23 王女貰ってきた
「ただいま~」
「あ、お帰りなさい勇者様、どうでした?報酬貰えました?」
「ああ貰えたぞ、あと王女貰ってきた。」
「…意味がわかりません。」
王位簒奪を狙った第一王女マリエルは、罰として勇者パーティーに参加して魔王や魔族と戦わされることとなった。
マーサと同様の感じである。
加入期間は魔王討伐までの限定だが、普通に考えてそれがこの冒険の最後である。実質無期限に使って良いと言うことだ。
「とりあえずもっと冒険者っぽい服に着替えさせよう、このままじゃ何もさせられない。ミラ、服を頼む。」
「あ、はい、う~ん…これで良いかしら?勇者様、これに着替えさせることにします。」
今着ているドレスみたいなので冒険をさせるわけにはいかない。それっぽい服にチェンジする必要がある。
「よしマリエル、これに着替えろ。」
と言うと、両手を広げて待機の姿勢に入る。何をやっているのだろうか?
「おい、何やってんだ?早くしろ。」
「え?えっと…あの…着替えはいつも召使がやってくれていたので…自分では出来ません。」
「・・・・・・・・・・」
「まじで?」
「まぁいい、今回はミラがやってやれ。すぐに自分でできるようになれよ。」
「ええ、申し訳ございません勇者様。」
「マリエル、槍で戦えるのはわかった。それ以外には何が出来る?料理とか、掃除とか…」
「一切出来ません…」
これは本気で使えなさそうだ…
その後、他のメンバーも呼んで改めてマリエルを紹介し、今日からメンバーに加わる旨伝えた。
今日からしばらくは地下牢に入れるが大丈夫そうなら出してやると告げ、ぶち込んでおいた。
「ご主人様、マリエルちゃんを外に出して遊んでも良いですか?」
カレンがペットの小動物のように扱い出した。
「カレン、模擬戦は良いけど怪我をさせるなよ。ルビアが大変になるからな。」
「わかりました、じゃあ練習用の刃が無い武器が欲しいんですが。」
「わかった、明日買って来るから今日は武器無しでやれよ。」
「は~い!」
しばらく2人が遊んでいる、というか戦っているのを眺める。
良い動きだ、少なくとも俺よりは…
途中からリリィも参加する。おそらくこの連中は放っておけば勝手に強くなるであろう。
情けない椅子がダメになってしまったので観察を終了する。
室内に戻ると、なにやらミラが唸っている。
「どうした、便秘か?カンチョーしてやろうか?」
「いえ、違うんですよ。マリエルちゃんを入れた陣形を考えていました。」
ネタをスルーされた、悲しい。
マリエルは中衛、俺のポジションと被るそうだ。
なら俺もう戦わなくて良くね?ずっとリリィに乗って待機で良ね?
真面目なミラにはその考えは浮かばないらしい。
「まぁ実際にやってみないとわからないからな。明日以降、模擬戦も実戦もやってみることにしようか。」
「わかりました。あと便秘ではありません、カンチョーなら邪魔ばっかりするお姉ちゃんにでもしておいてください。」
何か知らんが怒られたのだが?
セラは見つからなかったので畑から戻っていたマーサにカンチョーしておこう。
「おいマーサ、カンチョーしてやるからちょっと来い!」
「あ、丁度良かったわ。今カンチョーされたい気分だったの!」
どういう気分なんだろう?
その後、カレンたちが模擬戦に疲れて戻ってきたため、マリエルとも話をする。
「どうだった?このパーティーには付いて来れそうか?」
「そうですね、私ごときの力ではお役に立てるかわかりませんが、頑張って徐々に付いていけるようになりたいです。」
この間の生意気王女はどこに行ってしまったのだろうか?
深層意識とかに魔法で封印されてしまったのでは?
「ところで勇者様、私のお部屋にはおトイレが無かったようなのですが…」
「ああ、隅っこに汚ったねぇ桶があるじゃろう。」
「ええ、あったと思いますが、それがおトイレと関係あるのですか?」
「それが貴様の便所だ!」
マリエルは失神してしまった。
庶民的にはちょっとした脅しのつもりだったが、高級な王女様には耐えられなかったのであろう。
脳が強制シャットダウンしてしまったようだ。
しばらくして復活したマリエルは、ガタガタと震えていた。
「マリエルちゃん大丈夫、ちゃんと言ってくれれば私が連れて行ってあげるから。」
カレンは優しい、だが地下牢からトイレに行きたいと伝えるのには相当気合を入れた告知をする必要がある。
これも、王女様には耐えがたい屈辱であろう。
ちょっと対策を考えなくてはならない…
「ミラっちょっと来てくれ、トイレのことで話がある。」
「あの勇者様、便秘ではありませんしカンチョーも不要ですよ。」
まだそのネタを引き摺っているのかこの子は…
「そうじゃなくてマリエルのことなんだ、ほら、地下牢にはトイレが無いだろう。」
「桶があるじゃないですか?」
「いや、さすがにだな…ミラ、アレ使える気がする?」
「う~ん、確かにイヤですね。でしたら時間を決めて、例えば食事のために上がってきたときとかにすればどうですか?」
「うむ、だがそんな時間決めてとか可能なのだろうか?」
「カンチョーすれば良いじゃないですか。」
だからお前はもうそこから離れろ!
「あの…勇者様、カンチョーとは一体?」
「ああ、知らんか、見せてやるからちょっとまってろ。お~い、ルビア~っ!」
「どうされました、ご主人様?」
「うん、カンチョーするからちょっとあっち向いてくれ。」
軽くやったはずだがルビアは悶絶している。
そしてそれを見たマリエルは目を丸くして驚いている。
「ちなみに、今後お前も頻繁にこうなる。」
マリエルは失神してしまった…ダメだこれは。
結局地下牢の話は無し、マリエルには好きな部屋を選んでもらおうとしたが、結局マーサと同室ということになった。
罪人同士仲良くやって欲しい。
皆でマリエルの荷物を部屋に移動する。なぜか得物の槍も地下牢の中にあった。
どこの世界に武器を持ったまま収監されている罪人が居るというのか?ここだけであろう。
作業中、ミラがちょっとちょっとと手招きしている。
「どうしたミラ?」
「勇者様こちらへ、この影へ!」
「あの…やっぱり私もカンチョーして欲しいのですが…ちょっとだけ…」
それで引き摺っていたのか貴様は!
※※※
「じゃあ食事だな。マリエルはどんなものが好きなんだ?」
「私はどちらかというとお魚派ですかね…」
「待て、この内陸の国で魚か?川魚?」
「いえ、海で取れた物を魔法で冷やしながら運んでくるんです。結構高価らしいですが、そこまで貴重というわけでもありません。出回っている量は少ないですが。」
「うむ、詳しく聞こう!」
「私もお魚大好きです。泉に居るのはイマイチですが…」
おいおいリリィ、お前が良く泉で捕まえているのはブラックバスだ。
ちょっと泥臭いだけでちゃんと処理すれば美味しいんだぞ、それをお前は丸呑みにして…
マリエル曰く、海の魚は氷魔法で凍結させて持ってくるのが基本だそうだ。
モノにもよるが、大体アジの干物程度の魚で銅貨2枚程度、つまり日本円で2,000円位の高級品らしい。
王家や貴族家などではよく食卓に上るが、庶民のもとにはほとんど届かないという。
「ところで氷魔法ってのは使い手がどのぐらい居るんだ?」
「これがほとんど居ないため大変なんだそうです。水系では大半は水魔法使いになり、氷になるのは極一部だそうです。」
う~ん、難しいんだな…まぁいいや、今度駄王に頼んで魚を献上させよう。
※※※
「よいかマリエルよ!この屋敷では王女も平民も奴隷も、それから人間ですらない連中も一緒に風呂に入ることになっておる。」
「はい勇者様、承知致しました。」
「そして全員がタオル無しの全裸である!ただし俺は除く、美しくないからな!わかったか?わかったら全裸になるのだ!」
「承りました。」
余裕でした。何の抵抗も無く一緒に温泉に入ることが決まった。
ついでに水の精霊様、いやクソニート精霊が起床したので紹介しておく。
この精霊は賽銭も集めなければ冒険も手伝わない。
そして態度がデカく、乱暴、しょっちゅう誰かを水責めにする。さらにはその気になれば簡単に王都を滅ぼせるときた。
家庭内暴力の神様みたいな存在である。
「あの…このパーティーにはドラゴンだけでなく、精霊様までいらっしゃるのですね。」
「ああ、精霊様は厳密にはパーティーメンバーではない。だがずっとここに居るので機嫌を損ねないように気をつけるんだぞ、普通に殺害されるからな。」
「水の大精霊様、コイツが何かやらかしたら殺さず俺に言ってくれ。ここで公開お仕置きするから。頼むぞ。」
「うむ、人間の王女っ!ちょっとでも何かあったら言いつけるからね。覚悟しておきなさいよ!」
「へへぇ~っ!」
上下関係は確立された。
皆も続々風呂に入ってくる、既にセラとミラ以外は揃ったようだ。とりあえずカレンを抱っこするという規定の行動に出る。
あとルビアに肩を揉ませる。だがいつも揉ませてばかりも悪い、後でおっぱいを揉んでやろう。
同室になったマーサとマリエルはすっかり打ち解けたようだ。
だが、マーサが変なことを教えかねない、聞き耳を立てておく。
どうやら戦闘について真面目な話をしているようだ、よかった。
「勇者様、ところでこのパーティーで一番強いのは…やはり勇者様なのですか?」
う…痛いところを突かれた、さすが槍使い、ガンガン突いてくる。
「残念ながらダントツはリリィだ、次点でカレンかマーサ、その次が俺だ。」
そう、俺はチート能力を持った異世界勇者であるにも拘らず、パーティーの中では真ん中ぐらいの強さなのである。何かがおかしい…
だがマリエルはそんなことどうでも良いようだ。
「凄い、リリィちゃん強いのね!こんなに小さい子どもなのに…」
それは人ではない、ドラゴンだ。しかも本来の姿がバカデカいのは見ただろう…
「やだ、褒められちゃった!そうよ、ドラゴン形態になると強いの私、でも今は見てこの尻尾、可愛いでしょ!」
尻尾をフリフリするリリィ、可愛いがお尻丸出しですよ、あなた。
あっ、お尻で思い出した、セラは…と思ったら丁度入ってきた。ちらっと、一瞬だけだがお尻が見える。
「おい、ルビア見ろ!セラのお尻が真っ赤だぞ!」
「うるさいわね!何見てるのよ、見た分の代金を請求するわよ!それと、ミラが怖いのは勇者様のせいよ!」
人のせいにしやがる。自分が怒らせたのだ、少しは反省したまえ。
そもそもここのところ毎回のようにどこかでおもらしして、しかもそのパンツをミラに洗わせていたとか、女神様もびっくりですよ!
「うふふっ!あれじゃあまだまだねっ、ミラちゃん、そんなんじゃセラさんは反省しないわよ!」
「そうねルビアちゃん、後でもう一回引っ叩いておくわ!お姉ちゃん、明日からの残り3日間も続けるわよ、覚悟しておいて!」
「そろそろ許して欲しいのだけど…」
「ちなみにマリエル、お前も言うことを聞かないとああなるから覚えておけよ!」
失神してしまったマリエルが溺れないよう、マーサが必死で支えている。
大丈夫そうなので再びセラの方を見る。うん、最近はなんだかセラが凄く良く見える。毎回意味の無い喧嘩ばかりしているが、張り込み中や馬車の中で抱っこしたときの幸薄いお尻がもうね…
あれはどう考えてもカレンや、リリィの人間形態と同じような感覚だ。
小さくて、それが良いのである。
「さて、そろそろ上がろうか!」
※※※
勇者パーティー恒例、寝る前の作戦タイムである。今日はマリエルが初参加となった。
ゆえに、特に重要な協議事項が無いにも拘らず無理矢理開催する。
「アテンションプリ~ズ!この中に何方か次の敵について何か情報があるお客様は居られませんか~っ!」
「はい、マーサ搭乗員!」
「次はあくま将あたりが来ると思うわ。」
「あくま将とは?」
「悪魔の女の子よ。凄く良い子なの。私のお友達よ!」
悪なのに良い子とは一体如何なる存在なのか?
ハーフ&ハーフとか、或いはジキルとハイドとか、そんなような感じにになっているのであろうか?
「で、そいつは今何処に?」
「たしか帝国の平民をどうとかって作戦を立てていたわ。」
「ハイ、有力な情報ありがとうございます。間違いなくソイツな気がしますね!流れ的に!」
「マーサちゃん、凄いですわ!パーティーの作戦参謀さんなんですね!」
「ふふっん!」
マリエルさん、頼むから無知でその子を煽てるのだけはやめて欲しい。後々大変なことになりかねない。
「ちなみにマーサ、そのあくま将ってのは可愛いのか?」
「当たり前よ、私の友達なのよ!補佐の妹も含めて全体的に可愛いわ!」
「もう一体の補佐は?どうせ男なんだろうが…」
「あぁ、そっちは息が臭かったんで処刑したそうよ。だからもう居ないわ。」
おっかないやつだな…
「マーサちゃん、その子は強いんですか?」
「いえ、本人のステータスはあまり高くないわ、その代わり周りの生物、特に人間とかをを強化したりして戦わせるの。妹の方はその見た目とかのサポートね。強化すると形が崩れたりするからその誤魔化しよ。」
「わかりました!じゃあ私はその強くなった人間を殺れば良いんですね!」
カレンがまた無駄に殺そうとしている…
「カレン、必要が無かったら殺すなよ、約束だぞ!もし破ったらまた尻尾に洗濯バサミを挟むからな!」
「ひぃぃぃっ!」
「リリィもわかってるな!」
「わかってます!アレだけはやめてくださいっ!」
うん、しかし次の敵は帝国の平民とやらを利用して攻めてくるわけか…
以前聞いた平民に加担する皇帝とやらと一緒だな、いや、魔族が皇帝に化けているとか?
「ところで勇者様、帝国で思い出したのだけれど、もしも人間同士の戦争になったらどうするつもりなの?」
「そこなんだよ!それに関してはセラと、それからマリエルの意見も聞くべきだな。まずセラ、お前はどう思う?」
「あぁ私?私は何も考えていないわ。勇者様がとっくに決めているだろうと思って。まさかそんなことも決めかねている無能勇者だったのかしら?本当に馬鹿ねぇ!このセラ様が勇者を代わろうかしら?」
「ミラ、少し相談がある、いいか?」
「じゃあ、ちょっと向こうへ…」
『セラのお仕置きあと3日、貰って良い?』
『はい、ちょっと調子に乗りすぎです。好きにしてください。』
『ありがとう、好きにするよ!』
「あら、何をコソコソ話しているのかしら?」
「おう悪いなセラ、たった今お前のお仕置き権をミラから譲渡されてな、あと3日、好きにさせて頂く。」
「ちょっと…許してちょうだい…謝るからっ!」
「ダメ!」
「ひぃぃぃっ!…で、いつするの?」
「この後すぐ!」
「わ…わかったわ!優しくしてちょうだい…」
うん、なぜか超可愛い…
「で、次はマリエル、一応この国の王女として何かあるか?」
「私はパーティーの決定に従います。どのような決定でも不服はありません。」
「わかった。ではもし帝国と戦争になったら参加する。敵が人間でも容赦しないつもりでいろ!」
不安そうなのは…ルビアだけであった、大丈夫そうだ。
「じゃあ今日は解散!マーサ、マリエルに朝起きる時間とかも教えてやれよ!」
「任せなさい!」
※※※
夜、皆が寝静まった後だったが、珍しくルビアよりもカレンの方が遅くまで起きていた。
膝の上に招き、尻尾を撫でながら話をする。
「ご主人様、いつ帝国兵と戦えるんでしょうか?」
「何だ、そんなに楽しみなのか?」
「はい、被教の連中は私の故郷にも来て、結構なお金を奪っていきました。今思えば私が奴隷兵にされたときの商人も帝国人だったはずです。被教徒でしたし、許せません、全員殺します。」
「こら、ダメだぞカレン、帝国人にも良い人間が居るかもしれない、そいつも殺すのか?」
カレンの尻尾を撫でるのを中断し、お尻をビシッと叩いてやる。
「確かにそうですね…でも許せないのは確かです。もし帝国人と戦いになったら、私は何をするかわかりません。」
「何だ?カレンは悪い子なのか?」
「そうなってしまうかもしれません、とにかくその帝国人とかは大嫌いです!」
「わかった、カレンがそんなことしなくても良いように何かこっちでも考えておくよ。」
「ありがとうございます、わがまま言ってごめんなさい。尻尾を好きにして良いですから、許してくださいねっ!」
そういって笑いかけてくるカレン、本当に可愛らしい。
カレンがそこまでしなくても良いように、こちらで帝国人対策、それからもっと前の段階、帝国人防御を確立しておかなければならない。
「なんだか眠くなってきました。ご主人様、今日はこの姿勢のまま寝ても構わないですか?あと、尻尾はそのまま触っていてください。」
「わかった、適当なところで俺も寝るから、手を止めても起きるんじゃないぞ。後で布団をかけてやる。」
「うにゅぅ…ふぁかりあひは…」
寝てしまった。
で、さっきから覗いている影に声をかける。探偵漫画の犯人みたいな黒さだ。
「おいセラ、どうした?眠れないのならもう一度めちゃくちゃにしてやろうか?」
「いえ勇者様、ちょっと声が聞こえたので気になって様子を見ただけよ。他意はないわ。」
「そうか、じゃあさっさと戻って寝ろ。明日からもミラにお前のお仕置き権を譲渡されたんだ、楽しみにしておけよ!」
「恐ろしいわ!でも、待ってるわよ、また明日ね!」
パーティーメンバーとして新たにマリエルが加わった一日、それでもなんだかんだでいつも通りであった一日が更ける。
明日からは王女も一緒に冒険か、最初に感知していた索敵には、既に彼女はかからない。
もう、完全にこちらの見方なのだろう。これからも一緒に冒険を楽しみたいと思う…




