見せ、ターゲットについて確認……あれ?
1枚であったはずの会員証が2枚に、さらに3枚、4枚と増えたではないか。
というか今それを取り出したのはルビア、ジェシカ、アイリスの3人である。
「お……お前ら……もしかして既に騙されていたのか……」
『申し訳ありませんでした~っ! 全裸になって開放的な気分を、というキャッチコピーに釣られてつい……』
「3人共ちょっとそこで正座しとけ」
『へへぇ~っ!』
馬鹿3人をその場に正座させ、対応を考える、これから討伐しようというテロ組織に、まさか勇者パーティーのメンバーが3人も……
「あの、勇者様、ちょっとよろしいですか?」
「どうしたマリエル?」
「私の会員証もどうぞ……」
「お前もかよっ!? しかも何だ有料会員って!」
「……月謝を納めて通ってました、しかもゴールドランクなんです」
「・・・・・・・・・・」
元々王宮で預かってきたもの、それから正座している3人が提出したものは白いカード。
だがマリエルが取り出したのは金のカードだ、会員ランクは確かにゴールド、月謝は月に金貨1枚だそうな。
ちなみにゴールドの上はミスリル、その上が師範代、さらに上、女性会員の頂点に立つのが師範であるという。
やっていることは密室に集合し、修行と称して服を脱ぐだけだ。
特に害はないのだが、それでも一応テロ組織の資金源になっている。
さらに、女性を集めて広告塔を要請し、それをもって実働部隊であるテロリストの候補を募集するというようなことを画策しているに違いない。
この4人、特に有料会員などというふざけた身分にあったマリエルは許すわけにはいかないな。
というか王の間に居たときから顔が青かったのはこのせいだったのか……
マリエルも正座させ、他には会員になっている者が居ないことを確認してから、今後の対応を協議し始める、まずはこの4人の処分だ。
「とりあえず王宮には報告しておくべきね、黙っていて後々バレたら面倒なことになりそうだわ」
「そ……それだけは勘弁してっ!」
「諦めろマリエル、他の3人もだ、確か捕まった奴は更生プログラムと社会奉仕活動だったな」
『そんなぁ~っ!』
「まぁ、社会奉仕活動といっても町の清掃ぐらいだろう、これから外の暑さはどんどん厳しくなっていくがな」
ガックリと項垂れる4人、だが自分達が悪いのだから仕方が無い。
マリエルの伝令を使って王宮に報告すると、しばらくして屋敷に書簡が届く。
謎の小包もすぐに配達された、中身は本が4冊、更生プログラムのテキストらしいな。
おや? 本と一緒に原稿用紙が40枚入っているではないか、反省文は1人10枚ということか……
「更生プログラムは1日で終わるようだな、講師には精霊様が指定されている、敵の集会場を叩きに行く前に終わらせろとのことだ」
「はぁ~、ちょっと大変そうですね、それから社会奉仕活動の方は何をすれば……」
「テロ組織を壊滅させれば免除にしてくれるらしい、その代わりこっちでお仕置きしておくように、だってさ、じゃあ精霊様、これはどうする?」
「まずはこの犯罪者共に真っ当な精神を叩き込むプログラムから始めましょ、終わったら全員お尻叩きの刑よ」
「ということだ、わかったなこの犯罪者共がっ!」
『へへぇ~っ! 承りましてごぜぇますだ』
早速テキストを配布し、精霊様による講義が始まった。
4人は縛り上げてしっかりと座らせ、居眠りなどしないよう後ろでユリナとサリナが見張る。
アイリスがこちらに取られてしまったため、ミラが1人で昼食の準備を始めた。
昼前には1回目の講義が終わりそうだ、昼食の後は午後の部、今日は1日これで潰れそうだな……
「じゃあこっちは任せた、セラ、カレン、俺達は敵の集会場の下見をしに行こう、リリィとマーサは待機な」
「ご主人様、私は暑くてもうダメです……」
「しょうがないな、じゃあ俺とセラで行って来る、マーサ、レーコを連れて来てカレンに抱き付かせておけ」
「わかったわ、すぐに呼んで来る」
狼獣人のカレンは寒さに強く、逆に暑さに弱い。
もうほとんど行動不能の状態ゆえ、常にひんやりした幽霊のレーコを宛がって冷やしてやるしかないのだ。
俺とセラは灼熱の大地に降り立ち、徒歩で敵の集会場を目指した。
優先すべきはテロリスト養成所の方、そちらさえ潰してしまえば後はどうにかなりそうだからな……
※※※
「え~っと、ここの路地裏みたいね、明らかに怪しい雰囲気が漂っているわ」
「結構近かったな、てか今1人入って行ったみたいだぞ、コートを着たキモいハゲのおっさんだった」
「見たわ、夏なのにコートを着込んでいるなんて、きっと中は全裸に違いないわね」
明らかにテロリストの一味だ、だが今手を出すべきではない、もしここで変態集団に襲われればセラは戦闘不能、俺だって目が腐ったりするかも知れない。
コソコソと敵の集会所に近付き、窓から覗き込んで中の様子を確認する……30人ぐらいは居そうだ、狭い部屋一杯に並んだおっさん達が奇妙な動きをしているのがわかる。
「アレは何をしているのかしら?」
「コートをバッと開いて、中にある粗末なモノを見せ付ける練習だろう、自爆攻撃の予行演習ってところだな」
「じゃあ前から見たらとんでもないことになっているってことね、私はちょっと見るのをやめるわ」
「その方が良い、一生トラウマ、どころか場合によっては精神崩壊して廃人になってしまうかもだ」
しばらく俺1人で中を監視していると、一旦奥の部屋に入って行ったらしい、先程のハゲが現れ、テロリスト達の前に立つ、何か演説をするつもりのようだ……
『同士諸君! 先程の会議で、大攻勢は明日の夜と決まったっ! 夜回り中の女憲兵にっ! 我々の力、いやブツを見せつけ、華々しく散ろうではないかっ!』
『おぉ~っ!』
『ブツを露出しっ! その状態で敵の攻撃を受ければ必ず死ぬっ! だがそれこそが我らの本懐! 狂乱し、悲鳴を上げる女子に汚物として処理されることこそがっ! 我ら露出教徒の喜びなのだっ!』
『おぉ~っ!』
とんでもない連中だ、自分達はそれで良いのかも知れないが、真面目に働いていてそんなものを見せ付けられる女性憲兵の身になって考えてみて欲しい。
だが良い情報を得たな、奴等、作戦開始の前には必ずここに集合するはずだ。
その開始直前を狙って襲撃を仕掛け、テロリスト共をこの世から消し去ろう。
明日の夕方前、この付近に隠れて突撃のタイミングを見定める。
頃合を見計らってこの集会場に魔法をぶち込み、生き残った奴は惨たらしく処刑、お望み通り全裸で晒し者にしてやろうではないか。
「さて、一旦戻ってこのことを報告するとしよう、あまり長居して見つかったりしても厄介だしな」
「そうね、というかこんな所さっさとお暇したいわ」
急いでその場を立ち去ろうとするセラ、無理もない、目の前の建物の中には数十匹の変態が蠢いているのだから。
これは明日の襲撃も、まず遠距離から狙っていくことを考えないとだな……
屋敷へ帰ると、ちょうど昼食の準備が終わったところであった。
午前の講義も既に終わったようで、4人は壁に向かって正座をさせられている。
「精霊様、午後はどんな予定だ?」
「そうね、昼食後は30分休憩、あ、休憩するのは私だけよ、それから90分の講義を残り2コマ、それが終わったら2時間掛けて反省文を書かせるわ」
「じゃあ全部終わる頃にはもう夕方だな、風呂と夕食だけ済ませたらちょっと作戦会議をしよう、襲撃の決行は明日じゃないといけなくなったからな」
昼食の際に今セラと2人で見てきたことを軽く話しておく。
皆変態には恐怖しているようだが、奴等を倒さねば平和は訪れることがない。
ゆえにある程度は我慢して戦って貰わねばならないが、最悪肉弾戦となったら俺1人でどうにかしないとならないかもだ。
まぁ、その辺りは実際に戦闘になってみないとわからないのだが。
もしかしたら初撃の魔法で全滅させることが可能でないとは言い切れないし、死なないまでも抵抗する力を喪失させられるかも知れない。
昼食の後は適当に休憩し、30分経ったところで午後の更生プログラムが始まった。
ユリナは見張りをマーサに交代し、俺とセラと共に襲撃開始と同時に放つ魔法攻撃の算段を立てる。
「この建物の上からセラが風魔法を放つんだ、その直前にユリナが入口付近を炎上させろ」
「風で熱波を吹き込ませて、中の連中を蒸し焼きにして殺すってことですわね?」
「そうだ、あとは精霊様が消火して、突撃班で生き残りを片付ける」
「わかったわ、でも可能なら1人か2人は残しておきたいわね、痛め付けて情報を吐かせるのよ」
「ああ、それも狙うべきだな、実際にどうなるかはわからんが」
それで初撃に関する作戦会議は終わり、しばらく精霊様の講義を見ながらダラダラと過ごした。
時間は過ぎ、午後の2コマ目も徐々に話がまとまってくる。
「……で、あるからして、人前で全裸になってはいけないの、わかった?」
『へへぇ~っ、承知致しました』
「じゃあこれで講義は終わり、反省文を書いて提出しなさい、時間は夕食までよ」
『へへぇ~っ! ありがとうごぜぇますだ』
賢いジェシカとアイリスは、あっという間に原稿用紙10枚の反省文を書き終わったものの、お馬鹿のルビアとマリエルはなかなか進まないようだ。
そもそも誤字・脱字ラッシュである、というかマリエルに関しては小学生並みの表現力ではないか……この2人はお仕置き3倍だな……
結局俺とミラで手伝い、どうにか夕食までに反省文の提出を間に合わせた。
明日のうちにはこれが王宮へ届き、この馬鹿4人組は許されることであろう。
その後は風呂に入りながら全体での作戦会議を済ませ、明日は夕方前に配置に付くということで合意した、ちなみにカレン冷却用のレーコも連れて行く予定だ。
「じゃあ主殿、私達は先に上がっているぞ」
「おう、覚悟しとけよ、シルビアさんも呼んであるからな」
『ひぃぃぃっ!』
先に風呂から上がり、テラスの階段を登って行く4人。
当然その先にはシルビアさんが待ち受けている。
俺達が上がって行く頃には、尻丸出しで縛り上げられた4人が並べられていた。
「う~ん、ルビアはシルビアさんに任せるとして、最も罪が重いマリエルは精霊様からお仕置きだな、となると残りは2人か……たまにはアイリスを選択しておこう、ジェシカはユリナにシバいて貰え」
『は~い』
アイリスを抱え上げ、そのまま膝に乗せてお尻ペンペンの刑を開始する。
うむ、ルビアよりは小さいがキュッと締まった良い尻だ、どさくさに紛れておっぱいも触っておこう。
「きゃいんっ! あう~、痛いです~」
「どうだアイリス、少しは反省したか?」
「う~ん……たぶんまだ全然です」
「無駄に正直だなっ!」
「きゃんっ! 痛いっ! きゅ~……」
4人はその後、寝る直前まで正座させておいた。
明日の作戦に響くと困るので、朝までというのだけは良いにしてやった辺り、相当に慈悲深い措置だ。
明日の夕方には敵の集会所を襲い、完全に殲滅しなくてはならない、準備もあるし、早めに寝ておくこととしよう。
明かりを消して布団に潜り込み、目を閉じた……




